仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第50夜:ジェーンの贈り物

 支部内部での戦いが行われていた頃、正面の駐車場で起こっていた戦いにも変化が起こっていた。

 

 δチームとγチームを相手に一進一退の攻防を繰り広げていた修道騎士団。ある意味でホームグラウンドである支部を戦場にした戦いは、徐々にではあるがS.B.C.T.側に戦況が傾きつつあった。

 そこに水を差す様に騎士団側に増援がやって来た。

 

「随分と手古摺るようだな」

「ッ、アスペン神父ッ!」

 

 なかなか戦いに決着がつかないどころか、アルフと京也を始末したと言う報告も来ない事に焦れたと思しきアスペンが直々に来訪すると、戦いの様子に眉間に皺を寄せながら溜め息を吐いた。そこには失望したとかそう言う感じは無かったが、それでも最高幹部である彼を満足させる結果が得られていないと言う状況は戦いに参加する全ての団員の肝を冷やさせるのは十分であった。

 

 そんな彼らの緊張を他所に、アスペンは前に歩みながら首から下げたロザリオから十字架を外した。

 

「仕方がない、蹴散らすか。……変身」

〈in Jesus' Name we pray. Amen〉

 

 腰に装着していたクロスショットに十字架を装填して引き金を引けば、アスペンの姿が変化する。

 ボディースーツも鎧も黒く、仮面の部分は目元を盾にスリットの入った格子状のバイザーで覆われた赤い複眼が光り、スカートではなく黒いコートを羽織っている。

 それはカタリナ達が変身するシルヴァとはまた違う、彼が変身する仮面ライダー。その名も仮面ライダーシャドゥであった。

 

 シャドゥは変身するとベルトからクロスショットを抜くと、一直線に戦場へと飛び込み目に映るライトスコープに次々と襲い掛かった。

 

「なっ!?」

「コイツッ!」

 

 突然現れたと思ったら抜いたクロスショットを至近距離からぶっ放してくるシャドゥに面食らいながらも反撃するS.B.C.T.。しかし素早い身のこなしを見せるシャドゥは弾幕を潜り抜けると、銃底で殴ってリ蹴りを入れて戦線を崩してきた。派手に暴れるシャドゥは通信が無くとも注目を集め、自然と他の隊員からの攻撃も彼に集中する。

 だが無駄のない動きで銃撃を回避したシャドゥは、正確無比な射撃と鋭い格闘で逆に攻撃してきたライトスコープを返り討ちにしてしまう。

 

 これはマズイと前線で指揮をしていたγチームの隊長のスコープが周囲の隊員に後退を指示しながら自身はシャドゥに挑み被害を少しでも減らそうと試みた。

 

「例えδチームのエースが居なくても……!」

 

 決死の思いでシャドゥに挑むγチームの隊長は、S.B.C.T.結成当初から戦い続けている隊員と言う訳ではない。だが傘木社がバラ撒いた悪意による被害者を減らすべく入隊し弛まぬ努力でこの地位に就きスコープまで受領した。その事を誇りに思い、日々任務に従事してきた彼はレックスの様な特記すべき能力はなくとも堅実な戦いでこれまで生き延びてきた。

 

 しかし…………

 

「邪魔だ」

〈One judge! Shooting cross!〉

 

 シャドゥは戦いの中でクロスショットをスピンコックさせると、強化した弾丸をスコープに向け発砲。狙いすました射撃は正確にスコープを撃ち抜き、一撃でγチームの隊長を戦闘不能にまで追い込んでしまった。

 

「うぐ、がはぁっ!?」

「隊長ッ!?」

 

 スコープが倒れる姿に残りのγチームの隊員が悲鳴のような声を上げる。シャドゥはその姿に小さく鼻を鳴らすと残りのライトスコープもさっさと始末しようとそちらに銃口を向けた。

 

 そこでシャドゥは刺す様な敵意を感じ、咄嗟にその場を転がる様に移動した。直後彼が居た場所に3枚の手裏剣が突き刺さる。

 

「これは……」

 

 自分が居た場所に突き刺さった手裏剣を見て、シャドゥは何が来たのかを察し仮面の下で口をへの字に曲げた。今この近辺でこんな攻撃をしてくる者は1人しかいない。

 

 手裏剣が飛んできた直後、S.B.C.T.の傍にやって来たのは専用の武器である轟雷を抜いたコガラシであった。

 

「待たせたッ! 皆、大丈夫か?」

「待ってたよ、忍者君ッ!」

 

 やって来たコガラシにいの一番に声を掛けたのはδ9であった。彼は装甲を傷だらけにしながらも銃を持っていない方の手を上げて健在である事をアピールした。だがそんな余裕があるのは彼くらいであり、他の隊員達は激しい戦いに疲弊し声を上げる余裕すらない。γチームに至っては倒れたγリーダーを移動させるのに奔走しており、コガラシを気に掛けている場合ではなかった。

 

 自分が離れている間にS.B.C.T.が大きな被害を受けた様子に、コガラシは不甲斐無さを感じるも今は敵を退かせる事が最優先と気を引き締めシャドゥ率いる修道騎士団と対峙する。

 

 一方のシャドゥはと言うと、コガラシを視界に収めながらも周囲の状況をつぶさに観察した。戦況は決して芳しくない。内部に潜入した筈のアッシュ達からは連絡もなく、S.B.C.T.にダメージは与えられているがそれだけであり、また修道騎士団自体も傷付いている。

 事ここに至り、シャドゥはこれ以上の戦闘は得られるものが少ないと撤退を決意した。

 

「潮時か……退くぞッ!」

「で、ですがアッシュ様は……」

 

 予定では彼らが正面から攻め込んでいる間に裏から回り込んだアッシュ達が京也とアルフを始末し、それが終われば合図を送ってくる手筈となっていた。だが依然としてその合図はない。それが意味する事はつまり、作戦が失敗したことを意味する。詳細は分からないが、予定外の伏兵が居るか何かしたのだろうとシャドゥは予想し、その上で改めて撤退を命じた。

 

「何度も言わない。撤退だ。アッシュは可能であれば回収する」

「は……はい」

 

 有無を言わさぬシャドゥの雰囲気に、配下のイジターはそう返すしか出来なかった。

 

 撤退を決めてからの修道騎士団の動きは迅速であった。こういう時の為に用意しておいた閃光弾と煙幕をバラ撒き、コガラシとS.B.C.T.の視界を塞いだ上で素早くその場から姿を消す。コガラシであれば煙幕を吹き飛ばして追撃する事も可能ではあったが、下手に刺激すれば自棄になった連中の反撃で余計な被害が増えかねないと彼は逃げるシャドゥ達を静かに見送り、自然に煙幕が消えるのを待った。

 

 視界が晴れた時、そこにあったのは戦闘の余波で破壊された駐車場と、巻き込まれて破壊された多数の車両。そしてシャドゥの参戦で倒れた多数の隊員達の姿だけで、倒した筈のイジターの姿は影も形も無かったのだった。

 

 

 

 

 その後の後始末の最中、彼らはセキュリティが切られ裏口からも入られていた事を知り大層肝を冷やした。京也とアルフが気付き迎え撃ってくれていたから最小限の被害で済んだとはいえ、下手をすれば背後を突かれて全滅していた危険もあったのである。

 

 だがそれより何より、彼らを悩ませたのは暴走したと思しきアルフであった。裏口から侵入してきた修道騎士団の団員を返り討ちにし、更にはリリィにまで襲い掛かった。ノーバディノスフェクトが来てくれなければ今頃はリリィとユーリエもアルフの餌食となって今頃は死体袋の中だっただろう。彼らはノーバディノスフェクトの正体を知らないが、これに関しては素直に彼女に感謝した。

 因みに唯一アルフの相手をすることなくその場を離れた揚羽と、アルフの反撃により外に放り出されたアッシュは何時の間にか姿を消していた。恐らくはシャドゥ達が回収したのだろう。

 

 このアルフの暴走に関して、専門家であるユーリエは直前に彼女が死ぬ一歩手前までダメージを負った事が原因だろうと予想した。

 

「生憎と監視カメラも切られていたから何が起きたのか具体的な事は分からないがね。ただあの状況と、彼のあの様子だと1人立ち向かったところで騎士団の別動隊に酷く痛めつけられて生命の危機に瀕したんだろう。特に血を失う事に関して、ノスフェクトはとても敏感だ。トドメを完全に刺さず血を失わせるだけで終わらせた結果、生命維持を優先させた彼女が理性を失うのは考えられる話だよ」

 

 病院も決して安全ではないとなり、已む無くユーリエは支部の医務室を一時的に自分のオフィスにして療養しながら情報の整理をした。資料が山積みとなり、膝の上にノートパソコンを置いて画面とにらめっこする彼女に片腕を吊った敦が何とも言えぬ顔をした。

 

「そんな状態になってまで仕事をしなくても……」

「気遣いは痛み入るよδリーダー。だが心配は不要だ。それに、こうしていた方が案外落ち着く。ジッとしているのは性に合わない」

「無理をするならここのもの全部取り上げるからね?」

「……善処しよ「ん?」……分かっているよ」

 

 敦に同伴して話を聞いていたリリィに念押しされると、ユーリエも大人しく折れてノートパソコンを閉じそのままベッドに体を横たわらせた。彼女が枕に頭を乗せ一息つくと、リリィは膝の上のノートパソコンを退かし掛布団を掛けてやった。

 

「で、話は戻るけど、結局あの子は大丈夫なの?」

 

 大丈夫とは、再び暴走の危険は無いのかと言う事だ。今アルフは目を覚ました京也により衣服を着せられた上で、部屋に軟禁されている状態だった。彼女が暴走したと聞いた当初は独房などに監禁する事も提案されたが、目覚めた京也がそれに待ったを掛けたのである。

 曰く、最悪の場合は彼が血を飲ませる事で落ち着けると。勿論それに対して反対する意見もあったが、アルフが暴走する場面に直面していたリリィとユーリエは今の2人を引き離すべきではないと彼がアルフと共に居る事を認めた。あの時アルフは明らかに京也だけはちゃんと認識し、彼と共に居る時だけは落ち着いていたように見えた。であるならば、下手に引き離すよりは一緒に居させた方が不安は少ない。

 

 だが、もしもと言う事はある。リリィはそのもしもと言う可能性でアルフが京也を殺してしまうような事はないかとユーリエに訊ねてみれば、彼女はベッドに身を委ねながらコメカミを指で突きながら答えた。

 

「恐らくは、ね。不明瞭な答えになってしまって申し訳ないが、生命の危機が無くなった今、平静を取り戻すだろう」

「では、命の危機に晒されればまた暴走する危険があると?」

 

 ユーリエの話の裏を返せばそういう事だ。先程のアルフの有様は、生存本能からくる自己防衛の為の暴走。ならば、同じような状態になれば再び暴走の危険があると言う事になる。敦が確認するようにそう問い掛ければ、ユーリエは口をへの字に曲げ唸りながら頷いた。

 

「まぁ……そういう事になるね。可能性は高いと思うよ」

「そうか……」

 

 ユーリエに続き敦も唸った。今までアルフが曲がりなりにも保護と言う事で施設からの出入りの制限以外は特に束縛が無かったのは、彼女自身にそこまで危険性が無かった為だ。だがこうなると話が違ってくる。条件ありきとは言え暴走の危険があると判明した今、彼女の扱いをどうするかで頭を悩ませざるを得なくなった。

 

 指揮官としては、周囲への安全も考慮してアルフは頑丈な部屋に監禁するべきなのだろう。猛獣の扱いと同じだが、迂闊に傷付かれると暴走して周囲に被害をもたらす危険があると言われたらそう考えざるを得ない。

 

 だが同時に剛田 敦個人としては、彼女を危険物のように扱う事に対しては否と考えたかった。遠目に京也や他の隊員と触れ合うアルフの姿を見てきたが、少し浮世離れした雰囲気はあっても普通の少女にしか見えない。そんな彼女を、彼女自身と周りを守る為とは言え監禁して窮屈な生活を送らせる事に対しては否定的になってしまうのだ。

 

 しかし彼は自他ともに厳しく、合理的な判断を優先させる事が出来る人物であった。個人的な考えがどうだろうと、組織としてそれが最良なのであればそれを選び取れるだけの強さを持つ。

 心苦しくはあるが、当面の間アルフに関しては不自由な生活を送ってもらう決断を下そうとした。そこで口を開いたのはリリィであった。

 

「隊長、私とレックスに暫くあの子達と過ごす許可をください」

「何?」

「私とレックスで、あの子達の世話を見るって言ってるんです」

 

 この意見には敦だけでなくユーリエも険しい顔になった。言うまでもなく危険が伴うからだ。平時であれば問題ないとは分かっているが、もし生命の危機以外に暴走の要因があるとしたら最も近くに居るリリィ達が危険に晒される可能性がある。そんなリスクを、隊長として安易に背負わせる訳にはいかなかった。

 

「ダメだ。流石に危険すぎる。生命の危機だけが暴走のトリガーとは限らないんだぞ」

「分かってます。でも、だからってあの子を危険生物みたいな扱いにするのは間違ってます」

「それは情かね、リリィ?」

 

 ユーリエは何となく分かった。リリィはアルフと自分を重ねているのだ。嘗て傘木社の実験動物として鎖に繋がれていた彼女は、自身でも制御できない体質に苦しめられていた。そんな自分と、望まずして暴走してしまうアルフを重ね合わせ、そして危険だからと監禁されようとしている事を見過ごす事は出来なかったのである。

 

「そうね……情が無いと言えば嘘になるわ。私はあの子を、放ってはおけないと思ってる。でも、それだけが理由じゃないわ」

「他に何かあるのか?」

「人間的な扱いを受ける事は、彼女の精神の安定にも繋がると思うんです。私が、そうでしたから」

 

 傘木社で実験動物として扱われていたリリィとレックス。周囲を全て敵視し、怯えていた彼女達を救ってくれたのは、気負わず普通に接してくれた当時の希美であった。それまで向けられていた蔑みと畏怖を含んだそれとは全く違う、至って普通に接してくれる彼女の存在がリリィとレックスの心を癒してくれた。あれが無ければ2人は本当に身も心も獣の様になってしまっていただろう。

 

「化け物みたいに扱えば、そう扱われる本人にも悪影響となります。危険と分かっていても、いえだからこそ、接し方は普通にするべきです」

「むぅ……しかしな……」

「それに危険に関しても、私はあまり心配する事はないと思ってます」

「何故かね?」

「京也君です」

 

 アルフは暴走していても、京也だけはしっかりと認識して彼の存在に安心感すら抱いていた。彼の存在がアルフにとっての精神安定剤として機能し、暴走の危険を格段に下げてくれるとリリィは確信していた。

 それに加えて、鍛えられているレックスであれば変身しなくてもある程度は食い下がるだろう。仮に何らかの理由でアルフが暴走したとしても、襲い掛かって来たのを押し退けて変身するだけの余裕はある筈だ。

 

「だからお願いです、隊長。私とレックスがしっかり面倒を見ますから、あの子達をあからさまに危険なものとして扱わないでほしいんです」

 

 真剣な表情で見つめてくるリリィの目を敦は見返した。強い芯を感じさせるその視線は、正直揺れ動いていた敦の心を傾けるには十分な強さを持っていた。根負けしたように溜め息を吐いた彼の姿に、リリィは手応えを感じユーリエは全てを諦める。

 

「まぁ、言いたい事は分かるし一理ある。どの道監視は付けなければならないとなれば、どう転ぼうと同じ事か」

 

 渋々と言った様子ではあるが、納得をしてくれた2人にリリィも肩から力を抜いた。薄っすらと笑みすら浮かべた彼女に、しかし敦は釘を刺す様に告げた。

 

「だが油断はするな。私とてあの子達の事は信じたい。しかし万が一と言う事はある。何かあったら決して無茶はするんじゃない」

「身の危険を感じたらすぐに誰でもいいから助けを呼ぶんだよ」

「分かってます、隊長。ユーリエ、私そんなに子供じゃないんだから」

「心配なんだよ、君の事が」

 

 2人からの、ユーリエからの小言に小さく頬を膨らませるリリィであったが、2人が自分の事を気遣ってくれている事は分かっている為そこまで文句をいう事はしなかった。

 

 そんな感じで話し合いが行われている頃、自分の与り知らぬところで京也達の世話係に任命されたレックス。尤もその決定に対して彼が何かをいう事はしないだろう。寧ろ彼自身それを望む筈だ。

 そのレックスが何をしているかと言うと、京也とアルフの部屋の壁に寄りかかってベッドの脇に座る京也と千里の会話に耳を傾けていた。

 

「紅月君、君に聞きたい事がある」

「は、はい……?」

 

 千里が真剣な表情で京也に問い掛けると、京也はやや気圧されながらも頷いた。一体千里が京也に何を訊ねるのだろうと気になったレックスが壁際から2人の会話に耳を傾けていると、千里の口から思いもよらない人物の名前が飛び出した。

 

「君、ジェーンって人の事、知ってるか?」

「え、ジェーンさんッ!?」

「どう言う事だ、センリ?」

 

 ここでジェーンの名前が出てくるとは思っていなかったので、京也は思わず目を見開く。ジェーンが京也とアルフの済む屋敷の家主であり、今まで2人の面倒を見ていた女性であると京也自身の口から聞いていたレックスは、2人の親代わりと千里の間の関係性が分からず首を傾げた。

 

「ジェーンって言えば、キョウヤ達が暮らしてる屋敷の家主だろ? 何でセンリがその名前を知ってるんだ?」

「……一応確認するけど、ジェーンって言う人は薄い桃色の髪をした赤い瞳の女の人で特徴は合ってるよな?」

「ぁ、は、はい……僕の知ってるジェーンさんはそう言う人ですけど……」

 

 加えて言うならこの場に居る全員の知る女性を超える巨乳の持ち主でもあったが、それはそこまで重要ではないので言及はしない。

 重要なのは、千里の知るジェーンと京也の知るジェーンが同一人物であると言う点であった。

 

「う~ん……」

「センリ?」

「ん? あぁ、悪い。俺とジェーンさんの関係な。まぁ、そんなに深い関係って訳でもないんだ。ただ行きつけの喫茶店の店長だったってだけで」

「カフェの店長? それだけ?」

 

 千里の知るジェーンは嘗て、壬峰町にある小さな喫茶店を経営していた。そこで千里は恋人の唯を始め仲間達と一時羽を休めたり、悩みを相談したりと彼女の世話になった。だがある日突然彼女は姿を消した。それも、彼女がそれまで隠していた正体が判明した瞬間にである。

 それだけであれば千里もここまでジェーンを気に掛けたりはしなかっただろう。ただ次に会った時に感謝はしたいと思うくらいで。姿を消す直前、ジェーンは命の危機にあった千里の仲間である椿を助けてくれたのだ。

 

 だが、どうもジェーンはノスフェクトとしての能力を使ったのか椿の意識に自分を刷り込んであたかも前々から知り合いであったかのような関係を作り、そして千里達を誘導するように仕向けた節があった。

 一体何故そんな事をしたのか。椿の精神に干渉してまで、何故千里達に接触を図ろうとしたのかなど気になる事が多い。そんな中、風の噂でジェーンが仮面ライダーヴァーニィである京也と共に暮らしていると聞いた。ちょうどここでノスフェクトに関連して怪しい動きがあると言う事で、千里は渡りに船とノスフェクト、修道騎士団の調査にかこつけてジェーンとの再会を目論み来訪したのである。

 

「あの人が何で俺達に近付いたのか……長谷部さんを操ってまで、何があの人をそうさせたのかがどうにも気になって……な」

 

 確かに気になるし気持ちの悪い話だ。悪意があった訳ではないようだが、それでも知り合いを操ってまで接触を図って来たのは理由が気になる。納得したレックスは、先日屋敷を訪れたがジェーンとは会えなかった事を告げた。

 

「そのジェーンって女に関して何だが……実はキョウヤ達の親代わりだって聞いて、一度会いに行ったんだ」

「どうだった?」

「会えなかったよ。俺が行った時には誰も居なくて、日を改めたらキョウヤ達の事を知った騎士団の連中が家探ししただけでやっぱり居なかった」

 

 屋敷が騎士団に荒らされただろうと言う事は京也も聞かされていた為、辛そうに顔を俯かせた。あの屋敷にはそれなりに愛着もあるし思い出もあった。それを土足で踏み荒らされると言うのはやはり気分が良いものではない。今はまだ無理だが、状況が落ち着いたらすぐにアルフと共に帰って屋敷を片付けようと京也は密かに誓っていた。

 

「ジェーンさん……一体何処に……」

「紅月君、聞きたいんだけど……」

「はい?」

 

 本人に会えないなら会えないで仕方がない。会える事を期待して探すが、先ずは彼女の事をこの場でよく知る京也に訊ねてみようと千里が問い掛ける。流石に彼女の真意は分からないまでも、彼女自身がどのような人物かは聞けるはずだ。

 

「ジェーンさんって、どう言う人なんだ?」

「どうって……まぁ、変わった雰囲気の人だとは思います。何時も何してるのか分からなくて。でも、僕とアルフの事を守ってサポートしてくれる、不思議だけど優しい人だとは思います」

 

 京也の話に、千里はふむと考え込む。彼の話すジェーンの人間像は、千里の記憶にあるジェーンとかなり近い。距離感の問題だからか、守ってくれると言う感覚はかなり薄かったが、不思議で優しく時にサポートしてくれる女性と言う部分は頷ける部分であった。

 だがジェーンには千里も知らない部分がある。それを知っているのが、京也であった。

 

「あ、でも……」

「ん?」

 

 ジェーンの秘められた正体を知る京也は、これを話すべきか迷った。何分内容が内容だ、迂闊に他人に話す事は彼女にとっても失礼に当たる可能性もある。そう思って言いかけた所で口を噤む京也であったが、言い淀んだところでそう言えばジェーンがこんな事を言っていた事を思い出した。

 

【いい~、京也く~ん? もし何時か何処かで~、私の事を知ろうとしてる人が居て~、それが君が信じてもいいと思える人だったら~…………私の事、話してあげて】

 

 きっと彼女の事を探ろうとしている人物には2種類居る事を彼女自身知っていたのだろう。一方は彼女を利用か害しようとする者。そしてもう一方は、千里の様な純粋に彼女の事を知ろうとする、若しくは何らかの理由で彼女の事を知らなければならない者の事だ。

 何より千里がどう言う人物かは分かった。彼は仮面ライダーとして人を助ける為に戦う事が出来る。そんな彼であれば、ジェーンの事を知っても悪いようにはならないだろう。京也はそう信じて、ジェーンの事を千里と、序でにこの場に居るレックスにも話した。

 

「実はジェーンさん……ノスフェクトなんです。それも上級の」

「「!!」」

 

 京也の口から出た思わぬ言葉に、千里だけでなくレックスも驚愕し思わず顔を見合わせる。

 

 尚本当はただの上級ノスフェクトなのではなく、上級ノスフェクトでもある評価試験体と言う複雑な存在なのだが、京也はそれを知らないので千里達にもその事が伝わる事は無かった。

 

「それ、本人が?」

「はい。自分はアルフと同じだって。その上でアルフと僕の事を守って、面倒を見てくれて……本当に、お姉さんみたいな感じでした」

 

 きっとアルフも同じ気持ちだろう。彼女もジェーンの事は信じている。だからこそ、今はジェーンの存在が京也とアルフには必要だった。親身に悩みを聞いて諭し、導いてくれる。そんな存在が…………

 

 一方千里とレックスはもう一度顔を見合わせると、一旦京也から距離を取り背を向けて顔を近付け合い小声で話し合った。

 

「どう思う? そのジェーンって奴の事」

「俺は……正直、信じたいと思う。俺も、俺の仲間も、あの人には色々と助けられた。恩は感じてる。ただ……」

「何で秘密を抱いたままいきなり居なくなったのか……か?」

 

 秘密を抱く事は分かる。いきなり上級ノスフェクトだ何だと言われても、当時の千里達にとっては混乱を招くだけだっただろう。下手に警戒させるくらいなら、何も言わず黙っておくと言うのは決して間違った判断ではない。沈黙は金、雄弁は銀とも言う。

 ただ、それはそれとして本当の事を話さず姿を消された事に関しては思うところがないでもなかった。結局自分と彼女では店の主人と客と言うそれだけの関係でしかなく、一定の壁が存在したのだと言う事を見せつけられ寂しさを感じた。

 

 とは言え、それは所詮千里の個人的な感情に過ぎずその事でジェーンを悪く思うのはやはり筋違いだろう。そう思い直し千里が頭を振って気分の悪い考えを振り払うと、気持ちを切り替えた。

 

「ありがとう、紅月君。俺は俺で、もう少しあの人の事を探してみる。もし見つけたら、君らに会いに来るよう言い含めておくよ」

「! お願いします!」

 

 京也が千里に頭を下げ、それに対して千里は軽く手を上げると部屋から出た。レックスもそれに続き外に出ると、そのまま2人で外に向けて歩いていく。

 

「……で? 当てはあるのか?」

「正直、全然。あの人何でか俺の風読みでも居場所が分からないんだ」

「対策……されてるんだろうな。お前、自分でも知らない内にその人に色々調べられてたんだろ?」

「多分な。こうなったら意地でもあの人見つけて話を聞き出さないと」

 

 意気込みを新たにしながら、千里は再び周囲の警戒とジェーン捜索の為正面から外の駐車場に出た。駐車場は未だ戦闘の爪痕が残っており、このままではトレーラーの出入りすら満足に出来そうにない。

 

 あちこちに車の残骸が散乱している。そんな中で、異彩を放つ1台の綺麗なバイクの存在が2人の目を引いた。

 

「ん? あれ誰のだ?」

「って言うか、あんなのあったっけ?」

「おい、あのバイク何だ? 何時からあった?」

 

 見覚えのないバイクを不審に思った2人は、駐車場の残骸を片付けている者の1人を適当に捕まえてバイクについて尋ねた。ところが返って来たのは不可解な答えであった。

 

「え? あれ? 何だあれ? 何時から……」

 

 どうやら彼もバイクの存在に気付かなかったらしい。他の者に聞いても同じだった。この場で動き回っていた誰も、あのバイクが何時からあそこにあるのか気付かなかったらしい。

 

 明らかに怪しいバイクに、千里とレックスは警戒しながら近付いていく。ある程度近付くと、バイクのハンドル部分に何かが入った黒いビニール袋がぶら下げられているのに気付く。もしかすると危険なものかもしれないので、千里は忍者刀を、レックスは拳銃を片手にそのビニール袋を取り中身を覗き込んでみた。

 

「……んん?」

「こいつは……」

 

 2人が慎重にビニール袋の中を覗くと、そこに入っていたのは赤黒い液体の入った複数のパック……所謂輸血パックであった。保冷剤と共に入ってはいるが、それでも長時間長持ちする訳ではない物をこうも無造作に置かれている辺り、これがここに置かれたのはつい数分前程度の近い過去と言う事になる。これほどのものを、誰にも気付かれずに置くなど普通に考えたら不可能だ。

 だが千里は、この不可能を可能に出来るだろう人物に心当たりがあった。そして、それを証明するように袋の中には輸血パックと共に1枚のメモ用紙と思しき紙が入っていて、それにはシンプルにこう書かれていた。

 

「『2人の事、よろしくね』…………!」

「ッ!?」

 

 それだけで千里とレックスは、これを置いたのがジェーンであり彼女がつい数分前にここに来ていたのだと言う事に気付いた。レックスは素早く周囲に銃口を向けながら注意深く辺りを観察したが、パッと見える範囲を素早く見渡してもジェーンと思しき女性の姿は影も形も見当たらない。千里もまた彼女の存在を捉えようと風を読んでみたが、案の定風は彼女の所在を教えてくれることは無かった。

 

 暫く周囲を警戒していた2人だったが、結局ジェーンの姿を見つけることは叶わなかった。2人は警戒を解き、疲れた様に揃って溜め息を吐くと、千里は当初の予定通り周囲の警戒とジェーンの捜索に向かい、レックスはビニール袋を片手に支部の中へと戻っていく。

 

 そして調べてみると、輸血パックはどれも中身が稀血である事が分かり、バイクも京也の物である事が判明するのであった。




という訳で第50話でした。

遂にアスペンが変身するライダーがお披露目となりました。その名もシャドゥ。外見はカタリナ達が変身するシルヴァ等と違い大分男性的です。モチーフは教会の神父や牧師であり、武器はクロスショット一丁のみと言う潔さです。

実里が死んで長らく強化形態のブラッディ・ヴァーニィが封印されてきましたが、ジェーンから稀血を送られた事で再びブラッディ形態解禁です。流石にいざという時の切り札が無いままだと厳しいので。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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