機動戦士ガンダム フルダブル 幻想純化奇譚 作:プリエ・エトワール
数奇な運命の末、その書簡を手に入れることとなったパステルオス・ヒュー・カーバインは、その内容を確かめ、己のなすべき役目を再確認していた。
元地球連邦議員の一人、ジオン・ズム・ダイクン
精神エネルギー操作系サイキックの権威、ロム・フラナガン
そして、生体エネルギー操作系サイキックの権威、ミナノ・ユメ・オーカザキ
彼らが、かつて完成させこそすれ、世に公開することができなかった夢の技術。未来の人類社会を存続させるための完全なる選挙システム。
通常の遠距離電波通信がミノフスキー粒子の存在によって不可能となった近未来。
地球圏から外宇宙へと進出した人類間では、距離が離れすぎているという状況がネックとなり、同時刻帯での意思の疎通や、意識の擦り合わせ、利益の分配といった行為が不可能となるだろう。
距離が遠く離れるば離れるほど、その溝は深まる。
これでは距離が開き過ぎた人類集団の将来的な分裂は必至。
互いに殺し合う状況が生じる可能性がある。
何らかの手段を講じ、その未来の破滅を阻止することは必須のことだ。
そこで、ダイクンたちが最終的に到達した手段こそが、知的生命体の持つサイコパワーとオーラパワーを用いた、広範囲の通信フィールドだ。
距離を超越して意思の疎通を果たし、民主主義的な投票活動をも可能とする、通信フィールド実現方法だった。
彼らはそのシステムを、仮に完全民主主義システムと呼んだ。
ジオン共和国の首相となっていたダイクンの死後、ダイクンと共にサイド3へと渡っていたフラナガン博士は、その研究のすべてオーカザキ博士へと受け渡す。
その果てに、オーカザキ博士はその手法を密かに確立した。
その核となる特殊物質、サイコ・オブジェクトとオーラ・オブジェクトの集合体である、イザナギ・オブジェクトの精製と共に。
故人となったダイクン元議員。一年戦争の終盤、失踪したフラナガン博士。そして、アステロイドベルトに身を隠したオーカザキ博士。
そのシステム構築理論と、その核となるイザナギ・オブジェクト。
それ等の品々こそが、彼らが未来に残した人類救済の真の遺産であった。
パステルオスはその事実を鑑み、決意を新たにする。
未来の人類たちがその技術を手に入れ、使いこなす時代を到来させるため、今は、この穢れ切った地球圏を正常化させる。
私や、シャア、シロッコで。
それこそが、我々が未来の人類たちのためになすべき役目なのだと信じて。
親愛なる我が同志 ミナノ・ユメ・オーカザキ女史へ。
このメッセージが君に届く頃、残念ながら私は地球連邦議員の職を辞して、サイド3で行動を起こしていることだろう。
それらの行為は、地球連邦議会からの要請によるものだ。
地球圏に溢れ出た、優生、選民思想に染まった差別主義者たちをサイド3へと集め、新たな国家モドキを立ち上げ、そこに隔離せよ。
そのように連邦議会は私へとオーダーを出した。
昨今の地球圏は、かつて地球連邦政府が根絶したはずの差別主義者で溢れかえっている。
おそらく、彼等、差別主義者たちの背後には、地球圏全体に反地球連邦運動を燃え上がらせ、何らかの利益を得ようとする何者かが存在するのだろう。
地球圏のそれぞれのサイドに、彼ら、操られた差別主義者が多数存在する状況を長引かせた場合、同時多発的に大規模テロが発生する可能性が高い。
差別主義者たちを武力弾圧せずに、各サイドの安全を担保するには、一つ所に彼らを集めて、そこに管理運営する疑似国家を用意する必要がある。
その必要に地球連邦政府は迫られ、すでに、もうこれ以上の議論もしていられない状況にある。
差別主義の罠に陥らなかった大多数のスペースノイドたちの利益を考えるならば、地球連邦政府は、一刻も早く一部の差別主義者たちを旧世紀のように弾圧し、その権利を力付くで奪い取り、アステロイドベルトにでも追放するべきなのだろう。
だが、それは今の地球連邦政府には不可能なのだ。
宇宙移民開始後、地球上で繰り返されていた人類同士の共食いという因習は、地球連邦黎明期の努力により根絶された。
地球連邦政府が果たした政治的偉業である。
その後、宇宙(そら)へと上がった人々は、その闘争本能の赴くままに他者を蹴落とし、命すら奪い取る悪癖と折り合いを付け、その殺し合いへと振り分けていた多くのリソースを、宇宙開拓へと振り分けた。
そうできるほど、宇宙開拓民となった人々は成長した訳だ。
地球上の獣の延長線上の生き物から、宇宙種たる新人類、ニュータイプへと着実に覚醒しつつあると言ってよい。
互いに他者と争い、殺し合いをすることなく、人類社会を発展、拡大させていくことのできる人類の革新へと。
このまま、人類が互いに殺し合うこともなく、あと半世紀、ユニバーサルセンチュリー100年という節目を迎えられたのなら、地球上の獣でしかなかった人類は、真に人類の革新たる新人類ニュータイプへと到達した。そう言えるだろう。
そういった社会状況で、地球連邦政府側が、差別主義者たちの裏側にいる存在の策略に乗せられ、武力制圧に乗り出してしまえば、それは非常にマズイ状況となる。
一時は鎮めた人類全体の闘争本能を刺激し、旧世紀と同じように人類が複数の陣営に別れ、殺し合う時代を、人が宇宙に進出した時代に再来させる危険性がある。
地球連邦の始祖たちより受け賜わった、我々、地球連邦政府関係者の使命。
人類の革新たるニュータイプを育て上げ、その種を存続させよとのオーダーを、自ら台無しにして、恩人たる始祖たちとの約束を反故にしてしまうこととなる。
だからこその、武力弾圧に拠らない、サイド3という地球より最も遠いサイドを利用した差別主義者隔離施設の準備。その管理運営計画なのだ。
そこで、私ジオン・ズム・ダイクンが、連邦議会によってその初代指導者として選ばれた訳だ。
これより、私は、かつて暗殺された地球連邦初代首相リカルド・マーセナルが残した真のラプラス憲章…そこに記されていた内容を捻じ曲げ、差別主義者たちへと投げ掛けるつもりだ。
その碑文に刻まれていた、将来的に選挙権を与えて地球圏の政治に参加させるべき新人類とは、何のことはない。
人類同士が、その闘争本能をコントロールし、宇宙という大自然に立ち向かう開拓事業に振り向けることができた、そんな人々のことでしかない。
自らの闘争本能をコントロールでき、その闘争本能を互いに殺し合う破壊的な行為から、宇宙開拓をはじめとした創造的な行為へと振り向けることができた、成熟した人類なのである。
だが、哀しいかな。
優生、選民思想に憑り付かれ、差別主義に凝り固まってしまった宇宙移民第二世代の者たちには、私の新人類論は歪んで聞こえることだろう。
宇宙の選民思想の極み。宇宙世紀の救世主的な超人類到来の予言と。
超越的な力を有する超人類到来思想とは、言ってしまえば、宇宙の救世主とそれに従う者以外を、不要な存在とみなす選民思想に他ならない。
そんな、人類社会全体の幸せとはまったく関係のない、一部の人々のみを利する愚かな思想といえる。
そんな暴論と波長が合ってしまう者たちは、すぐにこの新人類論に、餌を投げ入れられた池の鯉のように食いつくだろう。
そこに、サイド3でのスペースノイド独立論など上乗せすれば、連中は、自分たちこそが選ばれたスペースノイドと思い込む。
私の許に集いきて、その新人類ニュータイプ誕生の土壌を形作るのは我々なのだ。そう勘違いして、狂喜乱舞することだろう。
一種のバカ発見器です。
ナチュラルに民主的な考えを思考軸とする人物には、新人類ニュータイプとは、地球圏という人類の新たな生存圏を切り開いた、単なる開拓民たちの延長であると考える。
しかし、ナチュラルに選民思想に取り付かれた愚か者たちには、宇宙の超人、救世主を待望する優れた思想に聞こえる…そういうことです。
そんな、差別的な人々が物事の善悪を考える時、その思考軸が非常に残念なため、そういう腐ったサイエンスフィクション的思考に至ってしまうのです。
連中は、個体、個人でありながら、社会全体へと多大な影響力を持つ超越者を求め、そういった存在に支配されることを望み、そうなることこそが、人類全体の幸せと信じている。
哀れなものだ。
個人の幸せとは、自分自身の力によって勝ち取るものだ。
それにもかかわらず、彼等は超越的な力を持つ他者に自分の未来を委ねるという。
他人は他人。我は我。
自分自身ではない他者が、他者の望みを願望通りに、正しくそのまま叶えることなどない…と、いうのに。
なぜ、一時は地球上で肥大化させた闘争本能を鎮め、宇宙開拓によって地球圏を切り開いた人類が、こうも差別主義的な思想に捕らわれ、劣化してしまうのか?
とても哀しく、同時に滑稽でもあります。
しかしだ。
そういった愚かな者たちであるからこそ、私、ジオン・ズム・ダイクンは、ハーメルンの笛吹男のように、道化を演じることが可能なのです。
宇宙世紀の愚者を演じ、差別主義に囚われた人々を地球圏全域から集め、サイド3の隔離施設へと導くことができるのです。
連中の瞳には、捻じ曲がった新人類論を言って聞かせる私が、未来を語る預言者のように映ることだろう。
地球連邦政府による周到な準備の末、用意された偽の独立運動を成功させて後、私は、新たに誕生した国家モドキの管理運営を担う人身御供として、長らく働いていくこととなる。
正直、人生の貴重な時間を、差別主義者共のお守りに使うのなど勘弁してほしいものだが、人類の存続を意図する地球連邦政府議員の一人であった以上、その責務に背を向け、逃げ出す訳にもいかないのです。
どうか、その一点を汲み取り、私の犯した罪、あなたへの不実を許して頂きたい。
残念ながら、私はもう、フラナガン博士や君と共に、未来の人類を救う選挙システム構築などの夢は追っていられない。
私、ジオン・ズム・ダイクンは、地球圏の為政者の一人として、これより、今、目の前にある現実の事象にのみ相対し、戦っていかなければならない。
良くも悪くも、そういった運命を私は背負っているのです。
すまない。
共に同じ夢を見た、我が真の同志よ。
これでお別れです。
これからも、強く、気高く、己の信じる道を突き進んでいってください。
あなたの友、ジオン・ズム・ダイクンより。真心を込めて。
追伸
私が、あなたたちの研究のためにできる資金面での援助は、これが最後です。私の個人資産のすべては、ほぼ、あなたとフラナガン博士の個人口座へと振り込んでおきます。
あなた方お二人への友情の証としてそれらは差し上げます。どうか、我々の真の夢を実現すべく、お使いください。
ただし、妻には内緒ですよ。
「…だが、それら未来の人類のためになされた飽くなき努力は、ザビ家の野望のためにその多くが失われた…酷いものさ。ザビ家だけではない…連中が本物の気狂いだと気付けなかった我々もだ………」
アナハイム本社の重役しか利用できないブリーフィングルームで、一人、パステルオスが気怠げに声を絞り出す。
「…ザビ家のギレンが、人類の半数以上を死に至らしめるほどの大虐殺を本気で実行するとは見抜けなかった。一度は、地球上での共食い殺し合いを止めた人類が、再び宇宙で闘争本能に狂い、殺し合うなど、我々は考えたくもなかったのだ」
「しばらくすれば、ザビ家の連中も大人になり、児戯に等しい革命思想から卒業し、地球連邦とジオン公国という立場こそ違えど、いずれ人類全体のために働いてくれると、そう高を括って」
「そんな性善説に傾倒した甘い考えに浸っていたが故に、我々は…宇宙開拓の末に人類全体が、互いに殺し合い、奪い合うという闘争本能を乗り越え、真のニュータイプに進歩する…そんな機会を失わせてしまった………」
「…再び人類がその境地に達するまでには、後、数世紀は必要だろう。それは、我々の決して取り返しのつかない大罪である」
一人、ダイクンからの書簡の中身を再び目を通したパステルオスは、過去に何度も発した感想を切々と語った。己の大罪の大きさに鞭打たれながらも。
「その大罪の清算は、今、この戦後の時代を生きる我々がやらねばならないのだ………辛いが…ね」
一年戦争終結後。
地球圏は、宇宙の差別主義者たちが狂ったように唱え出した歪んだ超人的ニュータイプ論に席巻されていた。
ザビ家とジオン公国軍を打倒した連邦軍内部の一部の者たちさえ、その思想の毒気にやられ、いずれ、地球に攻め込んでくるニュータイプを迎え撃つべく、対ニュータイプ兵器や、それらを扱える特殊な化物部隊を創設しようという態度を取っていた。
本来、ニュータイプ論とは、互いに争い合わず、殺し合わず、互いを尊重して生きていく優れた存在に人類はなるべきだ。
そう結論付けた思想であった。
そうだというのに、超人めいたニュータイプモドキに対抗するために、自分たちもニュータイプモドキになろうとすることは、本末転倒の行為である。
自分が生き残るための防衛策と称し、他者を攻撃する準備をし、実際に殺し合う。
それは、本来のニュータイプ論からもっとも遠い化物到来を望む思想でありましょう。
人類の総人口の半数以上を殺害するという大罪を犯したジオン公国軍。そんな輩の唱えた、超越者的ニュータイプ論とほぼ同じではないか。
少数の超越的存在を誕生させるためならば、何をしても構わないという理性なき思想だ。
戦後、その事態を招いた大半の責任は、主に、ホワイトベース隊のエスパー型ニュータイプたちにあったとも言える。
エスパー型のニュータイプは、本来の新人類論とは別物である。
だが、ホワイトベース隊の一年戦争中の活躍は、一般人たちに超人類的な存在こそが、本物のニュータイプであると誤認させるには十分であった。
もし、戦後、その中の一人だけでも歪んだニュータイプ論を否定していれば、以後の歴史は穏やかなものとなっていたかもしれない。
「我々は戦争という極限状態の最中、エスパー的な能力に目覚めた哀しい存在でしかありません。人と人とが殺し合わない世を到来させる…そんな、ジオン・ズム・ダイクンが語った真のニュータイプとは別物の、憐れな紛い物ですよ」
そうとでも語っておけば、戦後の事態はこうも酷くはならず、且つ、地球連邦政府の高官たちも安心したことだろう。
アムロ・レイも彼等に…遠からず地球圏でオールドタイプとニュータイプを殺し合わせる危険な存在になる…そう見做されることなく、地球上の豪邸で軟禁されることもなかっただろう。
だが、現実は過酷だ。
地球連邦軍側も、ジオン公国軍残党側も、ホワイトベース隊の活躍を強く認識してしまった。そのために、自らも同程度の力を得ようと動き出した。
歪んだニュータイプ論に取り込まれ、どいつもこいつも己の正体、成すべきことを見失った。
パステルオス・ヒュー・カーバインは、そんな現在の地球圏の状況を改善しなければならない立場だ。
その思考、行動の背後に歪んだニュータイプ論を持つ人々は、その力を手に入れるために、延々と殺し合いを続けるだろう。
それでは、地球圏の力なき一般人たちは、ずっとそんな狂人たちの殺し合いに付き合わされ続け、決して安息の日々を迎えることはない。
宇宙の電気屋さんアナハイムエレクトロニクスの副総裁であるパステルオスは、その最大の顧客である一般のスペースノイドたちの利益を守る義務があった。
なぜなら、力なき一般スペースノイドたちの利益=アナハイムエレクトロニクス最大の利益なのだから。
また、ダイクン議員やフラナガン博士、オーカザキ博士が、未来の人類たちのために残した、その遺産の存在を知るものとして、それらを譲渡するに相応しい者たちが育つ、厳しくも毅然とした社会の土壌を形成しなければならない。
それもまた、将来的に地球圏の住民たちと、アナハイムエレクトロニクスの利益となるのだから。
そのために、パステルオスがなさねばならぬ物事は膨大にあった。
「…歪んだニュータイプ論に溺れた連中など、フラナガン博士が仕掛けた罠に捕らわれて、全員、死ねばいいのに」
パステルオス、ちょっとキレた。
強靭な意思と気高さを合わせ持つパステルオスも、そのプレッシャーで時には押し潰されそうになる。
似合わない弱音も、時には吐こう。
なお、パステルオスの言ったフラナガン博士が仕掛けた罠とは、博士が、ジオン公国軍フラナガン機関所属中に確立した、エスパー型ニュータイプの紛い物を育成する強化人間育成プロジェクトと、サイ・コミュニケーション技術のことである。
とんがり帽子のビットとか、ファンネルを操るアレだ。
まず、強化人間育成プログラムとは、無理な強化改造を人体に施させ、強化改造を実施する側も、被験者側も、その資金を拠出した側も、色々な意味で破滅させる罠である。
そして、サイ・コミュニケーション技術に使用されるサイコ・オブジェクトなる物体とは、じつは、サイキック強化用物質の片割れでしかないのである。
はじめから暴走する代物を、暴走させるべく人殺し共に渡す罠なのである。
サイキック研究の権威であったロム・フラナガン博士は、ジオン共和国に移住する前から知っていた。
いわゆる超能力には二つの系統があり、人の精神力を強化、利用するサイコ系と、人の生命力や肉体を強化、利用するオーラ系があると。
ジオン共和国のダイクン首相死後、サイキック研究でザビ家に協力する姿勢を見せたフラナガン博士だったが、彼は、初めからその半分しかザビ家とその走狗共に渡すつもりはなかった。
意地が悪い。
だが、超人的な力を得たいと願う人々を叩き潰すには、とても効果的な手段だった。
サイコ力とオーラ力は、言うなれば地球と月、陰と陽、男と女のような、互いを補助し、助け合う存在である。二つ揃っていなければ、完全な安定や制御は不可能なのだ。
片方の力しか扱えぬ者には、破滅しか齎さない。
たとえば、男か女が片方一人だけで自慰行為に浸っていても、子供を授かるはずもない。
子孫も残せず、ただ老いて死ぬだけだ。
属性の違うパートナーを得られなければ、そこに未来はない。
そうと知っていて、フラナガン博士は、素知らぬ顔でサイ・コミュニケーション技術のみをジオン公国軍に投げ与えた。
計画通りというヤツだ。
酷過ぎだが、ザビ家の走狗共を破滅に導くためには効果的だった。
そのように、フラナガン博士がザビ家を頂点とした差別主義者側にその持てる力を片方しか与えなかったことに対し、対極的にすべての力を与えられた者たちも存在した。
フラナガン博士の研究を引き継ぎ、己の研究と併せて完成させた、オーカザキ博士に選ばれた者たちである。
それも、陰陽思想でみる対極図中、陰中の陽、陽中の陰の属性を相合わせた、精密に形作られたオブジェクトである。
サイコ・オブジェクト内部に、僅かにオーラ・オブジェクトを混入させた、一般人でも制御可能な完成品のサイコ・オブジェクト。
オーラ・オブジェクト内部に、僅かなサイコ・オブジェクトを混入させた、一般人でも制御可能な完成品のオーラ・オブジェクト。
これらをすべて受け取っていた者もいた。
ダイクン元議員とフラナガン博士がサイド3へと向かった後、すべてのサイキック研究を引き継いだオーカザキ博士は、アステロイドベルトへと渡航。
そこで、ダイクンの死の数ヵ月前に、完全民主主義システムの研究を、実用段階にまで高めたのだ。
彼女はその完成品を、ヤーパン古代からの宝物サンシュノジンギを模した美術品として仕立て上げた。
そうして、ダイクン、フラナガン、そして、もう一つの研究資金拠出先であったアナハイムエレクトロニクス、その会長メラニー・ヒュー・カーバインへと送った。
そんな経緯があり、これらの品々は、ヤーパン神話でこの世界を形作ったとされる造化三神と、二神の力を受け継ぐリーン・イオギィの翼の宝具、イザナギ・オブジェクトと名付けられた。
だが、その火星圏からの移送中にダイクンは死亡し、その許に、サンシュノジンギの一つ、クサナギノツルギが渡ることはなかった。
その後、クサナギノツルギは、ダイクンの忠臣シンバ・ラル翁が一時保管し、ダイクンの遺児キャスバルにも渡すこともなく、アナハイムのメラニー会長の許に送られる。
また、二つ目のヤタノカガミも、フラナガン博士がザビ家にその存在が知れ渡ることを恐れ、メラニー会長へと譲渡した。
そして、三つ目、ヤサカニノマガタマを受け取っていたメラニー会長もまた、それらを我が物とすることはなかった。
地球圏の未来を託すべき一人と見做された黄金の精神を宿す若者、パステルオスの許に、それらは集められたのだ。
パステルオスは近年、それらの品々にそれぞれ、秘密裏に施されていた設計図を解析し、その完全版の設計図を基礎として、新たなイザナミ・オブジェクトを完成させる。
MS用サイコ・オーラ・コンバーター開発成功と前後し、鋳造されたムミョウケン(無銘剣)である。
モビルスーツが使用するに足る、全長20メートルにも及ぶ巨大な刀剣だ。
刀身がユカリ(紫)とラン(藍)の二色の輝きを揺らめきながら放ち、チェン(橙)色の鈍い輝きを放つ柄に取り付けられた、境界を操るヤクモ断つ巨大刀剣であった。
しかし、その本来の使用法は武具ではない。
優れたサイキッカー(ニュータイプ)が使うテレパス空間。
それと同レベルの空間を一般人が使用できるフィールドを形作り、その内部で、投票行動演算機として役割を担う、複数の機能を有する宝具であった。
本来、数十億もの人類が一度にテレパス通信など実施すれば、脳に過度の負担が生じ、即座に死亡してしまう。
だが、何と、その負荷もサイコ力とオーラ力を用い、境界中の疑似演算回路へと取り込み無害化。
さらに、使用者たちの知的レベルも一時的にブーストし、他人を操ろうとする者のプレッシャーを跳ね除けさせ、一人一票のルールを完全に守らせる機能も有していた。
チートにも程がある超絶宝具である。
「…」
パステルオスは、それらのデータを見直して、ネガティブになっていた己の精神を整えた。今は弱気になっている場合ではないと。
「まずはアステロイドベルトで、このシステムを小規模に実演してみせる。そして、これら未来のためのシステム完成には、君の父親であるダイクン卿も関係していた………」
「…サイド3独立運動へのダイクン卿の参加は、じつは、地球連邦政府からの指令であり、その本心ではなく、こういった未来への投資こそが、真に君の父が望んでいたことだ…そうキャスバルに伝える。すべてはそれからだ………」
「…頼むぞ、黄金の意思を引き継ぐ子供たち。ユウ、サニア、ルーナ、ステラ。ムミョウケンは君たちが引き継ぐのだ」
「君たちのような人々がその精神に宿す、黄金の精神を次代へと引き継ぎ、優生、選民思想、差別主義になど取り込まれない、より誇り高い道を選べる人々を育成していくために………」
「…そうしてこそ、真のニュータイプの世を地球圏に実現できるのだから」
そう自分自身に言い聞かせると、パステルオスは、自分以外に聞く者のいない重役用ブリーフィングルームから退出していった。
自分以外、ダイクンからオーカザキ博士へと送られた書簡、ムミョウケンのデータを閲覧できないよう、処置を施した上で。
ダイクンからの書簡 終
メモ
ここまで私のお話に付き合ってくれた方々には、もう、ご理解していただけたと思いますが、宇宙世紀には二種類のニュータイプ論が存在します。
一つは、アムロやララァといったエスパー的な強大な力を持った存在こそがニュータイプで、その誕生に寄与することが人類の未来につながる。そのためには、多数の人々が犠牲になっても厭わない。些事であるとする暴論。
ザビ家率いる優生、選民思想に捕らわれた差別主義者たちが、地球圏乗っ取りに利用した理論です。
もう一つは、単に地球上の闘争劇から離れ、宇宙移民となり地球上という争いの場から離れることで、人類の闘争本能と折り合いを付け、殺し合わなくても生きていけるようになった人々。そういった人々こそニュータイプであるとする説です。
地球圏のスペースノイドたちは、この二つのニュータイプ論に日々、翻弄され続けています。
本作は主に、宇宙開拓のために宇宙に上り、闘争本能を折り合いをつけた人々こそニュータイプであるという論を主軸として、物語を構成しています。
メモ2
ダイクンからの書簡中、差別主義者たちを裏から操っていた人物がいると語られていますが、もちろん、デギン・ソド・ザビ…後のジオン公国公王のことです。
移民第二世代の何も知らない若造たちを独立運動に駆り立て、その一方で、地球連邦政府に働きかけ、反乱者たちを管理運営する隔離所を、連邦政府の管理区域外に誕生させる。
そして、自らも隔離施設の管理運営側の一人として入り込む。
時を待ち、ついにそのチャンスが到来すれば、そこを乗っ取って自分が権力の座につくために…です。
メモ3
本作には所謂、高次元の意識体とされるオーバーマインド的存在や、その出来損ないの邪神が存在し、登場もします。
ザビ家が地球圏制圧、乗っ取りのために利用した超人型ニュータイプ論の行き付く先が、このオーバーマインドですね。
惑星居住の知的生命の意識の集合体であり、知的生命体と居住惑星が滅びると当時に出現する神様モドキ。
そんな、人類の種族的幸せとは全く関係のない、命の尊さと断絶した理論に取り込まれた人々は滑稽である。
その歪んだ意識を土壌にして、ジオン公国という邪神モドキ国家を生み出すに至り、その末に、自分の半身である人類の総人口の半数以上を死に至らしめてしまうのだから。
将来、縁を通じて、夫や妻となり、己の未来である子孫を共に生み育てることもあっただろう人々。
そんな、自分の未来を共に形作ったかもしれない半身を死に至らしめて、何をしたかったって言うんでしょう。
宇宙移民の独立?
それだけの理由で大虐殺?
滑稽だなあ。
独立を謳った宇宙の選民様たちの正体=醜く歪んだ精神を待つ邪神モドキ(笑)