仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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第4夜:血への渇望

 学校が終わり、京也は日が傾きつつある中を家路についていた。下校の為教室を出る際、彼は一度昨夜襲われた2人の方を見る。先日ノスフェクトに襲われた2人、取り分け実里の方は揚羽に比べて神経質と言うか精神的脆さを持つので、京也もちょっぴり心配していた。が、今見ると大分精神的に持ち直しているように見える。揚羽と言う太陽のような明るさを持つ友人の存在が、実里の心にあった恐怖を拭い去ったのだろう。

 

 朝は少し精神的疲労を感じさせた実里も、授業が終わる頃には何時もの様子を取り戻しているようで一安心だ。京也はその様子に安堵しながら校門を出て、まだどちらかと言えば少し日が高い街の中をゆっくり歩いていた。

 人々が行き交う街の中を、京也がのんびり歩く。少し大きく息を吸えば、徐々に夏が近づいてきた事を知らせる湿気の増えた空気が肺に入る。鼻を通る街の空気に安心感に近いものを感じた。

 

「ふぅ…………」

 

 さて帰る途中でスーパーに寄ろうか。確かそろそろ卵が無くなる頃だから、諸々の物と一緒に買い足しておこうか……そんな平和な事を考えていた。

 

 その彼の腕を、突如横から伸びた手が路地へと引き摺り込んだ。

 

「あ……!?」

 

 まさかノスフェクトの襲撃かと一瞬身構える京也だったが、それはある意味で間違いだった。少なくとも彼を路地に引き摺り込んだ者は敵ではない。

 

「あ、え……? アルフ?」

 

 京也を路地に引き摺り込んだのはアルフであった。彼女は京也の向かう先を予想し、進路上の日影となる路地で待機し彼を待ち伏せていたのだ。彼女としてはそれはただ京也と確実に合流し、且つ太陽光から逃れる為の手段でしかなかった。

 だが京也としても彼女が人の寄らない路地に隠れ潜み、自分を引き込んでくれた事はありがたい事であった。その理由は彼女の服装……と言うか、恰好にある。

 

 アルフは基本的に黒のパーカーしか纏っていない。幸いな事に下着はちゃんと身に着けているが、外に居ると言うのに靴すら履いていないのだ。黒いパーカーに生足剥き出しの裸足姿は、彼女のメリハリのある肢体も相まって扇情的に過ぎた。

 出会った当初のボロ布を纏っただけの格好に比べればこれでも大分改善された方だが、どう言う訳かアルフは必要以上の衣服を纏おうとしないのである。京也も何度か説得したが、あまり強制するのも悪いと言う事で強く言う事をしてこなかったのだが、いい加減そろそろジェーンとも相談して何とかするべきだろう。

 

 そんな事を頭の片隅で考えつつ、京也はアルフがこの場に来た理由を訊ねた。

 まぁ彼女がこの日差しの中、積極的に外に出る理由など一つしか考えられないのだが。

 

「ところで、アルフが外に居るって事は……」

「うん……出た」

 

 アルフは上級のノスフェクトだ。だから京也の血からクロスブラッドを精製できるし、下級でもノスフェクトが出現すればその存在を感知する事が出来る。この能力のお陰で2人はこれまでに何体ものノスフェクトを発見し倒してきた。

 

 アルフが感知できるほどの活動をしているとなれば、一刻も早く現場に向かう必要がある。だが一つ問題があった。彼女にこのまま道案内を頼む訳にはいかないのである。

 

 今が夜などの時間帯であれば、京也も屋根の上を移動する彼女の姿をナビとして現場に向かう事が出来る。だがまだ日が高い時間帯だと、最悪アルフの姿を何も知らない一般人に見られる危険があった。正直、彼女がここに来るまでの間もかなり危なかった筈だ。そして一般人に屋根の上を飛んで移動するアルフの姿を見られてしまえば確実に騒ぎになる。

 ここから先そんなリスクを冒すのは得策ではない。

 

 となると、取れる手段は1つしかなかった。

 

「アルフ、お願い」

「ん……」

 

 京也がヴァンドライバーを腰に装着しながらアルフに告げると、彼女は一つ頷き彼に抱き着く。下着とパーカーだけに包まれた胸の柔らかさをダイレクトに感じながら抱きしめ返すと、アルフは彼の首筋に熱い吐息を吐きかけ赤い舌を伸ばして味見するように舐め上げた。

 

「ペロ……」

「ん……!」

 

 熱い舌が首筋を這う感触に京也の肩が一瞬跳ねる。彼の反応にアルフは薄っすらと笑みを浮かべると、いよいよその首筋に鋭い犬歯を突き刺した。

 

「くぁ……! う、くぅ……!」

 

 一瞬首筋に走る鋭い痛み。だが痛みは一瞬で、そのすぐ後に京也の全身を駆け抜けたのは必然に尽くしがたい程の快楽であった。

 

「うぁ……! あ、ぁぁ……! くぅっ! はぁぁ……!」

 

 アルフが血を啜る度に京也の全身に快楽が電流の様に迸る。あまりの快楽に、だらしなく開かれた京也の口の端からは涎が一筋流れ落ちた。

 

 薄暗い路地に京也の熱い吐息と共に吐き出される喘ぎ声が小さく響く。それも長くは続かず、アルフが口を離し吸血を止めると収まった。

 

「ん……んん……はぁっ!」

 

 京也同様、アルフもまた小さく喘ぎ頬を紅潮させながら口の中に残る血を飲み下しながら口元に僅かに残った血を拭いとる。

 

「ふぅ、ふぅ…………ん゛ッ!」

 

 口元の血を拭い、息を整えるアルフ。京也が赤らんだ顔でそれを見ていると、彼女の口から赤黒いクロスブラッドが飛び出した。

 

「ぐ、ごぼっ! かはっ、はぁ、はぁ……」

 

 アルフは口から精製したクロスブラッドを取り出し、手の中のそれを一瞥してから京也に手渡した。京也はクロスブラッドを受け取ると一度彼女を軽く抱きしめ、彼女から離れてベルトのバックルのハンドルを引いてドクロの口を開きクロスブラッドを眼前に掲げた。

 

「変身……!」

 

 開かれたドクロの口にクロスブラッドを入れハンドルを操作しドクロの口を閉じる。するとドクロの口に入れたクロスブラッドが飲み込まれ、ベルトを中心に赤黒い血のような液体が彼の体を包み込んで仮面ライダーとしての姿に変えさせた。

 

 変身して仮面ライダーヴァーニィになった彼は、アルフに一つ頷くと路地の壁を蹴って三角飛びの要領で屋上へと向かい、そのまま天井を伝ってノスフェクトが現れた現場へと向かっていく。ヴァーニィとなった彼ならば、アルフ同様暴れているノスフェクトの居場所が分かるようになるのだ。

 

 ヴァーニィは脳裏に感じるノスフェクトに向けてボロボロのコートを翻して向かっていく。それを見送ったアルフは、フードを目深に被ると元来たルートを辿って家へと帰っていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃、S.B.C.T.の支部ではブリーフィング後レックスとリリィの2人がユーリエの元を訪れていた。科学調査班は基本的に本部に控えているが、今回の様に支部に常駐して長期の調査を行う場合もある。

 

「失礼、ベルフェル主任。今少し時間いいですか?」

「む? レックスにリリィか?」

「あ、隊長……!」

 

 ユーリエに用意された部屋に2人が向かうと、そこには先客として敦が既に居た。彼は彼でノスフェクトに関して色々と話を聞くつもりだったのだろう。彼の姿に2人は咄嗟に敬礼する。敦は2人に敬礼を止めさせると、ここへの訪問理由を訊ねた。

 

「楽にしていい。それより2人がここに来たのは……」

「私自身が目的、と言ったところかな?」

 

 どうやらユーリエは薄っすらとこの展開を予想していたらしい。レックス達が突然部屋を訊ねてきてもそれを当然のように受け入れ、椅子を回転させて体を2人の方に向けて背凭れに体重を預けリラックスした姿で話を聞く構えを見せた。

 彼女の姿にレックスとリリィは顔を見合わせ、さっき顔を合わせた時からずっと気になっていた事を訊ねた。

 

「なぁベルフェル主任「ユーリエで構わないよ。歳はそんなに離れていないだろうし、これからはそれなりに長い付き合いになるだろうしね」……じゃあユーリエ。単刀直入に聞くが、アンタ何者なんだ?」

「幾ら何でも傘木社の事情に詳しすぎる。ユーリエ、あなたは……」

 

 薄々真実を確信している2人の様子に、ユーリエは小さく息を吐きながら肩を竦めると背凭れに体重を預けて厚さの薄い胸を反らしながら答えた。

 

「ふむ、流石に悪くない洞察力だ。ちょっと安心したよ」

「茶化さないでくれ。どうなんだ?」

「うん、そうだね。結論から言おう。私は元傘木社の研究員だった」

 

 ユーリエは右の靴を脱ぎ、ストッキングに包まれた右足を椅子の上に乗せ右膝を両手で抱えながら答えを口にした。彼女の口から語られる彼女自身の過去に、レックスの視線が険しくなりそっとリリィを守る様に手を上げる。リリィもまた、過去の因縁とも言える傘木社と深い関りを持っていたユーリエの正体に顔を緊張させ、彼女に比べて豊かな胸の前で両手をそっと握りしめた。

 

 室内に漂う緊張感。だがそれを感じてか、両者の間に敦が入り仲裁に走った。

 

「待て待て、落ち着くんだ。まずレックス、リリィ。彼女の過去に関しては私も把握していた。2人には時期を見て話すつもりだったんだ」

「隊長……大丈夫なんですか、この女は?」

「それは私が保証しよう。彼女は間違いなく我々の味方だ」

「そもそも、これのお陰で裏切りなど出来ないしね」

 

 そう言ってユーリエは首に巻かれた特徴的なチョーカーを指差した。先程会議室で見た時は分からなかったが、そのチョーカーには小さいが点灯しているランプが見える。

 レックスとリリィはそれをまじまじと見て、それが何なのかに気付き息を飲んだ。

 

「ふむ、気付いたようだね。まぁ君らになら馴染みもあるだろう。これは私が勝手な行動をとらない様にと着けられた枷さ。もし私が裏切るような事をすれば、この首輪から電流が流れる作りになっている」

「そのスイッチは私が持っている。尤も、使う事はないだろうがね」

 

 そう言う事なら、とレックスもリリィも多少だが警戒を解いた。勿論完全に信用する事はしない。2人にとって傘木社とは因縁の敵であり、実験動物として扱われた日々は未だに夢に見るくらいだった。そんな彼らに、元傘木社のしかも研究員だったと言うユーリエをいきなり信用しろと言うのは土台無理な話である。

 ユーリエ自身それを理解している為か、2人から向けられる視線を涼しい顔で受け止め、椅子の上で抱えた膝の上に片頬を乗せ眼鏡の奥から眠たそうな目を2人に向けた。

 

「まぁ、安心したまえ。私は別に会社に対してそこまで未練はない。裏切るなんて事にはならないよ」

 

 それを信用しろと?……と口にしようとしたレックスだったが、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。彼女は既に裁かれ、その結果首に枷を嵌められた状態でこの場に居る。抵抗できない彼女を攻撃する事は、単なる八つ当たりでしかないと理性が彼の口を閉じさせた。

 口を閉ざすレックスにユーリエが薄っすらと笑みを浮かべ、それを見たリリィが何か言おうと口を開いた。

 

 その時、彼女が持つタブレット端末からアラームが鳴り響いた。これが鳴る時は何か緊急の事態が起こった時だ。彼女は急ぎ端末を見て、そこで今何が起きているのかを知った。

 

「隊長、今警察から要請が入りました。市内に怪物が出現、市民が脅威に晒されているそうです」

「ノスフェクトか?」

「詳細は分かりませんが、恐らく……」

「ノスフェクト、取り分け上級は光を嫌う。この時間に街中で暴れてると言う事は、出たのは下級の奴だろうね」

 

 リリィの報告にユーリエが時計を見ながら補足した。敦はその情報に頷き、レックスとリリィを伴って出動の為部屋を後にした。

 1人残されたユーリエは、眠そうな目を彷徨わせ何処ともなく見ながら髪の毛先を弄る。その仕草からは、彼女が何を考えているのかを伺い知る事は出来そうもなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 京也が変身したヴァーニィは、屋根の上を飛び石の様に跳ねながら感じ取る事が出来るノスフェクトの気配がする方に向かっていく。

 人間と言うものは基本上方への意識は疎かになるものなので、地上を移動するよりは遥かに意識される事はない。とは言えまだ日が高い内に堂々と派手な動きをしていれば、当然だが人目に留まる。

 

「およ? 何だろ?」

「どしたの、揚羽?」

「いや、今何かがそこ飛んでった」

 

 そう言って下校途中の揚羽が指さしたのは、道路を挟んだビルの間。そんな所を飛んでいくものなど、鳥位しかありえないだろうと実里はあまり気にする事をしなかった。

 

「鳥でしょ? そんな気にする事じゃないじゃん」

「違うんだよッ! 何か、こう、人みたいな何かが一瞬であそこをピョ~ンって」

「はいはい。分かったからさっさと行こう」

「あ~ッ! みのりん信じてないッ! 本当なんだからぁッ!」

 

 その後も尚ビルの屋上を飛んで移動する人影を見たと主張する揚羽を実里が適当にあしらう。

 

 2人はその後もワイワイと騒ぎながら歩き、ヴァーニィとは別の方向へと向かっていくのだった。

 

 一方地上の2人の存在に気付く事無く現場へと向かうヴァーニィは、視線の先にリザードノスフェクトが公園で人を襲っているのが見えた。

 

「ガルルルルッ!」

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

 どうやら既に被害が出ているらしく、公園には数人の人が首筋から血を流して倒れているのが見える。突然現れて人を襲うノスフェクトに誰かが警察に通報したのだろう。暴れるノスフェクトに警察官が挑んでいるが、警察の装備ではノスフェクトの相手をするのは無謀過ぎた。案の定挑んだ警察官は返り討ちに遭い、首に牙を突き立てられ血を吸い取られた。見る見るうちに血を吸い取られミイラの様に体が萎んでいく警察官。

 仲間の警察官が無残な殺され方をする光景に委縮しながら、残った警察官は口径の小さい拳銃を片手に必死に応戦した。

 

「う、撃てッ! 撃てぇッ!」

 

 本来警察官が拳銃を使う際には色々と手順などがあるがそれをすっ飛ばして次々と銃弾がノスフェクトに放たれる。当然だ、コイツは人間とは違う。元は人間だったが、変異してしまった今はノスフェクトと言う怪物なのだ。躊躇をしていては自分が死ぬ。

 

 とは言え、躊躇をしなくても結果は変わらなかった。警察の持つ拳銃程度ではノスフェクトを怯ませる事も出来ず、血を吸いつくした警察官の遺体を投げ捨てたリザードノスフェクトは次の獲物に襲い掛かろうと飛び掛かった。

 

「シャァァァァッ!」

「ヒッ!?」

 

 血が滴る牙を剥きながら襲い掛かって来るノスフェクトに、標的となった警察官の口から悲鳴が上がる。

 

 銃弾を弾きながら迫るノスフェクトに、警察官が押し倒され首に牙を突き立てられそうになる。その光景を見たヴァーニィは、足に力を入れ人来は大きく跳躍しながら赤い複眼を煌かせた。

 

「ハァッ!」

 

 ヴァーニィの口から気合の声が上がった。すると彼の体が無数の蝙蝠へと変換され、素早く公園へと飛来しリザードノスフェクトの纏わりついた。

 

「ガルッ!? グルルッ!?」

 

 突然体に纏わりついて来たヴァーニィが変異した蝙蝠の群れに、リザードノスフェクトが引き剥がされるように後退った。無数の小さな蝙蝠が一つの意志を持っているかのように動きリザードノスフェクトを自分から引き剥がしていく光景に警察官が唖然としていると、蝙蝠は一か所に集まりヴァーニィの姿となってリザードノスフェクトを蹴り飛ばした。

 

「ガァァッ!?」

 

 ヴァーニィに大きく蹴り飛ばされたリザードノスフェクトだったが、壁に叩き付けられたかと思えば相手は四肢を使って器用に壁に張り付いた。流石トカゲと言ったところか、壁だろうが天井だろうが自在に動き回れるらしい。その姿にヴァーニィも喉の奥から呻き声を上げる。蝙蝠状態になれば一応空中などに移動できるヴァーニィではあるが、あの状態だと単純な火力が無いに等しい。射撃武器の類も無いので、手が届かない場所に逃げられると文字通り手も足も出なくなってしまうのだ。蝙蝠状態を多用すれば何とかならなくもないが、彼にはそれが出来ない理由がある。

 

 攻めあぐねたヴァーニィが睨んでいると、リザードノスフェクトは壁を動いて何処かへと行こうとした。積極的に攻めて来ない彼の姿に、仕切り直すなら今だと考えたのだろう。あの調子で逃げられると本気で手出しできなくなると、ヴァーニィは相手を逃がさないよう蝙蝠状態で接近するとコートを変形させて両腕に纏わせ巨大な手を形成。鋭い爪で壁毎リザードノスフェクトを切り裂こうとした。

 

「ハァァァァッ!」

 

 壁を豆腐のように軽々と抉ったヴァーニィだったが、肝心のリザードノスフェクトはギリギリのところでヴァーニィの攻撃を回避。それだけに留まらず、攻撃の直後で動きが止まっているヴァーニィに向け鞭の様にしなやかな尻尾を振るい逆に叩き落した。

 

「ぐぁっ!?」

 

 尻尾の一撃で地面に叩き落されるヴァーニィだったが、彼もただではやられない。叩き落されそうになる瞬間、爪の生えた手に変換したコートを更に変形させ無数の紐の様にしてリザードノスフェクトの体に巻き付けた。落ちるヴァーニィを壁から見下ろそうとしていたリザードノスフェクトは、彼の思わぬ行動で諸共に地面に叩き付けられた。

 

「がはっ!?」

「グゥッ!?」

 

 タイミングをズラして地面に叩き付けられるヴァーニィとノスフェクト。だがダメージが小さいのは明らかにノスフェクトの方だ。ヴァーニィには尻尾で叩き落されたダメージと地面に叩き付けられたダメージが圧し掛かるが、ノスフェクトには地面に叩き付けられたダメージしかない。そのダメージもヴァーニィに引っ張られた結果によるものであり、抵抗しようとした事で僅かながらダメージが抑えられていた。

 

 故に立ち直りが早いのはリザードノスフェクトの方であった。素早く立ち上がったリザードノスフェクトは、まだ倒れたままのヴァーニィに牙を突き立てようと鋭い牙を剥き食らい付こうとした。

 それに気付いたヴァーニィは、転がって動くよりも先に体を無数の蝙蝠に変換させてその場を退避する事で危機を逃れた。牙が空振り、何もない所を噛んでリザードノスフェクトの口から歯を打ち鳴らすガチッと言う音が響く。

 

「グルル……」

 

 獲物を喰らい損ねてリザードノスフェクトの口から苛立たし気な唸り声が上がる。その背後でヴァーニィが蝙蝠化を解き元の姿に戻った。両の足で地面を踏みしめ、コートを再び爪のある巨大な籠手に変形させて攻撃を仕掛けようと駆け出す。

 が、駆け出した直後ヴァーニィは全身から力が抜けた様にその場に崩れ落ちた。

 

「あぐ、うぅ……!?」

 

 足が満足に動かなくなり、もつれさせながら倒れたヴァーニィ。異変はそれだけに留まらず、籠手となっていたコートが形を保てなくなり液状化してドロリと地面に広がった。ボディースーツと鎧だけの姿となったヴァーニィは、己の身に起きた異変に内心で焦りを感じた。

 

(ぐっ……!? ま、マズイ……このままだと……!?)

 

 倒れて動けなくなっているヴァーニィにリザードノスフェクトは首を傾げながらも、今が好機と接近し牙を突き立てようとする。迫るノスフェクトを睨むヴァーニィだったが、その時無数の銃声が辺りに響きリザードノスフェクトの体表で銃弾が弾け火花が散った。

 

「ガァァァァッ!?」

「えっ!?」

 

 ヴァーニィが銃声の聞こえてきた方を見ると、そこには警察からの要請を受けて出動したS.B.C.T.δチームが素早く周囲に展開していた。

 やってきたδチームはスコープの指示で素早く行動する。

 

「δ2、3、4は左に回り込め! δ5は仮面ライダーとコンタクト、他は正面から奴を抑え込むッ!」

 

 δチームは的確に動き、リザードノスフェクトの退路を塞ぎながら接近していく。そんな中でヴァーニィに近付くのはレックスのδ5だ。彼は他の隊員に混じってノスフェクトに銃撃しながら、ヴァーニィに近付き倒れた彼に手を貸しながら声を掛ける。

 

「大丈夫か、仮面ライダー!」

 

 片腕で銃を抱えるようにして撃ちながらヴァーニィを助け起こすδ5。だが助けられた方はと言うと、この状況に更に危機感を抱き思わず残された力と()()でδ5を押し退けようとした。

 

「だ、ダメ……!? は、離れ……!」

「え?」

 

 苦しそうにしながらも自分を押し退けようとするヴァーニィにδ5も首を傾げる。

 

 直後、ヴァーニィが胸元を押さえ苦しみだした。

 

「うぁっ!? あぐっ、ぐぐぐ……!?」

「仮面ライダー? おい、どうしたッ!?」

 

 δ5が心配するが、ヴァーニィにはそれに答えるだけの余裕が無かった。今彼は、自らの中で暴れる渇望と必死に戦っていたからだ。

 

(うぐぐ……!? ま、マズイ……!? 喉が、喉が……!?)

 

 今、彼は酷い喉の渇きを覚えていた。尋常な喉の渇き方ではない。水の無い砂漠で飲まず食わずで歩き続けた時の様な、視界が歪むほどの喉の渇きだ。

 

 実はヴァーニィが纏うコートや体を蝙蝠に変換させる能力など、様々な能力を使う際に彼は血液を消費している。自身の血を媒介に特殊な能力を用いて敵と戦うのだが、血が減ると当然能力は使えなくなる。それどころか、今の彼は疑似的なノスフェクトに近い存在であり、血が減ると酷い喉の渇きとなって彼を苦しめた。

 今、彼は己の喉の渇きを癒す為、他者の血を欲していた。飢えたノスフェクトが人間を襲うのと同様、彼もまた誰彼構わず血の通った者が全て食料に見えてしまう状態となっていたのである。だから彼はδ5を自分から離れさせようとしていた。このままでは彼や、彼の仲間に襲い掛かってしまいそうだから…………

 

「が、ぐぅぅ……!?」

 

 精神力で必死に抑えようとするが、体は他者の血を求めて動き出す。クラッシャーが開き涎を垂らしながら、その牙を直ぐ傍にいるδ5に突き立てようと彼の方を見る。明らかな異変と自分に向けられる獲物を見る肉食獣の様な視線に、流石に危険を感じたδ5が身構え僅かに後退った。

 

「か、仮面ライダー? おい、どうした?」

「グルル……ぐっ!? くぅぅっ!?」

 

 一瞬δ5に襲い掛かりそうになったヴァーニィだったが、彼はそれをギリギリのところで何とか堪えた。そして視線をδチームと戦うリザードノスフェクトへと向けると、残された理性を振り絞って駆け出した。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あっ!」

 

 δ5が止める間もなくヴァーニィはリザードノスフェクトへと襲い掛かる。リザードノスフェクトの方も叫びながら自分に向かってくる彼に気付き、尻尾を地面に叩き付け咆哮を上げるとヴァーニィを迎え撃って逆に彼に飛びついた。

 

「キシャァァァッ!」

「ガルルルルッ!」

 

 共に獣の様な声を上げながら取っ組み合うヴァーニィとノスフェクト。地面の上を転がって何度も上下を入れ替えながら互いに相手の首筋に牙を突き立てようとする。

 δチームが見守る中、その戦いに決着がつく。相手の首に牙を突き立てる事が出来たのは…………ヴァーニィの方であった。

 

「ガルッ!」

「ガァァッ!?」

 

 δチームの攻撃を回復させながら戦っていたリザードノスフェクトだったが、それによって若干体力を消耗していたのが勝敗を分けた。牙を突き立てたヴァーニィは待ち望んだ血液を必死になって啜り、飲み下す。異形の物とはいえ血は血だ。喉を水が流れ落ちる感覚に心が落ち着き清涼感すら感じていた。

 

「んぐ、んぐ…………かはっ」

 

 たっぷりリザードノスフェクトの血を飲み、コートを再び纏えるくらいにまで回復した。対するリザードノスフェクトは大量に血を吸われた事で立つ事すらままならない程弱っている。

 

 ヴァーニィはそんなノスフェクトにトドメを刺すべく、ベルトの左右にあるアナライズスイッチを同時に押した。

 

〈アナライズ! アイデント、マジックバレット!〉

 

 たった今吸血したリザードノスフェクトの血液がヴァンドライバーで解析され、遺伝子的に最も効果的な威力を持つ毒素に似た物質を生成していく。生成された物質が赤黒いエネルギーの様な流れとなってヴァーニィの右足に収束していき、クロスブラッドにより変異してしまった者へのある意味で特効薬となる物質を打ち込むべく彼は必殺技を放った。

 

〈プレスクリプション・フィニッシュ!〉

「ハァァァァァァァッ!!」

 

 必殺技のプレスクリプション・フィニッシュが発動し、動けないリザードノスフェクトに突き刺さる。蹴りが命中すると同時に踵のアンカーから伸びた杭がリザードノスフェクトの体に突き刺さり、ヴァンドライバーで生成された”プレス・ブラッド”を注入。生成物がリザードノスフェクトの内部でクロスブラッドを始めとしたノスフェクトとしての肉体を維持する為のあらゆるものを破壊していく。

 

「グッ!? ガガ、ガァァァァァァッ!?」

 

 体を内側から破壊される苦しみに悲鳴を上げ、耐えきれず爆散するリザードノスフェクト。その炎がヴァーニィを照らし、爆炎が晴れると後には事切れて倒れた作業員の男と排出され砕けたクロスブラッドが残される。

 

 その光景に小さく息を吐きながら肩から力を抜き、踵を貸してその場を離れようとする。

 

 それをδ5が咄嗟に引き留めた。

 

「待ってくれッ!」

「?」

 

 突然引き留められ、ヴァーニィは歩みを止めそちらに振り返る。そこではδ5を始め、δチームの面々が揃って彼の事を見ていた。銃口こそ向けていないが何時でも構えられるよう引き金に指を掛けている辺り、他の隊員達は心の何処かでヴァーニィの事を警戒しているらしい。

 これはリリィからの指示だった。彼女はδ5のカメラの映像から、ヴァーニィは本人の意思に反して凶暴化するような何かがあると察したのだ。もしこの場で彼が凶暴化しδ5に襲い掛かった場合、迅速に鎮圧する必要がある。

 

 そんな周囲の警戒を他所に、δ5はヴァーニィに対話を試みた。

 

「なぁ、教えてくれ仮面ライダー。お前はあのノスフェクトの事を何処までしてるんだ? お前とあのノスフェクトの関係は一体……」

 

 問い掛けながら一歩前に出るδ5だったが、次の瞬間ヴァーニィはその場を大きく飛び退きそのまま体を無数の蝙蝠に変換し何処かへと飛び去っていく。δ5はそれに手を伸ばして引き留めようとし、だがいずこかへ消えてしまったヴァーニィに残念そうに肩を落とした。

 

「あぁ…………」

「フラれたな、δ5?」

「うるせぇδ9」

『ま、チャンスはまだあるでしょ? そんな気を落とさないで』

 

 仲間やリリィからの励ましに、δ5も気を取り直した。まだまだヴァーニィやノスフェクトに関しては謎な部分が多い。だから焦らず少しずつ彼らの事を知っていこうと、δ5は決意を新たにした。

 

 その後彼らはユーリエ率いる科学調査班の到着まで現場を確保。遺体や残されたクロスブラッドの回収をユーリエ達がするのを見守りながら、新手の襲撃を警戒し何事もなく任務を終え撤収するのであった。

 

 

 

 

 一方戦いを終え、家へと帰った京也は疲れ切った様子で家へと入る。玄関を抜け廊下に入ると、リビングからエプロンを身に着けたジェーンが顔を出した。

 

「おかえり~。ちょっと早いけど~、晩御飯出来てるわよ~」

 

 彼女の言う通り、リビングからは食欲を誘う様な良い匂いが漂ってくる。が、色々と疲れ切った今の体は食事よりも休息を欲していた。

 

 力無く首を左右に振る京也に、ジェーンは少しも気にした様子もなく笑みを浮かべ近付き彼を優しく抱きしめた。

 

「お疲れさま~。お部屋でアルフちゃんが待ってるわよ~」

 

 一頻り抱きしめながら彼を撫で、解放されると彼は真っ直ぐ自室へと向かっていく。

 

 扉を開けると相変わらずカーテンを閉め切られた部屋の中で、アルフが彼のベッドの上で布団を被りながら待っていた。あの後無事に家に帰れた彼女は、京也の帰りを信じて待ち続けていたのだ。

 

 その待望の京也が帰ってきた。アルフは布団から出て、彼の姿を見て花が咲いた様な笑みを浮かべて飛び出した。

 

「京也ッ!」

 

 アルフは京也に飛びつく様に抱き着き、猫が甘える様に頭を彼の胸板に擦り付ける。

 

 そんな彼女の姿を見ながら、京也はぼんやりと初めて変身した後の事を思い出していた。それまで戦いとは無縁の生活を送っていた筈の自分が、突然巻き込まれた非日常。本来であればあり得ない変化を、しかし驚くほどあっさりと受け入れられてしまったのは何故だったか。

 

 そんな疑問は、自分に甘える今の彼女と、あの時出会った彼女の姿を重ね合わせて直ぐに消え去る。あぁ、そうだ、そうなのだ。忘れる訳がない。

 

 あの時、自分の血を吸って一時的に回復したアルフがウルフノスフェクトと戦う姿に、彼は思わず見惚れてしまった。あの時の彼女の戦う姿の凛々しさと可憐さ。そしてその直前の、彼女に血を吸われた時の快楽が忘れられない。そんな彼女が、ノスフェクトに狙われながら自身もノスフェクトと戦おうとしている。それを放っておけなくて、何より彼女と離れたくなくて京也は戦う事を選んだのだ。

 

 たった1人の少女を支えにした戦う理由。それを十分と取るか薄いと取るかは人に寄るだろう。だが少なくとも、京也にとってはこれで十分な理由になった。

 

 気付けば、京也は彼女の頭を撫でながら、首筋を捧げる様に彼女の口の前へと持って行っていた。唇に触れる京也の首筋の温かさに、アルフの口から熱い吐息が零れる。

 

「いいよ、アルフ。ご飯の前だけど、ね」

 

 先程の戦いで、京也は血への渇望に危うく自分を見失いかけた。吸血衝動に駆られ、手当たり次第に動くものに襲い掛かりそうになったあの感覚と、その直後の喉を流れていく血の悍ましさと清涼感。自分の中で別の何かが混じり合う感覚は、未だになかなか慣れる事が無い。

 それでも戦闘中は耐えられたが、戦いから離れればその時の感覚がフラッシュバックして気分が悪くなる。

 

 その気分の悪さを、纏めて飲み干してくれるアルフが京也は好きだった。

 

「ん……カプ」

「んっ!……くはっ! あ、ぁぁ……!」

 

 アルフの牙が首筋に突き刺さり、血が彼女に吸い取られていく。命の危機を感じて然るべきなのに、京也はその感覚に病み付きになり受け入れた。

 

 カーテンの閉め切られた薄暗い部屋の中に、アルフが京也の生き血を啜る音と彼の快楽に振るえる声が響く。

 

 それを部屋の外から立ち聞きしていたジェーンは、小さく息を吐き肩を竦めながらその場を離れるのだった。




と言う訳で第4話でした。

何かと事情に詳しかったユーリエですが、彼女は元傘木社の研究員でした。恭子みたいに逃げた後潜伏した研究員が居る一方、彼女みたいに会社崩壊の時点で捕まった研究員も当然います。因みに作品時間内だとデイナから10年は経っているので、ユーリエ一体何歳?と思われるかもしれませんが、年齢はレックス達と近い20代中程です。後々語ると思いますが、ユーリエは飛び級で大学を卒業して傘木社に就職した天才ですので。

一方ヴァーニィですが、彼の能力はテテュス等と同じように戦う上で制限がつきます。血が十分に足りている間は理性をもって戦えますが、血が切れると途端に血への渇望が始まります。常に暴走と隣り合わせの危険な仮面ライダー、それがヴァーニィです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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