シルヴァの銀の細剣とアッシュの銀の鞭が激しくぶつかり合う。本来の実力的には同等ないしシルヴァの方が僅差で上回ると言ったところだが、事前に拷問を受け体力を消耗し傷付けられていた事が響いていた。シルヴァの動きは明らかに普段の精細さを欠いており、その僅かな隙をアッシュの鞭が鋭く突いた。
「フッ!」
「ぐっ!?」
「ハッ!」
「あぁっ!?」
鞭は元々変幻自在で軌道が読みにくい武器な上、攻撃の速度は音速を超える。ただでさえ傷付き消耗から回復していない今のシルヴァにその速度に追従する事は難しく、鎧の無いボディースーツ部分を的確に打たれその度に彼女の口からは悲鳴が上がった。
「ふふっ、どうしましたカタリナさん? 普段のキレのある動きが出来ていませんよッ!」
「うあぁぁっ!?」
音速を超えた鞭の先端が、シルヴァの胸の鎧を引っ叩く。銀で表面を覆われたチェーンウィップの様な鞭による一撃は、音速を超えた速度と相まって銃弾を超えるほどの威力を持つ。その威力の鞭で叩かれ、シルヴァの胸部を守る鎧が火花を散らし罅割れ欠ける。変身した時の勢いは何処へ行ったのか、鎧はボロボロになりボディースーツもあちこちが破けて血が滲み、スカートもズタズタに引き裂かれるという無残な姿。普段の凛とした美しさと慈愛に満ちた姿からは想像もできない姿を前に、アッシュは快感を感じ身を震わせた。
「嗚呼、良いですよカタリナさんッ! その姿も素敵ですッ! 美しいあなたを穢していくこの感触、堪らないですねッ!」
「くぅっ!?」
歓喜の声を上げながらアッシュが鞭を振るい、その一撃に耐えきれずシルヴァは剣を落とし地面に押し倒される。俯せに倒れたシルヴァにアッシュが近付くと、震える腕で体を起こそうとしている彼女の背をアッシュが踏み付けて押さえ付けた。
「ぐぅ……!?」
「ふふっ、このままここであなたを甚振るのも悪くはありませんが……ここでは色々と邪魔が入りそうですし」
そう言って周囲を見渡せば、そこではシャドゥとグラス、ヴァーニィとアルフがイジター達とそれぞれ戦っている。シャドゥとグラスの戦いは一進一退と言った様子で、互いに決定打を見出せず銃撃戦を繰り返していた。
「チッ! あの野郎、こっちと違って推進器も無しにちょこまか動き回りやがるッ!」
グラスがバスターショットの引き金を引くが、放たれた銃弾はシャドゥの身を穿つ事なくその背後に着弾し穴を穿つのみ。まるで銃弾が見えているかのように、シャドゥは紙一重で銃弾を回避するのだ。時にはあり得ないと思わせるほどの反応速度に、グラスは相手が人間であるかを疑う程であった。
尤も人間離れした反応速度と言う点に関してはグラスも決して人の事は言えない。新人類として覚醒を果たしたグラスの反応速度も常人を遥かに超えており、その反応速度に付いて来られるグラスの性能を遺憾なく発揮していた。全身の配置されたスラスターを巧みに操り、最小限の動きでシャドゥの銃撃を回避しながら接近しようと地面の上を滑るように動き回る。
猛烈な勢いで迫ろうとするグラスを、シャドゥは絶対に近付かせないようにと的確な銃撃で牽制した。シャドゥはシルヴァ達と同系統だが、彼女達と違って接近戦用の装備を持たない。クロスショットだけが彼の武器であり、それ故に不必要な接近戦は不利となるのだ。
尤も彼の場合はだからと言ってシルヴァ達に劣るという事は一切ない。もしレックスが変身しているのがグラスではなく通常のスコープであったとしたら、その正確無比な射撃でロクに近付く事も出来ず回避も許されず銃撃を喰らっていただろう。そう思わせるくらいシャドゥの動きには隙が無かった。
(クソッ! 何だコイツの射撃、マジで正確過ぎるッ! コイツマジで中身サイボーグか何かか?)
全て計算されたような動きを見せるシャドゥにそんな事すら考えてしまいながら、グラスはチラリと横目でシルヴァとヴァーニィ達の様子を伺った。
シルヴァの方はやはり無理をしている事が響いているのか、かなり苦戦を強いられているようで変身は維持しているがボロボロの状態で俯せに倒れアッシュに踏み付けられている。アッシュが足に力を込めてヒールの部分でぐりぐりと踏みにじると、上からの圧力とヒールに背中を抉られる様な感覚にシルヴァの口から悲鳴が上がる。咄嗟にグラスが援護しようとバスターショットの銃口を向けようとするが、それはシャドゥにより阻止され思わず舌打ちをする。
一方ヴァーニィの方はと言うと、こちらは相手をしているのが量産型のイジターと言う事もあってそこまで苦戦する事なく寧ろ圧倒していた。彼が大型武器のクロスブレイカーを振るえば、それだけでイジターを数人纏めて吹き飛ばせている。攻撃後の隙を狙って飛び掛かるイジターも居るが、そちらは彼のカバーをしているノスフェクト態のアルフが妨害し血を纏った腕を振るい殴り飛ばした。
「やらせないッ!」
「ぐぁっ!?」
アルフはイジターを殴り飛ばすと、そのまま動きを止めず滑らかな動きで次々とイジター達を蹴散らしていく。
この様子ならあちらは問題ないか……と思われた、その時…………
「化け物……!」
「ッ、あっ!?」
徐にヴァーニィの前に姿を現したのは、依然として騎士団の制服に身を包んだ揚羽であった。視線だけで相手を射殺せそうな目を向けながら現れた揚羽は、何を思ったのか突然下ろした髪を乱暴に一纏めにするとそれをナイフで切り落とし雑にショートカットにした。そして切った髪をその場に捨てると、見覚えのあるベルトを取り出し自身の腰に巻いた。
「みのりんの仇……ここで、殺してやるッ!!」
「それは……!」
揚羽が取り出したのは、カタリナも扱うシルヴァのベルトと同じ物であった。もしや新たな騎士団のライダーかと身構えるヴァーニィの前で、揚羽はクロスショットに十字架を装填し引き金を引いた。
「変身ッ!」
〈in Jesus' Name we pray.Amen〉
銃口から放たれた光が揚羽の体を包み、その姿を仮面ライダーに変身させる。だがその姿は、ヴァーニィ達の予想の斜め上を行っていた。
青いボディースーツに銀色に輝く鎧。それは嘗て、カタリナの友であった女性が身に着けていた装備。
アッシュに踏みにじられながらそちらを見たシルヴァも、揚羽が変身した姿に思わず息を飲んだ。
「なっ、あれは……!?」
そこに居たのは仮面ライダーバルト。以前はルクスが変身し、シルヴァと肩を並べて戦っていた仮面ライダーである。シルヴァの驚愕が心地いいのか、アッシュは踏みにじる足に力を込めながら事の経緯を話した。
「似合っているでしょう? 彼女が更に強い力を望んだので、私がそれに応えてあげたんです。ほら、あの売女があなたを連れ出して死んでいったので、没収していたバルトの装備が残っていたでしょう? 折角だから、力を望む彼女に託したんですよ。あの子ならあの女よりずっと有効にあれを使ってくれると思って」
「ぐぅぅぅぅぅ……!?」
アッシュのヒールが背中を抉る痛みに呻きながらも、シルヴァは許し難い現実に憤りを覚えていた。揚羽は本来、戦いに向かない優しい性格の少女である。その彼女を、友を失った悲しみに付け込んで戦いに巻き込み、更にはルクスと言う掛け替えのない友の遺した力すらも利用する。その事実がどうしても許せなくて、シルヴァはその憤りを力に変えて背中を踏みつけている足を押し退けようと手足に力を籠め体を持ち上げた。
「く、くぅぅぅ……!」
「っと、流石ですね。ですが……!」
「ぐっ!?」
しかしいくら力を入れても、消耗していた事とマウントを取られた状況ではシルヴァの方が圧倒的に不利であった。再び彼女を地面に押し付けようと、アッシュが背中に乗せた足に力を籠める。
このままでは再び地面に押し付けられ、嬲り者にされてしまう。そうなる前にと、シルヴァは腰からクロスショットを引き抜き肩越しに狙いも定めず引き金を引いた。
「くぅっ!」
「うあぁぁっ!?」
咄嗟の事であまり深く考えた行動ではなかったが、悪足搔きに近いその行動が功を奏した。アッシュもここで彼女がこんな抵抗をしてくるとは思っていなかったのか、反応が遅れて放たれた銃弾を回避も防御も出来ず喰らってしまう。その程度で大きなダメージにはなり得ないが、不意打ちに近い銃撃は彼女を怯ませ後ろに下がらせた。その隙にシルヴァは転がる様にその場を離れ、落とした剣を拾いながら立ち上がると片手に細剣、片手に拳銃を握りながらアッシュに突撃した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
「くっ、あははっ!」
銃撃と斬撃を交えたシルヴァの攻撃をアッシュは鞭一つで捌いていく。だが友を失った事への激情を糧にしたシルヴァの攻勢は予想を上回っており、至近距離からの銃撃でアッシュは鞭を手から弾き飛ばされた。
「あっ!? チッ!」
鞭を弾き飛ばされ、咄嗟にクロスショットを抜き構えるアッシュ。しかしシルヴァはその行動を読んでおり、彼女が腰から拳銃を抜いた次の瞬間にはシルヴァの銀の剣がクロスショットを叩き落していた。これでアッシュは武器を全て失い、一方のシルヴァは余裕を持ち細剣をもう一本装備して二本の剣でアッシュの首を挟む様に剣を突き付け抵抗を封じる。
「う、ぐぅ…………!?」
「はぁ……はぁ……」
首を左右から挟む様に刃を突き付けられ、少しでも動けば首を切断されるという状況にアッシュはその場に膝をつく。対するシルヴァは、無理をして戦ってきた事が傷に響いたのか肩で荒く息をしながらも真っ直ぐ相手の事を見据えていた。
何か切っ掛けがあればその時点でアッシュの首が斬り落とされるという状況。しかしここでシルヴァが予想外の行動に出た。何と突き付けていた刃を下ろし、剰えアッシュに背を向けたのである。あまりにも不可解な彼女の行動に、アッシュも訝し気に訊ねた。
「……どう言う事です?」
「私は……こんな事、望んでいません……望んではいけないんです……!」
一時はルクスを失い彼女の尊厳を侮辱された事に、カタリナとしては珍しく怒りを抑えず力を振るった。だが己の力は他者の為だけに振るうべきと己を戒めている彼女は、このような戦いを良しとはしなかった。恥ずべき戦いをしてしまった事に不甲斐無さすら感じている。
そもそもカタリナは本来敵であっても慈悲を感じずにはいられない程に優しい女性だ。そんな彼女が友を殺めた相手とは言え、敵に向けて何時までも怒りを向け続けられる訳がない。
背を向けるシルヴァであったが、それに黙っていられないのがアッシュである。彼女はシルヴァが己の行いを悔いながら背を向けるや否や、弾かれた鞭を拾い上げそれを振るいシルヴァの首に巻き付けた。
「あぐぅっ!?」
「本当に、お優しいですねカタリナさん。でもその優しさが、あなたも、あなたの周りも殺す事になるんですよ……!」
アッシュは右手で鞭の柄を持ち左腕に巻き付けて締め付けを強くした。気道を塞がれ頸椎が軋みを上げ、苦しさにシルヴァは膝をつき悲鳴を上げる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
「あははははははははっ!」
自分の思い遣りはアッシュには届かなかった。その事を頭の片隅でぼんやりと考えていると、シャドゥの隙を見てグラスがアッシュをバスターショットで撃ち抜いた。
「クソがッ!」
「がぁぁぁっ!?」
グラスの援護によりアッシュの鞭が緩んだ。その隙にシルヴァは首に巻き付いた鞭を外し、呼吸を確保しながら転がるようにその場を離れクロスショットの銃口をアッシュに向けて牽制する。
「ゲホッ!? ゲホッ、ゴホッ……くっ!」
「くぅ……!」
再び睨み合うシルヴァとアッシュ。グラスはシャドゥへの警戒もそこそこに、甘さを捨てきれないシルヴァに対し苦言を呈する。
「おま、馬鹿野郎ッ! リリィから話は聞いてたが、思ってた以上の馬鹿だなッ!」
「えっ!?」
「甘さと優しさをはき違えるなッ! お前の優しさが届かない相手なんて、この世界には山程居るぞッ!」
例えば今この場に居るアッシュやシャドゥは勿論、ノスフェクトだがガルマンなんかはカタリナの優しさに付け込んで貶めてくる事を平然とやるだろう。それに今もなお潜伏しながら人体実験、生物実験を行う元傘木社の研究員や連中に傾倒する連中にも優しさや慈悲は意味をなさない。そう言う倫理観が欠如した輩は自分にとっての利益しか見ない。それで痛い目を見るのがカタリナ個人だけであれば彼女はそれすら受け入れるのだろうが、彼女の優しさは結果として他人を巻き込む危険も孕んでいた。
「お前が今この場で見逃したそいつが、次は何処かの誰かを傷付けるかもしれないんだぞッ! 覚悟を決めろッ!」
「ぁ……ぅ……!」
グラスの言葉にシルヴァは精神を揺さぶられた。彼女は決して他人を殺める事が怖い訳でも、手を汚す事を忌避している訳でもない。否、それは極端な言い方だ。これまでに何人もの異教徒や化け物を殺めてきた彼女だが、だからと言って他者を傷付ける事を受け入れた訳ではない。
これまで彼女は他人を傷つけ命を奪う事に対して、その罪と向き合い受け入れ、罰を受ける覚悟を常にしてきた。自分が命を奪った者達への祈りは毎日欠かしたことは無かったし、他者を傷付けた事が正しい事だったと考えた事も一度も無い。
ただ今回は、彼女も正常ではなかったのだ。ルクスを失ったショックはそれだけ彼女の中で衝撃的であり、エリーからの拷問による消耗もあって本来の自分を見失っていたのである。グラスはその事を彼女に教えてくれた。
戦いの最中シルヴァの目を覚まさせたグラスであったが、その代償に彼はシャドゥに対して決定的な隙を晒してしまった。シャドゥはそれを見逃さず、クロスショットをスピンコックさせ強化弾をグラスにお見舞いした。
「同感だな。戦いの最中に他人に意識を向けるなど……!」
〈One judge! Shooting cross!〉
「ッ!? しまっ――」
シャドゥが強力な攻撃をしようとしていると気付いた瞬間、グラスは咄嗟にスラスターを噴かせてその場を退避しようとした。だがその判断は些か遅く、スラスターが火を噴くと同時に放たれた強化弾がグラスを撃ち抜きその衝撃とスラスターの推進力が相まって彼はねずみ花火の様なしっちゃかめっちゃかな軌道を描きながら壁や地面に叩き付けられた。
「うぐおぁぁぁぁぁぁっ!?」
あらぬ方向へと吹っ飛んだ挙句シルヴァの傍に落下できたのはある意味で幸運だっただろう。これでシャドゥやアッシュの傍に倒れたのであれば、その時点で彼は終わっていたかもしれない。シルヴァは自分に厳しいが助言をしてくれた彼を、自身もボロボロで体力も消耗しているにも拘らず守る様にシャドゥ達の前に立ちはだかった。
「大丈夫ですかッ!」
「ぐ、いつつ……チクショウ、アイツ……!」
グラスは心配してくるシルヴァの言葉には答えなかったが、立ち上がりバスターショットを構える姿から察するに大きな問題は無い様だ。傍から見ると体をあちこちにぶつけてとてもではないが無事とは言い難い様子だったが、グラスが頑丈だからかそれとも中身が頑丈だからか大事は無いようである。
グラスとシルヴァがシャドゥ、アッシュと対峙している頃、ヴァーニィはバルトを相手に防戦を強いられていた。
「死ぃぃぃねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「磯部さんッ!?」
揚羽が変身したバルトは、手にした大槌を振り回してヴァーニィに飛び掛かった。実里を失った悲しみと行き場のない怒りを、仮初の仇であるヴァーニィにぶつけんと振り回された大槌はコンクリートを粉砕し地面を抉って、電柱を容易くへし折り周囲を破壊しながら彼を追い詰めた。
流石に回避してばかりだと無用な破壊が広がり、それはゆくゆくは揚羽に責任として降りかかるとヴァーニィは回避を止めクロスブレイカーで受け止めに向かった。大槌と大剣、二つの武器がぶつかり合い、その衝撃で周囲の街路樹が揺れ動く。
「みのりんの、みのりんの仇ッ! 絶対に、絶対にぃ……!」
「う、くぅ……ッ! 磯部さん、違うんだッ! お願いだから、話を聞いてッ!」
バルトの大槌を受け止めながら、ヴァーニィは無駄と知りつつ彼女に語り掛ける。自分は実里を殺してはいない。あの時点で彼女は既に死んだも同然であり、直接的に彼女の死には関わっていないのだと。
しかし怒りと悲しみで支配されている今のバルトにヴァーニィの声は届かなかった。彼女は完全に我を失い、止め処なく湧き上がる怒りと悲しみを吐き出し続けているだけであった。
「あぁぁぁぁっ! 化け物ッ! この、化け物ぉッ! 返せッ! みのりんを、みのりんを返してぇッ!!」
「僕じゃ、ない……! 僕じゃないんだ磯部さんッ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
言葉は届かず、バルトは慟哭を上げながら大槌を振り抜いた。怒りでブーストされた彼女の力は凄まじく、ヴァーニィでも受け止めきれず押し退けられてしまった。
「うわっ!? くぅ……」
バルトにパワー負けを喫し、後ろに押し出され背中からひっくり返る。それを好機とみたバルトは、クロスショットのレバーを二回起こして必殺技を発動する。
〈Two judge! Judgement meteor!〉
「おぉぉぉぉっ!」
「ッ!?」
エネルギーを集束させ、眩い光を放つ大槌を手に飛び上がるバルト。限界まで上昇した彼女は大槌を構えながら重力に引かれ落下していく。その先に居るのは当然ヴァーニィであり、重力による落下速度と大槌自体の重量を乗せた一撃が彼を狙って振り下ろされる。
「ハァァァァァァァァッ!!」
「くっ!」
振り下ろされる大槌だが、彼女が戦い自体は素人である事が幸いした。攻撃を放つまでの隙が大きすぎる。これなら見てからでも回避は余裕である。
だがヴァーニィが回避しようと足に力を込めた瞬間、その足を一発の銃弾が撃ち抜いた。
「ぐっ!? あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「京也ッ!?」
足を撃ち抜かれその場に倒れるヴァーニィの悲鳴に、アルフがそちらの援護に向かおうと振り返る。その瞬間を狙い数人のイジターが彼女に抱き着き動きを封じると、別のイジター達がレイピアを彼女に四方から突き刺した。
「押さえ付けろッ!」
「あっ!?」
「死ね、化け物ッ!」
「あぐっ!? あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
全身を銀の刃でめった刺しにされ、刺し傷の出血と銀成分に体の内側を焼かれる激痛に悲鳴を上げる。これでヴァーニィを助けられる者は誰も居なくなった。バルトは狙いを定めた大槌を、何の躊躇もなく振り下ろし叩き付ける。
「フンッッッッ!!」
「ごふっ!? ぁ゛…………!?」
真上から振り下ろされた大槌がヴァーニィを叩き潰す。エネルギーを溜めた大槌の一撃は、彼の肺から強制的に空気を吐き出させ、体を地面にめり込ませた。ヴァーニィは小さなクレーターの中心に埋まった状態となり、重しとなっている大槌により身動きも取れない状態となる。
「ふぅ……ふぅ……!」
ヴァーニィに大槌を叩きつけてから数秒後、バルトは呼吸を整えながらゆっくりと大槌を持ち上げる。大槌が退かされると、肺を押し潰して呼吸を阻害していた物が無くなった事で彼は再び呼吸を再開させた。それと同時に変身も解除され、クレーターの中心にはボロボロとなった京也が埋まった状態で残されていた。
「ぐ、ごふ……がは、は、ぁ゛……」
口から血の塊を吐き出しながら、京也は何とかクレーターから這い出ようと藻掻く。しかし彼女の一撃は彼の内側にまで大きなダメージを与えており、手足は彼の言う事を聞かず少しでも体を動かそうものなら即座に全身に気絶しそうになるほどの痛みが走った。
「う、ぐぅ……!? あ、が…………」
まだ京也に息がある事に安堵するグラスとシルヴァ。一方シャドゥは、まだクレーターの縁で呼吸を整えているバルトにさっさとトドメを刺すように命じた。
「流石にしぶといな、あの化け物。だがそれももう終わりだ。バルト! さっさとトドメを刺せ」
先程ヴァーニィの足を撃ち抜いたのはシャドゥだった。彼は一瞬の隙を突いて、回避しようとした彼の足を撃ち抜き回避するのを阻止させたのである。足を潰されて身動きが取れない所に、強烈な一撃を喰らい窮地に陥る京也。バルトは身動き取れず、生身で倒れる彼にトドメを刺すべく大槌を振り上げる。
「みのりんの仇……みのりんの仇……!」
「ぐ……あ゛……」
呪詛のように同じ言葉を繰り返すバルトの下では、京也が呻きながら何とか抜け出そうと藻掻いている。しかし傷付いた今の彼では、めり込んだ状態から抜け出すのは一苦労なんて物ではない。
漸く悲願が成就できるとバルトが内心で歓喜していると、不意に再び彼女の脳裏に実里の声が響く。
(揚羽お願いッ! もう止めてッ! こんなの、揚羽らしくないよッ!!)
(うるさい……うるさいうるさいうるさいッ!! もうみのりんは死んだ……これは幻聴……幻聴なんだからッ!?)
脳裏に響く実里の声を己の甘さが聞こえると思い込ませているだけと振り払い、大槌を持つ手に力を籠める。しかしその僅かな時間が京也を助ける猶予となった。
イジター達に押さえ付けられ滅多刺しにされていたアルフが、力を振り絞って全身から血を衝撃波の様に放ち自分を拘束している者達を吹き飛ばす。
「京也は、やらせない……! がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
「ぐわぁっ!?」
「な、何だッ!?」
「がふっ!?」
まさかの隠し玉に吹き飛ばされたイジター達。自由の身になったアルフは体に刺さった無数のレイピアもそのままに、バルトへと飛び掛かり大槌を振り下ろそうとしている彼女にタックルを喰らわせて転倒させた。
「ぐぅっ!?」
「きゃぁぁっ!?」
「はぁ、はぁ……ん、ぐぅっ!? げほ、ごぼ……はぁ、京也……」
バルトを押し倒し、体に刺さったレイピアを引き抜くとアルフはクレーターの中心にめり込んだ京也を引っ張り出す。京也の始末に失敗したのを見たシャドゥは舌打ちをすると、自分の手で彼らを確実に始末しようとクロスショットの銃口を向ける。グラスはそれを許さず、彼が銃を持ち上げるのを見ると左腕を上げブレードを射出しシャドゥが持つ銃を弾き飛ばした。
「させるかッ!」
「くっ!? 貴様ら、いい加減にしろッ!」
「お前の方がいい加減にしろッ! キョウヤは仮面ライダーに変身しただけの子供だろうがッ! そんな奴をしつこく狙い過ぎだぞッ!」
これでヴァーニィが脅威となる様な悪であるのならば、シャドゥの言い分も分からなくはない。だがグラスの目から見てヴァーニィとそれに変身する京也は明確に味方であるし寧ろサポートすべき存在であるとすら思っていた。
するとグラスの様子を見て、シャドゥはある事に気付きシルヴァの事を見る。
「まさかお前、そいつらに何も伝えていないのか?」
「は? 何を?」
「カタリナ、どうなんだ? お前には以前伝えた筈だぞ?」
「それは…………」
シャドゥが鋭い視線をシルヴァに向ければ、彼女は言葉を詰まらせ視線を逸らす。その仕草で彼女が何かを隠しているのに気付いたグラスは、一体何を隠していたのかと彼女に詰め寄った。
「おい、どう言う事だ? あんた俺らに何を隠してんだッ!」
シルヴァに詰め寄るグラスの姿を見て、シャドゥは呆れたように溜め息をつきながら銃口を下ろすと髪をかき上げるような仕草を見せながら彼の知る京也の秘められた危険を口にした。
「全く……大方あの化け物に情が移って何も言えなかったのだろう。仕方ない、教えてやる。あの化け物はな、次世代の完成したノスフェクトを生み出す為のカギなんだよ」
「何ッ!?」
何の変哲もない学生だと思っていた京也が、まさかの存在であったと聞かされグラスも驚愕に言葉を失う。それは通信で会話を聞いていたリリィも同様であった。
『でも、身体検査では異常なんて何も……!?』
「遺伝子その他に異変は見られなかった。何かの間違いじゃないのか?」
「いいや、それこそが次世代型ノスフェクトの肝でもある」
そもそもノスフェクトが不採用とされたのは、その制御の難しさにあった。ベクターカートリッジと言うアイテムを生成できれば幾らでも量産が出来るファッジに対し、ノスフェクトはクロスブラッドを機械的に生成する事が出来ない。故にノスフェクトの量産にはクロスブラッドを生成できる上級ノスフェクトの存在が必要不可欠となるのだが、問題はその上級ノスフェクトが必ずしも命令に従うとは限らない事だった。自らの意思を持つ以上、何かの拍子に謀反を起こす可能性は低くない。暴走の危険はファッジも同様だが、こちらはベースとなる人間に制御用の装置を取り付けておけば最低暴れても大人しくさせる事が出来る。
では上級ノスフェクトにも同じ事をすればいいと思うかもしれないが、強靭な肉体を持つノスフェクトは最悪自力で制御装置を摘出して自由の身になってしまう。
この問題を解決するにはどうすればいいか?
「そこでペスター博士は考えたのさ。遺伝子的に制御可能な様に人間を改造してそいつをノスフェクトにさせてしまえばいいとな」
「あのガキ、紅月 京也だったか? アイツは10年以上前に拉致され、ペスター博士の率いるチームにより改造手術を受けた被験体だったのさ」
京也に関して、確かに詳しく調べた事は無かった。つい最近までジェーンと共に屋敷で暮らしていた問う事までは調べたが、それ以前の事は共闘する上で知る必要はないと考えていたのだ。普段の京也の様子におかしな様子が見られなかったと言うのも理由だし、先程リリィが述べた様に検査しても超万能細胞を埋め込まれたなどの異変が見られなかったのも大きい。
「恐らくアイツは今まで、自分の意思で行動しているつもりだったのだろう。だがそれは間違いだ。実際にはペスター博士の敷いたレールの上を走っていただけに過ぎない」
「だ、だが……! だからと言って殺したりする必要は無いだろうッ! 遺伝子的に洗脳状態にあるなら、それを解いてやれば……」
「それでは遅いと言っているッ! このまま奴を放置して本格的に覚醒してしまえば、取り返しのつかない事になってしまうッ!」
「制御できると思っているペスター博士は分かっていないんだ。あの小僧が最悪、世界を滅ぼすほどの危険な存在だと言う事をッ!」
そして、シャドゥの口からこのままだと訪れるだろう恐ろしい未来の予想が語られる。
グラスはそれを、まるで禁断の扉が開かれるようだと何処か他人事のように思いながら聞いていたのだった。
という訳で第58話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。