仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第29夜:予想外の来客

 時は遡り、シルヴァとウルフノスフェクトは激戦を繰り広げていた。

 

「たぁぁぁぁっ!」

「うらぁっ!」

 

 融合させてロングソードとなった銀の剣を振り下ろしてきたシルヴァに対し、ウルフノスフェクトは蹴りを放ち斬撃の軌道を逸らした。ウルフノスフェクトの足には動きを阻害しない程度に頑丈な鎧の様な物が装着されており、これのお陰でシルヴァの刃を蹴っても自身がダメージを受けることはなかった。

 斬撃の軌道を逸らされ空振りに終わったシルヴァは、仮面の下で顔を顰めながら剣を引きウルフノスフェクトから距離を取った。以前の戦いではあんなものは無かった筈だ。あれから更に強化されたのかと思うと、シルヴァの胸が苦しくなる。あれ程強化される為に、一体どれほどの人の命が失われたのか。

 

(これ以上は、やらせないッ!)

 

 シルヴァは剣を握る手に力を込めると、腰を落として足に力を込め一気に駆け出した。駆け出す際の衝撃で地面が軽く削れるほどの速度で駆けるシルヴァは銀の風となってウルフノスフェクトに迫り、視界で捉えるのも困難な速度で剣を振るった。

 

「ハッ!」

 

 速度を乗せたシルヴァの鋭い一閃。並のノスフェクトであればこれで体を両断され倒されるか、致命傷は免れても大ダメージは受けるだろう事確実な一撃であった。

 

 しかし、ウルフノスフェクトは並のノスフェクトではなく上級ノスフェクト。この程度で倒されるほど簡単な相手ではなかった。何を隠そう、ウルフノスフェクトも速度には自信があったのだ。

 視界から消えるほどの速度でシルヴァが動いた次の瞬間にはウルフノスフェクトも高速で動き、彼女の一撃を間一髪のところで回避。渾身の一撃を回避され隙を晒した彼女の無防備な脇腹に向け、鋭い爪を振るい切り裂いて大ダメージを与えようとした。上手く行けばこれで彼女を戦闘不能に出来、そのまま持ち帰り蹂躙する事が出来る。勿論本来の目的である稀血持ちの実里から血を吸うか連れ去る事も忘れた訳ではないが、そちらにはカミラが向かう事になっている。何しろここは修道騎士団の拠点、長々と時間を掛けていてはシルヴァ以外の修道騎士が出てきてしまう。

 

 そのウルフノスフェクトの懸念は正しかった。シルヴァの隙を突こうとしていたウルフノスフェクトだったが、不意に首筋に冷たい感覚を感じて本能的にその場から飛び退いた。直後、タッチの差で先程までウルフノスフェクトが居た場所に銀の大槌が振り下ろされ、地面が陥没する程の力で叩きつけられた。

 

「むぅんッ!」

「チッ!」

 

 あのまま気付かずシルヴァへの攻撃を続けていたら、大槌に叩き潰されていただろう。そう感じさせるほどの一撃に内心で冷や汗を流しつつ、新たに参戦してきたバルトに牙を剥き威嚇する。

 

「またテメェか……シルヴァの腰巾着ッ!」

「その言い方はないんじゃない? それに駄犬に比べれば可愛いもんよ」

「あぁっ!?」

 

 地面を陥没させるだけに留まった大槌を肩に担ぎながら、バルトはウルフノスフェクトに皮肉を返した。流石に駄犬呼ばわりはプライドが刺激されるのか、怒りに牙を剥き出しにし血走った目でバルトの事を睨んだ。

 出来る事ならこのまま感情のままに暴れて、シルヴァの前にバルトを血祭りにあげ然る後にシルヴァを蹂躙してやりたい。だがそれが簡単にできる事ではない事はウルフノスフェクト自身が理解していた。シルヴァもバルトも強い。人の身でありながらよくここまで練り上げたと感心するほどである。尤もウルフノスフェクトは武人ではない為、2人に対して抱く感情は感嘆ではなく苛立ちであったが。

 

 何より面倒なのはシルヴァ以外の修道騎士が出てきた事だ。耳を澄ませば彼の優れた聴覚はこことは別の所でも戦闘が起こっている音を捉えていた。それだけではない。遠くから特徴的なサイレンの音が近付いて来る。S.B.C.T.もこちらに近付いてきているのだ。ただでさえヴァーニィが居るのに、修道騎士とS.B.C.T.まで来られてはもう実里がどうとか考えている場合ではない。

 

 事ここに至り、ウルフノスフェクトはこの場を退き仕切り直す事を考えた。カミラを置き去りにする事になってしまうが、彼女は自分と違い他人の目を眩ませるのが上手い。問題なく逃げ切れるだろうと考え、自分1人でこの場を逃れることを優先させた。彼女達に背を向けて逃げるのは癪だが、死んでは元も子もない。

 

「……チッ、仕方ねえ。今日はここまでだ」

「ッ! 待ちなさいッ!」

〈One judge! Shooting cross!〉

 

 逃げる姿勢を見せたウルフノスフェクトにそうはさせじとシルヴァが咄嗟にシューティングクロスを発動させ強化弾をお見舞いする。だが彼女がクロスショットを抜き引き金を引く前にウルフノスフェクトは高速でその場から姿を消し、シルヴァの放った銃弾は何もない空間を通り過ぎるだけに留めてしまう。

 まんまとウルフノスフェクトに逃げられてしまった事に仮面の下で歯噛みするシルヴァだったが、バルトはそんな彼女の肩に手を置き気持ちを落ち着かせた。

 

「どうどう、落ち着きなさいって。今は逃げるアイツよりも対処すべき事があるでしょ?」

「……はい」

 

 バルトに諭され、何とか心を落ち着けたシルヴァはまだ戦闘の音が聞こえてくる方へと駆けていく。孤児院の裏手に向けて駆けていると、前方から3人の人影が近付いてくるのが見えた。いずれもシルヴァ……カタリナには見覚えのある人物であった。

 

「実里さんッ!?」

「え? あっ! カ、カタリナさん……!」

 

 近付いて来るカタリナともう1人の仮面ライダーに、実里は喜ぶべきか焦るべきかで悩んだ。カタリナの為人は知っているが、彼女と隣のバルトも含めてノスフェクトやヴァーニィを目の敵にしている教会の関係者だ。そんな2人に、アルフを近付けるのは面倒を起こす危険性がある。もし万が一アルフがノスフェクトである事がこの2人にバレてしまったら…………

 

「この子は……怪我をッ!?」

「う、うん……何か、教会から出てきた連中の流れ弾が当たったみたいで……」

「アイツら……!」

 

 シルヴァは実里にハンカチで傷口を押さえられながら弱った姿のアルフに思わず手を伸ばすが、実里はそれを彼女を支え直す事で誤魔化す様に防ぐ。幸いな事に今のアルフの傷口からは銀に焼かれて立ち上る煙が上がっていない。このままシルヴァ達をやり過ごそうと、実里は2人の興味をこの傷の原因となったイジター達の方に誘導しようとする。これは上手く嵌ったようで、バルトは怒りの矛先を教会のライダー達であるイジターの方へと向けた。

 

「すみません、実里さん。この事彼女の事は任せても構いませんか?」

「はい、大丈夫です」

「ありがとうございます。バルト、行きましょう」

「えぇ」

 

 2人の仮面ライダーが孤児院の裏手へと向かっていく。離れていく後ろ姿に束の間ホッと胸を撫で下ろしたが、直後あそこにはまだヴァーニィが居る事に思い至り顔を青褪めさせた。

 

「ヤッバイ、どうしようッ!? あ、紅月君ッ!」

 

 

 

 

 

「大丈夫よ~。京也君ならここに居るわ~」

 

 

 

 

 

 慌てて踵を返そうとした実里に出し抜けにジェーンの声が響いた。何だ何処だと実里が周囲を見渡せば、物陰から溢れ出る様に液状化したジェーンが飛び出し実里の傍で元の姿に戻った。彼女が元の姿に戻ると、液状化した彼女の体に取り込まれるように運ばれていたヴァーニィも解放されその場に腰を落とす。

 

「わっ!? ジェ、ジェーンさんッ!」

「は~い、ジェーンさんよ~。アルフちゃんの事~、ありがとうね~」

 

 そう言ってにこやかに笑うと、ジェーンは突然しゃがみ一緒に連れてきていた女の子と目を合わせる。そして催眠光で意識を朦朧とさせると1人歩かせて孤児院の中へと向かわせた。あのまま女の子がいる状態で話をするのはあまり良くない。子供だし話の内容を理解できるとは思わないが、念の為だ。

 

「これでよ~し」

「いつつ……あっ! アルフッ!?」

「う、うぅ……」

 

 女の子を孤児院に向かわせて一仕事終えたと額の汗を拭う仕草をするジェーンに対し、ヴァーニィは未だ傷口を押さえて苦しそうに呻くアルフを心配して変身を解き近付いた。彼が優しく触れると、その温もりにアルフは脂汗をかきながら弱々しい笑みを浮かべる。

 

「ぁ……京也……」

「アルフ、アルフ大丈夫?」

「落ち着いて~」

 

 狼狽える京也を押し退け、ジェーンは実里の手を離させハンカチの下の傷口を見た。痛々しい銃創の周囲は焼け爛れており、まだ血が流れ出ている。その様子に実里は顔を青褪めさせ気分が悪くなったのか口元を押さえてそっぽを向く。

 

「ぅ……」

「ジェーンさん、どうですか?」

 

 繁々とアルフの傷口を見ているジェーンに京也が声を掛けると、彼女は軽く息を吐き方を小さく竦めて頷いた。

 

「大丈夫よ~、この程度ならどうって事無いわ~」

 

 そう言うとジェーンは徐に隠されていた牙を剥き出しにするとアルフの傷口に噛み付いた。ガブリとジェーンの牙がアルフの肌に突き刺さり、新たに血が流れだしその痛みにアルフが悲鳴を上げる。

 

「あぁっ!?」

「ジェーンさん、何して……!?」

「待って須藤さん」

 

 突然のジェーンの行動が理解できず慌てる実里だったが、京也は彼女が何をしようとしているのかに気付き実里を宥めた。2人が見ている前でジェーンはアルフから血を吸い取り、吸血されてアルフは痛みを忘れて快楽に頬を赤く染めて喘ぎ始める。

 

「あ、あぁ……! ん、く……! うぁぁ、ぁ……!」

「ん……ん……んむ、ぷっ!」

 

 喘ぐアルフを優しく撫でながら、ジェーンは暫く吸血を続けた。そして傷口から牙を抜き血を吸うのを止めると、明後日の方を向き今度は吸い取った血を吐き捨てた。吐き捨てた血は地面に広がり、ゆっくりと広がりながら薄っすらと煙を上げていた。

 

「ふぅ、これで良し」

「あれって……」

「ジェーンさんはアルフの中の銀の影響を受けた血を吸い取ってくれたんだ」

 

 今までのノスフェクトや、時折現れるファッジとの戦いの中で、京也も毒を喰らってしまう事はあった。するとその度にジェーンは彼から血と一緒に注入された毒を吸い取ってくれたのだ。

 その事を京也から教えられ実里は素直に感心する。

 

「ほへぇ~、そんな器用な事も出来るんですね?」

「こんな事出来るの他に居ないと思うけどね~。それより~、皆は早く中に入った方が良いわ~。怪しまれない内にね~」

 

 こんな状況で避難せずに何時までも外に居たら確かに怪しまれる。さっさと中に入って避難した子供達と合流した方が、後でカタリナ達に変な目を向けられずに済む。

 その際問題となるのはやはりアルフの扱いだろう。アルフが撃たれた事をカタリナ達は知ってしまっている。このままだと戻ってきたカタリナによりアルフが手当てされる事になり、そこで驚異的な回復力を見られでもしたらノスフェクトである事を疑われてしまう。

 

「実里ちゃ~ん、悪いけど口裏合わせておいてくれな~い?」

「へ? えっと、どういう……」

 

 端的に言えば、アルフは京也が病院に連れて行ったという事にするのだ。確かにノスフェクトの相手をカタリナ達がしてくれる状況になれば、怪我人を病院に連れていくことに違和感は少ない。ジェーンの考えを理解した実里は頷き答えた。

 

「分かりました。後の事はウチが何とかしますんで」

「ありがと~。それじゃ京也く~ん、アルフちゃ~ん、帰るわよ~」

「はい。須藤さん、ありがとう」

「それじゃ……」

 

 ジェーンに連れられて京也とアルフが教会の敷地から立ち去っていく。実里はそれを見送ると孤児院の中へと入り、子供達が避難している部屋へと向かっていった。途中ジェーンにより一足先に孤児院へと向かわされた女の子が夢遊病者の様にゆらゆらと歩いているのを見て、このままだと不審に思われると抱き上げて連れていく。

 

 その最中に揚羽と合流した。

 

「みのりんッ!?」

「揚羽、どうしたの?」

 

 何やらやたらと焦った様子の揚羽に、実里は目をパチクリとさせ問い掛ける。これ以上ノスフェクトの被害を受けることはないだろうという事が分かっているからこその落ち着きだが、そんな事情を知らない揚羽からすれば今の実里の落ち着きぶりは違和感しか感じられず、これもアルフの影響かと不安を感じずにはいられなかった。

 

「みのりん、大丈夫? 何処かおかしい所とかない? 気分は? って言うかこの子どうしたの?」

 

 矢継ぎ早に問い掛けてくるので、実里が答えられる隙が無い。あまりにも必死に詰め寄って来るので、逆に実里の方が揚羽の事を心配して彼女の事を宥めた。

 

「ちょちょ、揚羽落ち着いてッ! そんなに一遍に聞かれても答えられないよッ!」

「ぁ、ぁ……ごめん」

 

 実里に宥められ、揚羽も冷静さを欠いていた事を自覚し半歩ほど離れる。落ち着いた揚羽に実里は小さく息を吐くと彼女からの質問に一つ一つ答えていった。

 

「ふぅ……それで、えっと? 取り合えずウチは大丈夫、怪我もないし何ともないわ。何処もおかしくないし、気分も普通。まぁ、ノ……怪物がまた来たらどうしようって不安で少しドキドキしてるけど」

 

 最後のは急遽付け加えた。突然ノスフェクトの様な怪物に襲われて、平然とし過ぎていたら不審に思われる。

 

「まぁ、あの怪物ならカタリナさんが何とかしてくれるとは信じてるけどね。何しろ仮面ライダーだし」

「そ、そうだね……この子、見つけられたんだ」

「うん。紅月君が見つけてくれたの」

「その、紅月君は?」

 

 揚羽が過剰に緊張した様子で京也の現在地を訊ねる。何をそんなに気張っているのかと小首を傾げながら、実里は予想されていた問い掛けに内心で来た……と気合を入れ予め用意していた答えを口にした。

 

「実は、カタリナさんの仲間っぽい人達の撃った銃がアルフちゃんの腕に当たっちゃって、紅月君はアルフちゃんを病院に連れていくって行っちゃった」

 

 前半は少なくとも嘘ではない。アルフはイジターの流れ弾に当たってしまい、ジェーンの治療もあって大事には至っていない。ただそのままだと回復力などでアルフがノスフェクトである事がバレてしまうので、向かった先は病院ではなく彼女達の自宅であるが。

 

 実里から話を聞いて、揚羽が見せた反応は正直微妙なものであった。アルフが実里の腕に噛み付き吸血する瞬間を見てしまった揚羽は、撃たれた程度でアルフがどうにかなるとは思えなかったのだ。しかもその為に京也がアルフと一緒に何処かへ行ってしまった。アルフに対して疑心暗鬼になっている揚羽からすれば、それは誰にも邪魔されず京也を吸血鬼が連れて行ってしまったようにしか思えなかった。

 

「あ、そう……」

「揚羽?」

 

 あまりにも揚羽の反応が微妙だったので、実里は本格的に違和感を抱いた。普段の揚羽であれば、自分の知人であろうと誰であろうと撃たれて怪我をしたと聞かされればもっと慌てる筈である。それがこんな小さな反応しか返さないなど、何かを隠していると公言しているようなものであった。少なくとも実里から見れば、揚羽が何かを隠している事は一目瞭然である。

 

「どうしたの揚羽? さっきからなんか変だよ? もしかして、ウチが居ない間に何かあった?」

「ぁ、ぁ……え、と……その……」

 

 揚羽はどうするべきか悩んだ。思い切ってアルフが彼女の血を吸っている瞬間を見た事を明かすべきだろうか? だが実は実里は操られていて、もしアルフに不利になる様な事を知ったらその瞬間襲ってくるのではと言う疑心が揚羽から言葉を奪っていた。

 

 視線を激しく泳がせ、言葉にならない声を零す揚羽の姿はあまりにも異様で、実里は純粋に彼女を心配して空いてる方の手で彼女の腕を掴んだ。

 

「ねぇ揚羽、本当に大丈夫?」

「ぁ……!?」

 

 奇しくも実里が揚羽の腕を掴んだのは、先程アルフに吸血させていた方の腕だった。露わになっているその腕に、よく見ないと分からない程度に小さい二つの並んだ穴の痕を見た瞬間、揚羽は反射的に実里の手を振り払って距離を取ってしまっていた。

 

「ッ!?」

「えっ!? あ、揚羽……?」

「あ、や、違……!? こ、これは……」

 

 振り払ってから揚羽は自分が何をしたのかに気付き、焦りで頭の中が真っ白になってしまった。こんなの普段の彼女からは考えられない。何時も思った事を誰にでも真っ直ぐ伝える揚羽らしくなかった。それほど実里がアルフに吸血されているシーンは衝撃だったし、京也も被害者かもしれないという不安が揚羽から冷静さを奪っていた。

 

 何かを言うべきなのに何を言うべきなのか分からないという、自身にとって未知の感覚に顔を青褪めさせ呼吸をも乱す揚羽。これは本格的にマズイと実里も危機感を抱き始めた時、戦闘を終えて変身を解除し戻ってきたカタリナが歩走りで実里達に近付いてきた。

 

「皆さん、ご無事ですかッ!」

「あ、カタリナさん!」

「カタリナさんッ!」

 

 カタリナの存在はこの状況ではとてもありがたかったのか、2人揃って喜色を顔に浮かべた。やって来たカタリナは、2人の表情を脅威から解放された事によるものであると解釈してみた感じ怪我がない事に安堵の表情を浮かべた。

 が、実里が連れていたアルフと京也の姿が見当たらない事に怪訝な顔をして周囲を見渡しながら訊ねた。

 

「あの、実里さん? あなたが先程連れていた女の子と、京也さんの姿が見当たりませんが……?」

「紅月君だったら、怪我したアルフちゃんを連れて病院に行きました」

「そう……ですか……」

 

 実里の答えにカタリナは安心と後悔を同時に感じていた。2人共命に別状はない事を理解して安心すると同時に、アルフに迷惑を掛けてしまった事を後悔していたのだ。

 

 取り合えずアルフの事はまた後日考えることにした。彼女への謝罪は大事だが、今回の事を考えるのも重要だ。

 

「ともあれ、皆さんは大丈夫そうで何よりです。この子の事も、ありがとうございます」

「いえいえ、そんな大した事じゃ……戦ってたカタリナさんに比べたら……」

 

 実里とカタリナが話している。揚羽はその様子を、正確にはカタリナの事をジッと見つめながら希望を彼女に見出していた。カタリナはあの怪物と戦う仮面ライダーだ。ならば…………

 

(みのりんとあのアルフって子の事も……紅月君の事も……)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 季桔市内にある教会と孤児院がノスフェクトにより襲撃された。その事で現場に赴いたS.B.C.T.δチームは、そこで正体不明の武装集団を見る事となった。彼らが特に注視しているのは、ペストマスクの様な仮面を被った集団。コンピューターはそれらが量産型の仮面ライダーである可能性が高い事を示唆していた。

 

 彼らは知らない事だがそのペストマスクは仮面ライダーイジターと言う、正真正銘の量産型仮面ライダーであった。

 

 正体不明の量産型仮面ライダー、そして襲撃してきたノスフェクトの事後処理。諸々の事もあってδチームは部隊を件の教会に向かわせて警備と調査を行おうとした。ところが…………

 

「は? 立ち入り拒否?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げるレックス達に、リリィは肩を竦めて溜め息を吐いた。彼らの気持ちは分かる。何しろそれを聞かされた自分も同じリアクションを返したのだから。

 

「そ、来なくていいって」

「いやいや、何でまたそんな……」

「そもそも何でノスフェクトが襲ってきたのか分かってねえんだろ?」

「それ、何か後ろ暗い所があるんじゃないの?」

 

 δチームの隊員達は口々に疑問や思った事を口にする。無理もない、今までの活動で、こんな堂々と自分達の干渉を突っ撥ねたものなど居なかったのだから。あまりにもキッパリとした拒絶に、教会が何か後ろ暗い事を抱えているのではないかと考えてしまうのも当然の事だった。

 

 実際、教会は何かを隠しているのだろう。何しろこの立ち入り拒否は、件の教会ではなくバチカンにある教会の本部から日本政府を通じて通達されたのだ。組織ぐるみでS.B.C.T.の干渉を避けようとするなど、余程の事が無ければ普通はしない。つまり、教会は何か普通ではない事情を抱えている。

 

 納得がいかない状況にレックスが腕組みして唸っていると、リリィは荷物を纏めてその場を離れた。足早に去ろうとする彼女に違和感を感じて、秀樹がその背中に声を掛ける。

 

「あれ? リリィさん、どこ行くんです?」

 

 秀樹が呼び止めると、リリィは肩越しに振り返り軽く肩を竦めた。

 

「組織でダメなら個人で行くまでの話よ。私あそこ顔馴染みだから、ちょっと行ってみるわ」

「1人で行く気か? なんなら俺も……」

 

 流石に何があるか分からない所にリリィ1人で行かせるのは危険と判断したのか、レックスがついて行こうとするのだが彼女はそれを手を上げて制した。

 

「レックスは行った事ないでしょ? そんなあなたが来たりしたら、逆に怪しまれるかもしれないわ。私1人で行く方があそこのシスター達も変に思わないわ」

「むぅ……」

 

 確かにレックスはリリィについて孤児院のある件の教会に行った事は無かった。そこを突かれると何も言えなくなる。

 反論できず唸るしか出来ないレックスの姿を、アルバートと一也が面白がって茶化し始めた。

 

「へっへっへっ、フラれたな?」

「もうちっとリリィに構ってやった方が良いんじゃないか?」

「うるせぇ、余計なお世話だッ!」

 

 下らない事で喧嘩し始めたレックス達を放っておいて、リリィは後の事を部隊の次席指揮官である隆とγチームのオペレーターであるコレットの2人に託した。

 

「そう言う訳だから、後の事はお願いね。一応アイリスと同じく非番的な扱いだから、何かあったら呼んで」

「念の為聞くが、隊長に話は通ってるんだよな?」

「当たり前でしょ。ちょっと渋られたけど、許可は貰えたわ」

「そりゃ渋るでしょうね」

 

 敦としてもリリィが1人で危険に飛び込むような真似はあまりさせたくはなかったのだろうが、状況的に否と言う訳にもいかなかった。今は兎に角情報が欲しい。特に教会に関しては、外部と隔絶された部分があり分からない事が多かったのだ。突如現れた仮面ライダーシルヴァ達に関する情報を得るには、教会を調べるのが一番の近道となる。

 一応万閃衆にも協力を要請しているので何かしらの情報がいずれは得られるだろうが。

 

「それじゃ、行ってくるわ」

「油断するなよ」

「気を付けて」

 

 2人に見送られてリリィは更衣室へ向かい私服に着替えた。その際もう一度部屋の中を見渡すと、レックスはまだアルバート達と喧嘩をしている最中であった。子供っぽい彼氏の姿に呆れて目をクルリと回し、何も言う事無く部屋を後にするとさっさと私服に着替えて目的地である教会へと向かっていった。

 

 電車で近くまで向かい、徒歩で教会へと近付いていく。教会が近くなると周りは静かになっていき、遠目に教会のチャペルが見えてきた。

 教会の正門の前に着くと、中には先日の戦闘の影響で崩れた場所を補修する為か既に業者が出入りし修復作業に勤しんでいた。自分達の干渉は突っ撥ねたくせして業者には既に話を通している辺りに面白くないものを感じつつ、怪しい何かも感じて一瞬リリィの表情が険しくなる。

 

 業者が修復作業している様子を眺めていると、不意にリリィに声を掛けてくる者が居た。

 

「んん? あれ、アンタ……」

「え?」

 

 声に反応してリリィがそちらを見れば、そこに居たのはカタリナや自分と比べて悲しくなる位胸の薄いシスターであるルクスの姿があった。手に箒を持っている所を見ると、掃除の最中にリリィの姿を見つけたらしい。割と最近来たばかりのルクスとはあまり親しくないリリィだったが、カタリナ経由だったりここに来た時に時折すれ違ったりで満更知らない仲でもないので彼女に気付いてリリィは頭を下げる。

 

「あ、どうも。何か、大変そうですね?」

 

 今回はただ子供達と戯れに来た訳ではなく、情報収集の為の来訪なので出来る限り何か得られないかと言葉を選んで話し掛ける。

 

「まぁねぇ。こっちの事情だから何があったかは言えないんだけど、兎に角昨日トラブルあったのよ」

「そうなんですか」

 

 リリィがS.B.C.T.のオペレーターである事は、カタリナは一応知っている。知っているとはいっても、先日レックスが危うく孤児院の子供を引きそうになった時に偶然遭遇した程度でカタリナ以外はリリィの仕事を知らなかった。だからだろうか、ルクスは特に警戒することなく一般人を相手にする感覚で応対していた。相手がルクスである事にリリィは内心でガッツポーズをした。カタリナからも聞いているしリリィも遠目に見た事があるが、彼女はシスターとしては不良であり仕事中にも飲酒したりとだらしがないのだ。彼女であればふとした瞬間に秘密を漏らしてくれるかもしれない。

 

 そんなリリィの楽観は、次の瞬間思わぬ形で遮られる事となった。

 

「それにしても今日はこんな時だってのに客が多いわね。ついさっきも来たばっかりよ」

「客? あ、揚羽ちゃんかな?」

 

 自分以外でここによく来るのは揚羽である事を知っているリリィはそう予想したが、それが違う事は直ぐに分かった。

 

「ん? げっ!? 君は……!」

「は? え? な、何で……?」

 

 孤児院に入りリリィが見たのは、自分よりも一足先に子供達と戯れていたのだろうユーリエの姿であった。




と言う訳で第29話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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