仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第30夜:聖職者の暴挙

 季桔市にある教会と正体不明の武装勢力に関する調査の為、一般人を装って訪れたリリィはそこでユーリエと言う予想外の人物と遭遇した。お互いにこんな所で相手と遭遇するとは思っていなかった為、顔を合わせた当初は共に気まずく居心地悪そうにしていたが、何時までもそうしていては不審に思われるととりあえずリリィは彼女への挨拶もそこそこに普段通りに孤児院の方へと向かい子供達に挨拶をした。

 

「やっほ~、皆元気?」

「あっ! リリィおねえちゃん!」

 

 普段であれば広場に向かえば子供達が無邪気に走り回って遊んでいるのだが、肝心の広場は先日の戦闘で半分ほどが被害を受けており修復の為広場は殆どが塞がれて遊べる状態ではなかった。なので子供達は屋内での遊びを余儀なくされており、リリィも中に入るとそこでようやく子供達と顔を合わせる事が出来た。手にビニール袋を持ったリリィが顔を見せると、期待に胸を膨らませた子供達が集まってきた。

 一見すると元気そうな子供達の様子に、リリィも内心でホッと胸を撫で下ろす。怖い思いをしただろうに、それを感じさせない子供達の強さにリリィは胸に温かさを感じながら持参したおやつを掲げた。

 

「皆元気そうで安心したわ。そんな皆にご褒美よ。ケーキ買ってきたから、皆で食べよう」

 

 孤児院では滅多に食べる事が出来ないケーキの登場に、子供達は例外なく歓声を上げた。嬉しさのあまりなかなか静まらない子供達に、遅れてやって来たユーリエと騒ぎを聞きつけて駆け付けたカタリナが手を叩いたりして落ち着かせる。

 

「ほらほら、皆。そんなに騒いではリリィが動けないよ。まずは落ち着いて」

「皆! まずは手を洗う事が先ですよ。手を洗わない悪い子にケーキはありませんからね」

「「「「はーい!」」」」

 

 2人に宥められて、子供達はぞろぞろと水場へと向かっていった。群がる子供達から解放されてホッとリリィが一息ついていると、この瞬間まで彼女が来ていた事に気付いていなかったカタリナが申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「リリィさん、ご挨拶が遅れてすみません。何分、今はちょっと色々と立て込んでいまして……」

「いえいえ、いきなり押し掛けたのはこっちの方ですから気にしないでください。それより、何か大変だったみたいですけど子供達は元気そうで安心しました」

「えぇ、それは本当に」

 

 彼女達S.B.C.T.は基本後手に回らざるを得ないとは言え、今回は現場に辿り着けたのがレックス1人と言う事にリリィも色々と思うところはあった。特に自分達が到着する前に子供達に被害があったりしたらどうしようと気を揉んでいただけに、彼らの無邪気な笑顔はリリィの肩から荷を下ろすのに十分な力を持っていた。

 

「にしても、あなたがここに居るのは少し意外だったわね?」

 

 そう言ってリリィがユーリエの方を見れば、彼女は少し不貞腐れたような顔をして明後日の方を見ながら答えた。

 

「そんなに意外かね? 私はこう見えて、案外子供好きなんだがね……」

「タイミングがリリィさんとは違う為今まで滅多に顔を合わせることは無かったようですが、ユーリエさんもそれなりの頻度でここを訪れてくださってるんですよ」

「へぇ~?」

 

 ユーリエの意外な一面にリリィが本気で驚いていると、彼女はますます唇を尖らせて不満そうな顔をしながらリリィの事を睨み付けた。

 

「……何かね?」

「ううん、何でもない。さ、さっさとお茶の準備しましょ。時間掛けてると子供達がまた怪獣化しちゃうわ」

 

 元気が有り余った子供達の勢いは馬鹿に出来ない。リリィが怪獣と称したのもあながち間違ってはいなかった。また興奮を納めるのは大変なので、カタリナとユーリエも彼女の言葉に頷き食堂へと向かうとお茶を用意したりとケーキを食べる為の準備に取り掛かった。

 食堂では既に手を洗った子供達が待ち受けており、リリィが次々と取り出すケーキに目を輝かせている。

 

 そのままだと興奮して取り合いになりそうだったが、そこはカタリナが巧みに宥めて一人一人にケーキを行き渡らせる。が、ここで一つ問題が生じた。

 リリィは今日こそはカタリナにも甘味を食わせてやろうと自分とカタリナの分も合わせてケーキを買ってきた。ところがここで予想外な事に、彼女の勘定には入っていなかったユーリエが来てしまっていたのだ。このままだと誰か1人がケーキを食べられない。

 

 そうなると当然、真っ先に辞退したのはカタリナであった。

 

「私はいいので、ケーキはリリィさんとユーリエさんで楽しんでください。私はお茶があればそれで十分です」

 

 そう言ってカタリナは静かにカップの茶を啜り、近くの子供達が口の周りをクリームで汚せばそれをナプキンで拭いてやる。その姿にリリィは残念そうに肩を落とし、ユーリエは彼女の反応から何となく事情を察してちょっぴり申し訳なさそうにしていた。

 

「何か……すまないね。どうやら私はお邪魔虫だったようだ」

「え? あ、いや……別にいいのよ。私が勝手にやった事だから」

 

 何とも微妙な空気になってしまい気まずくなる2人。この予想外の展開にはリリィも内心で困り果ててしまった。これでは情報を集めるどころの話ではない。

 

 2人の間に気まずい雰囲気が流れ、それに気付いたカタリナがどうしたものかと2人を交互に見ていると、同じく微妙な雰囲気に気付いた子供達が無邪気に2人に声を掛けた。

 

「リリィお姉ちゃん、ユーリエお姉ちゃん、どうしたの?」

「え?」

「お姉ちゃん達、喧嘩してるの?」

「仲良くして~」

「あ、や、別に喧嘩している訳では、なくてだね……」

 

 何とも言えぬ雰囲気を物ともせず声を掛けてくる子供達。その無邪気さと健気さに、何だか色々とどうでもよくなり2人は顔を見合わせ笑い合った。笑い合う2人に子供達も安心したのか、再びケーキを楽しみ始める。

 

 無邪気な子供達の様子に癒されながらリリィとユーリエもティータイムを楽しみ、満足して昼寝を始めた子供達を起こさない様にしながらカタリナと共に後片付けをする。その際リリィは、気になっていた事をユーリエに聞いた。

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ……」

「ん?」

「アンタ何で傘木社に居たの? 途中からヤバい会社だって分かってたんだよね?」

 

 彼女らS.B.C.T.はその活動の過程で旧傘木社の研究員を捕縛する事も決して少なくはなかった。そしてこれまで彼女が見てきた傘木社の社員だったものは、基本的に嘗ての栄光を取り戻そうとしていたり雄成に対する忠義なんかで動く者が多かった。未だに求心力を維持している雄成の影響力に空恐ろしいものを感じてすらいたリリィだったが、だからこそユーリエの事が分からなかった。彼女もまた傘木社の社員で研究員だったと聞く。それも若くして才能を見出され重要な研究に就いていた。それほど評価されていた彼女であれば、会社に対しても一定の忠誠があってもおかしくはない。

 だが実際には、彼女は大人しく捕縛された挙句嘗ての仲間である残党を売るような形でS.B.C.T.に協力している。この転身っぷりがリリィには分からなかった。

 

「アンタは傘木社でも評価を受けてた。それなのにこうもあっさり見限れたのは、あそこがヤバい会社だって分かってたからでしょ? それなのに逮捕されるまで居続けたのは何で?」

 

 リリィはカタリナの動向をチラチラと見ながら訊ねた。この話はあまり部外者に聞かせたい内容ではない。

 同じくカタリナの方を見て、彼女が特にこちらに聞き耳を立てている訳ではない事を確認したユーリエは、手元の皿を拭きながら答えた。

 

「……あまり、大した理由じゃないよ。私はただ単に、怖かったのさ」

 

 傘木社に居たからこそわかる。あの会社の恐ろしさが。もし途中で裏切ったりしようものなら、それこそ今度は自分が使い捨ての実験動物にされてしまう。いや、実験動物程度で済めばまだマシと言えるだろう。最悪実験動物の餌にされる可能性だってあった。いや、可能性があるとかそう言う次元の話ではない。ユーリエは実際に裏切ろうとした研究員や社員がファッジやノスフェクトの能力を見る為の犠牲にさせられる様を何度も見てきた。

 

 強化ガラスを隔てた先で、昨日まで隣で研究していた者がこちらに助けを求めながら怪物に引き裂かれる。ガラスに手をついてこちらに必死に助けを求めていた恐怖に引き攣った顔が、次の瞬間血を吐き出しガラスが赤く染まって中の様子が見えなくなる。

 そんな光景を何度か見せられ、ユーリエの中から会社を裏切ろうという気持ちは完全に吹き飛んでいた。もう後悔しても遅い。自分に出来る事は、会社が存在する限り会社が望むままにこの頭脳を使い続ける事だけであった。

 

 当時の事を思い出し、ユーリエは身震いしながらも自嘲の笑みを浮かべていた。

 

「正直な話ね、敦隊長が私を捕縛に来た時、私は救われたと思ったよ」

「隊長が?」

「あぁそうさ。あの時、私を逮捕しに来たのは他ならぬ敦隊長だったんだ」

 

 心を擦り減らしながら研究に従事していたユーリエの元に、派遣された当時まだ一般隊員だった敦が現地の警察と共に突入してきた時…………ユーリエは涙を流した。それは絶望の涙ではなく、歓喜の涙であった。やっとこの地獄から出られる。そう確信した時、当時まだ未成年だった彼女はその場に崩れ落ちて泣きながら只管に感謝の言葉を口にしていた。

 

「まぁ、とは言っても私は傘木社で違法な研究に携わっていたのは間違いないからね。逮捕されたらそのまま裁判で有罪判決を受けて刑務所に放り込まれたよ。とは言え、あの地獄みたいな会社に比べれば刑務所も十分に天国だったけどね」

「そ、そう……なんだ」

 

 リリィは何だかユーリエの事が他人の様には思えなかった。立場が違うだけで、自分も彼女も同じなのだと気付いたからだ。

 

 嘗ては実験動物として先の知れぬ日々を送っていたリリィと、恐怖で縛り付けられ非人道的な研究に携わざるを得なかったユーリエ。2人は共にその地獄から自力で逃げ出す事が出来ず、第三者により救い出されたのである。その事に気付くと急にリリィはユーリエに対し親近感が沸き、彼女に感じていた壁の様な物が取れたような気がした。

 

「大変だったんだね、アンタ……ユーリエも」

「君達ほどじゃないさ」

 

 リリィが精神的に歩み寄った事を感じたのだろうか。ユーリエの声にも先程に比べて柔らかさが増した。

 気付けばどちらからともなく笑い合う2人。そこへやって来たカタリナは、何だか親しさが増した様子の2人に首を傾げていた。

 

「何かありましたか? さっきよりも、距離が近い様な……」

「ん? ううん、何でも無いですよ。ね?」

「そうだね。大した事はないよ」

 

 そうは言うがやはりどう見ても先程より仲が良くなっている。何があったのかはカタリナにも分からないが、仲が良いならそれに越したことはないとそれ以上追及する事はせず笑みを浮かべて2人の様子を見守った。

 

 温かな雰囲気が3人の間に広がるが、この時リリィとユーリエは知る由もなかった。

 この孤児院も教会の一部であり、内部には教会や修道騎士団の手が及んでいるという事を。その一環として、内部にはあちこちに警備用の隠しカメラや盗聴器が仕掛けられている事を。

 

 今の2人の会話は教会内に隠された指揮所に控えているエリーに聞かれていた。その会話の内容に、エリーは笑みを浮かべると部下の騎士に指示を出した。

 

「あの2人を捕えなさい。最悪片方……あの小さい方だけでも構いません」

 

 エリーの指示を受け、数人の騎士が動き出す。それを見送り監視カメラの映像に視線を戻すと、そこでは片付けも終えた2人がカタリナに見送られて帰ろうとしている所であった。

 

「それじゃ、私達はこれで」

「失礼するよ」

「今日もありがとうございました。またいらしてください。子供達もきっと喜びます。……あなた達に、神の加護があらんことを」

 

 カタリナからの祈りを受け、リリィとユーリエは頭を下げると教会を後にした。2人の姿が見えなくなると、カタリナは次の仕事に移ろうと教会の中へと戻ろうとした。

 

 その時、彼女の背に1人の少女が声を掛けた。

 

「あ、あの……カタリナさん……」

「え……? あ、あなたは……」

 

 カタリナが振り返ると、そこに居たのは揚羽であった。どこか思いつめた様子の揚羽の姿に、彼女らしくなさを感じたカタリナは何かあると感じて彼女を教会の中へと誘った。

 

「何かあったようですが、取り合えず中へ。お茶位なら出しますよ」

「はい……」

 

 

 

 

 カタリナが揚羽を教会の中へと誘っている頃、リリィとユーリエは支部へと帰る道を進んでいた。最初こそ足取りも軽かったが、途中からある事を思い出したリリィは露骨に肩を落としていた。

 

「し、しまった~……教会と昨日の連中の関係を調べる為に行ったのに、何の成果も得られなかった」

「な、何かすまないね? 多分、私が居た所為で色々と予定を狂わせてしまたんだろう?」

「あ~……いや、いいのよ。肝心な事を忘れた私が悪いんだから」

 

 とは言え、このまま手ぶらで帰るのは避けたい。だからと言って今からまた教会に行くのも怪しまれる。さてどうしたものか…………

 

「う゛~……」

「あれだ……何か言われるようであれば私も弁護するからそう気を落とさずに――」

 

 ユーリエが落ち込むリリィを慰めようとしたその時、出し抜けに物陰から数人の男達が2人を取り囲んだ。服装はいずれも一見すると神父服のようだが、カラーリングが黒ではなく白に統一されている。

 突然周囲を取り囲んだ男達に、身を固くするユーリエをリリィは咄嗟に背中に庇うように立ちつつ懐に手を入れ隠し持っていた拳銃を何時でも抜ける様に身構えた。

 

「え!? え!?」

「下がって!……何、アンタ達?」

 

 困惑するユーリエと警戒するリリィ。2人の周りと取り囲んでいる男達は、リリィが武器を取ろうとしているのを見てそれならば自分達もと銀のナイフを取り出し構える。相手が凶器を出してきたのを見てリリィは懐から拳銃を抜きながら逃げ道を探すが、既に逃げ場は完全に塞がれていた。

 

「チッ……コイツ等……」

 

 追い詰められながらリリィは男達の姿を観察する。一見すると恰好だけなら教会の牧師か何かの様に見える。だが白一色の服装など相違点もあった。

 そんな彼らの中で特に目を引いたのは、腰に巻かれたベルトであった。服装に合わない異質なベルト。その形状にユーリエが何かに気付き声を上げた。

 

「リ、リリィ、あれ! 彼らが腰に巻いてるのは……!」

「! あれって……!」

 

 ユーリエが腰のベルトに気付きリリィが息を飲んでいると、男達は一斉に銀のナイフを腰のベルトのバックル部分に装填した。

 

「「「「「変身ッ!」」」」」

〈〈〈〈〈Amen〉〉〉〉〉〉

 

「なっ!?」

「コイツ等が……」

 

 一斉に変身した5人の仮面ライダーイジター。周囲を取り囲むペストマスクの集団を睨みつけながら、リリィは冷や汗を流した。この状況は非常にマズイ。

 

(コイツ等……多分量産型だから一人一人のスペックはライトスコープと同じか少し上回るくらいかな……とは言え、生身じゃきついなんてもんじゃないのは変わらないけれど)

 

 油断なく自分達を取り囲むイジター達を睨みながら、リリィはどうやってこの状況を切り抜けるかを考える。コイツ等の目的は、恐らく探りを入れてきた自分を始末する事だろう。周囲を嗅ぎまわる不愉快な犬を始末して、S.B.C.T.に対して警告するつもりなのだ。

 

 リリィは悩んだ。自分1人なら何とかならなくもない。なりふり構わず逃げようと思えば逃げられる。だがユーリエも連れてとなると…………

 

()()()を使う事になるとはね)

 

 銃口をイジター達に向けながら、リリィはそっと左手をポケットの中に忍び込ませる。そしてそこにあった()()に指が触れた瞬間、イジター達は一斉に2人に飛び掛かって来た。

 

「くッ!」

 

 動き出したイジター達に対し、リリィも必死に応戦する。目の前に居たイジターに向け引き金を引き、銃声が周囲に響き渡る。

 リリィが所持している拳銃は元々ライトスコープ用に作られる予定だった装備を流用した護身用の装備の『ガンマガン』と呼ばれる銃であった。敵を倒す事よりも使用者が難を逃れられるようにすることを目当てとした武器であり、使用している銃弾はストッピングパワーに優れた物を使用している。喰らえばダメージは無くとも体を仰け反らせるほどの衝撃を相手に与える事が出来、そのパワーで襲ってきた怪人などを足止めしその間に逃げる事を目的としていた。

 

「このっ! ユーリエ、こっち!」

「あ、ちょ……!」

 

 リリィは近いイジターから次々に銃撃し、足止めしながら包囲を抜けこの場から逃げ出そうとする。その際ユーリエの手を引いて一緒に連れていくことを忘れない。

 

 最初はイジター達も、リリィの予想以上の抵抗に手を焼かされた様子だった。だが彼女相手には遠慮の必要はないと考えたのか、イジター達も武器を抜くとレイピア状の武器であるイジターレイピアを構え斬りかかってきた。振るわれる細身の刃を紙一重で避けながらユーリエを連れて逃げようとするリリィ。だが振るわれる刃が彼女の体をあちこち掠めていき、切られた個所から血が滲み傷が増えていく。

 

「うっ!? くぅっ!?」

「リ、リリィ……!?」

 

 リリィが付けられた傷の中には明らかにユーリエを守ろうとしてできた傷もある。自分が足手纏いとなって彼女が傷付いていく姿に、ユーリエは泣きそうな顔になり思わず自分の手を引く彼女の手を振り払おうとした。

 

「も、もういい!? 私の事は放って君だけでも……!」

 

 ユーリエの訴えを、リリィは銃声で遮った。

 

「悪いけど、それは聞けないわ」

「な、何故……!」

「私だってね、仮面ライダーには憧れてんのよ。私は戦えないけど、だからってアンタを見捨てるなんて出来る訳ないでしょ?」

「リリィ……」

 

 レックスと形は違えど、リリィも仮面ライダーに対するあこがれは確かにあった。彼女は直接仮面ライダーになる事ではなく、仮面ライダーを支える事で戦おうとすることを選んだが、だからと言って戦えないからと逃げるような腰抜けではない。その覚悟にユーリエは目頭が熱くなるのを感じた。

 

 だがイジター達はそんな彼女の覚悟を嘲笑うように彼女が手に持つガンマガンをレイピアで弾いた。ちょうど弾切れを起こし、マガジンを抜いて次のマガジンを装填しようとしていた矢先の事だったので拳銃はあっさりと彼女の手を離れ明後日の方へと飛んでいってしまった。

 

「あっ!? しま、うぐっ!?」

 

 弧を描いて飛んでいく拳銃に目を向けた瞬間、彼女の腹にイジターの拳がめり込んだ。内臓を潰される様な感触に吐き気を覚え、口から反吐を吐きながら膝から崩れ落ちるリリィ。ユーリエは腹を押さえて崩れ落ちる彼女を助け起こそうとしたが、それより早くに別のイジターがユーリエを左右から取り押さえてそのまま何処かへと引っ張っていった。

 

「うぁっ!? は、離せッ!? 何、何処へ、くぅっ!?」

「ゲホッ!? ゲホゲホッ!? ユ、ユーリエ……!?」

 

 連れていかれるユーリエに手を伸ばすリリィだったが、そんな彼女を別のイジターが押し倒す様に押さえ付ける。頭を地面に擦り付ける様に押さえ付けられ、胸が地面に押し潰されて形を歪ませる。

 

「あぐっ!? ぐ、ぅぅ……」

 

 上から2人掛りで押さえつけられ、身動きを封じられるリリィの視線の先ではユーリエが何処かへ連れていかれて姿を消した。自分の目の前でまんまとユーリエを連れ去られてしまった事に悔しさに奥歯を噛みしめていると、押さえ付けているイジターはそんな彼女の顔を覗き込んで嘲笑う様に肩を震わせた。

 

「おい、コイツどうする?」

「エリー様からは、あっちの小さい方だけは絶対に連れて行けって話だ」

「じゃあコイツはどうなってもいいって訳だ」

 

 頭上から聞こえてくる不穏な会話に、リリィの顔に焦りが浮かぶ。彼らが言う”どうなっても”の中にどんな意味があるにせよ、ロクでもない事が待っているのは確実だ。大体にしてここまでしておいて態々自分を見逃す道理はないだろう。口封じの意味も込めて、確実に始末されるのがオチだ。

 

「取り合えず持ち帰るぞ。お楽しみはそれからだ」

「へへっ……!」

「うぅ……!?」

 

 そう言ってイジター達はリリィを動けないようにしながらユーリエ同様連れて行こうとする。このままあわやリリィまでもが連れ去られてしまうのかと思われた、その時…………頭上に何かが飛来したかと思うとそれから人影が飛び降りリリィを捕らえているイジター達を手にした剣で蹴散らした。

 

「オラァァァァァッ!」

「なっ!? ぐわっ!?」

「がはっ!?」

 

 飛来したのはエアホースで、飛び降りたのはレックスが変身したグラスであった。グラスはイジター2人を一撃で蹴散らしリリィから引き剥がすと、そのまま彼女を優しく抱き上げた。

 

「悪い、来るのが遅れた」

「大丈夫。それよりユーリエがッ!」

「何?」

 

 グラスがここに居る理由は、先程リリィがポケットに手を突っ込んだ時に緊急用のビーコンを起動したからである。彼女はもしもと言う時に備えて、非常事態が起こった事を伝える為の小型のビーコンを持っていたのだ。小型であるが故に信号を発する事しか出来ないが、その分隠し持つ事に優れておりもし何かが起こった時起動すれば最寄りの支部に迅速に非常事態が起こった事を報せる事が出来る。

 

「ユーリエがアイツらに連れていかれたわ。早く助けないとッ!」

「何だって!?」

 

 リリィから知らされた現状はあまり良いものとは言えなかった。ユーリエは今S.B.C.T.が対応しているノスフェクト対策で必要不可欠な人材だ。そうでなくても味方が連れ去られたなんて一大事である。可能な限り全速力でここまで来たグラスであるが、最悪とは言えずとも良くはない状況に仮面の奥で顔を顰める。

 

 一方イジター達は突如乱入してきたグラスを前に最大限の警戒を向けていた。今の2人の会話とグラスの見た目から彼がS.B.C.T.である事は容易に想像がつく。しかもイジター2人を一撃で戦闘不能にするほどの能力を持つ。そんな奴を相手に、特化性能を持たないイジターだけでは相手をするのも一苦労だ。

 

 彼らの焦りを感じてかは定かではないが、グラスは残りのイジターを蹴散らしユーリエを救出に向かうべくリリィを近くの壁に寄りかからせると周囲に威嚇するようにバスターショットを一振りした。

 

「お前ら、教会の関係者か?」

 

 グラスの問いに、返答はない。無言を貫くイジター達に、彼は小さく舌打ちすると剣を構えスラスターを噴かした。何時でも突撃できるようにしながら、彼は最後通告の様に再度問い掛けた。

 

「もう一度だけ聞く。お前らは教会と何か関係があるのか? この襲撃、偶然じゃねえだろ?」

 

 幾ら何でもタイミングが良すぎる。何らかの形でリリィとユーリエがS.B.C.T.の関係者で、周囲を探られたから始末する為に動いたと考えるのがしっくりくる。

 何より彼らの姿だ。イジター達の姿はペストマスクが目を引くが、外見の所々に聖職者をイメージさせる意匠が仕込まれている。それに先日の戦闘で彼らを率いていたアッシュは、神だのなんだのと口にしていた。これで教会と無関係と考えるのは流石に無理があった。

 

 二度目の問い掛けにもイジター達は無言を貫いた。何も答えようとしない彼らの姿に、グラスは失望したように溜め息を吐くとこれ以上時間は掛けられないと突撃した。

 

「もういい。お前らを蹴散らして連行する。勿論ユーリエも返してもらうからな!」

 

 剣を振りかざしながら突撃するグラス。イジター達はそれを迎え撃つべく一斉に射撃するが、スコープ譲りの防御力も健在なグラスにはかすり傷にもならない。そもそも全身のスラスターで高速で動けるグラス相手には射撃が殆ど当たらなかった。数少ない命中弾も弾かれるか防がれ、接近を許した瞬間グラスは剣を振るい近くのイジター数人を纏めて吹き飛ばした。

 

「はぁっ!」

「「うわぁぁぁっ!?」」

「クソッ!」

 

 仲間が吹き飛ばされたのを見て別のイジターがレイピアを構えて斬りかかる。しかしグラスはそれに素早く反応すると突き出された刺突をバスターショットで弾くと相手の勢いに合わせて蹴りをお見舞いしカウンターを喰らった相手は逆に蹴り飛ばされ壁に叩き付けられる。

 

「ごふっ!?」

「う、うわぁぁ……!?」

 

 次々と仲間が倒される光景に、1人のイジターは戦き思わず後退る。グラスはビビっているイジターは無視して、グラスを出し抜き安全な場所に居るリリィを取り押さえようとしている奴の前に文字通り地面の上を滑る様に回り込むと、至近距離からの射撃で速やかに無力化した。

 

「がはぁっ!?」

「ふぅ……」

 

 こういう事をする奴が必ず出てくるだろうからと、絶えず警戒していて良かった。お陰でリリィが人質に取られるという最悪の状況だけは避ける事が出来た。

 そして気付けば、この場で立っているのはグラスとリリィを除けば先程恐怖を露にしていたイジターだけとなっていた。グラスは足が竦んだように動きを止めているイジターに、威圧するようにバスターショットを肩に担ぎながら近付いていく。

 

「さぁて……残ったのはお前だけだな?」

「あ、ぁぁ……!?」

「聞かせてもらうぞ、お前達の事を」

 

 グラスの手がイジターに伸び、話しを聞くべく捕らえようとした。

 

 その時、銀色の鞭がグラスの首に巻き付き彼をイジターから引き離した。

 

「うぐっ!? な、何だ……!」

 

 首に感じる圧迫感、気道を絞められる窒息感に耐えながらグラスが振り返り鞭の持ち主の方を見た。

 

 するとそこには、灰色の聖職者の様な仮面ライダーであるアッシュが背後にイジターに捕らえられたユーリエを連れながら佇んでいた。

 

「ユ、ユーリエッ!」

「困ったものですね、異教徒には。神の御心の為の我らの戦いを邪魔するなど」

 

 アッシュが口にする神や異教徒と言う単語。やはり教会を彷彿とさせる彼女の佇まいに、リリィはマガジンを交換した拳銃を構えながら問い掛けた。

 

「答えて! アンタ達、ユーリエをどうするつもり?」

「フフフッ……異端者である貴方達に教える理由はありません」

 

 しかしアッシュは聞く耳持たず。そのまま彼女は鞭でグラスを振り回し、壁に叩き付けるとユーリエを連れてその場を去っていった。これ以上戦っては逆に被害が増えるだけと悟ったのだろう。遠くからはグラスに遅れて現場に到着しつつあるS.B.C.T.のサイレンの音が聞こえてくる。タイムリミットだ。

 

「それでは御機嫌よう。次に会う時は、貴方達が神の御心を少しでも理解してくださっている事を期待しています」

「リリィ! レックス!」

「ま、待て……!」

「くっ!」

 

 グラスが手を伸ばし、リリィが引き金を引く。だが2人の行動も空しく、ユーリエはアッシュ達に連れ去られてしまった。

 

 仲間であり友でもあったユーリエを目の前でみすみす連れていかれてしまった事に、リリィは崩れ落ちると悔しそうに地面に拳を叩きつけるのだった。




と言う訳で第30話でした。

今回はユーリエの過去とか内面に焦点を当ててみました。意外と子供好きで、過去の自分の行いを悔いている、そんな感じの女性です。抜けたくても抜けられない地獄から解放され、それをやったのが敦だったので彼もユーリエの事は信頼している感じですね。

そんな彼女がヤバい連中に捕まってしまいました。さぁ彼女の運命や如何に。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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