仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

4 / 84
どうも、黒井です。

今回は前回から少し時間を巻き戻ってからの話となります。


第2夜:二つの視線

 時は、揚羽と実里がバットノスフェクトに襲われる数分前に遡る。

 

 季桔市の近隣にあるS.B.C.T.支部にて、δチームの面々は束の間の平穏な時間を過ごしていた。

 

 待機用のサロンでは隊長の敦とオペレーターのリリィを除く実働部隊の全員が思い思いに暇な時間を過ごす。近くの者と雑談する者も居れば、持ち込んだ本を読む事に時間を使う者も居るし、手頃なダンベルを持ち込んで筋トレに励む者も居た。

 

 そのダンベルを上げ下げして汗を気持ちよく流している隊員……δ8を務めるアルバート・テイラーは、一向に掛からない出撃命令にうんざりしたような声を上げた。

 

「全く……一体何時になったら出撃できるんだ? これじゃ、腕が鈍っちまうぜ」

「何事も起こらないならそれで良いだろう。俺達が動くって事は、誰かが危険な目に遭ってるって事だぞ」

 

 アルバートの言葉にレックスが渋い顔をして反論する。少し前のιチームの時の様に調査目的で出撃する事もあるが、彼らの活動は基本的に事が起こってから始まる。つまり、誰かが襲われる事が前提となる訳で、そうなると被害を出さずに済ませることが難しい。通報を受けてから駆けつけた時には既に犠牲者が出ていたと言う状況も決して珍しい事ではなかった。

 そう考えると出撃命令なんて滅多に掛かるべきものではないし、何事も無く済むのであればそれでいいとすら思ってしまった。

 

 だがアルバートはそうは考えなかった。力を持て余し、怪人との戦いで己の強さを磨く為に入隊した彼にとって、出撃出来ない今の状況は酷く苦痛を伴うものであったのだ。

 

「フンッ! 相変わらず、軟弱だな。そんなんで、ウチのエースを名乗るってんだから、リリィの奴も苦労するぜ」

「あ? リリィは関係ないだろ。エースだって別に名乗りたくて名乗ってるんじゃねえ」

 

 サロンに漂う雰囲気が少し変わってきた。離れた所から火花を散らせ合うレックスとアルバートに、読書に勤しんでいた眼鏡の男性……δ4の中野(なかの) 昭俊(あきとし)は一瞬チラリとそちらに目を向けるも我関せずと言った様子で視線を読んでいる本に戻した。一方先程までレックスと話していた気弱そうな男性……δ6の藤宮(ふじみや) 秀樹(ひでき)と、アルバートに飲み物とタオルを渡そうとしていたこの場で一番ガタイが良い黒人男性……δ10のテック・ウェラーはそれぞれレックスとアルバートの2人を心配そうに交互に見ている。

 

「お、おいおい、止めとけって」

「アルも、平和ならそれで良いじゃないか」

 

 2人がレックスとアルバートの2人を宥めようとするが、気付けば2人共立ち上がり自分から相手に近付いていた。一触即発の雰囲気が漂いつつある状況に、遠巻きに眺めていた口周りに髭を蓄えた男性……δ7の後藤(ごとう) 一也(かずや)は逆に煽る様に野次を送った。

 

「おぅ、いいぞいいぞ! 今日こそ決着か?」

「煽るな馬鹿者ッ!」

 

 野次を飛ばす一也を、神経質そうな顔をした男性……δ2の進藤(しんどう) (たかし)が一喝した。δチームの次席指揮官として部隊を纏める責任を持つ彼は、敦が居ない時の部隊の纏め役を務めていた。が、癖の強い者が多いこの部隊を纏め上げるには彼は少々若かった。敦と違い威厳の足りない彼の言葉に、レックスもアルバートもあまり聞く耳を持たず互いに相手を睨みつけながら近付いて行く。

 

 そんな2人の間に割って入る男性が居た。意見するとただの優男に見える男性……δ9のロイ・フォスターは近付こうとしている2人の胸板をやんわりと押し返しながら宥めた。

 

「まぁまぁまぁ、そこまでにしときなって。な? レックスの言う事は間違っちゃいないが、アルの言う事も否定されるべきじゃない。多くの人々を守るだけの力は、ただ待ってるだけじゃ培う事なんて出来ないんだから」

「む……」

「……チッ」

 

 ロイの仲裁に2人は今一度お互い睨み付け合い、面白くなさそうに顔を逸らして距離を取った。一応の納得を見せてくれた2人にロイは肩を竦めてやれやれと言った様子で首を振り、殴り合いの喧嘩に発展しなかった事に秀樹とテックはホッと胸を撫で下ろす。そして隆は胃の辺りを押さえると、冷水器から水を汲み懐から取り出したピルケースから錠剤を一粒取り出し水で流し込んだ。

 

 一騒動起こる寸前だった張り詰めた空気のサロン。そこに片手に資料を抱えたリリィが入ってきた。彼女はサロン内部の雰囲気に直ぐに気付くと、直前に何が起こっていたのかを察し呆れた顔をレックスとアルバートの2人に向けた。

 

「何、あなた達ま~た喧嘩したの? 止めときなさいよ、隆の胃にまた穴開くわよ」

「誤解を招く言い方するな。穴が空いた事なんて無い!」

「でも開きそうになってるんでしょ?」

「ぐぅ……」

 

 言い返せないリリィの言葉に隆は唸り声を上げる。彼の手に紙コップが握られているのを見て、また彼が胃薬の世話になっている事を見抜いたリリィは小さく息を吐くと手元の資料をサロン中央の机の上に広げた。

 

「皆、これを見て」

「これは?」

「ιチームが残した、ここ最近の吸血鬼事件の発生地点よ」

 

 広げられた資料は地図だった。広く広げられた地図は季桔市周辺のものであり、地図上には幾つか赤いペンでバツ印が書かれている。見ていると事件は季桔市に集中しており、近隣にはあまり広がっていないように見えた。

 

「見て分かると思うけど、吸血鬼事件は季桔市に集中してるわ」

「何で季桔市なんだ?」

「吸血鬼に聞けよ」

「季桔市に吸血鬼が隠れてるって事なんじゃ?」

「吸血鬼って1体だけなのか? 複数いる可能性もあるぞ」

「だとすれば、市内の何処かに巣があるって事か」

「或いは、吸血鬼を使役してる組織が潜んでるか……だな」

 

 地図を見ながら議論する隊員達。その中で最後の発言はレックスのものだ。彼の発言に他の隊員達が注目する。

 

「組織? また傘木社の関与があるって?」

「可能性の話だよ。確信は何もない」

「でも、そう考えて動いた方が良いだろうな」

「だな」

 

 そもそもこの吸血鬼が自然発生したとは思えない。どう考えても何者かの関与は確実にある。そして、この手の事に関与しているとすればそれは傘木社以外に考えられなかった。それが会社崩壊前から吸血鬼に関して研究されていたのか、それとも残党が新たに生み出したのかは分からないが。

 

 アルバートはレックスに何か知っている事はないかと問い掛けた。彼とリリィが元傘木社の実験体だったと言う事はこの場の全員が知っている。被害者だった彼らを疑う訳ではないが、それはそれとして元関係者として何か知っている事はないかと期待を寄せてしまうのは人間の心理的に仕方のない事であった。

 

「お前ら何か知らないのか? それっぽいのを見たとか」

「ガキの頃の話だから確証できねえけど、覚えはねえな。つか、んな事を気にしてる余裕なんて無かった」

 

 当時は我が身とリリィを守るだけで精一杯だった。周りが全て敵と言う状況で、他の実験体の事等気にしてはいられない。

 レックスの答えにアルバートは天井を仰ぎ見て肩を竦めた。

 

 2人のやり取りを見て、リリィは一瞬だけ目を伏せた。もしかすると、希美であれば何か知っているかもしれないと思ってしまったからだ。

 

 志村(しむら) 希美(のぞみ)……元傘木社の幹部であり、リリィとレックスの2人を地獄から助け出してくれた仮面ライダーだ。彼女と出会えたからこそ、2人は実験用のモルモットから普通の人間に戻れたと言っても過言ではない。

 幹部であった彼女であれば何かを知っていてもおかしくはないだろう。だが、しかし…………

 

(ダメ……今、ノゾミに負担を掛ける訳には……)

 

 今の希美の様子を思い浮かべて、リリィは一瞬浮かんだ考えを振り払った。そして気を取り直すと、咳払いを一つして全員の注目を集めると隊長である敦と話し合って決まった今後の方針を全員に告げた。

 

「そう言う訳だから、暫くの間はローテーションでパトロールを強化するわ。場所は季桔市に限定。暫くパトロールを続けて何もなければ、徐々にパトロールの範囲を広げて――」

 

 リリィがパトロールに関する計画を説明し、レックス達は彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 その時突然リリィの持つスマホに着信が入った。響く着信音に彼女は説明を中断し、懐からスマホを取り出し素早く通話に出た。連絡を入れてきたのは敦だった。

 

「はい、リリィです。どうしました?」

『今、警察から連絡が入った。街中で正体不明の怪物が出現した。既に警官に犠牲者が出ている。急ぎ出動だ』

「了解ッ!」

 

 表情を引き締め通話を切ったリリィの様子から、出動を察した隊員達も気合を入れた顔をする。彼らの顔を見渡し、リリィは一つ頷くと全員に出動の準備に取り掛かる様指示を出した。

 

「出動よ。全員持ち場について」

『『『応ッ!!』』』

 

 リリィの指示に威勢のいい返事を返したレックス達は、肩や腕を回したりして気合を入れながら所定の持ち場へと向かう。これから彼らは自分の装備が載せられたトレーラーに乗り込み、現地に向かいながら装備を身に着け戦いに臨むのだ。

 

 その中でも最も気合が入っているのは、この部隊で一番好戦的なδ7の一也であった。彼はテンションを上げると、居ても立っても居られないと言った様子でリリィに話し掛けた。

 

「なぁリリィ、俺のチェーンガンは――」

「許可下りる訳ないでしょッ! 街中での戦闘よ、自重しなさいッ!」

「うぇ~~……」

 

 ライトスコープの装備としては最大の火力を誇る装備であるチェーンガン。ヘリに搭載されるレベルの威力のそれは、許可が降りなければ使用が出来ない。無論そのレベルの火力が求められる場合もあるのだが、相手の戦力が分からない今はあまり過剰な火力を持ち込む事も出来ずそもそも街中でそんな火力をぶっ放す訳にもいかないと即行で却下された。にべもなく却下され、一也が目に見えてテンションを下げる。

 

 一方、出撃に向けて気合を入れる秀樹に1人の隊員が近付いた。δ3を務める小林(こばやし) 吾郎(ごろう)だ。彼はレックスとアルバートの2人を指差しながら秀樹に話し掛けた。

 

「なぁなぁ、俺らの隊に必要なのは桃太郎だと思わねえか?」

「桃太郎? 何で?」

「犬と猿を従わせて協力させるのは桃太郎以外に居ないだろ?」

 

 恐らくは喧嘩するレックスとアルバートを犬猿の仲に(なぞら)え、犬と猿から連想して桃太郎を掛けた洒落のつもりなのだろう。それを聞かされた秀樹は先程の気合もどこへやら渋い顔をした。

 

「小林さん……頼むから出動前に気分が萎える事言うのやめてくれ」

「おいおい、神経張りつめ過ぎだぜ? もっとリラックスしろよ」

「アンタが原因だよ」

「ちょっとそこの2人ッ! さっさとしなさいッ!」

 

 リリィに急かされながらも全員が持ち場に着く。移動用のトレーラーに乗り込み、出発したトレーラーの内部で隊員達はボディースーツに着替えメカニックの手助けを受けながらライトスコープの装備を装着していく。

 

 それぞれのトレーラーの中で完全装備を身に着けた隊員達は、現場に着くまで座席に座り戦いの時を待つ。実戦が近付くとなれば流石にふざける輩も居なくなり、誰もが表情は見えずとも気合の入った張りつめた雰囲気を見に纏っていた。

 

『現着、5分前ッ!』

『監視カメラの情報から、正体不明の怪物に女子高生2人が追跡されている。最優先は女子高生2人の避難。次点で怪物の撃破ないし撃退だ』

 

 リリィの続き敦からの通信が入る。その際彼らが身に着けているヘルメット内部に監視カメラが捉えた映像だろう、2人の女子高生……揚羽と実里の2人が慌てた様子で逃げる姿が映される。そしてその背後から追跡する、バットノスフェクトの姿も。

 

 そこまで見た所で、車内に再びアナウンスが入った。

 

『現着ッ! 後部ハッチ、開きますッ!』

『出動ッ!』

 

 通信機に敦の声が響くと同時に車両後部のハッチが開く。号令と同時に武器を手に立ち上がったライトスコープ達は、素早く外に出ると目の前に立つ既に変身している敦のスコープを前に姿勢を正した。

 

「よし、行くぞ」

 

 スコープを先頭に、δチームが街中を掛けていく。その道中、彼らの耳に慌てた様子の揚羽と実里の声が聞こえてきた。現場が大分近い証拠だ。

 

 程無くして彼らは転んで地面に倒れた2人と、その2人に襲い掛かろうとしているバットノスフェクトの姿を確認した。それを見た瞬間δ5のレックスは、装備の出力をフルに発揮して全速力で2人とバットノスフェクトの間に入り、バットノスフェクトを押し返す様にして2人を守った。

 迫る脅威を前に恐怖で蹲り目を瞑っていた2人は、一向に襲ってこない痛みに顔を上げそこでライトスコープの姿を確認した。

 

「え……」

「これ、って……」

「く、ぬぅ……!」

 

 目まぐるしく変わる状況に理解が追い付かないのか、呆然と呟く2人の声がδ5の耳に入る。このままだと2人が戦闘に巻き込まれてしまうと、彼は気合を入れてバットノスフェクトを押し退けた。

 

「おぉぉぉぉっ!」

 

 全身のサーボモーターが唸りを上げる。これ以上出力を上げると装備が痛み、後でメカニックから文句を言われるだろうが構うものか。最優先は今自分の後ろに居る2人の少女の身の安全なのだから。

 雄叫びと共にδ5はバットノスフェクトを持ち上げ放り投げた。

 

「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 δ5がバットノスフェクトを投げ捨てるように放る。その間に2人は別の隊員によりその場から逃がされ、この場に残ったのはδチームとバットノスフェクトだけになった。

 

「δ5、下がれッ!」

「了解ッ!」

「総員、構えろッ!……撃てぇッ!」

 

 スコープの合図と共にδチームの隊員達が一斉に引き金を引く。放たれる無数の弾丸。初期のS.B.C.T.のそれと比べて遥かに強力になった銃弾は、ファッジを始めとした異形を蜂の巣にするだけの十分な威力を持つ。事実銃撃を喰らったバットノスフェクトは、全身に銃弾による穴を開け血を噴きながら倒れた。

 

「倒したか?」

「何だよ、大した事ないじゃねえか」

 

 つい最近ιチームが一方的に全滅したので、それと何らかの関係があるかと気を張っていた隊員達は、思いの外あっさりと倒れたベットノスフェクトに拍子抜けと言う声すら上げた。

 

 だが、それは甘い考えであった。血を噴き倒れたと思ったバットノスフェクトは、次の瞬間跳ねる様に立ち上がったのだ。

 

「うぉっ!?」

「まだ立つかッ!」

 

 立ち上がったバットノスフェクトに再び銃撃が開始される。しかし銃弾が穿ったノスフェクトの体は、穿たれた次の瞬間には再生してしまう。どれだけ血だらけになろうとも今度は倒れる様子もなく、それどころか銃撃を物ともせず突撃してきた。

 迫るバットノスフェクトに攻撃が集中されるも、ノスフェクトを止める事は出来ない。堪らずδチームは左右に割れる様にバットノスフェクトの突撃を回避し、同時に同士討ちを避ける為銃撃が止まる。

 

 するとそれを待っていたようにバットノスフェクトは近くに居た隊員に襲い掛かった。狙われたのはδ6の秀樹だ。バットノスフェクトは回避の為に体勢が崩れた彼に掴み掛り、鋭い牙の生えた口で噛み付こうとした。

 

「うわっ!?」

「δ6ッ!」

 

 幸いな事にδ6は噛み付きの直撃は回避した。咄嗟に銃を盾にして噛ませる事で自身が直接噛まれる事は防げた。が、次の瞬間バットノスフェクトが噛み付いた銃のフレームが歪んでいった。

 

「嘘、だろ……!?」

 

 まさか銃を噛み付きで破壊されるとは思っていなかったのでδ6は言葉を失う。使用している銃器に関わらず、ライトスコープの装備一式はどれもファッジを始めとした強力な怪物を相手にする為かなり頑丈に作られている。それが噛み付きだけでこうも容易く破壊されたのは予想外にも程があった。

 

 そのままバットノスフェクトはδ6を押し倒して引き裂こうとする。だが他の隊員がそれを許さない。δ5とδ8が背後からバットノスフェクトに掴み掛り、ガンマソードで斬りつけながらδ6から引き剥がす。バットノスフェクトを引き剥がした2人はそのまま力の限りそいつを押し退け、倒れたδ6に手を貸し立ち上がらせた。

 

「δ6、無事か?」

「あぁ、助かった」

「一度トレーラーに戻って予備の装備持ってこい」

「分かった、すまない」

 

 一旦後退するδ6を援護する様に銃撃する2人。他の隊員もそれに続く様にバットノスフェクトを攻撃するが、バットノスフェクトは翼を広げて空中に飛び上がると超音波攻撃でδチームの動きを鈍らせた。

 

「うわ、わぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ぐぅぅぅぅぅうっっ!?」

 

 強力な超音波が、ライトスコープの中の隊員達の脳を揺さぶる。その苦痛に頭を抱えて蹲る隊員達の中、スコープを纏う敦だけは耐え銃撃で超音波を中断させた。

 

「くっ!」

 

 下方からの銃撃に超音波を止めるバットノスフェクトだったが、そこで終わる事はせず上空からの急降下攻撃でδ8に突撃し急降下の速度と合わせたタックルで彼を吹き飛ばし壁に叩き付けた。

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

 壁に叩き付けられその場に倒れるδ8。倒れた彼を他の隊員がフォローする中、バットノスフェクトはまたしても上空に飛び上がり空中からの攻撃を続けた。

 

 このままでは徐々にこちらの数を減らされジリ貧となる。ここでスコープは空戦用パッケージを使用して迎え撃つべきか……と、そこまで考えていた時δ8が倒れている辺りの壁を飛び越えて何者かが戦闘に乱入してきた。

 まさか敵の増援かとそちらにガンマライフルの銃口を向けるスコープだったが、乱入してきたそいつは体を無数の蝙蝠に変換すると他の隊員に襲い掛かろうとしていたバットノスフェクトの前に素早く移動し立ち塞がった。

 

「グルッ!?」

「なっ!?」

「こいつは……!」

 

 突如姿を現したその存在に敵も味方も誰もが動きを止める。周囲から向けられる驚愕の視線に、乱入者は気を留める事無くそのままバットノスフェクトに回し蹴りをお見舞いし地面に叩き落した。

 

「ギャウッ!?」

 

 地面に叩き付けられて悲鳴を上げるバットノスフェクトの前に、乱入者が降り立った。その後ろ姿にδ5が……レックスが、憧れと感動を滲ませながらその名を口にした。

 

「仮面ライダー……ヴァーニィ」

 

 呟く様に名を呼ばれた乱入者……仮面ライダーヴァーニィ。彼は呼ばれた自分の名前には意識を向けず、バットノスフェクトに飛び掛かる様に攻撃を仕掛けた。

 

「ふぅぅ…………! おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 雄叫びを上げながら飛び掛かるヴァーニィ。バットノスフェクトはそれを迎え撃ち、掴み掛って投げ飛ばした。自分の飛び掛かりの勢いをそのまま利用されて投げ飛ばされたヴァーニィだったが、彼はすぐさま立ち上がると目を光らせ全身に力を籠める。

 

「グルル……!」

 

 ヴァーニィが威嚇する獣の様な声を上げると、彼が身に纏うボロボロのコートが明らかに彼の意志に反応したように揺らめいた。そして液状化したような動きをしたと思ったら、そのまま彼自身の腕に巻き付き形状が大きく変化。まるで腕が肥大化したように大きく太くなり、手には鋭い爪が生え巨大な熊か何かの手の様になった。

 

「オォォォォッ!」

 

 巨大化した手と鋭い爪でバットノスフェクトに襲い掛かる。見た目通りの圧を感じさせる攻撃を、バットノスフェクトは本能的に喰らうとヤバいと判断したのか転がる様に避ける。すると外れたヴァーニィの一撃は勢いそのままに先程までバットノスフェクトが立っていた地面を大きく抉った。

 

「な、なんて威力だ……!」

 

 一撃でコンクリートで舗装された地面をひっくり返すのではと言う程の一撃にδ2が思わず慄く。ヴァーニィはそれに構わずバットノスフェクトへの攻撃を続行した。例え攻撃を回避されても、諦める事無く食い下がり攻撃し続ける。その怒涛の攻撃にバットノスフェクトも逃げるばかりであった。

 

 最初は素早い動きでヴァーニィを上手くやり過ごしていたバットノスフェクトは、時に隙を見ては低空飛行し蹴りをお見舞いして逆にヴァーニィにダメージを負わせていた。

 

「カッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 喰らわされた一撃に後ろにひっくり返る様に倒れるヴァーニィは、攻撃された勢いを利用し痛みを堪えながら立ち上がる。だが彼が立ち上がった時には既にバットノスフェクトは翼を広げて空中へと飛翔しており、ヴァーニィの攻撃が届かない所まで向かってしまっていた。

 

 このまま逃げるのかと追撃すべく銃口を向けるδチームだったが、不意に振り返ったバットノスフェクトは大きく口を開けるとそれまでで最大出力の超音波をヴァーニィを中心に放つ。空気をも震わせるほどの超音波にはヴァーニィも周囲のδチームも脳を揺さぶられるほどの衝撃を受け、悲鳴を上げながらその場に蹲ってしまった。

 

「う、あっ!? がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ぐぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 苦しむヴァーニィ達にバットノスフェクトは超音波を放ちながら口角をニヤリと上げる。このまま超音波を浴びせ続ければ、その振動に肉体の内部までをお傷付けられ動けなくなるだろう。その時に地上に降り、トドメを刺せば自分の勝ちだと考えていた。

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

 その時ヴァーニィが叫びながら腕を振り回す。あまりの苦痛に気でも触れたかと思われたがそうではない。彼は苦痛を堪えながら、近くの電柱を巨腕で粉砕したのだ。根元近くを粉砕された電柱は、支えを失いゆっくりと倒れていく。

 

 その倒れていく電柱の先には、今正に空中から超音波を放っているバットノスフェクトの姿があった。バットノスフェクトは超音波でヴァーニィ達を攻撃する事にばかり集中していて電柱が自分に向けて倒れてきている事に気付いていない。

 

 そいつが迫る電柱に気付いたのは、傾いた電柱が自分の目前にまで迫ってきた時であった。

 

「? ガッ!?!?」

 

 出し抜けに電線を引き千切りながら電柱が倒れ、まるでハエを叩き落す様にバットノスフェクトが地面に叩き付けられる。倒れてきた電柱に押し潰されるように叩き落されたバットノスフェクトは、自分の上に圧し掛かる電柱の残骸を力尽くで押し退けた。

 

「ガ、グゥ……」

 

 何とか電柱の下から抜け出し立ち上がったバットノスフェクトだったが、立ち上がり顔を上げた時目の前には既にヴァーニィが立っていた。まるでバットノスフェクトが立ち上がるのを待っていたかのような姿に、バットノスフェクトは驚愕のあまり動きを止める。

 

 そして次の瞬間、ヴァーニィはバットノスフェクトに掴み掛ると、クラッシャーを開きバットノスフェクトの首筋に鋭い牙を突き立てた。

 

「ガヴッ!」

「ガァァァッ!?」

 

 首筋の肉を食い千切らんとするように食らい付くヴァーニィの姿は、今までの仮面ライダーにはない程生物的で攻撃的だった。まるで飢えた獣の様な姿に、δチームも目が離せなくなる。

 

 δチームからの視線を受けながら、ヴァーニィは突き立てた牙を通してバットノスフェクトの血を飲んでいた。ゴクゴクと喉を鳴らしながら血を暫く吸っていたヴァーニィに、バットノスフェクトは本能的な危機を感じて我武者羅になって振り払う。

 

「グルァァァッ!?」

「くっ!」

 

 力任せに腕を振り回すバットノスフェクトにより強制的に口を離させられた。強かに打たれた胸元を押さえながら、ヴァーニィは口から血を垂らしながら視線をバットノスフェクトから離さない。

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

 ヴァーニィは口元を拭いながらバットノスフェクトを睨む。彼の視線の先では何とか吸血から逃れたバットノスフェクトが、傷口を押さえながらフラフラと後ずさりしている様子が見られた。

 それを見てヴァーニィはベルトの左右の部分にあるスイッチを同時に押した。

 

〈アナライズ! アイデント、マジックバレット!〉

 

 バックルから音声が鳴り響き、バックルのドクロの目が妖しく煌めく。そして彼の首から胴、ベルトを経由して右足に赤黒い何かが流れていく。赤黒い流れが全て右足に集まると、バックルのドクロの目が一際強く輝き音声が鳴り響く。

 

〈プレスクリプション・フィニッシュ!〉

「ハァァァァァァァッ!!」

 

 ベルトから音声が響くと、ヴァーニィはバットノスフェクトに向け右足で飛び蹴りを放つ。吸血されてフラフラなバットノスフェクトはこれを回避も防御も出来ず、真正面からまともに攻撃を喰らってしまった。相手の胸の中心、心臓の辺りに蹴りが直撃すると、その瞬間踵の部分にあるアンカーが杭打機の様に伸びバットノスフェクトの体に打ち込まれた。同時にヴァーニィの右足に集まっていた何かがバットノスフェクトの体の中に流れ込んでいく。

 

「ガァァァァァッ!?」

 

 蹴りと杭打機の一撃に、バットノスフェクトが大きな悲鳴を上げる。体を震わせて叫ぶバットノスフェクトを前に、ヴァーニィは左足で蹴りを叩き込みその勢いで右足を離しバク宙しながらバットノスフェクトから距離を取る。

 

 そして彼が地面に降り立つと同時に、杭を打ち込まれた部分を中心にバットノスフェクトの全身に赤黒い血管が広がった。その血管の様な物から光が広がったかと思うと、耐えきれなくなったかのようにバットノスフェクトの体が弾け飛ぶように爆散した。

 

 爆炎に包まれるバットノスフェクト。それをヴァーニィとS.B.C.T.が見ていると、後には首から出血して死んだ警官の死体だけが残された。

 

「あれはッ!?」

 

 倒れている警官の死体にδ5が近付き、間違いなく死んでいる事を確認し俯き力無く首を振る。

 ここでδ5を始めとしたS.B.C.T.の隊員達は揃ってヴァーニィの事を見やる。彼が参戦してくれた事で警官が変異した怪物を倒せたことは間違いない。だがこの警官が死んだのは、果たして変異した事が原因なのかそれともヴァーニィが倒した事が原因なのか。

 

 そこまで考えた所で、δ5は否と考えた。例えどちらが原因だとしても、警官が変異した怪物に2人の女子高生が襲われていたのは紛れもない事実。先程の怪物、バットノスフェクトを倒さなければ被害はさらに広がっていた可能性もあるのだ。それをどんな事情があれ、防ぐことに力を貸してくれたヴァーニィに文句や不信を抱くなどお門違いにも程がある。

 

 気を取り直して対話を試みようとδ5が立ち上がったが、その瞬間ヴァーニィは彼らとの対話を拒絶する様にそっぽを向き体を無数の蝙蝠に変化させて飛び去ってしまった。

 

「あ、待って……!」

 

 思わず手を伸ばすδ5だったが、その手は届かず虚空を虚しく掴むだけに留まった。何も掴む事が出来ず、1人飛び去ってしまったヴァーニィにδ5は思わず肩を落とす。

 その彼の肩を、隊長のスコープが優しく叩いた。

 

「そう気を落とすな。あちらも我々を警戒しているんだろう。仕方のない事だ」

「隊長……」

「それよりも、今はこの状況の後始末の方が先決だ。特に、あの怪物が何なのかを早急に知る必要がある。周辺を警戒しろ。次が来ないとも限らん」

 

 スコープの指示に隊員達は負傷した仲間を下がらせながら従い、リリィの要請により科学調査班が到着。先程の戦闘で飛び散ったノスフェクトの血液サンプルを回収しつつ、残された警官の遺体も手厚く搬送した。

 

 その光景を物陰に隠れてアルフが警戒する様に見ていたが、突如何者かに背後から肩を掴まれ飛び跳ねる様に驚いた。

 

「ッ!?」

「し~」

 

 思わず悲鳴が口から飛び出しそうになるも、背後から伸びた手が彼女の口を塞いだ。目だけで振り返ると、そこには何時の間に居たのかジェーンが佇んでいるではないか。彼女の姿にアルフが目をパチクリとさせていると、ジェーンは悪戯っぽく笑いながらアルフを帰らせた。

 

「何時までもこんな所に居ちゃ駄目よ~。京也君が待ってるから~、早くお家に帰りなさ~い」

 

 何時も通りのフワフワした話し方をするジェーン。だが話し方に反して有無を言わさぬ雰囲気に、アルフは静かに首を何度も縦に振る。その姿に満足そうに笑みを浮かべたジェーンは、アルフを解放してさっさとその場から離れさせた。

 

 来た時同様、見た目からは想像もできない脚力で屋根から屋根に飛び移るアルフの姿を見送ったジェーンは、自身もその場を離れる前に一度だけ周囲を警戒しているS.B.C.T.の方を見た。そして、作業する彼らの背後に、彼らの事を苦々しく見ている警官をノスフェクトに変異させた女性の姿を確認する。彼女の姿にジェーンは先程までの雰囲気は何処へいったのかと言いたくなるような、鋭い視線をその女性に向けた。

 すると女性はその視線に気付いたのか、S.B.C.T.の隊員達から目を離し視線の主を探そうと辺りをキョロキョロと見渡す。ジェーンは女性の姿を暫し眺めた後、ゆらりと体を揺らしながら音もなくその場から立ち去った。

 

 来た時同様音もなく姿を消したジェーンは、誰に気付かれる事もなく夜の闇の中へと姿を消したのであった。




と言う訳で第2話でした。

今回はS.B.C.T.のキャラ紹介的な部分が多かったです。今回の事で大まかにですがδチームの面々の雰囲気とかは掴んでもらえたと思います。

因みに本作の怪人ノスフェクトですが、基本人間が変異させられると確実にアウトです。倒しても変異させられた人間はそのまま天に召されます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。