機動戦士ガンダム フルダブル 幻想純化奇譚   作:プリエ・エトワール

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地上の戦い5 

 地上の戦い5

 

 ポーランド地方上空。

 

 「熱い。滾る戦士たちの狂気。このプレッシャー、ソロモンで感じたビグザムからの狂気の波動に似ているね」

 

 「そうね。私たちはあの時、ソーラーシステムの展開を完了して後方で待機していたけれど、あのプレッシャーは心が凍りそうだった」

 

 「スペースノイドを50億人以上も殺しておいて、まだ消えなかった闘争心。それに呑まれた者は、結局、自分が滅びるまで止まれないのかもね」

 

 「でも、そんな自分すら燃やし尽くす憎悪の炎がさ」

 

 「私たちの能力を活かす篝火の代わりになってくれるの…皮肉ね」

 

 「あざまーす!」

 

 コロニー福祉公社使用の戦術輸送機(ガンペリー)3機の中の1機、その胴体部兵員室。そこには、三人のまだ幼さの残る少女たちが乗り込んでいた。

 

 サニア・ミルキズム。ルーナ・フェアチャイルド。ステラ・サフィールの三人だ。

 

 彼女たちニュータイプ能力を持つ三人娘は、ここで所属部隊のレーダー役を熟していた。ニュータイプという希有な能力は、それこそ想像力次第で如何様にも活用することが可能だ。

 

 部隊のレーダー役も、その一環である。

 

 さて、目標たるジオン公国軍残党ギルス隊。その位置特定を終えた三人は、ここでもう一組のジオン公国軍残党部隊、アギト隊の状況も捉え、友軍の援軍へ向かおうとしていた。

 

 「ツキネ隊長、コンテナ開放願います。レーダー役の私たちで大型ミサイルを発射します。それでビグザムモドキを牽制します」

 

 「敵の軸となっている機体はあのモドキです」

 

 「あれだけ足止めできれば、他は連邦軍が撃破してくれます」

 

 「了解した。正直、輸送部隊の仕事じゃないが、できるだけ近付いてみせる」

 

 早速、通信で操縦席のツキネ・ルナールと敵機牽制の打ち合わせをするニュータイプ三人娘たち。

 

 ガンペリーの大型ミサイルは、装甲の熱いゴックすら撃破する威力がある。直撃すれば、いくら防御性能の高い量産型ビグザム改とて、ただでは済まない。

 

 とはいえ、やれるのは低空飛行時での奇襲、一発か二発のみ。

 

 失敗はできない。ミサイル発射後、すぐさま反転離脱しなければ、逆にガンペリーが敵の的になってしまう。敵機が連邦軍の追手に気を取られている現状以外、こちらが安全に攻撃するチャンスはないだろう。

 

 キツネ・ルナールとて一少女である。若い身空で死にたくはなかった。それも、隊長という立場で大勢の命を預かった身だ。

 

 キツネは、ニュータイプ三人娘に聞かずにはいられなかった。

 

 「今さらだが、やれるか?」

 

 「やってみせます」

 

 「ええ、任せて」

 

 「みんなで英雄になって帰りましょう!」

 

 「そうか…お前たちに命を預ける! コンテナ両舷開く! 頼むぞ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 覚悟を決めたキツネに対し、サニア、ルーナ、ステラの三人は、きっぱりとやってやんよと応じ、補助発射装置の許に向かった。きっちりと命綱をつけて。

 

 ここでミサイル発射の爆風に飛ばされて死んでしまってはギャグである。ホワイトベースに侵入した公国軍のスパイ107号ではないのだから。

 

 それはともかく、彼女たちが補助ミサイル発射装置の許に向った訳は、ニュータイプ能力を最大限に活用し、ベストタイミングで大型ミサイルを射出するためであった。

 

 その着弾地点が近ければ近いほど、ビグザムモドキ、ドムタイプパイロットに与える動揺は大きいだろう。

 

 一方、キツネが操縦するガンペリー以外の2機は、別の準備をしていた。

 

 「こちらワッパ隊! 対モビルスーツ重誘導弾リジーナ準備装填完了です!」

 

 「了解。コンテナ開放。強化装備ワッパ隊、発進どうぞ!」

 

 「発進後、各機ツーマンセルで行動。距離を取れ。左右に展開して攪乱しつつの十字砲火を狙う」

 

 「了解、7番から12番機は私に続け! 1番から6番機、幸運を祈る!」

 

 コマネ、スズネの操縦する低空飛行のガンペリーから、ホバーバイクである強化ワッパが複数機、発進していく。

 

 なにも、ワッパはジオン公国軍側だけが使用する機動兵器ではない。コロニー福祉公社地上軍は、その地上での扱いやすさに着目し、強化ワッパ隊創設に着手していた。

 

 戦後、モビルスーツザクⅡ相手に有効だった連邦軍の武装を購入。新規に取り付けて武装強化も行なっている。リジーナ重誘導弾発射装置だ。

 

 手数が多ければ、それだけ作戦の幅は広がる。

 

 そう。

 

 ツキネ隊の今回の奇襲計画は複数あった。一つはガンペリーの大型ミサイルでの攻撃。そして、ワッパのリジーナ弾による時間差攻撃である。

 

 「アヤちゃっ、いえ、中尉。やっぱりUTAU隊を待ったほうが安全では?」

 

 「お馬鹿! 何臆病風に吹かれるの! もう作戦は始まってる! そっちに集中しないと死ぬよ! いつまでもルーキー気分でいるな!」

 

 「でも…でも…怖いです!」

 

 「みんな怖いに決まってるでしょう! 隠れ里のみんなのこと忘れたの? 攫われた姉さんたちのことは? 私たちが地球に残るクズ共を倒さないでどうする!」

 

 「!? はい…はい!!」

 

 「ならば共に征こう!」

 

 「はい!」

 

 ガンペリーから降下中の強化ワッパ隊の最後尾で、部隊創設からの隊員アヤ・タカズキと、新人のサワア・コーラが、作戦開始だというのにまだ揉めていた。

 

 しかし、ようやく怖気づいていたサワアも覚悟を決めたようだ。共に地球をザビ家の亡霊共から守ると。

 

 この二人は、ジオン・ズム・ダイクンが死亡し、ジオン共和国がジオン公国になってしまった時期、ザビ家の狂気に気付き、サイド3から逃げ出した人々を親に持っていた。

 

 ダイクン派がザビ派のよって弾圧され、ザビ家を支持しなければ人にあらずと、多くの人々が殺されていった。だが、その時期に少数だが逃げ延びた人々もいた。

 

 二人の親たちは、子供たちを連れてサイド3から脱出することができた、その少数派だった。

 

 運がよかったのだ。

 

 ただし、他のサイドに逃げ込むことはできても、親たちはそこを安住の地とすることはできなかった。

 

 「ダイクンの扇動の乗って独立ごっこをして、ザビ家という独裁者たちが権力を得る土壌を作ったお前たちが、今さら我々に助けろというのか? ふざけるな!」

 

 「地球連邦政府が、地球上に住む民をすべて宇宙に上げようとした政策は、肌の色、民族、宗教、思想、そういった地球上での差別をすべて消し去り、全ての民をスペースノイドとして扱っていくためのものだ!」

 

 「それを棄民政策だ差別だ何だと騒ぎ立て、後ろ足で砂をかけていたのがお前たちだ!」

 

 「ダイクンが死んで、今さら自分たちはザビ家に都合よく使われていたと理解したからといって、それで助けてもらえると思うな! 愚か者共め!」

 

 「有史以来、すべての地球上の争いを止められたのは、この時代が初めてだ」

 

 「そう。そうして、はじめて人類がスペースノイドとして一つにまとまるチャンスを得た! それなのにお前さんたちが! そのチャンスの貴重さに気付かず無為に潰した!」

 

 「地球圏に、愚かで滅ぶべきアースノイドたちと、新たな人類の支配者となるべき選ばれたスペースノイドたち。そんな新たな差別を産み出して!」

 

 「何がサイド3はニュータイプを産み出す土壌だ! 実態は独裁政権を産み出す土壌だったじゃないか!」

 

 「ここにお前たちの居場所はない! どことなりとも消え失せろ!」

 

 地球連邦政府側のサイド居住民たちによる、正論での元選民・優生主義者たちへの批判。

 

 その批判は、正論であるがゆえに、今さらサイド3の実態に気付いた者たちには、厳しく、辛いものだった。

 

 ジオン・ズム・ダイクンの扇動や、ザビ家支配のための優勢思想に染まらなかった他のサイドのスペースノイドたちは、本当にまともな思考力の持ち主たちだったのだ。

 

 そんな正論と共に生きてきたスペースノイドたちの下では、サイド3で独立運動ごっこをしていた元ダイクン派の者たちは、どうしても生きてはいけなかった。

 

 どこも肩身が狭く、そのために、宇宙ではどこにも居場所を見つけられないまま、転々と逃亡生活を送っていた。

 

 一体、どこで生きていけば………いっそ、木星船団へでも身売りして、地球圏の外で新たなフロンティア開拓を目指すか………

 

 …結局、これが他人の語る夢に感化され、多くを明け渡し、終いには己の生殺与奪の権利さえザビ家に与えてしまった者たちの末路か………

 

 …夢も命も自分自身で面倒をみるものなのに、短い人生の多くの時間を、他人の歪んだ夢のために使ってしまった………

 

 …多くの世間知らずの若者たちに地球連邦政府に対し反乱を起こさせ、そうして成立した国家の頂点に君臨する………

 

 …そんな、デギン・ソド・ザビの計略に見事に引っかかってしまった………

 

 …愚かな我々は、せっかくまとまりかけていた人類社会に、新たな独裁者と独裁国家を誕生させてしまった。その罪を背負い、我々はこれからも生きていかなければいけない………

 

 …だがどこで?

 

 八方塞がりの状況に追い込まれていった元ダイクン派の者たち。

 

 しかし、もうお前たちは用済みだと捨てる者があれば、拾う者もありである。

 

 幼く、何もわからないまま逃亡生活に同行していたアヤやサワア、その親たちの前に、軍服姿の者たちが現れた。

 

 「今さらながらザビ家の危険さに気付いたか。居場所がなければついてくるがいい」

 

 「あなた方は? 一体どこに?」

 

 「我々は地球連邦軍の者だ。君たちを連れていく場所は地球上。宇宙(そら)の各サイドコロニーで何らかの異常があった場合、一時的に居場所を失ったスペースノイドたちを、地上に保護する準備をしている部署の所属だ」

 

 「? 地球連邦政府は、宇宙移民の地球帰還は制限しているはずだが?」

 

 「それはその通り。多額の借金を背負い、その返済を終えていない者を、どうして地上に戻せる?」

 

 「我々、スペースノイドは、連邦を後ろ盾にするコロニー公社や引っ越し公社への借金返済を終えてはじめて、一人前と言えるのだ」

 

 「一人前でない者には、移動の自由も、選挙権が一時凍結されるのは当然のことさ」

 

 「我々は、懸命に働いて借金を返すどころか、働きたくないでござるとサイド3へと引き込もった馬鹿者たちに、悪戯に餌を投げ与える馬鹿親ではない」 

 

「しかし、ある程度の人々は地球上に残り、各地の都市や辺境の環境整備をしなければならん。自然の力は暴力的といっていいほど強大だ。恒常的に人が手を入れなければ、すぐ人類が住めない環境になってしまう」

 

 「そういうものなのか?」

 

 「そういえば、そのために地球に残った人々を、サイド3では、選ばれた一部の特権階級のアースノイド、などと教えていたな」

 

 「実際に地球上で働いてみればわかる。地球に残るということが、地球の自然と戦い続けることなのだと。一週間もすれば、そんな激務に嫌気が刺し、快適なスペースコロニーの生活が懐かしくなるさ」

 

 「それでも良いというのなら、我々についてこい」

 

 「…ありかとう」

 

 「我々についてくるなら急げ。奴らに見つかる。ザビ家のプロパガンダに利用されるぞ。愚かなダイクン派の者共は、連邦の狗になって地球に住む権利を買った。奴らのようになるな。ザビ家の下で団結するスペースノイドたちこそが、真にニュータイプになる人々なのだ、とな」

 

 

 長い逃亡生活の末、最終的にまだ幼いアヤやサワアを連れた親たちが辿り着いた場所が、敵としていた地球連邦政府が用意してくれた、北米の片田舎の共同体であった。

 

 宇宙世紀の半世紀で、人類全体の過半数、0078時点で約90億の人々が宇宙に上がっていた。

 

 そのため、地球上には多数の人々が居住する都市部とは別に、自然環境維持のための、僅かな人々が住む小規模コロニーがあった。

 

 一度はニュータイプ論という救世主思想、選民、優勢思想に染まり、道を違えた者たちであったが、ジオン公国から逃げ出したなら、地球連邦政府が管理する地球圏に生きる同じスペースノイドだ。

 

 なぜなら、アースノイドと呼ばれる人も、スペースノイドと呼ばれる人も、地球上とコロニー内部という違いはあれど、共に宇宙に浮かぶ大地で生活しているのだから。

 

 地球連邦政府は、守るべき民を主導する為政者の義務として、こうして、彼ら元ダイクン派を保護し、安住の地を与えた。

 

 だが、その場所も今はない。

 

 一週間戦争。コロニー落し。南極条約締結のみで続行された一年戦争。

 

 二度のジオン公国軍の地球降下、占領作戦によって、元ダイクン派の共同体は攻撃目標とされたのだ。

 

 「アヤ! サワアちゃんたちを連れて逃げろ!」

 

 「お父さん! お母さぁん!」

 

 「止まるな! 後ろを振り向かずに走れ!」

 

 「私たちが囮になります! 大きな子たちは、小さな子たちを連れて逃げて!」

 

 「お姉ちゃん…お姉ちゃんは?」

 

 「私といると、捕まったら奴隷にされるよ………辛くても別々に逃げよう………ね」

 

 当然、アヤやサワアの両親は裏切り者として殺害され、生き残った年頃の若い女性たちは、高貴なジオン公国民の血を残す権利をくれてやると、公国軍将兵たちよって連れ去られた。

 

 一年戦争当時、まだ幼かったアヤたちのみが、こんな時のことを考え、用意されていた隠れ里に逃げ込み、命の弦を繋ぐことができた。

 

 多くの同胞たちの献身と、囮となり公国軍の追手を引き付けた人々の命によって。

 

 そして終戦後。

 

 コロニー福祉公社によって隠れ里に逃げ込んだ幼子たちは保護された。

 

 その後のアヤは栄養失調で年齢通りの成長も果たせず、小さいままの身体だった。

 

 だが、そんな小さな身体をおして、コロニー福祉公社に志願。

 

 そして、つい最近、アヤを追うようにサワアも同部隊に志願し、訓練の完了後、着任していた。

 

 哀れなるかな。

 

 モビルスーツや地上用モビルアーマーという機械の悪魔たちが互いを潰し合う傍らで、サイド3出身という共通点を持つ者たちが、両陣営に別れ、無残にも殺し合おうとしていた。

 

 元々は、ジオン・ズム・ダイクンという為政者の下、共にニュータイプという人類の革新を目指していたはずの人々が、今まさにオールドタイプとされた人々の極みともいえる悪癖、同族殺しをしようというのだ。

 

 それは、ある意味、滑稽だった。

 

 そんな、滑稽で哀しい喜劇の開演であった。

 

 

 地上の戦い6に続く

 

 

 メモ

 

 地球上に住んでいようと、地上を模したコロニーに住んでいようと、どちらも同じ人間に違いはありません。みんな同じスペースノイド。

 

 地球もコロニーも宇宙空間に浮かんで存在しているのだから、アースノイドと呼ばれる人々も、スペースノイドと呼ばれる人々も、等しくスペースノイドです。

 

 それが本作での真実です。

 

 

 

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