機動戦士ガンダム フルダブル 幻想純化奇譚   作:プリエ・エトワール

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 本編0084年を進めます。

 0079年での大戦中、ユウ含む反ジオン公国軍のミリシアに対して、共に支援をしていた秘密諜報組織ヌエと、アナハイムエレクトロニクス。

 この双方が対立を開始する事件の始まり。

 パステルオス・ヒュー・カーバイン率いるアナハイムの計画。二虎競食の計によって後の地球圏に不要な連邦軍内部の軍閥、ジオン公国側の残党集団を排除するという策謀。

 その遂行の邪魔になると思われる民間人排除に、アナハイム側の強硬派が乗り出してしまい、ヌエ側が地球圏の未来の指導者として大事に育成していた人物の一人を………って内容です。

 ネタバレはここまで。

 後は読んでのお楽しみです。

 


消え逝く真実の語り部 その果てに 1

 無縁の塚に建つ掘っ立て小屋で

 

 

 まだ朝日が昇り切らぬ黎明のころ。

 

 曙光を背後から浴びて一台の黄緑色の車体を持つHAROcar(ハロカー)が、海岸線側の車道を走り抜けていた。

 

 AI搭載の自動走行で、法定速度をしっかり守り走り続ける小型電動自動車。

 

 その座席に腰かけている者といえば、頭の両脇にイヌミミ型の補聴器と、尾骶骨部にイヌシッポ型の骨伝導機を取り付けた少女だった。

 

 別にコスプレをしている訳ではない。

 

 彼女のような立場の者達には必須のツールなのだ。

 

 彼女は先の大戦による戦災孤児だった。

 

 ジオン公国軍による月のマスドライバーからの地表攻撃と、その後のコロニー落しの。

 

 どちらも広範囲無差別攻撃に該当し、無論、大質量の落着時、地表広範囲に多大な衝撃波発生を伴う。

 

 たとえ爆心地から離れた遠方にいたとしても、幼子(おさなご)達には苛烈過ぎる仕打ちであった。

 

 まだ成長途上の未発達の身体をめちゃくちゃに翻弄し、障害を残すには十分な威力を持った衝撃波。そんな被害を受ければ、その生涯において自然治癒不可能な障碍を受けるのも無理からぬことだ。

 

 さらに続いた大災害。

 

 そんな過酷な環境下、障害治癒のための速やかな治療など受けられるはずもない。

 

 そのために少女は聴覚を損傷し、満足な治療も受けられぬまま、脳機能に消えない障害を負った。

 

 一年戦争後の地球圏には、彼女…キョーコ・ワギャン・スガタニ…のように、まるで獣人のような姿をした者が少なくはなかった。

 

 いや。

 

 正確さをもって記せば、地球上では五体満足、或いは、精神に傷を負わずにいられた者たちこそ、少数派であった。

 コロニー落し後の過酷過ぎる環境により、地上住みの各々は命こそ長らえたとはいえ、多くの者を失った。

 

 逆に得た者たちといえば、戦中、無法状態の最中、勝手に地球に入り込み、居住権を主張しはじめた元スペースノイドの不法逆移民ぐらいだろう。

 

 四肢の欠損や、五感のいずれかの喪失。

 

 その程度ならまだ軽度の障害といえた。

 

 脳に無視できぬ損傷を受け、睡眠を取ると前日の記憶を丸々失ってしまう者、また、過去の戦禍のトラウマを克服できず、発狂し子供帰りしてしまった者なども少なくなかった。

 

 戦中に数多くの障碍者たちの世話に奔走され、心を病み、戦後、心を閉ざした者。その他、数え切れない理由によって戦後の社会で居場所を失った者。

 

 人類社会の大いなる損失であった。

 

 そんな過酷な大災害以後、地球圏全体の人々が、見知らぬ相手に対して過度に攻撃的になったのも道理であろう。

 

 それはともかく、この時、ハロカーに乗車しているキョーコという少女はある目的があった。今日、そうできるのも、彼女自身の幸運と、良識ある人々との縁あって、戦争という人類の悪癖の犠牲者にならずにいられたからこそであった。

 

 「あっ、メカマル。前方で道路が陥没してるよ、避けて」

 

 「アイヨ。ネライトブゼ!」

 

 一年戦争後の北米西海岸各地には、いまだ復興が間に合っていない箇所があり、暫定的な処置として危険地帯を知らせる発信機が設置されている。

 

 そんな前方の道路状況を知らせる信号をイヌミミの受信機能で受け取り、キョウコがAIメカマルに支持を出す。

 

 イヌミミ型インターフェイスは、補聴器としての機能のみならず、戦後の地球上で生き残る上での必須のギミックとして機能していた。

 

 かくして、AIメカマルはキョーコに指示されたとおりにHAROcarを操縦する。

 

 HAROcarに使われている謎素材ハロ・チタニウムγの柔軟性を利用しダッシュジャンプ。道路上の陥没箇所をピョンッと飛び越える。

 

 一秒ほどの短い空の旅。

 

 これにはキョウコもニッコリだ。

 

 ハロ・チタニウムγ! こいつはすごいぜぇ!

 

 「ウマイ! メカマル! このままお兄ちゃんの所まで一直線よ!」

 

 「アイヨ。法定速度ハ守ルケドナ」

 

 できる男めいた口調と、安全第一思考でキョウコに応じるメカマルであった。

 

 ヤッター! カッコイイ!

 

 これならキョウコのような幼い少女よるHAROcar一人旅でも、メカマルのようなAIがいれば安全だね!

 

 

 約十分後。

 

 

 キョーコの乗るハロカーは、海辺にあるムエンヅカに建てられた掘っ立て小屋前までやって来ていた。

 

 このキョーコの目的地といえば、無論、違法建造物だ。一年戦争中に必要に迫られ、急遽用意されたものである。

 

 戦中、戦後、コロニー落し後の災禍によって漂流することになった品々を回収し、一時的に保管する施設であり、無縁仏になった人々の生きた証を回収し、共に埋葬するための仕分けの場所でもあった。

 

 そして現在は、キョウコの尊敬するお兄ちゃんシャナズ・ウリンが移住し、一人暮らしをする住宅モドキでもあった。

 

 「お兄ちゃん、いるー?」

 

 まだ足元が暗い中、キョーコは早速、HAROcarから食料入りのバスケットを持って下車し、ムエンズカの掘っ立て小屋に向かった。

 

 「キョーコだよー!」

 

 そうして、可愛い可愛い妹がやってきたわよと、大きな声で全力アピールする。

 

 徹夜作業をしがちなシャナズのために用意した、朝食用のスコーンにサラダ、食後のデザート用の手作りクッキー。魔法瓶に淹れたブラックコーヒー。それらの準備も万端である。

 

 後は、自分の存在をシャナズに気付いてもらうだけだった。

 

 「お兄ちゃんー?」

 

 このようにキョーコに慕われるシャナズ・ウリンという人物は、一年戦争で天涯孤独となった少年だ。

 

 歴史学者であった父や、文化人類学の権威であった母と共に、地上でのフィールドワーク中に被災した野生児である。

 

 戦中、キョウコ等と共に西海岸のおテラ(寺)に身を寄せ、親を失った子供たちのお世話係となって後、住職のホーリー・ヒジリ・ホーリーや、テラの権利所有者であるショウ・トーラー。そして、キョウコ含め、多数の孤児たちと共に生き抜き、終戦を迎えた身だった。

 

 シャナズは子供たちのお世話係といっても、戦中、ただのお世話係とは言えぬほど過酷な日々を過ごし、生き延びてきた身だ。

 

 何も脅威はジオン側の軍人たちだけではない。

 

 子供たちを狙う人攫い集団や、コロニー落し後に発狂してケダモノとなり、飢えた野犬を引き攣れるグール(人食い)となった者。その他、諸々の輩との闘争を経て、命懸けで多くの子供たちの命を救った。

 

 そのため、キョーコ含む子供たちには、シャナズはヒーロー視されていた。

 

 それ故に、シャナズは0084年の今日まで、キョーコたちテラで生活している少年少女たちに慕われ続けているのである。

 

 ヒュー! カッコイー!

 

 

 「んん………?」

 

 (キョーコ…か?)

 

 ネズミミ型インターフェイスを頭部につけたままで寝ていたことが役立った。聴力が弱くとも、十分に外部からの音を拾える。

 

 文明の利器は、持主へと十分な益を齎していた。

 

 掘っ立て小屋の外から聞こえてきた少女の声に気付き、何とか徹夜だけは回避し、仕事を終えて微睡んでいた少年が瞼を開ける。

 

 キョーコ同様、彼もまた一年戦争中に障害を負った身であった。

 

 (置き上げれよ俺の身体。この程度の眠気に負けていちゃ、年長者の威厳も保てやしない)

 

 正直、この状況で起き上がるのはキツイ。

 

 だが、可愛い妹分からの御指名なのだ。無視する訳にもいくまい。

 

 薄く開いた瞼の奥、焦点が定まらないままの眼球を使い周囲を見回す。

 

 室内を完全に把握しきれず、ぼんやりした視界のままで起き上がり、シャナズは一応書斎として機能させている小部屋から抜け出していった。

 

 足取りは覚束ないが、大量の書籍で狭まった通路を何とか抜け、外部へと続く扉を開ける。

 

 欠伸が出る。

 

 ふあぁ…と息を吐きながら扉を開くと、そこには人一人が移動する物音に気付いて、待ち構えていた笑顔のキョーコが立っていた。

 

 「おはよう…ふぁ…今日もキョーコは可愛いね」

 

 「オハヨーゴザイマス! お兄ちゃんは今日もお世辞が上手ね!」

 

 「お世辞じゃないよ。本気で可愛いって思ってる」

 

 「じゃあ! 将来結婚してよね! お兄ちゃん!」

 

 「ええ…? それはまだ早いって」

 

 「ええー!?」

 

 そのようにして、何時もながらの冗談混じりのコミュニケーションを取り終え、互いに笑顔での対面を果たすシャナズとキョーコ…ただし、冗談だと思っているのはシャナズ側のみで、キョーコ側としては本気…だった。

 

 「アリガト………昨夜もほぼ徹夜だったから、気を利かせてくれたんだね………でも、よく僕が徹夜明けだって解ったね?」

 

 キョーコが持つバスケットの中身を見止め、お礼と疑問を少女にぶつける少年。そんな少年に対して少女はフッと微笑して胸を逸らし、解って当然よと態度で示した。

 

 「お兄ちゃん、おテラで前に文屋さんと締め切りがどうのとか話していたじゃない。それにキョーコ、お兄ちゃんの悪癖知っているから。どうせ、またタイパとか考えて生き急いでいたんでしょ?」

 

 「あはは…お見通しだね」

 

 「徹夜は寿命が縮むってケーネス先生が言ってたよ…程々にね」

 

 「気をつけます」

 

 「うん、よろしい………折角拾った命なんだから、身体を大事にしてね、お兄ちゃん」

 

 「うん、そうだね」

 

 一年戦争以後、地球圏に住むすべての人々が、自分は何時死ぬか分からない…そう考え、生き急いでいる。そのことは、キョーコとて理解していた。

 

 そのため、シャナズの同意が一時的な反省のポーズだと理解していても、それ以上にはキョーコは突っ込まないのだった。

 

 あんな大戦の後だ。

 

 苦言は呈すが、必要以上に生き急ぐなと諭す方が無理があった。

 

 そんなことよりも、今は朝食だ。

 

 「さあ、お兄ちゃん、これ食べてね! 折角、一生懸命に作ったんだから! 残さずだよ!」

 

 「もちろん。有難く頂くよ。キョーコちゃん、料理上手だしね………それで、用事はそれだけかい?」

 

 「ううん。ケーネス先生からレポートの課題を出されちゃって、その準備にお兄ちゃん手持ちの資料に目を通させて貰おうかなって」

 

 「ああ…それなら手助けできそうだね。朝食のお礼に手伝うよ………それで? 必要な資料って?」

 

 「えっとね………地球連邦政府誕生以前の旧世紀の歴史資料が欲しいの!」

 

 「へえ」

 

 「ジオン公国誕生に影響を与えたっていう、過去の地球上での戦争指導者たちのものね。頼める?」

 

 「もちろん」

 

 「うん。それじゃあ、お邪魔させてね!」

 

 そう伝え終えると、キョーコはその場にシャナズを残し、ずんずんと掘っ立て小屋内部へと上がり込んでいった。室内に、用意した食料品を拡げられる場所を確保するためである。

 

 (あー………やっぱり。仕方ないお兄ちゃんだなー)

 

 キョーコの予想通りであった。

 

 掘っ立て小屋内部はシャナズの生活感に溢れていた。

 

 案の定、読書家であるシャナズによって内部空間の机という机には各種の書籍が重ねられていた。とても食料品が拡げられる有様ではない。

 

 所謂、どこに何があるか家主はよく知っていても、他人から見れば散らかし放題。少しは片付けろという有様だ。

 

 

 この掘っ立て小屋の有様、スケベ過ぎる!

 

 一目でシャナズの実生活をキョーコに理解させた。じつにヒドイ生活感ポルノ。

 

 エロだよこれは!

 

 (ファイトよ! キョーコ! 秒で清掃開始よ!)

 

 ここまで来たら後には引けぬ!

 

 シャナズに朝食を与えるため、まずは、それら書籍の整理から始めるキョーコであった。

 

 昔も今も同じだ。

 

 今日も、諸々の家事を蔑ろにするだらしのない男性を遠ざけ…下手に尻を叩いても片付けに時間がかかるだけ…代わりに片づけを請け負う女性の戦いは続いていた。

 

 

 消え逝く真実の語り部 その果てに 2に続く 

 

  




 補足 

 なお、別にヌエ側は一方的な被害者ではなく、アナハイム側の真意を探り出すために、アナハイム肝入りのコロニー福祉公社へと、ジオン公国軍残党を使って色々と仕掛けていました。

 まあ、アナハイム側もヌエ側も、人の世で生きる以上、権力争いに巻き込まれないという訳にはいかないということ。
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