仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第45夜:友との再会

「俺の名は仮面ライダーコガラシ。故あって助太刀するぜ、仮面ライダーヴァーニィ!」

 

 そう宣言する仮面ライダーコガラシの姿を、ヴァーニィはアルフを抱きしめながら呆然と見上げていた。

 

 彼の事はヴァーニィも一応知っている。仮面ライダーコガラシ……日本に存在する忍者の組織・万閃衆に属する若き忍びの仮面ライダーだ。表立った活躍は控え、世間の裏で暗躍し同じように影で蠢く悪を人知れず成敗する仮面ライダーだ。

 

…………と言う話を彼は以前ジェーンから聞いた事があったのを思い出した。

 

 仮面の下でヴァーニィがポカンと口を開けていると、それを自己紹介が滑ったと受け取ったのかコガラシは何だか気まずそうに後頭部を掻き小さく咳払いをした。

 

「え~っとぉ……ん゛ん゛、兎に角後は俺に任せて。君はその子を連れてここを離れてな」

「そ、そんな……!」

 

 元はと言えばこちらの問題なのに、コガラシにあの強敵を押し付けてこの場を離れる事にヴァーニィは躊躇した。確かに今はもう戦える状態ではないが、知っていると言うだけの言葉も満足に交わした事のない相手にアルフを助けてもらっただけでなく敵の相手を任せるなど…………

 

「何をゴチャゴチャと……!」

 

 一方ガルマンは、自分をほったらかして勝手に話を進めているコガラシに苛立ちを覚え話が決まる前に攻撃を開始した。マンティススパイダーノスフェクトの姿になると両腕の鎌を伸ばして姿を消しながら突撃し、その光景にヴァーニィはコガラシに危険が迫っている事を伝えた。

 

「危ないッ!? 奴が……!」

 

 擬態能力で姿を消し、目で捉える事が困難な程の極細で強靭な糸で相手の動きを絡め取る強敵マンティススパイダーノスフェクト。コガラシは奴の戦いを満足に見ていないから、何をしてくるかなんてわからない筈だ。このままだと折角助けに来てくれた彼が窮地に陥ってしまうと危惧するヴァーニィであったが、それが杞憂である事はこの後すぐに分かった。

 

「おっと!」

「何ッ!?」

「えっ!」

 

 コガラシは突然何もない空間に向けて手裏剣を投げると、そこに隠れていたマンティススパイダーノスフェクトの体を小さく切り裂いた。牽制にしかならずダメージと言えるほどの傷すら付きはしなかったが、姿を消しているにも拘らず正確に居場所を見抜かれたと言う事実は単純に大きなダメージを受ける以上の衝撃を相手に齎した。

 

 動揺のあまり姿を現したマンティススパイダーノスフェクトに対し、コガラシは忍者刀を構えて斬りかかった。

 

「今度はこっちの番だッ!」

「チィッ!」

 

 素早い身のこなしで迫って来るコガラシを前に、マンティススパイダーノスフェクトも両腕の鎌だけでなく背中から伸びる脚の先に延びる鋭い鉤爪で迎え撃つ。合計6本の腕による攻撃も同然のマンティススパイダーノスフェクトの攻撃に、しかしコガラシは微塵も慌てる事無く手にした忍者刀一本で全ての攻撃を防ぎ、受け流し、無傷のまま相手の攻撃を切り抜けすれ違いざまに腹部を切り裂いた。

 

「ぐぉっ!? テメェッ!」

 

 その後もマンティススパイダーノスフェクトはコガラシに攻撃を仕掛けるが、鎌や鉤爪は掠りもせずコガラシの刃は何度もマンティススパイダーノスフェクトを切り裂き傷だらけにしていった。

 

「ク、ソ……!? だが……」

 

 巧みにマンティススパイダーノスフェクトの攻撃を回避し一方的に切り裂いて来るコガラシであったが、マンティススパイダーノスフェクトも決して無策ではなかった。彼はコガラシの攻撃に苦戦しながらも、その実裏ではこっそりと周囲に蜘蛛の糸を張り巡らせコガラシを絡め取り動きを封じようとしていたのだ。この激しい動きの中で、凝視しても薄っすらと見えるかどうかと言う糸に気付ける訳がない。少なくともマンティススパイダーノスフェクトはそう考えていた。

 

 だがその思惑は簡単に崩れ去った。コガラシはマンティススパイダーノスフェクトにしか分からない極細の糸を的確に回避し、拘束される事無く依然として攻撃を続行していた。その事実にマンティススパイダーノスフェクトは驚愕に言葉を失い思考が停止している所をコガラシに突かれ破城槌の様な蹴りが突き刺さった。

 

「はぁっ!」

「ぐぼぉっ!?」

 

 回避が間に合わずコガラシの一撃にマンティススパイダーノスフェクトが後ろに蹴り飛ばされ建物の壁にめり込む様子に、ヴァーニィは何が起きているのか分からず傷付いたアルフと共に両者の戦いを凝視していた。

 

「い、一体何が……?」

 

 ヴァーニィの目からは、コガラシが何もない所で飛んだり伏せたりスライディングしたりしている様にしか見えなかった。それは決して意味のない動きではなく、コガラシには正確にマンティススパイダーノスフェクトが張り巡らせた極細の糸が何処にあるかを分かっているからであった。

 

 仮面ライダーコガラシは風を操る事を得意とした忍びの仮面ライダーだ。その真骨頂は単純に風を操るだけでなく、風を利用して周囲の状況を知る事にある。彼は最初から、マンティススパイダーノスフェクトが目では見辛い程の糸を周囲に張り巡らせている事に気付いていたのだ。

 どれだけ極細で目には見辛い糸も、風に揺られぬ事はあり得ない。相手の視界から隠れる事を得意とするマンティススパイダーノスフェクトは、コガラシとはとことん相性が悪かったのである。

 

 流石にここまで翻弄されれば自分がコガラシと相性が悪い事は理解できるのか、マンティススパイダーノスフェクトはこれ以上の戦闘を避けこの場は退く事を選択した。

 

「チッ! あと少しってところで……運が良かったな」

 

 悪態をつきながらマンティススパイダーノスフェクトは擬態能力で姿を消した。当然それを見過ごすコガラシではなく、追い打ちをかけてこの場で始末しようとした。人間だったとしても決して見過ごせない悪人だ、ましてや危険な力を持つ怪人となると、逃げた後どれほどの人に被害が出るか分かったものではない。

 

「逃がすかッ!」

 

 忍者刀で斬りかかろうとするコガラシであったが、マンティススパイダーノスフェクトは両腕の鎌にエネルギーを纏わせ、腕を振るう事でそれを放出。範囲の広い斬撃の波動を受け止める為コガラシはその場で足を止めると、後ろのヴァーニィとアルフに被害が及ばぬように風遁の術で波動を相殺した。

 

「ハァァッ!」

【忍法、風遁の術ッ! 達筆ッ!】

 

 マンティススパイダーノスフェクトの斬撃の波動と、コガラシの風遁の術がぶつかり合う。刹那の時間拮抗した両者の攻撃は、次の瞬間には互いに打ち消し合い凄まじい衝撃が周囲を無差別に襲った。当然コガラシとその後ろに居るヴァーニィ達にも迫ったが、コガラシは自分の風遁の術が斬撃の波動とぶつかり合った瞬間こうなる事を予想していた為即座に後退するとヴァーニィとアルフの2人を担いでその場を離れた。

 

「ちょいと失礼。よいしょっと!」

「わわっ!」

 

 あっという間に先程の場所を離れ、4階建てのビルの屋上に降り立つコガラシ達。直後ぶつかり合った風と波動により生まれた衝撃波が爆発の様な大きな破裂音を響かせ、その場所に炎と黒煙を立ち上らせた。あと少し逃げるのが遅かったら、コガラシはともかくヴァーニィ達はただでは済まなかっただろう。

 

「あ、あの、ありがとうございます。本当に……」

「ん、気にすんなって。同じ仮面ライダーの後輩だ、助けるのは当たり前だろ。だが……あのクソ野郎には逃げられちまった」

 

 あの元極悪性犯罪者を逃してしまった事は、最愛の彼女を持つコガラシにとっても決して他人事ではなかった。将来を誓い合った女性である唯が居るのはここから離れた所だが、あんな輩が居るとなると気が気ではない。

 

 逃げたマンティススパイダーノスフェクトにコガラシが仮面の下で苦い顔をしていると、別の場所で新たな爆炎が上がった。3人がそちらに視線を向けると、そこではスラスターを全開にして空中に飛翔しているグラスが眼下に向けてバスターショットを撃ちまくり、それを潜り抜けて伸びた鞭が彼の足を引っ張り地上に引きずり下ろす光景が見えた。

 

「そうだ、あそこでδチームの人達が……!?」

「俺が行くから、君らはここで少し休んでな」

 

 安心している場合ではないと焦るヴァーニィだったが、コガラシは冷静に判断して即座にその場を離れた。忍者刀を納刀して代わりに専用武器の轟雷を取り出し、近くの屋根を伝ってグラス達が戦っている場所へと向かう。

 

 あっという間に小さくなっていくコガラシの後ろ姿に、ヴァーニィは安心感と共に自身への不甲斐無さに仮面の下で唇を噛みしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラス、クロコダイルノスフェクト、アッシュが戦っている場所では、依然として三つ巴の激しい戦いが行われていた。

 

「クソ、コイツ等ッ!」

 

 アッシュの鞭で地面に引きずり下ろされたグラスは、足に巻き付いた鞭を外しつつバックラーのカッターを飛ばしてアッシュを牽制。鞭が離れるとそのまま転がる様にその場を離れ、直後に食らい付こうとしてきたクロコダイルノスフェクトをバスターショットで銃撃して後退させた。

 

「はぁ、はぁ……チッ、こんな事してる場合じゃねえってのに……!」

 

 ヴァーニィがアルフと共にこの場を離れてしまった事に、グラスは集中を割かれ普段のポテンシャルを発揮できずにいた。あのマンティススパイダーノスフェクトの危険性を肌で感じているのだ。あれを放ってはおけないし、その相手をヴァーニィ達だけに任せておく訳にもいかない。だがこの場を離れる事はアッシュとクロコダイルノスフェクトが許してくれず、グラスはここを離れる事が出来ずにいた。

 

 堪らず舌打ちと共に悪態をついていると、突如視認出来るほど密度の濃い風がアッシュとクロコダイルノスフェクトを纏めて吹き飛ばした。

 

「わぁぁぁぁぁぁっ!?」

「くぅぅっ!?」

 

 突然吹いてきた不自然な突風に敵が吹き飛ばされた事にグラスが目を瞬かせていると、彼の直ぐ傍に見知った仮面ライダーが降り立ち思わず仮面の下で破顔した。

 

「ふぅ、危ない所だった」

「お前は、コガラシッ! 来てくれたのかッ!」

「ん? その声……」

 

 コガラシは一見スコープに見え、だがよく見るとスコープではない容姿のグラスから聞こえる声にそれが嘗ての卍妖衆との戦いで何度か助けになってくれたレックスである事に気付きこちらも嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そう言うお前は……久し振りだなぁッ!」

 

 2人は互いの再会を祝すように力強く手を取り合う。対して、クロコダイルノスフェクトとアッシュはコガラシの登場に動揺を隠せなかった。

 

「コガラシって……あの忍びの仮面ライダーのッ!」

「くぅ……この期に及んでまたも不信神者が……!」

 

 ノスフェクトとアッシュは共に敵同士だが、この時ばかりは同じ考えを抱いていた。ヴァーニィとグラスだけの時であれば何とかなった。ヴァーニィはまだまだ未熟な部分が目立つし、厄介なブラッディ形態も実里が居なくなった今封じられている。マンティススパイダーノスフェクトが分断してくれた結果、そう遠くない内にヴァーニィは始末されるだろうと思われた。

 しかしその前提が、コガラシの登場によりひっくり返される。

 

「コガラシ、ここはいいからあっちに行ってくれ。ヴァーニィが上級ノスフェクトの相手をしてる」

「心配するな。そっちはとっくに済ませてる。ヴァーニィって奴の相手をしてたノスフェクトは追い払ってるよ」

「えぇっ!? あの野郎もう帰ってたのッ!?」

 

 これに憤ったのはクロコダイルノスフェクトだ。自分とカミラを同時に行動不能にしてヴラドを侮辱し、更にはカミラに手を出そうとした。印象は最悪だがそれを補って余りある確かな能力を持つ事を知っている。そのガルマンがあっさり引き下がった事に、クロコダイルノスフェクトは失望と憤りを感じずにはいられなかった。

 

「アイツ……! チッ……」

 

 マンティススパイダーノスフェクトが居なくなった以上、自分1人がここに居ても仕方ない。後先考えずに暴れると言う手もあるが、コガラシまで敵に居ると言う状況では大した効果も出せない可能性が高かった。意味もなく自爆するくらいなら、ここは退いた方が無難だと考えられる程度には頭が回るし冷静だった。

 

 震脚で足元のマンホールを跳ね上げ、尻尾で打ち出しコガラシ達の方へと飛ばす。グラスがそれをバックラーで弾き、コガラシが轟雷で銃撃するがその時にはもうクロコダイルノスフェクトは下水道へと飛び込んで姿を消してしまっていた。

 

 これで残されたのはアッシュのみ。他の修道騎士団のイジターも居るが、コガラシとグラスが入れば雑魚を蹴散らす事も不可能ではない。

 

「どうする? まだやる?」

「くっ……」

「大人しく降伏しろ」

 

 グラスとコガラシに追い詰められ、後退るアッシュに周りにイジターが集まって来る。

 

 事ここに至り、流石のアッシュも撤退を選択した。もしここで相手のどちらかがヴァーニィであれば、或いは信念に従って玉砕覚悟で最後の最後まで抵抗を続けただろう。だが幸か不幸か、この場に居るのは化け物ではなかった。ならば彼女の意識も抵抗より保守的なものとなった。

 

「いいえ……ここは退かせてもらいます」

 

 勿論コガラシとグラスにそれを許すつもりはない。クロコダイルノスフェクトは逃がしてしまったが、せめて彼女だけは……と意気込むも、結局2人は彼女らを見逃さざるを得なかった。

 アッシュが撤退の意思を見せた瞬間、イジター達は全てを察して即座に行動を起こした。手にしたイジターレイピアを銃撃モードにして無作為に周囲に攻撃を開始したのだ。

 

「コイツ等ッ!?」

「止めろッ!?」

 

 避難は終わっているとは言え、だからと言って周囲に被害が拡がって良い訳がない。2人は修道騎士団の凶行を止めようとするが、激しい攻撃に思わず足を止めずにはいられなかった。そして彼らが足を止めている間に、アッシュ達は銃撃の影響で発生した砂埃の向こうに隠れてしまい、慌ててコガラシが風を起こして砂埃を吹き飛ばした時には修道騎士団も全員姿を消した後となっていた。

 

「くそ、逃げられた……!」

「仕方がない。それより、改めて来てくれて礼を言うよ。助かった」

 

 そう言ってグラスが手を差し出せば、コガラシもそれに応じて2人は固い握手をした。数年前、グラスに変身するレックスがまだδチームの一隊員でしかなかった。その頃に出会い、万閃衆と卍妖衆の戦いの中で2人は互いの事を詳しく知らずとも助け合い絆を深めていた。所属は違ったし交流も多くは無かったが、それでも2人は確かに戦友であった。

 そんな彼の助力が得られるとあって、グラスは頼もしさを感じずにはいられない。

 

「何、気にすんなって。こっちもこっちで理由あって助けに来ただけだからさ」

「理由って?」

「それは後でな。ここで長話ってのもあれだし」

 

 それもそうだ。δチームにも負傷者は多数出ているし、何より1人マンティススパイダーノスフェクトの相手をしていたヴァーニィの事が心配だった。コガラシが助けに来てくれたから大事には至っていないと信じているが、それはそれこれはこれだ。

 

 そうしてδチームはコガラシと共に撤収し、マンティススパイダーノスフェクトとの戦いで負傷した京也も回収され治療を受けた。アルフも奴に痛めつけられたのだが、こちらはノスフェクトと言う事で流石の回復力を見せた。

 

 京也の治療に立ち会う傍ら、レックスは再会した戦友である仮面ライダーコガラシこと南城 千里と旧交を温めていた。

 

「改めて、久し振りだなセンリ!」

「そっちこそ、大出世だな。念願の仮面ライダーになれたんだって?」

「ほとんど成り行きだけどな」

 

 2人が親しく話しているのを、京也とアルフが並んで交互に見ている。京也は腕に包帯を巻かれながら2人の方に顔を向け、2人の対話を黙って見ていた。するとその視線に気付いた訳ではないだろうが、千里が会話を切り上げて京也の方に視線を向けた。

 

「……んで、彼がこの街の仮面ライダーか」

「あぁ、仮面ライダーヴァーニィだ。隣に居るのは彼のパートナーで、まぁ……訳アリだな」

 

 一瞬レックスはアルフが今敵対しているノスフェクトの同族である事を公言しようか迷った。千里に対しては情報を共有しておいた方が良いかと考えたのだ。だが事は割かしデリケートな内容であり、易々と明かしていい内容ではない。安易にアルフがノスフェクトである事を明かしたりしたら、それが彼女を不快にさせたりしないかと考えてしまう。

 結局レックスは言葉を濁す程度に留め、だがアルフが普通の少女ではない事を匂わせると、千里はそれに対して分かっていると言いたげな視線で口元に緩く笑みを浮かべながら小さく肩を竦めてみせた。

 

「初めましてだな、仮面ライダーヴァーニィ。いや、紅月 京也君」

「ど、どうも、初めまし……あれ? 僕、まだ名前……」

「彼は忍びだからな。物調べはお手の物だ」

「ま、そういう事。そっちの子はアルフで、ノスフェクトって奴なんだっけ?」

「えッ!?」

 

 アルフがノスフェクトである事まで知っている千里に、忍びの手腕に舌を巻くと共に警戒を隠せない。気付けば自分達の事を調べられていたのだから仕方がないだろう。千里自身も勝手に彼らの事を調べてしまった事に、仕事であると割り切ると同時に罪悪感の様な物は感じているのか軽く手を上げて彼を宥めた。

 

「大丈夫、君らをどうこうするつもりは俺にはないよ。悪いね、職業柄色々と調べないといけなくてさ。……ま、君に対してはちょっと個人的な事情も含まれてるけど」

「え?」

 

 最後に付け加えられた言葉に首を傾げる京也だったが、千里はそれ以上この話を続ける事をしなかった。顔を仕事モードに切り替えた彼は、そもそもここに来た理由に関する事でレックスとの会話を再開した。

 

「ここに来たのは、件のノスフェクトと戦ってる正体不明の連中に関して調べる為だ。お宅の強面の隊長さんに要請を受けてね」

「本人の前でそれ言うなよ? 割とマジで気にしてんだから。それで、どうだった?」

「あぁ。連中の名前は修道騎士団、元々は欧州のキリスト教組織で結成された自警団みたいな連中だ。規模も元々はそんなに大きくはなかったが、ここ数年で一気に勢力を拡大させた」

 

 薄々そんな気はしていた為、教会から派生したのがシルヴァやアッシュが所属する組織の正体だとレックスは知り難しい顔になりながら小さく頷いた。

 

「やっぱり教会が関わってたか……しかしここ数年でってのが少し気になるな。何があった?」

 

 キリスト教から派生した組織であるなら、資金力も乏しくはないだろう。だが突然勢力を増したと言うのはどうにも不自然に感じられる。何かしらの起爆剤になる要因が無ければ不自然極まりない。

 これに関しては千里達も完全に調べきる事は出来なかったのか、困ったような顔をしながら両手を肩の高さに上げ肩を竦めるしか出来なかった。

 

「そこに関してはどうもハッキリしないんだよ。数年前にいきなり修道騎士団の組織の中に技術開発部みたいなのが出来たと思ったら、組織力を増しながら戦力を増強させ始めた。ま、それでもライダーシステム的なのが出来るまでは時間が掛かったのか、昔は初期のS.B.C.T.みたいな間に合わせの装備が主だったみたいだけどな」

 

 それでも千里の話によると、修道騎士団の歴史自体は長かったらしい。恐らく元々は魔女狩りなどを生業としていた異端審問官などをかき集めた部署の様な物だったのだろう。それがノスフェクトの登場で可及的速やかに対抗できる戦力を欲したと言ったところだろうか。

 

 横から話を聞いていた京也は、初めて知る修道騎士団の歴史に興味を抱きちょっと突っ込んだ事も聞いてみた。

 

「あの、一ついいですか?」

「ん? 何だ?」

「修道騎士団が勢力を増し始めた、その数年前って具体的に何時ぐらいなんです?」

 

 京也の質問に千里は彼とレックスの顔を交互に見た。眼球だけを左右に動かし、徐に視線を上に向け何か考えるような仕草を見せると口を開き一呼吸おいて質問に答えた。

 

「具体的には10年くらい前……傘木社が崩壊した辺りの頃の話だな」

 

 レックスはそれを聞いて衝撃を受け、同時に修道騎士団の幹部であるアスペンの事を思い出した。ユーリエが言っていたではないか、アスペンは元々傘木社の人間でその技術を教会上層部に売り込んだ可能性が高いと。その時は色々とあって深く考えている余裕も無かったが、これでその証言の裏が取れた事になる。

 

「……センリ、その事でなんだが――」

「皆まで言うなって奴だ。俺がこっちに顔を出したのは、一応それ絡みでもある」

 

 

 

 

「ユーリエ・ベルフェル……彼女に話が聞きたい。今何処に?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 戦闘が終わって撤収し、諸々の報告を手早く済ませたリリィはそのまま私服に着替えるとユーリエが入院している病院へと直行していた。

 

「――ユーリエ~、大丈夫?」

 

 先日漸く救出……と言うか返還されたユーリエは、一応の治療は施されていたがそれでも内臓が傷付くほどの重傷を負わされたと言う事でそのまま病院に入院させられていた。本人はもう大丈夫と言って業務に戻ろうとしたのだが、誰がどう見ても大丈夫ではないとリリィやレックスを始めとした周囲の人間に押し切られる形でこうして病院のベッドの上で横になっていた。

 

 そんな彼女の元を、リリィが見舞いに訪れる。フルーツなどを持って彼女がユーリエのいる病室を訪れると、彼女はベッドの上で上半身を起こしてタブレット端末とにらめっこしていた。恐らくは自分が不在の間に起こった出来事など仕事の内容に関する報告書に目を通しているのだろう。休めと言われているのに仕事を続けるのは、熱心と言うかなんというか。

 

 取り合えず彼女に必要以上の無理をさせる訳にはいかないので、リリィはベッドに近付くと問答無用でタブレット端末を取り上げた。

 

「あっ! ちょ……」

「ユーリエ、あなた休めって言われてるのに何やってるのよ。暫く仕事はお預け」

「いや……しかしね……」

「い・い・わ・ね?」

「…………はい」

 

 有無を言わさぬ圧力を前に、ユーリエもここは彼女に逆らうべきではないと大人しく引き下がった。S.B.C.T.では各部隊でオペレーターが単純な権力とは別に強い発言力を持つと言うか、立場が強いと言う話をユーリエも聞いた事はある。それはオペレーターが前線で戦う隊員達にとって重要な存在である為尊重されての事と思ってきたが、リリィに関しては彼女自身の逞しさとかそう言うのもあるのではないだろうかとユーリエは考察した。

 

 そんな事を考えているとは露知らず、リリィは取り上げたタブレット端末を手に小さく溜め息を吐くと、サイドテーブルに置き持参したフルーツからリンゴを取り出し皮を剥き始める。

 

「私も皆も、あなたが連れて行かれてから心配してたんだから。今だけは自分の体を癒す事に専念して。ね?」

「……すまなかった。君にも皆にも、迷惑を掛けたよ」

「迷惑だなんて思ってないわ。ただ、自分の事をもっと大事にしてほしい。自分で自分に見切りをつける人を見るのは、辛いから」

 

 ()()()()()()()()()()()()()1()()()()を思い浮かべながら、リリィがしみじみと呟いた。彼女の目に誰かが映っているのに気付いたユーリエは、それが誰なのかに気付きその名を口にした。

 

「志村、希美……かね?」

「……ノゾミは、自分の罪に押し潰されて生き永らえる事を諦めてる。助かる手段は確かにあるのに、その手を取ってくれない。それが自分の責任だって、思い込んでるから」

 

 リリィの話を聞き、ユーリエは改めて彼女が持ってきた荷物を見る。自分1人の見舞いの品としては明らかに多い。恐らくこの後彼女は希美の見舞いにも向かうつもりなのだろう。

 

 それしか出来ない不甲斐無さに胸を痛めながら…………

 

「愛されているんだね、彼女は。正直、羨ましいよ」

 

 愁いを帯びてユーリエがそう呟けば、リンゴをウサギの形に切り終えたリリィが皿と果物ナイフをサイドテーブルに置くと空いた手を彼女の額に持っていきデコピンをお見舞いした。過去に改造された影響からか、デコピンですら結構力が強く額の一点に集中した一発にユーリエは思わず仰け反ってしまった。

 

「あ痛ぁぁッ!?」

「何馬鹿なこと言ってるの。ここに1人居るでしょ」

「え?」

「あなたの事を愛してる人。私は少なくとも、ユーリエの事、大事に思ってる」

 

 リリィの言葉にユーリエはハッとなった。正面切ってこんな事を言われたのは初めてだった。ユーリエの方は少なくとも一方的にリリィの事を友と思っていたが、改めてその相手からこんな風に言われると心に響くものがある。ユーリエは嬉しさからか、それとも別の感情からか顔に熱が集まって来るのを感じその顔を見られるのが恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまった。

 

「……もう君にレックスが居る事が残念だよ」

「何か言った?」

「いや……すまなかったね。気を付けるよ」

 

 心を落ち着け、冷静さを取り戻したユーリエはそのまま切り分けられたリンゴに手を伸ばした。彼女が何を考えていたのか分からなかったリリィはリンゴを齧る彼女に首を傾げていたが、特に気にする事でもないかと小さく笑みを浮かべ肩から力を抜くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこか」

 

 その病院を、ガルマンが離れたビルの上から見ていたが、その事に気付く者は誰も居なかった。




と言う訳で第45話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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