死に行く希美を前に、ただ涙を流すしか出来なかったレックスとリリィ。だがユーリエはそんな2人に諦めるのはまだ早いと告げ、彼女の言葉に2人は縋る様な目を向けていた。
「どういう事だ? ノゾミが、ここから助かるって……」
「どうすればいいの? ねぇお願い、教えてッ!」
希美が助かるのであれば何でもすると言う覚悟で2人がユーリエに詰め寄る。まだ完全に回復していない彼女は2人の勢いに踏ん張り切れず、そのまま後ろに倒れてしまいそうになったのをレックスが慌てて支える事で倒れる事を防げた。
「あ、ととっ! ユーリエ、大丈夫か?」
「すまない……」
「ゴメン、ユーリエ。でも、ここからどうやってノゾミを?」
2人はそっち方面の専門知識が限られるので、ここから希美が回復する展望が見えない。どうやって彼女を救うつもりなのかと問い掛ければ、ユーリエは一先ずレックスに移動手段の手配を頼んだ。当然だがこの場で希美の治療は出来ない。彼女を救う為には、まずここから運び出さなければ。
「まずは彼女をここから運び出す。レックス、何でもいいから移動手段を確保してくれ。彼女を国立生命工学研究所に運ぶ」
「国立生命工学研究所?」
「ちょっと待って……それって、もしかして?」
国立生命工学研究所と言われて、思い浮かぶ人物が1人居た。2人も良く知る最初の仮面ライダー……仮面ライダーデイナに変身する、門守 仁だ。大学卒業後、彼はそこに勤めている。
確かに彼であれば、超万能細胞を持つ者であれば死に掛けていようと助ける事が出来る。彼が変身するデイナの最強形態・ニュージェネレーションフォームは、超万能細胞を持つ者であれば細胞に働きかけ活性化させ、生命力を取り戻させる事も可能だった。事実レックスとリリィはそのようにして傘木社から救い出された経緯を持つ。
「ジンさんなら、今のノゾミも助ける事が出来るッ!」
「そうか!」
「いや……残念だが、ここまで来ると彼でも今すぐ助ける事は難しいかもしれない」
希望を抱く2人だったが、ユーリエはそれを否定するように首を振った。先程と言ってる事が違うではないかとレックスが詰め寄ろうとするが、リリィはそんな彼を宥めてどういう事かと改めて問い掛けた。
「おいそれじゃあ一体どうするって言うんだよッ!?」
「レックス、待って! ねぇユーリエ、それなら何でジンさんの所にノゾミを?」
こうしている間にも希美の命は刻一刻と失われ、このままだと永遠の眠りについてしまう。その前に何とかしなければと焦る2人に、その気持ちは分かるユーリエがレックスに移動手段の手配を急がせた。
「結論を言う時間も惜しい。まずは行動だ。レックス、グラスのオプションでエアバイクがあったな。あれで彼女を運ぶんだ」
「わ、分かった」
何が何だか分からないが、言われるままにレックスは希美を抱きかかえ屋上に向かうと変身しエアホースを召喚し、リリィの手を借りて希美をシーツやタオルで固定し空を飛んで一路研究所へと向かった。彼が飛んでいくのを見ると、ユーリエはリリィにスマホを借りて彼らが向かった研究所に連絡を取った。
「リリィ、すまないがスマホを貸してくれ」
「え? あ、うん。はい」
「ありがとう…………もしもし、国立生命工学研究所ですか? すみませんが、門守博士に取り次いでください。S.B.C.T.から、来たるべき時が来たと言えば分かってもらえる筈です」
ユーリエが仁に連絡を取っている。その様子をリリィが見守っていると、何時の間にか通話の相手が仁に代わったのか詳しい事情を説明し始めた。
「門守博士、私だ、ユーリエだ。……そう、例の物の用意をお願いしたい。もう使えるのだろう?…………あぁ、今レックスが全速力で運んでいる。……分かった、頼んだ」
程無くしてユーリエは通話を終え、スマホをリリィに返しながら自分達も移動を開始した。
「後は彼に任せよう。私達は、取り合えず支部にでも行こうか。ここに居るよりは安全だろう」
「ね、ねぇユーリエ? 一体どうするって言うの?」
取り合えず仁に助けを求めたと言う事だけは分かるが、仁の能力には頼らないと言う。仁の能力を借りず、だが仁に助けを求めると言う矛盾したような状況にリリィが訳が分からないと首を傾げていると、ユーリエは上着を羽織りながら病院を出てタクシーを捕まえ2人で乗り込み仁の元へと向かう。
その道中、少し無理をしたからか疲れを吐き出す様に肩で大きく息をしながら漸く詳しい事を説明し始めた。
「……実は、生命工学研究所では、ある装置が作られてるんだ」
「それって?」
「端的に言えば、コールドスリープ装置さ。ま、この装置も元々は傘木社で作られたもので、それをより安全に使えるようにと再設計したものなんだけれどね」
一般に冬眠をするのは野生の動物のみと言われているが、実は人間も冬眠する事が出来る。特定の神経細胞群を刺激してやることで冬眠状態となり、その間は生命活動が極限まで下がり必要最低限の代謝のみで生存し続ける。
これを人工的に操る事が出来る様になれば、いずれ来たる外宇宙への進出の際に冬眠をして長期の航行に耐えたり、その時点では治せない病を未来の発達した技術で治せるようになるかもしれない。
「まだ普通の人間相手に使うには不安のある技術ではあるが、彼女であればきっと耐えられる。何しろ彼女も君らと同じ、特別な細胞を持っているんだ。今すぐには治せなくても、未来で何時かきっと目覚める時が来る。それを信じて待つんだ」
ユーリエの言葉に、リリィは不安を顔に滲ませながらも頷くのであった。
その頃、エアホースで一足先に国立生命工学研究所に辿り着いたグラスは変身を解き、希美の固定を外して抱き上げると研究所の中へと入ろうとした。するとその彼の前に、ストレッチャーを用意した仁がやって来た。
「待ってたよ。さぁ、彼女をこの上に」
「はいッ!」
ストレッチャーの上に希美を乗せると、2人で彼女を研究所の中へと運び入れる。ストレッチャーの上の希美の呼吸がどんどん浅くなっていく様子にレックスが焦りを感じる中、仁は彼女を研究室の一つへと運び入れた。
室内にはカプセルの様なベッドが機械に繋がれたものが安置されており、既に起動状態なのか機械的な光を放っている。操作盤だろう機械の前には仁同様白衣を着た研究員が待機しており、仁の姿を見るや早速装置に希美を入れるか問い掛けた。
「門守博士、その女性をこれに?」
「うん。出来るよね?」
「お任せを」
研究員が操作盤を操作すると、カプセルが開いて中のベッドが露わになる。仁がレックスに目線で希美をあれの上に寝かせるよう告げると、レックスは希美を優しく抱き上げて割れ物を扱うようにそっとカプセルの中に寝かせた。希美の呼吸は今にも止まってしまいそうなほど細く、レックスは焦りを抑える事が難しかった。
「ノゾミ……!?」
逸る気持ちを抑え、希美をカプセルの中に寝かせたレックスを仁が下がらせた。そして研究員に頷くと指示を受けた研究員はカプセルを操作して閉じ、密閉されると内部の希美をコールドスリープさせる為冷却ガスが放出された。
ここで漸くレックスは希美をどうするつもりなのか仁に訊ねた。
「ジンさん、これは一体……?」
「端的に言えば、志村さんを凍らせて死ぬ寸前の状態で活動を停止させるんだ」
「凍らせるのではなく、冬眠させるのです。休眠状態と言ってもいい。代謝を限りなく低くし、長期間に渡り生命を維持し続けます」
傘木社から接収したこの技術は、出所はあれだがその技術自体は様々な平和利用が出来ると言う事で積極的に研究されていた。とは言え最先端を行っていた傘木社の技術を解析し物にするにはかなりの時間を要し、さらにそれを実現段階まで漕ぎ着けるのにも時間が掛かった。お陰で稼働状態のコールドスリープ装置は今ここにある1台だけで、これも試験段階の代物でしかなかったのだ。
「本当はまだ実験段階だから使うのは難しかったんだけどね。ただ、頭の固い連中に試験運用って事で納得させて使わせたんだ」
「ジンさん……ありがとうございますッ!」
「ん、別にいいよ。俺も志村さんがこのまま死んじゃう事には納得できなかったし」
仁は何度か希美に治療を行う旨を打診してきたが、その度に彼女は拒否してきた。彼女からすれば自分は許されざる大罪人であり、本来であれば刑務所に入るか極刑を受けても仕方がないとすら考えていた。レックス達の存在があってやっと今の立場に落ち着いているのだ。そんな自分がこれ以上施しを受ける訳にはいかないと、彼女は頑なに助けを受ける事を拒んできたのである。
だが、しかし…………
「確かの志村さんは許されない事をしたのかもしれない。報いは受けるべきなのかもしれないけれど、彼女は贖罪の為にこれまで戦い続けてきた。それに、君みたいに彼女を愛する人もいる。なら、彼女は相応の助けを受けるべきだ」
彼女の事だから、自分が助かったと知れば起きた時文句を言ってくるかもしれない。だがその時はその時だ。今すぐ彼女が目覚める訳ではないのだし、彼女が助かり起きた時はその時に存分に喧嘩なりなんなりすればいい。
「志村さんは散々こっちの提案を蹴り続けてきたんだ。ならそろそろ、こっちも彼女の頼みを聞かなくてもいいでしょ?」
仁の言葉にレックスは目に涙を浮かべつつ思わず笑みを浮かべた。確かにその通りだ。今まで散々心配させられたのだ。こっちだって彼女を困らせてやる。
レックスは一頻り笑うと、カプセルの窓に顔を近付け窓に手を掛けて中で眠る希美に声を掛けた。
「ノゾミ……待ってるからな。リリィと一緒に、待ってるから」
「ジンさん、ありがとう……!」
「喜ぶのはまだ早いけどね。ここから彼女をどうやって起こすかが課題だから」
デイナのニュージェネレーションフォームをもってしても、ここまで消耗した希美を回復させる事は難しい。今の彼女は蝋がギリギリまで少なくなった蝋燭のような状態であり、何時命の灯が消えてもおかしくないのだ。ここから回復させるとなると、それこそ新しい蝋燭に火を移し替えるとかしないと回復は望めない。
しかし仁は口で言う程状況を悲観してはいなかった。
「でも……もしかしたら、ここから回復しないとも限らない」
「本当に?」
「うん。俺らの物と比べると歪かもしれないけど、彼女も超万能細胞を持ってる。この細胞はまだ分からない部分もあるから、時間さえあればもしかしたら……」
そもそも、希美は一度雄成の変身した仮面ライダーカラミティに一度敗北し殺されている。心臓を潰された状態から復活を果たした彼女であれば、仁の言う通り時間を掛けて回復する可能性も確かにあった。
「この細胞が……そうか」
「だからこそ、この細胞の事をもっと知らなくちゃいけないのさ」
仁は希美が入ったカプセルに軽く触れながら呟く。大学も卒業し、こうして国立の研究機関に所属してから彼はこの自分や自分の愛する家族が持つ細胞の研究に時間を費やした。何時か将来、この細胞を人々が受け入れ子供達が肩身の狭い思いをする事が無いようにと。
その道のりが長い事は承知の上だが、承知の上で仁はその道を歩む事を決めていた。
「…………ま、このカプセルはここに置いておくからさ。彼女に会いたくなったら何時でも来なよ。所長達には俺から話しておくから」
喩え言葉を交わす事は出来なくても、傍で語り掛けるだけでも何か影響があるかもしれない。それにレックスとリリィにとっても、例え一方的に語り掛けるだけであっても希美と触れ合える事は心の安定に大いに役立つはずだ。人間誰しも、何かに縋りたいと思う事はある。帰って来る……と言うのとは少し違うが、それと似た様なものはあるだろう。
仁からの気遣いに、レックスは感謝し頭を下げた。
「ジンさん、ありがとうございます!」
2人からの感謝に、仁は頷いて答えるのだった。
その頃、リリィはユーリエと共に九州支部に向かうタクシーに揺られていた。カタリナに引き渡された時に比べれば大分回復しているとは言え、やはり今のユーリエに長距離の移動は負担が大きいのかあまり体調は良くなさそうだ。辛そうにしている彼女の顔をリリィが心配そうに覗き込む。
「ユーリエ、大丈夫?」
「ん? あぁ、心配しないでくれ。少し疲れただけだ。ただでさえインドア派なのに、こんな目に遭ったんだからね」
冗談めかして言うユーリエだったが、リリィの目は彼女の額に浮かぶ汗に気付いていた。やせ我慢している彼女に、リリィは少し険しい顔をしてハンカチで汗を拭ってやった。
「無茶しないで。本当なら安静にしてなくちゃいけないんだから」
「分かっているよ」
本当に分っているのか、リリィは不安と呆れに溜め息を吐いた。
「全く……ところでユーリエ、一つ聞いてもいい?」
「ん?」
「ジンさんとはどういう縁があるの?」
ここまで勢いで来てしまったが、そもそも仁とユーリエの間に接点があった事が意外であった。一体どんな縁があったのかと問い掛ければ、ユーリエは何てことはない風に答えてくれた。
「大した事じゃないよ。ただ、元傘木社の研究員として知ってる事があれば教えてほしいと言われただけの話さ」
「知ってる事って?」
「傘木 雄成の事。ま、私はそんなに大した事は知らなかったけれどね」
傘木社との戦いが終わり、研究所に就職した後、仁は暇を見つけては雄成の事をいろいろと調べていた。敵対はしたが、それでもやはり雄成に対しては一定の尊敬を向けている彼は、何故雄成があそこまで狂ってしまったのかを知る事は出来ないかと足跡を追っていたのだ。
「その縁と言うか、まぁそんなやつで、彼とはやり取りがあってね。成果は芳しいとは言えないみたいだけれど、少しずつ分かってきた事もあるみたいだよ」
「例の装置の事も、その縁ってやつで?」
「そうだね。博士と話をする為に研究所に行って、そこでチラッと見ていたのさ。あぁ、見たと言うか少し意見を聞かれたね。あれ、元は傘木社の技術だからさ」
ユーリエも傘木社時代は被験体を保存する為コールドスリープ装置に触れる機会はあった。雄成個人に関しては知っている事も限られあまり役には立てなかったが、こちらに関しては彼女の知識も大いに役立てる事が出来、それが功を奏してこうして試作機とは言え実働にまで漕ぎ着ける事が出来た。
つまり、希美が死の運命をギリギリのところで踏み止まれたのはユーリエのお陰と言う事でもある。その事にリリィは改めて彼女に感謝した。
「ユーリエ……ありがとう。ノゾミが生きていられるのは、あなたのお陰よ」
「大袈裟だよ。それにまだ完全に生きているとは言い難いんだ。ここから目覚めるかどうかは分からないのだし、その言葉は彼女が目覚めるまで取っておきたまえ」
「うん、じゃあそうする」
そこで会話は途切れ、2人は目的地である九州支部に着くまで無言で窓の外を見たりしていた。これ以上は特に話題も無かった為2人は会話を交わす事も無かったが、特別居心地の悪さは感じなかった。
このまま何事もなく支部に着き、レックスが帰って来るのを待つ……と言う事になるかと思っていた2人だったが、乗っていたタクシーが出し抜けに停車した事で意識を引き戻された。窓から周囲を見ればここはまだ支部ではないし、信号のある横断歩道でもない。
「え? 何? 何で止まったの?」
「運転手、どうしたのかね?」
突然タクシーが停車した事に、2人は困惑しながら運転手に問い掛けた。こんな所で停車したタクシーに、リリィは一瞬このタクシーの運転手が修道騎士団の手の者でタイミングを見て再びユーリエを攫う為に罠に嵌めに来たのかと警戒しこっそりと隠し持っている拳銃に手を伸ばした。
が、それが杞憂であった事は運転手の様子ですぐに分った。運転手は2人からの問い掛けに対し、自身も困惑した様子で震える指で前方を指差したからだ。
「あ、あの、お客さん、S.B.C.T.の支部に行きたいって言ってましたよね?」
「そうですけど……何か?」
「あの……あの状態で行くのはマズいんじゃ……」
どこか要領を得ない運転手の言葉に、2人が運転席の向こう側を見た。するとそこには、空に向かって黒煙が上がっている光景が見えた。そこに何があるのか、2人にはすぐに分りそこで漸く状況を理解した。
「あ、あれって……!?」
「運転手ッ! 構わないから急ぎ向かってくれッ!」
「えぇっ!? 絶対危険ですよッ!?」
「いいから行くんだッ! 私達はあそこの関係者だぞッ!」
「私達の身の安全に関しては考えなくても結構ですッ! 急いでッ!」
「は、はいぃぃっ!?」
半ば強引に押し切られる形でタクシーは再び走り出し、黒煙の下にあるS.B.C.T.の九州支部へと近付いて行った。タクシーが全速力で支部へと向かう中、リリィはスマホや通信機を使って必死に支部や部隊を連絡を取ろうとしていた。だが何れも通信は繋がらず、2人は状況を知る事が出来ずにいた。
「九州支部、応答してください。九州支部? 隊長ッ! コレットッ! 誰でもいいから応答してッ!」
「どうだい?」
「ダメ、誰も出ない……って言うか、通信が繋がらない。多分、電波妨害がされてるのかも」
「そんな事をするのは…………」
ノスフェクトは基本的に組織的な動きはしない。上級ノスフェクトを中心にしてはいるが、それは飽く迄も群れているだけであって組織的な動きはしないのだ。ましてや、電波妨害で外部との通信を断つなど計画的な事が出来る装備などある筈がない。となると考えられるのは必然的に組織的な行動と工作が出来る修道騎士団と言う事になる。
それにしたってまさかECMか何かで電波妨害をし、周囲との通信を断つなどの事をしてくるとは予想外であったが。
「ユーリエ、向こうに着いたら私から離れないで。少なくとも味方と合流出来るまでは……」
一瞬支部に着いたら自分だけ降りて、ユーリエには別の場所に避難してもらおうと考えた。だが肝心の向かわせる場所がない事に気付き、下手な場所に彼女1人で放り出してまた修道騎士団に捕まる様な事になったら堪ったものではないので結局は一緒に行動する事にした。支部が今どんな状況になっているのかは分からないが、少なくとも彼女を1人にするよりはずっと安全だ。
程無くしてタクシーは支部の様子が見える所に到着し、流石にこれ以上は近付けないと言う事で2人はそこで降り料金を支払いタクシーには去ってもらった。無理を言ってここまで来てもらったのだ。これ以上付き合わせる訳にはいかない。
近くまで来て分かったが、支部の施設自体はそこまで酷く被害を受けている訳ではなかった。黒煙を上げているのは支部正面の駐車場の部分であり、そこでγチームの生き残りとδチームが必死に抵抗しているらしい。
戦闘自体はまだ続いているのか、駐車場からは今も激しい銃声が聞こえてきていた。
「リリィ、どうする?」
2人は流れ弾に当たらないよう気を付けながら物陰から様子を伺った。見える範囲ではS.B.C.T.が修道騎士団を食い止めているらしく、鈍色の装甲服を身に着けたライトスコープがスクラップになった車両などを障害物にしてイジターの動きを止めていた。
このままあそこに飛び込めば間違いなく流れ弾で被害を受ける。リリィ1人なら何とかなるだろうが、病み上がりどころかまだ安静にしていなければならないユーリエを連れてあそこに飛び込むのは自殺行為だ。
「回り道するわよ。こっち」
正面から行くのは無謀なので、リリィはユーリエの手を引き一度支部から離れて大きく周り込み、支部の裏手から近付いて行った。被害が無い為裏口は大丈夫だろうと期待していたが案の定だった。
内心でガッツポーズをしながら裏口に近付き鍵を使って扉を開けようとしたリリィ。だが鍵が抵抗なく回った事に、既にあけられているのに気付くと途端に異変を感じた。
「んん?」
「どうしたのかね?」
「……ちょっと離れて」
リリィは拳銃を抜くと、ゆっくりと扉のノブを回してそっと扉を開ける。警戒しながら裏口から入り、忙しなく銃口を動かしながら内部の様子を伺った彼女は、そこに広がる光景に険しい表情になった。
「これは……」
「何か?」
「ユーリエ、来て」
リリィに手招きされてユーリエが彼女の後ろから近付き、彼女の肩越しに内部の様子を見た。
そこには恐らく表で戦う部隊の裏を掻こうとして裏口から忍び込んだのだろう、修道騎士団の改造修道服に身を包んだ複数の男女が倒れているのが見えた。リリィが周囲を警戒しながら近付き、倒れた者達の脈を測るが全員既に事切れていた。
「死んでいるのか?」
「みたい。死因は……ウチの連中にやられた訳じゃないみたいね」
騎士団の団員は何れも首に何かに食らい付かれた痕がある。これが死因で、彼らは出血多量で死んだらしい。ただそうだとすれば、零れ落ちた血の量が明らかに少ない。
そんな事が出来るのは、彼女らとも敵対しているノスフェクト。或いは…………
「…………」
リリィは嫌な予感を感じて、流れる冷や汗も拭わずユーリエの腕を掴んで自分に引き寄せた。
「ユーリエ、絶対に私から離れないで――」
そこまで告げた所で、近くの曲がり角から2人の人影が飛び出した。1人は仮面ライダーイジターで、もう片方はノスフェクト態となったアルフである。アルフは叫び声をあげ発砲するイジターに飛びつくと、その首筋に食らい付き牙を突き立て血を啜った。
「ガァァァァァッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
首筋に牙を突き立てられ、血を吸われているイジターは抵抗しようとしっちゃかめっちゃかに手足をバタつかせながらデタラメに発砲する。だがアルフはイジターから離れず、相手が死ぬまで血を吸い続けた。
「ぁ、ぁ……ぁ」
事切れたイジターは変身も維持できず、元の改造修道服を着た人間の姿に戻った。相手が死んで、漸く首筋から口を離したアルフは、口元を血で汚しながら顔を上げた。
そして顔を上げたアルフは、その様子を緊張した面持ちで見ていたリリィ達と目が合った。その瞬間リリィはアルフから体の芯が冷える様な殺気を感じ、咄嗟にユーリエを突き飛ばす様にして離れさせた。
「くっ!」
「うぁっ!? リリィッ……!」
リリィがユーリエを突き飛ばすのと同じタイミングで、アルフが彼女へと飛び掛かる。クラッシャー部分を開け、牙を剥き出しにして彼女を押し倒し首筋に牙を突き立てようと迫った。
「ア、アルフちゃん、待って……! 落ち着いて、私よッ!」
「ガルルルル……!」
この緊急事態に、京也に何かあって酷い興奮状態になって見境が無くなっているのかアルフにはリリィの声が届いていない。
血生臭い息を吐きながらアルフの牙がリリィの首に迫る。
「ダメだ、止めろッ! リリィィィィィィッ!?」
周囲に死体が転がる廊下に、ユーリエの悲鳴が響き渡った。
と言う訳で第47話でした。
希美はコールドスリープで事実上の退場です。ただ、死んだ訳ではないのでそこはご安心(?)を。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。