そうか ドラゴンと透明な何かと赤黒い魚卵との関係はすごく簡単なことなんだ。
ははは・・・ どうして ハディート神に関係する緑色を目で表している魔神やアレイスターが
「嬉しいですよ。まさか、
「たったの一回限りだけだからな」
「それだけで障碍の神としての私も満足しますから安心してください」
『秘神』と『神浄討魔』。
起こり得る可能性ごとに平行世界分岐する、多世界解釈という概念を体現できる、魔術師が行き着く先の一つである『魔神』と起こり得る可能性のどれかに収束するのを観測で好きなのに決定出来る、コペンハーゲン解釈の極致である能力者。
人智を超えた存在同士の正面衝突が始まる。
自分達の
重力崩壊を起こすほどの力強い少年の一歩で血の池地獄全体がたわみ、ひずんで、空間が沈む。その気になれば今の上条当麻は
ゴッ!!と空気が強く圧搾された。
障碍の神としての側面を強く押し出しているために、出し惜しみは不要。正面から迫る上条当麻に対し、摩多羅隠岐奈は左の掌をかざした。左手は仏教やヒンドゥー教では不浄の手と語られる。それは全てを腐食させて破壊する不可視の一撃。たとえ
空気の圧縮が限界を超え、そこから爆発する轟音があった。
竜の大顎が、そのギザギザの牙が、摩多羅隠岐奈の飛び道具を囓って食い止めていた。
9割9分の存在を邪魔だ、クソゴミと一蹴できる極限威力の
摩多羅隠岐奈は、飛び道具に付加されている、全てを腐食させる術式もついでのように無効化した『ドラゴン』の正体を知っていた。その無色透明な竜は上条当麻がアウレオルス=イザードに右腕を斬り落とされた時に姿を現した、解呪と精神攻撃が得意な『ドラゴン』。又の名をハディート。
「ハディート。規格外側の神様がこう言うのもおかしいですが・・・・・
命を授ける者と死を知らせる者。幻想を創り出す者こと魔術師、幻想を破壊する者こと
無色透明な竜の正体は、全ての存在の中心点にして無限小に収縮する極点であるグンダリーニの蛇。翼ある光の蛇や火の蛇や人心を酩酊で掻き乱す蛇とも呼ばれるハディートであった。蛇は世界各地の竜信仰や伝承と深く関わりがあるから、『ドラゴン』の形をとって顕現するのは当然だろう。
しかし、敬語口調になった摩多羅隠岐奈の
分かっているのは、文字通りの神の視点でアウレオルス=イザードの戦いを観測していた彼女は、上条当麻から
理論上、神も悪魔も従えることができる全能の
だから、ハディートを知る者は死を知ることに等しいと語られているように、アウレオルス=イザードは噛まれたことで記憶を破壊されて死人同然の別人の姿になったのだ。
「もっと激しくいきますよ」
さらなる連射。
その一瞬前、上条当麻は竜の大顎を正面に突きつけ、凶暴極まりない光を解き放って、弾幕として展開される前の飛び道具を全て消し去ったのであった。
さらにそのまま真上に大顎を上げて、巨大な直線を振り回す格好で摩多羅隠岐奈の左腕を切断にかかる。
くるん、と回転して血の池地獄に沈んだ左腕に摩多羅隠岐奈は未練を抱かなかった。すぐに修復されるけど、なにより
「まだまだです。神を浄化し魔を討つ者、神浄討魔の力はこれくらいじゃないはずですよ。もっと戦いましょう!」
少女と思わせる見た目相応に、どこか子供っぽいゆるい雰囲気もさらけ出しながら、馴れ馴れしく戦闘続行のアピールを少年にする『秘神』であった。
「分かったよ」
初めて出会った時は、纏っている雰囲気を口調ごとコロコロと変えるからコミュニケーションの取り方に難儀していた上条当麻であったが、今では慣れたものだ。仕方ないなあという表情をしながら、神様のお望み通りに戦闘を再開する。
血の池地獄そのものが巨大な『後戸』になって、二人の戦闘場所は変わる。
今度はどこかにある温泉街だ。
「ところで貴方の能力をだいたいドラゴンっぽいことが全部できる程度の能力と名付けたいですが、よろしいでしょうか?」
大体、ドラゴンっぽいことが全部できる程度の能力。言い得て妙かもしれない。
この性質を考えると、『魔神』達が上条当麻に『枠』を見出したのも納得だ。
摩多羅隠岐奈は右手なんか神浄の討魔の付属物に過ぎないと理解した上で、幻想を破壊する者こと
秦河勝という転生者の知識と『魔神』としての叡智さえあれば、少年が有する繋がる力の正体の種を見破るのも彼女にとっては朝飯前である。勿論、上条当麻の周囲では死人が出にくいという法則、生存領域の正体も知っていた。サンジェルマンや木原加群が真実の一部を捉えることができたのだ。神様が見抜けなければおかしいだろう。ハディートは命を授ける者。零れ落ちる命を拾い上げる特性もあるということを。
転生者としての知識も有する摩多羅隠岐奈は、おかしいと思ったのだ。上里翔流が違和感を覚えるようになったのは11月の初め辺り、これでは辻褄が合わない。その時期の上条当麻はグレムリンどころかオティヌスとも出会っていないから。そう、
そこで彼女は『隠世』から世界全体を注意深く観察した結果、犯人を見つけた。
だから、上里翔流という少年を拉致ってメンタルケアをしている時にこう言ってやったのだ。私達を恨んでも特に構わないが、『魔神』以外の元凶もいるぞ?と。犯人であるコロンゾンの詳細と『人間』のやらかしは全く教えなかったが。
理由は上里翔流に理想送りやヒーロー補正や上里勢力の援護があっても、コロンゾンに勝てるとは思わなかったから。ただし、元より対アレイスター=クロウリー用にも育成された人間でもあるため、
つまりはだ、勝てない戦いには挑むなである。神は乗り越えられる試練しか与えない。という言葉がある。彼女は障碍の神として上里翔流という少年も気にかけていたのだ。
「なんで、能力説明に程度という言葉が付くんだ?」
少年は自身の能力に未だに懐疑的だった。
タニニバー、マヌサー、ボイタタ、ストールワーム、ハイトリック、セラフィム、黙示録の赤い竜、サチャママ、ククルカン、ガアシエンディエタ、セラスデス、黄龍、アケローオス、ラムトンのワーム、ファフニール、ハディート、ヨルムンガンド等・・・・・。摩多羅隠岐奈に、お前は世界各地の神話や伝承に存在する数多の『ドラゴン』の力を使える。勿論、倶利伽羅竜王という私の力もな。と説明されたが、どうしても信じられないのだ。
「アピールですよ。他者に対するアピール。こういう能力を持っているけど、どう?という。ちなみに
飛んだ。竜の大顎からブレスが、ではない。竜の大顎そのものが少年の右肩から外れてぶっ飛んだ。摩多羅隠岐奈に向かって。
彼女はこれを自身の前面に展開した『後戸』の中に広がる空間に収納すると同時に、少年の背後の空間に展開した『後戸』を通して、竜の大顎を返還した。
摩多羅隠岐奈に安直な飛び道具は通用しないと思った方がいい。『後戸』の力で放った飛び道具が本人に返却されるから。
帰ってきた竜の大顎を右腕に収めて、元の
この時の少年からは誰も逃れられないだろう。対象を引き寄せる引力を発しているのもあるが、音速超えを軽々と叩き出す聖人より遥かに早い運動性能を発揮しているから。
ただ、摩多羅隠岐奈の速度も負けてはいない。所詮は人間の範疇にいる聖人と違って、彼女は正真正銘の神様なのだ。スペックが落ちている身体で全力全開で動いても、自滅の可能性はない。
ナノ秒の世界に突入した、二人の戦場は『後戸』によって次々と移り変わる。
真夏の大空、大量の紅葉が舞っている山、雪景色の森、大量の桜が咲いている何処かの神社。規格外の術技が飛び交う両者の戦いの規模は戦争と言っても過言ではない。
彼女が最終ステージに決めた『後戸の国』。本体の摩多羅隠岐奈が有している
がちっ、ガチ、と巨大な顎が不規則に開閉し、ギロチンやトラバサミでも出させない不気味な音色を発していたのだ。
それは恐怖だ。理性に重くのしかかる本能の暴走。心理学的なアプローチによる金縛り現象。原理は第五位の
しかし彼女には通じない。同じように精神や魂に働きかける術技を使用する『魔神』キメラやネフテュス達のおかげもあるが、搦め手も得意な摩多羅神としての特性として耐性があるから。
少年の右腕から追加で顕現した暗黒属性の
摩多羅隠岐奈がどこからもなく鼓を出現させると、ポン!!と打ち鳴らす。
あらゆる破壊の事象が創造される。それこそ無限と言えるほどの。似たような能力である
それは彼女が内包している神格の権能の再現。偶像の理論によって、シヴァが所有している小型の太鼓と摩多羅隠岐奈の鼓を繋げることで、宇宙の創造と破壊が行われる伝承を魔術として行使したのだ。
だが、摩多羅隠岐奈によって創造された事象による上条当麻の破壊は一切発生しなかった。あらゆる破壊の現象が創造されるのと同時に、すぐさま虚空に消失していくのだ。
「想像通りですね。強き必殺の意志を込めないと、全ての攻撃が消滅する結果になるのは」
今の上条当麻は実質的な全能。王冠を載せた竜の王による、世界そのものを従える力もあるが。倶利伽羅竜王という彼女の力を行使することができるから。つまりは、だ。『後戸の国』における、摩多羅隠岐奈の全能性や『後戸』を利用した直接攻撃は少年に内包されている彼女自身の力と競合を起こすことで、封じられているに等しい状態になったのだ。
ビュッ!!と三柱の竜の顎から何かが飛んだ。それはカメレオンのような長い舌でもあり、
攻撃が当たったら、天の星の三分の一を地上に叩き落としたという聖書の記述を再現するように、現し世に留まる存在に理解できるレベルまで低下するだろう。『後戸』のおかげで失くした力を取り戻すことができるが、この戦闘では致命的な隙になる。上条当麻の勝ちが確定してしまう。
消えていた。僅かに視線を切ったその一瞬で、周辺環境に溶け込む変温動物のように上条当麻が消えていた。
「バレバレですよ」
だが、摩多羅隠岐奈は少年の気配を察知していた。
居合斬りの要領で、いつの間にか掌に握りしめていた七星剣で二柱のドラゴンを両断する。
虚空から浮かび上がった上条と、残った一柱の竜の大顎。乱杭歯と七星剣が噛み合っていく。かつての彼女が世界の基準点たる幻想殺しの代わりを作成しようと思って、出来上がってしまった失敗作。世界を歪める魔術でありながら、摩多羅隠岐奈を全ての『基準点』としてしまった七星剣がバギバギという音を立てながら、少しずつ歪められていく。
魔術や幻想、揺るぎない現実。あらゆるモノを噛み潰して抹消する『牙』。上条当麻のことを殆ど知っている摩多羅隠岐奈が『魔神』も殺せると太鼓判を押した『力』によって。
二人の鍔迫り合いの最中に、光も音も色も形もない何か、目には見えない得体の知れない空間の密度のようなものが分厚く息苦しいほど変質したのと同時に、彼女の全身から放出された魔力が七星剣ごと上条当麻を消し飛ばす。
その行為は魔術師が体内に巡らせている生命力を魔力に精製する行為と一緒だ。それを摩多羅隠岐奈はただの魔力の塊として全身から体外に向けて放出しただけ。即ち魔力放出(霊撃)。
理論上、魔術師ならば誰でも出来る再現性が高い技術だが、体内に無限の生命力、魔力を巡らせている『魔神』がこの攻撃をしてみたら、この通り。無限の威力を有する必殺の一撃と化す。
目を離す暇もなく、全身残さず消滅したはずの上条当麻は何事も無かったように五体満足で動いていた。代わりに虚空から現れた竜の尾が身代わりになってひしゃげていた。ダメージを肩代わりする機能を持ったトカゲの尻尾だが、残機を減らした少年は、その事実に気づいてない。目の前にいる摩多羅隠岐奈との戦闘に集中するのみ。
透明な竜の大顎、その表面全体が爆ぜた。刃物にも似た硬い鱗が一斉に射出されたのだ。それは至近からの散弾さながらに、距離を離そうとしている摩多羅隠岐奈の全身を叩きにくる。
今の上条当麻の攻撃は、誰にも観測されず存在の確定しない猫を殺せといった無理難題を容易に達成できることを理解している『秘神』が取った手段は防御でなく迎撃。
弾幕と化した蚕の絹糸が弾丸として射出された鱗を絡め取って、勢いをゼロにしていく。それでも幾つかの鱗が摩多羅隠岐奈に届きそうになったが、火炎に包まれた黒龍が炎のブレスで全て焼き払って護った。
摩多羅隠岐奈の背後で、一振りの宝剣に火炎を纏って巻き付いている姿を見せる黒龍の正体は、この戦闘で常時『秘神』を包み隠すように纏わりついている日本の四季を模した四色のオーラが、摩多羅神と習合されている不動明王の化身の倶利伽羅竜王の形をとって現れたものであった。
(まさか、埴安神の真似をすることになるとは思いませんでしたね・・・・・)
倶利伽羅竜王から四色のオーラに戻した彼女は、自身と同じように龍神と関わりがあり、炎のオーラのドラゴンを従えている
鱗弾幕を軽々と対処された上条当麻はすぐさま次の行動に移る。
右の竜が毒の概念を煮詰めた牙を持つ単眼コブラ風ドラゴンの姿をとる。そのドラゴンの正体はインド神話の蛇の神『ナーガ』の一人。見た者を殺す『毒の目』を所有する女神マヌサー。
しかし、マヌサーによって現世に存在しない死毒が体内を巡っていても彼女は平気そうに笑っていた。
「何でも吸収する程度の能力。饕餮の能力は意外と便利ですね」
饕餮尤魔という少女が持つ、何でも吸収する程度の能力。
物体はおろか力や欲と言った実体の無いものまでありとあらゆる物を吸収してしまい、その上呑み込んだ物を理解して自分の力にしてしまうというもの。
それを以て、瞬時に耐性を得たのだ。
だが、なんで摩多羅隠岐奈が饕餮の能力を魔術として使えたのだろう?それには理由がある。
饕餮紋は時には蚩尤を表してるとされるが、その蚩尤を神としての側面に兵主神というのがいるのだ。日本で兵主神社に祀られるのは須佐之男や大穴牟遅でなく元々は渡来した蚩尤=兵主神でないかという説があり、その兵主神を日本に持ち込んだのが秦氏という渡来人の一族なのだ。つまり饕餮という妖怪は摩多羅神と同一視されている秦河勝関係者なのである。
そして、元々は『原石』や何らかの宗教的奇跡に対する羨望から開発された、才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術体系が魔術。ここまでこれば話は簡単。摩多羅隠岐奈が『後戸』の力抜きで饕餮尤魔の能力を魔術として行使できる理屈は揃っているというわけだ。
・・・・・結局、魔術も才能や環境に恵まれている存在が使った方が強いという非情な現実があるが。
少年の右腕の竜が
雷の神と化した少女からドラゴンが奪った『力』が、摩多羅隠岐奈に向けて、躊躇なく解放される。
自身に迫ってくる恐るべき白の奔流を目の前にしても『秘神』は冷静に『後戸』を前方の空間に展開する。
「ちゃんと対処してくださいね?」
『後戸』から白き凶暴な光が爆発的に溢れる。
それはセフィロトの樹を外から照らす光、否定の三重光と呼ばれる光。
押し合いは成立しない。上条当麻と摩多羅隠岐奈、両者が放った破壊の光は質が違う。勝ったのは当然、否定の三重光を扱う『秘神』の方だ。
摩多羅隠岐奈が『後戸』から放った閃光が、上条が放った閃光を空間ごと消滅させた。前兆の感知のおかげで少年自身の身体は無事だったが、全てを破壊する竜の顎がざっくりと裂けた。
『後戸の国』の空間に、毒々しい赤が飛び散っていく。
次の瞬間だった。『後戸』から閃光が勝手に乱舞した。それも複数の方向から同時に。
いや、これまで彼女が取得した多種多様な術技が上条の血液から描かれた魔法陣から次々と顔を出していく。
白い閃光を筆頭として、七星の剣。神秘の玉繭。穢那の火。時空の断裂を作ることが出来る全次元断層術式。表現不明、理解不能、説明不能な応用の幅が広い、謎魔術。等が『秘神』を取り囲むように同時に襲いかかってきた。
オリジナルの摩多羅隠岐奈が東方剛欲異聞という作品でさりげなく披露した瞬間移動を駆使して、死の乱舞から離脱した彼女は、能力者である上条が副作用なく魔術を行使する事実に全然驚かなかった。
正体が、血だまりを見た相手の能力や魔術を引き摺り出して自滅させる術技ということをその身に刻まれた知識で分かっていたから。
しかし、理屈がロールシャッハテストに近いと分かっていても、摩多羅隠岐奈が取得してきた色々な魔術が彼女自身に牙を剥いてしまう事実は変わらない。血溜まりを見て心の中で咄嗟にどんな形を思い描くのかは、止められない。勿論、上条当麻にも。それは、相手の自爆に巻き込まれるリスクを持つ諸刃の剣でもあるのだ。
でも、勝手に出てくる魔術や能力のコントロールができなくなるだけだ。強固な意志で行使する術技の場合は、その限りではない。
突然、摩多羅隠岐奈に迫る魔術の光がその場で凍りつき、動きを止めた。『秘神』は今、魔法陣として完成されていた血溜まりに、『後戸』によるランダムな暗号化を施すことで永遠のロックをかけて使用不能に追い込んだのである。さながらランサムウェアのように。
「これで終わりにしましょう!!」
今の彼女は、全盛期オティヌスの領域、
しかし、先程否定の三重光を行使できたように
摩多羅隠岐奈が白い『後戸』そのものに変化した。
星を操り障碍統べて全て隠す『四色』の麗人と呼ばれる未踏級の力。万物全ての原因なき原因。無そのものである、
究極に近くなるほど、形容する言葉は陳腐になるもの。そもそも飛び道具に致死性を帯びるほどの破壊力を与えたければ、弾の質を限界まで上げて、誰にも見えない避けきれない速度まで釣り上げるのは順当で当然なのだ。それは魔術も科学も関係ない不変の法則。結局はこれが弾幕として一番強いのである。
対する上条当麻は愚直に被弾覚悟で突き進むのみ。
世界を一周ぐるりと囲むほど肥大化した巨大な蛇。最終戦争ラグナロクで神々の序列二位と相討ちに倒れるほどの戦果を上げた竜の一つ。北欧神話のヨルムンガンド。
雷神トールですら持ち上げられなかったその重みでもって、『後戸』と化した摩多羅隠岐奈の弾幕によって作られた傷口を強引に潰して血の流出を阻みながら。
ところで、上条当麻は『魔神』に昇華できる才能を持つ少年だ。新約とある魔術の禁書目録9巻のオティヌス戦の地の文で望み薄と書かれているが、上条が『魔神』になれる可能性自体は否定されてない。
禁書世界に転生する前のある人間は、そんな馬鹿なと一笑に付していたが、
つまり、本体の摩多羅隠岐奈の『後戸』による『共鳴』やハディートを筆頭としたドラゴン達のおかげで、今の上条当麻は
弾幕を掻き分けながら、一筋の流星となった
人外なる拳が『後戸』となった摩多羅隠岐奈に着弾した瞬間、『後戸の国』の全てが白く染まった。
「・・・・・何故貴様がここに居座っている?」
「何か問題ですか?今の私は秘仏モードで障碍の神としての私も完全に満足して落ち着いていますから、問題を起こすつもりもありませんよ」
摩多羅隠岐奈と上条当麻の全力全開の戦闘が終わった日。
上条当麻が住んでいる学生寮に新しい居候が増えた。
摩多羅隠岐奈である。しかも本体である。
幻想郷はどうしたって?神々の中から一柱が抜けても、多神教神話がそう簡単に崩れないように、『秘神』がいなくても回っていける堅牢で柔軟なシステム故に大丈夫。そんなに軟な世界ではない。
それに・・・・・この世界と時間の流れが違うのもあるが、過去にタイムスリップすることで少しの間だけ、幻想郷を離れていたという結果を創り出すことができる。『後戸』の力で。
二童子も問題ない。休暇を与えて自由にしているから。
そして、上条当麻はフローリングの床に正座させられていた。
少年の眼前で仁王立ちするのは、白地に金刺繍を施した紅茶のティーカップみたいな修道服を纏うシスター・インデックス。
「・・・・・で?」
「・・・・・はい」
「とうま、次から次へと居候を増やしてどうするつもり?こんなのちゃんと面倒見られるの!?今月の家計もいっぱいいっぱいって大体いつも口癖みたいに言っているのに!?」
「いやーこれで俺が怒られるのは理不尽だと思うよ?何言っても出ていってくれないし!!」
ついでに言うとここにいるのは上条少年以外全員居候である。三毛猫のスフィンクスを除いたら、見事に全員魔術サイド関係者だ。
「ケッ、ケダモノ!貴様ッ!!」
最早恒例行事になった三毛猫の襲撃に対処するオティヌスとギャーギャー仲良く騒いでいる二人組を横目に摩多羅隠岐奈が窓に映っている学園都市の風景を見る。
あんだけ彼女が暴れまわったのに、学園都市はいつも通りに運営されていた。住民達についても同じことだ。
割と異常事態がよく訪れる都市なだけで、立ち直りは早いのは当たり前と考えるべきか。
この世界線の学園都市も同様と言うべきか。此度の異変の中心人物の摩多羅隠岐奈が堂々と表の道を歩いていても、人間達から何も言われなかったのだ。
それはそれとして、サーティーンデスとの戦闘中に『後戸』の力で『窓のないビル』にいる『人間』に、エイワスがリリスを保護していますよ。という驚愕の情報を脳内に直接植え付けたことで、復讐者という属性をアレイスター=クロウリーから奪った摩多羅隠岐奈であった。
今は『窓のないビル』の中で親子水入らずの感動の再開をしているであろう。そして、カキカエ隧道を筆頭とした学園都市関連の全ての厄ネタをさりげなく『後戸』の力で対処していた摩多羅隠岐奈とリリスの影響で科学サイド関連の事件はグッと減る未来が訪れるのが、『秘神』が有する規格外の演算能力と占星術で容易に予知できた。
全ての謎は『秘神』の手にあり、物騒なモノなんて誰にも分からないように秘匿されてしまえばいいのだ。
これで上条当麻のタイムスケジュールは、
学生は勉学に励むべき。色々な神格を習合している都合上、学問の神という肩書きも持つ摩多羅神としての意見の一つである。
「私は食事をしなくても生きていけるエコな体をしているから安心してください。それに家事や料理なんでもござれです。居候らしく家賃も払いますよ」
幻想の如く忘れられた神という冠を戴く前の古の時代、『魔神』摩多羅神を神様として普通に崇めていた信者達からお布施として捧げられた古銭を現代のお金に換金したものを家賃として払うのと同時に、宣言通りに料理もできるということを示すために『後戸』から、自作の特製お弁当を人数分取り出した摩多羅隠岐奈であった。
彼女は出生の関係上、対象に高い水準の日常生活を送らせることもできる神様なのである。自分を構成した人間達。特に転生者から、生活に便利な知恵も受け継いでいるおかげで。そこに汎用性が高い『後戸』や内包している数多の神格を利用すれば、正に無敵。
五和と同じように居候の正しい在り方を実践してくれる『秘神』を奇跡を目の前にした子羊みたいな顔で見つめる上条当麻の横で、インデックスが幸せそうな顔で特製弁当を食べる様子を見て、彼女は確信する。居候できることを。
「しばらくの間、お世話になってもよろしいでしょうか?」
「いいんだよ!!」
彼女の予想通りに、白い修道服の少女は即答をしてきた。
無言で一筋の涙を流している上条当麻も含めて懐柔成功である。このまま計画通りに外堀を埋めていくだけだ。
ところで勝負の結果はどうなったのだろう?摩多羅隠岐奈と上条当麻の二度目の戦いの顛末は誰も知らない。知っているのは、当事者である『秘神』だけだ。
いつの間にか無傷で現し世に戻っていた上条が、戦闘の結果を気になって尋ねても、はぐらかせられた。ミステリアスな部分を残してこその神秘ですからね。と。この返答の意味は、そちらの想像にお任せしろということなのか?
それはそれとして、今の『秘神』が考えている計画はなんだろう?それは居候として一緒に暮らして、生活をサポートすることで好感度を更に稼いで、幻想郷で皆と一緒に暮らしましょうという、本当の意味での実質的な告白を受け入れさせて貰うことである。
だから・・・・・。上条当麻、学生生活が無事に終わるのを祈っていますよ?神様が祈るのもおかしいことですけどね。
この日の夜空は誰もが天体観測をするほどの綺麗な星々で輝いていた。星空の中で一番目立っていたのは、星神たる摩多羅隠岐奈を象徴する北斗七星だった。
後日談を書き終わりました。
わざわざ読んでくださってありがとうございます。