仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

絶賛夏休み中と言う事で普段より圧倒的に早い時間に更新です!

本文前のお知らせ。

登場人物紹介にカタリナの項目を追加しました。揚羽に実里、ユーリエに関しても少し前に追加しているので気になる方は御覧ください。


第7夜:教会の刺客

 唐突に姿を現したカタリナの変身する仮面ライダーシルヴァ。ウルフノスフェクトと対峙する彼女は、鎧越しにも分かる豊かな胸の前で組んでいた手を下ろしベルトのバックル部分に装着されたレバーアクション銃『クロスショット』を抜いた。

 その瞬間ウルフノスフェクトは風のような速さで駆け、無事な方の腕でシルヴァに斬りかかった。

 

「ギシャァァァァァァッ!」

 

 常人であれば動いたことにさえ気付かない程の速度。だがシルヴァはその一撃を軽く身を捩らせる事で紙一重で回避。至近距離から銃口を向け引き金を引いた。

 

「ッ!」

 

 空を切るだけに留まったウルフノスフェクトだったが、自身の攻撃が回避されたと分かったその瞬間には身を翻し至近距離から放たれた銃撃を避けた。それだけでなく回避と並行して攻撃すべく足を振り上げ回し蹴りを放った。高速回転で放たれた蹴りを、しかしシルヴァはまたしても無駄のない動きで回避しスカートを翻しながらの蹴りで逆に蹴り飛ばした。

 

「ぐぉっ!?」

 

 引き千切られかけた腕を揺らしながら蹴り飛ばされるウルフノスフェクト。シルヴァはその前に着地し、倒れたウルフノスフェクトにトドメを刺そうと銃口を向ける。

 

 だがウルフノスフェクトは銃口を向けられた瞬間、引き千切れかけて血を垂れ流す片腕の傷に指を突っ込むとその手を振るい血を一掬い分飛ばした。散らばることなく飛んでいった血は、狙い違わずシルヴァの顔に掛かり白い鎧を赤く汚し視界を遮った。

 

 突然視界を塞がれれば普通は動揺し動きが止まるもの。だがシルヴァは違った。視界を血で覆われているにも拘らず、動揺を見せる事無く冷静に引き金を引いた。

 

「チッ!」

 

 まさか視界を塞がれても動揺しないどころかそのまま銃撃してくると言うのはウルフノスフェクトとしても予想外だったらしい。だが目的は果たせた。彼の目的は彼女の視界を一時的にでも塞ぎ、次の自分の動きを悟らせない事にあった。

 

 案の定視界が塞がれた状態ではウルフノスフェクトの動き自体は見えないらしく、横に跳んだウルフノスフェクトを銃口が追う事はない。彼女も視界を塞がれたままでは戦えないのか一発撃ったら視界を確保しようと仮面の血を手で拭った。

 その間にウルフノスフェクトは先程吸血して殺した女性の死体に近付き、食らい付いてまだ残っている血を吸い尽す。完全にミイラのようになるまで女性の死体から血を吸うと、先程カタリナに撃たれて千切れかけた腕が元通りに戻った。

 

「クハハ……!」

 

 腕が元通りになればもう恐れる事はないと言わんばかりに笑みを浮かべるウルフノスフェクトの前で、視界を覆う血を拭い去ったシルヴァはミイラとなった女性の死体を一瞥し喉の奥から僅かに呻き声の様なものを上げた。

 彼女の視線が女性の死体に向いたのを察したウルフノスフェクトは、口元にニヤリと笑みを浮かべると彼女の方へ向けて取り出した何かを飛ばした。

 

「フッ!」

「ぁ……!」

 

 出し抜けに投擲された何かをシルヴァは咄嗟に回避した。だが回避の瞬間、彼女の動体視力はウルフノスフェクトが放った物が何なのかを見てしまう。

 

 それはクロスブラッド。何処かでウルフノスフェクトが生成していた茶色いクロスブラッドだ。それはシルヴァのすぐ横を飛んでいき、真っ直ぐ向かった先にある別の女性の死体に刺さった。女性の死体に刺さったクロスブラッドはそこから全身に血管の様なものを伸ばし、女性の体を赤黒い血で覆い隠すとその姿を犬の様な姿のノスフェクト、ドッグノスフェクトに変異させた。

 

「ガルル……」

「――!」

 

 ウルフノスフェクトとドッグノスフェクトに挟まれたシルヴァは両者に交互に銃口を向ける。

 だがシルヴァの銃口がドッグノスフェクトの方に向いた瞬間、ウルフノスフェクトは明後日の方へ向けて飛んでその場を離れてしまった。明らかに逃げる動きを見せるウルフノスフェクトに、シルヴァは一瞬そちらに視線を向けてしまう。

 

「ガァァァッ!」

「くっ!」

 

 シルヴァが逃げるウルフノスフェクトの方を見た瞬間、ドッグノスフェクトが彼女に襲い掛かる。大きく口を開けて牙を突き立てようとしてくるのを、顎を蹴り上げて防ぐシルヴァ。

 

 彼女とドッグノスフェクトが戦い始めたのを背後に感じながら、ウルフノスフェクトはあっという間に姿を消してしまった。

 

「チィ、覚えとけよあの女! 完全に回復したらその時はズタズタにしてメチャメチャに犯しながら血を吸ってやる……!」

 

 ウルフノスフェクトの恨み言など聞こえる訳もなく、シルヴァは新たに現れたドッグノスフェクトとの戦いを続けていた。

 

 ドッグノスフェクトの能力は端的に言えばウルフノスフェクトの劣化版と言った感じだった。ウルフノスフェクト同様手足の爪が主な武器の様だが、速度に関しては明らかにウルフノスフェクトを下回っている。

 

 余裕で対応できるドッグノスフェクトの攻撃を、シルヴァは受け流し逆に投げ飛ばす。そして倒れたドッグノスフェクトに向けて銃口を向け引き金を3回引いた。放たれる3発の銀の銃弾。それはノスフェクトにとって大きな毒となり、銃弾はドッグノスフェクトの体を穿ち回復能力を封じていた。

 

「ギャァァァァァァッ!?」

 

 体を自身にとって猛毒となる銃弾で溶かされ破壊される激痛にドッグノスフェクトが悲鳴を上げて崩れ落ちる。シルヴァはドッグノスフェクトが倒れたのを見ると、手に持ったクロスショットを一回転させた。レバーアクションライフル特有のリロード、スピンコックと同じやつだ。

 小気味いい音とリズムでクロスショットが一回転すると、銃から音声が鳴り響く。

 

〈One judge! Shooting cross!〉

 

 スピンコックが行われると、銃口に白い光が集まっていく。シルヴァは光る銃口を真っ直ぐドッグノスフェクトに向け、狙いを定めると引き金を引いた。放たれた光る銃弾は狙い違わずドッグノスフェクトの眉間を撃ち抜き、悲しく哀れで罪深い命を一発で刈り取った。

 

「ガ……ガガ、ガ……!?」

 

 眉間を撃ち抜かれたドッグノスフェクトは、数秒程立ち尽くして痙攣した後仰向けに倒れた後爆散した。シルヴァは燃え上がる炎をジッと見つめ、それが収まると後には女性の死体と砕けたクロスブラッドだけが残される。

 

「……ふぅ」

 

 周囲を見渡し、伏兵などが居ない事を確認したシルヴァは鎧越しにも分かる豊かな胸をホッと撫で下ろす。そして仮面越しに女性2人の死体に悲しげな眼を向けると、その場で膝をつき両手を組んで静かに祈りを捧げた。

 

「主よ……どうかこの方達に、せめてもの慈悲と安らぎをお与えください。どうか、安らかに……」

 

 たっぷり数秒ほど祈りを捧げたシルヴァは、跪いた時と同様静かに立ち上がると一瞬でその場から姿を消した。

 

 直後現場にS.B.C.T.δチームが到着する。1人逃げ延びた女性が呼んだのだ。だが駆け付けたδチームが見つけたのは既に死んだ女性2人の死体と砕けたクロスブラッドのみで、立ち去ったシルヴァと逃げたウルフノスフェクトは勿論、()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ぅ……ん……?」

 

 ウルフノスフェクトとの戦いに敗れて吸血衝動と戦っていた京也は、気付けば自宅の自室のベッドの中で寝かされていた。心地良い温かさの中で微睡から目覚め、目を開けた彼は状況が理解できていないのか暫し視線だけを動かして働かない頭で状況を整理しようとした。

 

(ここ、は……僕は…………ッ!?)

 

 暫く茫洋としながら自室の天井を見ていた京也だったが、次第に頭が覚醒してくると意識を失う直前の事を思い出した。

 

 アルフが気付いたウルフノスフェクトの気配……初めてヴァーニィに変身した時以来の再戦……敗北と襲ってきた吸血衝動との戦い。

 

 記憶の糸を手繰り寄せていく内に、京也は朧気ながら自分が倒れた女性の死体から血を吸おうとしたのをアルフが必死に止めてくれた事まで思い出した。そこから先は何が起きたのかの記憶が曖昧で上手く思い出せない。

 

「アルフ……!」

 

 兎に角京也は今、無性にアルフと触れ合いたかった。彼女の顔が見たい、彼女と触れ合い温もりを感じたい、彼女の匂いに包まれたい、彼女の…………

 

 

 

 

 血が吸いたい。

 

 

 

 

「ッ!?!?」

 

 気付けばベッドから出て部屋から出ようとしていた京也は、寸前で弾かれるように扉から離れた。たった今自分が考えた事に恐怖し、全身からドッと冷や汗が流れ出て瞬く間に全身が汗で濡れていく。

 

 自分は今何を考えた? 血を吸いたい? おかしい、既に変身は解けている筈なのに……

 

 思わず京也は自分で自分の手を見た。変身している時は黒いボディースーツに包まれた両手は、傷一つない青年の手に戻っている。血色も健康的で実にありふれた手をしていた。何も心配する事など無いその手を、しかし京也は必死になって自分の体で拭った。手も汗でびしょ濡れになっているのは勿論だが、何よりも一瞬自分の手が血で濡れた黒い手袋に覆われた手に見えてしまったのである。

 

 そんな事はないと否定する様に自分の体で自分の手を拭う。その時、ノックも無しに扉が開かれた。まさか目覚めたアルフが自分に会いに来たのかと、期待半分恐怖半分で半端に引き攣った顔を京也が扉の方へと向ける。

 

「京也く~ん、起きた~?」

 

 幸か不幸か、部屋に入って来たのはジェーンであった。予想と違った事に京也は安堵と落胆が綯い交ぜになった感情を抱き何とも言えない溜め息を吐く。先程まではアルフに対しての吸血衝動を一瞬とは言え考えていたと言うのに、彼女に対してはそんな気が起きない。だが京也はその事を不思議には思わず、ただ心を落ち着けようと大きな息を吐くだけであった。

 

「はふぅ……」

「ん~? どうしたの~? 何だか疲れてるみたいだけど~?」

 

 京也の様子に小首を傾げながら近付いたジェーンは、彼の肩を掴んで優しくベッドの上に腰を下ろさせた。そして体のあちこちを触って触診し、特に異常が無さそうだと見ると納得する様に頷いた。

 

「ん~、もう大丈夫そうね~。良かったわ~」

「ありがとうございます。……あの、僕あの後どうなったんですか?」

 

 状況的に考えて、あそこから自力で逃げ帰れたとは思えない。朦朧とした意識の中で誰かが来てくれたような気もするが、生憎とはっきりとは覚えていなかった。あの時はアルフも意識を失っていた筈なので、当然だが彼女が助けてくれたわけでもない。

 考えられるのはやはり今目の前に居るジェーンが助け出してくれたと言うものだが…………

 

「あの後はね~、仮面ライダーが出てきてウルフノスフェクトと戦ってくれたの~」

「仮面ライダー? S.B.C.T.ですか?」

「ん~ん~、今までに見てきた仮面ライダーじゃないわね~」

 

 ジェーンの答えに京也は若干肩を落とした。S.B.C.T.は勿論、以前ふとした事から遭遇した仮面ライダーコガラシが来てくれたのかとちょっぴり期待もしていた。

 とは言え、では自分とアルフの窮地を救ってくれた仮面ライダーとは誰だろうか?

 

「あの、それじゃあ僕とアルフを助けてくれた仮面ライダーって?」

 

 京也がそう訊ねると、ジェーンは遠くを見つめて何かを考える様に間を置いた。そんなに答え辛い事なのだろうかと固唾を飲んで待っていると、ジェーンはゆっくりと口を開いた。

 

「あれは~、恐らくバチカンからの刺客でしょうね~」

「バチカンからの、刺客……?」

「ん~、来ちゃった以上そろそろ話した方がいいわね~。ノスフェクトって元々は欧州で作られた存在なんだけど~、あっちじゃあ吸血鬼として普通に問題視されてたのよ~」

 

 欧州、と言うかキリスト教圏には元々エクソシストなどの所謂オカルトな怪異と戦う存在が居た。それらは少なくとも傘木社が台頭する前までは、嘘か誠か幽霊や悪魔に憑りつかれた人々に対処していた。それが傘木社製の生物兵器と言う明確な悪が現れた事で正式な組織化された。端的に言えば欧州版のS.B.C.T.の様な組織が結成されたのである。

 

「でも、欧州にもS.B.C.T.は居るんじゃ……」

「そこまで詳しい事情は私にも分からないわ~。ただ一つ言える事は~、彼らはノスフェクト関連を絶対許さないって事~。この意味、分かる~?」

 

 敢えて惚けた様子のジェーンの問い掛け。ふざけている様にも見えるが、その内容は深刻だった。

 

 欧州バチカンから来た組織はノスフェクトを明確な敵として狙っている。そして京也が変身するヴァーニィは、クロスブラッドの力で人間を疑似的なノスフェクトとして対抗する仮面ライダーだ。

 これらから導き出される答えは、たった一つ。

 

「僕も……狙われるって事ですか?」

「まだあっちはヴァーニィが血を吸うって事を知らないだろうけれどね~。でも見られちゃったら~、同じ敵認定喰らっちゃうでしょうね~」

 

 やはりそうなるか。京也はがっくりと肩を落とす。まぁそれも仕方がないか、現状大多数のノスフェクトは人間社会にとって明確な敵であり、ノスフェクトの力を駆使して戦うヴァーニィとアルフの方が異常なのだ。何も事情を知らない者からすればどちらも同じ敵に見えても仕方がない。

 

「……話し合い、とかは……?」

「どうかしらね~。仮面ライダー本人は分からないけれど~、少なくともバチカンは頭固いから~」

 

 宗教的な物が絡んでいると人間と言うものは途端に過激になれる。嘗て中世ヨーロッパで行われた魔女狩りもそうだった。真偽は別として、”こう”と決められたら誰にも止められない。

 

 唯一の救いはS.B.C.T.は変わらず協力できそうだと言う事か。彼らは中立的と言うか、明確に敵対しない者に対しては温厚に接してくれそうな雰囲気がある。アルフの安全確保の為にも、ここは彼らと何らかの形で接触しておくべきだろうか。

 

 アルフの為に……アルフの…………

 

「ね~ぇ、京也く~ん?」

「は、はい?」

「聞かないの~?」

「何を?」

「アルフちゃんのこ~と」

 

 ジェーンの口からアルフの名前が出た瞬間、京也は一瞬息を飲んだ。まだ先程一瞬とは言え考えてしまったアルフへの吸血衝動を恐れていたのだ。今一度胸に手を当ててアルフの事を考えてみるが、先程の様な渇きはもう感じない。その事に安心しつつ、それでも拭えない不安に京也は思わずジェーンに問い掛けた。

 

「あの、ジェーンさん……」

「ん~?」

「僕、ヴァーニィに変身し続けて大丈夫なんですよね?」

「どういう意味~?」

「さっき……目が覚めた時、アルフの事を考えたら無性に彼女の血を吸いたくなったんです。僕、人間の筈なのに…………これって、僕が段々とノスフェクトになってきてるって事じゃ……」

 

 自分で言ってて自分が恐ろしくなってきたのか、京也の体が震え始めた。ジェーンはそんな彼の姿を真剣に見つめ、引き寄せるとその豊かな胸に彼の顔を埋める様に抱きしめた。

 

「わぷっ!」

「大丈夫よ~。心配する事は何もないから~。それはちょ~っと、変身してた時の感覚が残ってただけよ~。倒れる前に~、京也君凄く喉乾いてたでしょ~?」

「そ、そうですけど……」

「今も~、アルフちゃんの血が欲しい~?」

「いえ、今は……」

 

 今は何ともない。ただアルフの事が愛しくて、彼女の温もりを感じたいと言うだけだ。何時もと何も変わらない。その事に内心で安堵していると、ジェーンは京也の背中を優しくポンポンと叩き体を離した。

 

「それなら大丈夫よ~。さ、アルフちゃんの部屋に行ってあげて~。あの子ず~っと京也君の事待ってるから~」

「は、はい……!」

 

 元気を取り戻した京也は、一秒でも早くアルフに会いたくてベッドから降りると部屋を出てアルフの元へと向かっていった。それを見送ったジェーンは、京也の前で浮かべていた笑みを引っ込めるとベッドサイドに置かれているヴァンドライバーを手に取った。手の中のヴァンドライバーを見つめるジェーンの表情は、彼女と言う人間を知る者であれば驚くほど眉間に皺を寄せている。

 

「これで……いいのよね……」

 

 小さく呟かれたその言葉は京也の部屋の天井に溶けて消えた。ふと耳を澄ますと、部屋の外から京也が喘ぐ声が聞こえる。どうやらあちらは変身に関係なくアルフが京也の血を吸っているらしい。

 その事にジェーンは苦笑すると、ヴァンドライバーを元あった場所に戻しベッドから立ち上がり部屋を出ていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仮面ライダーシルヴァの乱入により負傷させられた挙句まんまとヴァーニィ達を逃がしてしまったウルフノスフェクトは、その屈辱と鬱憤を晴らす為街で人を襲っていた。

 

「あ、が……い……ぎっ! ひ、ぃぃ……!」

 

 OLと思しきスーツ姿の女性が、ウルフノスフェクトに血を吸われている。首筋に牙を突き立てられ血を啜られていると言うのに、その顔は上気しており恍惚とした表情をしていた。まるで男との情事に耽っているかのような様子だ。

 それでも血を吸われている事実は変わりなく、次第に女性の体は潤いとハリを無くしていき血の気を失い徐々に萎れていく。そして元の女性の姿から見る影もない程萎びて死んだ女性の死体を、ウルフノスフェクトはゴミを捨てる様に放り捨てた。

 

「ふぅ……これだけ食えば……」

 

 口元の血を拭いながら、思い浮かべるのは仮面ライダーシルヴァに変身したカタリナの事だ。あの時はヴァーニィにトドメを刺すのを邪魔された事等があってただただ怒りと憎しみしかなかったが、今思うとかなり彼好みの美女であった。あの時は勢いで犯しながら血を吸い殺すと叫んだが、本格的に狙うのもアリかもしれないと思うようになる。

 

 あの澄ました顔が苦痛と屈辱、そして快楽に染まりながら泣き叫ぶ姿を想像するとそれだけで気分が昂った。

 

 干からびた女性の死体の傍で下卑た笑みを浮かべるウルフノスフェクトは、姿を人間のヴォーダンとしてのそれに戻す。そしてその場を離れようとした時、彼の前にカミラが姿を現した。

 

「傷は癒えたかしら?」

「あ? お前、何でここに?」

 

 ヴォーダンが怪訝な顔をしていると、カミラは物陰になって見えなかった所で掴んでいたモノを引っ張り出す。それは血を吸われて恍惚な顔をしながら動けずにいる1人の男性だった。まだ生きてはいるようでビクビクと痙攣しているが、意識は朦朧としているのか逃げ出そうとする様子が無い。

 それを見て彼は合点が入ったと笑みを浮かべた。

 

「ははぁ、お前もお食事か?」

「私もまだ完全じゃないからね。それより、見てたわよ」

 

 どうやらカミラもヴォーダン……ウルフノスフェクトとシルヴァの戦いを見ていたらしい。助けに入らず遠目に観察されていた事に気付いたヴォーダンは、露骨に顔を顰めて舌打ちをした。

 

「チッ、見てたんなら手ぇ貸せよ」

「あなたなら何とかすると思ったのよ。にしても、とうとうここまで追いかけてきたのね」

「あぁ、教会の連中だ。バチカンめ、随分と俺達が気に入らないらしいな」

「そりゃそうでしょ。私達は人間を餌にする化け物だもの」

 

 カミラの言葉にヴォーダンも違いないと笑う。彼らとバチカンに拠点を置く教会の勢力とは欧州でも敵対してきた。いい加減鬱陶しくなってきたし、何より彼らの創造主である博士を隠す為にもこうして日本へと逃れてきた。

 

 全てはヴラドを完全に目覚めさせる為。今のヴラドはまだ中途半端に目覚めているに過ぎない。本格的に目覚めれば、それこそ教会の連中は勿論S.B.C.T.も、そしてヴァーニィも敵ではない。

 

「その為には、もっと力を付けねえとな」

「こんな風にね」

 

 徐にカミラが胸の谷間からクロスブラッドを取り出し、それを手元の動かない男性に突き刺した。すると男性が苦しみながら姿を変化させ、カミラが手を離すとそこには黒い羽毛と翼を持つ鴉の特性を持つクロウノスフェクトが居た。一見するとただのノスフェクトに見えるそれを、しかしヴォーダンは今までのそれとは違うと即座に見抜いた。

 

「こいつ、()()()()()?」

「えぇ。最近また少し力が付いてね。数はそれだけで力になるわ」

 

 カミラはクロウノスフェクトの胸元を軽く小突いた。それを合図にクロウノスフェクトは翼を広げて飛び立ち、夕焼け空へと消えていった。あっという間に小さくなっていくクロウノスフェクトの姿を見送ると、直後ヴォーダンの口から黒いクロスブラッドが飛び出した。

 

「ぐぽっ! ん……ふぅ」

 

 しっかりとした形のあるクロスブラッドに、ヴォーダンは口角を上げカミラも妖艶な笑みを浮かべる。

 

「……ヴラド様が完全に覚醒すれば、この世界を私達の天下にする事も不可能ではない」

「その為にはもっともっと食わねえとな」

「それと、あの小娘もね……」

 

 カミラの脳裏に浮かぶのは、黒髪に赤い瞳の少女の姿。京也の、ヴァーニィの背に隠れたアルフの姿を想像し、カミラは一瞬顔を歪めるも直ぐに何時もの冷たい表情を取り戻すとその場を後にした。ヴォーダンもそれに続き、その場には血を吸い尽されて干からびた女性の死体だけが残されたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 女性の通報を受けて出動したδチームは、2人の女性の死体だけを回収して帰還した。死体は即座に科学調査班へと送られ調べられ、結果2人共ノスフェクトの吸血により命を落としたとユーリエにより結論付けられた。

 

 出動後の休息をサロンで取っていたレックスは、その結果を思い返し苦い顔をしていた。いや、これだけではない。つい先日も工事中のビル内で作業員が何人も犠牲になったと言う事件も起きている。相も変わらず被害が広がり続ける現状に、レックスは自らの無力さを感じずにはいられなかった。

 

「……クソ」

 

 ボトルの中のドリンクを一気に呷り、冷えた液体が食道を通り腹へと落ちていく感触に溜め息と同時に悪態をつく。その彼にアルバートが声を掛けた。

 

「ご機嫌斜めだなレックス? どうした? 折角出動したのに一発も撃てなかった事が不満なのか?」

「お前と一緒にするな。ってか、お前は何とも思わないのかよ?」

「何が?」

「今の状況だよ。俺らが来たってのに、被害は殆ど減らない。悔しいとは思わないのか?」

 

 言っててあれだが、思っていないだろうなとレックスは内心で溜め息を吐く。戦闘狂とまでは言わないが、アルバートの目的は己の力を振るう事だ。彼がS.B.C.T.に入隊したのも力試しが主な目的だったと聞く。そんな彼であれば、一般人に被害があろうが特に気にするような繊細さは持ち合わせていないだろう事は容易に想像できる。

 野暮な事を聞いたとレックスはそっぽを向くが、予想に反してアルバートから返ってきたのは意外な言葉であった。

 

「そりゃまぁ、俺だって悔しいよ」

「えっ?」

 

 まさか彼の口から人々の事を思う言葉が出てくるとは思っていなかったので、レックスも思わず面食らう。その顔を見たアルバートは、してやったりな顔になった。それを見た瞬間レックスは悟った。自分は担がれたのだと。

 

「あぁ悔しいよ。折角出向いたってのに、もう全部終わった後だったんだからな」

「……あぁあぁ、そうだろうよ。お前はそう言う奴だよ」

 

 ちょっと見直した自分が馬鹿だったと溜め息を吐く。そんな彼の肩をアルバートが乱暴に叩いた。

 その直後、サロンにユーリエが姿を現した。あまりこの場で姿を見ない彼女の姿に隊員の多くが興味を持つ中、レックスは彼女が元傘木社の研究員と言う事もあって1人怪訝な顔を向ける。

 

「やぁδチームの諸君、休憩中にすまないね」

「ベルフェル主任、どうしてここに?」

「いやなにね、ちょっと君らに知らせておいた方がいいかと思う情報を持ってきたのさ。まぁまずはこれを見てくれ」

 

 相変わらず何処か眠そうな目をした彼女は、数枚の写真をサロンのテーブルの上に置いた。それは先の出動で発見したノスフェクトの被害者の片方の写真だった。血を吸い尽されて干からびた女性の死体などあまり見たい物ではないが、幸か不幸かこの場に居るものの中で凄惨な死体を見た事がない者は居なかった。ファッジなどの被害者の中には体をバラバラに引き裂かれた者も居る。そう言うのに比べたら、血を吸い尽されたとはいえ原型を留めているのはまだ綺麗な方の死体であった。

 

「この女性がどうかしたのですか?」

 

 眼鏡の位置を直しながら隆が訊ねると、ユーリエは写真に写る女性の一点を指差した。それは眉間……彼らは知らない事だが、そこはこの女性がドッグノスフェクトに変異していた時に仮面ライダーシルヴァにより撃ち抜かれた場所であった。

 

「この女性なのだが、いろいろと奇妙な事が分かってね。どうやらこの女性がノスフェクトに変異していたらしいのだが、どうも死因はこの銃創らしい」

「ノスフェクトが銃弾で? でもこの間のノスフェクトは確か……」

 

 テックは以前のバットノスフェクトとの戦闘での事を思い出した。あの時バットノスフェクトは無数の銃撃に晒されたにも拘らず、傷を回復させながら襲い掛かって来た。ユーリエの話ではこの怪物にも銃弾が有効な様に聞こえるが、それだと先日の戦いと矛盾する。

 それでも想像を働かせるとすれば、ノスフェクトには明確にダメージとなる部分とそうでない部分に分かれると言う事になる。具体的には頭部以外への攻撃が無駄になると言う感じだ。

 

 隊員達が互いに話し合って議論しているのを見たユーリエは、咳払いを一つすると話を続けた。

 

「諸君の疑問も尤もだ。ノスフェクトに通常の銃弾では効果が薄い。無論全く無意味と言う訳ではなく、例えば全身をバラバラに引き千切る様な高威力の攻撃であれば通常攻撃でもノスフェクトは殺せる」

「おぉっ! って事はやっぱりチェーンガンが必要って事だなッ!」

 

 高威力の攻撃であればノスフェクトも倒せると聞き、トリガーハッピーの一也が歓喜の声を上げる。確かにチェーンガンであればノスフェクトだろうとズタズタに引き裂き確実に倒し切る事が出来るだろう。

 

 だがユーリエが話したいことは別にあった。

 

「それも悪くないが、それ以上に気になる事がある。この女性の死体からは銀の成分が検出された」

「銀?」

「それって、別にこの人がシルバーアクセを身に着けてたとか、そんな意味じゃないよね?」

 

 ロイが違うと分かっていても確認の為そう言葉を紡ぐが、勿論アクセサリーの銀の事ではない。この死体の体の中から、溶け込んだように銀の成分が検出されたと言う事だ。

 

「勿論違う。文字通りこの女性の死体の中から、成分として銀が検出された」

「それは、つまり……どういう事だ?」

 

 訳が分からないと首を傾げるアルバートにレックス達他の隊員も顔を見合わせる。ユーリエはそれに対して写真を1枚持ち上げながら答えた。

 

「結論から言おう。ノスフェクトには幾つか明確な弱点がある。一つは頭部への攻撃。脳を破壊されれば少なくとも通常のノスフェクトであれば確実に倒せる」

「他の弱点は?」

「銀だ」

 

 血を他の生物から吸い取り、そのエネルギーで驚異的な戦闘力と回復力を発揮できるノスフェクトだが、反面銀に対しては滅法弱かった。アレルギーにも近い反応で銀に対してノスフェクトの体は強い拒絶反応を見せるのだ。その威力は銀の成分を塗布した刃物で突き刺せばその部分が焼け爛れる程である。

 

「今技研に依頼して、銀を主成分とした新型の銃弾の開発を依頼している。もう間もなくノスフェクトに対して有効な銃弾が開発されるだろう」

「おぉッ! そいつはいい!」

「それがあれば、これ以上の被害を防ぐ事も不可能じゃありませんね!」

 

 齎された朗報に秀樹を始めとして喜びの声を上げている。明確に敵の弱点となる装備が手に入るのはありがたい。この新型の銃弾が支給されれば、加速度的にノスフェクトとの戦いも終わるだろう。そう思っていた。

 

 そんな中で、数人が浮かない顔をしていた。その1人であるロイは、湧き上がるサロンの中に水を差す覚悟で手を挙げた。

 

「なぁ、一個気になるんだが……」

「何だ?」

「……根本的な疑問なんだが、この写真の女性だったノスフェクトを倒したのは誰なんだ?」

 

 刹那、場がシンと静まり返った。彼の疑問の意味が理解できていないのは極一部であり、誰もがその疑問の意味を理解したからだ。

 ヴァーニィが戦いで銃を使ったと言う情報は今のところない。少なくとも彼らが見た中でヴァーニィは銃を使っていなかった。無論実は彼も銃で武装していて、今回の戦いでそれを用いたと言う可能性も無くはなかった。

 しかしこのノスフェクトの倒し方が、ヴァーニィらしくないと言う違和感も拭い難い事実であったのだ。果たして彼らが到着する前に、ノスフェクトを倒したのは誰だったのか。

 

 降って湧いた疑問に誰もが閉口する中、突如サロンに警報が響き渡った。レックス達が顔を上げるとスピーカーからリリィの声が響いた。

 

『市街にノスフェクトと思われる敵性体出現ッ! δチームは総員直ちに出動準備ッ!』

 

「マジかぁ……」

「時間はもう直ぐ夜だ。夜は吸血鬼の時間ってな」

「勤”(べん)”は美徳だが、戦闘は勘”(べん)だぜ」

「何だって?」

「今宵も、無辜の民を守る為、勇ましき戦いが始まる訳か」

「素直に気張るぜ、とかでも良くないか?」

「火力が必要ならチェーンガンを――」

「「ダメだろッ!」」

 

 急ぎ出動準備の為サロンを出ていくδチームの隊員達。彼らの背をユーリエは変わらぬ眠たげな眼で見送り、1人残された彼女は視線を額に銃創を作られた女性の写真に向ける。彼女は写真を持ち上げ顔の前に持ってくると、至近距離から見つめながら顎の先を指で擦った。

 

「……ふむ」

 

 暫く写真を眺めながら思案を巡らせていたユーリエの脳裏には、過去の情景が思い出される。まだ彼女が傘木社の研究員だった頃、ノスフェクトの研究にも携わった際に彼女は主にノスフェクトへの対策も並行して考案していた。もし研究の途中でノスフェクトが暴走した時の為だ。

 その時にも彼女はノスフェクトの体質に着目し、奴らの弱点である銀を用いた装備の開発を提案し幾つかの試作品を目にした事はあった。

 

 その試作品はその後どうなったか…………

 

 1人静かに思考を巡らせていたユーリエだったが、唐突に写真を下ろすとテーブルの上に散らばったそれを集めて自分の仕事場である部屋へと戻っていく。今考えるべきは今後の事であり、今戦いに赴こうとしているδチームの事だ。

 戦えない自分でも彼らの手助けになろうと、ユーリエは持てる知識を総動員して自分の戦いに臨もうとしていた。




と言う訳で第7話でした。

ノスフェクトは吸血鬼モチーフと言う事で、特に銀に対して非常に弱いです。流石に太陽に弱いと言うところまで行くと戦闘シーンが夕方から夜に限られてしまうので、そこは太陽光が嫌いと言う程度で日光の下で動けないと言う程ではありません。
因みに同じく吸血鬼がモチーフとなっている本家仮面ライダーのキバに登場するイクサの武器であるイクサカリバーも、純銀物質の銃弾を発射すると言う設定だったりします。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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