突如出現したノスフェクトの下に真っ先に辿り着いたのは、S.B.C.T.δチームであった。
現場に到着した彼らの前には、既に何人も犠牲となりゾンビとなった人々とその奥で尚次の犠牲者を増やそうとしている牛の様なノスフェクトが暴れている姿がある。ノスフェクトはS.B.C.T.のトレーラーが来たのを見ると、牙を剥き出しにして唸りゾンビを嗾けて攻撃させた。
「グルル、ガァァァッ!」
「隊長、ノスフェクト1体と多数のゾンビを確認!」
「攻撃開始ッ! 躊躇するな、相手は既に死んでいる! 弔うつもりで行けッ!」
生きていた頃の面影を強く残すゾンビを撃つのは、訓練された彼ら出会ったも難しい。だがスコープの言葉に彼らは己を奮い立たせ、哀れな犠牲者のなれの果てであるゾンビ達に向け引き金を引いた。
「う゛~……」
「あ゛~……」
熱に浮かされた様にフラフラと動きながら近付いてくるゾンビの集団が、δチームの放った銃弾を前に次々と倒れる。脳を狙っていると言うのもあるが、最大の秘密は彼らが使用している武器にあった。
今回、彼らが使用している武器には全て銀成分が含まれている。そう、対ノスフェクトを見据えた改良型の銃弾と刀身に銀を含むガンマソードが完成したのだ。
銃弾がゾンビの肉体を抉り、銀の成分がその身を崩し倒れていく。銃声が響く度に人の姿をしたものが倒れていく姿に、それが彼らの為と分かってはいてもやはり気分がいいものではなかった。それでも彼らは込み上げる不快感を抑えながらこれ以上の被害拡大を防ぐ為、ただ只管にゾンビを倒しその奥で待つカウノスフェクトに向け歩を進めた。
「ガルルルル……!」
折角作りだした配下が次々と倒れていく姿に怒りの一つでも抱いたのか、自分で直接攻撃する為δチームに向け突っ込んでいった。尚その際、カウノスフェクトの突進の射線に居たゾンビが何体も撥ね飛ばされていた。どうやら配下に対する配慮とかそう言うのはなさそうだ。怒りも増やした手駒をあっさりと減らされている事への苛立ちが強いのかもしれない。
「グォォォォッ!」
「ッ! 来るぞッ!」
迫るカウノスフェクトに、δチームは陣形を組み立体的な弾幕を形成して迎え撃つ。銃撃による包囲、それもノスフェクトが苦手とする銀の銃弾によるそれに、しかしカウノスフェクトは耐え抜き突っ込んできた。
「ヤバいッ!?」
「避けろぉッ!」
重機関車もかくやと言う突撃をδチームの隊員達は紙一重で回避する事に成功する。だがこれにより陣形が崩れ、それによりゾンビの接近を許してしまった。
「う゛ぁ゛~」
「うぉっ!?」
「マズイ、撃てッ!」
慌ててゾンビを攻撃するライトスコープ達だったが、数が多い上に接近されると身動きが取れなくなる。δ4とδ6、δ2が複数のゾンビに掴み掛られてしまった。
「うわっ!? うわぁぁぁっ!?」
「は、離せっ!?」
「クソッ!」
δ5を始め数人が取り囲まれた仲間を救出すべくゾンビを蹴散らしに向かう。だがそうすると当然カウノスフェクトへの攻撃が弱まり、そこを突かれて徐々に劣勢に立たされつつあった。
その時、夕日に染まった空から突如としてヴァーニィが飛来しカウノスフェクトをコートを変形させた手甲で地面に叩き付けめり込ませると、そのままの勢いでδチームを押さえているゾンビへの攻撃に移った。
「ハァァァァッ!」
「ヴァーニィッ!」
ヴァーニィの登場にδ5などが喜色を浮かべる。頼もしい援軍の到着に喜ぶ彼らを他所に、ヴァーニィはその爪を振るい次々とゾンビを倒し掴まっている隊員を救出した。
「た、助かった……」
「ありがとうございます!」
装備に守られていたおかげで無傷ではあるが、それでも四方から押さえつけられて食らい付かれる映画の様な経験は心臓に悪い。解放された事に心から安堵し胸を撫で下ろす彼らからの感謝に、ヴァーニィは小さく頷く事で答えながら次の攻撃へと移った。
「グルル……!」
「フシュー……!」
地面から体を起こし立ち上がったカウノスフェクトを前に、ヴァーニィも爪を構えて迎え撃つ構えを見せる。周囲では残ったゾンビをδチームが掃討していく中、睨み合うヴァーニィとカウノスフェクトは一気に接近し相手に組み付いた。
「ガルルッ!」
「ガァァッ!」
自慢の突進力でヴァーニィを撥ね飛ばそうとしたカウノスフェクトに対し、ヴァーニィは正面からその突進を受け止める事で押さえつける。2台の車が正面衝突したかのような音と衝撃が周囲に響く中、ヴァーニィとノスフェクトは互いに相手を押して押されての力比べを繰り返した。
「ググ……!」
「ぬぅぅ……!」
カウノスフェクトは大した馬力の持ち主だったが、ヴァーニィも負けてはいない。足が地面にめり込むほどの力で踏み込み堪えていると、カウノスフェクトの呼吸の合間の僅かな隙を突いて受け流し転倒させた。
「ガッ!?」
突如バランスを崩され、周囲の景色が一回転する光景に困惑しながら地面に倒れたカウノスフェクト。目まぐるしく動く視界と直後にやって来た衝撃に、意識を失わないまでも正確な状況の理解が出来なくなった。
そこをヴァーニィは見逃さず、飛び掛かり押さえつけるとクラッシャーを開き首筋に食らい付いた。
「ガヴッ!」
「ギァァッ!?」
首に牙を突き立てられ暴れるカウノスフェクト。しかし吸血が進むにつれて抵抗が小さくなり、充分な量の吸血が終わって彼が離れる頃にはすっかり大人しくなっていた。
「はぁ、ふぅ……」
ヴァーニィは口元に付いた血を拭うと、動きの鈍ったカウノスフェクトにトドメを刺すべくベルト左右のスイッチを押す。
〈アナライズ! アイデント、マジックバレット!〉
吸血して得たカウノスフェクトの血液から相手に特効の毒素を生成。それが右足に集まり、充分な量が集まるとそれを飛び蹴りと共に放った。
〈プレスクリプション・フィニッシュ!〉
「ハァァァァァッ!」
直撃したヴァーニィの一撃から、カウノスフェクトにのみ猛毒となる毒素が注入され相手の肉体を破壊する。体を内側から破壊される苦痛に、カウノスフェクトは断末魔の叫びを上げながら体を爆散させた。
「ギャァァァァァァァァッ!?」
周囲が炎で包まれ、束の間カウノスフェクトの姿が見えなくなる。一撃を放ち残心の様に構えを取りながらその様子を見つめていたヴァーニィの前で、炎が消え視界が良くなるとそこにはカウノスフェクトだったのだろう1人の男性の死体と砕けたクロスブラッドがあった。
ノスフェクトを倒せたことに、ヴァーニィは小さく息を吐き構えを解く。
「ふぅ~……ぁ」
一息ついたヴァーニィだったが、直ぐに彼は自分に向けられる視線に気付いた。周囲に目を向ければ、そこにはゾンビの掃討も終えて自分の事を見ているS.B.C.T.のδチームの姿があった。敵意を始めとした悪感情は感じないが、好奇に近い視線に思わず委縮してしまいそうになる。
そんな彼にスコープが近付く。見ず知らずの者が無言で近付いてくる事に僅かに身構えると、彼の警戒を見てかスコープの足が止まる。そしてその場で軽く肩を竦めると、銃をスリングで肩に引っ掛けながら口を開いた。
「……共闘、感謝する。君のお陰で部下も、被害も広がる事を防げた」
「ぁ……」
友好的なスコープの言葉に周りを見れば、他のライトスコープ達も頷いたりしている。やはりと言うべきか、彼らは味方と考えて良いらしい。ならば歩み寄れるかと、彼も一歩前に踏み出そうとした。
その時、突如として頭上から飛び降りてきた青い仮面ライダー……仮面ライダーバルトが手にした大型の銀の槌を振り下ろした。
「フンッ!」
「がっ!?」
「何ッ!?」
突然の事態に叩き潰す様に槌で殴られたヴァーニィ本人のみならず、スコープも周囲のライトスコープも驚愕に判断が遅れる。
その間にバルトは槌の下敷きとなったヴァーニィを、引っ掛ける様にして振り回し明後日の方へと放り投げる。
「うぁ……!?」
「シルヴァッ!」
バルトがヴァーニィを放り投げた先には、銀のレイピアを構えたシルヴァの姿がある。彼女は飛んできたヴァーニィに剣を構えると、素早く剣を振るい鋭い斬撃で彼の体を切り裂いた。不意打ちに加えて彼にとっても弱点となる銀の武器による攻撃を受け、ヴァーニィは全身を焼かれたようなダメージを受け悲鳴を上げた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「仮面ライダーッ!? お前ら、何者だッ!」
この状況に真っ先に動いたのはδ5であった。彼はバルトに銃口を向けながらヴァーニィの方へと向かおうとするが、バルトはまるで通せんぼする様に槌を振り下ろし地面のアスファルトを砕いた。
「吸血鬼は何であれ存在を許さない……そう言う考えもあるのよ」
「女?」
δ5はバルトに変身しているのが女性……ルクスである事にヘルメットの奥で面食らったように首を傾げる。自分が女である事に驚かれた事が癪に障ったのか、バルトは彼の言葉に頬を引き攣らせて槌を振り上げた。
「私が女で何が悪いッ!」
「えっ!? あ、や、そう言う意味じゃ……!?」
何やら変な所で怒らせたらしきことに気付いたδ5が思わず後退る。その時横合いから放たれた銃撃が、バルトの鎧に命中し火花を散らした。
「ッ!?」
正確に胸の鎧を狙って放たれた銃撃。鎧の頑丈さと曲面装甲である事が幸いして銃弾は鎧の表面を滑る様に弾かれるに留まったが、この一瞬で正確に胸の鎧を狙って叩き込まれた一発にバルトが怒りを収め銃撃した相手……スコープを睨み付ける。
「ふ~ん……やるじゃん?」
「貴様らは何だ? 目的は?」
「今言ったでしょ? 私達は吸血鬼の存在を許さないって」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あっ!?」
バルトの言葉の直後に響いたヴァーニィの絶叫に、δ5達がそちらを見れば彼はシルヴァにより銀の鎖で磔にされているのが見えた。疑似的とは言えノスフェクトと同じ肉体となったヴァーニィにとって銀成分は猛毒に等しい。全身を銀の鎖で縛り付けられ、その部分が焼かれる激痛に彼は首を振り乱して悲鳴を上げた。
悲鳴を上げるヴァーニィに向け、シルヴァは剣の切っ先を向け剣先を彼の首筋にそっと当てた。トドメを刺すつもりなのだ。それを見てδ5が強引にでもバルトを抜けヴァーニィを助けようと駆けだし、バルトがそれを妨害しようと槌を振り上げ他の隊員が彼女に銃口を向ける。
その間に剣を構えたシルヴァは、ヴァーニィに刃を突き立てようとして…………僅かにだが視線を彼から反らした。
「ッ……」
躊躇う様な僅かな隙。だがその時間がヴァーニィの運命を分けた。
出し抜けに何かに気付いたバルトが背後を振り向き、そして目に映った光景にS.B.C.T.の存在も忘れて叫んだ。
「シルヴァ、後ろッ!」
「えっ!?」
「ラァァァァッ!」
そこに居たのはウルフノスフェクト。飛び掛かって来るウルフノスフェクトに気付かなかったシルヴァは、咄嗟の事態に防御の構えを取るもタイミングが悪く剣を弾かれそのまま勢いで地面に押し倒される。
「ぐぅっ!?」
「ぐへへへへッ!」
圧し掛かり押さえつけ、ウルフノスフェクトの口から涎が垂れる。前回は痛い目に遭わされた彼女を逆に組み伏せた。その事実が彼を興奮させる。
このまま彼女を何処か邪魔が入らない所に連れ去り、そこで鎧を引き裂きその下の美しい肢体を貪ってやろうと下卑た考えを巡らせていると、それより先にバルトが彼女を助けるべくウルフノスフェクトに槌を振り下ろした。
「コイツぅぅぅッ!」
「チッ!」
相手を叩きのめす為ではなく、注意を引きシルヴァから引き離す為の一撃。意識を自分に向けさせるために叫びながら放った一撃は、その役目を果たしウルフノスフェクトはシルヴァの上から飛び退いた。
バルトはそのまま大型の槌を巧みに操り、その重量に振り回される事無く縦横無尽に振るう。何度も振るわれる銀の槌を、ウルフノスフェクトはギリギリのところで回避しつつ逆にバルトに食らい付こうと大きく口を開き牙を突き立てようとした。
「ガルァァァッ!」
「させるかッ!」
ウルフノスフェクトの噛み付きを槌の柄を代わりに咥えさせる事で防ぐバルト。そのまま槌を間に挟み、バルトとウルフノスフェクトが睨み合った。
「テメェ、邪魔すんじゃねぇッ!」
「こっちのセリフよッ!」
そのまま激しい戦いに移行するバルトとウルフノスフェクトを横目に見つつ、シルヴァは立ち上がるとウルフノスフェクトをバルトに任せ自分は自分の仕事を済ませるべく再びヴァーニィの方を見た。ウルフノスフェクトに押し倒された際に集中が途切れたからか、ヴァーニィを磔にしていた鎖は解かれて彼は地面に倒れ伏している。まだ意識はあるのか、呻き声を上げながら立ち上がろうと藻掻いているがダメージが大きいのか思うように動けていない。
「うぐ……ぁ、あぁ……!?」
藻掻く彼の姿に喉の奥から呻き声を上げながら、シルヴァが彼に近付き今一度剣を突き立てようとする。
だがそれを許すS.B.C.T.ではなかった。
「おい、こっちだ!」
δ5を始めとしたδチームの隊員達が一斉に銃撃を開始しシルヴァを牽制する。飽く迄引き剥がす事を目的にしているからか、直撃するような弾は一発も無く彼女の周囲の地面や壁で弾けるばかり。それでも自分の邪魔をする彼らを見過ごす事は出来ないのか、シルヴァは攻撃目標を一旦変更し剣を構えるとδチームに襲い掛かった。
「邪魔を、しないで……!」
「来るぞッ!」
「迎撃ッ!」
シルヴァがやる気なのを察して今度は威嚇ではなく本気で当てるつもりで攻撃するδチーム。だが素早く動き回るシルヴァにはまともな一撃が入らず、あっと言う間に接近を許してしまった。
「ハァァッ!」
そして懐に入ってしまえばシルヴァの独壇場。鋭い斬撃が次々とライトスコープに振り下ろされ、銀の軌跡が走る度に1人、また1人と装甲に火花を飛び散らせδチームの隊員が倒れていった。
「うわっ!?」
「がはぁっ!?」
「δ3ッ!? δ4ッ!?」
「テメェッ!」
仲間が早くも2人倒された事に、δ8が激昂しガンマソードを構えて斬りかかった。この距離では銃撃するより剣を振った方が早い。その判断は間違ってはいなかったが、悲しい事に接近戦での能力はライトスコープよりシルヴァの方がスペックレベルで上回っていた。
振り下ろされた短剣をシルヴァは肩当で弾くとお返しの斬撃で逆にδ8を切り伏せ、その向こうで待ち構える様に銃を構えていたδ7を勢いを利用して銃ごと切り裂いてしまった。
「フッ!」
「ぐぅっ!?」
「う、うわぁっ!?」
目の前でδ7が倒れた光景にδ6が思わず怯んだ。この中では一番の若手である彼はこういう突発的な事態に弱い。この危機的状況に最善の選択が出来ない彼は、動きを止めている間にシルヴァが放った蹴りをまともに喰らい壁に叩き付けられそのまま倒れて気を失ってしまった。
あっという間に部隊の半分が無力化された事に、スコープは焦りを感じながらも冷静さを保ち後方のリリィに状況を訊ねた。
「δ0、状況はッ!」
『δ3及びδ4、δ6、7、8のバイタルは多少の乱れはあれど大きな問題はありません。負傷はしていますが、命の別状はなさそうです。ただ……』
「くッ、あっと言う間に部隊が半壊か。流石仮面ライダーと言ったところだな……しかしッ!」
シルヴァは次の獲物にδ2を定め飛び掛かった。空中で体を捻りながら放たれた蹴りを迎え撃とうとしたδ2であったが、それより早くにδ5が彼を巻き込んで転がるようにしてシルヴァの蹴りを回避。そこをδ9とδ10が銃撃し、シルヴァを銃撃で怯ませた。
「よりにもよって仮面ライダーが相手かよッ!」
「δ5、大丈夫?」
「あぁ、問題ないッ!」
「δ5、すまない」
δ2と共に立ち上がったδ5も攻撃に加わり、四方からシルヴァを銃撃しその場に釘付けにする。その最中チラリとヴァーニィの方を見ると、彼は腕の力で体を引き摺りその場から離れようとしていた。シルヴァ達の狙いが自分である事から、ここに居るとδチームの被害が広がる事を理解しているのだ。自分が離れる事で、この場での戦いを終わらせようとしている。
それが分かったδ5は、俄然彼の事を放っておけず何とか助ける事が出来ないかと思案した。
(クソッ! 俺も仮面ライダーになれれば……)
束の間力への渇望に心が乱れた。それが関係したかは分からないが、次の瞬間シルヴァが動き一気に状況が動いた。
「くッ!」
シルヴァはδチームからの銃撃から逃れる様に真上に飛ぶと、ベルトのクロスショットのレバーを3回動かしスカートを鎖に変化。自在に動く鎖がδチームのライトスコープ達に襲い掛かろうと伸びた。
「させるかッ!」
だがそれを甘んじて許すスコープではなかった。彼はシルヴァが行動を起こしたその瞬間を狙って強化弾を撃ち込み、僅かな隙を狙った一撃でシルヴァの行動をキャンセルさせると同時に体勢を崩させた。
「うぐっ!?」
「今の内に負傷者を下がらせろッ! このままでは巻き添えを食う!」
「ハッ!」
スコープの指示にδ5達はシルヴァにより倒れた隊員達を引き摺って戦場から下がらせる。負傷した隊員を全員後方のトレーラー近くに引き摺り、一安心と息を吐きながらδ5がスコープの方を見るとそこでは彼らの隊長がシルヴァを相手に果敢に接近戦を挑んでいた。
「ヌンッ!」
「フッ!」
スコープはボルテックス・ブレードを展開し、シルヴァに剣を振り下ろす。斬撃を受け止めるシルヴァではあったが、パワーが自慢のスコープの一撃を受け止めるのは悪手だったのか徐々に押し切られそうになる。このままではマズイと完全に抑え付けられる前に軸をズラしてスコープの剣を受け流し、態勢を整えると再び攻撃を再開した。
「ハァッ!」
両手に持った2本のレイピアで斬りかかって来るシルヴァの攻撃を、スコープは剣と盾、自らの装甲を上手く使って防いでいく。飽く迄堅実に動き、致命的な攻撃を受ける事無く相手が隙を晒すのを待つ。長年S.B.C.T.に所属し戦い続けてきた、ベテランの妙技を感じさせる隙の無い戦い方だ。年季を感じさせるその戦い方に、シルヴァも攻めあぐねているのをδ5は感じた。
今ならシルヴァにも勝てると、δ5はスコープに続いて攻撃に参加しようと一歩前に踏み出した。その瞬間、シルヴァが行動を起こした。
彼女はクロスショットのレバーを2回動かし、両手にそれぞれ持っていたレイピアを重ねる様に合体させたのだ。いや、それは合体と言うよりは融合と言うのが正しいかもしれない。一瞬液状化した2本のレイピアは一つに纏まると1本のロングソードに変化。それと同時に刀身からオーラの様にエネルギーが立ち上り、その一撃はパワーに優れる筈のスコープの防御を易々と弾き体勢を崩させるほどであった。
「何ぃッ!?」
「隊長ッ!?」
「ハァァァァァァッ!」
まさかの展開に狼狽えるスコープとδ5。シルヴァはその動揺を見逃さず、畳み掛ける様に上段に振り上げたロングソードを思いっ切り振り下ろした。咄嗟にそれをボルテックス・ブレードで受け止めるスコープだったが、出力を上げたシルヴァには力及ばず何とか押し退けられるのを防ぎ堪えるのが精一杯であった。
「ぐ、ぐぐ……!?」
必死に踏ん張り堪えるスコープに対し、シルヴァは剣を握る手に力を籠めた。それに合わせて刀身から放たれる陽炎の様なエネルギーが増し、それによりスコープのボルテックス・ブレードに亀裂が走った。あまりのエネルギーに剣が耐えきれなくなったのだ。一度亀裂が出来ると破損は一気に広がり、ボルテックス・ブレードは焼き切られるように切断されてしまった。
「うぉっ!?」
「マズイッ! 隊長、後退をッ!」
危険を察してスコープに後退を促すδ5であったがそれは一歩遅かった。スコープの剣を破壊したシルヴァは、返す刃でそのままスコープ自身を切り裂いてしまったのだ。振るわれた銀の刃がスコープの装甲を切り裂き、切られたスコープの口から悲鳴が上がる。
「うぐぉぉぉぉっ!?」
「隊長ッ!? く、そぉぉぉぉぉっ!」
崩れ落ちるスコープの姿に、δ5は激昂しながら立ち上がりシルヴァへと向け駆けだす。その際に誰かが落としたガンマソードを拾い、二刀流でシルヴァへと攻撃を仕掛けた。
だが飛び掛かろうとした瞬間、全身が締め付けられるような違和感に一瞬呼吸が止まる。あまりにも急激な動きにライトスコープが追従出来なくなっているのだ。
このままでは勝負にならない。そう直感した彼は迷わず後方のリリィに装備のリミッター解除を要請した。
「リリィ! 装備のリミッターを全部解除してくれ、今すぐッ!」
『馬鹿言わないでッ!? そんなことしたらあなたがどうなるか……』
「このままじゃ全滅を待つだけだッ! 仮面ライダーも危ないッ! 頼むッ!」
スコープを倒した事で、シルヴァは改めてヴァーニィにトドメを刺そうとそちらへと歩みを進めている。その様子はδ5のカメラを通じてリリィの目にも見えており、この状況を打開するには他に手が無い事を彼女も理解せざるを得なかった。
リリィは唇を噛みしめながら、別のモニターに目を向けると覚悟を決め短く息を吐くと見えてはいないだろうが彼の言葉に頷いた。
『分かった……でも限界が来ると判断したらこっちの判断で構わず装備を強制解除するからねッ!』
そう告げてリリィはコンソールを操作。δ5の……レックスの装備のリミッターが解除された。
リミッターが解除された瞬間、全身を苛んでいた締め付けるような感覚が幾分かマシになる。まだ引っ張られるような感覚は残るが、それでも先程に比べれば大分動きやすい。
「オォォォォッ!」
「ッ!?」
突然動きを変えて突撃してくるδ5に一瞬面食らいながらも彼の攻撃をシルヴァは受け止める。しかし彼は攻撃を受け止められた事など微塵も気にせず、次から次へと一撃を叩き込んだ。こうしている間にもヘルメットの中では装備の状態が危険である事を知らせる警報が鳴りっぱなしとなっており、HMDの端には装備内部の耐久値が見る見るうちに下がっていくのが表示されていた。
「だぁぁぁぁっ!」
「くっ! フッ!」
怒涛の連続攻撃にシルヴァは剣を弾かれそうになりながら対応する。元々量産型であり汎用性を求められたライトスコープの性能はリミッターを解除してもスコープには及ばない。ここまで戦えているのは装備の性能ではなく、それを装着しているレックスの能力によるところが大きかった。
だがそれは言葉を変えればレックスの能力が文字通り人間離れしており、ライトスコープが受け止められる限界を超えている事の証でもある。行き過ぎた力の代償は装備の寿命と言う形で目に見えて減っていき、装備の限界を超えたレックスの動きにライトスコープの全身のサーボモーターが悲鳴を上げた。リリィの目からはもう何時装備が持たなくなり、熱暴走で爆発しないかが心配になる状況だ。
だがそれよりも先に限界が来たのは手に持つガンマソードの方であった。スコープのボルテックス・ブレードを砕く剣に何度も振り下ろされ叩き付けられたガンマソードは、常人離れした膂力を持つレックスに握り締められ振り下ろされた事で刀身に罅が入ってしまっていた。
『もう無理ッ!? 武器の方が持たないッ!?』
「武器なら、目の前にあるッ!」
その言葉と共に振り下ろされた一撃を最後に、彼が手に持つガンマソードの片方が砕け散った。弾ける様に砕けた刀身が一瞬シルヴァの視界を覆い隠し、その瞬間彼は壊れたガンマソードを捨てると手をそのまま相手の腰へと持っていきシルヴァの腰に装着されているクロスショットを掴んで引き抜いた。
「あっ!?」
砕けた刀身に一瞬目を奪われている隙に重要な装備を掠め取られた事にシルヴァの意識がそちらに向く。それを感じ取ったδ5は奪い取った銃を、銃口を向ける事無く明後日の方へ向け放り投げた。自分でこれを使わなかったのは、万一本人以外に使えないようなロックが掛けられていた場合これまでの奮闘が無駄になるからである。使えるかどうか分からない装備に頼るくらいなら、囮にでも使った方が余程効率的だ。
その判断は正しく、放り投げられたクロスショットをシルヴァは目で追ってしまった。
そこからの動きは本当に一瞬だった。δ5はギリギリ形を保って残っているガンマソードを彼女が剣を持つ方の手に叩き込んだ。その瞬間そちらの剣も砕け、その衝撃でシルヴァが持っていた剣が弾き飛ばされ彼女の手から離れる。
「ハッ!?」
手の中にあった武器を弾き飛ばされたのを感じた瞬間、シルヴァはしまったと思ったがもう遅い。彼女が宙を舞う剣に目を向けた時には既にその柄はδ5に掴まれ、次の瞬間にはその刃は自分に向け振り下ろされていた。
「ゼヤァァッ!」
「ぐっ!?」
奪い取った剣でシルヴァを袈裟懸けに切り裂くδ5。その瞬間、それまでの動きに遂に耐えきれなくなったライトスコープの装備が火花を散らした。
『ダメッ!? システム停止ッ! 装備緊急パージッ!』
あと一歩で装備ごとレックスが吹き飛ぶかもしれないと言うところでリリィがコンソールを操作し、彼が纏うライトスコープの装備を強制的に停止させた。一瞬で全身の装備が弾け飛び、その下に覆われていたレックスの素顔が露わになる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
HMD越しではない生の視線でレックスはシルヴァを見据える。彼が見ている先では、
「チクショウ……!?」
ここまでの奮闘が無駄に終わったと分かり、レックスが苦虫を噛みつぶしたような顔でシルヴァを睨む。そんな視線を向けられた彼女は、喉の奥で小さく唸ると最早脅威になり得ないレックスを退かそうと彼に手を伸ばす。
その瞬間、横合いから無数の銃声が響き、無数の銃弾がシルヴァへと降り注ぎ彼女の歩みを止めさせた。
「くっ!? あっ!?」
「この銃声は……!」
聞き覚えのある銃声の方へと目を向ければ、そこには複数人のライトスコープが銃撃しながらこちらへと向かって着ているのが見えた。δチームではない。それは増援としてこの街に向かっていた筈の二つのチームの片方、εチームであった。
「無事かッ! 後は我々に任せろッ!」
スコープを先頭に集まって来たεチームの隊員達が、次々とシルヴァへと銃弾を叩き込む。新たな部隊の到着と濃密な弾幕にシルヴァは堪らず後退し、レックスにより放り投げられたクロスショットを回収しつつバルトと合流した。
「バルトッ!」
「シルヴァ、あれはッ!?」
「S.B.C.T.の増援です。これ以上は私達でも危険です。ここは撤退しましょう」
「仕方ない、か」
「逃がすと思ってんのかッ!」
逃げる姿勢を見せる2人に、ウルフノスフェクトがそれを妨害しようと手を広げる。だがそれを2人はベルトから外したクロスショットの銃撃で無理矢理退かした。
「ぐっ!?」
「別に残りたいってんならアンタは残りなさいよ。私らは御免よ」
「彼らにとってはあなたも攻撃対象、お互い此処は退くのが賢明かと」
そう言ってシルヴァとバルトはその場から姿を消した。シルヴァ達が居なくなると、εチームの標的は自然とそのままウルフノスフェクトへと移る。この部隊は最初から対ノスフェクト用の銃弾を支給されているのか、突き刺さる銃弾がどれも彼の体を焼き無視できない苦痛となる。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
徐々に包囲されていく状況に、ウルフノスフェクトはこれ以上この場に留まるのは危険と判断。元よりバルトとの戦いで消耗している。ここで下手にダメージを負っても良い事など何一つない。
彼は怒りを露わにし、咆哮を上げるとその衝撃で周囲のεチームを吹き飛ばし包囲を崩し、その隙に彼も逃げ出した。
「クソッ!? どいつもこいつも俺の邪魔しやがってッ!」
εチームは逃げていくウルフノスフェクトを追跡しようと後を追い、その間にδチームの無事な者達がレックスや敦を回収していく。
仲間に体を抱えられて運ばれていく中、彼はヴァーニィの事が心配になり先程まで彼が倒れていた筈の場所を見た。だが彼が見た時には、そこにはヴァーニィが倒れていただろう痕跡が僅かに残されているだけで本人は影も形も存在していなかった。
と言う訳で第12話でした。
レックスはめちゃめちゃ頑張りましたが、彼の全力を受け止めきれないライトスコープではここまでが限界でした。彼が本気を出す為にはやはり仮面ライダーの力が必要不可欠になる訳ですが……
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。