仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、皆さん明けましておめでとうございます!黒井です。

今年も去年と変わらず毎週更新していきますので皆さんよろしくお願いします!


第28夜:仮面の聖職者達

〈オーバートランスフュージョン!〉

 

 アルフが実里の稀血から作り出したクロスブラッドをヴァーニィが取り込む事で、ヴァーニィが大幅に強化された。鎧には燃え盛る炎の様な模様が浮かび、両手足には溢れ出た血が纏わりつく。

 

 放たれる威圧感すらも大きくなり、そのプレッシャーにタイガーノスフェクトも思わず軽く仰け反った。

 

「ッ……ふぅん?」

 

 だがタイガーノスフェクトも他のノスフェクトを超え束ねる存在。その程度の事で呑まれるほど柔な神経をしていない。直ぐに気を取り直すと、逆に前に出て鋭い爪で斬りかかった。

 

「ハァァァッ!」

 

 迫るタイガーノスフェクトを強化されたヴァーニィ、ブラッディ・ヴァーニィはグレイブレイカーで迎え撃つ。振るわれた大剣と振り下ろされた爪がぶつかり合い激しい音を立てるが、どちらも一歩も引かず相手を押し返そうと踏ん張っていた。

 

「ぐ、ぐぅぅ……!」

「う、くぅ……!」

 

 一見すると力比べはどちらも互角の様に思えたが、この状況で不利なのはタイガーノスフェクトの方であった。タイガーノスフェクトは攻撃の為に空中に跳び、落下のエネルギーも交えて攻撃している。勢いが乗っている間はともかく、攻撃を受け止められて勢いを殺されてしまえば踏ん張る事が出来ない空中では簡単に押し返されてしまう。

 

 結果、ヴァーニィが気合と共に大剣を振るえばタイガーノスフェクトは殴り飛ばされた様に吹き飛ばされ後ろの木に激突させられた。

 

「だぁッ!」

「ぐっ、がはっ!?」

 

 背中から木に叩き付けられ、歪む視界を正そうと片手で額を押さえながら頭を振る。その隙に接近したヴァーニィが大剣を横なぎに振るうが、ギリギリのところで体勢を立て直したタイガーノスフェクトは咄嗟にその場に伏せることで斬撃を回避した。攻撃目標を失った大剣はそのまま木を切り裂き、それなりの太さがあった木はあっさりと切断され近くの木に寄りかかる様に倒れた。

 

 攻撃を回避され即座に次の攻撃に移ろうとするヴァーニィであったが、それよりもタイガーノスフェクトの攻撃の方が早かった。伏せた状態で体を回転させれば、タイガーノスフェクトの尻尾が鞭の様にしなりヴァーニィの脇腹を打ち据える。

 

「ぐふっ!?」

 

 尻尾に脇腹を殴られ吹き飛ばされたヴァーニィは、そのままの勢いで孤児院の壁に叩き付けられる。人間を遥かに超える頑丈さを持つヴァーニィが吹き飛べば、その体はちょっとした砲弾レベルの威力を持つ。そんな威力に普通の孤児院の壁が耐えきれるはずが無く、ヴァーニィの体は孤児院の壁を粉砕して建物の中へと消えていった。

 

 孤児院の中へ叩き込まれたヴァーニィに思わずアルフが声を上げ実里が一歩前に足を踏み出す。だが2人が壁の中に消えた彼に駆け寄るよりも前に、タイガーノスフェクトが2人の前に立ち塞がった。

 

「京也ッ!」

「紅月君ッ!」

「おっと、行かせないわよ」

 

 2人の前に立ち塞がったタイガーノスフェクトの姿に、実里が思わず息を飲んで後退りアルフが彼女を守る様に手を広げる。

 

「うっ!?」

「させないッ!」

「アルフちゃん……!」

 

 自分を守ろうとしてくれるアルフに実里は場違いにも感激してしまった。少し前までは自分に対して京也を取られないかと警戒していた彼女が、今は自分の事を守ろうとしてくれる。彼女の精神的な距離も近付いたことが分かり、こんな状況だというのに嬉しくなってしまった。

 

 とは言えタイガーノスフェクトは実里が感激する時間を何時までも与えてはくれなかった。何しろ実里は稀血持ち。ノスフェクトにとってご馳走であると同時に、タイガーノスフェクトの主君であるヴラドが力を取り戻すのに必要な存在なのである。絞り粕になるまで血を吸い取り、良質なクロスブラッドを生成しなければならない。

 いや、寧ろ実里はこのまま生かして連れて帰り、ヴラドに直接吸血させた方が良いかもしれない。自分以外の女にヴラドが牙を突き立てるのは正直気に入らないが、クロスブラッドを取り込むよりも直接稀血を飲んだ方がヴラドが得られる力もずっと多い。何よりヴラドも久し振りに稀血を直接飲みたいだろう。従僕であるならば、己の欲や拘りよりも主君の事を第一に考えなくては。

 

「そこを退きなさい、小娘。試作品の分際で邪魔するんじゃないの」

「実里は……やらせない!」

 

 獲物を追い詰める様にゆっくりと近付いて来るタイガーノスフェクトに対し、アルフは実里を後ろに庇いながら徐々に距離を取る。アルフも上級ノスフェクトではあるが、まだまだ力は完全に戻り切ってはいない。そんな状態で純粋な上級ノスフェクトであるタイガーノスフェクトに下手に挑んでも、赤子の手を捻る様に一蹴されてしまうのは目に見えていた。

 ここは実里を守る事を優先させつつ、ヴァーニィが復帰するのを待つのが賢明であった。

 

 その判断が功を奏した。出し抜けに明後日の方から無数の銃弾が飛んできて、銃弾の雨に晒されたタイガーノスフェクトは思わず顔を両手で守りながら後ろに下がった。

 

「くぅ……!?」

「何? 誰?」

 

 明らかにヴァーニィの攻撃ではない。ヴァーニィはまだ建物の中だし、そもそも銃弾が飛んできた方向が違う。一瞬S.B.C.T.が来たのかと思ったが、来るのが早過ぎるしサイレンの音も聞こえなかった。一体誰がタイガーノスフェクトを攻撃したのかと思ってそちらを見ると、そこに居たのはシルヴァを灰色にして鞭を持たせた仮面ライダーとペストマスクの様な仮面を身に着けた無数の兵士の姿であった。

 

 先頭に立つ灰色のシルヴァ……仮面ライダーアッシュが左手に持ったクロスショットをタイガーノスフェクトに向け引き金を引けば、それを合図にペストマスクの集団も刀身の根元に銃口がついた十字架を模したレイピアを手にタイガーノスフェクトに襲い掛かった。

 

「さぁ、行きなさい! 神に背く悪しき存在に鉄槌をッ!」

「「「ハッ!」」」

 

 ペストマスクの集団が銃撃を交えながらタイガーノスフェクトに攻撃を仕掛けると、群がられたタイガーノスフェクトは迫る兵隊たちを鬱陶しいと爪と尻尾で薙ぎ払っていく。

 

「えぇい、邪魔をッ!」

 

 ペストマスクの兵士の武器は十字架を模したレイピアに拳銃を組み合わせた物。十字架の左右の棒に当たる部分の片方が拳銃のグリップ、もう片方が照準を合わせるサイトの役割を果たしており、持ち帰るだけで斬撃と銃撃を使い分けられる。当然どちらも銀成分を含んでいる為、銀に弱いノスフェクトには抜群の効果を発揮した。

 

 しかし銀成分が相手だからと簡単に振りになる様では上級ノスフェクトの名折れ。タイガーノスフェクトは体を傷付けられながらも、反撃で次々とペストマスクの兵士達を叩きのめしていった。

 

「フンッ!」

「ごはっ!?」

「シャァッ!」

「ぎゃっ!?」

 

 鞭の様にしなる尻尾が複数人のペストマスクを吹き飛ばし、爪を振るえば鎧ごと兵士の1人を引き裂いた。数は多く動きも訓練されているが、タイガーノスフェクトを相手にするには地力が足りないらしい。ダメージは与えられているが、徐々に被害が広がっている。

 

 目まぐるしく変わる状況にアルフは実里を守る様に伏せさせつつ、どうにかヴァーニィと合流できないかと周囲を見渡す。まだヴァーニィは建物の中から出てこないが、今は出てこない事が正解だ。明らかに教会の戦力であるペストマスクの集団を前に、タイガーノスフェクトとの戦いで傷付いた彼が出ていけばアッシュと組んだペストマスクの集団に袋叩きにされてしまう。

 

 実里を伏せさせながら這うようにその場を離れようと動くアルフ。その耳に、微かにだがすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「ひっく……ぐすっ……」

「! 女の子? どこに……」

「女の子?……あぁっ!? そういえば紅月君、逸れた子を探しに行ってたんだ!?」

 

 と言う事は、この泣き声はその女の子のものと言う事になる。京也は逸れた子を見つけることは出来たが、その子を誘導する前にタイガーノスフェクトと遭遇してしまいその子を隠したまま戦闘に突入してしまった。アルフはそれを知らなかったのだ。

 

 このままだと子供が戦闘に巻き込まれる。ヴァーニィの事も心配だが、まずは女の子の身の安全が最優先と戦闘の音に隠れそうになる泣き声を頼りに探した。

 果たして女の子は直ぐに見つかった。木の根元の茂みにしゃがんで隠れていた女の子を見つけたアルフは、早くこの場から連れ出そうと両耳を塞いでいる手を掴んで引っ張った。

 

「見つけた。早く、来て。逃げるよ」

「やぁぁぁっ!?」

 

 突然手を引っ張られて、恐怖に震えていた女の子は驚き悲鳴を上げる。パニックを起こしている女の子にアルフがどうすればいいかと狼狽えていると、見兼ねた実里が女の子を優しく抱きしめ落ち着かせた。

 

「大丈夫、怖がらないで。大丈夫だよ」

「うぅ……みのり、おねえちゃん?」

「そだよ~。実里お姉ちゃんだよ。揚羽お姉ちゃんや皆も待ってるから、早くここから離れよっか?」

 

 揚羽程ではないが、実里も子供の扱いが上手かった。元から上手いというより、揚羽に付き合っている間に覚えてしまった感じだろうか。ともあれ、落ち着きを取り戻した女の子は実里に手を引かれてその場から離れるべく立ち上がろうとした。

 

 その時、何かに気付いたアルフが慌てて実里と女の子を押し倒した。

 

「危ないッ! ぐぅっ!?」

「え? うわっ!?」

「わぁぁぁっ!?」

 

 突然のアルフの行動に驚く実里だが、その直後アルフの片腕が血を噴き出し彼女の顔が苦痛に歪むのを見て何が起きたのかを理解した。流れ弾が飛んできたのだ。超人的反射神経でそれに気付いたアルフは2人がそれに当たらないように押し倒したが、代わりに自分が銃弾を受けてしまった。

 自身にとって猛毒となる、銀の銃弾を…………

 

「あぐぅぅぅぅぅぅっ!? ぐ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「アルフちゃんッ!? アルフちゃん、しっかり!?」

 

 アルフは撃たれた方の腕を押さえて脂汗をかきながら悲鳴を上げている。実里が見るとアルフの腕からは血が流れると共に煙が上がっている。アルフの腕が銀により焼かれているのだ。実里はそれを見て咄嗟にハンカチを取り出し撃たれた部分を強く押さえつけた。圧迫で止血する事も目的だが、最大の目的は立ち上る煙を隠す事にあった。銀の弾丸で撃たれた所が目無理を上げるなど、アルフがノスフェクトである事を大々的に知らせているようなものだ。今のこの状況で特に教会側の連中にそれを知られるのはマズイ。

 

「あ、あぁぁ……!? んぐっ!? ぐぅ、ぅぅぅぅぅぅぅぅッ!?」

「アルフちゃん! アルフちゃん!」

 

 激痛のあまり今にも意識を失ってしまいそうなアルフに実里が必死に声を掛けている。幸か不幸か、教会側の連中はタイガーノスフェクトとの戦闘に夢中で実里たちの事等全く気にした様子が無い。アルフがノスフェクトであるとバレる心配が無いのはありがたいのだが、また流れ弾が飛んできたりしたらと思うと生きた心地がしなかった。

 

 何とかアルフと女の子を引き摺ってこの場から逃れようと実里が悪戦苦闘していると、建物の中からやっとヴァーニィが這い出てきた。

 

「うぐ、くぅ……いつつ…………!?」

 

 瓦礫を押し退ける様にして壁に開いた穴から出てきたヴァーニィは、外でタイガーノスフェクトと初めて見るアッシュ率いるペストマスクの集団が戦っている光景に言葉を失う。だがそれ以上に彼を驚愕させたのは、実里に引き摺られている腕を押さえたアルフの姿だった。酷く苦しそうな彼女の姿に、仮面の下で目を見開いていた彼が真っ先に抱いたのは怒りであった。

 

「お、お前……!」

 

 ヴァーニィが怒りを抱いたのはタイガーノスフェクトに対してであった。彼の位置からではアルフの腕から立ち上る煙が見えなかった。故に彼は、彼女を傷付けたのはタイガーノスフェクトだと思ったのである。そうでなくともシルヴァと似た姿のアッシュ率いる集団が、見た目ただの美少女であるアルフをノスフェクトと見抜き攻撃する訳がないと考えていた。ノスフェクトとバレているのなら、実里が連れて行こうとするのを見過ごす訳がない。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「ッ!?」」

 

 怒りの咆哮と共にグレイブレイカーを手にヴァーニィがタイガーノスフェクトに飛び掛かると、飛び出した彼の姿に誰もが驚き一瞬動きを止めた。タイガーノスフェクトはこの状況で再び立ち上がってきたヴァーニィに、アッシュ達は手足に血を纏うヴァーニィの姿そのものに。

 

「チィッ! この忙しい時にあの小僧ッ!」

「あれは……あれもノスフェクトですか。ならば遠慮はいりませんッ!」

「おぉぉぉぉっ!」

 

 飛び掛かって来たヴァーニィの一撃をタイガーノスフェクトが爪で弾く尻尾を振るう。だが同じ攻撃を見ている彼はそれを体を捻りながら伏せることで回避し、狙った相手を失った尻尾はヴァーニィに襲い掛かろうとしていたペストマスクを吹き飛ばした。

 

「うぉあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 吹き飛ばされたペストマスクは別の者にぶつかりもんどりうって倒れる。ヴァーニィはそれに構わず体勢を立て直すと再びタイガーノスフェクトに攻撃を仕掛けようとする。だがそれよりも先に数人のペストマスクがヴァーニィとタイガーノスフェクトの両者に群がって来た。

 

「神の裁きをッ!」

「死ねぇッ!」

 

 次々と向かってくるペストマスクに、ヴァーニィもタイガーノスフェクトも互いに相手をしている余裕を失い、迎撃の方を優先させた。

 

「くそっ!?」

「あぁぁっ! 邪魔よ雑魚共ッ!」

 

 ペストマスクは数は多いが、それでも対処できない程ではなくヴァーニィとタイガーノスフェクトが全力を出せば容易く薙ぎ払う事が出来た。とは言えヴァーニィからすれば相手は同じ人間であり敵対する意志はあまり無い為、出来れば戦いたくないという思いから動きが鈍る。その彼の心の隙を突くようにペストマスクの集団は彼に群がり、銀の刃を彼の体に突き立てようとした。

 

「くっ!」

 

 これをまともに受ける訳にはいかないとヴァーニィが腕を振るえば、その軌跡に結晶化した血が残りペストマスクの剣は阻まれる。攻撃を阻まれ動きを止めた所で、ヴァーニィは空中の結晶を手に取りそれを使ってペストマスクを攻撃。喰らったペストマスク達は砕けた結晶と共に吹き飛ばされていった。

 

 ヴァーニィに吹き飛ばされたペストマスクが向かった先にはアッシュが居た。彼女はタイガーノスフェクトとヴァーニィの戦いを暫し眺めていたが、部下のペストマスクが自分に向かって飛んでくるのを見ると鞭を振るいその部下を叩き落した。

 

「フン……」

「あがっ!?」

 

 ヴァーニィに吹き飛ばされた挙句アッシュに叩き落されて、激しく地面に叩き付けられたペストマスクはそのまま動かなくなった。アッシュはそんな部下には目もくれず、それどころかゴミを片付ける様に足蹴にしてその場から退かし武器である鞭を構えてヴァーニィの方へと向かっていった。

 

「いいでしょう。私が直々にお相手して差し上げます。あなた方を始末すれば、神もきっとお喜びになる事でしょう!」

 

 アッシュはクロスショットを発砲しながらヴァーニィとタイガーノスフェクトに戦いを挑んだ。それまで後ろでどっしり構えていたアッシュが戦いに参加した事で、場は更に混迷を極める事となる。

 

「ハァッ!」

 

 アッシュの振るう鞭がヴァーニィに迫る。タイガーノスフェクトの相手に夢中になっている彼は、突然迫ってきた鞭に気付くと咄嗟に回し蹴りを放った。一瞬鞭を迎え撃つ為に放ったものかと思われた回し蹴りは、出すタイミングが早過ぎたのか完全に目標を外し何もない空間を薙ぐだけに留まった。明らかに早過ぎる回し蹴りにアッシュはヴァーニィの事を嘲笑いそうになったが、直後彼の蹴りの軌跡に血の結晶が浮かび鞭がそれに弾かれてヴァーニィまで届かなかった事に舌打ちする。

 

「チィ、器用な奴ですね……!」

 

 離れた所からでは有効打を与え辛いと理解したアッシュは、その後も鞭を振るいながらヴァーニィ達に迫っていく。ヴァーニィとタイガーノスフェクトは互いに攻防を繰り返しながら、同時に横合いから放たれる鞭の一撃を回避する必要に駆られ次第に戦っている場合ではなくなっていった。

 

「く、そ……! 僕は、あなたには……!」

「えぇい、鬱陶しいッ!」

「さぁ、その穢れた命を神に代わって浄化して差し上げますッ!」

 

 遂にヴァーニィとタイガーノスフェクト、アッシュによる三つ巴の戦いが始まってしまった。ヴァーニィは基本的にタイガーノスフェクトを狙いつつ自分にも攻撃してきたアッシュを捌き、タイガーノスフェクトとアッシュはそれぞれ目に映る相手を無差別に攻撃する。この状況で不利となるのはどう考えてもヴァーニィであった。敵とする相手を明確にしているヴァーニィに対し、タイガーノスフェクトとアッシュは敵を選ばない。戦い方を選ぶヴァーニィは特にアッシュに対しては積極的な攻撃に出ないので、次第にアッシュからの攻撃を受け振りに追い込まれていった。

 

「あぐっ!? ぐ、くぅ……!」

「ほらほら、もっと叫んでみせなさいッ!」

「がはっ!?」

「そこだっ!」

「うぐっ!?」

 

 アッシュの攻撃を受けて隙を見せれば、それを待ってましたと言わんばかりにタイガーノスフェクトが攻め手をヴァーニィに向ける。気付けばヴァーニィは2対1と言う状況に追い込まれていき、アッシュとタイガーノスフェクトからの集中攻撃を受けて傷とダメージが増えていった。

 決して押されてばかりではなく、時には血の結晶を作り出して相手の攻撃を防ぎそのまま結晶を使って反撃したりもするのだが、体力の低下は如何ともし難く窮地に立たされることとなる。

 

 絶体絶命のピンチ。その時、上空から戦っている3人の周囲にバラ撒くように銃弾が降り注いだ。突然の頭上からの攻撃、しかも明らかに自分達を避けての威嚇目的の攻撃に、アッシュとタイガーノスフェクトもヴァーニィへの攻撃を止め頭上を見やった。

 

「んなっ!?」

「誰ですッ!」

 

 アッシュ達が視線を上に向けると、そこには全身のスラスターを全開にして対空しながら射撃モードのバスターショットを構えているグラスの姿があった。ヴァーニィもグラスは初めて見るが、続きグラスから放たれた声にそれが誰なのかに気付いた。

 

「そこまでだ! お前ら、全員戦闘を止めろッ!」

「あ、あれは……もしかして……」

 

 ノスフェクトとの戦闘で何度か遭遇したS.B.C.T.の部隊。その中で特に自分に接触を図ってくれた隊員と同じ声の新たな仮面ライダーに、ヴァーニィは安堵し気を抜いた瞬間足から力が抜けてその場に膝をついてしまう。

 

「う、く……」

「ヴァーニィッ!」

 

 崩れ落ちる様に膝をついたヴァーニィの姿に、グラスは咄嗟に地上に降り立って膝をついた彼に手を貸して立ち上がらせる。その間も手に持ったバスターショットの銃口は油断なくアッシュとタイガーノスフェクトに向けていた。

 遠くからはS.B.C.T.の車両のサイレンの音が近付いて来る。どうやら場所が場所だからか、機動力に優れるグラスが先行してきたらしい。

 

「大丈夫か?」

「うぅ……は、はい……」

 

 互いに変身した姿での接触しかなかったが、それでも互いに人々を守る為に戦っているという目的は一致しているからか相手に対して敵意はない。寧ろ奇妙な信頼感に近い感覚を互いに感じていた。

 

 傷付いたヴァーニィを自身の後ろに隠す様にしながら、グラスは眼前のアッシュとタイガーノスフェクトに鋭い視線を向けた。

 

「さて……お前はノスフェクトだとして……気になるのはお前らだな」

 

 グラスが注目したのはアッシュと周囲のペストマスクであった。特にアッシュは以前δチームが揃って辛酸を舐めさせられた相手と色と武器以外同じ姿と言う事もあり、強い警戒心を抱いていた。

 

「お前達何者だ? これだけの装備、個人じゃなく組織だな?」

 

 当然グラスの視界は後方の指揮車にも送られている。彼がこうして会話している間も後方ではリリィが特にペストマスクの集団に対する解析を行っていた。

 

『δ5、気を付けてッ! コンピューターはそいつらを仮面ライダー判定してるわッ!』

「って事はコイツ等、全員揃って量産型かよ……!」

 

 S.B.C.T.のコンピューターの解析は正しい。このペストマスクの名は『仮面ライダーイジター』、修道騎士団の主武装となるライダーシステムである。カタリナなど特記戦力が変身するシルヴァ等と違い、こちらは一般の騎士に与えられる装備ではあるが、特筆すべきはスコープと違い装着型ではなく変身型と言う点にあった。システムの肝となるベルトと変身アイテムである十字架を模したナイフ『イジターエッジ』から成り、変身の際にはベルトを巻いてバックル部分にエクスエッジを刺す事で変身できる。

 シルヴァやバルト、アッシュの様に液体金属による武装の装甲化は出来ないものの、武器である銃剣一体型の『イジターレイピア』はシルヴァのクロスショットと剣を合体させたような性能を持つ。当然剣も銃弾も銀成分を持つので、特にノスフェクトに対しては高い威力を発揮していた。

 

 そのイジター達が、ヴァーニィとグラスの2人を取り囲んでいる。自分を取り囲むイジターとアッシュにグラスは傷付いたヴァーニィを守る様に絶えず周囲を警戒していた。

 

 この状況に、いち早く動いたのはタイガーノスフェクトであった。彼女は修道騎士団に加えてS.B.C.T.まで来ると知ると、これ以上この場に留まっていてはただでは済まないと撤退を選択した。実里の血を得る事が出来なかった事は残念だが、彼女の血を手に入れる機会は幾らでもある。

 

「チッ、ここまでね……!」

「! 待ちなさい化け物ッ!」

 

 タイガーノスフェクトが逃げようとしている事に気付いたアッシュがそうはさせじとクロスショットを抜き引き金を引く。だが僅かにタイミングが悪く銃弾はタイガーノスフェクトの残像を貫くだけに留めた。

 射撃を外した事にアッシュが銃口を向けるが、次に引き金が引かれるよりも先にタイガーノスフェクトが濃くなった影の中に飛び込む。影に飛び込んだタイガーノスフェクトは溶けるように姿を消し、後を追ったアッシュは完全にタイガーノスフェクトの姿を見失い口惜しそうに地団太を踏んだ。

 

「クソッ!? 逃げしましたか……ならば!」

 

 タイガーノスフェクトには逃げられた。だがここにはまだヴァーニィが居る。グラスも居るがそんなのは関係ない。異教徒は全て敵だ。自らの信じる神を敬わない不敬な者に対しては、暴力を振るう事が許される。それが彼女の信念であった。

 

「化け物と異教徒は許しておけませんッ!」

「チッ! δ0、増援はまだかッ!」

『あと5分以上掛るわッ!』

 

 最低5分以上、傷付いたヴァーニィを守りながらコイツ等と戦わねばならない事にグラスがバスターショットを握る手に力を込める。

 

 このままだとグラスと修道騎士団による戦闘の火蓋が切られる。その様子を建物の上からジェーンが眺めていた。

 

「ん~、これはマズイわね~。ちょ~っとお手伝い~」

 

 そう言って彼女が片手を上げると、手のひらから滲み出た血がどんどん球状に膨らんでいく。血にはエネルギーが集まっているのか僅かに光を放っている。

 血の球はどんどん大きくなり、ジェーンの体がすっぽり入るほどにまでなった。これをあの場に落とせば派手に爆発が起こる。その混乱に乗じてヴァーニィを回収すれば…………

 

「ん~……」

 

 そこでふと、ジェーンの視線が彼らが戦っている場所の直ぐ傍にある建物……今自分が立っている孤児院を見た。今この中には多数の子供達が避難している。これから起こす爆発はヴァーニィには大きな影響は無いように調整しているが、それ以外に対しての配慮はゼロに近かった。最悪建物が半壊する可能性もある。

 その可能性に考えが至ると、ジェーンは少し考えて溜め息を吐くとエネルギーを溜めていた血の球を小さくさせた。

 

「あ~ぁ、面倒ね~。でもま~、仕方ないか~」

 

 そう呟くとジェーンは小型のエネルギー球を無数に眼下に投擲。狙うはイジター達の足元で、着弾したエネルギーは爆発しイジターを次々と吹き飛ばしていった。

 

「うわっ!?」

「ぎゃぁっ!?」

「な、何、がはぁっ!?」

 

「なっ!? これは一体!?」

「上かッ!」

 

 突然の奇襲に浮足立つ修道騎士団。一方グラスは攻撃が飛んできたのが頭上からである事に気付き視線をそちらに向けるが、彼が上を見た瞬間体を液状化させたジェーンが飛び降り傷付いたヴァーニィを包む様に回収してその場から姿を消した。ヴァーニィが連れていかれた事に、グラスは慌ててジェーンを掴んで引き留めようとするが液状化した体は掴む事が出来ずそのままヴァーニィ共々逃げられてしまう。

 

「クソ……せめてコイツ等を……」

 

 もうヴァーニィを追う事は出来ない。それを察したグラスは、せめてこの不明勢力を捕縛しようとアッシュの方を見るが、その瞬間彼の体を銀の鎖が拘束し動けなくした。

 

「な、に……!?」

「アッシュ、騎士達も。ここは退きます。これ以上の戦闘は無用です」

「シルヴァ?」

 

 グラスを拘束したのはアッシュではなくシルヴァであった。どうやらウルフノスフェクトは退いたらしく、手が空いたシルヴァはこちらの増援にやって来たのだ。そして彼女は何者かの攻撃で傷付き倒れたイジター達と、今にも戦おうとしているグラスとアッシュを見てこれ以上の戦闘をさせまいとグラスを拘束した。

 

 拘束されたグラスは鎖を引き千切ろうと身を捩るが、雁字搦めになった鎖はなかなか千切れない。彼が動けずにいるのを好機と見てアッシュが鞭を振るおうとするが、その手をバルトが掴んで止めた。

 

「止めなさいっての。S.B.C.T.は厳密には敵じゃない。ヴァーニィを守ってた状況ならともかく、もう連中にちょっかい掛ける理由は無いわ」

「~~~~ッ、くッ!」

 

 シルヴァに続きバルトまで止めに来たと分かると、アッシュも引かない訳にはいかなくなったのか忌々しそうにバルトの手を振り払いグラスに背を向けてその場から姿を消した。それを皮切りにイジター達も互いに支え合いながらその場から離れていき、味方が撤退する間シルヴァは拘束したグラスから目を離さずジッと見つめていた。

 

 そして最後にバルトが離れると、シルヴァはグラスの拘束を解いた。鎖が外れて自由に動けるようになった彼は、そのまま銃口を彼女へと向け何者であるかを問うた。

 

「言え、お前らは一体何なんだッ!」

 

 その問いに対し、シルヴァは直ぐに答える事をしなかった。ただ、武器を持たぬまま彼に静かに頭を下げるだけである。

 

「今は、まだ……ですが、いずれご挨拶出来るとは思いますので、それまではどうか……申し訳ありません」

「え、おぅ……?」

 

 以前痛い目に遭わされたシルヴァの、しおらしい姿にグラスも思わず勢いを削がれ気のない返事しか返す事が出来なかった。先程も拘束した自分に対し一切の手出しをしなかったし、一体彼女達は何者なのかと言う疑問が彼の中で大きくなっていった。

 

 その間にδチームが到着したのか、サイレンの音が止まり騒がしい足音が近付いてきた。シルヴァもそれに気付き、改めてグラスに頭を下げると自身もその場から姿を消した。

 

 離れていくシルヴァの後ろ姿。今なら確実に相手を無力化できるだろうが、グラスにはそれは出来ずシルヴァが居なくなるのを黙って見ているしか出来なかったのだった。




と言う訳で第28話でした。

遂にS.B.C.T.とは別の組織が量産型ライダーを実戦投入しました。その名も仮面ライダーイジター。モチーフは所謂異端狩りで、仮面もモロにペストマスクになっています。
今後は怪人と仮面ライダー、量産型ライダーと怪人だけでなく、量産型ライダー同士の戦闘となる場合もあります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

今年もよろしくお願いします。それでは。
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