仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

55 / 84
どうも、黒井です。

今回、カタリナが遂に動きます。


第53夜:カタリナの反乱

 S.B.C.T.δチームとヴァーニィ、アルフの混成部隊とクロコダイルノスフェクト率いるノスフェクト達との戦いは激しい混戦となっていた。

 

『δ5はクロコダイルノスフェクト、他の隊員は固まってノスフェクトへの攻撃に当たれ。下級とは言え油断するな、最低でも3人以上で攻撃を集中させろ。対応しきれない分に関してはヴァーニィ達に任せればいい』

「はいッ! 皆さんは無理しないで、僕とアルフに任せてくださいッ!」

「あああぁぁぁぁぁっ!」

 

 通信機から敦の指示が届けられる。幾ら装備が対ノスフェクトに最適化されているとは言え、普通の人間が装備を身に着けたライトスコープで下級とは言えノスフェクトを1対1で相手するのはリスクが大きい。だがヴァーニィとアルフであれば、下級のノスフェクト程度であれば最早敵ではない。京也……ヴァーニィはこれまでの戦いで経験を積んでいるし、最近はレックスとの訓練で地力を上げている。今の彼の能力を数値化するなら、下級ノスフェクト以上上級ノスフェクト以下辺りが妥当だろう。そこに、まだ完全に力が戻り切っていないとは言え上級ノスフェクトであるアルフが加われば下級ノスフェクト程度簡単に蹴散らせる。

 

「フンッ! ハッ! オォォォッ!」

 

 ヴァーニィがクロスブレイカーを的確に振り回せば、それに切り裂かれた下級ノスフェクトがもんどりうって倒れる。ヴァーニィの一撃に胴体を切り裂かれたノスフェクトは、傷口から血を流しながらも立ち上がり牙を剥き出しにして反撃をしようとヴァーニィに飛び掛かろうとした。

 

「ガルルルッ!」

「させないっ!」

 

 ノスフェクトが襲い掛かろうとした時、ヴァーニィは別のノスフェクトの方に意識を向けていた。隙だらけの彼に危機が迫るが、そこをカバーするのがアルフであった。ノスフェクト態となったアルフはヴァーニィに飛び掛かろうとしたノスフェクト……鷹の能力を持ったイーグルノスフェクトに逆に飛びつくと、地面に押し倒した状態で喰らい付き血を啜り始める。

 

「ガヴッ! じゅるる、ごく、ごく……」

「ギァァァァッ!?」

 

 自分が吸血する筈が逆に吸血されて、イーグルノスフェクトが押さえ付けられながら暴れ始める。しかし上級ノスフェクトを振り払うには力が足りず、されるがままに血を啜られていた。

 

 次第にイーグルノスフェクトの動きが鈍くなっていく。そして完全に動かなくなると、アルフはイーグルノスフェクトから牙を引き抜きトドメの一撃で貫手を叩き込んだ。胸板を彼女の鋭い爪の生えた手で貫かれ、イーグルノスフェクトは一瞬体をビクリと震わせるとそのまま動かなくなり、血が流れ落ちるように姿が崩れると後にはクロコダイルノスフェクトの犠牲となった者の変わり果てた姿だけが残された。

 

「ふぅ、ふぅ……んぶっ!」

 

 ノスフェクトを1体仕留め、一息ついていたアルフが口元を押さえる。たった今飲んだ血を僅かに吐き戻しながら、一緒に彼女の口から出てきたのはクロスブラッド。今飲んだイーグルノスフェクトの血から生成された物だ。アルフは口から出てきたクロスブラッドを手に取ると、それを別のノスフェクトと戦っているヴァーニィに向け投げ渡す。

 

「京也ッ!」

「!」

 

 アルフに名を呼ばれたヴァーニィがそちらを見ると、弧を描いて飛んでくるクロスブラッドを目にする。彼は咄嗟に今相手にしているノスフェクトを蹴り飛ばすと、飛んできたクロスブラッドを難なくキャッチしベルトのバックルを開きそこにクロスブラッドを装填する。

 

「よしっ!」

〈トランスフュージョン! イーグル!〉

 

 受け取ったクロスブラッドでヴァーニィの姿が変わる。仮面は嘴を模したバイザーのヘルメットを被ったような形状となり、全体的なカラーリングはクリーム色、両腕には羽根の先端が刃になった翼のようなアーマーが装着され、両足は猛禽類の脚の様な鉤爪の付いた形状に変化する。

 

 鷹の能力を得た”イーグルブラッド”となったヴァーニィは、両腕の翼を広げると羽搏き一つで飛翔。上空に飛び上がったヴァーニィの姿をノスフェクトは目で追うしか出来ない。

 

「グルル……!」

 

 上空を旋回するヴァーニィをノスフェクトが見上げていると、彼は唐突に急降下してきた。あっという間に地表に接近すると翼を広げてエアブレーキを駆けて急制動を駆け、そのまま滑らかに低空飛行しつつノスフェクトに接近すると翼の刃で相手を切り裂きそのままの勢いで一気に急上昇。上空からの急降下によるヒットアンドアウェイ攻撃を前に、地上を這うしか出来ないノスフェクトは手も足も出ずダメージの蓄積によりその場に倒れた。

 

「ガ……ググ……」

 

 ノスフェクトの動きが止まったのを見ると、ヴァーニィはトドメとばかりに上空から急降下しその勢いで足の鉤爪を手折れたノスフェクトの背に突き刺す様に蹴りを落とした。急降下の勢いを乗せた足は容易くノスフェクトの体を粉砕し、背中から胸を一気に踏み抜かれたノスフェクトは口から血を吐き動かなくなった。

 

「ガフッ……!?」

 

 一瞬感電したように体を痙攣させ動かなくなったノスフェクト。ヴァーニィは鉤爪の生えた足を引き抜くと、粘性の体液が糸を引く。グチャリと嫌な音を立てて足を抜いて数歩離れると、力尽きたノスフェクトは元の犠牲者の姿に戻った。背中から胸部に掛けて踏み潰された状態で息絶えた犠牲者は、決してヴァーニィが殺した訳ではなくこうなる前に既に死んでいた。しかしそれでもやはり気分は悪く、更には倒れた犠牲者の姿に実里の姿が重なって見えヴァーニィは喉元に何かが込み上げてくるような感覚を覚え思わず目を背ける。

 

「ッ……!?」

 

 周囲ではS.B.C.T.がまだ戦っていると言うのに棒立ちになるヴァーニィ。銃声も聞こえない程精神が乱れた彼は、脳裏にへばりついた実里の最期の姿を頭を振って振り払うと他のノスフェクトの相手をすべく顔を上げた。

 

 その彼に、1人のイジターが襲い掛かった。

 

「ヴァーニィッッ!!」

「うわっ!?」

 

 ギリギリでイジターの襲撃に気付いた彼は横に転がる様にして避けた。振り下ろされた刃が鎧の表面を掠る感触に肝を冷やしながら、彼はイジターの声から襲い掛かって来たのが揚羽である事に気付いた。

 

「い、磯部さんッ!?」

「気安く呼ぶな、この化け物ッ!!」

 

 奇襲は失敗に終わったイジターだったが、彼女は止まる事無く攻撃を続行した。感情に任せた我武者羅に近い攻撃は、軌道を読む事自体は容易く勢いに圧倒されそうにはなるがそれでもイーグルブラッドで得た腕の翼で難なく防ぐことはできる。だが防げるだけで、反撃に転じる事は出来なかった。相手が揚羽であると考えると、どうしても攻撃する事が出来なかったのだ。

 

「や、止めてくれ磯部さんッ!? 君とは、戦えないッ!?」

「だったら死ねッ! みのりんの、みのりんの仇ッ!」

「京也ッ!」

 

 スペック的にはヴァーニィの方が圧倒的に上の筈なのだが、心情的なものもあって防戦一方となってしまう。彼の窮地を察してアルフが2人の間に割って入り、攻撃に転じる事が出来ないヴァーニィに代わって揚羽のイジターの相手をした。

 

「揚羽、止めてッ! 揚羽、こんな事する人じゃないッ!」

「五月蠅い、お前も化け物だッ! 皆みのりんの仇だッ! お前達が、お前達が居なければ……!」

「アルフ、磯部さんッ!?」

 

 アルフとイジターは戦いながら現場を徐々に離れていく。ヴァーニィはこのまま2人を戦わせてはならないと手を伸ばすが、そこに今度はアッシュが他のイジター達と共に攻撃を仕掛けてきた。

 

「さぁっ! 今日こそその穢れた命を、神の名の元に浄化して差し上げますッ!」

「ぐっ!?」

 

 振るわれた鞭に引っ叩かれるように弾き飛ばされたヴァーニィ。咄嗟に飛翔して逃げようとするが、そこに今度はイジター達の集中攻撃が襲い掛かり撃ち落とされてしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「キョウヤッ!? クソッ!」

 

 アッシュ達の襲撃にグラスはヴァーニィの援護に向かいたかったが、クロコダイルノスフェクトを放っておく訳にもいかずその場を動く事が出来なかった。それは他のδチームの隊員も同様であり、ノスフェクトの相手で手一杯でとてもではないが援護に向かえそうもない。

 

 そうしている間にヴァーニィとアルフは修道騎士団の攻撃に晒され徐々にその場から引き離されていった。その様子にリリィは焦りの声を上げる。彼女は修道騎士団の狙いに気付いたのだ。

 

「マズイ……!? レックス、早く彼を援護してッ! 連中はノスフェクトをあなた達に押し付けて自分はヴァーニィ達を確実に始末するつもりよッ!」

 

 これまでにも修道騎士団は執拗にヴァーニィとアルフを狙ってきた。あの2人の何がそんなに連中の関心を引いているのかは分からないが、ともあれあの2人を確実に亡き者にしようとしている事は確実である。

 これまでは何かしら邪魔が入って成し遂げられなかったヴァーニィの討伐。修道騎士団はS.B.C.T.がノスフェクトの相手に手一杯になったこの瞬間を狙い、誰もヴァーニィの援護が出来ないタイミングを見計らって襲撃し、彼を仲間から引き離して孤立させた上で確実に嬲り殺しにするつもりなのだ。

 

 このままではヴァーニィとアルフが危ないとリリィが警告するが、生憎とクロコダイルノスフェクトも修道騎士団がヴァーニィ達を始末してくれるならこれ幸いとグラスをその場に釘付けにした。

 

「癪だけど、連中がヴァーニィを始末してくれるなら楽でいいや。そう言う訳だから、お前はここに居てもらうよッ!」

「コイツッ!?」

『レックスッ!!』

「分かってるッ!」

 

 身動きが取れないグラスの通信機からリリィの悲鳴のような急かす声が響く。彼もヴァーニィの状況は理解しているしこのままではいけないと分かってはいるのだが、クロコダイルノスフェクトは上級ノスフェクトなだけあって手強く簡単に振り切る事が出来るほど容易い相手ではなかった。

 否、振り切るのではダメだ。コイツはここで確実に仕留めるか、最低でも撤退させなければならない。コイツをこの場に残してしまえば、標的が他の隊員に移る。最新のグラスでさえ互角に渡り合うのが精一杯なのだから、グラスに比べて圧倒的にスペックが下のライトスコープでは蹴散らされるのが目に見えていた。

 

 悩んでいる間にヴァーニィとアルフの2人は場所を移動させられ、δチームから大きく引き離された場所まで連れて来られてしまった。

 

「うわっ!?」

「あぅっ!?」

 

 δチームから十分に距離が取れた2人は、投げ飛ばされ蹴り飛ばされて地面の上を転がされた。土埃を付けながら互いに相手を気遣いつつ立ち上がれば、周囲はアッシュとイジター達に加え、合流したシャドゥまでもがやって来て2人を包囲した。

 向けられる敵意や銃口を前に、ヴァーニィは咄嗟にアルフを守ろうと両手を広げる。

 

「くっ!」

「京也、ダメッ!」

 

 彼を犠牲に出来ないとアルフが押し退けて前に出ようとする。何とも麗しい互いを想い合う光景だが、修道騎士団にメロドラマに付き合う趣味はない。一斉に銃口を向けると、四方八方からの銃撃が2人に襲い掛かった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 全身を次々と銃弾が抉り穿ち、2人の体をボロボロにしていく。特性の銀銃弾はヴァーニィとアルフの2人にはこれ以上ない特攻を持ち、見る見るうちに2人の鎧を砕きボディースーツに包まれた肉体を食い千切った。数秒ほどでズタボロになりその場に蹲る2人に、騎士団は一旦銃撃を止め様子を見た。

 

「あ、ぐ……うぐ、ぅ……」

「はぁ、はぁ……!? が、は……」

 

 2人は酷い有様であった。全身傷だらけで鎧もあちこちが欠けている。特に酷いのはアルフの方で、鎧の欠落に加えてボディースーツも所々千切れて血を流す肌が見えていた。仮面も罅割れて今にも砕けそうな状態で、彼女はヴァーニィと互いに支え合う形で倒れる事を防いでいた。

 

 辛うじて2人共意識を保っていたが、この状況ではそれも何時まで持つかと言った様子である。

 

 絶望的な状況に、ヴァーニィとアルフは険しい表情で周囲を見渡す。その時、2人の聴覚が背後から微かに聞こえてくる小さな悲鳴に気付いた。

 

「ヒッ……!?」

「えっ!?」

「あっ!?」

 

 振り返ればそこには、電柱の影に隠れている2人の子供の姿があった。子供達の間にはリードに繋がれた子犬も居る。恐らく散歩をしている最中にS.B.C.T.の戦闘の音が聞こえたが、何処から聞こえてくるのか分からず子犬も怯えるので物陰に隠れて難が過ぎ去るのを待とうとしたのだろう。だがヴァーニィ達が修道騎士団に押し出されるようにここに連れて来られ、動くに動けない状態で巻き込まれてしまったのだ。

 

 子供達の存在に気付いたヴァーニィ達であったが、修道騎士団は子供達の事を気にした様子が無い。単純に気付いていないのか、それとも気付いていながら無視しているのか。どちらであっても、アッシュ率いる連中であれば気にする事はしないだろう。

 

 案の定、アッシュは銀の鞭を取り出しそれを2人に向けて振るった。このままでは下手に回避すると子供達が隠れている電柱を粉砕して危険にさらされる。そう察した2人の、次の行動は早かった。

 即ち、自分達の体を盾にして子供達を守ろうとしたのだ。

 

「ぐぁぁっ!?」

「ぐぅっ!? あ、ぁぁっ!?」

 

 2人は子供達に攻撃の余波が及ばないように、覆い被さる様にして子供達と子犬を守った。その結果2人の背中を何度も銀の鞭が打ち据え、ボディースーツが引き千切られてその下の皮膚が破れて血が噴き出す。まるで赤いマントを羽織った様に2人の背中が血塗れで真っ赤に染まるが、2人は反撃ではなく防御を選択し続け子供達を守っていた。

 

 その光景を、カタリナが変身したシルヴァがジッと見つめている。仮面で表情は伺えないが、拳は爪が手の平に食い込むのではと言う程握り締められ震えていた。

 

 飽く迄も守る為に力を振るおうとしている2人ではあったが、アッシュはそんな2人を痛めつけられるのが楽しいのか笑いながら鞭を振るい続けていた。

 

「あははははははっ! さぁさぁさぁっ! その穢れた命を、私が浄化してあげますよッ!」

 

 一際力を込めて強く鞭を叩き付ければ、骨が砕けるのではと言う程の衝撃と共に背中の皮膚が引き裂かれ2人の背中から血が噴き出す。それが限界を超えた合図の様に、2人は力尽きてその場に倒れる、互いに支え合いながら崩れ落ちた2人は共に変身が解け、京也は衣服がボロボロの状態で倒れアルフに至っては全裸に傷だらけの痛々しい姿で倒れていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「あ、ぐ……ぅ、ぁ……ぁぁ……」

 

 揃って虫の息となった2人に、アッシュはそのしぶとさに溜め息をつきながらも勝利を確信して配下のイジター達にトドメを任せた。

 

「ふむ、ここまでですね。シャドゥ、トドメ……構いませんね?」

「あぁ。さっさと終わらせろ」

「だ、そうです。総員、攻撃用意」

 

 アッシュの指示にイジター達が一斉に2人に銃口を向ける。意識が朦朧としている2人は、銃口向けられている事にも気付けず互いの手を握り合ったまま動かない。

 

「アル、フ……」

「は、は、……京、也……」

 

 死が目前に迫っている中、尚も互いの事を想い合う2人を見ている子供達は目の前で行われる暴虐を震えながら見ているしか出来ない。子供達は詳しい事情を知らないが、少なくとも今倒れている2人が自分達の事を守ろうとしてくれた事だけは分かる。そんな2人が今にも殺されそうになっている事に、子供達は恐怖に震えながらも京也達を助けてくれと神に祈った。

 

「だ、誰か……助けて……!?」

「神様……!」

 

 神に仕える者達からの暴虐に、神に助けを求めると言う皮肉が起こっている事に気付きもせず、修道騎士団の団員たちが構えた中の引き金に掛けた指に力を込める。このままだと、京也とアルフだけでなく隠れている子供達も被害を受けるだろうに、そんな事お構いなしに攻撃が行われようとしていた。

 

「……撃てッ!」

 

 そしてアッシュの命令で、一斉に銃撃が行われようとした。

 

 

 

 

 その時…………

 

 

 

 

〈Three judge! Admonition chain〉

『『『!?』』』

 

 突如として音声が響くと同時に、無数の銀の鎖と放たれた銃弾がイジター達の持つ銃を弾き飛ばした。見覚えのある攻撃に、それが自分達の攻撃を妨害した事にイジター達だけでなくアッシュとシャドゥまでもが愕然となる。

 

「なっ!?」

「これは……!」

 

 修道騎士団が驚愕する中、舞い降りたのは白銀の聖騎士。スカートを変換して伸ばした鎖を戻しながらクロスショットを腰のバックルに戻した騎士……カタリナが変身するシルヴァは、倒れている京也とアルフの容態を確認するようにしゃがんで2人の体に優しく触れた。

 

「すみません……しっかり……」

「ぅ、ぁ……」

 

 シルヴァの声に京也が小さく呻く。生きてはいるが意識が朦朧としている様子の京也とアルフの姿に彼女は胸を痛めた様に小さく息を吐きながら首を振ると、電柱の影に隠れている子供達の方へと歩みよりしゃがんで目線を合わせ安心させようとした。

 

「大丈夫ですか?」

「ぁ、ぁぁ……」

「ひぅ……」

 

 優しく声を掛けてきたシルヴァだったが、色以外の見た目がアッシュと同じだったことに加えて先程までの衝撃もあってか恐怖に戦き言葉を口にする事が出来ない。子犬も警戒したように唸り声を上げている。その様子にシルヴァは小さく息を吐くと、変身を解いて素顔を見せるとふわりと笑みを浮かべてそっと手を差し伸べた。

 

「大丈夫です。私はあなた達を傷付けませんから」

「「ぁ……」」

 

 他者を安心させるカタリナの笑みに、子供達は彼女が自分達を傷付けることはないと直感して緊張を解いた。子犬もまた動物の本能で彼女は信頼できると察したのか、差し出されたカタリナの手の匂いをクンクン嗅ぎ甘える様に鳴きながら彼女の指先を小さな舌で舐めた。

 

「くぅん、くぅん」

 

 子犬の様子から子供達はがタリナへの警戒を完全に解いたのを見て、彼女は子供達にこの場を離れるよう告げた。カタリナの乱入により場は一時的に静かになったが、この状態もそう長くは続かない。

 

「さぁ、ここは危ないですから早く離れてください」

「で、でも……」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんが……」

 

 自分達を守ろうとしてくれた京也とアルフの事を気遣う優しい子供達に、カタリナは安心させるように微笑みを浮かべて逃げる事を促した。

 

「彼らの事は大丈夫、私に任せてください」

「ほんとぉ?」

「はい。ですから、早く逃げて」

 

 カタリナの言葉には不思議な力があり、聞いているだけで子供達は心が安らぐのを感じた。彼女なら信じられると、2人は頷き合い周囲を取り囲むイジター達を警戒しながらも道を塞ぐ彼らの横を通り過ぎてその場を離れようとした。

 

 子供達が通り過ぎようとしたイジターに変身していたのは揚羽であった。彼女は自分の傍を通り過ぎようとする子供達の姿を無視して射殺すような目でカタリナの事を見ている。

 

「何で……何で……!?」

 

 京也とアルフを仕留めるまであと一歩と言うところまできたのに、肝心なところでカタリナが邪魔に入った。その怒りに肩を震わせていると、同じように京也達への攻撃を妨害された事にエリーが言葉の端に苛立ちを滲ませた様子でカタリナに話し掛けながら近付いて行った。

 

「困りますねぇ、カタリナさん? あと一歩でその化け物を始末できたと言うのに」

 

 言葉は何時も通りだが、今回は看過できなかったのか僅かに声が震えている。今の彼女相手に答えを一つ間違えれば、即座に拷問部屋行きだろう事をよく分かっている彼女の配下は、自分に向けられている訳でもないのにアッシュから放たれる威圧感に震えあがった。彼ら彼女らが今のアッシュと対峙すれば、恐怖と緊張で言葉を口にする事は出来なかっただろう。

 

 だが、当然と言うべきかカタリナは違った。彼女は倒れた京也とアルフを守る様に立ちはだかると、クロスショットを真っ直ぐアッシュへと向け牽制した。

 

「ッ!」

「化け物なんて……何処に居ると言うのですか?」

「は?」

 

 アッシュの問いには答えず、逆にカタリナが問い掛けてくる。しかしその問いをアッシュは理解できなかった。彼女にとって京也とアルフは神に背く化け物以外の何物でもなく、それを何処にいるなどと言われても彼女からすればカタリナが何を言っているのかが理解できなかった。

 

「何処って、あなたの足元で倒れてるじゃありませんか」

「……やっぱり、あなた達は何も見てはいないのですね」

「何を――」

 

 カタリナの言いたい事が理解できず困惑するアッシュ。シャドゥはカタリナの戯言にこれ以上付き合うつもりはないのか自身の手で確実に京也とアルフを仕留めようとクロスショットを構えるが、それに気付いたカタリナが咄嗟にそちらに銃口を向け躊躇なく引き金を引いた。放たれた銃弾がシャドゥのクロスショットを弾き飛ばす。

 

「ぐっ!? 貴様……!」

 

 それと同時に、まるでそのタイミングを見計らっていたかのようにノーバディノスフェクトが体を液状化させて飛来し、倒れた京也とアルフを回収してその場から素早く離れていく。カタリナはそれを一瞥しつつ、2人が連れて行かれるのを黙って見送っていた。

 

「…………」

「逃がすなッ!」

「チィッ!」

「待てぇぇッ!!」

 

 ノーバディノスフェクトが京也とアルフを連れて行こうとしているのを見て、シャドゥ達が逃がすものかと銃撃するが、素早く動き回るノーバディノスフェクトには一発も当たらず逃げられてしまった。

 あっという間に姿が見えなくなったノーバディノスフェクトと京也達を見送らさせられた修道騎士団。そんな中でカタリナだけは彼らがこの場から逃れられた事に安堵の溜め息をついた。

 

「ふぅ……」

 

 京也達を逃がせたことに安心するカタリナであったが、収まりがつかないのは残りの修道騎士団達である。特に京也とアルフをあと一歩のところで仕留めそこなったエリーと揚羽の2人は、変身したままの姿で生身のカタリナに詰め寄った。

 

「一体どういうつもりですかカタリナさんッ! 化け物を逃がす手助けの様な事をするなんてッ!」

「あと少しでアイツら殺せたのにッ! 何で邪魔したのッ!!」

「納得のいく説明をしてもらえるんだろうな?」

 

 詰め寄る2人の数歩後ろからシャドゥもカタリナに鋭い視線を向けていた。その視線からは明確な怒りを感じ、どんな答えであっても許す事はないと雄弁に物語っていた。それを感じ取ってもカタリナは全く怖気づいた様子もなく、毅然とした態度で己の考えを口にした。

 

「私は、あの子達を討つべき存在とは思いません」

「何だと?」

「彼らが今まで何をしてきたか、誰も何も見てこなかったのですか?」

 

 戦いの中で、カタリナは何度か京也が変身したヴァーニィの様子を見てきた。その中で彼は一度たりとも忍げない手に牙を剥く事はせず、それどころか人々を守りノスフェクトを討伐する事に力を使ってきた。自分達修道騎士団に攻撃してくる事もあったが、それは自身の身を守る為の防衛行動。ノスフェクトでなくても、人間であっても当たり前にする事でありおかしなところは何処にもない。

 それに何より先程の行動は、京也達が敵ではないと言う事を何よりも雄弁に物語っていた。

 

「あの子達は先程の状況で、自分達だけが逃れる事も出来た筈。にも拘らず、彼らは巻き込まれた子供達を守る事に己の身を犠牲にしてみせた。あなた達の討つべき怪物は、そんな事が出来るのですか?」

 

 話しながらカタリナは周囲の騎士達にも問い掛ける様に周囲を見渡した。強い芯を感じさせるカタリナの言葉は、彼らの胸にも深く突き刺さり周囲に動揺が広がる。

 そんな中でもブレないのはアッシュと揚羽のイジター、そしてシャドゥであった。アッシュにとってノスフェクトかどうかは実はそこまで重要ではない。彼女にとっては異教徒は須らく断罪対象であり、化け物であるかどうかは問題ではないのだ。化け物を強調しているのはまず間違いなく異教徒だからであり、また教会の矜持としても問答無用で断罪する事が許されているからである。

 

 揚羽はもっとシンプルだ。彼女はただ只管に、実里の仇を討つ事だけを目的にしている。そしてその対象は全てのノスフェクトとそれに準ずる存在であり、その中には京也達も含まれていた。今でも彼女の脳裏には、京也に血を吸われた後息絶えて冷たくなった実里の姿が焼き付いている。彼女にとっての真実はそれが全てであった。

 

 シンプルさで言えばシャドゥも同様だろう。彼はノスフェクトを区別しない。人間に味方しようがどうしようが、ノスフェクトであれば全て始末する。ノスフェクト殲滅こそが彼の使命であり、存在意義なのだ。

 だからそれを真っ向から邪魔をするならば、どれだけ有能だろうがカタリナも彼にとっては邪魔者でしかなかった。

 

「……前に言ったな、見逃すのは1回だけだと。貴様、覚悟は出来ているんだろうな?」

 

 シャドゥの言葉に続くように、アッシュがクロスショットを構え銃口をカタリナの豊かな胸元に向ける。それに対して、カタリナは抵抗する素振りを見せず自身のクロスショットをそっと揚羽に差し出した。

 

「私は、皆さんと争いたい訳ではありません。ですが、自分の行いが組織にそぐわない事も理解しています。処分は如何様にも」

「良い心掛けだ」

 

 投降する意志を見せるカタリナにシャドゥは軽く鼻を鳴らすと、揚羽のイジターとアッシュに顎でしゃくって指示を出す。揚羽は差し出されたクロスショットを受け取り、それを見届けたアッシュは素早くカタリナを後ろ手に拘束すると前のめりに押し倒して強制的に俯せの体勢で地面に押さえ付けた。

 

「ぐっ……」

「フフフッ……! 異教徒と化け物には制裁を……それを幇助するものも同様に、です。カタリナさん、分かっていますよね?」

 

 体重をかけ押さえつけてくるアッシュに、カタリナは肺から空気を押し出される感覚に苦しそうに顔を歪めた。彼女が苦しそうに呻くと、それにアッシュは仮面の下で恍惚の表情となる。

 

「嗚呼……! まさか本当にこんな時が来るなんて……カタリナさん、たっぷりと愉しませてもらいますね♪」

「う、く……」

 

 上から押さえつけてくるアッシュの歓喜を含んだ声に、カタリナは後ろを振り返る様に視線を向ける。これから自分がどんな目に遭うかを予想してか、表情は険しく額には僅かに汗が浮かんでいる。

 

 カタリナが拘束された事にシャドゥは忌々し気に鼻から息を吐くと、もうこの場に居ても仕方がないと撤収の指示を出した。次々とその場を離れる修道騎士団の中で、カタリナは1人虜囚の様に拘束されたままその場を引き摺られるように連れて行かれるのであった。




と言う訳で第53話でした。

カタリナ、遂に明確に反抗しました。堪忍袋の緒が切れたとは違いますが、とうとう我慢の限界を超えたようです。ただし音が真面目な彼女は、どんな理由であれ仲間を裏切る事に対して自分が悪いと言う意識を持ってしまう為、目的を達した後は素直に罰を受けるため潔く投降してしまいました。ここら辺にカタリナの人間性が出ていますね。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。