仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第18夜:揚羽の恩人

 ウルフノスフェクトの鋭い爪が、足で踏み付けられ動けない京也に迫る。振り下ろされる爪に思わず京也は痛みに恐怖し目を瞑り、鋭い爪が己の体を引き裂く瞬間を目にしない様にした。

 

「ん~……?」

 

 が、爪が京也の体に触れる直前、ウルフノスフェクトは視線を彼から外し突如明後日の方向に跳んでその場を離れた。突然の事に京也が閉ざした視界の中で異変に気付く間もなく、ウルフノスフェクトが飛び退いたのとタッチの差で銃声が響き先程まで奴が居た場所を一発の銃弾が通り過ぎていった。

 

「……えっ?」

「ははぁッ!」

 

 目まぐるしく変化した状況に京也が目を開くと同時に、ウルフノスフェクトが楽し気に笑みを浮かべ一点を見つめる。その視線の先には、白銀の鎧に身を包んだ純白の女戦士……仮面ライダーシルヴァがクロスショットを構えてウルフノスフェクトを見つめていた。

 

 シルヴァは銃口を真っ直ぐウルフノスフェクトに向けながら傷だらけで倒れている京也とアルフの傍へと近付いていく。そして2人をウルフノスフェクトから庇う様に立ち塞がると、視線はウルフノスフェクトから外さず腰を下ろして倒れた京也に手を差し伸べた。

 

「大丈夫ですか?」

「ぅ、ぁ……はい」

 

 シルヴァが自分を目の敵にする組織の戦士と知っている京也は自分に手を伸ばしてきた彼女に警戒したが、どうやら彼女は京也とアルフの事をただウルフノスフェクトに襲われただけの一般人と思っているらしい。ギリギリ変身が解除される瞬間は見られなかったようだ。その事に気付いた京也はホッと胸を撫で下ろし彼女の手を取って立ち上がると、続けて倒れているアルフを立ち上がらせた。

 

「アルフ、立てる?」

「ん……うん」

 

 京也に比べればずっと頑丈なアルフは、既に傷もある程度回復している。現在進行形で傷が塞がりつつある彼女を見られたら流石に不審に思われるのではと京也も気が気ではなかったが、幸いな事にシルヴァの視線はウルフノスフェクトへと釘付けになっておりアルフの体の異変に気付いた様子は無い。

 その証拠に彼女はクロスショットをベルトに装着し、レバーを二回動かし2本のレイピアを構えながら2人に逃げるよう告げた。

 

〈Two judge! Judgement blade〉

「ここは私に任せて、あなた達は早く逃げてください」

「あ、あの……」

「早く」

「ぁ……はい」

 

 一体彼女に何を話そうとしたのか、京也自身理解できていなかった。咄嗟に声を掛けてしまったが、それ以上の言葉は出て来ずまたシルヴァから強めに逃げるよう言われては仕方がない。京也は一瞬目を伏せるとアルフの手を引いてその場を離れていった。その最中、先程落としたグレイブレイカーを回収しなければと視線を巡らせるが、見える範囲には見当たらない。一瞬焦るが、視界の端に桃色の髪が消えていくのを見てこの場の誰にも気づかれぬ内にジェーンが回収した事を知り、憂いは無いと安堵の息を吐き改めてその場をシルヴァに任せて離れていった。

 

 残されたシルヴァはウルフノスフェクトと対峙する。待ち望んだ彼女との再戦に、ウルフノスフェクトは喜びに全身の毛を膨らませた。

 

「はは、はははははっ! 待ってたぜ、お前をよッ! この間は来てくれなくて残念だったぜ!」

「この間……あの多数のゾンビが街を襲った時の事ですね?」

 

 当時の事はシルヴァにとっても痛恨の出来事であった。あの時彼女は直前に発見したカミラの存在を警戒して、急ぎ教会に戻ると荷物を置きそのままカミラを探してあちこちを彷徨っていたのだ。ノスフェクトの行動はある程度予想出来たのでカミラが向かいそうな所を読んで行動していたのであるが、それが仇となり街中で起きたゾンビによる騒動に気付くのが遅れてしまったのである。

 

 もしあの時、下手にカミラの捜索などせず教会に留まっていればと今でも彼女は己の判断ミスを悔いていた。その時の事を思い出し、シルヴァは仮面の奥で唇を嚙んだ。

 

 シルヴァが己のミスを悔いていると、対するウルフノスフェクトは舌なめずりをしながら彼女に近付いていく。

 

「んな事よりよ、早くやろうぜ! もうお前にリベンジしたくてうずうずしてたんだ!」

 

 戦意を滾らせるウルフノスフェクトに、シルヴァは気を引き締めレイピアを構え直した。今は過去の己を悔いている場合ではない。

 

「主よ……どうか彼の者の魂に、安らかな眠りと救済を……」

 

 シルヴァは神への祈りを捧げて心を落ち着けると、凪いだ心で開けた視界の中佇むウルフノスフェクトに向け突撃した。素早く接近し、ウルフノスフェクトに銀の刃を振り下ろす。

 

「ハッ!」

 

 奔る銀の軌跡がウルフノスフェクトに襲い掛かる。以前のウルフノスフェクトであれば、これを喰らえば体を切り裂かれ銀により身を焼かれて痛みにのたうち回っていただろう。

 

 しかし…………

 

「フンッ……」

「ッ!?」

 

 シルヴァの攻撃はあっさりとウルフノスフェクトに受け止められてしまった。その事に彼女が思わず息を飲んでいると、奴は彼女の腕を掴み思いっ切り振り回して近くの電柱に投げつけた。

 

「オラァッ!」

「あぐっ!? くぅ……!」

 

 電柱が大きく罅割れるほどの勢いで叩きつけられたシルヴァ。その衝撃に肺の空気を強制的に吐き出され、苦しさに一瞬喘いだが即座に体勢を立て直すとクロスショットのレバーを素早く2回動かした。すると手にしていた2本の剣が融合して1本のロングソードになる。レイピア2本の状態は火力よりもスピード重視、対してこちらは火力の方に割り振った状態だ。シルヴァは素早さはともかく、パワーでは以前より明らかに強くなっているウルフノスフェクトを相手にレイピアでは勝負にならないと考えたのである。

 

 レイピア2本分のエネルギーが1本に集束したからか、刀身からエネルギーが陽炎の様に立ち上る。ズシリと重いロングソードを構えながら、シルヴァはウルフノスフェクトに問い掛けた。

 

「その力……あなたは、どれ程の人を犠牲にしたのですか?」

 

 ノスフェクトは血を吸えば吸う程に強くなる。以前より明らかに強くなったウルフノスフェクトは、相応に多くの人々を犠牲にした事を雄弁に物語っていた。

 それに気付いたシルヴァからの問いに、ウルフノスフェクトは鼻で笑って返した。

 

「さぁなぁ? んな事いちいち覚えてらんねえよ。お前は何時何を食ったか、全部覚えてんのか?」

「――ッ」

 

 他者の命を踏み躙るウルフノスフェクトの返答に、シルヴァは仮面の奥で唇を噛みしめる。怒りを感じたからではない。人間など所詮ノスフェクトにとっては食料に過ぎないと言う事実に、分かり合う事など出来ないと言う悲しさを感じたからだ。

 

 異教徒、化け物狩りを生業とする修道騎士団で上位に位置する存在であるシルヴァであったが、彼女は本来始末すべきそれらの者達相手に対しても一定の尊重を忘れてはいなかった。例え処断されるべき存在なのだとしても、彼ら彼女らも一つの命。それを勝手な理由で刈り取る事に、彼女は常に罪悪感を感じそれに慣れる事が無いよう日々の祈りを大事にしていたのだ。

 

(もし、彼らとも話せるのであれば……)

 

 少しでもノスフェクト側と分かり合う事が出来ればと思わず考えてしまった事が隙となったのか、飛び掛かって来たウルフノスフェクトに対する反応が僅かに遅れた。気付いた時にはシルヴァの目の前にウルフノスフェクトが迫っており、彼女は咄嗟に剣を盾にする事で放たれた攻撃を辛うじて防ぐ事が出来た。

 

「ぐぅっ!」

「チッ、防いだか」

 

 鋭い爪による攻撃を防がれ舌打ちするウルフノスフェクト。だがそこで攻撃を止めることはせず、その勢いを利用して今度は蹴りを放った。片手ではまだシルヴァの剣を掴んでいる。この状態で、彼女に回避など出来る筈がない。

 

 だが攻撃を防いだ瞬間の衝撃は、彼女の気を引き締めさせるには十分なものであった。今は嘆く時ではないと気を取り直した彼女は、剣を掴まれているのを見て次にウルフノスフェクトがやって来る事を瞬時に予測し片手で剣を持ちながらもう片方の手で素早くクロスショットを抜き至近距離からの銃撃をお見舞いした。

 

「くっ!」

「な、がぁっ!?」

 

 同じ銀の銃弾を使用するヴァーニィのグレイブレイカーの銃弾を弾ける防御力も、この至近距離からの銃撃は完全に防ぐ事は出来なかった。或いは、銃の威力自体が違うのかもしれない。放たれた銃弾はウルフノスフェクトの防御を貫き、強靭な肉体の一部を抉ってみせた。

 

「ぐ、グルァァァァッ!」

 

 だがウルフノスフェクトも決してやられてばかりではない。数多の人々の血を吸った事で肉体自体が強靭になったウルフノスフェクトは、銀の銃弾が肉体を焼く痛みに耐え鋭い牙をシルヴァに突き立てた。咄嗟に腕を上げて噛み付きを防ごうとするが、そこにある筈の装甲は今剣になっている。ボディースーツのみではウルフノスフェクトの牙を防ぎきる事は出来ず、牙はあっさりとボディースーツのみならずその下にある彼女の柔肌を容易く貫いた。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 牙が腕に食い込む激痛に堪らず彼女の口から悲鳴が上がる。念願の彼女の悲鳴と、己の牙が彼女に食い込んでいる事への歓喜でウルフノスフェクトは笑みを浮かべた。

 

「グへへッ……!」

 

 この時点でウルフノスフェクトは勝利を確信していた。牙が突き刺さったと言う事は、自分の唾液が彼女の中へと入り込んだと言う事。ノスフェクトの唾液には強い快楽物質が含まれている為、ノスフェクトに噛まれた相手は抵抗する意志を失い動けなくなるのだ。この隙にノスフェクトは得物から血を吸い、その血を糧とするのである。相手を殺す労力と、不用意に傷付けて折角の血を無駄に失わせる事を防ぐ知恵のようなものである。

 

 ウルフノスフェクトに食らい付かれた時点で、シルヴァも快楽に抗う事が出来ず喘ぎながら血を吸われる運命を辿る筈であった。

 しかし…………

 

「う、ぐ……くぅッ!」

 

 シルヴァは噛まれた部位から広がる甘美な快楽に抗った。快楽に屈しそうになる己を律し、力強くウルフノスフェクトを睨むと噛み付く事で逆に動きを制限された奴に更に銃弾を叩き込んだ。何発もの銃弾がウルフノスフェクトの体を穿ち銀成分がその肉体を焼いた。

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? な、馬鹿なぁ……!?」

 

 ここでシルヴァが反撃してくるとはウルフノスフェクトも思っていなかった。食らい付いた段階で彼女の体内にはノスフェクトの唾液が入り込んだ。と言う事は、今彼女は体の内側から湧き出る快楽により正常な思考を失っている筈なのである。常人であれば恐怖も忘れて、身を委ねたくなるような快楽を今彼女は感じている筈。

 しかし…………

 

「う、ぁぁ……く、はぁ……はぁ……」

 

 銃撃により強制的に引き離されたウルフノスフェクトの前では、シルヴァが快楽に震える体を片腕で抱く様に押さえながら、銃口を向けている。燃えるような快楽に苛まれているのか、口からは甘ったるい息を吐き苦しそうに呻いているが、その視線は真っ直ぐウルフノスフェクトに向けられていた。

 その姿からは、彼女の尋常では無く強い精神力が感じられた。

 

 揺れながらも自身に向けられる銃口を前に、ウルフノスフェクトは危機感を感じた。単純にこの場での命の危機と言う意味ではない。シルヴァの……カタリナの精神の強さに危険な何かを感じたのである。この女は今この場で何とかしなければ、この先必ず自分の……延いてはヴラドの大きな障害となる。そうなる前に、弱っている今確実に仕留めなければ。

 だがそうしたくてもウルフノスフェクト自身も大きなダメージを受け、体の崩壊を防ぐ為に集めたエネルギーを総動員している最中。とてもではないが、今すぐシルヴァをどうこうする事は不可能であった。

 

 焦るウルフノスフェクトだったが、その時背後から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「苦戦してるみたいね、ヴォーダン?」

「ッ! カミラか!」

「ぁ……!?」

 

 背後からウルフノスフェクトに声を掛けてきたのは同じくヴラドに仕えるノスフェクトであるカミラであった。だがその姿は普段彼女が過ごしている人間のそれではなく、ノスフェクトとしての姿……縞模様が特徴的な猫科最強の動物である虎の能力を持つタイガーノスフェクトとなっていた。女性特有の起伏に富んだ肢体を縞模様の体毛と鎧の様な甲殻で包んだ彼女の出現は、ウルフノスフェクトにとってはとても頼もしく、シルヴァにとっては絶望的な状況であった。

 

 タイガーノスフェクトは傷付き蹲っているウルフノスフェクトを一瞥し、続いて震えて内股になりながら何とか立ち続けているシルヴァの姿に鼻を鳴らした。

 

「ふぅん……あれが騎士団の仮面ライダーねぇ?」

「へへっ……反撃は喰らっちまったが、向こうも無事じゃねえ。今なら押さえられる」

「そうね。私達の唾液を受けてまだ意識を保っていられるほど強い精神を持つ女……あの女からならいいクロスブラッドが得られそうね」

「本当なら俺が血を吸ってやりたかったところだが、仕方ねえ。後で俺にも回せよ」

「安心しなさい。連れ帰ったら手足の腱切って動けなくしておくから。回復したらじっくり楽しみなさい」

 

 目の前でこれから自分をどうするかと言う会話を繰り広げる2体のノスフェクトに、シルヴァは仮面の奥で冷や汗を流しながらも動く事が出来ずにいた。少しでも動けば、ボディースーツの下で擦れる肌が生み出す快楽で腰が砕けてしまいそうだったからだ。

 

 抵抗をするべきなのに、動く事が出来ない。それでも何とかしなければとシルヴァが銃を持つ腕を挙げようとしたその時、タイガーノスフェクトの足元に一発の銃弾が命中した。響く銃声と弾ける地面に、タイガーノスフェクトのみならずウルフノスフェクトも息を飲み思わず後退る。

 

「「ッ!?」」

「シルヴァ、大丈夫?」

 

 銃撃したのはシルヴァの仲間であるバルトであった。彼女は威嚇目的で撃ったクロスショットをタイガーノスフェクト達に向けつつ、足早にシルヴァの傍に近寄り震える彼女の肩を抱く様に支えた。バルトの手が肩を抱き寄せ密着した瞬間、彼女と触れ合った部分が激しい快楽を生み出し思わずシルヴァの口から呻き声が上がる。

 

「んんっ!? ん、く……!?」

「噛まれたのね。ゴメン、少しの間我慢して。噛まれただけならまだ引き返せるから」

 

 ノスフェクトが人間をゾンビに出来るのは、血を吸い殺して代わりに体液を注入した時だけだ。ただ噛み付いただけでは、唾液で快楽に苛まれはしてもゾンビになる事は無い。そしてその唾液の快楽物質も、騎士団には中和する事が出来る薬がある。バルトの言う通り、この程度であればまだ引き返す事は出来た。

 

 問題はタイガーノスフェクトがこのまま2人を逃がしてくれるかと言う事であったが…………

 

「逃がすと思う?」

「そう言うと思った。でも残念、アンタ達は私達を見逃さざるを得ないわよ」

 

 バルトがそう告げた直後、遠くから特殊なサイレンの音が近付いてくるのが聞こえた。このサイレン音は、S.B.C.T.の車両のものだ。

 

「聞こえるでしょ? 悪いけど、通報させてもらったの。これ以上ここに居るなら、アンタ達連中とぶつかり合う事になるけど?」

 

 脅す様なバルトの発言に、タイガーノスフェクトは奥歯を食い縛り唸り声をあげた。別にS.B.C.T.程度、真正面からやり合っても負ける気はしない。だがウルフノスフェクトがどうなるか。流石に今この状態で戦えば、必要以上に負傷する可能性もあり得る。ノスフェクトが幾ら人間を超える強靭な生物であったとしても、限界と言うものは存在するのだ。

 

 段々とサイレンの音が近付いてくる中、思案していたタイガーノスフェクトは結論を出した。

 

「……いいでしょう。今回は見逃してあげます」

「おい……」

「仕方ないでしょう。これ以上あなたに無理をさせる訳にはいかないのだから。ヴラド様も心配なさるわ」

「クソ」

 

 自分が足手纏いとなっている事に腹立たし気に悪態をつくが、弁えてはいるのかそれ以上ごねる様な事はせず大人しくタイガーノスフェクトの手を借りてその場を離れる。肩を借りて重い足を引き摺る様に歩くウルフノスフェクトとそれを支えるタイガーノスフェクトに、バルトはクロスショットをベルトに戻すと体を震わせるシルヴァを支えながら自身も移動を開始した。このままだと自分達がS.B.C.T.と遭遇してしまう。

 

「さ、行くわよカタリナ。もう少しだから我慢してね」

「ん、ぐ……!? は、ぃ……」

 

 動く度にスーツと肌が擦れて迸る快楽に時折体をビクビクと震わせながら、シルヴァは零れ出そうになる声を必死に押し殺しながらバルトに身を委ねる様に歩く。

 

 こうしてシルヴァとウルフノスフェクトの戦いは痛み分けと言う形で終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ジェーンの屋敷に戻った京也とアルフの2人を迎えたのは、ジェーンだけではなく意識を取り戻した実里であった。

 

「お帰り~。今回は大変だったわね~」

「2人共、大丈夫ッ!?」

 

 グレイブレイカーを回収して一足先に戻っていたジェーンは、一応2人がウルフノスフェクトに敗北した後シルヴァにより助けられた事を知っていた為あまり心配した様子が見られない。まぁ彼女が心配して狼狽する姿など想像できないので、仮に現場に来ていなかったとしても何時もと変わらぬ様子だっただろうが。

 

 一方で酷く狼狽した様子なのが実里だった。ついさっき吸血の影響から戻り意識を取り戻した実里は、京也とアルフがノスフェクトとの戦いに向かっていた事を知らなかった。彼女がそれを知ったのは2人が戻ってくる直前であり、戻ってきた2人がボロボロの姿になっているのを見て思わず顔を青褪めさせ駆け寄っていた。

 互いに支え合う様に寄り添い合って玄関に立つ2人は、狼狽した様子で駆けよって来る実里を受け止め宥めようとした。

 

「須藤さん、大丈夫。大丈夫だよ。そんなに大した怪我じゃないから」

「私も……大した事、ない。これ位、直ぐ治る」

「ほ、本当?」

 

 不安そうに訊ねてくる実里に2人は頷いて答える。まだ心配ではあるが、見た目以上に平然とした様子の2人に実里は大事は無いと分かったのか、心底安心した様子で胸を撫で下ろした。まだ本当に安心するには早いが、少なくとも慌てるほどではないだろうと言う事は理解したらしい。

 

「はふぅ……」

「ゴメンね、心配させちゃって」

「ううん、2人が大丈夫ならそれで良かったよ」

「?……私、も?」

 

 実里が明らかに京也だけでなくアルフまでをも心配していた様子の実里に、アルフはなぜ彼女が自分までそんなに心配するのかが分からず首を傾げる。彼女が京也を心配するのはまぁ分かる。2人は学校でいつも顔を合わせている訳だし、友として心配するのは当然の流れだ。だが、アルフは以前に一度だけ顔を合わせた事があるとは言えほぼほぼ初対面の他人に等しい。そんな自分を彼女が心配する理由が分からず、アルフは思わず首を傾げてしまった。

 

 不思議そうにするアルフに、実里は当然と言う様に頷き彼女の両肩に手を置いた。

 

「そりゃそうだよ。だってアルフちゃんも、揚羽の恩人だもん」

 

 詳しい事は実里も聞いていない。だが、京也が戦う為にはアルフの協力が不可欠であると言う事だけは把握していた。つまり、アルフがその気にならなければ京也は仮面ライダーになって戦えない。彼が戦えなければ揚羽も危なかったのだから、協力してくれたアルフにも感謝するのは実里にとっては当然の流れであった。

 

 正直、アルフにはそう言った人間的な思考がよく分からない。アルフにとっての世界とは、京也とジェーン、それ以外という括りしか存在しなかった。

 だから京也とジェーン以外からの評価など、アルフにとってはどうでもいい事であった。どうでもいい……筈なのだが……

 

「だから、良かった。揚羽の恩人が酷い怪我とかしなくて……」

「ん……あり、がと」

 

 悪くない……そんな気持ちがアルフの胸に広がり、恥ずかしそうに俯きながら実里の言葉に答えた。その光景を、京也とジェーンの2人が微笑ましく見ていたのだった。




と言う訳で第18話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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