仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第41夜:それぞれの立場

 高校で起こったノスフェクト騒動から戻ったルクスを真っ先に出迎えたのは、数人のイジター達から向けられる銃口であった。突然の事にしかし、銃口を向けられている本人は目の前に並ぶそれをジロリと訝し気に眺めただけで慌てる様子を見せない。

 

「何よ、これ? 何の冗談?」

「それはこちらのセリフだな」

 

 ルクスの問いに答えたのは、イジター達の指揮をしていると思われるアスペンであった。彼は銃口をルクスに構えるイジター達をかき分けるようにして彼女の前に姿を現し、自身のクロスショットを取り出し銃口は向けずに手の中で弄びながら逆に彼女に問い掛ける。

 

「一体どういうつもりだ?」

「何の事? こんな事される、心当たりがないんですけど?」

 

 あっけらかんと答えるルクスであったが、彼女は内心で何の事に関して詰められているかに気付いていた。要は、彼女がヴァーニィの正体に気付きながらもそれを見逃し通信で報告しなかった事を言われているのだ。一体何処から情報が、しかもこれほど早く漏れたのかに思考を巡らせているとアスペンの背後からエリーと揚羽が出てきて全てを察した。

 

「揚羽ちゃん……!?」

 

 流石に狼狽えたルクスの声に、揚羽は答えずそっと顔を背けた。エリーはそんな彼女を守る様に抱き寄せ、勝ち誇った笑みをルクスに向け口を開いた。

 

「この子を責めないであげてください。何も間違った事はしていません。この子は私達に、とても貴重な情報を齎してくれたのですから」

「……あんた、何処から見張ってたのよ?」

 

 幾ら何でも揚羽が自発的にエリーやアスペンに接触を図るとは思えない。と言うより、接触が早過ぎる。この時点でルクスは、自分がエリーにつけられて一部始終を見られていた事に気付いた。エリーは一部始終を目撃した上で、最大の目撃者にして凡その出来事を知っている揚羽に取り入ったのである。

 

 エリーに先手を打たれた事にルクスが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、彼女は揚羽を教会の奥へと誘っていく。このまま揚羽をエリーに好きにさせてはいけないとルクスが引き留めようとするが、そうはさせじとアスペンがクロスショットの銃口を彼女の薄い胸元に突き付け押し返した。

 

「さ、こちらにどうぞ。これからの事について、ゆっくり話しましょう」

「揚羽ちゃん、待って……!」

「待つのはお前だ、馬鹿者が。まさかお前、このまま何事も無く済むとは思っていないだろうな?」

 

 アスペンがルクスに脅す様な事を言えば、周囲のイジター達も威嚇する様に銃口を近付けてくる。自身に向けられる銃口にルクスは舌打ちをすると、抵抗するつもりがない事を示す様に大人しく両手を肩の上辺りまで上げた。降参を示すルクスから、アスペンはロザリオを引き千切る様に取り上げる。

 

「これは暫くの間没収する。クロスショットも返してもらおうか」

 

 有無を言わせぬアスペンの言葉に、ルクスは鼻を鳴らすと修道服の下に隠しているホルスターからクロスショットを抜きジトッとした目を向けながらグリップを前に向け手渡した。ルクスからクロスショットを受け取ったアスペンが手を振ると、周囲のイジター達も警戒を解き銃口を下ろす。銃口が向けられなくなっただけで重圧が小さくなり、ルクスは溜め息を吐いた。

 

「で、私はどうなるのかしら? あの拷問マニアの玩具にでもなるのかしら?」

 

 適当に言ったルクスであったが、その可能性も無くはないとルクスはちょっと警戒していた。だがアスペンは彼女の問い掛けに対し、軽く肩を竦めるともう用はないと言わんばかりに手をヒラヒラと振りつつイジター達を連れその場を離れた。

 

「素行に問題のあるお前だが、教会や騎士団に対する貢献はカタリナにも負けていないのは事実だ。今回は見逃してやる。ありがたく思うんだな」

「そりゃどうも」

 

 取り合えずエリーの玩具として拷問される事は免れたらしい。その事に軽く安堵しながらも、ルクスは状況は極めてマズイと焦りを感じた。何よりもマズいのは京也とアルフの存在がエリー達にバレてしまった事だ。このままだと騎士団の襲撃に遭い、最悪その場で殺されたり連れ去られた挙句酷い拷問を受け始末される。どう足掻いても最後はあの世行きにさせられる京也とアルフの未来に、ルクスは何はともかくカタリナに相談するべきと彼女の部屋に急いだ。

 

「カタリナ、居るッ!?」

「っと、ルクス様?」

 

 扉をブチ破る勢いでカタリナの部屋に飛び込んだルクスを出迎えたのは、部屋の片付けをしていたと思しき眼鏡の女中である。だが肝心のカタリナの姿が見当たらない。部屋の主が居ない事に、ルクスは焦りを募らせ眼鏡の女中に詰め寄りカタリナの居場所を尋ねた。

 

「ねぇ、ちょっと! カタリナは? カタリナは何処?」

 

 女中の肩を掴んで揺するルクス。彼女に比べて豊かな胸を持つ女中は、胸を揺らされながら自身の肩を掴むルクスの手を外させ彼女を宥めつつ答えた。

 

「お、落ち着いてくださいッ! カタリナ様でしたら、捕虜となっていたユーリエ様をS.B.C.T.に返還すべく単独で行動されています」

「マジでッ!? あ~、いや~、まぁこんな所に置いておくよりはいいんだろうけどさ……え? 何処で受け渡しするとかって言ってた?」

 

 流石のカタリナも1人でS.B.C.T.の支部に出向くような真似はしないだろう。何処か適当な所で待ち合わせ、そこでユーリエの受け渡しをする筈だ。その場所さえ分かれば…………

 

「いえ、余計な干渉を避ける為と言って、詳細な場所までは告げられませんでした」

 

 期待を裏切る女中の答えに、ルクスは思わず頭を抱え天を仰いだ。

 

「あ゛~~ッ!? そうだよね~、エリーのクソ馬鹿や石頭のアスペンに知られたらどんな邪魔が入るか分かったもんじゃないもんねぇぇぇッ! クソッ!? アイツら纏めて死ねばいいのにッ!!」

「お言葉が悪すぎですルクス様」

 

 もし他の団員に聞かれる様な事があれば大問題となりそうなことを叫ぶルクスを冷静に宥めながら、女中はポケットから1枚のメモ用紙を取り出しそれをルクスに手渡した。

 

「ですが、もしもと言う時の為にあなたにだけは教える様にと、行き先を書かれたメモを預かっています。私も中身は見ていないので詳しい場所までは知りません」

 

 用意の良いカタリナと弁えている女中の判断に、ルクスは先程の苦悩した姿から一転笑みを浮かべてメモを受け取って女中を抱きしめた。

 

「流石カタリナ、愛してるッ! アンタも最高よッ!」

「恐縮です」

 

 ルクスに抱きしめられながら表情を変えぬクールな女中に、ルクスは改めて感謝するとメモを見てカタリナが向かった場所を確かめ自身も即座にその場所へと向かった。今度はエリーなどに追跡されないよう、慎重に周囲を警戒しながらだ。

 

 慌ただしくルクスが出ていくと、残された女中は眼鏡の位置を直しながら小さく溜め息を吐くと途中で止めていた部屋の掃除を続行するのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 カタリナが指定したのは、季桔市内に存在する小さな公園であった。あまりにも小さく、立地の関係かこの場所を知る者は驚くほど少ないのかあまり人が立ち入った形跡がない。荒れ果ててこそいないが、どこか寂しさを感じさせる公園であった。

 

 レックスはリリィと共にこの場所を訪れていた。他の隊員は居ない。一時は隆などが罠の可能性を訴えせめてトレーラー1台分の隊員を同行させるべきと主張していたが、2人はこれを固辞して2人だけでユーリエを迎えに向かう。

 2人が他の仲間を連れずに来た理由は、やはりバルトの正体がルクスである事が分かった事に起因する。あの教会のシスターの1人であるルクスがバルトであったと言う事は、そこから紐づけしてこの様な事をする相手が誰であるかも自然と察する事が出来た。

 

「……来たか」

「ん?」

 

 徐にレックスが呟き顔を上げると、視線の先には公園に入って来るシルヴァとシルヴァに抱えられたユーリエの姿があった。公園に入ってきたシルヴァは、レックスとリリィに無言で頭を下げるとユーリエを近くのベンチにそっと座らせ自身は距離を取る。離れたシルヴァは、ベルトに装着されているクロスショットを外し近くに放った。敵対するつもりは無いと言う意思表示だろう。律儀な姿にレックスは軽く肩を竦めると、ベンチに座らされたユーリエに元へと近付き傷だらけの彼女を優しく抱き上げた。

 

「大丈夫か、ユーリエ?」

「い゛ッ!? あ、あぁ……結論から言うよ、まだあちこち痛いが命に別状はない」

「ユーリエッ! ゴメン、直ぐに助けてあげられなくて……」

「気にしないでくれ」

 

 片目が包帯で覆われているだけでなく、包帯が無い部分にもあちこちに痣がある。毛布で包まれている為首から下の様子を伺う事は出来ないが、触れただけでユーリエが痛みに顔を顰める辺り体の方もどんな状態になっているかは容易に察する事が出来た。

 そんな状態になるほど酷い扱いを受けていたと言うのに、直ぐに助けに向かう事が出来なかった事を悔やむリリィをユーリエは小さく笑って許した。

 

 ユーリエがレックス達と再会できたのを見て、シルヴァは安堵したように小さく息を吐くと踵を返して公園から立ち去ろうとする。それに気付いたリリィは数歩駆け寄り彼女の背に声を掛けた。

 

「待って、カタリナさんッ!」

「ぁ……」

 

 仮面ライダーとしての名前ではなく、本名の方を口にされてシルヴァは一瞬心臓が跳ねた。思わず足を止めた彼女に、リリィは更に駆け寄り手を伸ばせば届く距離まで近付き再び彼女の名を呼んだ。

 

「あなた、カタリナさんなんでしょ? あの青い、バルトって奴がルクスさんだったんなら、あなたは……!」

 

 一瞬、シルヴァはリリィの言葉を無視して無言で立ち去ろうかと思った。が、今更かと思い直し観念する。どの道ユーリエがシルヴァの正体がカタリナである事をバラすだろう。無駄な抵抗をするくらいなら、潔く認めてしまった方が良い。

 

 シルヴァは軽く溜め息を吐くと、近くに放ったクロスショットを拾い装填している十字架を引き抜いた。すると変身が解除され、リリィ達の前に彼女の正体が晒される。

 

 姿を現した白い改造された修道服の様な恰好――修道騎士団上級騎士の正装――をしたカタリナが振り返ると、リリィは複雑な顔を彼女に向けた。そこには相手がカタリナであった事への安堵と普段見ている彼女と変わらない事への嬉しさ、そして事実上敵対してしまっている事に対する寂しさが感じ取れた。

 

「カタリナさん……やっぱり」

「この度は、本当に申し訳ありません。まさかこの様な事になるなんて……」

 

 カタリナとしては、S.B.C.T.とは出来る限り協力関係を築いていきたいと思っていた。一度はヴァーニィへの対応で意見の相違もあって衝突しδチームにも被害を与えてしまった。その事をカタリナは未だに悔いている。あの時は彼女もヴァーニィを純粋に敵だと思い、彼に近付くδチームが毒牙に掛からないようにと心を鬼にするつもりで敵対してしまった。お陰で多数の怪我人を出してしまい、隊長の敦に至ってはまだ当分の間戦線復帰は難しい状況ときた。浅はかな判断で彼らを傷付けてしまった事に、カタリナは己の未熟さと愚かさを何度も嘆いていた。

 

 その後は何とかしてS.B.C.T.と関係修復できないかとあれこれ考えていたカタリナであったが、事態は彼女が行動するよりも早くに動き悪化してしまった。決定的だったのはエリーがユーリエを誘拐してしまった事である。あの一件でもう修道騎士団とS.B.C.T.は完全に敵対してしまった。

 

 悔いるカタリナの姿に、リリィはカタリナが1人意見の違う組織の中で苦悩しながら戦ってきた事を察し思わず手を差し伸べてしまう。

 

「ねぇ、カタリナさん……今からでも、私達仲良くできないかな?」

「え?」

「おいリリィ……!」

「正気かね?」

 

 予想外のリリィの提案に、カタリナはポカンと口を開けレックスとユーリエは険しい顔を向ける。無理もないだろう。先に述べた様にユーリエ誘拐を発端にS.B.C.T.と修道騎士団はこれ以上ない程関係が悪化してしまった。δチームは勿論、季桔市に集まっている他のチームもシルヴァを含め修道騎士団と仲良くしたいと思う者は居ないだろう。

 そんな中でリリィはカタリナと手を取り合おうとする。神経が図太いのか何も考えていないのか分からない彼女の提案に、カタリナは思わずその手を取ろうと手を伸ばし掛けた。

 

 だが彼女は直ぐに思い留まった。S.B.C.T.と手を取り合うのは彼女としても望むところ。しかしそれをこの場で、彼女1人の一存で決める訳にはいかなかった。

 

「……申し訳ありません。私1人では、その決定は出来かねます」

「君だけが来る訳にはいかないのかね?」

 

 リリィの提案をやんわりと断るカタリナだったが、そこでユーリエが声を上げた。

 

「君は今の修道騎士団のやり方に馴染めていないのだろう? そんな所に何時までも居続ける必要はないのではないかね? 勿論、S.B.C.T.が君の馴染める環境とは言い切れないが、フリーとして手を取り合うと言う選択肢も……」

 

 要はカタリナに傭兵の様な立ち位置を求めると言う事だ。現にS.B.C.T.は、元卍妖衆の忍びであった仮面ライダーゲッコウこと隼 隆司ともそう言う関係を築いている。既に前例があるのだから、カタリナともそう言った関係を結ぶ事も不可能ではない。ユーリエの言葉が正しいのであれば、彼女は現在の立ち位置に激しく揺れている。ならば…………

 

「…………それは、出来ません」

 

 しかし彼女は辛そうに顔を背けると、絞り出す様にそう言葉を紡いだ。当然レックスはここまで頑なに意見の合わない組織に居続けようとする理由を問い掛けた。

 

「何故だ? あんたはあの灰色の奴とかと意見が合わないんだろ? だったら……」

 

 確かにカタリナとエリーは意見が合わない。生粋のサディストであり他者を傷付ける事に悦楽を見出すエリーに対して、カタリナは他者を慈しみ無償の愛を与える事に躊躇が無い。エリーとも全く正反対なのに、組織全体がどちらかと言えばエリー寄りの思考に近いのだ。それなのに何故カタリナは組織を抜けようとしないのかとレックスは首を傾げるが、リリィは彼女が騎士団に居続けようとする理由に察しがついた。

 

「……孤児院の、子供達の為?」

「何だって?」

「あ……!」

 

 孤児院は教会の、騎士団の出資により成り立っている。孤児院自体が教会の一部と言った方が分かりやすい。ここでカタリナが抜ければ、子供達は教会に取り残される。そうなった場合、誰が子供達の面倒を見るのか? 教会関係者や騎士団の適当な者が引き継いでくれればいいが、最悪なのはエリーの様な狂信者がカタリナに代わって子供達の面倒を見るようになる事だ。そうなれば子供達は窮屈な生活を強いられる事になるし、下手をすると洗脳的な教育を受けて第2のエリーを生み出しかねない。

 

「……あの子達は、教会や騎士団とは何の関係もないただの子供達なんです。そんなあの子達を、これ以上私達の仕事に関わらせる訳にはいきません」

 

 カタリナは自身が修道騎士団の騎士である事を子供達には秘密にしている。血生臭い仕事を子供達に知られたくないと言う事もあるが、子供達には将来広い世界に羽搏いてほしいからだ。身近な仕事に興味を持つあまり、他の可能性を捨てる様な事はして欲しくない。

 勿論子供達が大きくなって、教会関係者になると願うのであればそれを止める様な事はしない。数ある道の中から教会を選ぶと言うのであれば、カタリナにそれを引き留める事は出来なかった。

 

 カタリナにはカタリナなりの事情がある。そして彼女の意志は簡単には揺らがない事を察して、レックスもこれ以上の勧誘は控えた。

 

「分かった……それじゃあ、次に会った時、俺とアンタはまた敵同士だ」

「はい」

「手加減は出来ねえぞ」

「こちらもそのつもりです」

 

 一瞬、レックスとカタリナは互いに鋭い視線をぶつけ合った。怒りも憎しみも無い、純粋な闘気のぶつかり合い。

 

 視線の交錯は一瞬であり、直ぐにカタリナは肩から力を抜き視線をレックスから外して踵を返してその場を離れようとした。

 そこに突如として飛び込む様にやって来たのは、シスター服姿でバイクに跨ったルクスであった。

 

「居た居た居た、見つけたッ!」

「! ルクスさん? どうしたんです、そんなに慌てて?」

 

 いきなりやって来たバイクにレックスは一瞬警戒するが、相手がルクスであると気付くと大丈夫かと安堵する。が、次に彼女が口にした言葉にそんな事も言っていられなくなった。

 

「あ、グラスも居るのね! 丁度良かった、大変なのよアンタ達!?」

「え? 何が?」

「エリーのクソ馬鹿……騎士団にヴァーニィの正体がバレたッ!」

「「なッ!?」」

 

 ルクスが口にした衝撃の内容に、レックスとリリィが同時に言葉を失った。2人はまさかルクスがバラすとは思っていないが、ならば何故ヴァーニィが京也である事がバレるのか分からず揃って彼女に詰め寄った。

 

「おいちょっと待てどういう事だよッ!?」

「ルクスさん、何でそんな事に? あの場所に他の人なんて……」

「それが居たのよ、アタシをつけてたエリーが一部始終を見てたの。しかもその後揚羽ちゃんから話聞いてアスペンに報告までしちゃって」

 

 ルクスの話にレックスとリリィは激しく焦った。カタリナは話が分かる方だからまだいいが、他の騎士団の団員は基本ノスフェクトに対してサーチアンドデストロイである。京也はノスフェクトではないが、ヴァーニィに変身できると言う事とアルフとつるんでいる事で黒と認定されて諸共に処される可能性が高い。

 

 慌てるレックス達の傍で、カタリナは話に完全について行けず困惑しながらも事情を訊ねた。

 

「すみません、説明をお願いできますか? ヴァーニィの正体とは……」

「私も気になるね。誰だったんだ? 私達が知っている相手か?」

 

 カタリナに続きユーリエが訊ねると、リリィは端的に2人にヴァーニィが京也である事を話した。

 

「ユーリエは知らないだろうけど、ヴァーニィの正体は紅月 京也って高校生よ。カタリナさん、見た事あるよね?」

「あの子がッ!?」

「その京也と言う少年の事を私は知らないが、その子は今どこに?」

「こっちで保護した。放ってはおけないからな」

 

 この状況は非常にマズイ。今まで修道騎士団は基本的に積極的な行動には出ず、活動はS.B.C.T.の秘匿性を高くしたような感じだった。ノスフェクトの出現場所が分からない為あちらも後手に回らざるを得ないのは同じだ。唯一連中が積極的だったのは、教会に探りを入れようとしたリリィとユーリエを襲撃してきた時くらいだ。

 

 しかしヴァーニィの正体がバレた事で状況は変わった。襲うべき相手がハッキリとすれば、連中は直ぐにでも動き出すだろう。

 不幸中の幸いなのは、京也とアルフの2人がS.B.C.T.で保護されている事だろうか。高校での一件で酷く憔悴した京也のケアと、事情聴取の名目で現在2人は九州支部に保護されている。流石の修道騎士団も、いきなりS.B.C.T.の支部を襲うなどと言う事はしないだろう。そもそも連中は京也がS.B.C.T.に保護されたと言う事までは知らない可能性も高い。

 

 話を纏めると、京也は今後周囲を警戒すべき状況である事に変わりはないが今すぐどうにかなるほどの事ではないと言う事か。ともあれ、暫くは京也とアルフの周りに護衛を配置するべきである事に変わりはないが。

 

 同時にルクスの口から揚羽が修道騎士団側についた事が明かされた。

 

「そんな、揚羽ちゃんがッ!?」

「まぁ、状況的には分からなくないんだけどね。友達死んで精神的にガタガタの状態じゃ、寧ろエリーの突き抜けた堂々とした立ち振る舞いが頼もしく見えたんでしょ」

「とは言え、話をする必要はありますね。分かりました、直ぐに戻りましょう」

 

 ユーリエの引き渡しは済んだし、もう何時までもここに居る必要はない。さっさと教会に戻り、揚羽と話しをするべきだとカタリナが踵を返す。結局彼女が仲間にはなってくれなかった事にリリィが少し寂しそうにその背を見送っていると、レックスの腕に抱えられたユーリエが声を上げた。

 

「待ちたまえ、シスター・カタリナ」

「何でしょう?」

「もっと落ち着いたところで話すべきかと思ったが、君達にもすぐに知らせた方が良いと思ってね。アスペンと言う男についてだ」

 

 カタリナとルクスが露骨に興味を抱いた。彼女達にとっても、アスペンと言う男は謎多き存在だったからだ。色々と不明瞭な部分が多いにもかかわらず、修道騎士団では彼女達を凌ぐ権限を持っている。その謎がユーリエの口から語られるかもしれないと言う事で、2人も興味津々な様子だった。

 

「そう言えば、ユーリエさんはアスペン神父と顔見知りな様子でしたね。一体どのようなご関係で?」

「結論から述べよう。あの男は元傘木社の人間だ」

 

 ユーリエの口から飛び出たのはまさかの情報であった。これにはアスペンと言う男の事を知らない、レックスとリリィも飛びつかずにはいられない。

 

「何ッ!?」

「嘘でしょ、そっちにも元傘木社が居るのッ!?」

「あんの、堅物……!」

「……アスペン神父は、元々傘木社で何を?」

 

 思わぬ情報に驚愕や怒りを感じる者が多い中、カタリナは冷静に嘗てのアスペンの事を詳しく訊ねた。彼女が知っているアスペンは修道騎士団上級騎士としての彼でしかない。ここでアスペンの過去を知れば、彼とまた違った関係を築けるのではないかと考えたのである。

 

 カタリナの問いにユーリエは答えようとするが、少し話が長くなりそうだったのでレックスに頼んで近くのベンチに座らせてもらった。

 

「すまない、レックス。一旦下ろしてもらえるか?」

「あぁ、いいぜ。よ、と」

「うっ!……ふう、すまないね。それで、あの男……あぁ、面倒だからアスペンで統一しよう。アスペンだけれど……彼は欧州支社の保安部の責任者だったんだ。尤も、その時は今とは違う名を名乗っていたがね」

「保安部?」

 

 傘木社で保安部と言えば、嘗て希美が幹部を務めていた保安警察が思い浮かぶ。レックスとリリィも昔保安警察に取り押さえられた経験があったので、あまりいいイメージの無い肩書である。まぁそれを言ったら、希美以外に傘木社で良い思い出や印象があるかと言われればそんなものは無いのであるが。

 

「保安部と言うと、ノゾミみたいな?」

「確かに保安警察に近い存在ではあったが、彼らの仕事はそれよりもっと狭く深い」

「と言うと?」

「彼は、ノスフェクトの処分を傘木 雄成直々に命令されていたんだ」

 

 ノスフェクトは当初、ファッジとコンペで争っていた。が、制御の問題などからファッジに軍配が上がりノスフェクトの研究は中止となり、しかしそれに反発したノスフェクト研究の責任者であったぺスター博士が秘密裏に研究を続行していたと言う経緯があった。

 

「傘木 雄成も、ペスター博士が素直にノスフェクトの研究を止めるとは思っていなかったみたいだね。ノスフェクトハンターとも言える男を欧州支社に送り込んで、ペスター博士の周囲を探りながらノスフェクトを始末していた。まぁ、ペスター博士は逃げ隠れや隠蔽が得意だったから、アスペンも博士の裏の研究の証拠を掴めず会社が崩壊してしまったがね」

 

 そこまで話して、ユーリエはカタリナに目を向けた。

 

「気を付けるんだシスター・カタリナ、シスター・ルクス。恐らく君らが身に着けているその装備、アスペンが自らの仕事を完遂すると同時に資金と自由に動ける地位を得る為に教会上層部に傘木社の技術を横流しして作らせた代物に違いない。あの男は目的の為であれば何でも利用するし、誰でも切り捨てる男だ」

「……はい」

 

 アスペンが決して尊敬したりできる類の人間ではない事はカタリナも既に承知していた。だからだろうか、ユーリエの話を聞いてもあまり驚きはしなかった。寧ろ納得の感情の方が強い。

 

「情報、ありがとうございます。ルクスさん、戻りましょう」

「戻って……どうするの?」

「アスペン神父を説得します」

 

 もしアスペンの目的がノスフェクト討伐に絞られているのであれば、付け入るスキはある筈だった。場合によっては、今のS.B.C.T.との関係を無理矢理にでも改善する事も出来るかもしれない。可能性は低いかもしれないが、それでもやらないよりはマシだ。

 

「話を聞いてくれるとは思えないけどね。まぁいいわ、付き合うわよ」

「ありがとうございます」

「んじゃ、早く後ろに乗って。飛ばすから」

 

 乗り捨てた所為で倒れていたバイクを起こし、ルクスがシスター服の裾を翻して跨った。ガーターベルトを丸見えにさせながらの騎乗に、レックスは居心地が悪そうに顔を背けリリィが彼の前に立ち塞がり視界を塞ぐ。

 

「ちょ、ルクスさんッ!? もうちょっと女として恥じらい持ってくださいよッ!」

「え? あぁ、別にいいでしょこれ位。減るもんじゃないんだし。ほらカタリナ、早く乗って」

 

 リリィの抗議も何処吹く風。そんな彼女にカタリナはクスクスと笑いながら、こちらはお淑やかにバイクに腰掛ける。修道服の裾を必要以上に広げないよう、両足を揃えて横座りの体勢で押しを捻ってルクスの背中にしがみ付く。押し付けられる巨乳の柔らかさに、ルクスは頬をニヤケさせた。

 

「おほほっ! ねぇ、カタリナ? もうちょっと強くしがみ付いてくれてもいいのよ?」

「変な事言ってないで早く出してください」

「はいは~い。それじゃ~ね~」

 

 エンジンを激しく噴かせ、2人を乗せたバイクが走り去っていく。離れていく2人の後ろ姿を見送って、レックスは再びユーリエを抱え上げリリィと共に車へと戻っていくのだった。




と言う訳で第41話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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