仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第42夜:それぞれの対立

 悪夢の様なノスフェクトによる学校の襲撃から一夜明けた。犠牲者は教員・生徒合わせて10人を軽く超え、更にその後の戦闘の影響で主に1階部分が一部の壁をぶち抜かれたりなどしていた。これらに加えて、主に生徒の間でPTSDなどを患いとてもではないが学業が行える状態ではなくなった為当分の間休校と言う事になる。

 

 これはS.B.C.T.に保護された京也にとってもある意味でありがたい状況であった。少し不謹慎ではあるかもしれないが。

 

「よぉ、よく眠れたか?」

『あ、はい……』

 

 保護され九州支部へと連れて行かれた京也とアルフは、その後事情聴取を受けると支部の中にある隊員用の宿舎の一室を与えられそこで一晩過ごした。男女のペアと言う事で最初は2人をそれぞれ別室に宛がおうとしたのだが、アルフが京也と共に居る事を望みまた監視と言う面でも一部屋に纏められていた方が楽であるのは確かなので京也とアルフは本来1人部屋である部屋に2人で入れられていた。

 

 一夜明け、朝になるとレックスは京也とアルフの部屋を訪れていた。彼が扉をノックし外から声を掛けると、既に起きていた京也の声が中から響いてきた。その声色は扉越しであると言う事を加味しても何処か覇気が感じられない。当然か、つい先日友人の1人を失い、しかもトドメを自分で刺したようなものなのだ。余程強い精神を持っているか、サイコパスの類でもない限り精神的にかなり堪えてもおかしくない。事実先日ここに連れてきた時、彼は半分抜け殻の様になっており自身も大分消耗している筈のアルフに支えられるようにして部屋に入ったのだ。2人を同じ部屋にした理由はここにもあった。

 

 扉越しに聞こえてくる元気のない声に、レックスは溜め息を抑え肩を竦めつつ扉のノブに手を掛けた。

 

「入ってもいいか?」

『はい……』

 

 許可を得てレックスが中に入ると、室内ではベッドに腰掛けた京也の傍にアルフが寄り添っている光景が目に入った。

 

 レックスの目に映る京也の姿は相変わらずであった。見るからに肩を落とした様子で、何処か胡乱な目をレックスに向けている。ともすればそのまま消えてしまいそうな彼を、アルフが繋ぎ止めようとしているかのように出来締め不安そうな目をしていた。

 

 今の京也の姿にレックスは見覚えがあった。彼がこれまで当たって来た特異生物災害で身近な者を失った生存者達の姿だ。彼ら彼女らは突然自身の親や子供、友や恋人を奪われた衝撃を自身の中で処理しきれず魂が抜けた様に呆けてしまっていた。

 奪われた者の中には理不尽への怒りや悲しみをレックス達にぶつけてくる者も居た。だがある意味でレックスは、そう言う八つ当たりしてくれる者達の方が安心する事が出来た。そう言った者達はまだ生きる意志が感じられる。一時の感情に任せて激情に駆られるが、それが過ぎれば悲しみを背負いながらもまた歩き出してくれる。

 

 だが今の京也の様に抜け殻の様になってしまっている者は要注意だった。下手をすると目を離した隙に世を儚んで自ら命を絶ってしまいかねないからだ。事実被害者の中には襲われて殺されかけた恐怖と身内を失った悲しみに心が押し潰されて助けた後に自殺したり未遂に終わる者が居た。S.B.C.T.にはそう言った被害者に対処する為のマニュアルもあるのだが、京也の場合はまた事情が複雑であった。

 

 幸いなのは、京也には彼を想い彼の気持ちを繋ぎ止めようとしてくれるアルフが居てくれる事だろうか。それがどんな形であれ、彼女が彼の意志を生きる事に繋ぎ止めてくれる筈だ。その為に2人が見ていない所で何をしていようと、レックスはそれを咎めるつもりは無い。

 

「気分はどうだ?」

「悪くは……ないです。あの、家に連絡したいんですけど……」

「それはまた後でな。今は取り合えず、飯にしよう。腹、減ってないか?」

 

 当たり障りのない話題で気さくに接するレックス。彼の言葉に、京也は軽く腹に手を当て小さく頷いて答えた。

 

「少し……」

「んじゃ、決まりだな。来いよ、食堂に案内する」

 

 レックスが手招きすると京也はアルフをくっつけたまま立ち上がった。この間アルフはずっと京也に抱き着いており、それでいて彼女は京也の動きを阻害しない様に巧みに動いていた。京也もアルフに抱き着かれていると言うのに、全く動き辛そうにする素振りを見せない。その様子には慣れを感じさせた。普段から2人の距離はこれくらい近いのだろう事が伺える。仲睦まじい2人の姿に、レックスは話題の一つとして軽く茶化した。

 

「仲が良さそうで何よりだな。羨ましいよ」

「え? はぁ、どうも……」

「俺にもリリィって言う彼女が居るんだけどな。ほら、昨日2人が乗ったワゴン車に居た女だ。アイツとは長い付き合いだし、互いに愛し合ってるのは確かなんだが、最近は特に忙しくてなぁ」

 

 何気ない会話から2人との距離を近付けようと努力する。手応えは悪くない。昨日は本当に相槌を打ってくれさえすれば御の字と言う有様だった。それに比べれば今朝は大分反応が良くなっていた。悪くない感触である。

 

 そのまま2人を連れて支部の食堂へと入った。内部は広いが、案外ガランとしている。それもその筈で、今の時間は8時を過ぎている。他の隊員達はとっくの昔に朝食を終え、先日の学校襲撃事件の事後調査やパトロール、訓練などに明け暮れていた。

 

「すみません、もしかして僕が起きてくるのが遅かったから……」

「気にすんな。お前らも寧ろ、変に注目されるよりはこの方が良いだろ?」

「はい……」

 

 この時間を選んだのはレックスの判断だった。仮面ライダーヴァーニィは今のS.B.C.T.では良くも悪くも注目の的である。先日の実里の死から完全に立ち直ったとは言えない今の京也には、他の隊員からの視線や無遠慮なちょっかいほど苦痛なものは無いに違いない。彼の精神に無用な負担を掛ける訳にはいかないと、レックスは敢えて時間をズラして京也を食堂に案内したのである。

 

「さ、座れよ」

「どうも……」

「ん」

 

 2人を適当な席につかせ、レックスはカウンターで今日の朝食を受け取り2人の元へと持っていく。朝食を乗せたトレーを2人の前に置き、そこで彼はアルフが上級ノスフェクトである事を思い出し普通の食事が出来るのかが気になった。

 

「あっ! そう言えばそっちの嬢ちゃん……アルフだったな。アルフちゃんは普通の飯食えるのか?」

「はい。食べる分には何も問題ありません。ね、アルフ?」

うん」

「そっかそっか、そいつは良かった」

 

 これでもし血以外の物は体が受け付けない等と言われたらどうしようかと悩むところである。急いで輸血用の全血製剤を用意しなければならなかったところだ。

 

 静かに食事を始める京也とアルフを見て、レックスはコーヒーを淹れ並んだ2人の対面に座りチビチビと啜り始める。暫く彼らの間に会話はなく、食器が動く音だけが響いていた。

 その静かな食事を破る様に声を上げたのは京也であった。

 

「あの……」

「ん?」

「僕らは、これからどうなるんでしょう?」

 

 自分の現状に関しては一応聞いている。これまでに何度か敵対してきた修道騎士団に京也の正体がバレてしまった。今後修道騎士団は積極的に京也を狙ってくるだろうから、自宅にいるよりはここに居た方が安全だと。先日ここに連れてこられた時は実里を失ったショックで思考が纏まらずこれからの事まで考えている余裕が無かった。だが落ち着いた今、実里を失った事とは別の不安が鎌首を擡げ始め、食事も満足に喉を通らない程気を揉んでいた。

 

 いや……食事が喉を通らないのはまだ実里を失ったショックと揚羽に言われた言葉のショックが後を引いているからだろうか。

 

「当分はここで過ごしてもらう。名目は保護と事情聴取だな。何しろ、君は今回の一連の事件と関係が深い訳だし」

「そう、ですよね。……やっぱり、身体検査とかもされるんですか?」

 

 こういう時、未知の力を得た者が何らかの組織の預かりとなった場合、体に何らかの異変が起きていないかを調べる検査は付き物と言えた。S.B.C.T.も当然ヴァーニィに関しては色々と興味津々だろうから、アルフ共々検査されないと言う事はない筈である。

 

 ところが、京也の予想に対してレックスは口をへの字に曲げ答えた。

 

「ん~、上としては当然検査したいんだろうけどな」

「何か?」

「今ウチに居る、その手の専門家が動くに動けなくてな」

 

 専門家とは当然ユーリエの事だ。修道騎士団の捕虜となっている間に酷い拷問を受けていたユーリエは、現在絶対安静でベッドの上であった。当然検査などを担当する事は不可能であり、彼女以外にS.B.C.T.関係者でノスフェクトに関する知識が豊富な者も居ない為京也の検査に関しては現状後回しにされている状態であった。

 

「そう言う訳だから、今日の所は軽い事情聴取だけだと思ってくれ。

「はい……あの、レックスさん」

「ん? どうした?」

「……ありがとうございます」

 

 レックスが色々と気遣ってくれている事に京也は気付いていた。ただ先日はとてもではないがそこまで意識を向けている余裕がなく、感謝する事も出来ていなかった。食事の味が分かるくらいの余裕を取り戻せた、今になって漸く感謝の言葉を口に出来たことに京也は安堵と同時に申し訳なさを感じずにはいられなかった。

 

 そんな彼の感謝にアルフが続く様に頭を下げ、2人からの感謝にレックスは一瞬キョトンと目を瞬かせ、次の瞬間気恥ずかしそうに破顔させたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 この日、カミラはとても上機嫌であった。それもその筈で、遂にヴラドが完全に力を取り戻せたのである。

 

「おめでとうございます、ヴラド様……! この日を心待ちにしておりました!」

「ありがとう、カミラ。僕を支えてくれた君が居たからだ。ギュスターも、よく頑張ってくれたね。ありがとう」

「えへへ~♪」

 

 先日実里の血をたっぷり吸い、稀血の力でヴラドは本来の力を取り戻せた。体には一点の曇りもなく、ギリシャの彫刻の様な完璧な肢体を惜しげもなく晒している。カミラは美の体現とも言えるヴラドの本来の姿に見惚れ、ギュスターは褒められた事に無邪気な笑みを浮かべていた。

 

 そんな2人の配下を、ヴラドは心の底から労った。彼が大きく消耗しあまり派手に動く事が出来ずにいた間、カミラは献身的に彼を支えてくれた。ギュスターもまた、ヴラド達が隠れ潜んでいる間ペスター博士を守ってくれた。2人が居なければ、ヴラドは何処かで身動きが取れなくなったり修道騎士団その他の手でペスター博士を失っていたかもしれないだろう。そう思うと、彼はカミラとギュスターの2人が愛おしく思えた。

 

 一見すると和気藹々とした光景。そこに突如彼らの知らない若い男の声が響いた。

 

「いや~、めでたいめでたい。良かったね~、β()()()()

「「「!?」」」

 

 突然部屋に響いた声に、3人の上級ノスフェクトは一気に警戒態勢に入る。ここはペスター博士が裏から手を回して用意した部屋であり、何も知らない者が紛れ込む事が出来る筈がない。だからと言って事情を知る者であっても容易に立ち入る事は出来ず、何者かの訪問がある場合博士を経由してヴラド達に伝えられる筈であった。

 それに何より、声の主はヴラドの事を”βモデル”と称した。その言葉の意味する事を理解しているカミラは、殊更に鋭い視線を周囲に向けながらヴラドを侮辱する不届き者を見つけ出そうと部屋の中央に踏み入れる。

 

「誰です? 何処の愚か者ですか、ヴラド様をその様に……!」

 

 怒りを滲ませ、今にもノスフェクト態に変異しそうになるカミラ。だが声の主は彼女の怒りを意にも介さず、それどころか煽る様に言葉に笑みを乗せながら答えつつ姿を現した。

 

「でも事実でしょ?」

「なっ!?」

 

 声の主が姿を現したのはカミラの背後であった。後ろから彼女を抱きしめる様に姿を現したのは、短めの金髪を逆立てて顔の左側に刺青を入れた男だ。その男はスーツに包まれたカミラの豊かな胸を後ろから鷲掴んで揉みながら、彼女の頬に舌を這わせる。ヴラド以外の男が自身に触れる感触に激しい嫌悪感を感じたカミラは当然即座に後ろから抱き着いている男を振り払おうとした。

 

 が、しかし…………

 

「痴れ者……なっ!? こ、これ、は……!?」

 

 振り払おうと腕を動かすも、カミラの腕は彼女の意志に反してピクリとも動こうとしなかった。腕だけではない。足も体も、顔以外の部位は全て固められた様に動かなかった。

 

 動けないのはカミラだけではない。目の前でカミラが嬲られようとしている光景に助けようとしたギュスターもまた、気付けば動けなくなっている事に愕然となっていた。

 

「う、動けないッ!? 何でッ!?」

 

 渾身の力を入れても動けず、ノスフェクト態になってもそれは変わらない事に焦るギュスター。狼狽える彼の姿をニヤニヤと笑いながら、同じく動けないカミラに謎の男は好き放題に振る舞った。

 

「ふ~ん? なかなかいい体してんじゃ~ん。こんな女を侍らせてたなんて、βモデルは羨ましいねぇ」

「くっ!? この……!?」

 

 体を男に弄られ、カミラは何とか振り払おうとするがやはり体は動かない。動けず藻掻く彼女を嘲笑いながら、男は更に行動をエスカレートさせ彼女のスーツのボタンを外して前を大きくはだけさせた。スーツの下にシャツも下着もつけていないカミラは、ボタンを外されるとすぐに素肌が露わとなり乳房は少し動けばその頂が露わになりそうだ。

 そんな彼女の肢体に男は舌なめずりをし、更に彼女を嬲ろうとスーツを羽織っただけの乳房に手を伸ばそうとした。

 

 その瞬間、男はカミラから引き剥がされた。

 

「おろ?」

 

 男をカミラから引き剥がしたのはヴラドであった。ヴラドは無感動な表情で男を見ながら突き飛ばす様にカミラから引き離し、未だ動けない彼女を男から守る様に抱きしめる。

 

「ヴ、ヴラド様……!」

「大丈夫かい、カミラ?」

「は、はい!」

「驚いた、もう動けるんだ? βモデルは一応()()()()()()()()()のに」

 

 意外そうに呟く男の前で、ヴラドは何かを払う様にカミラの周りで手を振った。すると漸くカミラは体に自由が戻ったのを実感した。

 

「うぁ? あ、動ける? これは、一体……?」

 

 困惑するカミラを抱き寄せたまま、ヴラドはまだ動けないギュスターに近付き同じように手を振って彼も動けるようにしてやった。自由を取り戻したギュスターは、何が何だか分からないと言った様子で自身の体をペタペタと触り、訳が分からないと言う様に周囲を見渡した。

 

「な、何で? 今何が起きたの?」

「ギュスター、こっちにおいで」

「え? あ、はい」

 

 ヴラドに呼び寄せられたギュスターは大人しく彼の傍に近寄り、寄ってきたギュスターをヴラドは頭を優しく撫でながら謎の男に視線を向ける。男はその視線に身震いした。射抜く……と言うのとは少し違うが、全てを見透かそうとしてくるかのような視線を感じていた。

 

「へへっ……いいねぇ、流石はβモデルだ」

「君は……誰かな? ノスフェクトでは、あるんだよね?」

 

 カミラとギュスターも感じているだろう問い掛け。彼らは上級ノスフェクトの本能として目の前の男がノスフェクトであると言う事には気付いていた。だが彼らの記憶にある限りで、同じ上級ノスフェクトにこんな男は居なかった。

 

 自分達の知らない上級ノスフェクトにカミラ達が警戒していると、ヴラドの質問に何時の間にか部屋に入ってきていたペスター博士が答えた。

 

「君達の後輩に当たる、最新のノスフェクトさ。今までにない次世代型、より洗練されたノスフェクトと言ってもいい。ネオノスフェクトと言ったところかな?」

「次世代型……なるほど」

 

 ヴラドは何か納得した様子だった。何度か小さく頷き、そして顔を上げると真摯な笑みを浮かべながらネオノスフェクトに近付き手を差し出した。

 

「改めて、初めまして。βモデル・ノスフェクトのヴラドだ。君、名前は?」

 

 努めて対等に接しようとするヴラドであったが、対するネオノスフェクトはあまり面白くなさそうな様子だった。もしかすると、より高性能な自分に旧式が対等に接しようとしているのが気に食わないのかもしれない。もっとヴラドが悔しがる姿を予想していたのかもしれないが、当てが外れて面白くないのだろう。

 

 ジロジロと蔑む様にヴラドの事を見るだけで応えようとしないネオノスフェクトに、怒りを露わにしたのはカミラとギュスターであった。

 

「お前、一体何様のつもりですかッ! ヴラド様が名を訊ねているのに、何も答えないどころかその手を取りもしないなどッ!」

「そうだそうだ! それに、カミラにもちゃんと謝れッ!」

「あぁん? んだガキ、調子乗ってんじゃ――」

 

 忽ち険悪になる室内だったが、ヴラドが手を叩いた瞬間シン……と静まり返った。

 

「駄目だよ、皆。僕らは掛け替えのない仲間なんだ。この世界で僕らが胸を張って生きて行く為には、先ずは僕らが手を取り合わないと」

 

 ヴラドの行動は決して過激ではなかった。ただ持論を展開し、激情に駆られそうになっていた場を宥めただけに過ぎない。しかし宥められた者達は、ネオノスフェクトを含めて背筋に冷たいものが走るのを感じずにはいられなかった。

 傲岸にして不遜な態度を崩さなかったネオノスフェクトも、先程までのヴラド達を見下した様子は鳴りを潜め口元を引き攣らせ大人しくしていた。

 

(なるほど……これがノスフェクトの王として作られた……)

「も、申し訳ありません、ヴラド様……!? ヴラド様の前で、軽率な真似を……」

「ご、ごめんなさい……」

「構わないよ。僕の事を思っての事だって分かってるから。君も、すまなかったね。えっと……」

 

 カミラとギュスターを宥めるヴラドの姿は一見すると心優しい主君の様に見えなくもない。だがその仮面の下には、本人の自覚無自覚関係なく他者を抑圧する圧倒的上位者としての気迫の様なものが感じられた。それはただ単純に心に響くなどと言うレベルではない。本能に直接響くヴラドの言葉に、ネオノスフェクトもこれ以上刺激するような真似は控えようと考えを改め、少しでも覚えを良くしておこうと名前を口にした。

 

「ガルマン……」

「よろしく、ガルマン。これから長い付き合いになるだろう」

 

 そう言ってヴラドが改めて握手の為手を差し伸べれば、ガルマンは今度は素直にそれに応じて軽く手を握り返した。握手に応じてもらえたことでヴラドは嬉しそうに笑みを深めるが、その笑みを向けられた当の本人はまるで蛇に睨まれた蛙の様な気分になっていた。

 

 ガルマンがヴラドと交流するその異様な光景。それを少し離れた所から見ていたペスター博士は、彼らの様子に真剣な表情を向けているのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ヴァーニィの正体が京也であると知った修道騎士団では、揚羽の情報提供もあり即座に襲撃作戦が提案された。

 

 現在修道騎士団の目下の標的は主に3つ。一つは当然彼らにとって最大の目標であるノスフェクト。ただしこれは本拠地が不明な上、出現が予想出来ないので基本的に後手に回らざるを得ない。

 

 二つ目はS.B.C.T.。最早誤魔化しようもなく敵対関係となった彼らは修道騎士団にとって邪魔な存在でしかない。どうせ邪魔ならば、さっさと潰してしまうに限る。だが闇雲に襲撃を掛ければ、手痛いしっぺ返しを喰らう危険性があった。故にS.B.C.T.への攻撃に関しては慎重に動く必要がある。

 

 そして三つ目が仮面ライダーヴァーニィの始末だ。ノスフェクト同様相手の血を吸い自身の力とするヴァーニィはノスフェクト同様彼ら修道騎士団の敵であり、生かしてはおけない存在であった。

 しかも都合がいい事にヴァーニィは単独の存在であり、しかも揚羽によりその正体と居場所が明らかとなっている。これを狙わない理由などない。

 

 アスペンが中心となって部隊を編成し、仮面ライダーヴァーニィ討伐作戦を組んでいく。その為の会議を行っている場に乱入したのが、ルクスを伴ったカタリナであった。

 

「待ってください。私はその作戦に反対です」

 

 会議室に入るなり開口一番そう告げたカタリナに対し、他の騎士は面食らう中アスペンは1人彼女の顔をジッと見つめ両肘をテーブルの上につき両手を口の前で組んでいた。その佇まいからは特別怒気は感じられないが、傍から見ている者達は次のアスペンの行動がどうなるのかと不安と緊張で動けなくなる。

 

「……何故だ、カタリナ?」

 

 息をするのも苦しくなるほどの緊張感の中、アスペンがカタリナに問い掛けると彼女は毅然とした態度で答えた。

 

「ヴァーニィは敵ではありません。彼は共に人々を守る為に戦う仲間です。それは彼だけの話ではありません、S.B.C.T.だって――」

 

 カタリナが理由を述べている中、突如アスペンは右手をテーブルに叩き付けた。部屋中に響き渡るガンと言う音に他の席についている者達は一瞬ビクッと飛び跳ねるが、カタリナとルクスは全く気にした様子を見せない。そのまま言葉を続けようとするカタリナだったが、アスペンは立ち上がってそれを遮った。

 

「……S.B.C.T.だって、本来は私達と同じ目的の……」

「もういい、お前の言いたい事は分かった。だがお前は分かっているのか? ヴァーニィはノスフェクトに準ずる存在であり、奴の傍には上級ノスフェクトが居るんだぞ?」

「理解しています。その上で、私はこれ以上彼らとの争いには反対です」

「何故そこまで拘る? 奴らは所詮異教徒であり、お前が信仰する神とは無縁の存在じゃないか」

 

 飽く迄ノスフェクトを殲滅する事のみを見据え、その為であれば障害となる全てのものを排除する事も厭わないと告げるアスペン。しかしカタリナは、彼の言葉の中にこの場において明らかに異質な点がある事を見抜いていた。

 

「やはり……アスペン神父、あなたはあなたで、私達の神を信仰しているのですか?」

「何だと?」

「修道騎士団は私達が信じる神に代わって剣を手に取り、隣人たる信者の方々を護るのが使命です。ですがあなたの在り方は、神を信じていない様に見えますが?」

 

 先程の会話の中で、アスペンは”お前が信仰する神”と言った。だが彼も同じ神を信仰しているのであれば、ここでの言葉は”お前”ではなく”我ら”など自身も含める言葉でなければおかしい筈だ。今の物言いでは自分は宗教とは距離を置いた部外者の様な印象を受ける。

 

 カタリナの鋭い指摘を受けたアスペンだったが、彼は動揺を見せる事をしなかった。静かにカタリナの事を見据え、無言で彼女の事を見続けている。その視線に同じく黙って彼の事を見つめるカタリナ。2人の間には無言のやり取りが交錯している様に見えて、ルクスを除いて2人の様子を見ている者達は固唾を飲んで2人を交互に見やる。

 

 耳鳴りがしそうになるほどの沈黙を、先に破ったのはアスペンの方であった。

 

「……もういい、お前は話が通じない事が分かった。我が強すぎるのも考え物だな」

「私はただ、全ての命を愛したいだけです」

「綺麗事だ」

「理解しています。ですが、遍く命を愛されたのは、他ならぬ我らが主である筈です」

 

 ああ言えばこう言う、柳に風と言った様子でアスペンの言葉を受け流し返してくるカタリナ。これ以上の議論は無意味と悟ったのか、アスペンは配下の騎士に2人を退室させた。

 

「コイツ等をつまみ出せ。会議の邪魔だ」

「ハッ!」

 

 部屋の奥でアスペンの後ろに控えていたイジター2人が、カタリナとルクスの2人を外へと誘導する。片手を武器に持っていくその様子に、必要とあらば実力行使も辞さないと言う意思を感じたカタリナは小さく溜め息を吐くと抵抗せず誘導に従って会議室から出るとそのままその場を後にした。

 

 暫く廊下を歩き会議室から十分に離れると、ルクスは喉元で溜めていた言葉を一気に吐き出した。

 

「あぁんのクソ野郎ッ! やっぱり傘木社の回し者だったわね! カタリナに痛い所を突かれて追い出すとかサイッテーッ!!」

「ルクスさん、落ち着いてください。何処で誰が聞いてるかも分からないんですから」

 

 一応ルクスも弁えているのか、周囲に人の気配が感じられないタイミングを見計らって声を張り上げたのだが、カタリナが言う様に何処かで誰かが聞いているかもしれない。これがアスペンの耳に入れば、逆に邪魔者を排除しようと刺客を差し向けられる危険もあった。だからこれ以上ルクスに好き放題言葉を吐かれては堪らないとカタリナは彼女を宥めた。

 

 しかしそんなもので静まるルクスではなかった。寧ろ今度はその矛先をカタリナの方へと向けた。

 

「カタリナはカタリナで何であの場でアイツが元傘木社の回し者だって言わないのよ? そうすればあの場の連中を味方に出来たかもしれないでしょ?」

「それを言って、素直に信じてくれる人が全員とは限りませんよ。私は1人の上級騎士、アスペン神父は曲がりなりにも幹部です。私と彼とでは、築き上げた地位と信頼が違います」

 

 そうは言うが、ルクスお見立てではカタリナも信頼では負けていないと思っていた。少なくとも彼女が一声かければ動く騎士は決して少なくはないだろう。彼女の誠実にして慈愛に溢れる佇まいは、そのストイックさも相まって聖女として騎士や教会関係者からは高い信頼を得ている。

 あの場でアスペンがカタリナを追い出すだけに留めたのもその証拠だ。あそこで下手に彼女を処断するような事をすれば、不信が広がり騎士団が割れる危険もあった。

 

 実はこのカタリナに対する高過ぎる信頼は騎士団上層部でも頭の痛い問題であり、彼らは常々彼女が中心となって騎士団や教会内部に新たな勢力を作り出すのではないかと戦々恐々としていた。彼女自身が野心など持たない、ストイックな信者であり騎士である事が幸いか。

 

(もしアスペンがカタリナ排除を考えるとすれば、この子が明確な問題を起こした時。現状でこの子が起こしそうな問題となると……)

「ルクスさん?」

 

 不意に黙り込んでしまったルクスにカタリナが首を傾げる。ルクスは彼女の声には応えずそのまま暫く思考を続けていたが、黙り込んだ時と同じく不意に顔を上げると真剣な表情で口を開いた。

 

「カタリナ」

「はい?」

「……早まった真似はしないでね」

「え?」

 

 突然のルクスの言葉に、カタリナは理解が追い付かず聞き返す。だがルクスはそれ以上は何も言わず黙って歩き続けるだけであった。

 

(……もしもって時の為に、早めに動いといたほうが良さそうね)

「ルクスさん? あの、ちょっと?」

 

 腕を組んで考えながら歩くルクスと、そんな彼女に話し掛けるカタリナ。

 

 2人はそのまま、誰に見られる事も無く廊下の奥へと消えていくのであった。




と言う訳で第42話でした。

今回から登場した新キャラのガルマンは、一見するとヴォーダンに近いものを感じるかもしれませんが、あちらに比べると数段下衆です。ただその分能力は高く、実際今回のカミラやギュスターみたいに訳も分からぬままに動きを封じられたりします。今後は京也達の前に強敵として立ちはだかって来る事でしょう。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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