機動戦士ガンダム フルダブル 幻想純化奇譚   作:プリエ・エトワール

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その未来、赤い彗星と繋がる者たち1

 その未来、赤い彗星と繋がる者たち1

 

 

 (集中…メメント・モリ…死を忘れるなかれ…死を想え………)

 

 (…宇宙で争いを始めるのはいつも優生、選民思想に取り付かれた者たちだ………あいつらに善意なんてものがあると信じた…連邦の高官たちが愚かだった………)

 

 (…あの人類の未来を決める議会投票で…地球連邦からの独立運動をはじめた者たちを…サイド3ムンゾに隔離するA案ではなく………)

 

 (…完全殲滅のB案を採用していれば………人類の総人口の半分以上が後のジオン公国に殺害されることもなかった…いや、自分の保身第一の政府の連中が…自身の権力からの脱落を意味する選択など…選ぶはずもない………)

 

 (…人類統一国家である地球連邦政府が…自国民への弾圧などできやしない…だからこそ…地球からもっとも遠いサイド3へと…1億にも満たない分離主義者たちを追放した………)

 

 (…そうではなく、弾圧の末に死者がでることも畏れぬ態度が示せていれば………後の大虐殺はなかった………そんな人道主義が…人類の半分以上を見殺しにした………可笑しいよね………)

 

 (…でも…俺は違う………地球圏の未来を担う者たちを生き残らせるため………ザビ家に従っていた罪人たちを撃ち殺せる…メガ粒子で燃やし尽くし…灰に…塵に…帰すことができる………)

 

 

 ティキーン!

 

 

 (…見えた!)

 

 (砲身内磁場形成機能正常…メガ粒子ライフリングシステム順調に推移………今!)

 

 「そこっ!」

 

 GP4ガーベラ・フルダブルのコックピット内部で短く叫び、ユウ・カリンは試作型メガ・バズーカ・ランチャーを発砲した。

 

 宇宙空間でその威容を誇る巨大砲は、バストライナー砲の流れをくむ大型メガ粒子砲であった。

 モビルスーツに匹敵するほど巨大で重鈍な印象があったが、そこはそれ。大きな使用上のメリットを持っていた。

 連発こそ不可能なものの、非常に高威力。直撃すれば大型艦船も一撃だ。今回の任務の先制攻撃には打って付けな代物なのだ。

 

 MSフルダブル機体内部と、試作型メガ・バズーカ・ランチャー双方に搭載されたミノフスキー・イヨネスコ炉が唸り、それらによって大量に精製されるメガ粒子。

 砲塔内で励起状態となったその灼熱の粒子は、開放されると一塊となり、宇宙を斬り裂いて一直線に目標へと突き進んだ。

 

 着弾。

 

 そのロマン砲ともいえる高威力メガ粒子の一撃は、宇宙空間を自ら放つ閃光で斬り裂き、狙い違わず農業コロニーの影に隠れていたムサイを貫き、爆散させた。

 

 爆発によって生み出された光芒の中、多数の人命が消えていく。

 

 この容赦のない攻撃によって、宇宙海賊程度の立場まで堕ちていたジオン軍残党一艦隊は、多くの仲間を失った。命が、魂が、白き光芒の中、溶けていく。

 

 (…そのまま燃え尽きろ…旧世紀の錆びついた艦船のように…朽ちてしまえ………)

 

 …錆びてしまえ…朽ちてしまえ…全部!

 

 (…もう戦争は終わっている…それなのに…いつまでもスペースノイドの独立ごっこなんてやっているから………そんな死に方を…する!)

 

 まずは先制攻撃成功である。

 

 しかし、機先を制したフルダブルパイロット、ユウ・カリンといえば、己の優位な立場に胡坐をかかず、試作メガ・バズーカ・ランチャーから自機を離れさせ、すでに大型砲発射地点から移動していた。

 

 そのような素早い行動は、敗戦後も独立ごっこに泥濘し、独裁者一族ザビ家の走狗に留まり続けるジオン軍残党とは対照的であった。

 

 ユウは、試作型メガ・バズーカ・ランチャー発砲と同時に、フルダブルの背部ウイングバインダーを盛大に呻らせ、射撃地点から自機を移動。敵機へと向かい肉薄していた。

 四枚の羽根型バインダーのバーニアから発せられる光が周辺宙域を照ら出し、資源コロニーやデブリに、影を産み出していく。

 その中には、撃沈されたムサイ直掩だったモビルスーツ3機の姿もあった。

 

 「敵機3確認」

 

 二丁拳銃よろしく、ワンコードライフルとニャンコードガンを両腰から引き抜き、ユウの駆るフルダブルは、迷うことなく敵ムサイ直掩機の討伐に向っていく。

 

 死が…巨大な人の形を成して、他の巨人へと襲い掛かろうとしていた。

 

 その背には四枚の翼を模したアクティブバインダーを。その腕には敵を打ち貫く人の悪意の塊を持って、上も下もない宇宙空間を飛翔していく。

 

 獲物であるザクタイプ3機とは、上下を逆にして。

 

 その一方、ムサイを護衛していたザクタイプ3機と、そのパイロットたちといえば、母艦が沈んだ事態に狼狽し、まだ撃沈されたムサイ至近の宙域を漂っていた。

 

 「…早く逃げればよいものを」

 

 フルダブルの背部バーニアを利用した加速は凄まじかった。旧GP4ガーベラの特徴的な肩部バーニア2機を廃し、背部4つのウイングバインダーへと統合した改良の結果だ。

 

 プロペラントタンク一体型連装バインダーのバーニア性能は素晴らしい。この時代では、他のモビルスーツの追随を許さないハイレベルの加速を実現している。

 

 そんな高速からの、ワンコードライフル、ニャンコードガンによる射撃が開始される。

 

 わーい! みんな遊ぼう! この戦場でだがな!

 

 バウバウバウ! 

 

 ふん…悪くないわね。この火力!

 

 ニャンニャンニャン!

 

 宇宙空間は真空のため音が伝わらない。そこで発砲と同時にモビルスーツのコックピットには、電子音が流れる仕様となっている。

 

 ワンダフルなワンコードライフルと、ニャンダフルなニャンコードガンという兵器使用時には、それぞれ犬猫の鳴き声が流れる仕様となっていた。

 

 試作機たるフルダブルを開発製造した、アナハイムエレクトロニクスエンジニアたちのお遊びである。

 

 冷たい方程式に支配された宇宙空間でも、パイロットが人間と共に生きる生物との触れ合いや、ぬくもりを忘れないようにと。

 

 とはいえ、緊張感のない電子音を発する設定の兵器とはいえ、ワンコードライフル、ニャンコードガンの威力は絶大であった。

 

 3点バースト式~一回引き金を引くと弾が3発発射される方式~のビームライフルとビームガンがメガ粒子を銃口から解き放つたび、残る3機のザクは逃げ場を狭められ、追い詰められていく。

 

 すでに彼らの命の行く末は、残酷な天使の翼に触れていた………死の翼に。

 

 「くっ! 回避行動! なにが? なにが来たんだ…?」

 

 「V字アンテナとツインアイ! あれは! ガンダム! 悪魔の力だ!」

 

 「ガンダムだとっ! 迎撃をっ! うわっ! うわああああっ!」

 

 流星のように虚空を貫いていくメガ粒子と、続く光の雨のようなビームバルカン。その火箭の最中、3機のザクタイプもザクマシンガンとザクバズーカで迎撃、反撃に出る。出来得る限りの回避行動を取りながら。

 

 だが。

 

 「当らん! 速い!」

 

 「何なんだ1 この加速はぁっ!」

 

 「分が悪いぞ! 引け! 逃げろ!」

 

 「なに言ってやがる!」

 

 「逃げるってどこにだよ!」

 

 過去、ジオン公国軍のスペースノイド大量虐殺に加担し、敗戦を受け入れたジオン共和国があるにもかかわらず、帰国指示に従わず、戦闘行動を続行。

 

 彼らは脱走兵となった身だ。行き場などは、遠いアステロイドベルトのアクシズくらいしか存在しない。

 

 だが辺境のアクシズ行きなど御免被る。だからこそ脱走兵に転落しても地球圏に居残り、海賊紛いの生活を続けた身体だ。いまさら連邦旗下の組織の追及を躱して、逃げこめる場所など限られている。

 

 ザクタイプのパイロットたちは、そんな個人的で身勝手な理由から、フルダブルに対し、必死の抵抗に出た。分の悪い賭けだ。

 

 それでも、彼らなりに生き残るために、決死行を実行する。

 

 しかし、そんな反撃も分の悪い賭けも、無類の機動性を誇るフルダブルには効果がない。思いと劣った力だけでは、大した反撃もできはしない。勝利は望み薄だった。

 

 「当れ! 当たれ! 当たれぇっ!」

 

 「なぜ当らん!」

 

 「くそ! こんなところでぇっ! 死んでたまるかぁぁよおおっ!」

 

 フルダブルの超機動と超回避。その秘密は、ユウのニュータイプ先読み能力と、フルダブルの性能の合わせ技故であった。

 

 ニュータイプ能力のこと言うまでもない。ザクタイプのパイロットたちが狙いをつけ発砲する前に、ユウは自他の戦力差を加味して攻撃されるポイントを予期。すでにそこから離脱し、回避していた。

 

 ここでは、ユウの取った超機動を実現させうるフルダブルの機体性能を説明しよう。

 

 今後、モビルスーツは恐竜的進化を遂げ、肥大化、異形化していく。精密機動、超加速、敵陣への肉薄突進能力増加のためだ。

 

 機体各所にバーニアを取りつけ、そのバーニアにエネルギーを送り込む供給用ラインを増設。その箇所の防衛のために、さらなる装甲の設置を開始する。

 

 それだけではない。大型化した質量を運用するため、モビルスーツに人型から外れた箇所を多数設け、さらなるバーニアを設置する。増槽のさらなる配置。モビルスーツの異形化。

 

 これは…キリがないんじゃないか? そんな具合である。

 

 フルダブルのウービルト~原型機のこと~GP4ガーベラも、当初は同様の設計思想をしていた。両肩の巨大バーニアなど、そのよい例だ。

 

 しかし、その問題点をアナハイムのエンジニア陣は改良に伴い洗い出し、改良、コンパクト化したのだ。そんなガーベラ・フルダブルは、恐竜的進化思想とは一線を画した。

 

 フルダブルは、その改良過程で両肩の巨大バーニアをオミットし、背部のウイング型アクティブバインダーへと統合。

 機体後方へと突き出した、計四枚のプロペラントタンク一体型推進器として生まれ変わらせていた。

 

 これは、GP4ガーベラと機体形状が似通っていたGP1フルバーニアンの問題点を、旧ジオニック社に所属していたエンジニアたちが研究。どう改良すれば良いかを導き出した結果だった。

 

 そして、もう一つ。フルダブルは他のモビルスーツにはない特徴を有していた。

 

 アンバック機動を利用した、機体各部へのスモールウイングバインダーの設置である。そもそもアンバックとは、宇宙空間で手足を動かし、バーニア推進と併用し機体制御する手法である。航空機による水平尾翼を利用した方向転換と似たような手法と思ってもらってよい。

 

 しかし、モビルスーツが戦闘に手足を利用する以上、そうそう好きにアンバックは多用できない。

 

 そこで、手足の代用品となるウイングバインダーを機体各部に設置。増加バーニアは極力排し、GPシリーズの元祖であるRⅩ78-02程度に控えた。

 

 そういった設計変更により、恐竜的進化をさせずにモビルスーツに高機動化、精密機動を実現させた機体が、このGP4ガーベラ改ガーベラ・フルダブルなのである。

 

 なお、ガーベラに加え、フルダブルと名前が延長された理由は単純であった。腕部、脚部に設置されたスモールウイングバインダーが、新たに咲いた花弁に見えたため、八重咲のガーベラ…すなわち、ガーベラ・フルダブルと名付けることが適当とされたからだ。

 

 さて、話を戦闘に戻す。

 

 すでにフルダブルとザクタイプ三機の対決といえば、終了間近だった。

 

 「あっ、あっ! 直撃? 俺が………」

 

 「あぁあっ! ガンダム! 悪魔の………」

 

 「助けてくれょお…母さん…母さん………」

 

 メガ粒子の閃光に飲み込まれ、灼熱に焼かれる機体コックピットで、それぞれ勝手な言葉を言い残し、この世から消えていく三人のジオン軍残党兵たち。

 

 「…何を勝手なことをいっている………その想いは、お前たちに殺されていった非武装のサイドの民衆も同じだっただろうが………」

 

 ニュータイプのテレパス能力で、敵パイロットたちの想いを感じても、ユウは容赦しなかった。

 

 当然、ユウの意を受けて可動しているフルダブルも同様だ。

 

 追い詰められていたザクタイプ3機に対し、フルダブルの容赦ない攻撃が続いた。先の一週間戦争と一年戦争によって、多くの知人、仲間、家族、故郷を奪われていたユウに、ジオン軍残党に対する慈悲はなかった。

 

 むしろ残っていたら異常だ。

 

 ついには放たれ続けたメガ粒子に貫かれ、ザクタイプ3機はそれぞれ宇宙空間に光芒の残し、消えていった。

 

 まるで、先程ユウに撃沈され、消えていった僚艦の光芒の後を追うかのように。

 

 戦後モビルスーツ開発最先端の技術を持つアナハイム最新鋭機に対し、いくら傑作機が多いザクタイプといえど、分が悪過ぎた。

 どれほどレストアしようとも、所詮は一年戦争当時の機体である。基礎スペックの機動性も装備の威力も桁違い。

 どの様にがんばっても旧型機では、新型機の日進月歩のテクノロジー進歩には追い付けはしない。

 

 その上、ガーベラ・フルダブルパイロットの技量、能力も、ザクタイプパイロットたちに比べて大きな開き、差があった。

 

 ユウ・カリンは、ニュータイプとしての片鱗を見せ始めたスペシャル級の人物である。その技量は、一年戦争で生き延びたジオン軍兵士のはるか上に位置している。次元が違うといっても良いほどだ。

 

 それゆえに、ユウはアナハイム上層部に選ばれ、フルダブルパイロット第一号に選ばれたのだ。

 

 そんな桁違いの相手を向こうに回して生き残るなど、ザクタイプのパイロットたちにしてみれば、最初から無理な話だった。

 

 (…何がニュータイプだ…せっかく連邦政府が、宇宙に上がった人々をすべてスペースノイドとして扱うことを決めて、旧世紀の差別を無くしたっていうのに…ただ、新たな差別の理由を生み出しただけじゃないか………)

 

 もっとも、戦場でニュータイプとしての能力を十二分に発揮し、活躍するユウ本人といえば、ニュータイプ事態のことは、あまり快く思ってはいなかったが。

 

 実際、ユウの考えは真実であった。

 

 ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ思想が差別主義者たちを一気に活発化させる以前、地球圏での差別理由は極少数であった。

 

 精々、自らを優れた選民とするスペースノイドたちによる、様々な理由で宇宙生活者となれなかったアースノイドたちへの差別くらいである。

 

 それ以外、これといった差別は存在しなかった。

 

 地球連邦政府が、宇宙開拓、宇宙移民に協力した人々には、たとえ、出生地、人種、思想、信条、宗教が違っていても、同様にスペースノイドとして扱うと、旧世紀からの差別を全面的に禁止していたからだ。

 

 地球連邦政府は、そうやって、どのような理由でもよいから他人を差別して楽しみたいという、歪んだ差別主義者には生き辛い社会を実現していた。

 

 だからこそ、差別主義者たちはジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ思想の登場に狂喜乱舞したのだ。

 

 これで、好きなだけ差別ができるぞ。

 

 ニュータイプ論を快く思わない人々を、人類の進歩を妨げる悪と貶め、どれだけ弾圧しても構わないのだと。

 

 我々、宇宙の民は、後々ニュータイプ登場の礎となる優れた存在だ。その行く手を阻むオールドタイプ共とその仲間たちは、人類の革新を阻もうとする悪の手先だ。

 

 殺せ。

 

 旧世紀の倫理観に縛られる者共には、死こそ救済だろうと。

 

 じつに手前勝手な差別主義者の理論展開。

 

 そして、実際に巻き起こした一週間戦争と続く一年戦争の大虐殺。

 

 これでは、ユウならずとも、まともな倫理観を持つ者が、ニュータイプという存在や能力を快くは思うまい。

 

 それはさておき、この宙域での戦闘は無事、終えた。

 

 残るは、ジオン軍残党と人身売買含む取引を、ここ、辺境の資源衛星でやっていた犯罪者たちの処理と、その犠牲になっていた人々の保護であった。

 それが、ユウ・カリンの所属する民間軍事会社、コロニー福祉公社本来の任務なのだ。

 

 戦後。人類の総人口半数以上の死亡によって、地球圏の倫理観は崩壊していた。

 

 希薄になった人権意識、極限まで人の命が安くなった人類社会。その地球圏各所での、奴隷的労働、性的搾取、人身売買。

 そういった重犯罪から少年少女、時には成人の男女たちを保護する。

 

 もちろん、その過程で邪魔をする犯罪者たちへの武力を使用した排除は認められていた。

 

 その組織設立の音頭を取った者たちこそ、地球圏のインフラを一手に引き受ける宇宙の電気屋さんアナハイムエレクトロニクス社であった。

 

 本来、宇宙の電気屋さんであるアナハイムエレクトロニクス社にとって、一番のお得意さんは地球圏の一般スペースノイドたちである。もちろん、ジオンのお膝元サイド3は除いてだ。

 

 それ故に、アナハイムエレクトロニクス社の利益と運命は、一般スペースノイドたちと共にあった。

 

 ジオン・ズム・ダイクンの扇動に狂い、その死後、サイド3を掌握した独裁者集団ザビ家に率いられ、その地球圏支配計画の走狗と成り果てた、ジオン公国一般国民たち、及びジオン公国軍。人類史上最悪の大虐殺集団。

 

 そんな狂気の集団と距離を取り、地球圏をメチャクチャにした宇宙の優生・選民主義に陥らなかった一般のスペースノイドたち。

 

 アナハイムエレクトロニクス社は、戦前から彼等、正常な思考を守り続けた者たちと運命を共にしていた。

 

 一般のスパースノイドの安寧と繫栄。その継続による地球圏インフラの拡大。それイコール、アナハイムグループが人間社会で実施している実業の拡大、繁栄なのである。

 

 戦後、アナハイムがサイド3のジオニック社を買収した理由も、その背景が大きかった。

 

 いくらジオン公国とザビ家を打倒したとはいえ、ジオン公国軍の大虐殺を許してしまった地球連邦政府、及び、軍に、以前と同等の信頼は置けはしない。

 

 それどころか戦後、軍内部にはザビ家打倒の功績を盾に、地球連邦政府を蔑ろにして、軍閥政治を開始しようとする動きも見え隠れした。

 

 正当な選挙も経ず、軍の将軍たちが連邦議会の上院議員資格を得たことも、その一環だ。

 

 そんな状況下、アナハイムの重役たちは、自分たちに本当に必要な世界、そこに生きる者たちを守るという意思の下、行動する実働部隊を欲した。

 

 そのためになら、アナハイムの重役たちは、多くの政治的取引も連邦政府と結ぶ気概があった。

 

 清濁併せ吞んだのである。

 

 その数々の努力の果てに、アナハイムの意向通りに行動する民間軍事会社が創設された。

 

 かくして、戦後の犯罪組織へのカウンターとして組織された戦闘集団こそ、ユウが属するコロニー福祉公社であった。

 

 「こちらガーベラ・フルダブル。ユウ・カリンだ。サンフラワー聞こえるか。任務遂行の邪魔となる戦力は粗方潰した。スキャンの結果、近隣宙域にはもう警戒すべき戦力は存在しない。制圧部隊を番外地コロニーへ送り込んでくれ」

 

 「了解した。さすがはアルティメットサディスティッククリーチャー、仕事が早いな」

 

 「ぬかせ。これよりフルダブルは同宙域の哨戒に当たる。中(コロニー内部の制圧)は任せた」

 

 「任せろ。久々の大捕者だ。慎重にやらせてもらおう」

 

 戦闘が終わり、撃破された機体のミノフスキー・イヨネスコ炉含め三機分のミノフスキー粒子精製が止まった。

 

 その前に撃破していたムサイ炉心が精製していた粒子が薄まった状況を待ち、ユウは本隊との通信行動を取った。

 

 同僚の母艦艦長と必要最低限の報連相(報告連絡相談)をし、ユウは新たな任務に就く。

 

 「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 そんな時、母艦の通信士の横からユウに話し掛けてくる者がいた。

 

 ユウの今の母艦である輸送艦コロンビア級サンフラワーに同乗していた、アナハイムのフルダブル開発チームのエンジニアの一人からだった。

 

 「こちらクルミ。ユウ、あんたの身柄はどうなってもいいけど、フルダブルの自動学習装置のデータはきっちりと持ち帰ってよね。増援のパイロットたちの機体に反映させるんだから」

 

 「お前か。わかったわかった。少し待てよ」

 

 「何よ! 子ども扱いしないでよね! 私だって作戦が終わるまで待つ理性はあるもん! 他のGPシリーズを開発をしていた、別チームのパープルトンたちとは違うんだから!」

 

 「はいはい。良い子は寝て待ってな」

 

 「なによ!」

 

 「こちら、コードネーム:アルティメットサディスティッククリーチャー。通信終わる」

 

 「あー了解」

 

 「いー! だ!」

 

 「やれやれ………」

 

 まるで緊張感のないお子様エンジニア、クルミとのせわしない会話を終え、ユウは辟易とした表情をして新たな任務へと向かう。

 

 主の意を受けて、再び加速し宇宙を駆けるフルダブル。

 

 しかし、クルミとの他愛のない会話をしたことで、ユウは少しだけ戦場のストレスを緩和した状態で、次の任務へと赴けた。

 

 少しだけ、自分の未来のことを考える余裕も生まれていた。

 

 ユウの負担を少しでも減らそうとする、同じサイド4で生まれ育った幼馴染クルミの配慮だ。たとえ、愛しい人がその配慮に気付かないとしても、そうしてやるのが恋する乙女なのである。

 

 ニュータイプだって、異性の愛情には疎い。

 

 なぜなら、それは余裕のない十代男子特有の、精神的に成長するまで続く病理だったからだ。

 

 そのため、クルミから愛情を向けられているユウといえば、それにまだ気付けないでいた。いくら優秀でも、ユウもまだ十代の子供の部分が残っているのだから。

 

 戦いに生き残ることに必死過ぎて、余裕がなく、すぐ隣にいる大切な存在に気付けない。ニュータイプといえど、余裕がなければこのザマである。

 

 「そういえば、今度の増員は三人だったか。俺の負担も減ればいいんだが…」

 

 そんな鈍感なユウのつぶやきの間にも、資源衛星内部への突入任務は進んでいた。

 

 その光景を横目に眺めつつ哨戒任務を続け、ユウは一年戦争後も争いの絶えない地球圏の宇宙(そら)を飛んだ。

 

 新たな仲間たちと共にする、未来の争いに思いを馳せながら。

 

 

 その未来、赤い彗星と繋がる者たち1 終

 

 

 メモ

 

 ふざけるなよ………あの子たちが…俺たちが…お前たちに何をしたというんだ………ただ静かに暮らしていただけじゃないか………

 

 …お前たちの生活を脅かしたか? 大切な何かを奪い取ったか………?

 

 …いや………していない

 

 いつだって何かするのは…奪い取るのは………お前たち優生・選民思想の持主だ!

 

 信じなければよかった…愛なんて…あいつらにも俺たちと同じ友愛の情があるからなんて………

 

 …奴らに…理性や愛や勇気…優しさといった当たり前の感情を求めた………俺が愚かだった………

 

 …自分たちの支配に反抗する者たちは………

 

 …選ばれた一部のスペースノイドによる地球圏支配に反抗する者たちは………

 

 …楽しい差別主義を邪魔する者たちは………

 

 …惨めに死んでいくべきだ………

 

 …そんな狂気の下…多くの人々が炎と光芒の中に消えていった………

 

 

 …焼き尽くす…このメガ粒子で…あいつらの残党を…骨の髄まで………

 

 くっ…ふふ…あはは…あはははは………はははははは………はぁっは…はははははは………

 

 …この地球圏から…醜いすべての命を焼き尽くす………

 

 …そして最後に………俺自身も燃やし尽くし………葬り去る

 

 

 

 

 

 

 

 幼い頃の俺は…人の善意というものを信じていた

 

 でもあの日…サイド4が焼かれたあの日

 

 死神の列をなしたあいつらは…独立の大義名分の下…無慈悲に…機械的に………

 

 …その火蓋を切って落とした

 

 サイド4の10億を越える人々が…数十の人工の大地と共に………

 

 …灼熱の核の炎と…メガ粒子に焼かれて…無残に…燃え尽きていった…

 

 …あまりにも呆気なく………

 

 …その時…俺の心の中にあった…無邪気な想いは死んでいった………

 

 …燃え尽きていった同胞たちと共に………

 

 

 

 

 可笑しいだろう?

 

 やり遂げる根拠も実力もないくせのに…必ず君を護るなんて…英雄染みた約束をして………

 

 

 

 可笑しいよね………

 

 …生涯を賭けて成し遂げようとした想いが………

 

 …こんなには儚いなんて考えもしなかった………

 

 

 

 可笑しいよね………

 

 …犠牲になったあの子たちじゃなくて………

 

 …生き残ってしまった俺が…いまさら怒りに打ち震えている………

 

 …俺はいつも考えが足りなくて…いつも手遅れで………

 

 

 

 可笑しいよね………

 

 …零れていく…あの誓いも…あの時の誇らしさも…大事なものは全部ぼろぼろになって………

 

 …怒りの炎で燃やされた心が…ぼろぼろに崩れて塵になっていくみたいだ………

 

 

 

 可笑しいよね……… 

 

 …ああ…すべてが遅すぎたんだ………

 

 

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