仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回新たに登場するキャラは、かなり前から温め続けていたキャラとなります。


第5夜:教会の裏側

 週末、京也は一週間ぶりの休みの朝をジェーン、アルフと共に少し遅めの朝食と共にゆったりと過ごしていた。バターを塗ったトーストを齧り、牛乳で流し込みつつ横目でチラリとアルフの様子を伺う。彼女はイチゴのジャムをたっぷりと塗ったトーストを齧り口の周りを汚している。

 

 その姿は何処にでもいる少女と何ら変わりない。ジェーン曰く、アルフは上級ノスフェクトであり、上級ノスフェクトは下級のノスフェクトと違い血液以外も口にする事が出来るのだとか。

 何故そんな事を知っているのかと、両親に代わり自分を育ててくれた女性に問えば彼女もまた同じ上級のノスフェクトなのだと言う。初めてその事を教えてもらった時は、驚きのあまり理解が及ばず数秒思考が停止してしまった。確かに普通の人間と雰囲気が違うなとは思っていたが、まさかそんな秘密を彼女が持っているとは思ってもみなかった。

 因みに自分と出会う以前は何をしていたのかと問えば、その時は決まって楽しそうにニコニコと笑いながら何も答えずにただこちらを見てくるだけで終わるのが常だった。顔は笑っているが、それ以上踏み込む事は許さないと言う圧すら感じる姿に、京也もしつこく訊ねる事は出来ずに終わるのが毎度の流れである。

 

 そんな事を考えながらジェーンの事を見ていると、京也の視線に反応したようにコーヒーを楽しんでいた彼女の顔がグリンと彼の方を向く。

 

「どうしたの~?」

「ぅえあっ!? あ、いや、別に……」

「そう~?」

 

 咄嗟の事に口から心臓が飛び出そうになりながらも何とか返す京也に、ジェーンは意味深な笑みを浮かべ続けている。ジェーンが反応した事にアルフも首を傾げて自分の事を見てくるので、突き刺さる視線に京也は居心地の悪さを感じ必死に頭を回転させて話題をすり替えようとした。

 

「え、っと……あ、あっ! そうだジェーンさん、いい加減そろそろアルフの格好どうにかするべきだと思うんだけど」

「え……!」

「ふむん~?」

 

 まさか自分が話題の中心になるとは思っていなかったアルフは面食らった顔になり、対するジェーンは視線をアルフに向け頭の先から爪先までじっくりと眺める。今日も今日とてアルフの格好は相変わらずの下着の上に黒いブカブカのパーカー姿。太腿から先は白磁の様な肌の素足が剥き出しだし、胸元は豊満な胸の大きさがダイレクトに浮き出ている。もし今ノスフェクトが出たら、彼女は間違いなくこの格好のまま外に飛び出す。

 

 その姿をじっくり眺めて、ジェーンもうんうんと頷いた。

 

「そうよね~。折角の女の子なんだし~、もうちょっとお洒落に気を遣うべきよね~」

「別に……お洒落なんて必要ない。基本外に出ないし……」

「でもその格好で外に出るのはやっぱりマズいよ。せめてスカート……あ、いや、ズボン位は履かないとさ」

 

 スカートでも良いから履かせようと思った京也だったが、緊急時のアルフの移動方法を考えるとスカートでは意味がない。建物の屋根の上を跳んで移動する彼女だ、下から見上げればどちらにせよパンツが丸見えとなってしまう。彼女の下着を誰かに見られると思うと、京也はズボンを履かせると言う選択しか考え付かなかった。

 

「そうね~。百歩譲って外で飛び跳ねる姿を見られるにしても、見られても良い恰好くらいはするべきよね~」

「むぅ……」

 

 2人からの説得にアルフは面白くなさそうに唇を尖らせる。彼女としては本当に必要以上に衣服を身に着けるつもりが無かったのだ。別に裸族と言う訳ではないのだが、不思議と今以上に着飾ろうと言う気持ちが浮かばなかった。

 

 その姿にジェーンは内心で小さく溜め息を吐く。

 

「(()()()()()()()わね~。だ~け~ど~……)アルフちゃんが今よりもっと可愛い恰好をすれば~、京也君がも~っとアルフちゃんの事好きになるかもしれないわよ~」

 

 ジェーンの言葉にアルフは弾かれるように京也の事を見た。京也は京也で、自分を引き合いに出された事と『アルフが好き』と言う言葉に顔を赤くして身を強張らせる。

 

「うぇあっ!? あ、あの、ジェーンさん……?」

「京也……本当? 可愛い恰好したら、もっと好きになる……?」

 

 口の周りをイチゴのジャムで汚した顔を近付けて訊ねてくるアルフに、京也は顔を赤くしながら体を仰け反らせる。アルフはそれを逃がさないと言う様に体を密着させ、豊満な胸を彼の体に押し付けた。その柔らかさと鼻腔を擽る彼女の体臭に、京也は口元を引き攣らせながら答えた。

 

「う、うん……アルフのもっと可愛い姿、僕も見たい……よ」

 

 顔を赤くしてしどろもどろになりながら京也が答えると、アルフは満足そうに笑みを浮かべ抱き着き頬擦りした。

 

「うん……! それじゃあ、私、お洒落する……!」

 

 遂にアルフがパーカー以外の衣服も身に着けてくれる。その言葉を聞いた瞬間、ジェーンはマグカップを置き手をポンと叩いた。

 

「は~い、それじゃあ早速お着替えしましょうか~」

「「えっ?」」

 

 ジェーンの言葉に2人が目をパチクリさせていると、立ち上がった彼女はアルフを京也から引き剥がしてその場から連れ出した。口の周りを拭かれながらリビングから連れ出される。その後を京也が慌てて追いかけるが、ジェーンの部屋まで行くと京也はそこで足止めされてしまった。

 

「京也君はここまでよ~。可愛くなるアルフちゃんを楽しみにしててね~」

「あ、京也……!」

 

 ジェーンに引き摺り込まれるように部屋に入らされたアルフの前で部屋の扉が閉められる。半歩足を前に踏み出して手を伸ばし掛けていた京也は、目の前で締められた扉に仕方なくそこで待つことにした。

 

 部屋の外で待っていると、中で2人が話している会話の内容が漏れ聞こえてくる。

 

『さ~、アルフちゃんパーカー脱いで~。あら、この間よりおっぱいちょっと大きくなったかしら~?』

『う、うん……最近、下着が、ちょっとキツイ……』

『ならちょうどいいわ~。着替えたら~、京也君と一緒にお買い物行ってきなさ~い。楽しいわよ~』

『ん…………ひゃっ!』

『う~ん、この大きさ、形、あの子を思い出すわね~』

『ジェ、ジェーンさ! ちょ、待……! くすぐったい、ひゃん!』

 

 部屋の中からジェーンの楽しそうな声と、アルフの困惑しながらも悩ましい声が聞こえてくる。中で何が行われているか想像を掻き立てられる会話の内容に、京也も思わず顔を赤くした。

 

 そんな事がありながら、暫く待っていると部屋の中が静かになる。突然ピタッと内部から聞こえてくる2人の会話が途絶え、京也はちょっぴり心配になり聞き耳を立ててみようかと少し扉に近付き耳を当てようとする。

 ちょうどその時、中から扉が開かれジェーンが顔を出した。何の前触れもなく開かれた扉に京也は慌てて体を仰け反らせ、そんな彼の姿を見たジェーンは楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「お待たせ~、出来たわよ~」

 

 そう言ってジェーンは部屋から出て、後ろに居たアルフの姿を京也に見える様にした。ジェーンの影になって見えなかったアルフの姿を目にした京也は、その瞬間揶揄でも無く呼吸が止まり目の前の光景を凝視した。

 

「じゃじゃ~ん!」

「き、京也…………どう、かな?」

 

 身を縮こませる様にして内股になりながら口元に手を当て上目遣いに京也の事を見るアルフの姿は、普段の生足剥き出しのパーカー姿から一変していた。

 

 上半身はノースリーブの白いブラウスの上から薄手の黒いカーディガンを羽織っている。カーディガンは少し大きめなのか肩から落ちて二の腕の部分を引っ掛ける様に羽織っているので肩が剥き出しになっており、それがアクセントとなっていた。

 視線を下に向ければ腰から太腿の中程までを覆う群青色のスカートとその下から伸びるサイハイソックスに包まれた足が見える。普段下着の上に黒いパーカーを着ただけの姿なので、こうしてちゃんとした格好をするだけで劇的に印象が変わった。

 

 端的に言うと、京也は着飾ったアルフの姿に完全に見惚れてしまっていた。頬を赤く染め、心此処に非ずと言った様子でポケッとアルフの事を見つめている。

 あまりに反応が無いので、当の本人は大丈夫かと不安になり髪で隠れていない方の目を上目遣いにさせて彼の顔を覗き込む。

 

「あの……京也? やっぱり、変……かな?」

「はっ!」

 

 至近距離から覗き込んでくる彼女の顔と不安そうな声、そしてジェーンに脇腹を小突かれた事で我に返った京也は慌てて首を左右に振り似合っている事を伝えた。

 

「い、いやいやいやっ! そんな事ないッ! 変じゃないよ、全然ッ! 似合ってる、似合ってるよ!」

 

 京也が全力でアルフの格好を褒める。すると彼女は不安そうな顔から一変して花が咲いたような笑みを浮かべて豊かな胸をホッと撫で下ろした。

 

「ホントッ! 良かった……!」

 

 普段パーカーをフードまでしっかり被っているアルフは、表情をちゃんと見る事が出来ない場合が多い。だが今、彼女は前髪こそ片方の目に掛かっているがそれでも表情がしっかり見える。それだけで普段とは大分雰囲気が変わり、元々彼女が持っていた魅力が鮮明に分かるようになった。

 

 京也に褒められて嬉しそうにするアルフと、そんな彼女にメロメロとなった京也。2人の姿に一頻り楽しそうに笑っていたジェーンはパンと手を叩き2人の注目を集めた。

 

「は~い! それじゃあお着替えも終わった所で~……2人でちょっとお出かけしましょうか~」

 

 楽しそうにそう口にしたジェーンに、京也とアルフは目をパチクリとさせ一度互いに顔を見合わせた。そして再び顔を正面に向けると、そこには変わらず有無を言わせぬ様子でニコニコと笑うジェーンの顔があるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アルフがジェーンの手で着せ替え人形となっていた頃、リリィは1人季桔市の街中を私服で歩いていた。と言っても、休日と言う訳ではない。所謂非番と言う奴だ。私服姿ではあるが、もし今この瞬間に何かが起こり敦から呼び出しが掛かれば彼女はすぐさま彼と合流しなくてはならなかった。

 

 そんな彼女が向かうのは、この街にある教会である。別段、彼女は信仰心を持っていたりはしない。神なんてとっくの昔に祈るのを止めている。そうではなく、彼女の目的はこの教会の中に併設された孤児院であった。

 

「こんにちわ!」

「あら、リリィさん! 来てくださったんですね!」

 

 教会の門を通りチャペルを回り込む様にして孤児院の方へ向かうと、1人のシスターと顔を合わせた。

 この街で暫く活動する事となり、地理を覚える意味を込めて散策している途中で見つけたこの孤児院。自身も嘗ては孤児であった事もあり、何だか放っておけなかったリリィは非番などで1人暇になればしょっちゅうここに足を運んでいた。

 

 そんな彼女と親し気に話すのは、この教会のシスターでもあるこの女性だった。名を、カタリナ・マーシーと言う。奥ゆかしい性格で礼儀正しく、落ち着いた雰囲気の修道女然りとした女性ではあるが、その胸元は修道女と言うにはあまりにも豊満であり最初見た時はリリィも一瞬言葉を失ったほどであった。彼女自身も平均以上の大きさの胸を持っていると言う自負はあるが、それもカタリナを前にすれば霞むほどである。

 

(相変わらず、この胸で修道女を名乗るのはある意味勇気要るわよね)

「? 何か?」

 

 思わずその豊かな胸元に注目してしまったリリィに、カタリナは小さく首を傾げる。心の底まで清らかさを感じさせる女性にちょっぴり邪な目を向けてしまっていたリリィは、彼女の声に我に返ると脳がシェイクされるのではと言う程の勢いで首を左右に振って雑念を振り払った。

 

「い、いいいいいいいえッ! 何でもないです気にしないでッ!」

「そう、ですか。それで、今日は……」

 

 カタリナは改めてリリィに来訪の目的を訊ねたが、凡その見当はついていた。δチームが九州支部に腰を据えてから早くも2~3週間は経っている。その間にリリィがここを訪れたのはまだ片手で足りる程度の回数でしかないが、その少ない回数の中でリリィは決まってここで孤児の子供達を相手にお菓子を振る舞ったり一緒に遊んだりしていたのだ。

 

「今日は、子供達にクッキー焼いて来たんです。ちょっとまだ時間早いし、喜んでくれるといいんですけど……」

「とんでもないです! 皆リリィさんが来てくれるのをとても楽しみにしてるんですよ。さ、こちらへ」

 

 カタリナに手を引かれるようにして孤児院へと向かうと、教会の広場を兼ねた庭で子供達が思い思いに遊んでいた。見た感じ大体幼稚園から最大で小学生くらいの年齢の子供達ばかりである。ワイワイ騒ぎながら駆けまわったり、ボール遊びしたりと実に楽しそうだ。その光景にリリィが顔を綻ばせていると、彼女の存在に気付いた子供達が彼女の手に持つバスケットを見ながら駆け寄ってきた。

 

「あっ! リリィお姉ちゃんだっ!」

「おねえちゃ~ん!」

「今日はなに~?」

 

 あっという間に子供達に囲まれたリリィは、子犬の様に足元に駆け寄ってくる子供達を蹴っ飛ばしたりしない様に気を付けながらカタリナと共に子供達を宥めつつ建物へと入る。

 

「はいは~い、こんにちわ皆。今日はクッキー焼いて来たから、皆で仲良く食べようね~」

「ほらほら、そんなにしてはリリィさんが動けませんよ。おやつの前には手を洗う事。さ、入って入って」

 

 カタリナに促されて子供達は孤児院の中へと入っていき、手洗い場で手を洗っていく。その間にリリィはカタリナと共にクッキーを器に盛り、テーブルの上を片付けた。

 

「すみません、リリィさんはお客様なのに手伝わせてしまって……」

「気にしないでください。やりたくてやってる事なんで。大変ですね、お一人でこの孤児院を切り盛りしてるんでしょ?」

 

 この教会は建物の規模に反して人が少ない。孤児院は実質カタリナが1人で維持している状態だった。勿論他にも人は居るらしく、リリィも神父の姿などを見た覚えはある。だが精々がギリギリ両手の指に届くかと言う程度の人数であり、教会の建物の規模に比べれば明らかに努めている神父やシスターの数が足りていなかった。

 

 そんな中で元気溢れる子供達を1人で面倒を見ているカタリナ。彼女は孤児院で子供達の世話をしながら、シスターとしても働いているらしい。目が回るような忙しさの筈なのに、彼女自身は微塵も疲れを見せる事無く今も穏やかな笑みを浮かべている。

 リリィはそんな彼女に感心と尊敬を向けつつ、手を洗い終わってやってきた子供達の相手をしていく。

 

 手慣れた様子で子供の相手をするリリィに、カタリナはコロコロと笑いながら口を開いた。

 

「確かに大変ですけど、それももう暫くです。この教会にも新しく人が入る事になりまして」

「へ~、そうだったんですか?」

「えぇ。施設に反して人が少ない事は周知の事実だったので、やっとと言ったところですが」

 

 こんな所でも人手不足かと世知辛さを感じながら、リリィは子供達と一緒に椅子に座り紅茶を片手にクッキーを一枚口に運ぶ。サクッとした食感と口に広がる甘味に、我ながらいい出来と満足そうに頷いた。焼いた本人が満足そうなのだから、子供達は大喜びだ。

 

「んま~い!」

「おいし~!」

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして。良かったわ、喜んでもらえて」

 

 子供達の笑顔にリリィは日々の疲れを癒されるのを感じた。最近は猛威を振るい始めたノスフェクトへの対策などで忙しい日が多かった。そんな中でこの穏やかな一時は、清涼剤の様にリリィの心に沁み込んだ。

 

 何気ない幸せを感じたリリィが子供達の相手をしながら何気なくカタリナの方を見ると、彼女はリリィと戯れる子供達の姿に笑みを浮かべながら自分は一口もクッキーに手を付けていない。時折子供達の口の周りに付いたクッキーの欠片をナプキンで拭ったりしているが、それだけだ。

 

 それを見てリリィは内心で、あぁまたかと少し肩を落とした。これまでにも何度かリリィは孤児院に差し入れとしてお菓子を持ってきたのだが、カタリナは頑なにそれに手を付けようとしなかった。最初それを見た時リリィは彼女に、菓子の類は苦手なのかと訊ねた事がある。甘いものが苦手なら、次からは甘さを控えた物を持ってこようかと考えたからだ。

 

 だが、返ってきた答えは予想外の言葉であった。

 

『いえ、私は修行中の身。この様な贅沢品を頂く訳には参りません。それに、私まで頂いてしまっては子供達が食べられる分が減ってしまいますから』

 

 神に仕えるシスターは日本で言う僧侶の様に贅沢を良しとせず、禁欲さを求められるとはよく聞く話だが、それを実際に目の当たりにすると思わずリリィも圧倒された。カタリナは実際に子供達からリリィの手製の菓子を勧められても、それをやんわりと断り子供達に優先的に食べさせたのである。

 ストイックと言葉にするのは簡単だが、それを実践するのは難しい。欲を抑えるのは簡単ではないからだ。それを何てことは無いように実戦してみせる、カタリナの心の強さにリリィは憧れに近いものを感じずにはいられなかった。

 

 しかし…………

 

「ねぇシスター? シスターは食べないの?」

「美味しいよ?」

 

 やはり一緒に食べようとしないカタリナの事が、子供達は心配だったりするのだろう。頻りに手にクッキーを持ち、カタリナにも食べるよう勧めてくる。子供達の優しさにカタリナは慈しむ様な笑みを浮かべつつ、差し出されたクッキーをやんわりと押し返し子供達に分け与えようとした。

 

「私な大丈夫です。お腹もそんなに空いていませんし。ですから頂いたクッキーは皆で食べてください」

 

 そう言ってカタリナは頑なにクッキーに手を付ける事をしない。しかしそれで納得する子供達ではなかった。

 

「でもシスター、ご飯もあんまり食べてない……」

「シスター、お腹空いてる」

「ねぇシスター」

 

 純粋にカタリナを想い、カタリナと共に食べたいと言う気持ちで勧めてくる子供達にカタリナの目が揺らぐ。目にうっすらと涙を浮かべる子供達の姿に、良心が痛むのか言葉を詰まらせ僅かに仰け反る。

 ここで逃がしてなるものかと、静かに彼女の背後に移動したリリィが肩を押さえる。

 

「えぁっ!? り、リリィさんッ!?」

「さ、いいから一口一口。折角の頂き物を無碍にするのも、神の教えに反するんじゃない?」

 

 心にもない神の教えではあったが、その言葉はカタリナに効果抜群だった。激しく目を泳がせながらも、カタリナはクッキーを受け取り手を震わせながらゆっくりと口に運んでいく。リリィと子供達が期待を込めた目で固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと開かれた口の中にクッキーが運ばれていき…………

 

「シスター・カタリナ。神父様が礼拝堂にお呼びです」

「ッ! はい、今行きますッ!」

 

 突如やって来た僧によりカタリナが呼ばれる。突然の呼び出しであったが、その瞬間カタリナは助かったと言う様に立ち上がり手にしていたクッキーを子供に返した。

 

「そう言う訳ですから、これはあなた達で頂いてください。リリィさん、それでは私はこれで」

「いえいえ、こちらこそ失礼しました」

 

 呼び出されたのなら仕方ない。リリィは口惜しく感じながらもカタリナを送り出し、カタリナは小さく会釈しながら孤児院を後にした。彼女がその場を去ると呼びに来た僧もその後に続き礼拝堂に向かおうとして、ふと視線を感じて振り返った。

 するとそこには、物申したげな子供とリリィの圧を感じさせる視線を目の当たりにし僧は思わず後退った。

 

「うっ……」

 

 如何にも余計な事をしてくれたと言いたげなリリィと子供達からの視線が痛くなったのか、僧は気まずそうにしながらその場をそそくさと去っていった。

 僧が去るとカタリナにクッキーを食べてもらえなかった事にリリィと子供達は心底残念そうに溜め息を吐く。

 

 その後リリィは暫く子供達の相手をして、程良く時間がたった頃に惜しまれながら孤児院を後にした。教会の門を出て、空のバスケットを手に体を伸ばして空気を肺一杯に吸い込む。

 

「ん~……!」

 

 子供の相手は好きだが、バイタリティ溢れる幼い子供達の相手はやはり疲れると言うもの。凝り固まった筋肉を解す様に全身を伸ばしていると、出し抜けに横合いから1人の少女が走って来る。少女は後ろを見ながら走っている為、リリィの存在に気付いていない。

 

「あははっ! 京也~! こっち、早くッ!」

「あっ!? アルフ、危ないッ!」

「え? わっ!?」

「きゃっ!?」

 

 少女……アルフはリリィの存在に気付かず、そのまま2人はぶつかってしまった。突然ぶつかられた事でリリィは勿論、ぶつかったアルフの方も衝撃でひっくり返りその場に倒れてしまう。後から駆け寄って来た京也は慌てて2人を助け起こす。

 

「あぁ、もう。だから前見てって言ったのに。アルフ大丈夫?」

「う、うん……ゴメン」

「ん、怪我は無いね。すみません、大丈夫ですか?」

 

 京也はアルフに怪我がない事を確認すると、続いてリリィにも手を貸した。不意の衝突であったが、幸いな事にリリィにも怪我は無い。ここら辺は戦闘に出ないとは言え訓練されたS.B.C.T.の隊員と言ったところか。咄嗟の瞬間でもしっかり受け身は取れたようだ。

 リリィは京也の手を借りながら、倒れた拍子に服についた汚れを払い落しながら立ち上がった。

 

「いたた……えぇ、大丈夫よ。そっちの彼女さんも、大丈夫そうね」

「か……!」

「ゴメンなさい……」

 

 アルフの事を彼女と言われた事に狼狽える京也に対して、リリィは特に反応することなく素直にぶつかってしまった事を謝った。その事をちょっぴり寂しく思いつつ、京也もアルフを落ち着かせられなかった事を謝罪した。

 

「本当に、すみません」

「いいのよ、気にしないで。ただし、これからは気を付ける事。いいわね?」

「はい」

 

 先程まで小さい子供達を相手にしていたからだろうか。リリィのアルフに対する接し方が幼い子供の相手をする時の様な感じになってしまっている。しかしアルフはその事を気にすることなく、リリィからの言葉を大人しく受け入れた。その様子にリリィは満足そうに息を吐くと彼女の頭を優しく撫で、倒れた際に落とした空のバスケットを掴み歩き出す。

 

「それじゃ、私はもう行くから。デート、楽しんでね♪」

 

 そう言ってリリィはその場を去っていき、残された京也は暫く顔を赤くしてその場に立ち尽くしていた。アルフはいまいちよく分かっていない様子で首を傾げ、赤い顔を手で覆った京也の事を心配そうに見ている。

 

「京也? どうしたの?」

「ん……いや、何でもない」

 

 そうは言うが、京也の頭の中では先程リリィに言われたデートと言う単語が頭の中をぐるぐると回っていた。確かに、自分達がやろうとしている事は実質デートと言う奴だ。内情はサイズが合わなくなってきたアルフの下着を買う事にあるが、お互い信頼し合う男女2人が出掛けるのであればそれはデートと言って差し支えないだろう。

 

 京也はチラリと今のアルフを眺める。ジェーンの手ですっかり着飾ったアルフは普通に美少女と化し、ここに来るまでも何度か振り返って彼女の事を見る者が居た。その大半が男であった事に京也ももやもやとしたものを感じないではなかったが、注目されている当の本人が京也以外の人間に興味が無さそうなので京也も満更ではなかった。

 

 京也が見つめていると、アルフは首を傾げながら笑みを浮かべて彼の手を引いた。

 

「京也……行こ」

「うん」

 

 

 

 

 一方、呼び出されたカタリナは礼拝堂の奥で跪き両手を組んで目を瞑り祈りを捧げていた。彼女はここに来たら必ず祈りを捧げる。それは彼女が敬愛する神への挨拶であり、同時に()()でもあった。

 

 そのカタリナの前に、この教会の神父が居た。彼はステンドグラスに描かれた神に祈りを捧げるカタリナに優しく語り掛ける。

 

「顔を上げなさい、シスター・カタリナ」

 

 神父からの声にカタリナが静かに目を開け顔を上げる。顔を上げたカタリナの目は澄んだ湖畔の様に綺麗な水色で、彼女の清らかな心を映し出している様であった。神父はその瞳に吸い込まれそうになりながら、彼女をこの場に呼んだ要件を口にする。

 

「もう間もなく、アスペン神父が他の修道騎士の方達と共にいらっしゃいます。それに先駆けて、これを送られてきました」

 

 そう言って神父は布で包まれた手の平よりも大きいサイズの何かをカタリナに差し出した。カタリナはそれを恭しく受け取ると、音を立てずに包みを開く。

 布が開かれると、そこにあったのは一丁の大型の銃であった。一見すると銃身を切り詰めたウィンチェスターライフルの様にも見える、レバーアクションの大型拳銃。だが機関部分はチャペルを模した形状となっており、本来レバーアクションライフルで銃弾を装填する部分には十字の何かをはめ込む様な形状となっていた。

 

 カタリナがそれを見て神妙な顔をしていると、神父は続いて一つのネックレスを渡してきた。銀色のチェーンに、これまた銀色の十字架がついただけのシンプルなネックレス。

 神父はそれをカタリナに差し出しながら、声は穏やかに、しかし冷徹な言葉を口にした。

 

「さぁ、頼みましたよ。機は熟しました。いよいよ我らが、悪しき者達を討つ時が来たのです。その栄えある嚆矢として……!」

 

 神父からの言葉にカタリナは一度目を瞑る。そして次に目が開かれた時、彼女の目には強い意志の光が宿っていた。カタリナは強い眼光と共に、神父から十字架を受け取り銃と十字架を両手で握り祈りを捧げながら言葉を紡いだ。

 

「神の、御心のままに……悪しき魂に救済を」

 

 礼拝堂に響くカタリナの声。神父はその言葉に静かに頷きその場を去った。

 

 1人礼拝堂に残され祈りを捧げ続けるカタリナ。その足元に水が一滴、滴り落ちる。外は晴れ渡っているのに室内に落ちた水滴、その意味を知るのはカタリナただ1人であった。




と言う訳で第5話でした。

前書きでも書いた通り、今回新たに登場したカタリナはかなり前から温め続けていたキャラでした。具体的にどれくらい長いかと言うと、テテュスを描いてる頃からずっと出したい出したいと思い続けていました。
本作でも特に思い入れのあるキャラになるので、今後も沢山活躍させていきたいです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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