今回は新ライダーのお披露目です。
スコープの次世代型が完成したと聞き、レックスは最初意気揚々と自分を呼びに来たリリィとユーリエの手を引いて支部の中を歩いていた。だが途中で何処へ向かうべきかが分からない事に気付くと、少し浮かれていた事に恥ずかしくなり小さくなりながら2人の後に続いて小さな会議室へと入っていった。
そこで彼は、本当に久し振りに見る顔の人物と再会した。
「お、来ましたね?」
「あっ! ミネさん、お久し振りです!」
小会議室で彼らを待っていたのは、嘗て仁と共に傘木社と戦った仲間の1人である宮野改め瀬高 峰だった。大学卒業後は技研に勤め、夫である拓郎と共に育児に励みながらS.B.C.T.の支援の為様々な装備の開発などに力を発揮していた。
レックスとリリィは彼女ともある程度の面識があった。2人の保護者でもある希美とは因縁があると言う事だが、2人が峰と顔を合わせる頃には希美と峰はそこまで険悪な雰囲気と言う訳ではない様に思えるくらいの関係に見えていた。
そんな訳で峰とも知り合いだったレックスは、久々の彼女との再会にリリィ共々笑みを浮かべていた。
「ミネさん、お子さんはお元気ですか?」
「元気よ~。元気過ぎて困っちゃうくらいよ」
レックスに続きリリィも峰との再会に雑談に興じるが、早く話を進めたいユーリエはそんな彼らに聞こえる様に咳払いをして水を差した。
「んんっ! 再会を喜ぶのも結構だが、今は先にやるべき事があるのではないかな?」
「おっと、そうでしたそうでした。ゴメンなさいね、何しろ久し振りに見たら2人共立派になってたものですから」
窘められて申し訳なさそうに後頭部を掻きつつ、峰は足元に置いていたアタッシュケースをテーブルの上に置きロックを解除するキーコードを入力した。レックスが期待に満ちた目を向ける中、峰がケースを開けるとそこには1つのベルトと1枚のキープレートが入っていた。
「お待たせしました。これが次世代型のスコープシステム改め、グラスシステムです」
「グラス……!」
峰は開いたケースをレックスの前に持っていく。それがベルトを手に持ってみろと言う意思表示である事に気付くと、彼は若干震える手でベルトを手に取ってみせた。光を弾く鈍色のベルトは手にズシリと重く、その重さが彼に感動を与え思わず生唾を飲み込んだ。
「これが、俺の……」
「そう、君のライダーシステムです。今日から君は、仮面ライダーグラスですよ。レックス君」
今日から仮面ライダー……その言葉にレックスは感動に打ち震え、あまりの感動に目を潤ませた。昔はその背を見ている事しか出来なかった仮面ライダー。憧れに少しでも追いつこうと自分を鍛え続け、本物ではないが仮面ライダーについて行けるだけの力を身に着けた。そして今、遂に自分はその憧れに本当の身で追いついたのだ。これほど嬉しい事はない。
レックスの感激具合が分かるのか、手にしたベルトを潤んだ目でジッと見つめる姿に苦笑しながら峰はケースの中に残されたキープレートを手渡しながら彼を訓練施設へと誘った。
「まだ感激するには早いですよ。早速ですけど、テストしてみてください。君用に調整してあるとは言え、実際に動かした事はまだないんですから」
「ん? テストせずに持ってきたのかい?」
「そりゃそうですよ。これは生産性度外視で作り上げたピーキーな性能ですからね。普通の人間に使いこなせるものじゃありません。本格的な調整の為には、レックス君に実際に使ってみてもらわないと」
厳密に言うと、一応作成段階で技研でもテスト要員に使わせてみた事はあった。だがその時はグラスの性能に装着者が翻弄されてまともなデータを得る事が出来なかったのだ。事前に貰っていたライトスコープを破損させるほどのレックスの動きに合わせた性能は、常人では扱いきる事が出来ない程の代物だったのである。
峰の説明にユーリエもなるほどと頷きそれ以上は何も言わず、彼女が納得してくれたのを見ると峰は改めてレックスを訓練施設に向かわせた。
「ささ、行きましょ行きましょ」
「はい!」
早速変身できると思うと、レックスの足も大分軽くなる。思わずスキップしてしまいそうになるのを堪えながら足早に訓練施設へと入ると、彼はベルト……グラスドライバーを腰に巻き準備を整えた。
「あ、そう言えばこれ、使い方は?」
見た目グラスドライバーはスコープドライバーとよく似ていた。だが細部は所々異なっており、特に違うのはベルト部分の上部に幾つかボタンがある事であった。
レックスが訓練施設の管制室の方を見ながら訊ねると、スピーカーから峰の声が響いた。
『基本的にはスコープとそこまで違いはありません。まずは変身してみましょうか。変身方法はスコープと同じですから、態々言わなくても分かりますね?』
「分かりました」
峰の言葉に、レックスは渡されたキープレートを一度見て深呼吸した。長年夢見た瞬間が漸く訪れることに、逸る気持ちを抑えながらその言葉を口にする。
〈Access〉
「……変身ッ!」
万感の思いを込めながらその言葉を口にし、キープレートをベルトの右側から装填。そして左側のハンドルを回すと、ベルト中央のレンズから光が投射されグラスの仮面ライダーとしての姿が形作られていった。
〈In focus〉
投射されていた人型がレックスに重なり、仮面ライダーグラスへの変身が完了する。憧れの仮面ライダーへの変身に、レックスは心の内から湧き上がる震えを抑えながら変身した自らの体を見下ろした。
「これが……!」
『そうです。それが次世代型のスコープ、グラスです!』
外観は初期型のスコープと同じ銀色であるが、やはり細部がスコープとは大分異なっている。まず目を引くのはスコープでは三連回転レンズだった左目が、右目と同じ赤い複眼に変わっている事だ。スコープではビジョンモードを変更する度に切り替わっていたカメラだが、グラスでは複眼をその名の通りサングラスの様なもので覆われ、代わりに額にカメラを4つ持つバイザーが装着されている。
両腕にはスコープが装備していた物よりさらに小型になった盾を一つずつ装備している。見てみると二つの盾にはどちらにも至近距離での制圧射撃に優れたボルテックス・ガンらしき物は見当たらない。武装は減ってしまったが、その分動きやすくなった印象だ。
だが何よりもグラスで目を引くのは、体の各部に備え付けられた小型のスラスターだ。背中は肩甲骨の辺りに二つ、腰の後ろと太腿、脹脛、足の部分にもスラスターが搭載されており、スコープに比べて機動力が大きく向上しているのが分かった。
そして額からは2本のアンテナが伸びている。これが次世代型スコープである仮面ライダーグラスであった。
レックスが変身した自身の姿を確認していると、その様子を管制室から見ていた峰が指示を出した。変身しただけで満足してもらっては困る。
『それじゃ、早速ですけど動いてもらえますか? まずは軽く体を解す感じで』
「はい!」
峰の指示に力強く頷くと、レックスはその場で軽くステップを踏みシャドーボクシングを始めた。軽快にステップを踏み、鋭いジャブを繰り出す。その動きに窮屈さは感じられず、とても快適に動けているように見えた。
傍から見てもそうなのだから、実際に変身して動いているレックスが受けた衝撃は凄まじかった。
(うぉぉぉぉっ!)
仮面で顔が隠れている為分からないが、今レックスの顔は少年の様に輝きを放ち目は爛々と輝いていた。それも無理はない。彼は、今までにない程の高揚感を感じて居たからだ。
ライトスコープを使っている時は決して得ることは出来なかったスムーズな動き。引っ張られる様な窮屈な感じがしないどころか、望めば望むだけ動けるような感覚。狭い檻から解き放たれた様な解放感に、彼は胸の内で雄叫びを上げていた。
程良くレックスがグラスを扱う感覚に慣れてきたらしいのを見て、峰はリリィに指示を出してテストを次のステップに進めた。
「それじゃリリィちゃん、訓練プログラムを起動してもらえますか?」
「分かりました」
手慣れた様子でリリィがコンソールを操作すれば、グラスの居る部屋が街中へと変化した。テストが次のステップに進んだのを見て、グラスがシャドーボクシングを止めるとスピーカーから峰の声が響いた。
『レックス君、先ずはグラスのメインの武装を使ってみましょうか。ベルト上部に幾つかボタンがありますよね? まずは一番右のボタンを押してみてもらえますか?』
「一番右……これか」
〈Bastard Shot,starting〉
グラスがボタンを押すと、ベルトのレンズから武装が投射される。形作られたのは長剣とライフルを組み合わせた様な形状の武装だった。長剣は所謂”剣太刀”と呼ばれる刀身の途中までが刀で切っ先付近が剣の様に両刃になっており、銃身は切っ先の刃に挟まれるように収納されている。
『それがグラスの主武装である”バスターショット”です。試製武器と言う事でそれがそのまま量産される事は無いでしょうけど、それのコンセプトを受け継いだ武装が今後作られる予定です』
峰から説明を受け、グラスはバスターショットの斬撃モードと射撃モードを切り替える。切り替えは非常にシンプルであり、刀身を軸にグリップを半回転させるだけであった。グリップはハンドガード部分が射撃時用のグリップとなっており、グリップを半回転させる事で刃の部分が開き収納されていた銃口が露出する造りになっている。
グラスは何度か射撃モードと斬撃モードを切り替え、レスポンスなどを確かめている。その最中、彼はこの武装がある物を参考にしている事に気付いた。
「この武器……これってもしかして……?」
何かに気付いた様子のグラスに、峰が管制室で頬を掻きながら若干不満そうに口を開いた。
『……まぁ、装備としては優秀ですからね。参考に出来る物はこの際何でも参考にしましたよ』
「やっぱり……!」
このバスターショットは、仮面ライダーヘテロの装備であるテイルバスターを参考にした装備だったのだ。テイルバスターを参考にした最大の理由は、峰が言う様に装備としてそれなりに優秀だからだ。一つで接近戦と遠距離戦の両方に対応できる。
尤も、使用者がレックスと言う事でそこら辺を考慮していないと言えばそれはまた嘘になるが、それを敢えて口にするような事はしなかった。
『さ! それよりも、試してみてください』
『まずは簡単な的当てでもしてみて』
リリィがコンソールを操作すると、グラスの周囲に標的となる光る球が幾つか浮かぶ。それらはただ単にその場に浮くだけのものもあれば、一定の周期で上下左右に動くものなどもある。
周囲に現れた標的にグラスがバスターショットを構えると、仮面内部のHMDにSTARTの文字が表示される。
その瞬間グラスは戒めを解かれ弾かれた様に動き出した。
「オォォォッ!」
素早い動きで手近な的に近付くと、長剣モードのバスターショットを一閃させる。弧を描くような斬撃は一撃で複数の的を切り裂き、切り裂かれた的は霧散する様に弾けて消えた。
グラスは最初の的を当てた後、そのままの勢いを利用して別の的に躍りかかり更に複数の的を次々と仕留めていく。飛んで跳ねて、時には各部のスラスターを上手く使って姿勢制御し空中の的をも切り裂いて見せる。
水を得た魚の様なその動きに、管制室で見ている峰とリリィ、そしてユーリエは思わず見惚れてしまった。
「うわ、スゴ……!」
「テンション上がってるわねぇ、レックスってば」
「彼の身体能力が並外れているとは聞いていたが、しかしこれ程とは」
三者三様に驚きを露にするリリィ達だったが、グラス……レックスが感じている衝撃はその比ではなかった。
「ハ、ハハッ……!」
バスターショットを射撃モードに変形させ、峰の刃の無い部分に手を添え柄頭の部分をストックにして両手で構えて次々と的を撃ち抜きながら、彼の口元には堪えきれない笑みが浮かんでいた。
彼がここまでの高揚感を感じている理由は、単純に憧れの仮面ライダーとなれたからと言うだけの話ではなかった。ライトスコープを使っていた時には感じられなかった、軽快で爽快な動き。縛られる事無く、思ったように動ける充足感。まるで自由を得たかのような気分に、彼は思うままに体を動かしていた。
(スゲェ、スゲェ! 動ける、動ける!)
足に力を込めて飛べば、軽く2~3階建てのビル位なら飛び越えられそうなほどジャンプできる。ライトスコープを装備していた時は絶対に出来なかった事だ。以前であればこんな事をしようとすれば、ジャンプの直前に足を引っ張られた様になり行き場を失った力に振り回されて爆発に吹き飛ばされた様にスッ転んでしまう。
自分が思った通りに体を動かせる充実感に、彼は時間の経過も忘れて目に映る的を次々と攻撃していった。
「ほッ! ハッ! そこッ!」
斬撃と銃撃だけでなく、時には蹴りも使って的を破壊していく。そうして気付けば全ての的を破壊し終えてしまっていた。
的が無くなり漸く落ち着いたグラスは、熱くなった心と体を冷ます様に一つ大きく深呼吸する。
「ふぅ……」
未だ興奮冷めやらぬと言った様子だが、落ち着こうとしている彼の姿にリリィは最後に実戦形式の訓練プログラムを入力した。
『それじゃ、最後にこれやってみましょうか』
その言葉の直後、グラスの前に現れたのは彼らが最初に遭遇したノスフェクトであるバットノスフェクトであった。無論過去の戦闘の記録から作り出されたデータ上の存在でしかないが、再現されたバットノスフェクトの戦闘能力は本物とそう大差はない。
「ガルルルル……!」
「むっ!」
威嚇してくるバットノスフェクトを見て、グラスもバスターショットを構える。睨み合った両者だが、先に動いたのはバットノスフェクトの方であった。
「キシャァァァッ!」
翼を広げて滑空する様に飛び掛かって来たバットノスフェクト。それに対してグラスはバスターショットの刀身を自分の体で隠すように構え、バットノスフェクトが攻撃圏内に入った瞬間体を捻り下から掬い上げる様に切り裂いた。
「ハッ!」
レックス本来の力に上乗せする形で放たれたグラスの斬撃は、その一撃でバットノスフェクトを大きく切り裂いた。胴体を斜めにバッサリ切り裂かれたバットノスフェクトは、攻撃を受けた衝撃でバランスを崩し空中でもんどりうって地面に叩き付けられるように落下した。
「グギャァッ!?」
悲鳴を上げながら落下したバットノスフェクト。だが優れた生命力で体を回復させながら起き上がると、即座に反撃で強力な超音波を放ってきた。指向性を持った超音波攻撃はコンクリートを抉る程の威力だったが、グラスはこれを各部のスラスターで軽くホバーしながら回避するとそのままバスターショットを射撃モードにして地上を滑るように動きながら何発もの銃弾を叩き込んだ。
「グガッ!? ガッ、ギャッ!?」
次々と放たれる銃弾にバットノスフェクトは体を次々と抉られていく。反撃しようとするが、素早く動き回るグラスには狙いが定められず苦し紛れの攻撃は掠りもしない。
高機動を活かして戦うグラスの猛攻に、バットノスフェクトは既にボロボロだ。ここで峰がグラスに指示を出した。
『そろそろ頃合いですね。レックス君、ベルト上部の一番左のボタンを押してください』
「了解ッ!」
〈Ignition〉
ベルト一番左のイグニッションキーをグラスが押すと、電子音が響きグラスの全身から激しい熱波が放たれる。スラスターは小さな炎を灯し、全身の装甲の隙間から廃熱されるように熱が漏れ出て周囲に陽炎が浮かび上がった。その熱は離れた所に居るバットノスフェクトにも届き、あまりの熱に火傷してしまう。
「ギャッ!? グギャッ!?」
離れていても肌を焼く熱に悶えるバットノスフェクトに向け、グラスはスラスターから火を噴かせて接近すると一気に真横から勢いをつけて飛び蹴りを放った。
「ウォォォォォォッ!」
グラスの必殺技である『ディシフェクト・スマッシュ』が炸裂する。全身を加熱し高温の弾丸となったグラスが、スラスターの加速を活かして敵を熱しながら蹴り穿つ必殺技だ。その強烈な熱量は、強靭な生命力を持つノスフェクトの細胞であろうと容赦なく焼き尽くした。
「ギャァァァァァァァッ!?」
まともに蹴りを喰らってしまったバットノスフェクトは、蹴り飛ばされた先でも熱が全身を焼き体を崩壊させていく。崩壊に再生が追い付かなくなり、耐えきれなくなった瞬間バットノスフェクトはその場で爆散する。
そしてバットノスフェクトが倒れると、グラスのHMDにCOMPLETEの文字が浮かび、訓練が終了した事を示すブザーが鳴り響き周囲の景色が元に戻った。
訓練が終了すると、レックスはベルト左側のハンドルを回し変身を解除した。
〈Shutdown〉
レックスが変身を解除すると、リリィ達が管制室から出て彼の元へと向かう。試しに使ってみた感想を聞こうと思ったのだが、肝心の本人はまだ仮面ライダーに変身出来た感動が冷めないのか自分の手を見てぼんやりしている。
「レックス君、どうでした? 今回はかなりの自信作だと思うんですが……」
峰が訊ねるが反応はない。何かおかしいと思ってリリィが彼の顔を覗き込むと、その顔には堪えきれていない笑みが浮かんでいる。
「ハ、ハハッ……」
「あ~ぁ~、全くもう……」
ちょっと怪しい笑みを浮かべる彼の姿に、リリィは仕方がないと言う様に肩を竦めると足早に近付きその頬を遠慮なく引っ叩いた。割と本気で引っ叩いたのか、広い筈の訓練施設の内部に響き渡る程の大きなパァンと言う音がその場の全員の鼓膜を打つ。
当然引っ叩かれたレックスはぶん殴られたかと思う程体をよろめかせ、あまりに大きな音に峰とユーリエは軽く引きながら彼女を宥めようとした。
「ちょちょっ!? リリィちゃん、落ち着いて……」
「流石に今のはやり過ぎでは?」
「いいんですよ、これ位で。で? レックス、目が覚めた?」
レックスを引っ叩いた手をヒラヒラと振りながらリリィが訊ねれば、彼は叩かれた頬を押さえながら目に涙を浮かべつつ答えた。
「あ、あぁ、悪い。助かったよリリィ」
「全く、そんな様じゃ仮面ライダーは夢のまた夢ね?」
「面目ねえ」
「何の話をしている?」
2人のやり取りの意味が分からないユーリエが首を傾げていると、レックスが赤くなった頬を擦りながら苦笑した。その笑みは先程の何処か狂ったような物とは違い、己の行いを恥じる反省の色が見て取れる笑みであった。
「いや、感動が行き過ぎて浮かれてたって話」
「まぁかなりテンション上がってたように見えたが……」
「あぁ、そう言う事ですね」
レックスの言わんとしている事が今一理解できないユーリエが相変わらず首を傾げていると、峰は合点が入ったと言う様に頷いた。1人何の事かが分からないユーリエがレックスと峰を交互に見て、答えが得られないことにやきもきして助けを求める様にリリィの事を見れば彼女は溜め息を吐きながら目をクルリと回した。
「つまり、仮面ライダーは楽しんじゃいけないって話」
レックスとリリィにとっては特に仮面ライダーは特別な意味を持つ。自分達を地獄から救い出し、家族となってくれた掛け替えのない存在だ。神聖と言ってもいい。レックスは特に仮面ライダーと言う言葉自体をある意味で神聖視している。
そんな仮面ライダーになれた自分が、浮かれて俗っぽい考えに染まる事は許されない。戦う事を愉しむなど以ての外。憧れの仮面ライダーに近付こうと言うのに、力に溺れて力を愉しむなど仮面ライダーの看板に唾を吐きかけるような物である。少なくとも彼はそう考えていた。
リリィはそんな彼の信条が、得られた力のあまりの強さに浮かれて歪みそうになっていたのに気付き、彼を正気に戻す為に引っ叩いたのだ。ちょっと強めに叩いたのは、こんな事で浮かれて初心を失いそうになる彼への戒めであった。
リリィから良い一発を貰い、浮かれていた気分を吹き飛ばし落ち着きを取り戻したレックス。話が一段落したのを見て、峰が改めて彼にグラスの使い心地を訊ねた。
「コホン、それでどうでした? スコープベースですが、君に合わせて大分弄ったんですけど?」
峰の言葉にレックスは先程の使い心地を思い出し、思わず頬が綻んでしまいそうになるのを今度は自制し浮かれる事が無いように気を付けた。それでもやっぱり仮面ライダーに変身出来た事と自分が思う通りに動けたことが嬉しいのか、頬がにやけるのを抑える事は出来なかったようである。口元が変に歪む彼の姿に、リリィはやれやれと肩を竦めまた一発彼の頬を張れるように軽くて首を解した。
リリィが自分を引っ叩く準備をしているとは露知らず、レックスは興奮を抑える様にしながら変身して戦ってみた感想を口にした。
「凄かったです! スーツが俺の動きにしっかりついてきますし、全身のスラスターのお陰で見た目以上に機動力も高い。それでいてスコープ譲りのパワーは維持してるし、防御力も悪くない。それに何よりもあの武器! ノゾミとお揃いってだけでもテンション上がるのに、使い心地も良いときてもう最高で…………ぁ」
放していて興奮が再燃したのか早口でまくし立てる様に感想を口にしていたレックスだが、途中でまた浮かれてしまっている事に今度は自分で気付き口が止まる。そしてリリィの方を見れば、彼女は笑っているのか何なのか分からない顔で腕組みしながら彼の事を見ていた。自分で気付けただけまだマシだが、また浮かれてしまっていた事に気付きレックスは罰が悪そうに一度咳払いすると軽く深呼吸して改めて使い心地を簡潔に口にした。
「うん……良かったです。これなら他の連中の足手纏いになる心配もないし、仮面ライダーについて行く事も出来そうです」
また興奮したりしないようにと、必要以上の評価はせず簡潔に感想を告げた。そんな彼の姿に峰は苦笑せずにはいられない。やっぱり男と言うのは何歳になっても少年らしさを失わないのだからと言った感じだ。
「フフッ……気に入っていただけて良かったです。腕によりをかけた甲斐がありました!」
「ミネさん、本当にありがとうございます!」
「しかし、あれだね。ここまでくると本当に生産性度外視な性能だね。全身のスラスターなんてどう考えても過剰だろう」
素直に感激したレックスに対して、ユーリエと言う第3者からの意見はまた少し違った。彼女の目からは、グラスの性能はやや過剰な装備に見えたのである。
その意見も分かるのか、峰は彼女の言葉に小さく肩を竦める。実際グラスの性能がこれまでと一線を画すレベルに至っている事は開発者である彼女がよく分かっていた。だがこれにはそれなりに理由があった。
「言いたい事は分かります。確かにグラスの性能は高いです。これまでのスコープを凌駕する性能は、レックス君に合わせたと言うだけでは納得しない人もいるでしょう」
「S.B.C.T.の存在に懐疑的な人や国は少なからず居る。そんな人々の警戒心を刺激する様な性能を持たせる価値があるのかい?」
「勿論です。何しろ今回のグラスは所謂試作機と言う名の新装備のテストベッドですから」
全身に装備したスラスターを始め、グラスにはスコープには無かった装備などが幾つもある。それらは実際の戦闘で得られたデータなどを取り込み装備されたものであるが、これが全て有用であるかと言われると必ずしもそうではない。中にはコストが掛かるだけで無駄と言える装備もあるだろう。レックスのグラスはそれを実際に装備して実戦を行い、その装備がどの程度有用か、使い心地はどうか等を確かめるのである。
恐らく今のグラスに搭載されている装備の全てが今後制式採用されたグラスに搭載される事はないだろう。装備の幾つかは不要と判断されて取り外される。
「…………よし」
峰の話を聞きレックスは気を引き締めた。彼は自分がグラスを託された事の意味を理解したのである。つまりは彼に求められるのは、グラスの性能を全て引き出しその上で必要な力と不要な力を選り分ける事。それを判断できるだけの知識と感性を自分に求められている事に、レックスは何時までも浮かれてばかりはいられないと気合を入れ直した。
引き締まった顔をするレックスにもう大丈夫と判断したリリィは、安心したように肩から力を抜き腕組みを解いた。
「ミネさん、本当にありがとうございました」
「グラスで得られたデータは余すことなくそちらに送りますね」
「えぇ、期待してます。頑張ってくださいね、仮面ライダーグラス」
峰からの激励にレックスは頷くと握り締めた拳に目を落とした。自分の肩に思っていた以上に重いものが乗っている事を実感しつつ、彼は今後仮面ライダーの何恥じない戦いをしようと心に誓った。
嘗て自分達を救ってくれた仮面ライダー達。その誇り高き姿を自分で穢す事が無いようにと。
と言う訳で第23話でした。
峰、久々の登場です。デイナ終了後、拓郎と結婚して瀬高になった彼女は、夫と共に育児に勤しみつつ技研で研究開発に明け暮れる日々を送っています。
そんな峰により作り出された仮面ライダーグラス。グラスの頭部は、ガンダムUCに出てくるエコーズジェガンを思い浮かべていただければわかりやすいかと思います。ジェガンのバイザーの奥に複眼が見える感じに。
グラスはレックスの無茶な動きにも追従できるよう、スコープ以上の機動性を持ちます。かなりアクロバティックな動き何かも今後見せてくれますよ。
憧れの仮面ライダーになれてちょっと浮かれ気味だったレックスですが、リリィのビンタで正気を取り戻しました。この2人にとって仮面ライダーはただの力やヒーローではない、ある種の神聖な存在ですからね。扱うにしてもそれ相応の覚悟とかを課してます。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。