仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今年最後の更新です。一年間ありがとうございました!


第27夜:少女の狼狽

 カタリナが1人ウルフノスフェクトの相手をする為戦い始めた頃、京也達は逃げ遅れた子供達を建物の中へと誘導しながら自分達も逃げていた。ウルフノスフェクトは確かに強敵だが、カタリナだってそれに匹敵するほどの実力の持ち主である事は実際に戦った事がある京也が良く分っている。だから彼は、あの場をカタリナに任せた事に対してあまり不安はなかった。

 しかし揚羽はそうでもなかったらしい。彼女は今の今までカタリナが仮面ライダーである事を知らなかった。それ故、最初はカタリナが仮面ライダーに変身した事に安堵しかけたが少し時間が経ってカタリナ1人で大丈夫かと不安を感じ始めていた。

 

「はぁ、はぁ……ねぇ? カタリナさん、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、多分ね。だって仮面ライダーだよ? きっと大丈夫だよ」

 

 京也は揚羽を宥めながら子供達を建物の中へと入れ、逃げ遅れた子供が居ないか確認する。

 

「子供達は? これで全員?」

「えっと、え~っと…………!? 大変、一人足りないよッ!?」

 

 3人の中で一番子供達と親しい揚羽は、建物の中に居る子供達の中に見当たらない子供が居る事にいち早く気付いた。もしかしたら一早く中に逃げ込んで隠れて震えているのではと寝室や厨房などを隈なく探したが、やはりどれだけ探し回っても見当たらない子供が1人居る。どうやらこの混乱の中でパニックとなり集団から離れて明後日の方に逃げてしまったらしい。1人逸れた事に誰も気付かぬまま、揚羽達は子供達を建物の中に誘導してしまったのだ。

 

 足りない子供が1人居ると分かると、揚羽は急いでその子を探しに行こうと扉に手を掛ける。

 

「待ってて、今行くからッ!」

「ちょっと待った!」

 

 しかし揚羽が扉を開けようとした瞬間、その手を京也が掴んで揚羽が出ていくのを引き留めた。邪魔をする京也に冷静さを失った揚羽は彼の手を振り払いながら抗議した。

 

「何で止めるのッ! 早く探しに行かないと、あの子が……!」

「分かってる。でも磯部さんじゃ危ないよ」

 

 状況によってはウルフノスフェクトとシルヴァの戦いの中に飛び込んで行方の分からない子供を連れ出す必要があった。曲がりなりにも戦いを経験している京也であれば、そんな状況でも最善の行動が出来るが揚羽はそうとは限らない。こういう時は一瞬の判断のミスや迷いが自分だけでなく周りの命取りになりかねないのだ。探しに行くなら揚羽より京也の方が適任だった。

 

 それに、最悪の事態も想定しなくてはならない。どうしても逃れられない場合、若しくはウルフノスフェクトとは別に敵が出た場合、京也も戦いに参加しなければならない可能性もある。そんな時、ここに居るよりは外に出ていた方がやり易い。少なくともアルフとの合流は容易かった。

 

 当然揚羽にその事は告げない。彼はシンプルに、危険に飛び込むのは男の仕事と揚羽に言い聞かせて彼女の代わりに足りない子供を探しに行く役割を買って出た。

 

「あんまり頼りにならないかもしれないけれど、僕だって男だからね。危ない事は僕の方が適任だから」

「で、でも……」

「大丈夫、任せて。直ぐに見つけて戻って来るから」

 

 そう言って京也が安心させるように微笑みながら彼女の腕を軽く叩くと、揚羽は感電したように肩をビクンと震わせ俯くと小さく頷いた。その反応に説得が成功したのを見た京也は改めて頷くと、実里にも任せろと言う様に頷き扉を開けて外に出ていった。残された実里は一度扉から外を見て、周囲を見渡し安全を確認すると扉を閉め揚羽を子供達の集まる食堂へと連れて行こうと彼女の手を取った。

 

「さ、行こう。足りない子供の事は紅月君に任せて…………?」

 

 揚羽を奥へと引っ張ろうとした実里だが、彼女の様子がおかしい事に気付き足を止めた。見ると揚羽は空いてる方の手を胸元に当て、放心したように閉まっている扉をジッと見ている。違和感を感じて揚羽の顔を覗き込めば、何処か心此処に在らずと言った様子でよく見ると頬がほんのり赤く染まっていた。明らかに何かが可笑しいと実里が彼女の肩を掴んで強く揺すると、彼女はハッと我に返った。

 

「揚羽? ちょっと揚羽ッ!」

「あ、えっ!? な、何みのりん?」

「何じゃないよ。どうしたの、ぼーっとしちゃって?」

 

 実里に問われ、揚羽は扉を一瞥してから何かを振り払うように頭を振って勢い良く両手を上げて左右に振る。その際に実里の手は振り払われ、その勢いに実里も目を瞬かせた。

 

「何でも、何でもないよ! うん! 何でもない何でもない!」

「揚羽?」

 

 こんな状況だが、何かが可笑しいと実里が探るような目を向けると揚羽はその視線から逃れる様に顔を背けた。そして、明らかに誤魔化す様に実里の手を取ると子供達が集まる食堂に足早に向かい始めた。

 

「さ、早く行こうッ! きっと皆不安だろうから、安心させてあげないとッ!」

「あ、ちょっと揚羽ッ!」

 

 ぼーっとしてたかと思ったら、今度は慌てた様に歩く揚羽の様子に実里は困惑する。先程の揚羽の反応、あれはまるで…………

 

(いやいや、流石に揚羽に限ってそれは無い……の、かな?)

 

 実里は不審とも不安とも取れない違和感を胸に揚羽に手を引かれていく。一瞬脳裏にまさかと言う予想が浮かんだが、それは流石に考えすぎかと実里は頭を振って浮かんだものを否定する。

 

 だから、彼女は気付く事は無かった。先を行く揚羽が潤んだ目をして、胸元で拳をキュッと握り締めている事に。揚羽が変に鼓動する自身の心臓に、困惑と興奮を感じている事に。

 

(う、うぅ~……何これ? 何なのこれ? こんなの、こんなの知らないよ……!)

 

 磯部 揚羽16歳、今までに友情以上の感情を抱いた事のない彼女が初めて感じる、異性に対する特別な好意を抱いた瞬間であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 揚羽、実里の2人と別れた京也は、1人教会の敷地内を駆けまわり行方の分からない子供を探していた。急ぎはするが、彼の心に焦りはそこまでない。ウルフノスフェクトの目的は明らかに実里だからだ。

 

(アイツは前に須藤さんが稀血だってことを知ってる。なら、須藤さん以外は眼中にない筈だ)

 

 ここが修道騎士団の拠点だという事はウルフノスフェクトだって分かっている筈だ。にも拘らず襲撃を仕掛けてきたという事は、それだけの価値が実里の持つ稀血にあるという事に他ならない。実際その恩恵を受け、強化されたヴァーニィとなった京也はウルフノスフェクト達の気持ちが分かった。自分でさえあれ程の力が得られるのだ。本物のノスフェクト、それもノスフェクトの王とも言える存在が実里の血を吸うか彼女から作られたクロスブラッドを取り込めば、どうなるかは考えたくもない。

 

 知らず、京也は飢えた様に喉を鳴らした。

 

「ゴクッ……」

 

 口の中に涎が滲んでいる事に気付かず、京也は1人の子供を探し回る。少し耳を澄ませば、シルヴァとウルフノスフェクトが戦う音が聞こえてくる。これだけ派手に暴れ回れば、直ぐに他の騎士団の仮面ライダーが出てくる筈だ。例えそうでなくとも、これほど騒げば周辺住民がS.B.C.T.に連絡してくれる。それを待てば、態々彼が戦う事も無く済むだろう。

 

 そんな事を考えていると、彼の耳が僅かにだが子供のすすり泣く声を捉えた。足を止め、慎重に周囲の気配を探ると先程よりもハッキリと泣き声が聞こえてきた。間違いない、この声の主が件の逸れたという子供だ。

 

「……こっちか!」

 

 果たして子供の姿は直ぐに見つかった。茂みの中に隠れて女の子が1人泣いていた。京也は見つけた女の子を安心させるように優しく微笑みながら近付いた。

 

「見つけたよ。良かった、無事みたいだね?」

「お、おにいちゃん……」

 

 見た所擦り傷一つ無いように見える。途中で転んで膝を擦りむいたりはしなかったようだ。その事に安堵しつつ手を伸ばすと、女の子は思わず身を固くした。この女の事京也はあまり接点が無かったのである。これが揚羽であれば直ぐに甘えてきたのだろうが、京也だとそう上手くはいかないらしい。

 

 警戒、と言うよりは緊張した女の子の様子に、京也は困った様に笑みを浮かべながら声を掛ける。

 

「大丈夫だよ、僕は君を傷付けたりしない。磯部さん……揚羽お姉ちゃんも心配してるから、早く行って安心させてあげよう?」

 

 京也に対しては緊張した女の子も、揚羽の名前には弱かった。彼女の名前を聞いた女の子は、まだ緊張を残しながらもゆっくりと彼に手を伸ばして差し出された手を取ろうとした。

 

 あと少しで女の子の手が京也の手を掴むかと思われた、その時……何を思ったのか彼は自ら差し出していた手を引っ込めた。

 

「えっ?」

 

 何故彼が手を引っ込めたのか分からず困惑する女の子だったが、京也はそれどころではなかった。彼の視線は女の子からは見えない自身の背後に向けられ、その表情は明らかに険しくなっている。

 背後を睨みながら、京也は茂みから出ようとしている女の子にもう暫くここに隠れている様に告げた。

 

「……ゴメンね。君を磯部さん達の所に連れていきたいところだったけれど、もう少しだけここに隠れててくれるかな? 出来れば目と耳を塞いで」

「う、うん……」

 

 ただならぬ京也の雰囲気は、女の子にも察する事が出来たらしい。女の子は慄きながら頷くと、茂みの中でしゃがみ両手で耳を塞ぎ目を瞑った。女の子の様子に京也は束の間安心したような笑みを浮かべると、再び険しい顔になりながら立ち上がり後ろに振り返った。

 

 京也が振り返った先に居るのは、タイトスカートのスーツ姿の1人の女性だった。スカートの裾からはタイツに包まれた足が伸び、上半身は胸元が大きく開かれて谷間が見えている。眼鏡をかけた知的に見えるその女性は、ヴラドの腹心である上級ノスフェクトのカミラであった。

 

 対峙する京也とカミラ。睨み合う両者の内、先に口を開いたのはカミラの方であった。

 

「初めましてね。あなたがヴァーニィとか言う……」

「紅月 京也です。あなたは?」

「……カミラ」

 

 自己紹介する京也に問われ、カミラは短く自身の名を告げる。その応対には京也に対する明らかな蔑みが感じられた。

 

 隠されずぶつけられる敵意を前に、京也は油断なく身構えた。今この場にはアルフが居ない為、変身する事が出来ない。どうやってこの状況を乗り切るか…………

 

「……ん?」

 

 その時ふいにカミラが何かに気付いたようにスンスンと鼻を鳴らした。そして京也の事を凝視すると、音もなく近付き彼に顔を近付けると再び鼻を鳴らしながら彼の匂いを嗅ぎ始めた。何かを確認するようにあちこちの匂いを嗅がれ、変な気分になりながら何時でもカミラに攻撃できるように拳を握り締めていると、出し抜けにカミラの手が京也の首を掴んで近くの木に押し付け押さえつけた。

 

「あぐっ!? ぐ……!?」

「匂う……匂うわね。あの女の匂いだわ。ヴラド様を傷付けた、あの女の……!」

 

 あの女……とは恐らくジェーンの事だろう。ジェーンは一度ヴラドと戦い追い詰めた事があるらしい。京也はカミラとヴラドの関係を良く知らない為想像するしか出来なかったが、それでもカミラがどれだけヴラドの事を慕っているかは理解できた。

 

 何とか逃れようと藻掻く京也だったが、今の彼は所詮人間の少年でしかない。人間の女性の姿とは言え、上級ノスフェクトの力を振り払うのは生半可な事ではなく、首を掴む手の力は微塵も緩まなかった。それどころか首を絞める力が強くなり、呼吸が出来なくて声も出せず苦しそうに喘ぎ目を見開くしか出来ない。

 

「あ、ぐ……か……は……!?」

「変身したお前に興味が無いとは言わないけれど、このまま放っておけばヴラド様の障害になりかねない。お前はここで始末させてもらうわ」

 

 このまま彼の首の骨をへし折ろうと、更に手に力を込めるカミラ。首の骨がミシリと軋む音を聞きながら、京也は呼吸が出来ず意識が遠のくのを感じ抵抗も小さくなり両手をだらりと下げた。そのまま意識が闇に落ちそうになったその時、塀を飛び越えてやって来たアルフの血を纏った足による一撃が京也の首を掴んでいるカミラの腕を引き千切った。

 

「京也ァァァァァァッ!!」

「なっ!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」

 

 京也に意識を向け過ぎていた為、アルフに対する反応が遅れたカミラは回避が間に合わず引き千切られた腕から血を撒き散らしながらひっくり返る。だが腕を引き千切られても尚京也の首を掴む手の力は緩まない。支えを無くし倒れそうになる京也の体を支えたアルフは、彼の首を掴むカミラの腕を引き剥がし投げ捨てた。

 

「京也、京也しっかりしてッ!」

「うぐ、がはっ! げほっ! ごほごほっ! は、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 あと少し遅ければ完全に意識を失っていたというところでアルフに助けられ、京也は咳き込みながら必死に息を吸い脳に酸素を送る。意識もはっきりしてきた彼は、まだ少しぼやける視界の中にアルフの姿を見て安堵に笑みを浮かべながら助けてくれた事を心から感謝した。

 

「あ……アルフ。ありがとう、助かったよ」

「ん……」

 

 今回は本当に危なかった。場所がカタリナの居る教会だからと油断していたのもある。まさかノスフェクトがここを直接襲撃してくるとは思っても見なかったのだ。戦力的にもそうだし、まかり間違ってアルフの正体がバレた時に大変な事になるからとここに来る時はアルフを家に置いてきたのが裏目に出た。お陰で危うく殺されるところだった。

 

 京也がアルフと別行動をした事を後悔していると、のたうち回っていたカミラがアルフに投げ捨てられた腕を拾い上げながら立ち上がった。目は完全に血走っており、怒りに震え人間のそれよりはるかに鋭い牙を剥き出しにしている。

 

「この、小娘が……! よくも、よくもこの私にッ! ヴラド様の寵愛を受けている私の体を足蹴にして傷付けるなど……!」

 

 怨嗟の声を上げながら、カミラは引き千切られた腕を傷口に押し付けた。すると流れ出ていた血が結びつき合うように混ざり合い、引き千切られた傷口を縫合してあっという間に元通りに再生してしまった。その光景に京也とアルフが身構えていると、カミラが咆哮を上げながら体をタイガーノスフェクトに変異させた。

 

「ああああああああああああああッ!!」

 

 まるで突風に煽られたと錯覚するほどの威圧感を前に、思わず半歩後退る京也とアルフ。だが2人は互いの存在に気持ちを奮い立たせると後退った分前に足を踏み出し、タイガーノスフェクトの威圧感を押し退けると互いに見つめ合った。

 

「アルフ、行くよ!」

「うん!」

 

 アルフが京也の首筋に噛み付き、血を吸ってクロスブラッドを生成。それを受け取った京也はヴァンドライバーを腰に装着し、ハンドルを引いてバックルのドクロの口を開きクロスブラッドを装填して変身した。

 

〈ダイシリアス、キョウヤ!〉

「変身ッ!」

 

 京也はヴァーニィに変身し、タイガーノスフェクトの前で身構える。だがここで彼は自身の身に異変を感じた。血を纏う事が出来ないのだ。前までは確かにあった力が感じられなくなり、思わず戸惑いの声を上げる。

 

「な、何で……?」

「ッ!? そうか、まだ完全に馴染んで……」

 

 困惑するヴァーニィだったが、アルフは気付いた。実里の稀血から得た影響が薄れてしまったのだ。一度はヴァーニィが直接摂取し力とした力だが、長期間力を得るにはもっと彼女の血が必要だったのである。

 このままではブラッディの力が使えない。幹部を相手にするには、今の京也ではハッキリ言って力不足。となれば、追加で実里の血の力を持ってくるしかない。その結論に至ったアルフは、持参したグレイブレイカーを押し付ける様にヴァーニィに渡して実里の元へと向かった。

 

「京也、暫く頑張って! 私、実里の所行ってくる!」

「あ、ちょっと!」

「させるかッ!」

 

 2人が何をしようとしているかを粗方察したタイガーノスフェクトがアルフの行動を妨害しようとする。同じくアルフを引き留めようとしたヴァーニィだったが、アルフをやらせる訳にはいかないとタイガーノスフェクトの前に立ち塞がるとグレイブレイカーを大剣モードにして振り下ろした。

 

「このっ!」

「くっ!」

 

 身の丈ほどもある大剣を軽々と振り回され、タイガーノスフェクトは進行を止め横に跳んで回避する。標的を失った十字架型の大剣は地面に叩き付けられ、人外のパワーにより大きく地面を抉る程の威力を発揮した。

 あんなモノを喰らっては上級ノスフェクトの自分でもただでは済まない。そう感じたタイガーノスフェクトは早々にあの武器を取り上げる為、両手に血を纏い腕の形を変形させ爪の伸びた手甲を装着したような形状にして攻撃した。

 

「あぁぁっ!」

「フンッ!」

 

 飛び掛かりを利用したタイガーノスフェクトの爪による攻撃。ヴァーニィはそれを大剣の振り上げで迎え撃ち、爪と大剣がぶつかり合って衝撃で周囲の木々が揺れ動いた。

 

 

 

 

 孤児院の中では、揚羽と実里が外から聞こえる戦闘の音に子供達と共に身を寄せ合い震えていた。断続的に聞こえてくる音は普段利く事のないもので、特に恐怖に耐性の無い子供達は窓が震えるほどの音が聞こえてくる度に悲鳴を上げた。

 

 揚羽と実里はそんな子供達を優しく宥めた。

 

「大丈夫、大丈夫だから。ね?」

「カタリナさんが頑張ってくれてるから。もうすぐS.B.C.T.も来てくれるし」

 

 堂々と変身してしまった以上、カタリナが仮面ライダーである事を隠す事は出来ない。カタリナがシルヴァに変身する瞬間を目撃した子供は何人もいるのだ。建物の中に逃げ込む際、カタリナが仮面ライダーだった事に興奮する子供を引っ張って逃げ込むのは大変だった。

 

 しかしカタリナだけでは不安だったので、実里は安全を確保しつつS.B.C.T.に通報する事を忘れなかった。これでもう少しすればS.B.C.T.が誇るライダー部隊が到着する。

 

 揚羽に比べれば幾分か落ち着いた様子で実里が周囲の聞こえてくる音に耳を傾けて警戒していると、彼女達が居る部屋の扉を蹴破る様にアルフが飛び込んできた。

 

「! 見つけた!」

「わっ!? え? ア、アルフちゃん?」

「な、何でッ?」

 

 本当に突然やって来たアルフに、実里は納得を見せつつ驚いた。恐らくカタリナとは別の場所で京也も戦っているのだと気付いたからだ。先程からシルヴァが変身したところとは別の所からも戦闘の音が聞こえてくる。騎士団の増援が来たか京也が変身したかのどちらかだと予想していたが、これで京也が変身して戦っている事が彼女の中で確定した。

 

 1人そんな推理を実里がしていると、アルフは軽く室内を見渡して揚羽や子供達の存在に小さく舌打ちすると迷わず実里の手を取りその場から連れ出そうとした。

 

「実里、来て」

「え? ちょっと!」

「あ、みのりん!」

 

 何も言わず実里を連れ出そうとするアルフに、本人は困惑しつつもついていく。自分を必要としているという事は、戦っている京也に何かがあったのだ。最悪、また血が足りなくなったのかもしれない等と考えていると、アルフが掴んでいるのとは反対の手を揚羽が掴んで引っ張った。

 

「待って待って! みのりんを何処に連れていくの?」

「~~、邪魔!」

「あっ!?」

「ちょ、アルフちゃん!」

 

 このままでは京也が危ない。そう思ったアルフは邪魔をしてくる揚羽を乱暴に突き飛ばして実里から引き剥がすと、そのまま実里を連れて角を曲がると窓から飛び出しその場に伏せた。2人が窓の外で伏せた直後、2人を追いかけて角を曲がった揚羽は2人の姿を見失い困惑と焦りで2人が伏せている窓のそばを通り過ぎて行ってしまう。

 

「みのりん! アルフちゃん!?」

 

 揚羽の声が遠のくと、アルフは小さく息を吐き肩から力を抜く。漸く少しは話を聞けるくらいになったかと、実里は改めてアルフに今の状況を聞いた。

 

「それで、今紅月君は?」

「京也、実里の血の効果が無くなった。アイツ、強いから、実里の血がもっと必要」

「つ、つまり、またウチが紅月君に血を吸わせれば良いんだね……」

 

 正直、あれはかなり緊張する。首筋に牙を突き立てられる瞬間の痛みもそうだが、何よりも身構える要因となっているのは血を吸われる瞬間全身を包む快楽である。実里も年頃の女の子であり、性にはしっかり興味がある。何なら自分で自分を慰める様な事も何度もしてきた。

 だがジェーンやヴァーニィに血を吸われる時の快楽は、そんなものが子供騙しに思えるほどの衝撃として実里の中に刻まれた。あれ以降、不意に発作の様に体が疼く事があるが、自分ではその疼きを満たす事は出来なかった。

 

 正直、吸血される快楽に対する恐怖のような物はある。だがそれ以上に、自分が吸血される事を期待しているのも事実だった。それに自分の血で京也を助けられるというのであれば、力を貸す事は吝かではない。

 

 実里が神妙な顔で頷くと、アルフは彼女の手を取り健康的な肌の腕に顔を近付けた。注射される直前のような緊張感に実里が思わず唾を飲んだ次の瞬間、アルフの牙が実里の肌に食い込み血を啜り始める。その瞬間再びあの言葉で表しがたい快楽に襲われ、実里の口から抑えきれない喘ぎ声が零れ出た。

 

「ふぎぅっ! あ、あぁぁ……! ん、くぅぅっ!」

 

 まだ近くに揚羽が居るかもしれないという危惧がギリギリのところで理性を繋ぎ止め、派手に喘ぐという事はしなかった。空いてる方の手を口元に持っていき、手の甲を口に当てて声を抑えながら目に涙を浮かべて頬を紅潮させる姿は奇妙な艶やかさを感じさせた。

 

 アルフの実里への吸血は数秒ほどで終わった。正直、実里の稀血を前にアルフも危うく理性を失ってしまいそうになった。何しろアルフは純正のノスフェクトだ。稀血は何よりのご馳走だし、今の彼女も決して本調子とは言えない。弱っている体が極上のエネルギー源に触れ、体を癒す為に一瞬実里が絞り粕になるまで血を吸い取ろうとしてしまいそうになったほどである。

 だが彼女はギリギリのところでそれを自重し、必要最低限の血だけ吸い取って口を離した。牙を実里の腕から抜き、口の端に滴る血を指で掬い舐め取った。

 

「ふぅ……ふぅ……ん゛ッ!」

 

 クロスブラッドの生成は直ぐに行われた。アルフの口から飛び出したのは、鮮血の様な鮮やかな赤い十字架。白い血管の様な筋が刻まれた赤い十字架を取ると、ヴァーニィに渡すべく駆け出した。快楽の余韻に浸っていた実里も、慌ててその後に続いていく。

 

 誰も居なくなった孤児院の裏手。その場所を覗き見える廊下の影に、息を潜めてジッとしている者が居た。

 

 揚羽である。彼女は口を両手で抑え、目を見開き冷や汗を流しながら壁に沿ってズルズルとその場に腰を下ろした。彼女は見てしまったのだ、アルフが実里から血を吸いクロスブラッドを口から吐き出す瞬間を。

 

(嘘……何、あれ? 何あれッ!?)

 

 一度はこの場所を通り過ぎてしまったが、冷静に考えてこの辺りに隠れられる場所は無いのだからと引き返してみたら窓の外に2人の姿を見つけ声を掛けようとした。が、その瞬間アルフが差し出された実里の腕に噛み付き血を吸い始めたのを見て、何が起きているか分からず揚羽は咄嗟に廊下の影に身を隠してしまった。そしてそのままそこから様子を眺め、行われている悍ましい行為に恐怖すら感じて息を潜めた。

 

 衝撃的な光景だった。京也の彼女だと思っていた少女がもしかしたら怪物で、実里はその怪物に操られている様に見えた。それだけではない。もしかしたら、京也も操られているのではないかと揚羽は邪推してしまった。アルフのあの様子は間違いなく吸血鬼。吸血鬼は太陽の光が苦手だからあまり顔を見ることは無いのだと、妙な納得すらしてしまった。

 最早揚羽の中では、アルフは吸血鬼であり京也を操って隠れ蓑にして街に潜み、親友の実里を操って血を得ようとしている怪物となってしまっていた。

 

(どうしよう……どうしよう……!?)

 

 完全にパニックとなってしまった揚羽はその場から動けなかった。建物の外からは依然戦闘の音が聞こえ鼓膜を震わせるが、彼女の体はそれとは別の理由で震えていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アルフが離れてから暫く、ヴァーニィは1人タイガーノスフェクトと戦っていたがやはり戦況は芳しくなかった。

 

「ハァァァァッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 タイガーノスフェクトの飛び蹴りをグレイブレイカーで防ぐ。重い衝撃に踏ん張るが、大型トラックの衝撃に匹敵する一撃にヴァーニィは踏ん張ったまま後ろに押し出されていく。ヴァーニィの両足が地面を抉りながら後ろに下がらされ、止まった所で彼は思わずその場に膝をついてしまった。

 

「う、ぐ……はぁ、はぁ……」

 

 予想はしていたがやはり強い。流石幹部クラスと言ったところかと場違いにも相手を評価していると、タイガーノスフェクトは跳躍して接近しながら体を捻り腰を回転させた。するとそれに合わせて腰の後ろに生えている尻尾がしなり、鞭の様にうねりを上げながら襲い掛かって来た。

 

「ぐ、うわっ!?」

 

 咄嗟に防ごうとするが、太い鞭の様な尻尾による一撃は見た目以上の威力を持ち、防ぎきれず吹き飛ばされ壁に叩き付けられてしまった。叩き付けられた壁には蜘蛛の巣の様に罅が広がり、その中心にいたヴァーニィはグレイブレイカーを支えにしつつその場に膝をついた。

 

「ぐは……うぅ……」

「フン……所詮はこの程度」

 

 膝をつき立ち上がらないヴァーニィを嘲りながら、タイガーノスフェクトは爪を伸ばしながらゆっくりと近付いていく。そしてトドメを刺そうと爪を振り上げたその時、実里の血からクロスヴラッドを生成したアルフが戻ってきた。

 

「京也ッ!」

「「ッ!」」

 

 アルフの声にヴァーニィとタイガーノスフェクトが同時にそちらを見た。彼女の手にクロスブラッドが握られているのを見て、ヴァーニィはそれを受け取るべく駆け出してを伸ばした。

 

「アルフッ!」

「京也ッ!」

「させないッ!」

 

 当然タイガーノスフェクトはそれを妨害しようとヴァーニィに後ろから飛び掛かる。だがそうなる事は予想していたヴァーニィは、アルフに向けて跳びながら後ろを振り返りグレイブレイカーから外しておいた二挺の拳銃を構えて襲い掛かって来るタイガーノスフェクトに何発も銃弾をお見舞いした。

 

「うあっ!? く、うっ!?」

 

 タイガーノスフェクトはウルフノスフェクトほど肉体を強化していないのか、銃弾は縞模様の表皮を削っていく。そのダメージにタイガーノスフェクトが足を止めていると、その間にヴァーニィはアルフと合流しクロスブラッドを受け取った。

 

「アルフ、ありがとう!」

「ん、実里も」

「えへへ……!」

 

 アルフと共に行動している実里の腕を見てみれば、真新しい歯形が刻まれている。その中でもひときわ目立つ二つの孔の痕を見て、ヴァーニィはこれが実里の血から作られたものである事を理解した。

 

「須藤さんも、ありがとうね」

「うん。紅月君、頑張って」

 

 アルフと実里からの激励に、ヴァーニィは頷いて答えるとタイガーノスフェクトに向き直る。そしてベルトのハンドルを引きドクロの口を開かせ、その中に十字架を逆さまにして装填しハンドルを押しドクロの口を閉じる。

 

〈オーバートランスフュージョン!〉




と言う訳で第27話でした。

揚羽の胸中に異変が起こりました。揚羽と言う少女は、良くも悪くも男女の垣根を気にしないタイプの少女であり、話が通じさえすればどんな相手とも仲良くなれる・仲良くなろうとする少女でした。故に恋愛とかそう言う感情には疎かったのですが、吊り橋効果もあってそこに今回異変が生じた感じです。

一方でヴァーニィはブラッディ形態のお試し期間が終了してしまいました。まだ完全に体が変異しきった訳ではないので、時間経過で実里の稀血の効果が無くなってしまった感じです。
今後ブラッディ形態になる為には実里の血で作られたクロスブラッドが必要となります。その為に今回アルフが実里の血を隠れて吸った訳ですが、その瞬間をよりにもよって揚羽に見られてしまいました。さぁここから更に彼らの関係は混沌としていきますよ。

今年も一年ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします!皆さんよいお年を!

それでは。
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