仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

前回に続き今回も衝撃展開。精神的にくる内容ですがどうかご容赦ください。


第39夜:最悪の言葉

 校舎裏で揚羽が遭遇したノスフェクト……オウルノスフェクトは、彼女の姿を見つけると獲物を見つけたと言わんばかりに牙を剥きだし今にも襲い掛からんと羽を膨らませギラ付いた眼を向けた。

 

「ヒッ……!?」

 

 捕食者に見つめられ、揚羽の心を恐怖が占める。その一方で、揚羽は視線を彷徨わせ実里の姿を必死に探した。彼女もここに来た筈なのに、その痕跡が見られない。突然姿を消した実里に、彼女は一早くコイツに気付きどこかに隠れているのかとも思った。

 尤もそれは願望に近く、心の何処かでは自分よりも先にコイツに遭遇して殺されてしまったのではないかと身の危険とは別の恐怖に震えていた。

 

「み、みのりん……みのりん、何処……!?」

「グルル……!」

 

 実里を探してもたついている間に、オウルノスフェクトは揚羽に襲い掛かろうと歩みを進める。近付いて来るオウルノスフェクトに恐怖に足が震えた揚羽は、足がもつれて後ろに転び尻餅をついてしまった。

 

「あぅっ!?」

「グルルル、ガァァァッ!」

「ヒィッ!? 止めてぇッ!?」

 

 揚羽が尻餅をついたのを好機と見たのか、オウルノスフェクトは彼女に襲い掛かろうと翼を広げて一気に接近。滑空してあっという間に近付いて来るオウルノスフェクトに、揚羽は殺されると恐怖のあまり思わず両手で顔を覆った。

 

 恐怖の中、揚羽は咄嗟に助けを呼んだ。

 

「紅月君、助けてぇッ!?」

 

 揚羽の叫びが周囲に響いた瞬間、何処からか銃声が轟き一発の銃弾がオウルノスフェクトの翼に命中した。銃弾に含まれる銀成分がオウルノスフェクトの翼を焼き、その激痛にオウルノスフェクトは空中でバランスを崩し進行方向がズレて墜落するとそのまま揚羽の横を転がっていった。

 

「わわッ!? な、何? 紅月君?」

 

 束の間、揚羽はヴァーニィが助けに来てくれたのかと周囲を見渡した。が、彼女の目に飛び込んできたのは予想の斜め上を行く人物の姿であった。

 

「ま~ったく、こちとら忙しいってのにさぁ……」

「あ、あなたは……!」

 

 聞き覚えのある声に揚羽が声のした方を見れば、そこに居たのは硝煙を上げるクロスショットを構えながらスキットルを呷っているルクスの姿であった。ルクスはスキットルの中の酒を喉に流し込むと、飲み口から口を離し手の甲で口元を乱暴に拭った。その間も銃口はオウルノスフェクトに向けられており、視線は油断なく相手を捉えていた。

 

 そんな彼女の視線が尻餅をついたまま呆然としている揚羽の方に向いた。ルクスは見知った少女の姿に、僅かに安堵した様子を見せるとクロスショットを腰のベルトに戻しスキットルの蓋を閉めながら顎を明後日の方にしゃくり早く逃げるよう促した。

 

「ほら、逃げるなら今の内よ。と言うかここに居られると危ないし邪魔だから早くどっか行って」

「あ、は、はいッ!」

 

 ルクスに促され、揚羽は弾かれるように立ち上がり逃げ出した。その際一瞬視線をアルフへと向けるが、僅かに躊躇するとそのまま彼女を放置して実里を探しながらその場を立ち去っていった。

 

「みのりん? みのりーん!」

 

 逃げていく揚羽の後ろ姿を眺め、彼女の姿が見えなくなると視線をそのまま倒れているアルフの方へと向けた。血の海の中で倒れたまま動かないアルフの姿に、ルクスは何処か既視感を覚えていた。

 

(ん~? あの子、何処かで……?)

 

 ルクスが違和感を感じるのも無理はない。以前の戦闘で他ならぬ彼女が変身したバルトが大槌で叩き潰したのは、ノスフェクト態になっていたアルフなのだ。その時は完全に変異が解ける事が無く、全身がボディースーツに包まれ顔も片目以外は仮面で隠れていたから分からない。だが上級修道騎士として戦ってきた勘か、ルクスは初めて見る筈の人間の姿で全裸で倒れるアルフの姿に違和感を感じていたのだ。

 

 何処で見たかとルクスが必死に記憶の中を漁っていると、体勢を立て直したオウルノスフェクトが怒りの唸り声を上げ彼女の思考を中断させる。

 

「っと、流石にそろそろこっちの相手をしてやらないといけないか」

 

 スキットルを懐に仕舞い、首に下げていたペンダントから十字架を外しベルトに装着したクロスショットに装填した。

 

「仕方ないから、便りない神に代わって相手してやるわ……変身!」

〈in Jesus' Name we pray. Amen〉

 

 神への愚痴と言う他の信者が聞けば黙ってはいないだろう事を口にしながらルクスがバルトに変身する。変身したバルトは即座にベルトに装着されたクロスショットのレバーを素早く2回起こして専用武器である大槌を取り出した。

 

〈Two judge! Judgement hammer〉

 

 両腕の鎧が液化し形状が変化。身の丈を超える柄の先端に両腕で抱えられるほどの打撃部分を持つ大槌に変化すると、ルクスはそれを軽々と振り回してオウルノスフェクトに殴り掛かった。

 

「オラァァッ!」

 

 遠心力を利用して振り下ろされた大槌の一撃。喰らえば一撃で全身の骨がバラバラになるのではと言う程の一撃を、オウルノスフェクトは翼を広げ空中に逃れる事で回避した。紙一重でバルトの一撃は何もない所に振り下ろされ、大槌が直撃した地面は陥没してクレーターが出来る。

 

 攻撃が回避されたとみるやバルトは素早く腰からクロスショットを抜き、空中のオウルノスフェクトに追撃の射撃を行った。今度はオウルノスフェクトも素早く反応し、放たれた銃弾は何もない空間を通り過ぎるだけに留まる。外れた銃弾にバルトは小さく舌打ちし、羽搏いて空中に留まるオウルノスフェクトに銃口を向けつつ相手の出方を伺った。

 

 暫し空中のオウルノスフェクトと睨み合うバルトが次に引き金を引いたのは、オウルノスフェクトが急降下の体勢を取った瞬間の事であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、校舎内に突入したS.B.C.T.γチームは、生存者の捜索をする間も無く襲撃してきたシャークノスフェクトを相手に早くも数人犠牲を出していた。突然の奇襲に浮足立っていた1階捜索チームに、2階から上を捜索するつもりだったチームが合流し応戦するも、想定以上の戦闘力を見せるシャークノスフェクトを相手に苦戦を強いられていた。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「クソッ! コイツ、素早いッ!」

「落ち着けッ! 陣形を立て直し、集中攻撃で応戦しろッ!」

 

 スコープの指示の元、ライトスコープ達が身を寄せ合い攻撃の密度を上げシャークノスフェクトの接近を可能な限り許さないようにしていた。兎に角あの牙に食らい付かれたら一巻の終わりだ。ライトスコープの装甲すら一撃で食い千切る顎の力に、一部の隊員は恐怖に戦き目に見えて士気が下がってきていた。

 

「くっ、このままでは……γ0ッ! 応援はまだ来ないのか?」

 

 スコープはシャークノスフェクトに足止めを食っている間に、コレットに増援を要請する様指示していた。こうしている間も、校舎内の別の所から戦闘と思しき音が聞こえてくる。その音からスコープは校舎内に自分達とは別に戦闘を行っている存在が居る事を察し、敵がこの1体だけではない事に自分達だけでは対処が出来ないと増援の必要を感じて要請していたのだ。

 

 とは言え要請したからすぐに来てくれる訳ではなく、部隊の隊員が徐々に数を減らしていく光景に焦りも感じてきていた。

 そんなスコープの耳に、コレットから朗報が届く。

 

『隊長、間もなく増援が到着します』

「どっちだ? εか? それともδか?」

 

 スコープの問いに、コレットが答えるよりも前にγチームの背後から猛烈な勢いでシャークノスフェクトに飛び掛かる者が居た。スラスターを全開にして突っ込み、手にした剣を振るいシャークノスフェクトの鮫肌を切り裂いたのはδチームのエースであるレックスの変身したグラスであった。

 

「ハァァァッ!」

「キシャァァァァァッ!?」

「君は……!」

「δのエースッ!」

 

 グラスの参戦はγチームの士気の下がっていた隊員達に希望を与えた。ノスフェクトと1対1で圧倒出来るだけの戦闘力、正体不明の仮面ライダーとも互角に渡り合う実力の持ち主がこの場に来てくれた事は下手な増援に来られるよりも遥かに頼もしい。

 

「遅れてすまない! δチームから先行して増援に来た、δ5のグラスだ」

「こちら、γチーム。応援に感謝する」

 

 グラスとスコープが敬礼も省略してて身近に挨拶を交わす。その間に体を切り裂かれたシャークノスフェクトが体勢を立て直そうとしていたので、グラスは蹴り飛ばして再び体勢を崩させるとこの場は自分が受け持ち死傷者も居るγチームには生存者の捜索を優先させた。

 

「コイツはこちらで何とかする。γチームは負傷者の退避と、生存者の捜索、避難誘導を!」

「了解した、頼むッ!」

 

 凶暴なシャークノスフェクトの相手は自分達では手に余る。心苦しくはあるがこの場はグラスに任せるのが賢明と、スコープは負傷者の搬送と並行して生存者の捜索に部隊を割いた。

 

「あぁ、そうだ。どうやら校舎内の別の所でも戦闘が行われているらしい。誰と誰が戦っているのかまでは見れていないが、敵はコイツだけではない可能性がある。警戒を怠るな」

「了解ッ!」

 

 スコープからの追加情報を聞き、後退していくγチームを見送りながらグラスはシャークノスフェクトを睨みつつ今得た情報を自分の中で整理していた。

 

(コイツ以外に何かが戦っている……ヴァーニィか? それとも、あの銀色の奴か……)

 

 もしヴァーニィがこの場に居るのであれば、合流出来れば心強い。反対にシルヴァらが居た場合、ちょっと面倒な事になる。相手がシルヴァやバルトであればギクシャクしてもその場で三つ巴と言う事にはならないかもしれない。だがアッシュが相手となると話は別だ。アッシュは自分達以外全て敵と言っても過言ではないスタンスを取っている為、ノスフェクトもグラスも関係なく攻撃を仕掛けてくる。まだ生存者がいるかもしれない中で、三つ巴の戦いなんて冗談ではなかった。

 

 そんな事を考えていると、シャークノスフェクトが大きく口を開けて飛び掛かって来た。グラスはその大きく開かれた口にバスターショットの銃口を向け、引き金を引いて迎え撃った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 学校敷地内の各所で戦闘が行われている事を知らず、ブラッディ・ヴァーニィはクロコダイルノスフェクトとの戦闘を繰り広げていた。戦いの様相は一進一退となっており、ヴァーニィは血液を結晶化させる事で行う攻防一体の攻撃により上級ノスフェクトに対抗していた。

 

「はっ! このっ! あぁぁぁっ!」

 

 両手に纏った血を結晶化させ即席のスパイク付きガントレットを形作りそれで殴りつけ、攻撃を弾かれるとその反動を利用して回し蹴りを放った。回し蹴りの際にも結晶化させた血で足にカッターを作り、攻撃力を増大させる事を忘れない。それでも強固なクロコダイルノスフェクトの表皮を軽く傷つけるだけで留まり、少し怯んだだけの相手が即座に反撃してきたがそれは攻撃の際に空中に生成した血の結晶が防いでくれる。そして血の結晶でクロコダイルノスフェクトの攻撃が弾かれると、ヴァーニィはその結晶を手に取り鋭利なそれを使ってクロコダイルノスフェクトの体を切りつけた。

 

「ぐ、ぅ……ハハハッ! やるね、ヴァーニィ?」

「はぁ、はぁ……くっ!」

 

 正直、この戦いはヴァーニィにとって厳しい。現状負けはしないが勝てもしない。そして勝てない状況と言うのは、戦いにおいて時間的な制限を持つヴァーニィにとって確実に不利に働いた。戦いに使える血の量が圧倒的に増えたブラッディ形態だが、基礎代謝的に徐々に消耗していく。持久戦はヴァーニィが尤も苦手としている事なのだ。このままだと血が欠乏して弱体化してしまう。その前に決着を着けなければならなかった。

 

(しかし、どうすれば……)

 

 攻め手が見つからない状況にヴァーニィが悩み攻撃の手が緩んだ。するとその瞬間を見逃さず、今度はクロコダイルノスフェクトの猛攻が始まった。

 

「あれあれ? もう終わり? それなら今度は、僕の番だよッ!」

 

 クロコダイルノスフェクトが顎を肥大化させて大きく口を開いて食らい付いてきた。先程アルフを挟み、締め付けて叩き付けた際の奴だ。喰らえば最後、恐ろし程の顎の力から逃れる事も出来ず押し潰され噛み砕かれる。

 

「ガルッ!」

「させるかッ!」

 

 ヴァーニィを丸々飲み込めるのではと言う程に巨大化した顎が迫る中、彼はその顎を閉じさせようと迫るクロコダイルノスフェクトに合わせて踵落としを叩き込んだ。ワニは顎を閉じる力は凄まじい反面、開く力は弱いと聞いた事がある。ならば、上から力を加えて強制的に口を閉じさせることも出来るのではないかと考えたのだ。

 

 しかし彼の思惑は外れた。振り下ろした踵落としをした足に伝わるのは、まるで硬い岩盤を蹴りつけたような衝撃であった。

 

「ん、な……!?」

「ざ~んねんでした♪」

「ぐぁっ!?」

 

 クロコダイルノスフェクトの口を閉じさせる為に放った踵落としが失敗に終わり、蹴り落とした体勢で固まったヴァーニィの体を鱗に覆われた尻尾が殴り飛ばす。空中で固まっていたヴァーニィにこれを回避する術はなく、辛うじて防御が間に合ったが完全ではなく内臓を潰されるのではと言う衝撃を感じながら近くの壁を突き破って部屋の中に飛び込んでしまった。突き破った壁は多目的室の物だった為、中には何もなく壁の端の方に幾つもの椅子が纏められている。

 

「ぐぅ、ぅぅぅ……」

 

 突き破った際に崩れた壁の欠片を押し退けながら立ち上がるヴァーニィ。その動きは先程までに比べて明らかに重い。戦いに耐えられるだけの血が減ってきている証拠だ。もう一刻の猶予もない。早々に決着をつけるか、血の補充をしなくてはならない。

 しかしクロコダイルノスフェクトは強い。今すぐ決着をつけるのは難しそうだ。だからと言って血を補充しようにも、クロコダイルノスフェクトはそれを許してくれそうにない。下手に吸血しようとすれば逆に自分が奴に食われてしまう。シャークノスフェクトから血を頂戴すると言う手もあるが、あの鮫肌に牙を突き立てて大丈夫かと言う不安が無いではないし、何よりあっちにはS.B.C.T.が居る。彼らに自分の吸血シーンを見せて、果たして大丈夫だろうかと言う不安が彼に決断を迷わせていた。

 

 そんな事を考えていると、出し抜けに黒板を突き破る様にしてグラスとシャークノスフェクトがヴァーニィらが居る部屋へと飛び込んできた。

 

「こんの野郎ぉぉぉっ!」

「えっ!?」

「ありゃ?」

 

 まさか自分達と同じようにこの部屋に飛び込んでくるとは思っていなかったので、ヴァーニィもクロコダイルノスフェクトも束の間戦いを止めて飛び込んできたグラス達の事を見てしまった。飛び込んできたグラスの方も、最初シャークノスフェクトと取っ組み合っていたが飛び込んだ室内にヴァーニィともう1体のノスフェクトの姿に軽く面食らった様子で一旦シャークノスフェクトから距離を取った。

 

「やっぱりお前だったかヴァーニィ!」

「あなたは……!」

「ヴァーニィ、話しは後だ。今はコイツ等を――」

 

 即座にヴァーニィと共闘しようとするグラスであったが、その時今度は外からオウルノスフェクトの両足に掴まれたバルトが窓を割って飛び込んできた。

 

「だぁぁっ!? コイツぅぅぅぅッ!」

 

 どうやらオウルノスフェクトに掴まれて持ち上げられ、空中から斜めに地面に叩き落されたらそこにあったのがこの部屋だったらしい。背中を床に叩き付けられながら、バルトは手にした大槌を振るいオウルノスフェクトを殴りつけて引き剥がした。

 結果、振り落とされる形で解放されたバルトは廊下の上をゴロゴロと転がり、そのままヴァーニィとグラスの近くで止まった。

 

「はぁ、はぁ……くっそ、あの鳥野郎……ん? あっ!」

「あなたはッ!?」

「お前、この間の青い奴ッ!」

「バルトよ、覚えなさい。それより……」

 

 立ち上がったバルトが、改めて周囲を見渡す。周りにはクロコダイルノスフェクトとシャークノスフェクト、そしてバルトに殴り飛ばされ墜落した状態から体勢を立て直したオウルノスフェクトが3人の仮面ライダーを取り囲む様に佇んでいる。

 

「……随分と面倒な事になってるみたいね」

「お前らが来たお陰でもっと面倒な事になるけどな」

「安心しなさい、今回アッシュ達は来ないわ。今ちょっとあっちも立て込んでてね」

「ユーリエの事か?」

 

 グラスがシャークノスフェクトとクロコダイルノスフェクトを警戒する様にバスターショットの銃口を向けながら問い掛ける。今彼女らが問題にする事等、それ以外に彼は考えられなかったからだ。バルト、シルヴァとアッシュ達のやり取りをチラチラと見る限り、どうやら彼女らも決して一枚岩と言う訳ではないらしい。あちらでも意見のぶつかり合いなどでゴタゴタしているようだ。それが分かって、グラスもちょっと安心した。

 

 一方バルトの方は、グラスからの問いに答えず黙って大槌を構える。周囲のノスフェクトのどれが動いても対応できるよう身構えた。

 

「……何時でも動けるよう、予定空けときなさい」

「何だと?」

「危ないッ!」

 

 バルトの言葉にグラスが一瞬そちらを見た。するとその瞬間、好機と見たシャークノスフェクトが彼に飛び掛かった。ヴァーニィが警告し気付いたグラスが銃口を向けるが、それよりも早くにバルトが振るった大槌がシャークノスフェクトを殴り飛ばした。

 

「フンッ!」

「ゴッ!?」

 

 横合いから殴り飛ばされたシャークノスフェクトはそのまま部屋の外に放り出され、バルトはそれを追って部屋の外へと出ていった。出ていこうとするバルトを横から襲おうとしたクロコダイルノスフェクトとオウルノスフェクトは、それぞれグラスとヴァーニィが押さえる様に立ち塞がり相手をする。

 

「おっと! お前は俺が相手してやる!」

「ふ~ん、じゃあ今度はお兄さんが楽しませてよッ!」

「上等ッ!」

 

 陸上を滑る様に移動し、見た目以上の素早い動きでクロコダイルノスフェクトを翻弄するグラス。ちょこまかと動き回りながら銃撃と斬撃で攻撃してくるグラスを鬱陶しく感じ、クロコダイルノスフェクトは何度も食らい付こうとしながら同時に尻尾を振るって反撃する。

 

「この、このっ!? もう、ちょこまかと……!」

 

 ヴァーニィの時とは打って変わってグラス相手に翻弄されるクロコダイルノスフェクト。

 

 その横ではヴァーニィとオウルノスフェクトが、こちらは血と羽根を舞い散らせながら戦っていた。

 

「ぜやっ! このっ!」

 

 ヴァーニィが腕を振るい蹴りを放てば、その度に攻撃の軌跡が血の結晶になって固まりオウルノスフェクトの翼による薙ぎ払いや嘴を防ぐ。そして防御に使用された結晶はそのまま武器となり、縦横無尽に振るわれオウルノスフェクトの体を抉る様に殴りつけ切り付けられる。ヴァーニィの攻撃が当たる度にオウルノスフェクトの体からは羽根が飛び散り、舞い散る羽根がヴァーニィの視界を遮った。

 

「くそっ、何だこの羽根ッ!」

 

 流石に舞い散る羽根が鬱陶しくなり腕を振るって払い飛ばそうとする。だが払えば払う程舞う羽根は増え、気付けば周囲は無数の羽根で視界が利かなくなってしまっていた。ここで漸く彼もこれがオウルノスフェクトの罠であった事に気付いた。

 

「しまった、これは……!?」

「キァァァァァッ!」

 

 視界を覆い隠すほどの羽根でオウルノスフェクトの姿を見失ってしまったヴァーニィに、オウルノスフェクトが背後から音もなく襲い掛かった。完全に不意を突かれたヴァーニィはこれに反応できず、背後から右肩を食らい付かれ食い込んだ牙が彼の血を啜り始める。

 

「うわ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ッ!? ヴァーニィッ!」

「お兄さんの相手は僕でしょッ!」

「クソッ! この野郎ッ!」

 

 食らい付こうとしてきたクロコダイルノスフェクトの口にバスターショットを挟む様に差し込み、食らい付かれるのを回避しつつグラスは足のスラスターを全力で吹かせて蹴りを放つ。スラスターの推力を乗せた蹴りはクロコダイルノスフェクトの鱗をも砕き、衝撃は内部まで届いて相手を蹴り飛ばした。

 

「ごほっ!?」

 

 蹴り飛ばされたクロコダイルノスフェクトが先程グラスとシャークノスフェクトが飛び込んできた穴から隣の部屋へと転がり込む。ヴァーニィはそこに銃撃モードのバスターショットを向けると、その場で隣の教室に開いた穴に何発も銃撃をお見舞いした。強力な銃弾が何発も隣の教室に飛び込み、一発弾ける度に轟音が響き砂埃がグラスの元へと流れてくる。

 

 隣の教室が崩壊したのではと言う程たっぷり銃弾を撃ち込み、もう十分かとグラスが射撃を止め穴へと近付いていく。途中、バイザーが下りて視界を変えながらグラスが近付き、馬鹿正直に穴の中を覗き込まず穴の縁からゆっくりと覗き込もうとした。

 

「……」

 

 派手に撃ち過ぎたのか、穴の中は舞い散る砂埃がチャフの様になり視界が遮られる。視界モードを赤外線に変えるが、射撃の際の熱量が残っているのか赤外線で見ても状況は何も変わらなかった。小さく舌打ちしグラスが一旦穴の縁から離れようとした、その瞬間クロコダイルノスフェクトが彼が寄りかかっている壁から腕を突き破らせ彼を隣の部屋に引き摺り込んだ。

 

「うぉっ!?」

「アハハッ♪ 油断したね?」

 

 クロコダイルノスフェクトはピンピンしていた。奴は部屋の中が砂埃で満たされた瞬間に射線から逃れ、銃撃を回避しグラスが油断するタイミングを待っていたのだ。部屋に引き摺り込まれた際、尻尾がグラスのバスターショットを持つ手を打ち手放させた。

 

 武器を失い、視界の悪い部屋に引き摺り込まれたグラスだったが、彼はこの程度でパニックを起こしはしない。素早く視界をX線に変え砂埃の中でも敵の姿を捉えられるようにし、同時に左右のバックラーからカッターを伸ばして至近距離からの斬撃をお見舞いした。

 

「ぐっ!?」

「離れろ、よッ!」

「うぐぅっ!?」

 

 蹴りでクロコダイルノスフェクトの拘束が緩んだ瞬間、蹴りを放って引き剥がす。引き剥がされた際にバランスを崩してひっくり返ったクロコダイルノスフェクトを前に、グラスは即座に追撃せず冷静に取り落としたバスターショットをカッターワイヤーを伸ばして回収した。

 

 蹴り飛ばされたクロコダイルノスフェクトは素早く立ち上がった。そして即座にグラスに食らい付くと飛び掛かるが、その時には既にグラスは武器を回収し構え終えていた。もしさっき即座に追撃しようとしていたら、逆に反撃の噛み付きを受けていただろう。

 

「くっ! このっ!」

「おっと!」

 

 噛み付きをバスターショットで受け止め、至近距離で睨み合うグラスとクロコダイルノスフェクト。その戦いはまだ終わる気配を見せなかった。

 

 

 

 

 その頃、オウルノスフェクトに片方の肩を食らい付かれ血を啜られたヴァーニィはこれ以上吸血されるのを防ぎ相手を引き離す為咄嗟に血の槍を作りそれを至近距離から突き刺した。

 

「ギェェェェッ!?」

 

 腹から背中に貫通する程の一撃を喰らい、オウルノスフェクトが甲高い叫び声を上げる。その際に牙が外れたので、今が好機とヴァーニィはオウルノスフェクトの翼を兼用する腕を振り払い肘鉄を振り向きざまにお見舞い。オウルノスフェクトが怯むと追撃に血の爪を作りそれで相手の胴体を大きく切り裂いた。

 

「ギァァァァァッ!?」

「はぁ……! はぁ……!」

 

 徐々にオウルノスフェクトを追い詰めていくヴァーニィの様子は何処か鬼気迫っていた。当然か、ただでさえクロコダイルノスフェクトとの戦いで血を消耗していたところで、追い打ちを掛ける様に吸血されてしまったのだ。今の攻撃で限界近くまで血を消耗し、ブラッディ形態も解除されてしまった。もう一刻の猶予もない。今の彼は血に飢え、死ぬほどの渇きに理性を失いつつあった。

 

「はぁ、はぁ……! あ、あぁぁぁぁっ!」

 

 ヴァーニィはそのままクロコダイルノスフェクトを校舎外に押し出し、木に押し付けるとクラッシャーを開きオウルノスフェクトの肩に食らい付き血を啜り始めた。

 

「ガヴッ!」

「ギェェェェェッ!?」

 

 炎天下で全力疾走した後を超えるほどの渇きを感じたヴァーニィは、やっと喉に流れ込んだ血に夢中になって血を啜り続けた。最初抵抗していたオウルノスフェクトも、力の源であり命の源でもある血を猛烈な勢いで失っていき次第に抵抗が弱くなる。

 

 そして、ついに力尽きたのかノスフェクトの変異が解け元の人間に戻った。そこでヴァーニィも落ち着きを取り戻し、ノスフェクトに変異せられていた相手を見て思わず思考が停止した。

 

「――――え?」

「ぁ……ぅ、ぁ……」

 

 そこに居たのは、血の気を失った顔で虚ろな目を虚空に向けている実里だった。実里の肩にヴァーニィの牙が食い込み、死ぬまで血を啜っている。

 

「ッ!?!?」

 

 咄嗟にヴァーニィが実里の肩から口を離した。同時に手も離すと、彼女の体はぐらりと傾きそのまま重力に引かれて地面の上に倒れる。

 

「ぁ、ぁ……すどう、さん?」

 

 呆然としながらヴァーニィが実里に声を掛けるが、返事は返ってこない。血の気を失った顔でごろりと横たわる彼女の姿は誰がどう見ても死んでいた。

 

「ヒッ!?」

 

 彼が実里の死を確信した瞬間、揚羽が駆け寄り倒れた実里を抱き上げ必死に声を掛けた。

 

「みのりんッ!?」

「ッ、磯部さん……」

「みのりん、みのりんッ!? ねぇ起きてッ!? しっかりしてよッ!? みのりんッ!?」

 

 揚羽が実里に声を掛けるが、返事は当然返ってこない。彼女は既に死んでいるのだ。冷たくなった実里の体何も見ていない虚ろな目に、揚羽も実里が死んだことを理解し彼女の遺体に顔を埋めて泣き崩れる。

 

「ぁ、ぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 喉が張り裂けるのでと言う程の泣き声が周囲に響き渡る。その声に引かれた様に、グラスとクロコダイルノスフェクト、バルトとシャークノスフェクトが戦いながら近くにやって来た。グラスとバルトは揚羽の泣き声にそちらに目をやり、彼女の腕の中にいる死んでいる実里の姿にそれぞれ仮面の下で顔を歪めた。

 

「あれは……クソッ!?」

「あれって、実里ちゃん!?」

 

 グラスとバルトが見ている前で、ヴァーニィが呆然としながら変身を解除した。彼自身に変身を解く意図はなかったが、完全に戦う意思を失った事が変身解除に繋がってしまう。

 素顔を晒した京也を見て、今度は別の意味でグラスとバルトが目を見開いた。

 

「アイツはッ!」

「あの子がッ!」

 

 2人の仮面ライダーが驚愕する前で、揚羽が突然泣くのを止めた。そして…………

 

「何で……何で、みのりんを殺したの……?」

「ッ!?」

 

 地の底から響くような、普段の揚羽なら絶対に出さないような声で京也に問い掛ける。彼女はオウルノスフェクトの変異が解け、元の姿に戻った実里の肩にヴァーニィが牙を突き立てている瞬間を見てしまったのだ。彼女の目からは、ヴァーニィが実里の肩に食らい付き血を吸って殺したようにしか見えなかった。

 

 実際には、実里はその前から死んでいる。京也達は知らない事だが、実里はヴラドに血を吸われ殺された後カミラによりノスフェクトにさせられたのである。

 しかし揚羽も当然そんな真実など知らない。彼女からすれば自身が目にした光景こそが真実であり、その真実に照らし合わせれば実里を殺したのはヴァーニィに変身した京也と言う事になった。

 

 だから、実里を失った怒りと悲しみに心を支配された揚羽は、躊躇いなくこの言葉を口に出来た。

 

「…………化け物……!」

 

 決して大きくはない声だったが、怒りと悲しみに涙を流しながら血走った目で睨み付けながら投げつけられたその言葉は、刃よりも鋭く京也の心に突き刺さり抉るのだった。




と言う訳で第39話でした。

揚羽の京也への好意が衝撃的な光景で反転して恨みに変わってしまいました。何も知らないが故に、揚羽の目からは実里が京也に殺された様にしか見えなかったんですね。元々京也に対しては揚羽は淡い好意を抱いていたので、実里の死の衝撃とかで裏切られたと処理されてしまった感じです。揚羽は純粋だけど飽く迄一般人的な思考回路ですから、こういう誤解とかも往々にしてあると言う事で。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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