仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第48夜:揚羽の仇討ち

 時を遡って、リリィがユーリエと希美の見舞いの為病院に向かっている頃、S.B.C.T.の九州支部では帰還したレックスが千里と敦を引き合わせていた。千里と敦は顔を合わせる成り、互いに手を差し出し握手を交わした。

 

「お久し振りです、剛田隊長」

「こちらこそだ、南城 千里君。いや、コガラシと呼んだ方が良いかな?」

「お好きな方で。それより、こちらは結構大変な事になっているみたいですね」

 

 γチームに多数の死傷者が出て、δチームも隊長である敦が前線から離れざるを得ない程の負傷をしてしまった。無論S.B.C.T.の仕事の過酷さは彼も知っているし、部隊の中には前線に出る隊員が丸々全滅すると言う事態も少なくない事を踏まえれば被害はまだ少ない方と言えなくもない事は分かっている。

 だがそれらを差し引いても、今の状況は芳しいと言えないのは間違いない。例え仮面ライダーの協力が得られているのだとしても、だ。

 

「情けない話ではあるがな。正直、ここまで戦力が揃っておきながら未だに解決の糸口が見えていないのが歯痒くて仕方がない」

 

 不甲斐無さに敦が僅かに顔を俯かせ苦虫を噛み潰したような顔になる。元が強面の彼がそんな顔をすると、やはりどうしても迫力が増してしまう。若くして様々な荒事を乗り越え厳しい父に鍛えられた千里であっても、その迫力を前に思わず後退ってしまいそうになった。

 

「ぅぉ……!」

「ぉぃ!」

 

 敦の顔の迫力に体を仰け反らせた千里の背中を、レックスが小声で窘めながら肩で小突いた。強面を気にしている敦を前に、ビビる姿を見せる事は許されない。そこは千里も分かっている為、後退りしそうになる足を気力で堪えて気を取り直すと軽く咳払いをしてから本題に入った。

 

「んん……それでも、S.B.C.T.の皆さんが頑張ってるから被害はこの程度で済んでるんです。気にするな……と言うのは少し違うかもしれませんが、気にし過ぎるのも良くは無いですよ」

「……そうだな。それで、どうだった?」

 

 千里がこの場に居るのは決して偶然ではない。彼は敦が万閃衆に応援要請をした結果、こうしてここに来てくれたのである。

 全てはノスフェクトとの戦いの中で、悩みの種であった修道騎士団の詳細な情報を得る為である。

 

「まず、現在皆さんがノスフェクトとは別に対峙している勢力の名は、修道騎士団で間違いありません。元はキリスト教の一部署だったみたいですね。調べた感じ、元々は昔の万閃衆みたいに影ながら欧州で戦う組織だったみたいです」

 

 尤も現在の在り方は万閃衆とは180度違う。卍妖衆と言う程ではないが、敵視している怪人を周囲の被害を考えず攻撃する過激さは万閃衆にはない。

 恐らくその原因の最たる存在は、数年前に修道騎士団に参入したと言うアスペンと言う男にあるのだろう。

 

「数年前、具体的には傘木社崩壊後に混乱から逃れたアスペンは傘木社の技術を手土産に修道騎士団に潜り込んで、技術供与を対価にそれなりの地位についたみたいです。その後は組織を大きくしながら出世していき、今では最高幹部の1人に数えられるくらいになったのだとか」

「立ち回りの上手い奴なんだな」

「そうとは限らない。傘木社時代の事は良く分ってないけど、純粋に腕も立つらしいからな。成り上がりと甘く見てたら、痛い目に遭うぞ」

 

 最初千里の話を聞いてアスペンは立ち回りが上手いだけの大した事ない男と侮ったレックスであったが、それは他ならぬ情報を持ってきた千里自身に否定された。アスペンは元々傘木社で保安警察として活躍したと言う実績を持つ。日本で活動する事が無かったのでその実力の程を知る事は出来なかったが、アスペンと同じように保安警察を纏め上げる幹部であった希美の事を考えれば、アスペンを侮るのは非常に危険であると言えた。

 

「で、話を戻すと、そのアスペンと今S.B.C.T.に所属しているユーリエ・ベルフェル主任は一応面識があるらしい。彼女はノスフェクト関連の首謀者であるペスター博士の事も知ってるって話じゃないですか。ちょっと情報の擦り合わせの為に、一度会っておきたいんですけど?」

 

 千里がここに来た最大の理由はそれであった。彼が調べられる範囲で可能な限りは調べたが、やはり当時の内情を知る人物との情報交換は重要である。その為にここにやって来たと言う千里に、敦は難しい顔をしながら頷いていた。

 

「ふむ、そういう事か。確かに重要だな……レックス」

「はい、隊長」

「彼を、ベルフェル主任が入院している病院へと案内してやってくれ」

「分かりました」

 

 こうしてレックスと千里は病院へと向かい、残されたのは死傷者を出し欠員があるγチームとδチーム、そして京也とアルフのコンビのみとなる。

 九州支部の最大戦力と言えるグラスに変身するレックスと、卍妖衆との戦いを駆け抜け戦士として大きく成長した千里の2人が居なくなり、九州支部は一時的にだが戦力が大幅にダウンした。

 

 そのタイミングを修道騎士団は見逃さなかった。

 

「あそこですね?」

「はい。監視していた連中からの報告だと、ヴァーニィとノスフェクトの2人はあそこに匿われているとか」

「なるほど……ならば確かに、住居には居ないのも納得できますね」

 

 既に変身しているアッシュが、部下のイジターからの報告にそう返して忌々し気に鼻を鳴らした。あれ以降、彼女達は京也とアルフの身柄を確保しようと躍起になって2人の姿を探していたが、住居の屋敷は勿論2人の姿が過去に確認された場所を虱潰しに探し回った。だがそのどれもが空振りに終わり、無駄足を散々踏まされた事に不満を感じていたのだ。

 

 それが今回漸く見つけられたとなり、彼女も上機嫌となっていた。

 

「さて、それではさっさと終わらせましょう。外部からの横槍が入ると面倒ですからね、通信の妨害は欠かさないように」

 

 アッシュが指示を出せば、九州支部の周囲に展開しているイジター達が動き出す。ある者は電波を妨害する為の装置を起動させ、またある者は有線通信を遮断する為埋設された光ファイバーケーブルを切断した。これで九州支部は外部との通信を完全に遮断され、完全に孤立状態となった。それこそテレパシーでも使えない限り、九州支部に残された者が救援を要請する事は出来ない。

 

 一瞬電線も切断し電力も遮断してやろうかと思ったが、ああいう施設には大抵緊急時用の自家発電装置や予備電源があるのが普通だから効果は薄いだろうと止めておいた。それに電力まで遮断すると、流石にあちら側にも異変が伝わり警戒させてしまう。奇襲効果が薄れる事を考えるなら、このまま通信を遮断しただけで奇襲を仕掛けた方が効率的だ。

 

 とは言え通信遮断だってすぐに異変として伝わる。案の定支部の内部では、γチームと共に残っていたコレットが突然の通信不良に怪訝な顔になっていた。

 

「え? 何で……?」

「どうかしたのか?」

「あ、剛田隊長」

 

 コレットが突如悪くなった通信状態にコンソールを操作していると、資料を片手に通り掛かった敦が背後から覗き込む様に何事か訊ねてきた。コレットは彼の顔を一瞥すると、直ぐに視線をディスプレイに戻し通信が切れた原因を究明しようとあれやこれやと操作しながら状況を説明した。

 

「たった今、いきなりネットワークが遮断されたんです。何をやってもオフラインのままで……」

「何だと…………、!?」

 

 コレットの報告に異変を感じた敦は、手にしていた資料を放る様に置くとスマホを取り出し電波状態を確認した。スマホ画面の右上の電波とネットワークの状態を知らせる表示は、何れも通信が切断されている事を示す表示となっている。

 それを見た瞬間彼は今正にこの支部が何者かに攻撃され外部との通信を完全に遮断されている事を察した。電波通信は勿論、本来であれば埋設された光ファイバーケーブルにより確保されている筈のネットワークすら遮断されているとなると、何者かが明確な悪意を持って支部を外部から孤立させる為に通信を遮断しているとしか考えられない。

 

 敦は即座にコレットに施設全体に対し警報を発する様指示した。

 

「コレット通信士ッ! γチームとδチームに緊急警戒態勢を取らせろッ! この支部が何者かに攻撃されているッ!」

「ッ! 了解ッ!」

 

 敦の言わんとしている事を即座に理解し、コレットは支部全体に警報を鳴らすスイッチを押した。スイッチは普段カバーに覆われており、使用の際には一部の者が持たされているキーを使ってカバーを開けなければならない。鍵穴にキーを指して回し、カバーを開いてスイッチを押す。その過程がもどかしくて手元がブレそうになるのを、彼女は気力で抑え込んでカバーを開いてスイッチを押し警報を発した。

 

 途端にけたたましいサイレンが施設全体に響き渡り、各所で待機していたδ、γ両チームの隊員は険しい顔になる。

 

「あ? 何だ、火事か?」

「いや、この警報は違うッ! 敵だッ!」

 

 突然の警報の困惑する隊員達に、コレットは放送で今何が起きているかを伝え警戒態勢に入るよう指示した。

 

『緊急警報、現在九州支部が何者かに攻撃を受けています! 外部との通信が遮断され、応援を呼べない状態です。待機している隊員は直ちに戦闘態勢を整え、襲撃に備えてくださいッ!』

 

 この通信にδチームとγチームの隊員達は顔色を変え、大急ぎでトレーラーに向かいライトスコープの装備を身に纏っていく。

 

「クソッ! 最近忙しすぎだろ、よりによって支部を直接襲撃かよッ!」

「これ、例の教会連中かな?」

「だろうね。ノスフェクトがこんな通信妨害なんて事やるとは思えない。組織的な襲撃が出来るとしたら自然と相手は絞られる」

 

 口々に愚痴ったり情報を分析しながらδチームの隊員が装備を整え警戒体制に移行する。その最中、彼らの通信機から敦の声が響いた。

 

『今回は戦場がこの支部周辺に限定されると予想される。よって装備の制限は解除だ。チェーンガンの使用も許可する』

「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 この通信に誰よりも喜んだのはトリガーハッピーことδ7の後藤 一也である。普段の戦闘では可能な限り周辺への被害を抑えなければならない為、必然的に火力の高い装備は制限が掛かっていた。だが今回に限ってはその心配はない。周辺には少なくとも民家はないし、支部の敷地内で戦う分には寧ろ強力な火力は賊を迎え撃つのに丁度いい。

 

 ライトスコープの装備を纏ったδ7は、意気揚々と追加装備のチェーンガンを身に着けていく。

 チェーンガンは専用バックパックとアームで繋がった機銃からなる大型装備なので、1人では装着できず装備の際は他人の手を借りる必要がある。普段あまり使われる事のない装備だからか、整備士達が少し手古摺りながらも何とか装着できた。

 

「うっしゃぁっ! 今行くぞッ!」

「今はδ5が居ないんだ。あんまり前に出過ぎないでくれよ」

 

 そう言いながらもδ6は最大火力のチェーンガンを持った彼を援護する為、盾を持ってトレーラーから出て他の隊員達に混じって迎撃に加わった。

 

 戦場となったのは支部正面。そこから次々とイジターが入り込もうとしてくるので、δチームとγチームはそれを迎え撃つ。前に出た盾持ちや駐車場に停められていた車を遮蔽物にしながら、施設内に入り込もうとしてくるイジターを銃撃で足止めしていた。

 

「オラオラオラオラオラァァァァッ!」

 

 当然だがこの迎撃戦で特に修道騎士団に対して脅威となっているのはチェーンガンを持つδ7だった。本来なら支援火器として後方に居るべき彼は、一度トリガーに掛けた指を引きっぱなしで前に出てそこら中に弾丸をバラ撒いている。一応ちゃんと狙ってはいるのか、銃身は敵がいる方をちゃんと向いてくれるのだが、狙いを定める最中もずっと引き金を引き続けている為放たれ続ける銃弾がホースから放水される水の様に駐車場を薙ぎ払っていく。その結果停車している車が蜂の巣になって爆散しようが、樹木が弾けて倒れようがお構いなしだ。

 その光景にδ8は彼より後方にある物陰に隠れながら、敵の襲撃を警戒しつつ呆れた目を向けていた。

 

「何時も何時も思う事だが、あの野郎は引き金から指を離すって事を知らねえのか? 下手すると始末書ものだぞ?」

「言って止まるならもうδ2がやってるよ。最近あそこまで撃ちまくれることが無かったんだ、相当フラストレーション溜まってたんだろ」

「まぁ、δ7が暴れてくれてるお陰で敵の動きが鈍ってるのは確かだし」

 

 そう言いながらδ10がまだ無事な車両を盾にしようとしているイジターを炙り出す為、車に銃撃を叩き込み燃料に引火させて意図的に爆発させる。銃弾がエンジン部分を粉砕し燃料に引火し始め煙が上がったのを見て、隠れようとしていたイジターは慌てて車の影から飛び出し爆発から逃れた。

 その爆発がδ7の意識を引き付けたのか、車の爆発から逃れたイジターは今度はチェーンガンの銃撃に晒される。

 

「そこだぁぁぁぁぁっ!」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 運悪く射線が重なってしまったイジターが強力な銃撃に倒れていく。

 

 戦況は決して悪いとは言えないが、それでも素早く動き回れるイジターはやはりライトスコープにとって脅威であり、δ7の銃撃の合間を縫って接近してくる奴も少なくなかった。S.B.C.T.側もそれらを必死に迎え撃つのだが、それでも中には接近を許しレイピアによる攻撃に晒される隊員も少なくなかった。

 

「ハァッ!」

「くそっ!?」

「離れろッ!」

 

 振り下ろされたレイピアを咄嗟に手にしていた銃で防ぎ、動きを封じられた隊員を援護するべく別のライトスコープがガンマソードを手に迫る。

 

 そんな攻防戦の様子を、支部の中の指揮所でコレットと敦が見守っていた。

 

「……現状、五部と五部に近い感じだな」

「ですが通信が出来ないのは相変わらずです。これでは隊員達への援護も、応援を呼ぶ事も出来ません」

 

 通信妨害されているので、コレット達に出来る事は殆ど無いも同然である。放送は使えるので本当にヤバい時はそれで状況を報せる事は出来るが、それ以外では逆にこちらの動きを敵に知らせてしまう為放送を使っての指揮はある意味で最後の手段であった。

 

 電波妨害に弱いと見えるかもしれないが、そもそも彼らの相手は軍事組織ではなくファッジなどの特異生物なのでこういう電波妨害に対してはあまり備えをしていなかった。下手に対人・対組織戦を意識した装備まで充実させると、S.B.C.T.の存在を快く思わない連中に叩く口実を与えてしまう。

 

 とは言え今まで敵対してきた連中が幸いな事に電子戦を仕掛けてこなかっただけで、もし今後傘木社に準ずる組織が出来てそいつらが高度な電子戦を仕掛けてきた場合、S.B.C.T.は一気に窮地に陥ってしまう。敦は今後の事も考えて、S.B.C.T.も対電子戦装備を整える事をこの戦いが終わった後上層部に具申する事を心に決めた。

 

「それはそうと、あの2人は?」

 

 敦の言う2人とは言うまでもなく京也とアルフの事である。修道騎士団がこんな行動に出た、その最大の理由はどう考えてもあの2人を狙ってのものに他ならない。ノスフェクトであるアルフは勿論、それと同等の存在になれるヴァーニィに変身する京也は修道騎士団からすれば存在を許せないのだろう。

 

「指示の通り今は部屋で待機してもらってますが……本当に良いんですか?」

 

 修道騎士団の狙いがあの2人である事はコレットも理解している。だが同時に、彼らは遠慮くとして非常に強力である事も確かなのだ。曲がりなりにも仮面ライダーであるヴァーニィが手を貸してくれるなら、被害は確実に少なくなる。

 飽く迄も実利を優先させ合理的に判断するコレットに対し、敦はそれに否と答えた。

 

「君の言いたい事は分かっている。確かに、この状況で仮面ライダーの助力を得られるのなら心強い事に違いはない。だが彼らを前に出せば、連中は確実に2人に殺到する。そうなればそれを援護しようとして、結果的に被害が増える危険もあるだろう」

「それは……」

 

 敦の予想を否定するのは難しかった。今は目標としている存在の姿が見えないから修道騎士団も戦力を分散させているのだ。ここであの2人を出してしまえば、彼の言う通り修道騎士団が殺到し集中した戦力により大きな被害を被る危険性があった。

 己の思慮の至らなさに唇を噛むコレットの肩に、敦は気遣うように手を置いた。

 

「そう難しく考えるな。それに、必ずしも絶望的と言う訳ではないんだ」

「と言うと?」

「通信が完全に遮断されれば、異変を感じる者は必ず出てくる。そうすれば応援も来てくれるだろう。それに、コガラシも居る。彼ならこちらの異変を感じればすぐに駆け付けてくれる。それまでの辛抱だ」

 

 

 

 

 δチームとγチームが攻め込んできた修道騎士団の相手をしている最中、敦たちが話していた京也とアルフの2人は敦に指示された通り与えられた部屋で待機していた。耳を澄ませば、遠くから薄っすらと激しい銃撃戦と爆発音が聞こえてくる。

 遠くからでも体の芯に響くような音が聞こえてくる度に、京也は自分も行くべきなのではないかと焦りと不安、何より自分達が狙われているという罪悪感に苛まれた。アルフは焦燥感に駆られて握り締められた彼の拳に、そっと自分の手を重ねて彼を落ち着かせようとする。

 

「アルフ……」

 

 拳に重ねられたアルフの手の温もりに、京也が彼女の方を見れば彼女は静かに頷いた。

 

「大丈夫……皆、弱くない。私達が出たら、奴ら、刺激するだけ」

 

 アルフの考えも概ね敦と同じであった。狙われているのが自分達だと理解している彼女は、迂闊に出れば逆に修道騎士団を刺激するだけだと考えていた。だから下手に出て無理に戦力になろうとするより、ここで大人しくしていた方が彼らの為になると理解していた。

 

 それでも焦りを感じずにいられない京也。直ぐ傍に来ている戦いの気配に、彼は自分も戦わねばならないのではないかと考えずにはいられなかった。何故だか分からないが、体が戦いを求めている様に焦燥感が苛むのだ。それ自体も彼を不安にさせ、心中で暴れる思いに京也は思わず頭を抱えた。

 

 思い悩む京也を不安そうに見ていたアルフだったが、そんな彼女の耳に不意に異音が聞こえてきた。施設正面からではない。その逆、裏口の方からだ。

 

「ん……?」

「アルフ? どうかした?」

 

 アルフの異変に気付いた京也が訊ねるが、彼女は答えず立ち上がるとドアをそっと開け周囲を警戒しながら部屋の外に出て音の聞こえた方に向かってみた。1人残されそうになった京也は慌ててその後に続き、周囲を警戒する彼女に倣って自分も警戒した。

 

 暫く歩いていくと、異音は彼の耳にも聞こえてきた。何やら漁る様な音だが、この状況下でそんな音が聞こえる事に違和感を覚えより強く警戒しながら前方の曲がり角を曲がった。

 

 その瞬間、彼らは裏口から侵入して手近な部屋を漁っているイジターとそれを指揮しているアッシュと鉢合わせしてしまった。

 

「なっ!?」

「ッ! そこですか、見つけましたよッ!」

 

 侵入してきたのはアッシュが率いる修道騎士団の別動隊だった。彼女は部下に派手に正面から攻撃を仕掛けさせ、S.B.C.T.の注目が正面に集中している隙にこっそり裏口に回って侵入していたのである。

 勿論裏口にもセキュリティーはあるし、監視カメラだって機能していた。だがアッシュ達はコレット達に気付かれないように監視カメラとセキュリティーを切り、ピッキングで裏口を開けて侵入に成功していたのだ。そして京也とアルフの2人を探し手近な部屋を漁っている最中に、2人は連中に遭遇してしまったのである。

 

 鉢合わせしてしまった事は不幸であったが、ある意味では幸運でもあった。もし侵入に気付けず2人が居る部屋まで来られていたら、あっと言う間に追い詰められてしまっていただろう。こうして鉢合わせすれば、少なくとも逃げて体勢を整えるだけの時間が得られる。

 

 アルフはアッシュ達と遭遇した次の瞬間には、血の様な赤黒いエネルギーを弾丸にして放ち、手近にいるイジターを攻撃し倒して京也の手を引きその場を離れた。奴らと戦う為に変身するにも、落ち着いて変身できる場所に移動する必要がある。

 

 出鼻を挫かれたアッシュは急ぎ2人の後を追うが、角を曲がろうとした所で再びアルフの攻撃が飛んできて角に隠れざるを得なくなった。そして攻撃が止んで角から顔を出せば、そこに2人の姿はなく廊下には閉ざされた扉が並ぶだけとなっていた。

 

「くっ! 探しなさいッ! そう遠くまで行ってはいない筈ですッ!」

 

 アッシュの予想は正しく、京也とアルフは彼女達が居る場所からそう遠く離れてはいない部屋に隠れていた。距離が近いからか、アッシュ達が2人を探して他の部屋を荒す音が聞こえてくる。

 もしここで2人がただの一般人だったのであれば、近付いて来る音に恐怖に部屋の隅や物陰で身を寄せ合い震えて祈るしか出来なかっただろう。しかし、この2人はそんなか弱い存在ではない。

 

「アルフ、行こう」

 

 京也はアッシュ達を迎え撃つべく、アルフに吸血してもらおうとした。だがアルフは、一瞬口を開き彼の首筋に牙を突き立てようとしたが、寸前で思い留まったかのように動きを止めるとそっと彼に問い掛けた。

 

「京也……大丈夫?」

「え?」

「だって…………」

 

 再び変身して戦えば、嫌でも実里が死んだときの事を思い出してしまうかもしれない。アルフはそれを危惧して、本当に彼に戦うつもりなのかを問い掛けたのだ。もし、無理をして戦おうとしているのであれば、彼に代わって自分が戦う事も視野に入れていた。それで彼を守れるのであれば…………

 

 彼女の不安に気付いたからか、京也は優しく彼女を抱きしめ頭と背中を撫でながら彼女の口元を己の首筋に誘導した。

 

「ん……」

「ありがとう、アルフ。でも大丈夫。僕は…………大丈夫、だから」

 

 本当は京也もあの時の事を思い出すのは怖い。自分の口の中に広がっているのが実里の血であると気付いた瞬間、自身の腕の中で冷たくなっていく実里の体温。

 そして何より…………

 

『化け物……!』

「ッ!?」

 

 死んだ実里の前で涙を流し、揚羽が自分に向けて投げつけた言葉とその時の顔が今でも忘れられない。あの時の事を思い出すだけで、今でも体が強張る程である。

 だが彼はここで逃げる様な事をしたくなかった。逃げてはいけない、戦えと体の何処かが叫んでいた。だから戦う。他の誰でもない、内なる彼自身がそれを求めていたからだ。

 

 京也の覚悟を感じ取り、アルフもそれに意を決して口元に触れる京也の首筋に鋭い牙を突き立てた。

 

「んぐっ! あ、あぁぁ……! は、ぅぅぅッ!」

 

 アルフに血を吸われる快楽に、京也の口から抑えきれない喘ぎ声が零れる。その声が外まで聞こえてしまったのか、2人が居る部屋がアッシュに気付かれてしまった。

 

『そこねッ!』

 

 アッシュが急ぎ部屋に来て扉を開こうとするが、予め施錠していた為直ぐには開かない。焦れたアッシュはクロスショットで鍵を吹き飛ばして強引に扉を開けて中に入ろうとした。だがそれよりも早く、アルフがクロスブラッドを作り京也が変身する。

 

「んぐ、ごぼっ! ふぅ……京也」

「うん……変身ッ!」

〈ダイシリアス、キョウヤ!〉

 

 京也がヴァーニィに変身すると同時に、アッシュが扉を破り入って来る。鍵穴を破壊しタックルして部屋に入ってきたアッシュは、それを待ち受けていたヴァーニィのコートを変異させて肥大化させた拳による一撃に逆に部屋の外に殴り飛ばされた。

 

「このっ!……あっ!?」

「フンッ!」

「がはぁぁぁっ!?」

「アッシュ様ッ!?」

 

 部屋に突撃したと思ったアッシュが逆に背中から飛び出し壁に叩き付けられた光景に、彼女に続こうとしていたイジター達が戦き動きを止める。その間にヴァーニィは部屋から出ると、両腕を肥大化させ作り出した爪でイジター達に襲い掛かった。

 

「がぁぁぁぁっ!」

「う、撃て撃てぇッ!」

 

 襲い掛かって来たヴァーニィに慌てて攻撃するイジター達だったが、まるで何かを振り払うように勢いに身を任せて戦う彼には浮足立った攻撃は通じない。床だけでなく壁や天井と言う、本来であれば機動力を奪う要因になるものを逆に利用して、三次元的に動き回り的の目を翻弄する。縦横無尽なその動きに、イジター達はしっちゃかめっちゃかに撃ちまくるが、放たれた銃弾はヴァーニィに掠りもせず接近を許してしまった。

 

「グルルッ!」

「ひっ!?」

 

 迫ってきたヴァーニィにイジターの1人は慄きながらもイジターレイピアを斬撃モードにして攻撃しようとする。だが恐怖に駆られた鈍い動きでは対応しきれるものではなく、ヴァーニィが腕を振るえばそれだけで複数人のイジターが吹き飛ばされ床や壁に叩き付けられた。

 

「はぁぁぁっ!」

「「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

 ヴァーニィの攻撃に吹き飛ばされ倒れたイジター達。彼は本能に従うように近くに倒れたイジターを掴んで持ち上げると、動けないそいつの首筋に口元を近付けクラッシャーを開き血を吸おうとした。

 

「ぐぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、アンタは化け物だった……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと少しで牙がイジターの首筋に突き立てられると言うところで、響いた声にヴァーニィが弾かれるようにそちらを見た。そこに居たのは、鬼のような形相で彼の事を睨み付ける修道騎士団の制服に身を包んだ揚羽であった。彼女の姿と、今自分がしようとしていた事に気付きヴァーニィは体の芯が冷え呼吸も忘れて動きを止めてしまう。

 

「ッ!?!?」

 

 体が強張り、イジターを掴んでいた手の力が緩んで落としてしまう。解放されたイジターは、床を這うようにしてヴァーニィから距離を取った。

 

「ひ、ひぃ……」

 

 情けない声を上げながら離れるイジターには目もくれず、ヴァーニィは自分の前に立ち塞がる揚羽を慄きながら見ているしか出来ない。そんな彼に、揚羽は怒りと憎しみの籠った目を向け怨嗟の声を上げた。

 

「みのりんの仇……!」

「ッ!? 磯部さん、それは……!」

 

 揚羽が徐に取り出したのは1本の短剣。イジターに変身する為の起動キーの役割を果たすそれを、ベルトのバックルに装填した。

 

「変身ッ!」

〈Amen〉

 

 京也も口にする言葉で、揚羽がイジターに変身する。変身した彼女は腰からイジターレイピアを斬撃モードで抜き、切っ先を彼に向けた。

 

「お前は、私が倒すッ!」




という訳で第48話でした。

揚羽が暴走したまま教会側の戦力となってしまいました。現状は他の団員に合わせてイジターですが、揚羽は一応名有りで目立つ存在なので後々ちゃんとしたライダーになるかもしれません。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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