今回はちょっと色々あって更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
プロジェクト・ヴァーニィ……それはペスター博士が極秘裏に進めていた、完璧なノスフェクトを生み出す為の計画の名称であった。ファッジに比べて生成と制御が難しく、安定性において劣るとされたノスフェクト。その安定性を向上させる為の手段の一つとして考え出されたのが、ノスフェクトの王となる存在を作り出しそれを完全制御下に置く事であった。制御さえできてしまえば、意のままにクロスブラッドを生成させ更には生み出したノスフェクトも自在に操れる。しかも設備の類は必要ない為、運用コストはファッジに比べてかからない。強いて問題を上げるとすれば機械的な生成が出来ない為効率が劣る所であろうが、それにも問題ない。クロスブラッドを生成しノスフェクトを生み出せると言う事は、上級ノスフェクトも生み出せると言う事。上級ノスフェクトであればクロスブラッドを生成できるので、ノスフェクトの王制御下の上級ノスフェクトを複数生み出せば鼠算式にノスフェクトを増やす事も出来る。
「だが生物をノスフェクトに変異させる際には絶対にぶち当たる問題が、素体となった生物は死ぬと言う事だ。そしてノスフェクトの最大のエネルギー源もまた、他の生物の血液。分かるか? ノスフェクトの恒久的な生成などしようものなら、ノスフェクトの繁殖とそのエネルギー源の確保に爆発的な速度で他の生物を貪り食う。そうなれば地球上の生物はあっという間に死滅するし、地球上の生物が死滅すれば最終的にノスフェクト自身も死滅し共倒れとなる。地球上の全ての生物が息絶え、地球は生物が存在しない死の星となるんだ!」
地球上の全生物の死滅は流石に言い過ぎかもしれないが、人類を始めとした陸上の大型生物は絶滅する危険性がある。過去地球上で起こった5回の生物の大量絶滅、通称ビッグファイブ。それが6回の大量絶滅ビッグシックスとなる危険を孕むのが、京也をベースとしたプロジェクト・ヴァーニィの先にあると言うのだ。
背筋が薄ら寒くなる内容に身震いしそうになるグラスだったが、それを堪えて問い掛けた。
「だ、だが、アイツは制御なんてされてない。全て自分の意思で動いてる。大体、アイツは他のノスフェクトを倒してるんだぞ。そんな奴が、ノスフェクトの王になんてなる訳がないだろ?」
それは期待や願望に似た問い掛けであった。京也が実は操られて、このままではノスフェクトの王になってしまうなどと。
シャドゥはそんな彼の問い掛けを鼻で笑った。
「馬鹿め、目に見えた状態での洗脳なんて施す訳が無いだろうが。奴は遺伝子的に洗脳されてるんだ。フェロモンなどを用いた、本能に訴えかける形でな」
それを聞いてグラスはハッとなった。京也はやたらとアルフの事を大切に扱い、彼女の事となると普段の穏やかさが嘘の様に本能を剥き出しにする傾向がある。それが単なる恋心の類ではなく、彼女を守りヴァーニィとして戦う事を無意識下に刷り込まれた結果だとしたら?
「奴が使命感を持ってノスフェクトと戦うのも、ノスフェクトと戦いその血を飲む事で緩やかに肉体をノスフェクトに変異させる事を目的にしている。奴が他のノスフェクトを倒す際にその血を飲み、それを己の力と変える事は遺伝子的な変異に向けた下準備だ。奴はノスフェクトと戦い討伐し続ける事で、本人も周りも気付かない内にノスフェクトへと変異しつつある。そして今、奴はもう何時完全なノスフェクトになってもおかしくない状態にある」
「何故だ?」
「人間の血を飲んだからだ。それはノスフェクト以外の、他の生物の血を取り入れる事で起こる変異。ノスフェクトとしての本能を呼び覚ます危険な撃鉄を起こす行為に他ならない」
京也は嘗て、仕方がない状況だったとは言え実里から直接血を吸い、その力でブラッディ形態を発現させた。それこそが彼自身をノスフェクトへと劇的に変異させるスイッチを作り出していたのだ。後は戦闘を繰り返し、そのスイッチが押せる状況を作り出すだけ。
グラスらは知らない事だが、ジェーンが京也に人間の血は飲まないようにと警告していたのはこれを懸念しての事だったのだ。
「社長はノスフェクトが爆発的に増えるような事になれば、地球上の生物に多大な影響を及ぼす事になると予見していた。だからノスフェクトの研究を止めさせたんだ。だがペスター博士は研究を尚も継続していた。だから俺に任された。博士を止め、全てのノスフェクトを駆除する為に……!」
シャドゥは話しながらゆっくりと気付かれないように移動し、グラスにより弾き飛ばされたクロスショットを素早く回収すると銃口を向けた。話に夢中になっていたグラス達は、シャドゥが落とした銃の回収の為に移動している事に気付かなかった。
「あ、しま……!?」
「死ねッ!」
気付いた時にはもう遅かったシャドゥは構えたクロスショットの引き金を引き、発砲音と共に銃弾が京也に向けて飛んでいく。凶弾がこのまま京也を貫き彼の命を奪うかと思われた……その時、何者かが降り立ち彼に迫っていた銃弾を弾き飛ばした。
それを見た時、グラス達は最初それを新手の仮面ライダーだと思った。頭部の大きな複眼、全身を覆う鎧、そして全体のシルエット……それは何処かヴァーニィを思わせる姿で、アルフにも通じる何かを感じた。
だがその者の背を見ていたアルフは、目の前から感じる気配に目を見開き体を震わせた。
「あ、あ……あぁ…………!?」
「なっ!? あ、あいつは、まさか……!?」
アルフ同様、シャドゥも突如乱入してきた存在を見て驚愕に言葉を失った。その理由をアッシュが問う前に、仮面ライダーの様な姿をしたそいつはヴァーニィが変身を解除する時の様に血が流れ落ちるように全身の鎧などが崩れ落ちその姿を晒す。
そこに居たのは、同性であろうとも見惚れてしまいそうなほどの美丈夫。美しい白い肌に血の様に赤い瞳を持つ男…………ヴラドであった。
ノスフェクト態から人間の姿に戻ったヴラドを前に、我に返ったアルフが傷付いた体に鞭打って攻撃を仕掛ける。何が目的かは分からないが、油断している今が唯一のチャンスと見たのだ。
「あぁぁぁっ!」
しかし彼女の拳は見ても居ないのに容易く回避され、カウンターで抱きしめるように押さえつけられると首筋に食らいつかれ吸血されてしまった。
「ひぎっ!? あ゛……あ゛、が…………!?」
「あ、アルフ…………!?」
「うぐ、い、ひぃ゛…………!? き、きょう、や……」
吸血される事で齎される暴力的な快楽にアルフが嬌声を上げる。喘ぐ彼女に京也が手を伸ばし、彼女がそれに応えるように手を伸ばすが、2人の手が触れ合う前に先にアルフが意識を失い糸が切れた様にヴラドの腕の中でぐったりと動かなくなる。
「アルフッ! お前、アルフを、返せ……!」
「カミラ、頼むよ」
「はい、ヴラド様」
「あ……!?」
気絶したアルフの姿に京也が激昂し立ち上がろうとするが、ヴラドは彼の動きを気にする事なくカミラを呼び寄せると呼ばれて現れたカミラは京也を抱き上げその首筋に食らいつきアルフ同様吸血して意識を奪った。
「あぐっ!? あ゛、あ゛…………!?」
「キョウヤッ! アルフッ!」
ノスフェクトの首魁であるヴラドがあの2人を捕まえて何をするつもりなのかは分からない。だがロクな目的ではない事は容易に想像できる。これ以上好き勝手させない為、グラスは咄嗟にバスターショットを構え発砲するも放たれた銃弾はヴラドが腕を振って作り出した血の壁で簡単に防がれてしまった。
「チィッ!」
その後も何度か発砲するグラス。彼だけでなくシルヴァにシャドゥまでもが発砲するが、いずれの銃弾もヴラドの血の壁を貫く事は出来なかった。従来の物に比べてノスフェクト対策が施されているグラスは勿論、シルヴァとシャドゥはノスフェクトに対して特攻を持つにも拘らず、血の壁に綻びが出来る気配すらない。
暫く何度も銃声が響いていたが、突如目の前の血の壁が幕が下りるように消えた。その先にヴラドとカミラは勿論、京也とアルフの姿すらなく、後には先程アルフによりタックルで押し退けられたバルトだけが残されていた。まんまと2人を連れて逃げられた事に、シャドゥは舌打ちするとアッシュを率いてこの場を立ち去る事を選んだ。
「チッ、面倒な事になった。アッシュ、退くぞ」
「えっ!? カタリナさんは……」
「もうそんな奴どうでもいい。戻って急ぎ部隊の編成をする」
シャドゥにはヴラドの狙いが分かった。奴らは京也を真のノスフェクトとして覚醒させるつもりなのだ。全てはノスフェクトの天下を作り出す為に。
「奴らをこのまま放っておいたら、この世界が終わる。その前に何としてでも奴らを始末するぞ」
そう言ってアッシュを強引に説得すると、立ち去り際にグラス達の事を見た。
「お前らも、我々を煩わしく思うのは勝手だが、今は我々よりもあの化け物共をどうにかする事を優先した方が賢明だと思うぞ」
「何をッ……!」
一方的な事を告げるだけ告げて、シャドゥはアッシュやバルト達と共にその場を去っていった。グラスは彼らをこのまま行かせるものかと引き留めようとして、通信機から響くリリィと敦の声に我に返らされた。
『レックス、待って!』
『落ち着けδ5』
「ッ! ですが隊長……!」
京也が連れ去られてしまった事で焦り、グラスも若干冷静さを欠いてしまっているのだろう。急ぎ2人を助け出すか、騎士団の方を何とかしなければならない。だが今から焦っても何も始まらない。騎士団の拠点へと攻撃を仕掛ける計画もある中、今は兎に角落ち着き対策を練る事が重要だった。
シルヴァもそれは分かるのか、焦る彼の腕をそっと掴んで静かに宥めた。
「お気持ちは分かりますが、今は落ち着きましょう。何にしても、一度戻って話し合いはするべきでしょう。違いますか?」
リリィに敦だけでなく、元々は敵だったシルヴァにまで静かに宥められて流石の彼も冷静さを取り戻した。一度大きく深呼吸をし、変身を解き額の汗を拭うと彼女の言葉に頷きながら答えた。
「あぁ……あぁ、分かった。分かったよ」
レックスが落ち着きを取り戻した事に、シルヴァも安心したように息を吐くと彼女も変身を解除した。すると、元に戻った瞬間彼女は立ち眩みがしたかのようにバランスを崩し倒れそうになる。元より拷問で体力を消耗した状態で完治していないにも拘らず無理やり出てきたのだ。無理が祟って当然だ。
「ぁ……」
「おっと!」
倒れ込んできたカタリナをレックスが咄嗟に受け止める。彼の腕の中に抱き止められたカタリナは、その胸板に巨乳を押し付け寄りかかる様にして抱き着く形となった。胸板に感じる聖職者にあるまじき巨乳の感触に、瞬間的にリリィのそれとは大分違う感触に圧倒されそうになりながらも彼女を支える事に意識を集中させた。
「おいおい、大丈夫か?」
「え、えぇ……すみません、ご迷惑を……」
「今更だ。取り合えず戻るから、ちょっと失礼するぞ」
レックスはカタリナを横抱きに抱き上げると、エアホースに連れて行き彼女を乗せて九州支部へと帰還した。
支部に帰るなりカタリナは即行で医務室へと連れ戻され、検査を受けた後療養の為ベッドの上に放り込まれ強制的に休まされる。医者が言うには思っていたほど無茶をした影響は出ていないらしく、このまま大人しく休んでいればすぐに回復するだろうとの事だ。
だがそれで安心できるほど状況は落ち着いていない。何しろ今正に修道騎士団の拠点に攻撃を仕掛けようと言う段階で、京也とアルフの2人がヴラド達に連れ去られてしまったのである。このままではどうなるか想像もつかない。
2人は助けに行かなければならないが、かと言って修道騎士団をこのまま放置する訳にはいかない。何より襲撃作戦は既に実行直前まで迫っているのである。今更中止にする事は出来ないし、何より2人が何処に連れて行かれたのかも分からないのだ。目的地が分からない攻撃目標と、ハッキリしている攻撃目標……どちらを優先するかは考えるまでも無かった。
「しかし、あの2人が居なくなったのは戦力的にも痛いな……」
状況を整理した敦はただでさえ強面の顔を更に険しくさせて呟いた。今回の作戦では京也の変身するヴァーニィとアルフも戦力の一角として頼りにする予定だったのである。何しろ騎士団の拠点に襲撃を仕掛けるのだ。当然だがあちら側も抵抗してくるだろうし、シャドゥなど仮面ライダーも迎撃に出てくる。それをグラス1人で迎え撃つとなると…………
敦と共にリリィ、アイリスらが唸る。するとそこで、リリィのスマホが着信音を鳴らした。
「あ、失礼します。はい、もしもし?…………はいっ!?」
「リリィ、どうしたの?」
スマホに出て数秒後、突然素っ頓狂な声を上げた彼女にアイリスが首を傾げて問い掛ける。すると彼女の口から驚くべき内容の言葉が飛び出した。
「い、今医務室からの連絡で、カタリナさんが私達に同行するって……」
「何だと?」
敦が怪訝な顔になっていると、リリィはスマホをスピーカーモードにして全員にカタリナの声が届くようにしてから話し掛けた。
「カタリナさん、あなた本気? 本気で一緒に行くって?」
『はい。お医者様が言うには、少し休んでいれば問題なくなるとの事。今すぐ向かう訳ではないのでしょう? では、私も連れて行ってください』
「何故君を連れて行かなければならない? 負傷していたから拘束せず医務室に入れているが、立場上君は捕虜に近い立場だ。それを元居た場所に戻すような事が出来る訳が無いだろう」
事実ではあるが実際には彼女を無茶させたくないと言う気持ちが多分に含まれていた。幾ら少し休めば問題なくなる範囲にまで回復したとは言え、だからと言って無茶をして欲しい訳ではない。しかも彼女を連れて行くと言う事は、権利を剥奪され事実上追放に近い形となったとは言え彼女に同士討ちをさせる事になると言う事でもある。そんな酷な事はさせられなかった。
「それに我々について来ると言う事は、同士討ちをする事にもなると言う事だぞ? 君に、嘗ての仲間に刃を向ける覚悟はあるのか?」
敦の問い掛けに、カタリナは即答する事はしなかった。スマホの向こうでは、カタリナが言葉を選ぶかしているのか言い淀んで小さな吐息が何度か聞こえてくる。敦達は彼女を急かすような事はせず、そのまま静かに次に彼女が口を開くのを待っていた。
程無くして考えか言葉が纏まったのか、スマホから再びカタリナの声が響き始めた。
『確かに……剛田隊長の仰る通り、私が皆さんに同行すれば、嘗ての仲間と戦う事になります。特にアスペン神父やエリーさん達は嬉々として私を攻撃してくるでしょう。ですが、私が向かう事で避けられる戦いも無い事は無いと思っています』
権利剥奪後もカタリナの存在は騎士団の中では大きかった。実際騎士の中には、危険を覚悟でルクスに協力して彼女を助ける為に動いたものも居た位だ。そんな自分の周囲への影響を、全く自覚も自認もしていない程カタリナも暢気にしては居ない。
『修道騎士団には、権利を剥奪された後でも私の事を慕ってくれている方達が居ます。その彼らの前に私が出れば、場合によっては戦わずして剣を納めてもらう事も可能かもしれません。そうでなくとも混乱を齎す事は出来るでしょう。どうですか?』
なかなかに唸らされる提案だった。総合的な戦力ではやはりどうしても現状S.B.C.T.に分が悪い。そこでカタリナが彼らに語り掛ける事で、敵側に混乱を齎したり場合によっては離反や戦線離脱、寝返りを促す事が出来るかもしれなかった。それは決して馬鹿に出来ない影響となる。
懸念の一つとしてはカタリナがレックス達を謀って背中から撃ってくる危険性だが、彼女の性格からそれは絶対にあり得ないだろう事は分かった。彼女は誠実な人間だ。少なくとも恩を仇で返すことを是とする輩ではない。
それとは別にもう一つの懸念があるとすれば、共に騎士団に攻撃を仕掛ける形となる彼女自身だろう。肉体的なコンディションもそうだが、何よりも心情的な話である。
「だが君は良いのか? 場合によっては見知った相手との戦闘ともなり得る。その時君は自分自身や、我々を守る為に剣を振るう事が出来るのか?」
今一度、覚悟を問う敦。カタリナはそれに対し暫し沈黙したが、それも長くは続かず直ぐにスマホからは彼女の答えが聞こえてきた。
『今更です。私は既に嘗ての同僚に剣を向けました。その心配は御尤もですが、大丈夫です。すでに私の中で整理はついていますから』
その言葉が決め手となった。そこまで言うのであれば同行を許可しよう。実際問題、京也とアルフを欠いて戦力的には不安があったのだ。
「分かった。君の参戦を認める。増援が到着次第攻撃を開始するので、それまで可能な限り療養し体調を整えておいてくれ」
『分かりました……ありがとうございます』
その言葉を最後に通話が切れ、スマホからは何も聞こえなくなる。スマホ越しのカタリナとの会話を終え、敦が頭を掻きながら疲れを吐き出すように息を吐いているとそんな彼にリリィが笑みを向けていた。
「ふぅ…………何だ?」
「いえ…………隊長、ありがとうございます」
カタリナの事を信じ、同時に案じてくれた事への感謝である。口では何だかんだ言いつつ、カタリナも迷ってはいるのだろう。彼女はそう言う人物だ。必要な事と頭では分かっているが、その中には絶えず疑問と不安からくる悩みが渦巻いている。特に今の彼女は、それまで信じていた組織を裏切り友を失い心の支えを失っている。その不安を払拭する為、彼女は兎に角動こうとしているのだ。
そんな彼女の想いを汲んで、同行を許可してくれた敦にはカタリナの友として感謝せずにはいられない。
「勘違いするな。彼女の言う通り、有用だから連れて行く。それだけだ」
「えぇ、そう言う事にしておきます」
「素直じゃありませんねぇ、δリーダーも」
「捻くれてるよりはずっとマシだけどね」
リリィ、アイリス、コレットの3人がクスクスと笑うのを、敦が何とも言えぬ顔で見やり、レックスはそれを見て苦笑を浮かべるのであった。
***
それから程無くして、欠員の出たγチームとεチームの増援が到着した。戦力を整えたδ、γ、εの3つのチームは、一路修道騎士団の拠点があるとされる教会へと向かっていった。
この直前、教会周辺には事前に避難勧告が言い渡され、一般市民は避難を完了している。これは騎士団に襲撃が近い事を報せる事にもなり奇襲効果は失われてしまうが、あちらもS.B.C.T.が襲撃を掛けてくるだろう事は読んでいる筈だ。カタリナの出奔により拠点の存在は完全に明らかとなったのだから、これまでの事もあり攻撃を仕掛けてこない理由がない。騎士団が能天気でもない限りは、何時襲撃があっても良いようにと備えている筈である。
結局のところ強襲とならざるを得ないのであれば、被害を減らす為に避難勧告をするのは当然の事であった。
δチームの指揮車を先頭に、ライトスコープを運搬するトレーラーと各チームの指揮車が続く。途中一網打尽にされる事を避ける為車列は一度三手に分かれ別々のルートで教会へと向かった。
「気を付けてください。こちらが攻撃を仕掛けようと画策し、その為に周辺住民を逃がしていると分かっているのであれば、あちらも遠慮なく市街戦を仕掛けてくる筈です。建物の影などから奇襲してくる危険もあります。警戒を」
そう言って注意を促してくるのは、δチームの指揮車の助手席にいるカタリナであった。傷と体力をある程度癒した彼女は、レックスと共にδチームの指揮車に乗って移動している。強力な戦力兼オブザーバーとして、彼女は可能な限りS.B.C.T.を支援するように行動していた。
彼女が言うのであれば、何時何処で攻撃されてもおかしくない。移動するS.B.C.T.の隊員達は緊張した面持ちで車に揺られながら道路を進んでいく。
が、彼らの緊張を他所に各部隊はこれと言った妨害もなく進む事が出来ていた。あまりにも静かすぎる事に、レックスは勿論警戒を促しは本人であるカタリナでさえも怪訝に思い首を傾げた。もう教会は目と鼻の先である。
「何か……思ったよりも静かだな?」
「おかしいですね? 絶対にエリーさん達からの妨害があると思っていたのですが……」
『油断するな。何事も起こらないと油断させ後ろから奇襲を仕掛けてくる算段かもしれない。警戒は怠るな』
「了解ッ!」
敦が注意するが、彼の危惧も空しく全部隊教会へと到着できてしまっていた。結局何も起こらず、全員が無事に教会まで辿り着けたことに誰もが拍子抜けした様子である。
「何だよ、何の歓迎も無しか?」
「サプライズを企ててる可能性もある。警戒は怠るなよ」
警戒しながらもトレーラーから降車し、部隊ごとに整列する。教会敷地内に入った指揮車はオペレーターを一か所に纏め、後方から指揮を執る敦の指示の元行動を開始した。
『よし、各部隊内部へ突入する。ミス.カタリナ、部隊の突入に適した場所はあるか?』
「あります。こちらです」
元々騎士団の人間だったカタリナの案内で、各部隊は教会の裏手にある隠されたエレベーターへと向かう。一見すると大きめの物置に見えるそれが、実は地下から騎士団の戦力を搬出する為の隠されたエレベーターだったのだ。
カタリナは慣れた手付きでエレベーターを起動させ、部隊を下へと送る準備を整える。
「こちらが、騎士団が地下拠点に出入りする為に使うエレベーターです。流石にこの人数を一気に、と言うのは難しいので、部隊一つずつの移動となりますが」
「本当に大丈夫なのかよ?」
カタリナの説明に信用できないとぼやくのはεチームのルイスだった。彼は元々敵であるカタリナを信用しておらず、これも自分達を嵌める為の罠ではないかと疑っていたのだ。しかしそんな風に疑われるだろう事はカタリナ自身予想していた。それ故に彼女はその不安を払しょくする為、予め策を用意していた。
「不安になるのは分かります。ですので、降りる前に内部の状況を確認しましょう」
「確認って、どうやって?」
「少しお待ちを」
カタリナは持ってきた荷物から手のひらサイズの機材を取り出すと、それからコードを伸ばしてエレベーター近くにあるソケットに接続し、機材からアンテナを伸ばした。
「準備出来ました、何時でもどうぞ」
『は~い! それでは、早速……』
カタリナの声に応えたのは、εチームのアイリスだった。今カタリナが取り付けたのは指揮車と通信する為の中継器。これを介する事で、オペレーター達は指揮者に居ながら騎士団の施設にハッキングしてアクセスする事が出来るようになる。
オペレーター達はアイリスを中心に地下拠点にハッキングをして内部の監視カメラの情報を取得する。同時に警備システムにもアクセスし、警報が鳴るのを止めようと画策するのだが、彼女らが目にした光景はその必要性を感じさせない有様であった。
『なっ!?』
『えぇっ!?』
『おっとぉ?』
「? どうした? 何かあったのか?」
突然通信機から聞こえてくるおかしな声に、レックスが何事かと問い掛ければ普段のホンワカした声色をやや緊張に震わせながらアイリスが答えた。
『これはちょ~っと予想外の展開ですね』
『隊長、どうしますか?』
『むぅ……』
「どうしたんです? 何事ですか?」
どうやら思っていた以上に奇妙な状況になっているらしく、依然として詳しい状況が伝わってこない。現場の部隊がやきもきしていると、アイリスが指揮車で取得した監視カメラの映像を現場のライトスコープ達のHMDに送信した。まだ変身していないレックスと、ライトスコープを持っていないカタリナは彼が持つ端末で映像を確認する。
『口で説明するより、見てもらった方が早そうです。今、下はこんな事になっています』
その言葉の直後に表示された内部の様子を監視カメラが撮影した映像は、彼女らが言う様に誰もが予想だにしていない状況であった。
修道騎士団の拠点内部はあちこちが血の海になり、そこを無数のノスフェクトが跋扈しそれに対してイジターが必死に抵抗している光景が映し出されていた。あまりの光景に、誰もが言葉を失うのであった。
と言う訳で第59話でした。
今回は更新が遅れて申し訳ありません。次回は何時も通り火曜日に更新しますのでご安心を。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。