仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回から割と大変な事になっていきます。詳しくは言いませんが、ここから先は緊張感をもってお読みくださる事をお勧めします。


第37夜:惨劇の幕開け

 エリーの腕を掴んで捻り上げ、ユーリエが電気責めされるのを邪魔したカタリナはそのまま振り回す様にしてエリーを機材が置かれた机から遠ざけた。

 

「くっ!?」

「……ルクスさん、ユーリエさんを」

「オッケー」

 

 カタリナが牽制している間に、ルクスがユーリエを拘束から解くべく近付いた。手足をベルトで椅子に縛り付けられているので、ルクスはナイフを使ってベルトを切断しユーリエの拘束を解いていく。

 途中、エリーの部下がそれを止めようとするも、ルクスが相手の胸倉を掴んで射殺す視線で睨み付ければそれだけでエリーの部下は委縮しそれ以上の邪魔をする事は出来なかった。

 

「大丈夫? 生きてるわよね?」

「はっ……は、ぁ……ぅ……、だ、れ……?」

「ちょいちょい、私の顔忘れた?」

 

 辛うじて意識が残っていたユーリエは、内臓が傷付くほど殴られ朦朧とした意識の中でルクスの事を見る。最初意識が朦朧とするお陰で思考も纏まらないのか、何度か見た筈のルクスの判別が出来ていなかった彼女も次第に相手が誰なのかが分かり僅かに目を見開く。

 

「君、は……」

 

 ユーリエが自分を助けてくれている相手が誰なのかに気付いた頃、カタリナに牽制されているエリーは立ち塞がるカタリナを睨みつけながら口を開いた。

 

「カタリナさん、勝手な事をされては困りますよ。彼女に関しては私が一任されている筈です」

「そうでしょうね。ですが、これ以上の暴虐を主がお許しになるとは思えません」

「私は主の為に行っているのです。悪しき不信神者を神の名の下に浄化し――――」

 

 そこまで言ったところで室内に銃声が響いた。発砲したのはカタリナで、彼女は机の上の機材に向け発砲しエリーの言葉を強制的に中断させていた。

 

 カタリナにしては随分と乱暴な行動に、エリーと彼女の部下だけでなくルクスですら目を丸くしてカタリナに注目している。カタリナは自分に視線が集中している事に気付きながら、硝煙を上げるクロスショットをスカートの下の太腿に巻いたホルスターに仕舞った。

 

「……何が悪しき不信神者ですか」

「え……」

「何が、神の名の下に浄化ですか……!」

 

 肩を震わせ、地の底から響いているのではと言うくらい低い声で言葉を紡ぐカタリナ。その様子は一見すると怒りを押し殺している様にも感じられ、あのカタリナが遂に怒りを露わにしたのかと誰もが固唾を飲んで見守っていた。

 だが顔を上げたカタリナの顔に合ったのは、怒りではなく悲しみであった。今にも泣きそうな顔で彼女はユーリエの事を一瞥する。

 

「彼女は……ユーリエさんは己の罪と向き合い、過去を悔いて尚前に進もうとしているだけです。誰に言われるでもなく、何かに縋るでもなく、自分で道を見つけ選び、自分の足で進んでいるだけです。そんな彼女が何故こんな仕打ちを受けねばならないのですか? 私達の神は、償いの為に歩む者が苦しむ姿を望む様な存在なのですか?」

 

 それは自分自身にも投げかけている問いであった。カタリナは、否、信徒の誰もが信仰する神と直接会った事など無い。神の全ては聖書に記されている事でしか知ることは出来ず、信者は皆その聖書と教皇から伝えられる言葉から信じる神がどう言った存在なのかを想像しているだけ。

 それは化石から太古の情景を想像するのに等しい行為であり、何が正しくて何が間違っているかを正確に言い当てられるものは誰も居ない。

 

 しかしエリーは妄信的に自分の行いが神の望んだものであると自信を持って言えていた。それをカタリナはとても羨ましく思い、同時に間違っていると思っていた。

 

「私達の神は誰にでも手を差し伸べ、救いを下さる慈悲深い存在の筈です。その神が、信仰しないから、過去に過ちを犯したからと言うだけの理由で人を傷付ける事をするとは私にはとても思えません。神に慈悲の心が無ければ、私もここに居る事は無かった筈です。あなたはどうなんですか、エリーさん?」

 

 真っ直ぐ見つめてくるカタリナからは、相手を威圧するような雰囲気は感じられない。しかしエリーは、カタリナの眩しさに思わず後退り壁に背中をぶつけてしまった。

 

 エリーがカタリナに圧倒されている間に、ルクスはユーリエの拘束を完全に解き弱った彼女を優しく抱き上げていた。

 

「カタリナ、行くわよ」

「……はい」

 

 これ以上ここに居る理由は無い。カタリナはユーリエの治療の為、居心地の悪いこの部屋を早々に後にしようとした。しかしカタリナが視線を外した事で我に返ったエリーは、ユーリエを連れ出そうとする2人を引き留めるべくクロスショットを抜き銃口をカタリナの背に向けた。

 

「お待ちください。その不信神者を連れていくことは許しませんよ?」

 

 銃口を向けてくるエリーに、カタリナは足を止めると体ごと振り返り再び真っ直ぐ彼女の目を見ながら自分は武器を手にせず相対する。

 

「エリーさん……」

「カタリナさん、幾らあなたが相手とは言えこれ以上の勝手は見過ごせません。アスペン神父も黙ってはいないでしょう」

「それならばそれで構いません。私はユーリエさんを助けます。例え、あなたと戦う事になろうとも……」

 

 暫しの間、2人の間に緊迫した雰囲気が漂う。周囲の空気がまるで鉛になったかのように重く感じられ、ルクスは息苦しさに思わず首周りの衣服を引っ張り気道を確保しようとする。2人と実力の誓いルクスですらこうなのだから、偶々この場に居合わせることになったエリーの部下に至っては何時過呼吸に陥ってもおかしくない程場の雰囲気に飲まれてしまっていた。

 

 正しく一触即発、何時戦いが始まってもおかしくない状況だが、カタリナは銃を抜く事をしなかった。

 

 そのまま暫く睨み合っていたカタリナとエリーだったが、不意にエリーが視線を外し小さく息を吐きながら銃口を下げた。

 

「……止めておきましょう。本気のカタリナさんと戦って、私が無事で済む筈がありませんから」

「本気を出せるとお思いですか? 私が、曲がりなりにも味方相手に?」

「出せますよ♪ あなたはそう言う人です」

 

 そう言って肩を竦めたエリーは、そのままカタリナ達に背を向けた。それは恐らく、もう行けと言う合図なのだろう。言葉にせず雰囲気だけで負けを認めたエリーの潔さに、カタリナは小さく頭を下げるとユーリエを抱えているルクスの代わりに扉を開け部屋を出た。

 

「止まれ」

「ッ!?」

 

 刹那、カタリナの額に銃口が突き付けられる。額に触れるクロスショットの冷たい感触と体を貫くような殺気に、カタリナだけでなくルクスも息を飲んで足を止めた。

 

「アスペン神父……!」

「どういうつもりだ、カタリナ? その捕虜をどうするつもりだ?」

 

 そこに佇んでいたのは、現在この教会で実質最高指揮官の地位に居るアスペンであった。

 

 アスペン神父……カタリナも彼の全ては知らない。呼び名もこれだけで、フルネームを聞いた事は無かった。まだカタリナがこちらに赴任する前、欧州に居た頃に気付けば神父として当時見習いだったカタリナの指導役として接するようになり、その頃から謎が多い人物であるとは思っていた。

 ただ一つ言える事は、彼は目的の為であれば何処までも冷徹になれる人物と言う事であった。異教徒・異端者であれば、例え女子供が相手であっても容赦なく刃を振り下ろせる。

 

 彼であればユーリエに対しても何処までも非道な決断を下す事が出来るだろう。だがカタリナにだって、譲れないものはある。

 

「彼女を、S.B.C.T.に返します」

「それを許すと?」

 

 アスペンが引き金に指を掛け力を込める。今にも発砲しそうな様子に、ルクスが前に出ようとするがカタリナはそれを片手で制すと額に突き付けられたクロスショットを押し込む様に一歩前に踏み出した。死を恐れぬかの佇まいに、アスペンの眉がピクリと動く。

 

「エリーさんにも言いましたが、例え力尽くになろうとも助けます。神がこの様な事を望んでいると、私は思いません」

「その女が罪人だとしてもか?」

「彼女が罪人である事は事実だとしても、それを我々が勝手に裁く事は間違っています。彼女の罪は、彼女自身の手で償われるべきです」

 

 一歩も引く気配を見せないカタリナをアスペンはジッと見つめ、そのまま視線をルクスの腕の中のユーリエに向けた。息も絶え絶えと言った様子のユーリエを一瞥し、再びカタリナに視線を戻すとアスペンは重い溜め息を吐き銃口を彼女の額から外した。

 

「……まぁいい。エリーの拷問で口を割らなかった女だ、どの道引き出せる情報は無いだろう。好きにしろ」

「ありがとうございま「ただし……!」ッ!」

 

 どうやらこの場は見逃してもらえるらしいと言う事に、カタリナが少し肩から力を抜くとそれを狙っていたようにアスペンは思わず仰け反ってしまいそうになる威圧感を向けた。放たれる威圧感にカタリナの全身から冷や汗が噴き出す。

 

「見逃すのは今回だけだ。もし次にこの様な勝手をしたら……私でもお前を見逃す事は出来ない。その事を努々忘れるな」

 

 それだけ告げるとアスペンはカタリナからの返答も待たずその場を立ち去った。離れていく彼の背に、カタリナは小さく頭を下げるとルクスと共に彼とは逆の方向に向け歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ペスター博士が手配したヴラド達の隠れ家では、ヴラドがカミラとは別の1人の女性の首筋に牙を突き立て生き血を啜っていた。

 

「は……! あ、ぁぁぁ……! くひっ! ひぁ、ぁぁ……!」

 

 血を吸われている女性は体の末端から血の気が引いて行き徐々に生気を失っていく。しかし今正に命が失われつつあると言うのに、女性の顔にあるのは死への恐怖ではなく快楽による恍惚であった。

 

「あ……! うぁ、ぁ……! も、も……と! もっと……!」

 

 ノスフェクトの唾液には媚薬のような効果がある。これに加えてヴラドは、血を吸う相手に催眠術を掛け相手に極上の快楽を味合わせながら血を吸うのだ。これにより血を吸われる相手は苦痛は勿論死への恐怖も忘れ、天にも昇る様な快楽の中自ら血を差し出しヴラドの腕の中で息絶えるのである。

 

 その姿はともすれば性交渉の様な淫靡さを見せていたが、それを見て面白くないのはカミラであった。相手は所詮餌でしかないと分かってはいても、自分以外の女がヴラドの腕の中で喘ぎ悶える姿を見るのは面白くなかった。感情が抑えきれなくて、思わず血が滲む程唇を噛んでしまう。

 

「~~~~……ッ!」

 

 カミラが苛立ちに震える姿を、ギュスターが近くで見ていた。彼はヴラドが女性を吸血している姿とカミラを交互に見て、最早毎度繰り広げられているこの光景にやれやれと肩を竦めた。

 

「難儀だね、カミラ?」

「放っておいて」

 

 ギュスターが茶化すと、カミラは感情を押し殺してぶっきらぼうに答えた。カミラもあれはヴラドにとってただの食事の一環でしかないと分かっている。しかし頭では理解できても、心はヴラドが自分以外の女の血を吸う事に苛立ちを感じずにはいられなかったのだ。血を吸われている女性がヴラドを求める様な仕草を見せた時は特に、だ。

 

 カミラが苛立ちと戦いながらヴラドの食事を見守っていると、彼の腕の中の女性が遂に完全に息絶えた。体内の水分を全て吸い尽され、干からびた女性の死体をヴラドはそっとその場に横たえる。するとそれを待っていたギュスターが、ノスフェクト態であるクロコダイルノスフェクトに変異し大きく口を開けて女性の死体をスナック菓子でも食べる様に頭から噛み砕いて飲み込んだ。

 

「いいのかい、ギュスター? もっと新鮮なのも用意できるのに」

「こうした方が処分が楽だからさ。それよりヴラド様、もうちょっとカミラに構ってあげてよ」

 

 女性の死体を食べ終えたギュスターは、人間の姿に戻りながらそう言ってカミラに視線を向ける。見るとカミラがヴラドに向け物欲しそうな目を向けており、ギュスターの指摘にヴラドがそちらを見て目が合うと彼女は慌てて目を逸らそうとした。

 

「あ、いえ……! わ、私は、その……」

 

 卑しい女と思われては堪らないと、カミラは慌ててその場から離れようとする。だがヴラドはそんな彼女の姿に苦笑すると、音もなく彼女に近付きその場を離れようとする彼女の腰を抱き寄せた。

 

「ぁ……」

「すまないね、カミラ。でも勘違いしてほしくはないんだ。僕にとって、君は唯一無二の存在だ。だからできるだけ大事にしたい」

「ヴラド様……!」

 

 求められて感激するカミラに笑みを浮かべたヴラドは、彼女の腰を抱いたまま寝室の方へと向かっていく。ギュスターは寝室に向かう2人を見送りながら、自分は自分でやるべき事をやってしまおうと帽子を被り部屋から外に向かう。

 

「それじゃ、ヴラド様。僕は一足先にヴァーニィの所に行ってくるよ」

「あぁ、頼むよ。ヴォーダンの仇、しっかりとね」

「は~い! それじゃあ、2人共……待ってるからね?」

 

 そう言ってヴラドは寝室の扉を閉めた。ギュスターは無邪気な笑みを浮かべて部屋を出ると、散歩にでも出かける様な気軽さで街へと繰り出した。目指す場所は京也達が通う高校。そこにヴァーニィに変身する京也と、ヴォーダンが見つけた良質な稀血持ちの実里が居る事を知っていた。

 

 道すがら、ギュスターは空から降り注ぐ陽光を帽子の鍔で遮りながら呟いた。

 

「待ってなよ、ヴァーニィ……ヴラド様の邪魔する奴は、僕が残さず食ってやるから……!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 今正に自分達に危険が迫っているとは露知らず、京也は昼休みに揚羽、実里と共に校舎裏に集まっていた。最初は屋上にしようかと思ったが、あそこは他にも生徒が来る可能性がある。秘密の話し合いをするなら、校舎裏の方が適していた。

 

 京也は校舎裏に着くと、開口一番揚羽に頭を下げた。

 

「まずは……ゴメン、磯部さん。今までずっと黙ってて」

 

 実里だけを巻き込んで、揚羽を遠ざけていた。それは彼女を思っての事であったが、それが結果的に彼女に真実を知る機会を奪い誤解を加速させてしまった。それらの事を含めての謝罪に対し、揚羽は声も無く頷くだけで応えた。まだ彼女の中で色々と整理がついていないのだろう。京也は焦らず一つ一つ彼女に説明していった。

 

「その前に……アルフ、いいよ」

「ッ!?」

 

 説明の為には、アルフがこの場に居てくれた方がスムーズに進むと事前にアルフを近くに待機させていた。揚羽はまだ完全に誤解が解けていない状況で現れたアルフの姿に、顔を強張らせて思わず一歩後退る。実里はそんな彼女を落ち着かせようと優しく話し掛けながら肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ、揚羽。アルフちゃんは揚羽に危害を加えたりしないから」

「みのりん……」

「アルフ、目を瞑って」

「ん……」

 

 恐らく揚羽はまだ京也と実里がアルフに操られてるんじゃないかと警戒しているだろう。なので、京也は少しでも揚羽を安心させる為、アルフに目を瞑らせた上で更に彼女の目を自分の手で覆い隠した。

 

「……アルフ達ノスフェクトは、目を合わせた相手を催眠で操れるんだ。だけどこれでもう催眠は出来ない。ね? だから安心して?」

「う、うん……」

 

 取り合えずすぐさまどうこうされる事はなさそうだと理解し、一応の落ち着きを取り戻した揚羽。彼女が落ち着いたのを見て、京也は改めて彼女が知らなかった事を打ち明けた。

 

「ずっと黙ってたんだけど……実は僕、仮面ライダーなんだ」

「え?」

「見てて……アルフ、お願い」

「うん」

 

 京也は腰にヴァンドライバーを装着すると、アルフを包む様に抱きしめる。彼がアルフを抱きしめる光景に揚羽は胸を締め付けられるような気持ちになっていると、アルフが京也の首筋に牙を突き立て血を吸い始める。

 

「ん、ぐ……ぅぁ……うぅぅ……!」

「あ、紅月君ッ!?」

「大丈夫、落ち着いて」

 

 京也の血が吸われている光景に取り乱す揚羽だったが、直ぐに実里が彼女を宥めて落ち着かせた。

 

「ふぅ、ふぅ……」

「んく……ん、んぐっ! かは……ふぅ」

 

 揚羽と実里が見守っている前で、アルフが京也の首筋から牙を抜いた。そして生成されたクロスブラッドを受け取った京也は、ヴァンドライバーのドクロの口を開いてその中にクロスブラッドを逆十字の形で装填しハンドルを押して口を閉じさせて変身する。

 

「変身」

〈ダイシリアス! キョウヤ!〉

 

 静かにヴァーニィに変身した京也。揚羽は目の前で彼の姿が変わる光景に、眼球が飛び出すのではと言う程目を見開き言葉を失っていた。

 

「あ、ぇ……ほ、ホントに、紅月君が……」

「そうだよ。僕が仮面ライダーヴァーニィだ。僕は仮面ライダーとして、ノスフェクトと戦っているんだ」

「揚羽の事も、紅月君が助けてくれたんだよ。ほら、覚えてない? 前に学校にノスフェクトが出た時の事」

「前…………! もしかして、私が紅月君に用具倉庫に押し込められた時の?」

 

 以前タートルノスフェクトが出現した時の事を思い出し、その方向を見ながら訊ねた。当時は揚羽は勿論実里にも京也がヴァーニィである事は秘密だった。尤もその時に実里には見られてしまい、その時から彼女とは今の関係になった訳だが。

 

「ウチはその時に紅月君が変身するのを見て、それで今は一緒に居るの」

「何で、みのりんが?」

「須藤さんは、稀血って言う特別な血の持ち主なんだ。ノスフェクトは特に稀血に惹かれる。須藤さんは、ノスフェクトにとても狙われやすいんだ」

「ノスフェクトの王……ヴラドは、少しでも多くの稀血、欲しがってる。体を癒す為に、稀血、必要。実里は、狙われてる」

「紅月君は、そんなウチを守ってくれてたの。紅月君だけじゃない、アルフちゃんもだよ。だから揚羽、アルフちゃんの事を怖がる必要はないんだよ」

 

 ヴァーニィとアルフ、実里の言葉に揚羽の心が揺れ動いた。確かに3人の言葉を聞く限りだと、アルフは自分達の味方であるように思える。だが肝心な事、そもそもアルフが何故同じノスフェクトと敵対しているのかが分からない。もしかすると他のノスフェクトと敵対しているのはパフォーマンスで、その為に京也と実里を利用している可能性もゼロではないからだ。少なくとも揚羽はそう思ってしまう。

 それに京也の血で変身できるなら、実里から血を吸う理由が揚羽には分からなかった。

 

「……何で、この前はみのりんから血を吸ってたの?」

「あの時は、傍にアルフが居なくて僕が変身できなかったんだ」

「クロスブラッドは誰の血でも出来る訳じゃない。私と相性が良くないと……」

「それに、さっきも言ったけどウチの血は稀血って言う特別な血なの。その血で変身すれば、紅月君は凄く強くなれる。だから……」

 

 必死に揚羽に納得してもらおうと説得する3人。しかし揚羽の疑念はまだ晴れなかった。

 

「そもそも、何でノスフェクトと紅月君が戦ってるの? その子、同じノスフェクトなんだよね? 何でその子、仲間と戦ったりしてるの?」

「それは……何で?」

 

 そう言えば、実里もアルフがノスフェクトと戦う理由を知らなかった。いい機会だし聞かせてもらおうと2人の方を見れば、京也は困ったような顔をしていた。

 

「えっと、僕はただアルフを守りたいから戦ってただけで……何か、アルフ、強いノスフェクトに狙われてるみたいだったから……それに、須藤さんや他の人達を見捨てるのも嫌だったし」

「アルフちゃん?」

 

 京也自身はそこまで深い理由は無く、ただアルフや他の人達がノスフェクトに襲われるのを防ぎたいと言う理由であった。こうなるとカギはアルフにあると言う事だが、当の本人は黙したまま何も言わなかった。目を瞑っているので視線の動きは分からないが、瞼の上から見る限りにおいて目も泳いでいるように思える。何かを言おうとはしているようだが、上手く言葉が出てこない感じだ。その様子に揚羽が訝し気にアルフの事を見つめる。

 

「……何で答えないの?」

「ぅ……ぁ……」

「アルフ?」

 

 次第にアルフの体が震え始めた。まるで内側から湧き上がる何かを押さえようとしているかのように自分で自分の体を抱き、呼吸も何だか荒くなってきたように見える。明らかに何かを隠した様子に、揚羽の中で不信感が強くなっていった。

 

「やっぱり、何か隠してるんじゃ……」

「揚羽、それは……!」

 

 揚羽がアルフへの不信感を口にしようとしたその時、突如として後者の中から無数の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

 

 少し時間を遡って、京也達が校舎裏に集まった頃…………

 

「あら?」

 

 1人の女子生徒が、何時の間にか校舎内に見慣れない子供の姿があるのを見つけた。私服姿の、明らかに高校生ではない風体の1人の少年。姿恰好から見て――日本に居るとは思いたくないが――浮浪者の類ではないとは思いつつ、場違いな場所に居る少年にその女子生徒は友人と共に少年に近付いてしまった。

 

「ねぇ、僕? 何処から来たのかな?」

 

 女子生徒が少年に声を掛けたのには幾つかの理由がある。一つは、単純にこの場違いな場所に居る少年が気になったからと言うもの。二つ目に、この女子生徒が揚羽と同じ傾向の他人を放っておけない優しい少女である事。

 

 そして、何より…………

 

「(ねぇ! この子すっごく可愛くない?)」

「(可愛い可愛い! 何処の子かな? モデルさんの子供とか、子役だったりするのかな?)」

 

 声を掛けた少女の後ろに居る友人達が、少年の姿に胸をときめかせ小声で囁き合う。そう、何より少女達の意識を引いたのは、この少年の容姿が整っているからであった。そんじょそこらの同年代だろう少年少女が霞んでしまう程、この目の前に居る少年は容姿が整い気を引かずにはいられない。

 それはこの少女達だけでなく、周囲を行き交う他の生徒達も同様だったようだ。この少女が気付いた事を皮切りに、周囲の学生達も珍しい来客の容姿に惹かれて集まってきた。

 

 彼ら彼女らは知らない。その容姿こそが何よりも少年……ギュスターらノスフェクトが獲物を誘き寄せる為の罠である事を……

 

「あ、もしかして先生の誰かのお子さんだったり? それなら、職員室に――――」

 

 そうとは知らず、心優しい少女がギュスターの手を取ろうとする。ギュスターは女子生徒が差し出してきた手を見て、それに応える様にニコリとほほ笑んだ。真顔でも整っているのに、微笑むとまるで天使の様で少女も思わずドキリと心臓が高鳴るのを感じた。

 

 だが次の瞬間、その少女の目は彼の笑みが天使から悪魔に変わる瞬間を目の当たりにする。笑みを浮かべる為口角の上がったギュスターの口……その口の端が、耳に届くほど裂け何本もの鋭い牙が覗く。

 

「――――え?」

 

 それが少女の最後の言葉となった。彼女がギュスターの異変に気付いた次の瞬間、彼の顔はワニの様な異形に変異し大きく開かれ、少女の上半身を一口で食い千切ってしまったのだ。

 

「…………は?」

「へ?」

 

 少女の上半身が消えた光景に、2人の友人は現実を受け止める事が出来なかった。脳の理解が追い付かず、時間が止まったかのようにその場で唖然と立ちすくむ。が、それも長くは続かなかった。ギュスターの咀嚼音が響く中、上半身を失った女子生徒の下半身が崩れ落ち同時に残った血が噴き出した。その血が少女2人の顔に掛かった瞬間、生暖かい血の感触と生臭い匂いに漸く脳が最大限の危険を知らせ一気に恐怖が脳を支配。パニックを起こし半狂乱になりながらその場から逃げ出そうとした。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 友人を失った悲しさよりも命の危険と恐怖に逃げ出そうとする2人だったが、天は少女達を見捨て脅威は2人を見逃さなかった。ギュスターは顔だけでなく全身をクロコダイルノスフェクトに変異させると、逃げようとする2人の片方に頭から喰らいついながらもう片方の髪を片手で掴んで逃げられなくする。

 

「ん゛~~ッ!? ん゛~~~~ッ!?!?」

「ひぃぃっ!? いや、止めてッ!? 許してぇぇぇぇッ!?」

 

 髪を掴まれた少女が何とか逃れようと藻掻いている間に、クロコダイルノスフェクトは頭から食らい付いた少女を首の力だけで持ち上げる。牙が体に食い込んではいるがまだ生きている少女は、持ち上げられて上下逆さまにされながらも足をバタつかせていた。うら若き少女の足が派手に暴れ回る様子は一見艶やかに見えなくもない。が、牙が食い込んだところからは血が滴り落ち、何よりクロコダイルノスフェクトの口の中からは半狂乱になった少女が泣き叫ぶ声がくぐもって聞こえてくる。

 

「ん゛ん゛ッ!? ん゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!?」

 

 クロコダイルノスフェクトは頭部を肥大化させると、少女の体を丸ごと口の中に含んで押し潰す様に噛み砕く。口の端から少女の血を滴らせながら溢れ出た血を飲み、残った肉体を咀嚼して嚥下する様子を間近で見せつけられた残る少女は次は自分がああなるのだと絶望し顔を青褪めさせて涙を流す。

 

「あ、ぁぁ……!? いや……いやぁぁ……お、お願い……許して……み、見逃して……」

 

 届かぬ願いと知りつつ少女が懇願すると、周囲の生徒が逃げ惑う悲鳴を聞きながらクロコダイルノスフェクトは顔を通常サイズに戻して残る少女を見やる。目が合った少女は恐怖に過呼吸になり、その姿にクロコダイルノスフェクトは笑みを浮かべる様に目を細め口を開いた。

 

「ダ~メ♪」

 

 血生臭い吐息を吐き出しながらクロコダイルノスフェクトが口にした言葉に、少女が絶望しているとその首筋に群青色のクロスブラッドを刺した。何が起きたか分からぬ内に少女の体は変異し、あっと言う間に鮫の特徴を持ったシャークノスフェクトに変異してしまう。

 

「は~い、一丁上がり~♪ それじゃ、行ってらっしゃ~い」

「シャァァァァァッ!」

 

 シャークノスフェクトの出来栄えに満足そうに頷いたクロコダイルノスフェクトが手を離すと、拘束を解き放たれた猟犬の様にシャークノスフェクトは手近な生徒から襲い掛かっていく。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ひぃぃぃぃっ!?」

「助け、助けてぇぇぇッ!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 平和だった学び舎は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていく。その光景にクロコダイルノスフェクトは楽しそうに笑みを浮かべていたのだった。




と言う訳で第37話でした。

カタリナは絶えず自問自答を続け、自分の行いを客観的に見る事を心掛けているタイプです。なのでエリーの様に妄信的になる事はなく、その代わり常に悩み苦しんでいる訳ですね。悩みを捨てられない事が、彼女にとって良い事なのか悪い事なのかは本人のみが知る所ですが。

そして遂に学校が惨劇の場に。これまでの作品でも学校が戦場になる事は幾度かありましたが、本作は過去一で悲惨な状況になるかと思われます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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