機動戦士ガンダム フルダブル 幻想純化奇譚 作:プリエ・エトワール
間違ってなんていない!
シャドール第一艦橋。
戦況の不利を知って、その乗組員たちは浮足立っていた。
なぜならば………
「メッ、メガ粒子砲…敵艦の前方でっ…しょっ…消失しています!」
「てっ…敵艦健在! そっ…損害軽微の模様!」
…予想外の事態。
自分たちは今この時、前例のない敵と対峙している。
そう知ってしまったのだから。
「なっ!? なんだとっ!」
シャドール第一艦橋、部下の戦況報告を聞いたナイト提督が、提督用シート上で吼えた。
こんなことがあり得るとは、ナイトは欠片も思ってはいなかった。
我等、優良たるジオン公国の民以外が、メガ粒子砲を無効化する新装備を手にしているだと?
そんな新兵器を開発できる余力を持っている?
あいつらは、時代遅れの連邦軍以下の民兵集団だぞ?
馬鹿な…これは夢なのか?
…と。
そんなナイトの常識は、歪み切った優生主義同様、完全に…ぐにゃり…と歪み、見るも無残な有様と成り果てていた。
ナイトは、ストレスがマッハで気が狂いそうだった。
そんなはずはない!
そんなことがあってよいはずがない!
我等、 優秀なるジオン公国の臣民以上の者など 存在してはならないのだ!
僅かな時間、ナイトは目の前の不利な現実を認めようとしなかった。
だが。
このまま、茫然としている訳にはいかない。
今は戦闘中であり、その上、自分は艦隊指揮官だ。
ジオン公国軍の兵士としての誇りを取り戻せ!
旧世紀ヤーパンの大本営ではないのだ。
終戦まで…あるいは死ぬまで…現実を受け入れられなかったあの愚か者共とは違うのだから。
いつまでも妄想と戯れてはいられない。
(セルフコントロール…ハチワレン・ナイトよ、妄想に逃げ込む弱者の思考に飲まれるな…冷静となり、現実へと立ち向かえ)
こんなことはあってはならない!
などと、叫び出しそうになる動揺と怒りを抑え、ナイトは頭の中を最大限に稼働させた。
そうして、すぐさまメガ粒子砲喪失への善後策を考え始める。
思い付かねば死ぬだけ。
その程度のことは、思考能力が残念になっていたナイトでも理解できた。
やらねば。
(………これだ!)
「うっ…狼狽えるな! J型ミサイルと各部ミサイル発射管開け! メガ粒子砲が効かぬのならば、ミサイル攻撃と、ジッコ突撃艇での攻撃に活路を見出せ!」
「りょっ! 了解! 各発射管斉射開始せよ!」
シャドールの乗組員たちもまた、不利な状況になったと知りつつも、ナイトの指示におとなしく従った。戦闘法を変更し、砲撃から爆雷撃への切り替えを急ぐ。
すでに、戦場より逃げ出すチャンスは逃している。
逃げるという選択肢はすでに消えている。
ならば、戦って勝利し、生き残られば。
この危機を何かしらの方法で乗り切らねばお終い。
戦い続け、生を勝ち取る以外に未来はない。
それは彼ら、ジオン公国軍の兵士たちとて同じ。
呉越同舟。
今や状況は、数分前の過去とは一変している。
戦場で、ジオン公国軍側が、一方的に虐殺することを許された状況は、もはや過去。
今現在のこの戦闘宙域では、ミリシア軍側、ジオン公国軍側の力量の差は埋まり、平等に生存競争の場となっていた。
勝てば生き残り。
負ければ真空の宇宙に投げ出され、屍と化す。
シンプルで平等なルール上での闘争。
そんな戦場での危うさに晒され、ナイトも指揮下の兵員たちも内心、恐れ戦いていた。
だからこそ、彼らは前に進み、戦い続ける道を選ぶ。
選ばなければならなかった。
もし怖気付き逃走の素振りを見せれば、たちまち、死神の群れとなったミリシア側にその隙を突かれ、追い縋られ、乗艦は撃破されるだろう。
ナイトも、指揮下の兵員たちも、そんな戦場の厳しさを肌で感じていた。
旧世紀、人類がまだ地球上で汲々としていた過去のこと。
戦場の戦線が崩壊して後。
追撃される状況がもっとも損害が大きかった。
ミノフスキー粒子散布によって前時代的になったこの戦場も、理屈は同じ。
逃げ出せば、追撃され、お終いなのだ。
それが、我々が置かれた今現在の状況だ。
逃走からのカウンターなど、後方に友軍が控えていればこそ可能なこと。
その助力なき機動突撃艦隊は、怖気て逃げれば、一方的にミリシア側に狩られるだけなのだ。
そう。
戦わなければ生き残れない。
Ⅾead or alive
ナイトはじめ突撃機動艦隊の兵員たちにとって、今がその時なのだった。
!?
「敵マゼラン級前進! こっ…こちらに向けっ! いっ…一直線に突っ込んできます!」
「くっ!…操舵固定! 舵を切ればJ型ミサイルの弾道が逸れる! 発射まで保たせろ!」
「はっ! 了解であります!」
「それと! ジッコ突撃艇に両側面からの挟撃指示! 急げ!」
「こっ…こちらシャドール! ジッコ突撃隊に告ぐ!」
!?
「てっ…提督! どっ…どちらへ?」
支持の直後、提督用シートを離れ、踵を返して艦橋より退出しようとするナイトに、シャドール副長がそう質問した。
まっ…まさか…自分だけ逃げるつもりなのかとの考えを滲ませて。
「馬鹿者! 私もザクⅡで出撃する! 全戦力を投入するのだ! 艦を頼むぞ!」
「はっ…はっ! 御武運を!」
背後を振り返ることなく副長の疑問に答え、格納庫へと急ぐナイトだった。
もはや、この艦橋でできることなど何もはない。
ならば、成すべきことは一つ。
MSへの搭乗である。
もちろん、逃げるのではなく単身、MSパイロットとして戦うためだ。
だが、それは状況次第。
このままシャドール含めた艦隊が、状況を打破できず撃沈するならば、単身、この戦場から撤退するつもりであった。
艦隊の提督として、できるだけ的確な指示を出すという義務は果たした。
それならば、後はMSの1パイロットとして、自分の利益を第一に考えるという合理的判断である。
ナイト以外の者たちが、その行為をどう受け取るかは別問題として………
…つまり。
勝ち目が有りそうなら残って戦う。
勝ち目がなさそうなら、味方の残存兵を囮にし、単身、ザクⅡで撤退するということだ。
クズばかりのキシリア・ザビ旗下の人物らしい、自分にのみ優しく、他人に厳しい、都合の良いムーブである。
どれほど頭脳明晰といえど、性根はまた別物だ。
これが、ハチワレン・ナイトという人物の属する本性であった。
おお! 何たる卑怯者か!
平和主義者ガンジーでさえダッシュで殴り掛かる外道振りであった!
対するマゼラン級メイストーム第一艦橋。
「敵艦チベ級、進路そのまま!」
「大型ミサイル発射! 来ます!」
(各砲塔迎撃せよ!)
緊張感で張り詰めた艦橋に、戦い抜く覚悟を決めた部下たちの報告が響く。
その最中、メイ・メイは精神を集中させ、艦内の全乗組員へと感応波を使い指示を出し続けていた。
(了解! 我々も敵の動きを感じています!)
(やってみせますとも!)
(みすみす殺されてなるものですか!)
(共に生き残って見せましょう!)
(みんな! 頼む!)
マゼラン級メイストームは、艦首前方に据え付けたIフィールド・アンブレラシステムとのドッキングにより、艦首砲塔が全使用不可となっている。
対メガ粒子防御強化の代償だ。
そのため、メイストームの主砲は、艦橋付近甲板上の砲塔のみとなっていた。
そんな主砲に屯する砲手たちは、艦長であるメイ・メイたちとの一体感を感じつつ、自らの訓練の成果を見せるタイミングを計っていた。
(全砲塔共に実弾への換装完了しているわ! 私たち整備班ができるのはここまでよ!)
(後は頼みます!)
(任せて!)
(やって見せる!)
(みんなの想いも共に!)
整備班の者たちの声援を受け、己を奮い立たせる。
(来る!)
(今!)
(全砲門! てぇー!)
(いっけぇー!)
メイストーム砲手たちのミサイル迎撃は、感応波の助けもありベストタイミングで放たれた!
シャドール両舷に設置された発射管より放たれたJ型ミサイル。その数2つ。
共に一撃でサラミス級巡洋艦を撃破轟沈させる威力を持つ、チベ級改式やザンジバル級に設置される武装の中では、最も高威力の武装である。
そのJ型ミサイルを的確に連続で狙撃し、迎撃して見せたのである!
信管を撃ち抜かれ、大爆発を引き起こすJ型ミサイル。
その爆炎に飲まれ、チベ級の通常型ミサイルも次々に誘爆した。
ワザマエ!
(よくやった! 操舵主取り舵! 敵艦同軸線上より艦体傾け30°! 衝突コースより離脱! 敵艦すれすれを航行し、砲撃戦にてチベ級を撃破する! 各砲準備! やって見せて!)
(まったく…厳しいオーダーばかりの艦長ね! ぷんぷん!)
(でもやってやんよ!)
(ええっ!? ヤバッ! 側面よりジッコ攻撃艇! 複数!)
(ヤダ! 間に合わない!)
(え? 嘘!? キャアアッ!)
見事、J型ミサイル迎撃に成功したメイストームの艦内が歓喜に沸いた。その成功を受け、メイ・メイは次なるオーダーを各員へと伝えた。
このまま、最後までやってやると!
しかし。
敵はチベ級シャドールのみにあらず。
J型ミサイル迎撃後、飛来するジッコ攻撃艇複数へと対応しようとするが、間に合わない各砲手たちであった。
ネオの感応波制御によって、如何にアムロ・レイ並みの先読みが可能となっていても、マシーンがその反応速度に追い付けなければ、思うような活躍は難しい。
また、手に負えない数を一挙に相手取れば、対応も不可能となる。
これより約一年後。
ア・バオア・クー決戦でのアムロ・レイは、マグネットコーティングされたRX78ー2に搭乗していればこそ、シャア・アズナブル駆るジオングに打ち勝て、生き残れたのだ。
いくら高い戦闘能力を有していても、追随できるマシーンの補佐なくして実力は発揮できない。
本来、マゼラン級という艦は、精密なレーダーに頼った砲撃戦用である。
この時期、モビルスーツ隊やジッコ攻撃艇といった兵器との接近戦闘には、ほぼ対応しきれていない。
そのため、チベ級との対決に集中していたメイストームは、迫りくるジッコ攻撃艇迎撃が送れた。
(私たち、これでお終い?)
(おじゃんで御座います?)
(いやーん!)
だが。
彼女たちもまた孤立していたわけではない!
(ここは任せて!)
(騎兵隊の登場よ!)
現れた救い主。
それは、生き残りのトマホーク、セイバーフィッシュ隊であった。
その援護により、メイストームへと群がったジッコが次々と迎撃されていく。
もっとも的確に敵機を撃墜できる瞬間。
それは、標的を攻撃しようと、敵機を駆るパイロットたちの意識が集中した瞬間である。
その時、周囲への警戒は疎かとなる。
トマホークやセイバーフィッシュのパイロットたちは、的確にその瞬間を捉え、ジッコ群へと襲い掛かった。
同レベルの兵装であれば、攻撃のベストタイミングを掴み取れ、その上、数の上でも勝るミリシア側が圧倒的に優位。
ニンジャスレイヤーネオが制御する感応波の加護があればこそだが、彼女たちはそれを可能としていた。
ビームガトリングと実体弾の火箭が奔り、ジッコ複数隻を次々と穿っていく。続く爆炎。
虚を突かれて、ジッコ攻撃艇群は成す術もなく撃破されていった。
その後、コックピットで僚艦へと敬礼してみせる、トマホーク、セイバーフィッシュのパイロットたち。
ヤッター! カッコイイ!!
(やたー!)
(助かったー!)
(ありがとう! 宇宙戦闘機隊のみなさん!)
(これなら!)
(ええ!)
(チベ級を墜とせる!)
(いっけえー!)
(こちらメイ・メイ! 機関部、最大艦速! 撃ち方整え!)
厄介な邪魔者は友軍が始末した。
改めて、すべての艦砲をシャドールへと向けるメイストーム。敵艦左舷すれすれを通過しつつ、砲火を集中させる。
一方、シャドール側の反撃は狙いが定まらない。
攻撃をミサイル優先から艦砲へと容易に変更できずにいた。
その点、準備不足のシャドールより、準備万端のメイストームが優位であった。
(一番砲、二番砲、続いて、三番、四番砲、着弾確認!)
メイストームの放つ実弾が、次々と敵艦の厚い装甲を穿つ。
連続で艦体へと直撃弾を受け、激しく損傷していくシャドール。
各部ブロックが耐えられずに炎を上げ、爆炎が艦全体へと広がり飲み込んでいく。数多くの乗員を道連れにして。
滅びの時は到来せり。
ここに、ジオン公国軍起動突撃艦隊所属、ナイト艦隊旗艦チベ級シャドールは轟沈した。
驚くべきことに、この宙域で勝利を勝ち取った者たちは地球連邦宇宙軍ではなかった。
取るに足らない武装集団と思われた、ミリシア軍パルチザン艦隊所属の勇士たちだったのである。
殺し間とされた宙域で 12 へと続く
前書きや後書きで上げていたオリジナル歌詞は、発表して1日から数日で排除します。
更新してすぐ読んでくれた人のみ見てくれればいいや。
そんな判断です。
排除した歌詞は、別の場所で保管していますので、後でまとめてどこかで発表するかもしれません。