仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今年最後の更新になります。


特別編第2話:血塗れの騎士

 カタリナ達と出会ってから二日後、ユーリエは合流した仁と共に郊外に位置する廃洋館を訪れていた。近隣の住民達からは、長らく幽霊屋敷として有名で肝試し感覚で訪れる若者が居る程度と言われていた屋敷である。

 

 屋敷は山中に位置していたので、訪れるまでに木々に囲まれた道を行かねばならない。幸いな事に荒れてはいても道は残っていたので、屋敷までは仁が持ち込んだトランスポゾンを用いて向かう事が出来た。しかし道は残っていても距離はかなりあった為、もしここを歩いていくような事があればかなりの苦労を要した事だろう。インドア派なユーリエなどは屋敷に着くまでの間に疲労困憊して、場合によっては途中で仁におぶわれての移動する事になっていただろう。

 

 そんな事を考えながら、仁の運転するトランスポゾンにタンデムしていたユーリエは少し気になった事を訊ねた。

 

「ところで門守博士、一つ聞いても?」

「ん?」

「博士は傘木 雄成に関する情報を色々と集めていると聞いたが、これから向かうところは正直あなたの望む情報は無いと思うよ?」

「何故?」

「これから向かう先にあるのは、傘木 雄成に裏で歯向かっていた一派による研究所だからさ」

 

 ノスフェクト研究の第一人者とも言えるペスター博士は、会社が健在だった頃は表向き大人しく研究に没頭しているように見せて裏では独自にノスフェクトに関する研究を続行していた。ノスフェクトに関する研究は雄成直々に中止が言い渡されたにも拘らずだ。彼は密かに会社の資金を横領し、ノスフェクト研究に役立てヴラドなどを生み出すのに役立てていたのである。そこに雄成は当然ながら一切関与しておらず、仁が求めるような雄成の痕跡など何一つ見つからないだろうとユーリエは心配になった。

 

 だが彼女の心配をよそに、当の本人はあっけらかんとした様子で答えた。

 

「何も見つからなければそれはそれでいいよ。ただ、雄成さんが関与してなかったってのは間違った認識だよ」

「え?」

「雄成さんは気付いてたよ。そのペスターって言う博士が裏でノスフェクトの研究を続けてた事も、その博士がこっそりノスフェクト研究の為の研究所をこさえてた事も」

 

 そうでなければ、アスペンなどにノスフェクト根絶の指示を出しはしないだろう。だがそうなるとユーリエには分からない事がある。何故雄成は自分の意にそぐわない者の行動を黙認したのだろうか?

 

「何故、傘木 雄成はペスター博士の行動を黙認した? 自分でノスフェクト研究の中止を言い渡しておきながら」

「多分、体のいい隠れ蓑に利用されたんじゃないかな?」

「隠れ蓑?」

「自分の歯向かった奴の所になら、自分の隠したい物が隠されていても探す奴は居ないと考えたんだよ。知ってる訳が無いと周りの人は思うからさ」

 

 実際、仁も以前海都近海に沈没した深井 恭子の潜水艦から回収したデータが無ければこの研究所の存在など知る事も無かっただろう。嘗て回収したそのデータの中には、雄成が把握している世界各地の傘木社由来の研究所に関するデータが収められていた。これから向かう先の存在も、そのデータの中に入っていたのである。ただのファッジであればともかく、ノスフェクトに関しては分からない事もあった為、今回仁は現存しているノスフェクトの研究員であるユーリエにオブザーバーを依頼したのである。

 

「なるほど、それなら確かに利用価値はある。……だがちょっと待ってほしい。そもそも何故、傘木 雄成はペスター博士の研究所にデータを隠したんだ? いや、それ以前に一体何のデータを?」

 

 仁が雄成の足跡を追っていると言う話はユーリエも聞いた事がある。確かに雄成は世界を騒がせた大罪人である事に間違いはない。だが同時に優れた科学者である事は疑いようのない事実であり、その生み出された知識を正しい事に使えるのであればそれに越したことはない。仁がその隠された知識を正しい事に利用としているのだろうと彼女も信じていた。

 だが、自分にとって反逆者とも言えるペスター博士の隠し研究所に一体どんなデータが隠されていると言うのか?

 

「ま、それは言ってみれば分かるよ」

「ふむ……」

 

 雰囲気的にこれ以上訊ねる事は難しそうだと、ユーリエはこの場は引き下がる事にした。今は運転中だし、あまり長々と話し掛けて彼の集中を乱すのも良くは無い。それに、話を聞くタイミングはまだある。何なら探し物の最中に聞いたって構わないだろう。そう思い直しユーリエが黙り込むと、仁も運転に集中できるようになったからかトランスポゾンのアクセルを噴かし山道を走るスピードを上げた。

 

 そうして2人は程無くして件の屋敷に辿り着いた。屋敷周辺は半分ほど自然に飲まれつつあり、正門を通った先の庭先も雑草などが伸び放題となっていた。幸いな事に今は冬に向かいつつある時期だったので、その草も枯草色となり虫などの姿も無い。これが夏真っ盛りであればちょっと立ち入るのを躊躇する位には草が生い茂り虫が飛び交う光景が広がっていただろう。

 そんなしょうもない事を考えながら、2人はゆっくりと廃洋館の中へと入って行く。流石に打ち捨てられてから何年も経っているだけあって、建材に使われている木材などが痛み、床などはところどころが踏み抜いてしまいそうなほど腐っている箇所も見受けられる。

 

 その光景を目の当たりにして、仁は一度歩みを止めて周囲を油断なく観察した。

 

「? どうしたね門守博士?」

「……先客が居るらしい」

「えっ?」

 

 仁の言葉にユーリエが彼の見ている方を同じく注視すれば、そこには他の腐っている箇所とは違って真新しく踏み荒らされ踏み抜かれた床板を見る事が出来た。更によくよく周囲を観察すれば、埃の中に足跡を見る事も出来る。それを見て一瞬警戒するユーリエだったが、この屋敷は時折肝試しに使われていると言う話を思い出しそれではないかと考えた。

 

「若者が肝試しに来ただけでは?」

「いや……靴底のデザインが統一されてる。違うデザインもあるけど、ここまで同じ靴底がしかも真っ直ぐ同じ方向に向かってるのはただの肝試しとは思えない」

 

 恐るべき観察眼だとユーリエは戦慄した。普通、靴底の有無には気付けてもそのデザインまで目を向ける者は居ない。それこそ余程特徴的なデザインの足跡でも残っていない限り、足跡を見る者は居ても靴底のデザインまで印象に残る事は無い。

 

「大した観察眼だね。流石だ」

「息子の影響だよ。雄司の奴、俺でも見落とすような事にも気付くからさ」

 

 そんな事よりもこの足跡だ。見た所足跡の群れは、デザイン違いのものを中心に同じデザインが周囲を囲うように固めながら移動していたらしい。そして集団は、明らかに何らかの目的をもって移動している。足跡の主達が向かう先、それはこれからユーリエが仁を案内しようとしている場所に他ならなかった。

 

 つまり、この足跡の集団はこの屋敷に何があるかを知っている者達と言う事になる。それが意味する事に気付き、ユーリエは焦りの表情を浮かべた。

 

「マズイ……! コイツ等は多分、傘木社の残党だ。しかもペスター博士の研究を知っているッ!」

「ここ、他に出入り口はある?」

 

 見た所屋敷の外にこれだけの集団を移動させるだけの乗り物が放置された様子はない。徒歩で来た可能性も考えられなくはないが、ここまで来る苦労を考えると車か、もしかするとヘリを用いている可能性もある。見た所足跡は屋敷の奥に向かうものばかりだが、外に乗り物が無い所を見るとここに来た者達は移動している可能性が高かった。

 

 案の定、屋敷の裏手には専用のヘリポートがありそこで出入りする事も可能だとの事だ。

 

「だとすると、ここを拠点にしようとしていない限り鉢合わせになる可能性は低いかな? でも一応、警戒しながら進むとしよう」

 

 仁の言葉にユーリエは頷き、警戒しながら彼を屋敷の奥へと案内していく。と言っても、足跡を辿って行けば目的の場所へは辿り着けてしまう為、ユーリエの役割は半分ほど無くなっているに等しかった。その事にちょっぴり居心地の悪さを感じるも、研究施設では何らかの役目が出来るだろうと言う事を期待しながらユーリエは仁と共に裏庭の池までやってきた。

 

 円形の池を見るとユーリエは水辺に作られたオブジェに近付きスイッチを探し出し、操作して地下の研究所への入り口を出現させた。その光景に仁は懐かしいものを感じながら、ユーリエに先んじて地下へと降りていく。もしこの先に先客の居残りが居た場合鉢合わせの危険がある。

 

 幸いな事に地下研究所は既にもぬけの殻になっていた。どうやら来訪者たちは目的を達して施設を後にしたらしく、研究所内に人の気配はない。

 

 障害が無いのであれば好都合と、仁は目的のものを探してあちこちを漁った。何でもデータチップを探していると彼が言うので、ユーリエもそれっぽいものを探すが探せど探せど見つからない。ユーリエはありがちな資料が置かれている場所などを重点的に探し回ったが、対する仁は放置された試験管などの機材をひっくり返したりしていた。変な所を中心に探す仁に、彼が探す物に興味を抱いたユーリエは見つからない手持ち無沙汰を紛らわそうと話し掛けた。

 

「そう言えば門守博士? そのデータチップの中身とは一体何なのかな?」

 

 興味本位で訊ねるユーリエに対し、仁は底に灰か埃が溜まったビーカーをひっくり返して上下に振りながら答えた。

 

「雄成さんの研究内容を纏めたものだよ。ただし、ここで見つかった奴だけでは不十分だ」

「どういう意味かね?」

「そのままだよ。データチップはここで見つかる一つだけでは意味の無いデータの羅列にしかならない。ここ以外のあちこちにある研究所に隠されたデータチップを一つに纏めてやっと意味を持ったものになる」

 

 仁が世界各地に足を運んでいるのはそれが理由であった。彼はひょんな事から雄成が研究内容を複数のデータチップに分けて隠している事を知り、それを回収する為にあちこちを飛び回っていたのだ。

 

 そのような事を話していると、仁は遂に目的としていた物を見つけた。

 

「! あった!」

「それが?」

 

 仁の手の中にはこんな場所には似つかわしくない輝きを放つデータチップがあった。ユーリエが覗き込むと、彼は懐から同じ形状のデータチップを二つ取り出し見比べている。確かに彼の言う通り、これが件のデータチップとやらの様だ。

 

「これで目的は達成……なんだけど」

「まだ何か?」

 

 手に入れたデータチップを他の者と共に大切そうに仕舞いながら、仁は研究所のさらに奥の方に視線を向けた。

 

「折角だから、ここに何があったのかも見ておこうか。先客の目的も気になるし」

「そう言う事なら、こっちだよ」

 

 ユーリエが先導して仁を研究所の更に奥に向かった。先客が電源を復旧してくれていた為、施設内の扉などは多少軋みを上げる事はあっても開いてくれた。その扉を抜けて研究所の奥へ向かうと、メインの研究室と思しき所に一際真新しい人の活動した痕跡を見る事が出来た。足元に降り積もっていた埃は踏み荒らされ、その上に何やら水の様な物が垂れた跡がある。その水滴を辿っていくと、その先にあったのは培養液が底の方に僅かに残っている人1人が余裕では入れる大きさのシリンダーがあった。

 

「どうやら先客の目的はこれだったみたいだね。他の部屋があまり荒らされた形跡が無いのは、目的がはっきりしてたからか」

「これは……」

「何が入ってたか分かる?」

 

 ユーリエは仁の問いには答えず、動く端末を操作し記録などを漁り始めた。仁は余計な事をして邪魔をする事が無いようにと彼女から少し距離を取り、開かれたシリンダーの中を覗き込んだ。培養液の独特な臭いがまだ中に残っており、仁の優れた嗅覚はその臭いの中に女性特有のものが混じっている事を報せた。

 

(女性ベースのノスフェクト?)

 

 季桔市で起こったノスフェクト関連の事件には仁は直接かかわっては居なかった。だが概要などは耳にしている。その事件の解決に尽力した者の中に、女性のノスフェクトも居たと言う事も。

 このシリンダーの中に居たのもその類かと仁が予想していると、記録を調べ終えたユーリエが一つ息を吐いて頭の中を整理してから結果を話し始めた。

 

「分かったよ門守博士。やはりこの中に居たのはルビィだ」

「何、そのルビィって?」

「端的に言えば、ヴラドの番となるように作られる予定だったノスフェクトさ」

 

 ヴラドのパートナーとなるべくして作り出された上級ノスフェクトであったが、想定を遥かに超えて強力な力を有した上に制御が難しいと言う事で長らく封印されていた禁断のノスフェクト。ルビィと言うのは通称の様な物で、正式名称はヴラドがロードノスフェクトであったのに対してルビィはレギナノスフェクトと呼ばれていた。

 

「記録によるとここで長期に渡って封印されていたのを、数日前に回収していった者が居るらしい」

「態々封印を解いて連れ出したって事は、即戦力として使うつもりがあるって事か。制御が難しいって割りには、暴走とかはしなかったみたいだけど?」

 

 本当に制御が難しいのであれば、封印を解かれた時点で暴れ出し封印を解いた者だろうが何だろうが襲い掛かっていた筈だ。だがここには一滴の血の跡も無い。本当にルビィと言うノスフェクトは制御が難しいノスフェクトだったのだろうか?

 

 その仁の疑問への答えは、記録に残されていた監視カメラの映像から明らかになった。

 

「ちょっと待って…………! これだ」

 

 ユーリエが指さしたのは、一時停止した監視カメラの映像の一部。シリンダーから引きずり出されたルビィの頭には、甲冑の兜の様な物が被せられている。ルビィを目覚めさせる前にシリンダーの中で被せたこれは、ユーリエ曰く試作段階だった洗脳装置の一つとよく似ているのだとか。

 

「計画段階で、制御の難しいノスフェクトを外部装備で大人しくさせる事は出来ないかと考えられていた時期があったんだ。その時にこんな装備が設計されていたのを思い出した」

「もしそれが実際に完成して、このルビィに使われたのだとしたら…………」

 

 ルビィを連れ出した者の主導者はマクスウェル博士と言う人物だ。元は傘木社の研究員の1人であり、表向きは雄成に従順な様に見せて実はペスター博士に会社の情報を流していたと言う油断ならない人物である。ユーリエも傘木社時代に、顔を合わせる程度だが遭遇した事があった。

 

「抜け目のない男だよ。口先が上手くて危機察知能力が高い。傘木社崩壊の際も危険を察して自分の配下を連れて真っ先に逃げ出したんだ」

「君は逃げなかったんだね」

「逃げる気力も無かったんだよ」

 

 苦笑しながら答えたユーリエは直ぐに表情を引き締めた。自分の過去などどうでもいい。今問題なのは、封印されていた危険なノスフェクトが外に解き放たれたと言う事なのだから。

 

「見た所洗脳装置は問題なく機能している。となるとこれは相当に厄介な問題だよ。何しろ上級ノスフェクトは単純な戦力として以外にも使い様はある」

 

 上級ノスフェクトは男女問わず他者を魅了する程の美形揃いだ。それも魔性の、と言う形容詞が付くほどである。しかもその上で人間の思考を鈍らせ自在に操れる催眠能力まで持っているのだから質が悪い。その気になれば頑固な人間もハニートラップで簡単に言いくるめる事が出来てしまう。

 ただ今のルビィにそれが望めるかは、仁の目から見て少し疑問だった。あの洗脳装置は目立ちすぎる。

 

「でも、あんなもの着けてたら戦力以外に使えるかな? 結構目立つよ?」

「だといいんだけど…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、揚羽はカタリナ達と共に拠点として間借りしている教会に戻ると、当面の活動の為の日用品や雑貨などを買いにカタリナと共に街に出ていた。

 街を歩いていると、揚羽は時折自分達に向けられる視線の存在に人知れず溜め息を吐いた。ここでも向けられる好奇の視線。だが自分に向けられているのはおこぼれの様な物だと彼女は自覚している。視線の主達の目当てはカタリナだ。聖女と言う存在を絵に描いた様な美貌とそれに違わぬ性格を持つ彼女から放たれるオーラの様な物は、否が応でも人々の注目を集める。そして視線を向けてきた者達は、その隣を歩く揚羽にもついでとばかりに好奇の視線を向けるのである。

 これには揚羽もすっかり慣れたものだ。最初こそ居心地の悪さを感じたが、今ではこうして軽く流せる程度になってしまった。それにカタリナが注目されるのも分かる。自分だって時々見惚れてしまう位なのだから。

 

 そんな事を考えながら、買った物が入った紙袋を抱え直そうと持ち上げるとその際の勢いで上の方にあったリンゴが一つ転がり落ちた。

 

「あっ……!」

 

 今揚羽は両手が塞がっている。この状態ではキャッチが出来ないと焦る揚羽の声に気付いたカタリナが、そちらを見て咄嗟に自身の空いてる方の手を伸ばそうとした。が、それよりも早くに1人の男の子が両手で落ちてきたリンゴをキャッチした。

 

「え?」

「はいこれ」

 

 男の子がリンゴを差し出してきた状況に、揚羽は思わず目を瞬かせた。一体何時からそこに居たのか分からないからだ。少なくともリンゴが落ちる直前まで、そこに少年の姿は無かった。まるでそこにリンゴが落ちてくるのが分かって、予めそこに回り込んできたかのような感じである。

 カタリナも同様に何時の間にこの子が来たのかと不思議に思いつつ、両手が塞がっている揚羽に代わりリンゴを受け取りお礼を言いつつ子供の両親を訊ねた。すると子供が答えるよりも先にこの子の母親らしき女性が1人の女の子と共にやって来た。

 

「ありがとうございます。ところで坊や、お父さんかお母さんは?」

「雄司ッ!」

「あ……?」

 

 男の子の母親と思しき女性は、カタリナ達の前に来ると雄司と呼んだ子供の手を引き2人に頭を下げた。

 

「すみません、うちの子が。雄司、勝手に居なくなっちゃ駄目って言ったでしょ?」

「ごめんなさい」

「あ、いえいえっ! 私がリンゴ落としちゃったのを拾う、って言うか受け止めてくれただけですから、その子は悪くないんですっ! だから、あんまり叱らないであげてください」

 

 雄司を叱っていた女性は、揚羽のフォローにハッとしたように小さく息を飲むと少ししょんぼりした様子の我が子を優しく抱きしめた。何も言わずに離れていったことは事実だが、それはそれとして誰かを助ける為に行動出来た事は純粋に評価できる。

 

「ごめんね、雄司。お母さん達心配しちゃって」

「うん」

 

 母親に抱きしめられて、雄司も軽く抱きしめ返す。その様子を揚羽とカタリナが微笑ましく見守っていると、不意にカタリナの背に何かがぶつかった。

 

「んっ! え?」

 

 背中に衝撃を受けてカタリナが振り返ると、そこには美女と形容できる女性が居た。銀髪に赤い目で、()()()()()()()()()()()()()()()女性は、どうやらカタリナに偶然ぶつかってしまったらしく彼女が振り返ると謝罪するように軽く頭を下げてその場を去っていった。微笑を浮かべながらのその仕草も蠱惑的で、気付けば周辺の人々もその女性に目を奪われてしまっていた。

 ただ微笑みを向けられたカタリナ本人は、魅了されるよりも先に女性の美しさに違和感を感じていた。

 

(あの方は…………いえ、まさか)

 

 一瞬カタリナの脳裏に上級ノスフェクトであるアルフの姿が浮かんだ。あの美しさがノスフェクト特有のものであると考えれば納得も出来る。が、季桔市での戦いで上級ノスフェクトは覚醒した京也とそのパートナーであるアルフ以外全員死んだ筈なのでそれは無いとカタリナは脳裏に浮かんだ可能性を頭を振って振り払った。あの女性はきっと純粋に絶世の美女だったと言うだけの話だ。自身にそう言い聞かせ、カタリナは母子に別れを告げその場を離れた。

 

「それでは、私達はこれで失礼しますね。坊や、ありがとう」

「ありがとうね、雄司君」

 

 2人の感謝に、しかし当の本人は去っていった女性の後ろ姿を見ているだけであった。小さくとも男は男かと、揚羽とカタリナは顔を見合わせ肩を竦めた。見兼ねた母親が雄司の背を軽く叩くと、彼は母親を手招きして耳を近付けさせた。

 

「ほれ、雄司」

()()お母さん、ちょっと……」

「ん? 何よ?」

 

 母親……真矢は雄司に手招きされるがままにしゃがみ、彼の口元に耳を寄せた。雄司は真矢が耳を寄せてくると何やら耳打ちをし始め、それを聞いて真矢の表情が段々と険しくなっていった。その様子を訝しんだ揚羽が声を掛けると、彼女は揚羽達の存在を思い出したかのように顔を上げ急ぎ表情を笑みに変えて何でもないと言って誤魔化した。

 

「あの、どうしました?」

「えっ? あ…………いえ、何でもありません。お気になさらず」

()()お母さん、どうするの?」

「後でね……それじゃ、私達はこれで」

 

 亜矢はそう言うと雄司ともう1人居る娘……愛衣の手を引いてそそくさとその場を離れていく。その後ろ姿を不審に思いながらも、何らかの確証がある訳ではないので引き留める事も出来なかった。

 

 それでも感じた違和感を放置する事は出来なかったのでカタリナに意見を伺った。

 

「あの、カタリナさん? さっきの人、何か……」

「気にする事は無いでしょう。少なくとも悪い人ではなさそうですし」

 

 揚羽が感じていたのと同様かどうかは分からないが、カタリナもあの母子に何やら違和感は感じていたらしい。ただそれは警戒する程の事ではなかったからか、カタリナとしては大して気にしない事にしたのだ。悪意を抱いていたり隠していたりすれば警戒もするが、そうでないなら気にする必要は無い。カタリナにそうやんわりと諭されれば、揚羽もそれ以上追及しようとはしなかった。

 

 そのまま揚羽達は教会に戻り、件の盗人が現れると言う3日後まで待機する事となった。勿論ただ何もせずに過ごすような事はせず、日中は間借りしている教会を綺麗に清掃したりして過ごし、夜には盗人が下見や何か仕掛けに来ないかと警戒した。

 最初の1日は特に何事も無かった。3人で手分けして博物館周辺を見回り、怪しい者がうろついたりしていないかと目を光らせたが、時折野良猫を見かけたりする以外では精々酔っ払いがふら付いてる程度で他には異変らしきものは何もなかった。

 

 問題が起こったのは2日目の夜である。この日カタリナ、ルクスの2人から離れて1人見回りをしていると、不意に何者かに見られている感覚を覚えて油断なく周囲を警戒しながら夜の街を練り歩く。夜に出歩くシスター服の女性はそれはそれで注目を受けるかもしれないが、良く感じる下卑た視線や好奇の視線とは明らかに違う。これは、獲物を狙う捕食者の視線だ。

 

 警戒しながら歩いていた揚羽が選んだのは可能な限り人気のない道であったが、この日は運悪く酒に酔った若い男の集団と出くわしてしまった。

 

「うぃ~……お? 何だこんな所で、シスターさんのお出ましか?」

「よぅシスター! 迷える子羊を慰めてくれやッ!」

 

 男達はそこそこ酔っぱらっているのか、1人で夜の街を出歩くシスターの揚羽に下卑た声を掛けてきた。こういう対応を受ける事も一度や二度では無かった為無視しようとした揚羽であったが、男達が近付いてきた瞬間肌に感じていた視線が強くなったのに気付いた。

 

 そしてその視線は、男達にも向けられている事に気付く。

 

「逃げて、早くッ!」

「は? 何言ってんだ?」

 

 この視線の主はヤバいと察した揚羽は急ぎ男達を逃がそうとしたが、酔って判断力が鈍っているのか男達は揚羽の言葉の意味を理解できずにいた。いや、仮に酔っていなくても、修道女にいきなりこんな事を言われて即座に動ける者は少ないだろう。大抵の者は何を言ってるんだと言う印象しか抱けない筈だ。

 

 それが彼らの命運を分けた。視線の主は揚羽よりも男達の方が狙いやすいと思ったのか、先ずはそちらに狙いを定め建物の間の暗がりから飛び出し襲い掛かった。

 

「カァァァッ!」

「えっ?」

「くっ!」

 

 鋭く息を吐きながら男の1人に襲い掛かる異形に誰もが反応できずにいる中、揚羽は咄嗟にクロスショットを抜き引き金を引いた。だが襲撃者は放たれた銃弾を素早く回避すると、そのまま狙いを定めた男の首筋に食らい付きそのままの勢いで別の暗がりの中に男を引き摺り込んでいった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 周囲に響き渡る男の断末魔の悲鳴と、肉を引き千切り血が噴き出す音、そして襲撃者が男の首に食らい付いた際に飛び散った血の温かさと臭いに漸く状況を理解した残りの男達は情けない悲鳴を上げながら逃げ出した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ひぃぃぃぃっ!?」

「ば、化け物だぁぁぁぁっ!?」

 

 逃げる男達に対し、揚羽はその場に残ると襲撃者が飛び込んだ暗がりを睨みつけながらクロスショットを腰に巻いたベルトのバックル部分に装着した。

 

 その間も暗がりの中からは血を啜り肉を咀嚼する悍ましい音が聞こえてくる。と、揚羽が変身しようとするとその音が止まり、暗がりから襲撃者が男の亡骸を引き摺りながら姿を現した。

 

 その襲撃者は予想していたのとは少し違った。揚羽は最初、襲撃してきたのはノスフェクトの類だと思っていた。が、姿を現したのは普通のノスフェクトとは明らかに違う鎧を着た騎士の様な見た目の存在であった。ただその口元は開くようになっているのか、今は閉ざされていてもクラッシャーに当たる部分は夥しい血で赤く染まっている。

 

 コイツは明らかにノスフェクトの類だ。そう確信した揚羽は、首から下げているロザリオの十字架を外してクロスショットに装填し変身する。

 

〈in Jesus' Name we pray.〉

「変身ッ!」

〈Amen〉

 

 揚羽が変身した新生仮面ライダーアッシュが、鎧姿の異形と対峙する。対する襲撃者は、手にしていた亡骸を手放すとアッシュを迎え撃とうとするかのように身構えるのだった。




と言う訳で特別編第2話でした。

久々の門守一家登場です。仁は雄成の足跡を追って、亜矢と子供達はそれにかこつけた旅行として現地にやって来ました。仁も用事が住めば家族と共に旅行を楽しんでいる事でしょう。

今年も1年ありがとうございました!年が明けてからも本作と続き始まる次回作をどうかよろしくお願いします!

それでは、良いお年を!
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