動くにも苦労するシルヴァを横から支えたのは、エリーから死んだと聞かされていたルクスであった。ウィンプルは無くなって水色のショートヘアを風に靡かせ、頬に絆創膏、額に包帯を巻いている。決して無傷と言う訳ではなくエリーに殺されかけた痕が痛々しいが、それでも血色は良く表情には余裕すら感じさせた。
無事な彼女の姿にシルヴァは仮面の下で目に涙を浮かべ、視界が滲む中ルクスに手を伸ばし手に触れる彼女の温もりにボロボロと涙を流した。
「ルクスさん……! う、えぐ、うぅぅ……! よ、良がっだ……ル゛グズざん、本当に……!」
感極まってルクスに抱き着くシルヴァ。それまで気を張り続けていた為維持されていた変身も、ルクスの生存に完全に緊張の糸が途切れたのか解けて元の姿に戻ってしまう。変身が解除されボロボロの姿を露わにしたカタリナを、ルクスは優しく抱きしめ子供をあやす様に背中を優しく撫でた。
「あ~、はいはい。そんなに泣かないの、子供じゃないんだから」
「だ、だって……だってぇ……! ぐすっ! うぐ、うぅぅぅ……!」
「はいはい、よしよし、大丈夫よ。アンタの大好きなルクスお姉さんは、ちゃ~んと生きてるから」
周囲でS.B.C.T.と修道騎士団の混合部隊がロードノスフェクトの生み出す亡者の軍勢を押し返そうと奮闘している中、ルクスは泣きじゃくるカタリナを必死に宥めていた。数分程泣き続けていたカタリナは、喜びの涙を思いっ切り流してスッキリし落ち着きを取り戻すと、ここでやっとルクスに事情を聞く余裕を得る事が出来た。
「ぐすっ……ところでルクスさん、どうやって生き残ったんですか? エリーさんの話だと撃たれて川に落ちたと聞きましたが?」
カタリナが問い掛けると、ルクスは軽く肩を竦めて答えた。
「信心深い甲斐もあったってもんね。神様は私を見捨てたりはしなかったみたい」
「どういう意味です?」
「運良くキャンパーな忍者に助けられたのよ」
エリー達追撃部隊により追い詰められ、蜂の巣にされ川に落とされたルクスはその時点で間違いなく重症であった。流れていく水面を赤く染める血は偽りではなく、ルクスはダメージと流れる血に体力と体温を奪われそのままだと間違いなく死んでいた。
幸いな事にエリーが川の水を赤く染めるほどの出血にその時点でルクスが死んだと確信した為、死体を確認せず撤退した事でその後ルクスが川辺になけなしの力を振り絞って自分の体を自ら引き上げた事を知ることは無かった。が、そのままだとどの道ルクスは傷と濡れて下がった体温によって力尽きていた。
だが幸運な事に、彼女が流されていった先に仮面ライダーゲッコウこと隼 隆司が居たのだ。千里と違って組織に属さず1人各地を気儘に流浪していた彼は、偶然にもその山の川辺近くで野営しており流れ着いたルクスを見つけてくれたのである。
そうして隆司に発見されたルクスは彼の手により治療を受け、そのまま暫くは彼の下で傷と体力を癒していた。回復した時、エリー達に仕返しをする為にだ。
とは言えカタリナを奪われて激昂したエリーの追撃は激しかった為、ルクスの傷も癒えるのに時間が掛かった。その間彼女は街で何が起きているのかを知る事無く、やっと動けるようになって隆司の元を去りS.B.C.T.の九州支部を訪れた時やっと状況を理解したのであった。
彼女が九州支部を訪れた時、ちょうどその時にS.B.C.T.が捕虜とした修道騎士団の団員たちと共にδチームの救援に向かおうと動き出していた為、ルクスはこれ幸いと彼らに合流してこの場へとやって来たのである。
「で、こっち来てみたらカタリナってばズタボロの状態で戦おうとしてるじゃない? 全くもうって思いながら、こうして今に至るって訳よ」
「そう、だったんですか。良かった……ルクスさんが無事で、本当に良かった……!」
改めてルクスの無事にカタリナは安堵に涙を浮かべ、まだちゃんと動かない右手を左手で掴み形だけでも組むと神に感謝の祈りを捧げた。
「主よ、ルクスさんを助けて下さりありがとうございます……」
「私を助けてくれたのはさっき言った忍者だったんだけどね」
「勿論、その方にも感謝しています。出来れば直接お礼を言いたいのですが……」
「あぁ、アイツはそう言うの別にいいって言って、私がこっち来る時にどっかに行っちゃったわ」
「そうですか……それは残念です」
隆司に感謝出来ないと分かり、カタリナは露骨に肩を落とした。最低限の感謝も出来ないと言うのは、もどかしく申し訳ない。そんな彼女を眺め、ルクスは仕方が無いなと溜め息を吐いた。
(ま、神が聞き届けたのは間違いなくアンタの祈りでしょうけどね)
生臭坊主の自分に神の加護がある訳がない。そんな自分を神が助けてくれたとなると、それは間違いなくカタリナの祈りと願いを神が聞き入れてくれたからだろう。日夜熱心に祈りを捧げ、尽すカタリナに神が漸く報いてくれたのだ。
その事にルクスは神に感謝したりはしない。遅すぎるのだ。カタリナほど熱心に祈り尽す女性に対し、報いるのが遅すぎるにも程がある。神が本当に居るのであればもっと早くに彼女に救済を与えてくれても良かった筈だ。故にルクスはやはり神など居ないか、居てもロクでもないと改めて断じていた。
ともあれ、ルクスが生きていてくれた事はカタリナにとってこの上ない嬉しい話であり、出来ればまだまだ話したい事も色々あった。だが状況はそれを許さず、イジターの1人が亡者の攻撃に後ろ向きに吹き飛ばされて2人の傍に倒れてきた。
「ぐはぁっ!?」
「あッ!? 大丈夫で、うぐっ!?」
倒れたイジターを咄嗟に助け起こそうとしたカタリナだったが、動こうとした瞬間全身に走る痛みに筋肉が硬直し動きが止まってバランスを崩して倒れそうになる。ルクスは倒れそうになったカタリナを支えると、近くの物陰に引き摺って行き優しく下ろして休ませた。
「無茶するんじゃないの。アンタだってボロボロじゃない。よくここまで戦えたもんだわ」
「う、ぐ……で、ですが……わ、私がやらなければ……」
「別にカタリナが頑張らなきゃいけない訳じゃないでしょ。アンタはもう十分頑張った。だから暫くここで休んでなさい」
そう言って立ち上がるルクスの目には、強い意志と闘志を感じた。
「ルクスさん、何を……?」
「あっ! これ、少し借りるわね?」
「えっ!」
徐にルクスが持ち上げたものを見て、カタリナはハッとなった。彼女が手にしているのはクロスショットとロザリオ……カタリナがシルヴァに変身する時に使う奴だ。カタリナが止める間もなくルクスはクロスショットを腰に装着すると、ロザリオから十字架を取り外しクロスショットに装填し引き金を引いて変身した。
〈in Jesus' Name we pray.〉
「変身ッ!」
〈Amen〉
カタリナに代わってルクスが変身して姿を再び現したシルヴァ。当然その姿はカタリナが変身する物と外見的に大した違いがある訳ではないが、しいて違いを上げるとすれば胸部がカタリナが変身した時に比べて大分慎ましい。着心地を確かめるように肩を解し腰を捻っていたルクスのシルヴァは、不意に胸元に目を落としてカタリナの時と比べて平坦なそこに思わず肩を落とした。
「ちぇ~、流石にここは大きいままじゃないか」
ちょっぴり期待していたが世の中そう上手くはいかない事に落胆しつつ、シルヴァはクロスショットを抜き近くの亡者に向け引き金を引いた。先程倒れたイジターに襲い掛かろうとしていた亡者は銀の銃弾に頭を撃ち抜かれて灰に戻っていく。
「うわっ……え?」
「ほら、シャキッとしなさい」
「えっ!? あ、は、はいっ!」
見た目はシルヴァなのに声はルクスという光景に一瞬困惑しそうになったイジターだが、直ぐに気を取り直すと戦いに戻っていった。それを見送ったシルヴァは周囲を見渡し、クロコダイルノスフェクトに押され気味のバルトの姿を見ると銀の細剣を抜きながらそちらに向けて駆けて行った。
〈Two judge! Judgement blade〉
「ゼヤァァァァァッ!」
シルヴァは腕の鎧を変形させて装備した銀の細剣をさらに変形させ、二本あったそれを一本にまとめロングソードにしてクロコダイルノスフェクトに振り下ろした。ちょうどその時クロコダイルノスフェクトはバルトの首を掴んで持ち上げ、首を絞めつけて痛めつけながら食らい付こうとしている所だったので反応が遅れた。
「あぐ……あ、が……!? かはっ……」
「手古摺らせてくれたね。でももう終わりさ」
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ッ、何ッ!?」
勝ち誇っていたクロコダイルノスフェクトは迫る雄叫びと背筋を撫で上げる悪寒にそちらを見ると、その時には既にシルヴァが銀の剣を振り下ろしていた。細剣二本分の威力を持つ銀の剣による一撃は、銀が元々ノスフェクト相手に特攻である事もあってクロコダイルノスフェクトの体を一撃で大きく切り裂いた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うあっ!?」
「おっと! 揚羽ちゃん、大丈夫?」
「けほっ!? けほけほっ!? うぅ……え? その声、ルクスさんッ!」
背中を大きく切り裂かれたクロコダイルノスフェクトが手を離した事で解放されたバルトは、自分を助けてくれたシルヴァの中身がカタリナからルクスに代わっている事に驚きの声を上げた。エリーから彼女は死んでいると聞かされていたし、そんな彼女の前でバルトを纏っている事に対し申し訳なさも感じたからだ。
「生きてたんですねッ!」
「そうよ。カタリナが熱心に祈るから、神様もたまには粋な事をしてくれたみたい。大変だったみたいね?」
シルヴァの仮面の下から、ルクスは複雑な心境で自分の前に立つバルトの姿を見る。自分が以前変身していたライダーを、別人が変身しているとは言え第三者視点から見ると言うのは何とも不思議な感じだ。
向けられた視線を勘違いしたのか、バルトは慌てて変身を解除してライダーシステムを返そうとした。だが彼女はその手を止めさせる。
「いいわ、そのままでいて」
「え、でも……」
「いいから。こんな状況で、装備の交換なんてしてる暇はないでしょ?」
それに、ルクスは鍛えられているから別にバルトの装備でなくても戦えるが、揚羽は使い慣れた装備でないと困惑して動きが鈍る危険がある。迂闊に逃げ出す事も難しいこの状況では、少しでも使い慣れた装備である事が重要だった。
「それより、ゴメンね? 私達の力が足りなかったから、揚羽ちゃんが戦うような事になっちゃって」
「そんなっ!? ルクスさんやカタリナさんは悪くないですよッ! 全部、私……私が…………」
実里を失った事は確かにショックではあった。唯一無二の親友をあんな形で失うなんて思っても見なかった。だからと言うのは言い訳でしかないが、彼女は苦しみと悲しみを京也やカタリナ達にぶつける事で自分を慰めてしまった。そうする事が一番楽だったからだ。所詮場当たり的で周りに迷惑を掛けるだけの自身への慰めで必要以上に事態を引っ掻き回してしまった事に後悔の念すら抱いていた。
そんな彼女の姿にシルヴァは仕方が無いなと言う様に小さく肩を竦めると、彼女の頭を軽く叩く様に撫でると体勢を立て直しつつあるクロコダイルノスフェクトと対峙した。
「なら、まずはこの状況を終わらせないとね」
「え?」
「そうしないと、落ち着いて謝る事も出来ないでしょ?」
シルヴァの……ルクスの言葉に、バルトの中の揚羽は視界が涙で滲むのを感じた。彼女は、彼女とカタリナは、こんな自分にも罪と向き合い許す機会をくれる。それがどうしようもなく嬉しくて、そして同時に申し訳なくて、涙を堪える事が出来なかったのだ。
だが泣いてる暇はない。クロコダイルノスフェクトは彼女がべそをかく時間をくれないのだから。揚羽は仮面の下で強く目を瞑り頭を振ると溢れる涙を振り払い力強く頷き大槌を構えた。
「はいッ!」
「よし、行きますかッ!」
「舐めるなぁぁぁぁッ!」
すぐに追撃せず暢気に話しているのを己への侮辱と受け取ったのか、それとも純粋にダメージを負わされた事への怒りかは知らないが、クロコダイルノスフェクトは激昂すると大きく口を開けながら2人に襲い掛かっていった。
「ごあぁぁぁぁぁぁっ!」
能力で顎だけを大きくし、人間の体を一口で半分に食い千切れるほどの大口で食らい付いて来る。例え変身した状態であっても、あれを喰らえば下手をすると背骨を砕かれてしまう危険もあった。当然それをまともに受ける様な2人ではなく、左右に分かれて回避するとそのまま挟み撃ちする様に手にした武器を振るう。
「そこっ!」
「やぁぁっ!」
シルヴァが銀の剣、バルトが銀の大槌を薙ぐ様に振るう。だが2人の攻撃が捉えるよりも前に、クロコダイルノスフェクトの振るった丸太の様な尾が横薙ぎに振り回されバルトの土手っ腹を殴り飛ばした。
「うぐぇっ!?」
「揚羽ちゃんッ!? くっ!」
無防備な脇腹を強烈な一撃で殴り飛ばされたバルトは、大きく吹き飛ばされて壁に突っ込み粉砕すると崩れた壁の下敷きとなってしまった。その光景にシルヴァは一瞬そちらに意識を持っていかれそうになるが、狙いをシルヴァに絞ったクロコダイルノスフェクトが襲い掛かって来たのに気付きそちらに集中すべく剣を構えて下から掬い上げるように振り上げた。
「先ずはお前からッ!」
「させるかってのッ!」
食らい付いてきたクロコダイルノスフェクトの顎をかち上げるように切り上げ強制的に上を向かせる。流石に上級ノスフェクトともなると鱗も頑丈で、細剣二本分のエネルギーを集束させた銀の剣でも咄嗟の迎撃では完全に切り裂く事は出来ず鱗と表皮を切り裂き顔を上に向かせる事しか出来なかった。
出来る事なさ更に追撃して追い詰めたいところではあったが、そうは問屋が卸さないとクロコダイルノスフェクトは空中で体を捻り尾を振り回して反撃してきた。一見すると大口による食らい付きばかりが目立つクロコダイルノスフェクトであったが、尾の一撃も決して侮る事は出来ずシルヴァは追撃を断念して態とバランスを崩し倒れるように振るわれた尾の一撃を回避した。すぐ傍を尾が通り過ぎていく感覚にシルヴァが冷や汗を流していると、尾を回避する為に地面に倒れた彼女の腹をクロコダイルノスフェクトが踏み付けた。
「フンッ!」
「あぐぁっ!? ぐ、がぁ……!?」
これは流石に回避できず、プレス機の様な踏み付けを喰らいシルヴァの口から苦悶の声が漏れる。何とかしてこの足を退かそうと足掻くシルヴァであったが、クロコダイルノスフェクトは彼女の腹を磨り潰す様に踏みにじり、内臓が押し潰される感覚にシルヴァは肺から空気を押し出されてしまう。
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!? う、ぐ、ぐぅぅぅぅ……!? かは、ぁぁ……!?」
「このまま踏み潰してやる……!」
迂闊に何度もストンプしようとすればその合間に逃げ出されてしまいかねない。クロコダイルノスフェクトはそんな愚は犯さず、多少時間は掛かっても確実に1人を無力化して仕留めやすくしようと足に込める力を強くした。
その時、一発の銃声が響いたのに僅かに遅れて、一発の銃弾がクロコダイルノスフェクトの胸を背中から胸にかけて貫いた。
「がはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? あ、ぐ、ぐぅぅ……!?」
「う、く……だ、誰?」
胸を撃ち抜かれた衝撃でよろめきクロコダイルノスフェクトの足がシルヴァから退いた。上から掛かっていた圧力が無くなった事で、自由になったシルヴァが体を起き上がらせて銃弾が飛んできた方を見る。撃たれたクロコダイルノスフェクトもまた、自分の邪魔をした不届き者を確認しようと血が溢れ出る胸を押さえながら振り返ると、そこに居たのは壁の瓦礫から体を出して震える手でクロスショットを向けている揚羽のバルトであった。
「はぁ……! はぁ……!」
バルトはクロコダイルノスフェクトの一撃で体がバラバラになりそうな痛みの中、何とか瓦礫の下から脱出すると窮地に陥っているシルヴァを助ける為クロスショットを抜きレバーを一回起こして強化した銃弾をお見舞いしたのだ。流石のクロコダイルノスフェクトも意識していなかった方向からの攻撃、しかもエネルギーを込めて威力を増した銀の銃弾はかなり効いたらしい。先程に比べて明らかに動きが鈍っている。
それでも自分の邪魔をしたバルトは許せないのか、口内にエネルギーを集束させ反撃に強烈な一撃を放とうとしていた。
「お前、お前ぇぇぇぇぇ……!」
「う、あ……!?」
可視化できるほどすさまじいエネルギー。今あれを喰らえば、仮面ライダーとは言え一溜りも無いだろう。身に迫る危機にバルトは逃げようとするが、瓦礫から完全に出られた訳ではない為それも覚束ない。何とか足に引っ掛かっている瓦礫を外してその場を離れようとするが、それよりもクロコダイルノスフェクトが口からエネルギー弾を放つ方が早かった。
「死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ひっ!?」
放たれた赤黒いエネルギー弾。離れていても熱量を感じそうなそれが放たれ自分に向け迫る光景に、バルトは恐怖に思わず仮面の下で目を瞑り儚い抵抗で両手を上げて防御の姿勢を取る。
だがクロコダイルノスフェクトの一撃がバルトの体を焼くような事にはならなかった。その前に立ちはだかったシルヴァが、手にした銀の剣でエネルギー弾を切り裂いたからだ。
「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「! ルクスさんッ!」
「なぁっ!?」
渾身の一撃を切り払われた事に、クロコダイルノスフェクトが明らかな動揺を見せた。その隙を見逃さず、シルヴァは剣の柄を握り締めながら駆け出し、接近しながら腰のクロスショットのレバーを二回連続で起こした。
〈Two judge! Judgement slash!〉
エネルギーが刀身に収束していき、さながら聖剣とでも言う様に眩い光を放ち始める。普段であれば二本の剣に分散する筈のエネルギーを一本に収束させているので、相乗効果で内包する熱量はあらゆるものを両断できるほどのものとなった。これをまともに喰らえばクロコダイルノスフェクトも耐える事は敵わず体を両断されるだろう。
あれは絶対に喰らってはならないと、クロコダイルノスフェクトはその場を逃れようとした。あれ程の攻撃だ、連続で放つ事は出来まい。そう思っての回避であったが、それは傍から見ていたバルトも同様に考えていた。故に彼女は、シルヴァを援護すべくクロスショットのレバーを三回起こした。
〈Three judge! Admonition chain〉
バルトから伸びた銀の鎖は、狙い違わずクロコダイルノスフェクトの体に巻き付き動きを阻害した。逃げようとした矢先に体を縛り付けられ、動きを止められた事に焦ったクロコダイルノスフェクトは力尽くで鎖を引き千切ろうと体が銀に焼かれるのも構わず手足を振り回し逆にバルトを引き摺りだした。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!? 邪魔、すんなぁぁぁぁぁっ!!」
「う、うわぁぁっ!?」
怪我の功名と言うべきか、このクロコダイルノスフェクトの抵抗でバルトは瓦礫の下から完全に脱する事が出来た。そのまま引き寄せられクロコダイルノスフェクトに向かって飛んでいくバルトは、ふと顔を上げるとそこに先程落とした大槌があるのを見つけ反射的にそれに手を伸ばして掴み取ろうとする。
「くっ、届いて……ッ!」
バルトの願いが届いたのか、彼女の手は大槌の柄を掴み取る事に成功した。そのまま引っ張られていく力を利用して、彼女はクロコダイルノスフェクトに手にした大槌を振り下ろした。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ごるあぁぁぁぁぁぁっ!」
振り下ろされた大槌は、エネルギーの充填も行っていないただの一撃。流石にこれはノスフェクトであろうともパワーさえあれば受け止めることも可能であった。
相手を磨り潰さんと振り下ろされた大槌と、クロコダイルノスフェクトの顎がぶつかり合う。
「く、ぬ、うぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「がるるるるるるるるっ!!」
鬩ぎ合う大槌と大口。激しく火花を散らせながらの勝負を制したのは、力強いクロコダイルノスフェクトの方であった。あらゆるものを食い千切る力を持つ大口を前に、バルトの大槌が白旗を上げ罅が入る。
「あっ!?」
「んがぁぁぁうっ!」
「うあぁぁぁぁぁぁっ!?」
手にした武器に罅が入る光景にバルトがマズいと思った次の瞬間には、クロコダイルノスフェクトが顎に力を込めて大槌を完全に噛み砕く。砕かれて弾け飛んだ大槌の破片が散弾の様にバルトに襲い掛かり、衝撃で後ろに吹き飛ばされていった。
背中から倒れるバルトの姿にクロコダイルノスフェクトは口の中に残った大槌の欠片を吐き出した。食えもしない無機物が口の中に入っていると言うだけでも不愉快なのに、それが自分にとって猛毒となる銀となれば尚更不快だ。さっさと吐き出し…………
そこでシルヴァの事を思い出し、振り返ると同時に彼の体は光る銀の剣により両断された。
「づあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あがっ!?…………えっ?」
バルトが作り出してくれた千載一遇の好機。この機を逃さず、シルヴァはクロコダイルノスフェクトの体を袈裟懸けに切り裂き、返す刃で横に薙ぎ胴を両断した。体を歪な十字に切り裂かれたクロコダイルノスフェクトは一瞬何が起きたのかを理解できなかったが、遅れて脳に届いた激痛を知らせる信号と切断面から体がズレて崩れ落ちる感触に思い出したように悲鳴を上げた。
「あ、う、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「はぁ、はぁ…………ふぅ。私達の勝ちね。そうなったらもうどうしようもないでしょ」
事実、クロコダイルノスフェクトの体はあちこちが崩れて灰になっていく。切断と同時に流し込まれたエネルギーに細胞が焼かれているのだ。最早ここまで来たらどう足掻いても助からない。
それでもクロコダイルノスフェクトは足掻いた。残された腕で必死に地面を引っ掻き、何も出来ないと知りつつシルヴァへと向けて体を引き摺って行った。
「くそっ!? くそくそくそ、くそぉっ!? 僕が、僕が人間なんかに……!? 弱っちい、人間なんかに、こんなッ!?」
「その人間に、アンタは負けたのよ」
怨嗟の声を上げるクロコダイルノスフェクトに、シルヴァは冷たく言い放つ。彼女はカタリナと違い、敵に対して慈悲の心を抱くような事はしない。敵は敵とキッチリ割り切り、敵を倒した事に対しては微塵も罪悪感を抱くような事をしなかった。その代わり、エリーの様に敵を討った事に爽快感を感じることも無い。ただ事実を事実として受け止め処理するだけである。
自分を冷たく見下ろしてくるシルヴァに、クロコダイルノスフェクトは一矢報いようとするかのように体を引き摺って近付いていく。その間も体はどんどん崩れていき、遂にはノスフェクト態を維持する事も出来なくなり元の少年の姿に戻った。
「はぁ、はぁ……! あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
体を4分の1にした少年が腕の力だけで這い寄ってくる光景は生理的に恐怖と嫌悪を感じる光景だ。バルトは思わず顔を逸らすが、シルヴァは自分の足を掴んでくるギュスターを振り払いもせず一瞥すると顔を背けているバルトに話し掛けた。
「どうする、揚羽ちゃん?」
「えっ?」
「せめてもの憂さ晴らし、やっとく?」
恐らく直接の仇と言う訳ではないが、実里を殺したノスフェクトの仲間だ。虫の息の今ならトドメを刺す事も容易い。シルヴァはバルトの心に残る実里を奪われた事への怒りを、コイツにトドメを刺す事で晴らすかどうかを彼女に訊ねた。
問われたバルトは一瞬、揺れ動いた。確かにノスフェクトは実里の仇であるし、実里以外にもノスフェクトの被害に遭った学友は居る。ノスフェクトに学校が襲撃された事で心に傷を負い、家から外に出られずにいる者も居るくらいだ。実里と、彼ら彼女らの無念を晴らす為にここでこいつにトドメを刺すと言うのはとても魅力的に思えた。
だが、しかし…………バルトは首を横に振ってそれを辞退した。
「……止めておきます」
「何で?」
「そんな事したって、意味ないですし。それに、みのりんは、私にそんな事してほしくないかなって……」
本当は、体が分割されたとは言え見た目人間のギュスターを殺す事に対して忌避感があるからというのが大きな理由であった。京也の中に宿った実里の意思と再び言葉を交わす事が出来た事で目が覚めた揚羽は、以前の様な苛烈さを失い元の明るく優しい少女に戻っていた。そんな彼女に、必要以上に残酷な事など出来はしない。例え相手の正体が化け物であろうとも…………
バルトの答えにシルヴァは仕方がないと思いつつ、同時にそうだろうなと肩を竦めると代わりに自分がトドメを刺すべく剣の切っ先をギュスターの頭に向け狙いを定めた。
「そう言う訳だから、トドメは私が刺してあげる。何か良い遺す事はあるかしら?」
「…………くたばれ」
「素敵な遺言ね。それじゃ」
ギュスターの最後の言葉を聞き受け、シルヴァは彼の頭に剣を突き立てた。頭を破壊され、ギュスターの残った体が一瞬ビクンと震えた。痙攣は一瞬で止まり、シルヴァの足を掴んでいた手から力が抜け地面に落ちるとそのまま体が灰となって崩れ落ち、風に吹かれて運ばれ跡形もなく消えていった。
ギュスターだった灰が風に乗って飛んでいく光景に、シルヴァはせめてもの礼儀とばかりに十字を切り、バルトは冥福を祈るかのように両手を組み俯くのであった。
と言う訳で第71話でした。
ルクスを助けたのは1人何処にも所属せずぶらりとあちこちを彷徨っているフリーの忍者である隆司でした。こういう時、隆司みたいな風来坊は便利ですね。何処に居てもそんなに不思議じゃないので。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。