仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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特別編第4話:怪盗の夜

 京谷が変身したヴァーニィと揚羽の変身したアッシュがルビィと戦い始めた頃、美術館の外ではカタリナとルクスの2人がそれぞれ別の場所で出現したノスフェクトと戦っていた。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ルクスが変身したバルトは銀の大槌を振り回し、眼前に立ち塞がるノスフェクトを捉えるとそのまま大槌と一緒に振り回して近くの壁に叩き付ける。勢いのある大槌による一撃は大型トラックによる突撃にも匹敵する威力があり、それがほぼ一か所に集中して叩き付けられるので喰らったノスフェクトは内臓を押し潰され耐えきれず息絶え変異が解ける。

 だが彼女に一息ついている暇はない。何故なら出現したノスフェクトはまだ居るからである。

 

「キシャァァァァッ!」

「ちぃっ!」

 

 休む間もなく飛び掛かって来る別のノスフェクトに、彼女は舌打ちしながらも今し方ノスフェクトを叩き潰すのに使った大槌を振り下ろし新たなノスフェクトの脳天を粉砕する。そこに更に別のノスフェクトが飛び掛かって来るが、こちらは大槌を振るう暇が無い為蹴りで迎え撃ち対処。相手の体勢が崩れたのを見る暇もなく、自身の背後に回り込もうとしていた別のノスフェクトを殴り飛ばした。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ったく、こんなにノスフェクト作ってくれちゃってさ……!」

 

 これ程連続で敵を倒したのは、あの季桔市での決戦で亡者の群れを相手にした時以来だ。あの時に比べれば敵の数はまだまだ少なく楽と言えば楽かもしれない。が、それは太平洋を泳いで横断するのに比べれば琵琶湖を泳いで横断するのは楽な方だ、と言うようなものである。負担が大きい事には変わりない。

 

 それに、揚羽の事も心配だった。この攻撃は間違いなく陽動。今頃このノスフェクトを生み出した者は、本命である展示室の宝石を狙い向かっている筈だ。今あそこに居るのは揚羽1人。流石に彼女1人で黒幕の相手をするのは不安がある。

 そうは思っていても、この場を放置する訳にはいかないのでバルトは大槌を構え直し目の前に立ちはだかる無数のノスフェクトと対峙する。油断なく周囲を見渡しどいつが最初に飛び掛かって来るかと身構えていたが、敵は彼女の予想を超える場所から襲い掛かって来た。

 

 何と1体のノスフェクトが彼女の足元にあるマンホールから飛び出し、彼女を下水道に引き摺り込もうと足を掴んで引っ張ってきたのである。

 

「なっ!? くっ!」

 

 マンホールが吹き飛ぶように開き中から飛び出してきたノスフェクトに足を掴まれた瞬間、バルトは咄嗟に大槌を地面に振り下ろして敢えて槌を地面に埋めるとそれをアンカー代わりにして引き摺り込まれるのを防いだ。その状態でクロスショットを抜き、自分を下水道に引き摺り込もうとしているノスフェクトの眉間を一撃で撃ち抜いた。

 

「ガッ!?」

 

 眉間を撃ち抜かれて力が抜け、1体だけで下水道に落ちていくノスフェクト。それを見送る事もせずバルトは地面に先端を埋めた大槌を引き抜いた。今の瞬間に別のノスフェクトが襲い掛かろうとしてきたからである。

 

「く、このっ!」

 

 咄嗟の事だったので強めに地面に叩き付けた結果、槌を引き抜くのに時間が掛かった。その間に彼女に襲い掛かろうとしていたノスフェクトは直ぐ近くまで迫っており、もう今からでは大槌での攻撃は間に合わないと彼女はクロスショットでの迎撃に切り替えようと銃口をそちらに向けた。

 

 が、彼女が引き金を引くよりも早くに銃声が響き、次の瞬間ノスフェクトの胸で火花が弾け飛び後ろに吹き飛ばした。

 

「ガァァッ!?」

「え?」

 

 まだ自分が引き金を引いていないのにノスフェクトが攻撃を喰らって吹き飛んだ。その事に彼女はカタリナが一足早くにノスフェクトを始末して援護に来てくれたのかと思った。が、銃声が聞こえてきた方を見るとそこに居たのは見慣れた白銀の仮面ライダーではなく、逞しい分厚い鎧に身を包んだ紅白の仮面ライダーであった。

 

「あれは……!」

 

 あの仮面ライダーは彼女も知っている。仮面ライダーデイナ・ミノタウロスライフだ。世界最初の仮面ライダーであり、嘗て傘木社の野望を打ち砕いた本物の英雄である。

 デイナはライフルモードのハイブリッドアームズをハルバードモードに変形させながらバルトの隣に立つ。見るとその傍にはユーリエの姿も見え、日中彼女が話していた待ち合わせしている人物は彼である事が分かった。

 

「その姿、ルクスさんの方だね?」

「ユーリエさん! それにこっちは、仮面ライダーデイナ?」

「そう言うそっちは仮面ライダーバルト、ルクス・ヴァレンタインだね。助太刀するよ」

 

 言いながらデイナはハルバードを振り回して新たに飛び掛かって来たノスフェクトを切り飛ばした。切ると言うよりは破壊する事に優れたハルバードによる一撃はノスフェクトの表皮も容易く粉砕し吹き飛ばすが、肝心の銀成分を含んでいない為致命的なダメージにはならず直ぐに傷は回復してしまった。

 

「門守博士、駄目だッ! 結論から言うと今の君の攻撃は銀成分を含んでいないからノスフェクト相手に怯ませる程度の威力しか出せないッ!」

「ん、みたいだね。そう言う訳だから、俺はサポートに回るよ。トドメは任せる」

「上等ッ!」

 

 デイナがノスフェクトに無視できないダメージを与え、動きを止めている間にバルトが確実なトドメを刺す。即席のコンビではあったが、1人で戦うのに比べれば余程戦いやすい状況にバルトは心に余裕を取り戻し、着実にノスフェクトの数を減らしていくのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方カタリナもまた、シルヴァに変身して出現した無数のノスフェクトを相手に奮闘していた。実力で言えばバルトと同等か上回るほどの彼女であったが、仮面の下の表情は険しい。それもその筈で、こちらはあちらと違って多数の民間人を守りながらの戦いとなっていたからだ。

 

「ハァァッ!」

「ギャァッ!?」

「シャァァッ!」

「ひぃぃっ!?」

「くっ!?」

 

 最初カタリナが向かった先にもノスフェクト以外に人は居なかった。だが戦いの最中、ノスフェクトは彼女を博物館から引き離す様に移動し始め、それを追っていくとまだ夜の街を楽しんでいる人々が多数いる場所へと出てしまったのである。こんな事態に見舞われると思っていなかった人々の中にはほろ酔いになっている者も居て、彼ら彼女らは突然出現した怪物を前にパニックを起こし蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑った。そんな混乱の中には当然転倒したり他人に踏まれたりして逃げ遅れる者も出ており、シルヴァはノスフェクトがそう言った人々を襲う事が無いようにと守る事を優先するあまり苦戦する場面が多々あったのだ。

 

「ガルルルルッ!」

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

「させませんっ!」

 

 今もまた、ノスフェクトの1体が目についた逃げ遅れた一般人に襲い掛かろうとするのを妨害する為無理な動きをしてノスフェクトと一般人の間に立ち塞がる。お陰で逃げ遅れた人は襲われずに済んだが、代わりにシルヴァが攻撃を防ぐ為に動きを止めざるを得なくなる。ノスフェクトはそのまま彼女を押し倒そうとし、彼女はそれに抗い押し返しながら逃げ遅れた人に早くこの場から逃げるよう告げた。

 

「は、早く……! 早く、逃げてくださいッ!」

「は、はいぃぃっ!?」

 

 酔っぱらっているのかそれとも単純に恐怖で足が竦んでいるからか、先程襲われそうになった男は満足に立ち上がる事もせず這うようにしながらその場を離れていく。その間にシルヴァは一瞬の隙を見て相手の力を受け流し、続く連撃で漸くノスフェクトの1体を仕留める事に成功した。

 

「はぁ、はぁ……くっ!」

 

 守りながらの戦いは、普通に戦うのに比べて何倍も負担が大きい。何しろ常に周囲に気を配りながら目の前の敵にも集中しなければならないからだ。そして守るべき者に何かあれば、そちらを何よりも優先して助けに向かわなければならない。

 

 そんな事情もあり、シルヴァは普段の戦いに比べて大きく体力を消耗していた。数は多いが、この程度であれば普段の彼女であれば苦も無く殲滅できたであろう筈なのにである。

 

 そして、疲労は動きと判断力を鈍らせる。彼女が別のノスフェクトに対峙し銀の細剣を振り下ろそうとしたその時、彼女の視界にまた逃げ遅れた人がノスフェクトに襲われそうになっている光景が目に入った。

 

「きゃぁぁっ!?」

「あっ!?」

 

 襲われそうになっている人の姿を見た瞬間、攻撃の動きが鈍った。その隙を見逃さず、ノスフェクトは鋭い爪で彼女の体を切り裂きダメージを与えた。

 

「ガァァッ!」

「しまっ、あぁぁぁっ!?」

 

 胸元から腹に至るまでを切り裂かれたシルヴァは堪らず地面に倒れ込む。が、ただでは倒れず片方の銀の細剣を投擲し人に襲い掛かろうとしていたノスフェクトを突き刺した。お陰でその人が襲われる事は防ぐ事が出来、その隙に襲われそうになっていた人は逃げる事が出来た。

 

「ギャァッ!?」

「えっ?」

「今です、逃げてッ!」

「はいっ! あ、ありがとうございますッ!」

 

 状況を理解した人は急ぎその場を離れ、その光景にシルヴァは束の間笑みを浮かべた。が、直ぐにその笑みは険しくなる。先程彼女を切り裂いたノスフェクトが、そのまま覆い被さり押さえつけようとしてきたからだ。

 

「グルルッ!」

「くっ、このっ!」

 

 何とかギリギリのところで銀の細剣を構え防御の体勢を取る事は出来た。だが結局は抑え付けられてしまい、しかも先程のダメージの影響か力が上手くはいらない。おまけにまだ残っているノスフェクトが動けない彼女に襲い掛かろうと群がってくる始末。絶体絶命の窮地に覚悟を決める時かと奥歯を食い縛った。

 

 その時、何発もの銃声が響き次の瞬間彼女を押さえ付けていたノスフェクトを始め、迫ってきていたノスフェクトが銃弾に撃ち抜かれひっくり返っていった。

 

「ギャッ!?」

「ギッ!?」

「グルァッ!?」

「え? な、何が……?」

 

 呆気にとられるシルヴァだったが、援軍が来てくれた事だけは理解できた。起き上がりながら銃声の聞こえてきた方を見ると、そこに居たのはネコ科の動物を思わせる鎧を身に纏った1人の戦士が銃口から硝煙を上げるライフルを構えているのが見えた。

 

「あれは……」

「大丈夫ですか?」

 

 突如現れ援護してくれた仮面ライダー……仮面ライダールーナ・ユナイトは、シルヴァに近付きながら近付こうとするノスフェクトに対し発砲を繰り返した。ルーナの攻撃も銀成分を含んでいる訳ではない為、ノスフェクト相手には致命傷とならない。だが的確に急所を狙った射撃は牽制には十分で、ノスフェクト達は2人に近付く事も出来ないでいた。

 

 ノスフェクト達が攻めあぐねている間にシルヴァに近付いたルーナは、倒れたシルヴァに手を貸し立ち上がるのを手伝った。

 

「ありがとうございます。えっと、あなたは?」

「仮面ライダールーナ、門守 亜矢です。……そして私は、門守 真矢よ!」

「は、え?」

 

 ルーナに変身している亜矢には、もう1人の人格として真矢が居る。その事を知らないシルヴァに突然2人分の挨拶をすれば、困惑するのは目に見えていた。真矢はそれを分かった上で、相手を揶揄うつもりで挨拶しそして困惑している姿を見て楽しんでいた。亜矢はそんな姉妹を窘める。

 

「真矢ッ! もう……すみません、あまり深く気にしないでください」

「は、はい……」

 

 何が何だか分からないと言った様子のシルヴァに、ルーナはどうしたものかと唸る。と、そこで射撃が止んでいる隙に接近を果たしたノスフェクトが2人に襲い掛かる。

 

「ガァァァッ!」

「! 亜矢ッ!」

 

 いち早くノスフェクトの攻撃に気付いた真矢は、体の主導権を握るとライフル形態のリプレッサーショットⅡを分離させて二丁拳銃にすると、接近してきたノスフェクトに鋭い回し蹴りを放ち飛び掛かってきた相手の勢いを逆に利用して蹴り飛ばしつつ、素早い銃撃で押し返した。

 

「ゴアァァァァァッ!?」

「ん~、私達の攻撃じゃこいつら相手に効果が薄いわね?」

「ノスフェクトは銀成分を含まない攻撃ではダメージが薄いんです。私であれば問題なくダメージを与えて倒せます」

「そう言う事でしたか。では、私が援護しますので、トドメはお願いできますか?」

「勿論です」

 

 1人でこの数を、逃げ遅れた人を守りながら戦うのは大変だった。だがここで頼もしい仲間が出来てくれた事は素直に嬉しい。シルヴァは銀の細剣を構えてノスフェクト達に攻撃を仕掛けようとして…………大切な事を忘れていた事に気付き、慌てて足を止めると振り返った。

 

「あっ! すみません、私とした事が……」

「ん?」

「私は、仮面ライダーシルヴァ……カタリナ・マーシーです。先程は助けて下さり、ありがとうございます」

 

 まだ自分の方から名乗っていなかった事を思い出したシルヴァは、自身の名を告げると満足して改めてノスフェクト達への攻撃に向かった。その律儀な姿に、ルーナは親近感を感じ仮面の下で小さく笑みを浮かべるとこちらもライフルモードにしたリプレッサーショットⅡを構えシルヴァに襲い掛かろうとするノスフェクトや、まだ逃げ遅れている人を狙おうとするノスフェクトに対し攻撃を仕掛けるのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 博物館の外でそれぞれ戦いが起こっている頃、館内でも激しい戦いが行われている最中であった。

 

「ハァァァァッ!」

「オォォォォッ!」

 

 羽織っていたコートを爪の付いた籠手に変えて斬りかかるヴァーニィに、ルビィも拳を握り締めて迎え撃つ。爪と拳がぶつかり合い、激しい火花を上げるが軍配が上がったのはルビィの方であった。僅かな拮抗の後、押し負けたヴァーニィは空中に投げ出されてしまう。

 

「くぅっ!?」

「シャッ!」

 

 翼を持たないヴァ―ニィにとって空中は身動きが取れない危険地帯。そこを追撃しようと血の槍を放つルビィであったが、槍が直撃する寸前にヴァーニィは体を無数の蝙蝠に変換させて回避するとそのまま移動し相手の背後に降り立つ。

 元の姿に戻った彼の手には大型武器であるグレイブレイカーが握られており、降り立つと同時にそれを横薙ぎに振り抜き切り払った。攻撃を放った直後のルビィはこの動きに対応が遅れ、ギリギリのところで防ぐのが精一杯であった。

 

「ゼヤァァッ!」

「ぐっ!?」

「タァァァァッ!」

 

 ヴァーニィの攻撃に今度はルビィの方が吹き飛ばされる。そこにアッシュの追撃も迫り、銀の槍がルビィの肉体を穿たんと風を切る音をさせながら突き進む。ルビィはそれを蹴りで弾きつつ、空中で体勢を整え着地すると今度は自分の番と言わんばかりに無数の血の矢を作り出しそれを2人に向けて放った。

 

「ハァァァッ!」

「くっ!」

「紅月君ッ!」

 

 迫る無数の血の矢を前に、ヴァーニィは咄嗟にグレイブレイカーを床に突き刺し盾にしようとした。だがその前に飛び込んだアッシュは、手にした槍を高速回転させ自分達に迫る血の矢を片っ端から弾いていった。元が血であると言うのに、放たれた矢はガキンガキンと重い音を立てて弾かれる。その度にアッシュの腕には鈍い振動が響き、仮面の下で揚羽は額に汗を浮かべる。

 

 だが彼女の献身の甲斐はあった。アッシュが盾となってくれた事でヴァーニィは行動に余裕を持つ事が出来、相手の攻撃が僅かに緩んだ瞬間を狙ってグレイブレイカーの砲撃で大きなダメージを与える事に成功した。

 

「そこだッ!」

「ガァァッ!?」

 

 砲弾は狙い違わずルビィの頭部付近に直撃し、火力と爆炎に怯み攻撃が止む。やっと血の矢の雨霰の圧力から解放されたアッシュは、溜まりに溜まった疲労を少しでも癒すべく両腕をだらりと下げて肩で大きく息をした。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「磯部さんしっかり! 大丈夫?」

「はぁ、ふぅ……うん、紅月君」

 

 ルビィが怯んでいる隙に、ヴァーニィは消耗した様子のアッシュを支える。彼にこうしてもらう日が来るとは思っていなかったアッシュは、初恋の相手である彼にこうして支えてもらう事に場違いな充足感を感じていた。出来る事ならばこのまま彼に甘えてしまいたくなるが、今はそんな事をしている場合ではないと己を律すると再び槍を構えた。彼女の視線の先では、ルビィが体勢を立て直しクラッシャーの部分が開いて牙の生えた口が露出し涎が床に垂れる。

 

「グルルルル……!」

 

 身構えるルビィに、ヴァーニィはグレイブレイカーを大剣モードで斬りかかる。重量を乗せた斬撃を相手は血を纏った腕で弾くが、流石にこれ程の物を弾くにはそれなりに力を込めなければならず行動後の硬直時間は長い。その隙に接近したアッシュが、標的の大きい相手の胸部を狙って刺突を放った。

 

「ヤァァァァッ!」

「!?」

 

 アッシュの接近と攻撃にギリギリのところで気付いたルビィは咄嗟に横に回避する事で串刺しは免れた。だがアッシュも回避される事は織り込み済みだった様で、回避されても怯む事無くその勢いを利用した薙ぎ払いにより殴り飛ばした。

 

「このぉっ!」

「ガッ!?」

 

 殴り飛ばされたルビィの向かう先には足に血を纏ったヴァーニィが待ち構えており、タイミングを合わせて飛んできたルビィを床に向けて蹴り落とした。ヴァーニィの蹴りと床に叩き付けられた衝撃で動きを止めたルビィを、彼は掴んで引っ張り上げクラッシャーを開き食らい付こうとした。

 

 だが彼の牙はルビィの鎧に防がれる。首回りも襟の高い鎧で覆われている為、これでは彼の牙が突き刺さらず血を吸って毒素を生成する事が出来ない。

 

「くっ!? 牙が届かない……!」

「紅月君、避けてッ!」

〈Two judge! Judgement sting!〉

「!」

 

 ヴァーニィが牙を突き立てる事が出来ず、ルビィ相手に有効な攻撃が出来ないのを見ると、アッシュは躊躇わずクロスショットのレバーを2回起こし槍にエネルギーを集束させ突撃する。彼女が何をするつもりなのかに気付いたヴァーニィは、警告に従い回避行動に出る序でにルビィを彼女に向けて蹴り飛ばした。

 

 向こうから近付いてきてくれた事にアッシュは確信を持ちながら必殺の刺突を相手の頭部に向けお見舞いする。

 

「デヤァァァァァッ!!」

 

 放たれたエネルギーを纏った刺突は、ルビィの兜を正確に捉える。だが頭を守る為の防具でもあるからか、兜はアッシュの一撃に耐えているではないか。まさか耐えられるとは思っていなかった為面食らうアッシュであったが、ここで退いては意味が無いと足腰に力を入れ更に穂先を相手の頭に押し込もうとした。その甲斐あって徐々に槍はルビィの兜に罅を入れていき、遂に兜を砕きその下の素顔を晒す事に成功した。

 

「行っけぇぇぇぇッ!!」

 

 そのままルビィの頭を突き刺そうとするが、ルビィはギリギリのところで回避し片頬を裂かれる程度に留まる。だが銀成分を含んだ槍による刺突はルビィの頬を確実に焼き、本来ノスフェクトが持つ回復力を向こうかしていた。

 倒すことは叶わなかったが、厄介な兜を粉砕する事が出来た。余波で首周りの襟も吹き飛ばし柔らかな首筋を露出させられたし、これならヴァーニィが食らい付き必殺技を発動させる事も出来る。そう思った。

 

 だが…………

 

「あ、ぐ…………ふ、ふふ……ふふふふふっ…………!」

「えっ?」

「笑って……?」

 

 突然ルビィの口から笑い声が漏れ出る。兜を破壊されたのに何が面白いのかとアッシュとヴァーニィが警戒していると、出し抜けに2人の視界からルビィの姿が消えた。

 

「えっ、消え――」

 

 ルビィの姿が見えなくなった事にアッシュが視線を彷徨わせていると、不意に彼女は腹部に強烈な圧力を感じた。何事かと視線を下に向けると、そこにあったのは何時の間にそこに居たのか自身の懐に潜り込み腹を殴りつけているルビィの姿があった。

 

「――――――えっ?」

 

 何が起こったのかを彼女の脳が理解するよりも前に、強烈な激痛と吐き気が襲ってきて彼女の思考をかき乱す。更に遅れてやって来たような衝撃が彼女を後ろに吹き飛ばし、壁に小さなクレーターを作った。そこで漸く頭と体が状況を理解し、それに相応しい反応を見せた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」

「磯部さんッ!?」

 

 壁に叩き付けられ悲鳴を上げるアッシュにヴァーニィが駆け寄ろうとする。だがその彼の前にもルビィが瞬間移動かと見紛う程の速度で接近し蹴り飛ばした。こちらはギリギリ防御に成功するも、明らかに先程より攻撃の威力が上がっており防いだ骨は軋みを上げ踏ん張りは利かず彼も吹き飛ばされ壁に叩き付けられてしまった。

 

「ぐはっ!? う、ぐぅぅ……」

《京也ッ!?》

 

 ヴァーニィの窮地にアルフが彼の影から飛び出し、ルビィの動きを警戒しながら倒れそうになる彼を支える。2人が見ている前で、兜を失ったルビィは肩の筋肉を解す様に首や肩を回し、背筋を伸ばすと満足そうに息を吐いた。

 

「く、はぁぁ~~~~ッ! あ~、スッキリ。やっと自由になれたわ。あのクソ野郎共、私を縛り付けようだなんて舐めた真似してくれて……」

 

 晴れやかな表情で笑っていたかと思えば、次の瞬間には苛立ちに不機嫌な顔になる感情の安定しないルビィ。その姿にアルフは、彼女の存在を思い出しハッと息を飲む。

 

《ま、まさか……ルビィ?》

「アルフ、知ってるの?」

「そうよ~? 久し振りね、アルファ姉さん。しばらく見ない間に随分と面白い事になっちゃって」

 

 嘗てペスター博士により生み出された最初のノスフェクトであるアルフ、そしてその後に生み出されたヴラド。ヴラドはアルフの事も知っており、彼女の事を最期の瞬間姉と呼んでいた。ならば、そのヴラドと同時期に生み出されたルビィもアルフの事を知っているのはある意味で道理であった。

 

《……私の後に作られたノスフェクト。ヴラドと一緒に作られたんだけど……凶暴過ぎて手に負えなくて、博士も彼女の事は封印してた》

 

 まるでヴラドの穏やかさと対になる様な凶暴性。その凶暴さと制御の難しさが、傘木社でのノスフェクト不採用の原因となったのである。

 

《気を付けて。ルビィの力は、ヴラドと同等。優しさが無い分、もしかするとヴラドよりも強いかも》

「そう言う事だったら……!」

 

 相手がヴラドと同等の力を持つのであれば、自分もそれに並べば問題ない。ヴァーニィは傍らに佇むアルフの腰を抱き寄せ、彼女の首筋に牙を突き立て血を啜りロードブラッドになろうとした。あの形態であればヴラドと同等の力を持つ。ルビィが強かろうと、対抗する事は容易だ。

 

 だがヴァーニィがアルフの血を啜ろうとすると、ルビィはニヤリと笑い視線をまだ体勢を崩したままのアッシュへと向けそちらへと向かっていった。先に動けずにいる彼女を仕留めるつもりなのだ。彼女の狙いに気付いたヴァーニィとアルフがロードブラッドへのフォームチェンジを中断しアッシュの援護に向かおうとする。だが、今2人が居る場所からはどう考えても間に合わない。

 

「磯部さんッ!?」

《ダメェェェッ!?》

「う、ぐ…………あっ!?」

 

 漸く落ち着きを取り戻したアッシュだったが、その時には既に眼前にまでルビィが迫ってきていた。ここからではクロスショットを抜くのも間に合わない。思わず目を瞑り来たる痛みに備えようとした。

 

 が、しかし…………

 

「………………あれ?」

 

 何時まで待っても痛みが来ない事に、不思議に思いアッシュが目を開け顔を上げた。するとそこには、ルビィの攻撃を短剣で防いでいるマントを羽織った人物の姿があった。

 

「な……お前はッ!」

 

 突如現れたその人物。アッシュからは背中のマントしか見えないが、ヴァーニィ達からはその人物の姿が良く見えた。白いレオタードの様なボディースーツに黒い軽鎧を纏い、シルクハットを被ったピンク色の蝶を模した複眼の仮面。遠目からでも起伏に富んだ肢体が分かる様子から、それが女性である事は間違い様がない。

 それは嘗て、季桔市を離れた後に偶然出会ったあの仮面ライダーに相違ない。こんな所で再会した事に、2人は固唾を飲んでその仮面ライダーの姿を見つめていた。

 

 2人が見ている先で、蝶の仮面を被った仮面ライダーは手にした短剣を振るいルビィを押し返すと反対の手に持っていた大型の拳銃を近距離から連射して更に距離を離した。

 

「ハッ!」

「ぐっ!? くぅぅぅぅぅ……!」

 

 生憎と銃弾は銀成分を含んでいなかったのでルビィ相手には有効打となり得ない。だが銃撃の圧力は防ぎようがなく、しかも短剣で体勢を崩された状態からの銃撃には堪らずルビィも後ろに下がらざるを得なくなる。

 十分に距離が離れると、その仮面ライダーは両手にそれぞれ持った短剣と拳銃をクルクルと回転させ左右の腰のホルスターに収納し仮面と一体化しているシルクハットを押さえる様なポージングをした。まるでパフォーマーの様な佇まいに、挑発を感じたルビィは苛立ちを滲ませながら問い掛けた。

 

「何者だッ!」

「ん? 私? フフフッ……」

 

 名を問われ、その仮面ライダーは妖しい笑みを浮かべるとマントを靡かせながら名乗りを上げた。

 

「私は怪盗……怪盗、仮面ライダージェムよ」

 

「え、ジェムッ!?」

 

 仮面ライダージェムが名乗りを上げると、その後ろに居るアッシュは彼女がジェムである事に驚愕の声を上げた。てっきりルビィこそがジェムであり、怪盗を名乗りながら宝石を盗んでいるのではないかと思ったからである。

 何よりジェムは本来自分が相手をするべき相手。その相手に守られる事になった事に、彼女も色々な意味で驚きを禁じ得なかった。

 

 背後から感じる驚愕に、ジェムは小さく微笑むと左手でシルクハット部分を抑え左足を軽く上げ片足立ちのポージングをしながら右手を拳銃の形にして指先をルビィに向けた。

 

「あなたの輝きも私の物。私の輝きで包んであげるッ!」




と言う訳で特別編第4話でした。

今回遂に次回作の仮面ライダーである仮面ライダージェムの登場です。次回は早速その活躍をお見せ出来ますよ。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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