各地で戦いが起こり、それぞれの決着を見るなど事態が進行していく中、ヴァーニィ・ロードブラッドとロードノスフェクトの戦いも激しさを増していた。
「だぁぁぁぁっ!」
「フンッ!」
ヴァーニィが腕に血を纏わりつかせて殴り掛かれば、ロードノスフェクトはそれを片手で受け止め反撃に拳を叩き込んでくる。それをヴァーニィはマントを翻す事で相手の視界を塞ぎ攻撃を空振りさせ、その隙を突く形でヴァーニィが放った掌底がロードノスフェクトの腹部に突き刺さり相手を後退させる。
が…………
「ぬぅんっ!」
「がっ!?」
ヴァーニィの掌底は確かにロードノスフェクトの腹部に突き刺さった。もし喰らった相手が彼でなければ掌底は相手の腹部を突き抜け腕が貫通していただろう程の一撃だ。が、ロードノスフェクトは後ろに下がらされながらも強引に体勢を立て直し手刀を振り下ろし逆にヴァーニィの体を打ち据えて地面に叩き付けてしまった。まるでダメージを感じていないかのような反撃に、地面と無理矢理抱擁させられたヴァーニィは続く踏み付けを回避すべく横に転がり追撃を避けるとそのまま勢いをつけて立ち上がり身構える。
一方ヴァーニィへの追撃に失敗したロードノスフェクトは、地面に突き刺さった足を引き抜くと何処か気だるげな様子で首や肩を回した。そして片手を上げると顔の前で拳を握っては開くを繰り返し、項に触れると頭を捻って首をコキコキと鳴らす。その様子はまるで自身の体の動きを確かめているようであった。
「ん、ん~……あ~……流石にこれだけ離れていると、リンクにも誤差が生じるな。少し修正が必要なようだ」
そんな事を呟いたかと思うとロードノスフェクトは突然感電したように体を震わせ始めた。先程の異変と今し方のヴラドとは明らかに違う口調。何よりも感じられる醜悪な敵意に、ヴァーニィは今対峙しているロードノスフェクトがヴラド本人ではない事を見抜いた。
「お前、ヴラドじゃ無いなッ!」
ヴァーニィの指摘に、体を震わせているロードノスフェクトは直ぐには答えない。警戒しながらヴァーニィが見つめていると、震え始めた時と同じく唐突に動きを止めたロードノスフェクトは体を解す様に再び肩や首を回しながら答えた。
「ん~、ふむ……こんなものか。うむ、大分馴染んできたな。ん? あぁ、私か? そうだとも。今はヴラドの体を使わせてもらっている」
「……ペスター博士?」
「そうだとも」
今のロードノスフェクトの体を動かしているのは、ヴラド本人の意思ではなくペスター博士であった。その事実にヴァーニィは仮面の下で顔を顰め、奥歯を食い縛りながら絞り出すように問い掛けた。
「何で……どうしてこんな事を……」
「何故って、それは保険の為だよ」
「保険?」
ノスフェクトは強力だが、それ故に制御できなければ容易く創造主にすら牙を剥く危険な存在である。傘木社ではその制御の難しさ故に正式採用を見送られ、管理が容易なファッジの研究がメインで行われノスフェクトに関しては研究中止が決定された。そんなノスフェクトが唯一従順になる相手こそ、当時からノスフェクトの王として作り出されたヴラドであった。
ペスター博士はヴラドとして改造するのを温厚な性格の人物に定めた。お陰で生み出されたヴラドは創造主であるペスター博士に逆らう事なく、ノスフェクトのまとめ役として十分に機能してくれた。が、それも絶対とは言い切れない。例えヴラドが宥めても、それ以外のノスフェクトがペスター博士に謀反を働く可能性は十分に存在したのだ。そしていざノスフェクトが反乱を起こせば、ペスター博士ではそれを押さえ付ける事が出来ない。
それに何より、ヴラドは優しいが同時に同族に対する意識が強かった。人間とノスフェクトでは、ヴラドが選び取るのはノスフェクトの方だ。もしペスター博士とノスフェクトの未来を天秤に掛けた場合、ノスフェクトの方を取る可能性はとても高い。
故に博士はいざと言う時にノスフェクトを鎮圧する為、ヴラドの意識を乗っ取る為の処置を整えていたのである。具体的には、ペスター博士がヘッドギアを装着し遠隔でヴラドの意識に自分の意識を割り込ませ操るのだ。この間ヴラドは強制的に意識を封じ込まれ、ペスター博士はFPSゲームでキャラクターを操作するような感覚でヴラドの体を好きに扱う事が出来た。
博士がリンクさせる事が出来るのは意識と動きだけであり、ヴラドがどんなダメージを受けても博士にはフィードバックされない。つまり博士が乗っ取っている間、ヴラドは自身が受けるダメージを全て無視して戦う事が出来るバーサーカーの様な状態となってしまうのだ。しかも理性のあるバーサーカーである。厄介な事この上ない。
ヴァーニィはヴラドの生みの親でありながら、彼の意思を無視して物の様に扱うペスター博士に憤りを感じずにはいられなかった。
「そんな……そんな事の為にヴラドをッ!」
「全く、ここまでしなければこちらの言う事を聞かないとは。君も私のコントロールを外れてしまったし、まだまだ研究の余地があるな。とは言え、目指すべき地点は見えた。私の研究が実を結ぶまでもう少し。その為のデータ集めに、協力してもらうよ」
そう言うとペスター博士に乗っ取られたロードノスフェクトがヴァーニィに襲い掛かって来る。腕に血の様なエネルギーを纏って殴り掛かって来るロードノスフェクトに対し、ヴァーニィは攻撃が放たれる前に腕を振るいその軌跡に結晶を作り出して即席の障害物としてロードノスフェクトの視界を遮った。
「くっ!」
「しゃらくさいっ!」
ロードノスフェクトは構わず結晶を殴り粉砕するが、砕けた結晶の先にヴァーニィの姿は無い。何処に行ったと視線を彷徨わせるロードノスフェクトの下では、の死角に潜り込んだヴァーニィが砕けた結晶の一部に手を伸ばし掴み取るとそれを短剣の様に使い逆手に持ったそれをロードノスフェクトの比較的柔らかい脇腹に突き刺した。
「フッ!」
「ん?……フンッ!」
「ぐぁっ!?」
本来であれば脇腹を刺される等放置できるようなダメージではない筈なのだが、痛覚をフィードバックしていないペスター博士からは攻撃を受けたと言う情報だけ伝わり反撃を許した。渾身の力で脇腹を刺したヴァーニィにはこれに反応しきるだけの余裕は無く、放たれた反撃を喰らい殴り飛ばされてしまった。
「ぐぅ……! ぐ、く……くそ」
「ほらどうしたね? もっと打ち込んできてほしいものだな? そうでないと、貴重なデータが取れないじゃないか?」
曲がりなりにも自身で生み出したロードノスフェクトがダメージを受ける事に何の罪悪感も抱いた様子を見せないペスター博士。今の彼にとって重要なのは、ロード・ヴァーニィのデータ収集と今後のノスフェクト研究へのフィードバックだけ。それ以外は全て無意味と切り捨てる、人間性を捨てたペスター博士への嫌悪感と怒り、そしてこんな男に利用されているヴラドへの憐れみを力にヴァーニィは立ち上がった。
「はぁ、はぁ……くっ!」
「そうそう、早く立ちたまえッ! 君の力、もっともっと見せてくれよッ!」
「おぉぉぉぉっ!」
興奮した様子で煽って来るペスター博士に、ヴァーニィは激昂しながらグレイブレイカーを取り出し砲口を向け引き金を引いた。砲撃が放たれ突き進む砲弾を、ペスター博士が操るロードノスフェクトは腕から伸ばしたエネルギー状の血を鞭のように振るって叩き落す。血の鞭と砲弾がぶつかり合った瞬間、砲弾の中の炸薬が破裂し派手な爆音と炎と煙が両者の間で壁となり視界を遮った。
すかさずヴァーニィは二射目を放ち、煙越しにロードノスフェクトを狙い撃つ。だが彼が手応えを感じる前に煙を突き破ってロードノスフェクトが飛び出し、紙一重で砲弾を回避するとそのままヴァーニィに接近し鋭い爪を彼の腹に突き刺してきた。
「フハハッ!」
「がぁっ!? う、ぐ……!?」
腹の中にロードノスフェクトの鋭い爪の生えた手が捩じ込まれる。内臓を手で引っ掻き回される不快感と、爪が突き刺さった腹を中心に感じる灼熱の痛みに意識が飛びそうになるが、ロードブラッドとなって心身共に強靭となった事が幸か不幸か彼の意識を繋ぎ止めた。地獄の様な痛みに喘ぎながら、ヴァーニィはグレイブレイカーから拳銃を外し至近距離からの銃撃でロードノスフェクトを強引に引き剥がした。
「むぉぉっ!? くっ!」
幾らダメージを感じないと言っても、衝撃で押し返されない訳ではないので堪えきれずロードノスフェクトは後退を余儀なくされる。それでも尚攻撃を続けようとするロードノスフェクトだったが、ヴァーニィはこの機を逃さず再びグレイブレイカーで狙いを定め引き金を引いて放たれた砲弾がロードノスフェクトの胸板で弾けた。
「うぉぉっ!?」
反撃の間も無く放たれた連続攻撃に吹き飛ばされるロードノスフェクトの姿に、ヴァーニィは自身が相手を押している爽快感どころか心に痛みが走るのを感じずにはいられなかった。
ヴラドの優しさはヴァーニィにも嫌でも伝わった。決して相容れる相手とは言い切れない。人類を押し退けてでも自分達の居場所を作り出そうとする侵略者の様な奴ではあったが、彼は純粋に自分や仲間のノスフェクトがこの世界で生きていけるようにと足掻いているだけだったのだ。その純粋さと優しさを、ペスター博士に踏み躙られしたくも無い戦いで傷付いている。その事に彼は敵ながら罪悪感を感じ、相手を痛めつけるごとに心が悲鳴を上げるのを感じていた。
「何で、こんな……!」
どうしてこうなってしまったのかと、ヴァーニィは自問せずにはいられない。もしかしたら、ヴラドとは話し合いで分かり合う術もあったかもしれない。互いに折り合いをつけて、妥協点を見つけ平和的に解決する事も出来たかもしれないのだ。少なくともヴラド個人であれば、話し合いの余地はあった筈だ。
だがその全てをペスター博士が台無しにした。ヴラドの個人を侵害し、己の欲望の為に彼の力を利用し振り回している。
そんな理不尽と横暴を、許せる筈がなかった。
「こ、のぉぉぉぉぉっ!」
「さぁ来いッ! お前の力、もっと見せてみろッ!」
「はぁぁぁぁっ!」
両腕を左右に広げて全てを受け止める姿勢を見せるロードノスフェクトに、ロード・ヴァーニィの飛び蹴りが突き刺さる。当然ただの飛び蹴りではなく、エネルギーを纏った状態で放たれた一撃。並大抵のノスフェクトが相手であればこれだけで決着が着いていただろう攻撃だったが、ロードノスフェクト相手には数歩後退させるのが精一杯であった。
そしてロードノスフェクトも攻撃されてばかりではなく、ヴァーニィの一撃に後退しながらも堪えてみせると腕を振るい血の様に赤い波動を放ち反撃した。まるで鉄骨で殴りつけられたような波動の攻撃を喰らったヴァーニィは、飛び蹴りと言う事で空中に居たのもあり踏ん張って堪える事も出来ず吹き飛ばされた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!? くっ!」
咄嗟に血を蔦の様に周囲に張り巡らせて吹き飛ばされた先にあった電柱に激突する事は避けたヴァーニィだったが、ロードノスフェクトは追い打ちとしてお返しとばかりに跳び蹴りを放ってきた。吹き飛ばされた勢いを殺す為に血の蔦を張り巡らせて体を固定しているヴァーニィにこれを回避する術はなく、自ら張り巡らせた血の蔦が拘束具となってしまい破城槌の様な一撃を諸に腹に喰らってしまった。
「ぐふぅっ!? おご、あ……!?」
一瞬下半身が千切れたかと思う様な一撃。衝撃のあまり意識が一瞬飛んだのを何処か他人事の様に感じていると、次の瞬間彼の腹はロードノスフェクトの足と電柱に挟まれ潰されてしまう。
「ぐえぁぁぁっ!? がはっ、あ、が……げほっ!?」
確実に内臓を潰された痛みに呼吸が止まる。ロードノスフェクトが足を抜き解放すると、地面に倒れたヴァーニィの仮面のクラッシャー部分から赤黒い血が零れ落ちる。人間であればショックで死んでいてもおかしくはなかったが、ノスフェクトの王となった彼はこの程度で死ぬことは出来ず本人が意識するよりも前に肉体の方が即座に損傷した部位を修復させ始める。潰れた内臓の痛みと傷が急速に修復される痛み、二重の痛みに苛まれ視界がチカチカと明滅していた。
「はぁ、はぁ、は……あぁぁぁ……」
一瞬このまま目を瞑って全てを投げ出してしまいたくなるが、ここで自分が諦めては全てが終わってしまうと気合を入れ直し歯を食いしばって立ち上がった。何よりも今のロードノスフェクトをこのままにする訳にはいかない。少なくとも彼をペスター博士の呪縛から解放しなければ。
ロードノスフェクトはそんな彼を嘲笑う様に、彼の仮面の角を掴んで無理矢理立ち上がらせた。
「うあっ!? あ、あぁぁぁ……!?」
「ほらどうしたどうした? 今の君はヴラドと同等の存在の筈だぞ? この程度でバテるなんてらしくないじゃないか?」
いけしゃあしゃあと宣うロードノスフェクト……の、向こうに居るペスター博士を思わず睨み付ける。単純な力などは確かに同等だろうが、違うのは感じるダメージを受け止められるかどうかだ。ヴァーニィは自身が受けたダメージを全て受け止めなければならないが、対するペスター博士はそんなの知った事かと言わんばかりに戦い続ける事が出来る。よく見れば優勢であるにも関わらず、ロードノスフェクトの体はあちこちがボロボロだった。ヴァーニィの攻撃による傷を完全に癒し切れていないのだ。本来であればあちらも動きが鈍っていなければおかしい状態。
だが今のロードノスフェクトは遠隔でペスター博士が操っている。そして博士は、ダメージや疲労をシャットアウトしゲーム感覚でヴァーニィと戦わせているのだ。そんな奴に負けるのは絶対に御免だった。
「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
腕一本動かすのも辛くなる激痛の中、気合で意識を繋ぎ止めた彼は雄叫びを上げながら腕に力を籠め至近距離からロードノスフェクトの腹を殴りつけた。意識を乗っ取っていると言ってもやはり遠隔で動かしている以上思考や反応には誤差が出るのか、回避は間に合わずヴァーニィの一撃にロードノスフェクトの腹部に風穴があいた。
「おぉぉっ!?」
痛みなどは感じないが、衝撃などから今自分がどうなっているのかは分かるらしい。ヴァーニィに腹を殴られ風穴を開けられた事に、驚愕に目を見開きながら壁に叩き付けられ突き抜けた先に転がる様に倒れ込む。
「ぐむ……ぬぅ」
苦痛を感じないが故にロードノスフェクトは即座に立ち上がろうとするが、幾ら操っている者がダメージを感じていないと言っても操られている肉体の方は消耗する。ダメージを無視した乱暴な扱いにロードノスフェクトの体の方が限界に近付きつつあるのか、先程に比べて明らかに動きが鈍くなってきていた。操っているペスター博士もその異変には気付いており、適当な亡者を再吸収してエネルギーに変換し肉体の損傷を修復している。
「くっ、さ、流石の性能、我ながら惚れ惚れしたいね。この体も悲鳴を上げているよ。……だがッ!」
ロードノスフェクトはS.B.C.T.や修道騎士団を攻撃する為に周辺に無作為に放出している亡者を一斉に自身に再吸収し己の糧とした。これまでにヴラドやカミラ達が吸血し集めてきた人々の情報とエネルギーが、そのままロードノスフェクトの力となりあっという間に傷を修復し同時に体力も回復させる。
それを見てヴァーニィも亡者の相手をさせていた自身の眷属を終結させ、同様に再吸収し力に変えた。そんな中で彼の呼び戻しに引き寄せられ戻って来たアルフと実里は、彼に吸収される事なく寄り添う形で佇んだ。
《京也ッ!》
《紅月君、大丈夫?》
「うん。2人共、ありがとう」
ヴラドの言葉から、2人がカミラに勝利してくれた事は明白だった。そんな2人を労いつつ、3人は目の前で力を増していくロードノスフェクトを睨み付け身構える。
《あいつ、放出してた情報を全部集めてる……》
《い、一体何人分?》
「数えるのも億劫だよ」
実際、ヴラド達がこれまでに殺めてきた人の数は計り知れない。季桔市に来てからも多くの人々の血を吸ってきた彼らは、当然それ以前から吸血と殺人を繰り返してきた。それらも含めると彼らの犠牲となった人々の数は文字通り膨大となる筈だ。今のロードノスフェクトがどれ程強化されているか、想像もしたくない。
「……だけど、あの人は1人だ」
《え?》
《ん……》
ロードノスフェクト……を操っているペスター博士は、基本的に他人に価値を見出していない。誰も信じる事はせず、己の成果物であるロードノスフェクトの性能しか見ていなかった。それが彼の仇となる。幾ら力が強くても、1人では隙を隠しきれるものではない。
対するヴァーニィにはアルフと実里の2人が付いてくれている。それだけで彼は頼もしさを感じ、心に余裕をもって今のロードノスフェクトを相手に相対する事が出来た。
「倒すよ、あの人を。そして彼を……ヴラドを解放するんだッ!」
《そうだねッ!》
《うん……!》
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
意気込みを新たにする3人を嘲笑う様にロードノスフェクトが突撃してくる。全身から血の様に赤いエネルギーを噴出させながらの突撃はそれだけで通過後の道路や建物を破壊し、文字通り動くだけで破壊を撒き散らしていた。あれでは例え戦いが終わってもその後の復興で苦労する。
これ以上被害を増やさない為、ヴァーニィは迫るロードノスフェクトを迎え撃つと逆にホテルまで押し返そうとした。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
《えぇぇぇぇぇいっ!》
《くっ!》
周辺の亡者を集めてのエネルギーは確かに凄まじい。事実ロードノスフェクトを押し返そうとするヴァーニィの手は噴き出すエネルギーに焼かれ、負傷と修復を繰り返している。ただでさえエネルギーの総量ではロードノスフェクトを下回っていると言うのに、この上更にエネルギーを消耗させられ不利になりつつあった。
だが彼は1人ではなかった。共に押し返してくれるアルフと実里の助力もあって、徐々に、だが確実にロードノスフェクトの進行を押さえ、逆に後ろに押し返しつつあった。
そして…………
「
「う、おぉぉぉっ!?」
一気に全力を出してヴァーニィ達が全身すれば、ロードノスフェクトの体は後ろに押し返されていく。何とか踏ん張ろうとしてもスペックが等価である為、一度ついた勢いを止める事は出来ずそのままホテルの中に押し戻されてしまった。
「うぐぅ……!?」
《今ッ!》
《捕まえたッ! 紅月君ッ!》
「何ッ!?」
「おぉぉぉぉっ!」
ホテルの中に押し戻された際に体勢を崩したロードノスフェクト。その両腕をアルフと実里がそれぞれ押さえて、身動きを封じるとヴァーニィが一気に勝負を決めようと両腕にエネルギーを充填し握り締めた拳を何度も叩き付ける。激しい殴打の連続に、ロードノスフェクトの体が見る見る傷付き凹んでいった。
「こ、のぉぉぉぉっ!!」
「ぐっ!? く、この……! ち、調子に、乗るなぁぁぁぁッ!!」
幾ら痛みを感じないと言っても、激しく殴打されまくれば視界はしっちゃかめっちゃかに動き回り定まらなくなる。激しく動き回る視界に目が回りそうになりながらも堪えたペスター博士は、これ以上ヴァーニィ達に隙にさせないようにと足元に血の池を作り出すとそこから血の触手を伸ばし自身の両腕を押さえ付けているアルフと実里の2人を絡め取り引き剥がした。
《あぐっ!?》
《うあぁぁっ!?》
「邪魔だッ!」
まずはヴァーニィのサポートをしている2人を早々に無力化すべく、触手で絡め取り持ち上げた2人を床や壁に叩き付けて痛めつける。
《あぁぁぁっ!?》
《きゃぁぁぁっ!?》
「アルフッ!? 須藤さんッ!?」
人間であれば潰されてもおかしくない力で叩きつけられ、アルフだけでなく実里も悲鳴を上げる。だがロードノスフェクトの攻撃は止まらず、痛めつけた2人に追い打ちをかけるように血の触手を槍の様に伸ばし2人の体を滅多刺しにして磔にした。
《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?》
《ごぼっ!? あ、が……!?》
「あぁっ!?」
体のあちこちを血の槍で串刺しにされ磔にされる2人の姿に、ヴァーニィの口から悲鳴が上がる。アルフは勿論実里も今や上級ノスフェクトと変わらない体となっているので、この程度で死ぬような事は無い。だがだからと言って苦痛を感じない訳ではなく、またあの状態から2人の体液を吸い取られてしまわないとは限らない。今はヴァーニィが2人を守る為に力を使っている為突き刺した血の槍からアルフと実里が吸い取られると言う最悪の事態には陥っていないが…………
《あ、ぐ……!? うぐ、うぅぅ……》
《はぁっ!? はぁっ!? ぐ、ぅぅ……かはっ!?》
それでもやはり全身を滅多刺しにされて磔にされる苦痛は相当なものであり、実里は何度も意識が飛びそうになるのを激痛で無理矢理引き戻されているような状態だった。あれでは彼女の精神が何処まで持つか分からない。
これ以上時間を掛けてはいられないと、ヴァーニィはロードノスフェクトの凶行を止めるべく持てる力の全てを持って止めようと拳を握りしめる。
「止めろぉォォォォッ!!」
「来てみろッ! もっと、もっとお前のデータを見せてみろッ!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
敢えてヴァーニィを挑発する事で彼に全力を超える全力を発揮させ、更なるデータを引き出そうとするペスター博士。その博士の思惑に応えるようにヴァーニィはグレイブレイカーを大剣モードで振り下ろした。身の丈を超える長さの大剣がロードノスフェクトの張る血の障壁を粉砕してその向こう側に居た本体を切り裂く。
「オォォッ!」
「ぬぐっ!? く、ハハハッ!」
まさか同等の戦闘力を持つ、それどころかエネルギー総量では上回っている筈のロードノスフェクトの障壁が粉砕されるとは思っていなかった。だがそれは持っていたデータだけではヴァーニィの性能を測るには不十分であると言う事を意味していた。つまり、まだまだデータの収集が出来ると言う事であり、ロードノスフェクトの体が傷付けられたと言う事実より、その事の方にペスター博士は興奮を覚え更なるデータ収集の為に傷の修復もそこそこに反撃の蹴りでヴァーニィを強引に引き剥がす。
「ぬぅんっ!」
「ぐぅっ!? くっ!」
強烈な蹴りをまともに喰らい、引き剥がされ吹き飛ばされながらもヴァーニィは空中で体勢を立て直し、グレイブレイカーを砲撃モードにして発砲した。
「ぐぅぉっ!?」
蹴りを放った直後で体勢を崩している為、ロードノスフェクトにこれを回避も防御も出来るだけの余裕はない。砲弾は狙い違わずロードノスフェクトに直撃し、炸薬が破裂した衝撃もあって大きく吹き飛ばし壁を突き破り隣の部屋まで押し込んだ。
「ぐほぁぁぁぁっ!?」
隣の部屋で衝撃のあまり天井が崩落したのか、ロードノスフェクトの姿は崩落音と土煙に紛れて見えなくなる。同時にダメージでロードノスフェクトの力が弱まったのか、アルフと実里の拘束が先程に比べて明らかに弱くなった。それを察したアルフはこの機を逃してはならないと、血の触手を引き千切ろうと力を込めながらヴァーニィを呼ぶ。
《くっ! うぅぅ……京也ぁッ!》
「! はぁぁっ!」
アルフの声に何が起きているかに気付いたヴァーニィは、即座に2人の元に向かうと彼女達を拘束し磔にしている血の触手と槍をグレイブレイカーで切り裂き支えを失った2人を優しく受け止める。共に虫の息と言った有様ではあるが、この状態からならすぐに元に戻れる。ヴァーニィは2人を取り戻せたことに安堵しつつ、能力で一旦彼女達を自分の中に戻す事にした。
「2人共、ありがとう。後は僕が頑張るから、2人は休んでて」
《うぅ……ゴメンね、紅月君》
「気にしないで。助かったよ」
ロードノスフェクト相手にはあまり役に立てなかった事を悔いる実里だったが、カミラ打倒に奮闘してくれただけでもありがたい。ヴァーニィは彼女を労いながら自身の中に彼女を収納し受けた傷を優しく癒した。一方のアルフは、同じくヴァーニィの中に収納されながら彼がロードノスフェクトに勝てるようにとエールを送る。今の自分に出来るのはこれだけだと理解しているからだ。
《京也……頑張って》
「うん。ありがとう、アルフ」
《ん……京也なら、きっと勝てる》
「うん……!」
アルフからのエールに心が奮い立つのを感じながら、ヴァーニィは2人を自身の中に仕舞い込んで癒していく。同時に2人へのガードを固め、何があってもロードノスフェクトの手が及ばないようにした。
そうしていると、崩落した部屋から瓦礫が吹き飛んできた。自身に瓦礫が直撃する寸前、ヴァーニィはそれをグレイブレイカーで弾き、瓦礫が飛び出してきた壁の穴を睨み付ける。
案の定隣の部屋からは傷を癒しながらロードノスフェクトが出てきた。
「ふぅ……やれやれ、折角君に更なる本気を出させる起爆剤になるかと思ったのに、まんまと奪い返されてしまったな。やはり戦いは私には向かんね」
「なら、さっさとヴラドの中から出ていきなよ」
「追い出してみるがいい。その為にもっと、もっと本気を出してみせろッ!」
嬉々とした様子で迫って来るロードノスフェクト。それは先程まで戦っていたヴラドのそれとは全く違う態度であり、望まずこんな戦いを続けさせられる彼を不憫に思ったヴァーニィは彼を解放するべくロードノスフェクトを倒す事を改めて決意した。
その際に、彼を殺す事になってしまおうとも…………
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
覚悟と悲痛さを感じさせる、ヴァーニィの雄叫びが周囲に響き渡った。
と言う訳で第75話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。