空、色彩、おでこに用途不明のボタンが生えたのお題から生成しました
霹靂ってロリに見えませんか?
空が、目の前に降ってきた。
否、そうではない。そうだ自分だ。自分が空を降らせて地面を雲まみれにするという悪行を犯したのだ。さて、どうしてくれようか、モップか、はたまた箒かちりとりか、もしくはルンバなのか、それすらも検討がつかない。信号機にも、道行くおっさんにも、車にも、マンションの物干し竿にすら、白くてもくもくとしたアレが引っ掛かり、張り付いている。唯一この状況で良かったな、なんて思えることがあるとするならば、おっさんの禿げた頭に雲がかかり、一時的に見苦しいバーコードが消えたことくらいであろう。
現在、マンションの一室であるグリーンヒルズ64 802号室よりこの状況を実況しているわけではあるが、何も原因が無く、この状況の犯人は私だと独白しているわけではない。もちろん思春期特有の右手が疼くアレでもない。
なぜならそんな恥の多い日々は通り越し、由緒正しき私文大学二年生であり、現在、女体とは何かと哲学的観点から資料を買い漁り、ソクラテスのような思索にふけっていたところ、出不精になり落単の危機が迫っている。そんな何処にでもいる、可処分所得が少ない苦学生であるからだ。
さてさて閑話休題、現実逃避からの逃避。問題は何故このようなモノローグを挟み、自己紹介をしたのかというとそれは己の人相にある。もちろんアイドルグループにいるような顔つきではなく、かといって特定指定されているようなスーツを着てオラオラしているような輩のような凶暴な顔でもない。敢えて、敢えて言うのであれば上位カーストにはギリギリに入れず、かといって、下々の民に目移りするほど軟派ではない。強いていうのであれば中の上の顔つきであろうか。年齢と彼女の不在年数が同一なのも今に解消されるであろう、そんな硬派な顔。その額には髑髏のような印と共に、押すなと書かれたボタンがくっついているのである。
さて、ここまでの経緯を説明すれば、皆々様にもご理解の程を示して頂けるであろうとは思う限りではあるが、今一度説明をしよう。なんと、額に、髑髏マークのボタンが、短い説明と共についていたのである。念の為に注釈を入れておくが、これはドッキリの類でも、特殊メイクを自身に行い悦に浸っているわけでもない。理由は後程述べようとは思うが、これはホンモノである。そもそも大学にて孤高の身を貫く自身にとって、どっきりなど仕掛けられるはずもなく、自分、不器用な男なのでを地でいく漢である為、そのような軟弱な技術とは無縁である。
では、何故、ホンモノかを判別出来たのかというと、それは高度な政治的判断よりも深く、かつ緊急を要し、それらを包括するリビドーに従った故の結果であることは先にお伝えせねばなるまい。つまるところ、額のボタンを押したのだ。それはもう、ポチっとな、と見事な掛け声までつけて(これは古のおきまりであるが故に、それを守ったに過ぎない)。
するとどうした事か、まるで我が家のカモフラ用の哲学書、学術書を地面へと排し、真の学問へと辿りつかんとする私のときのような、ドサドサドサッ、といった大きな音と共に空が降ってきたではないか。
これには、何事にも動じないと負している私も思わず大口を開けて、ぽかんといった声を上げてしまった。そして、数秒後には冷や汗が止まらなくなる。天蓋のような青空がすぽんと抜けて、私の居城ことグリーンヒルズ64を中心に周囲2kmほどの範囲の頭上には宇宙のような星空のような暗くて、黒くて、綺羅綺羅したものが広がっている。流石にこれでは何処が原因かがまるわかりであるが故に、目を丸くしながらもどうしたものかと、うんうん唸る。もう一度そのボタンを押せと思われる方もいらっしゃるとは思うが、それはもう私とてそうした。元に戻るのであれば、と激しい勢いで連打したとも。しかしてこのボタンはうんともすんとも言わずに沈黙するばかり、柱に頭を強かに打ち付けようが、豆腐の角にぶつけようが、なんともならなかった。
やがて、全てを試し、万策尽きたことが分かったところで、さてこれからどうしたものかと天を仰ぐ。すると、何やら往年の雷様のコスチュームプレイをした中年太りのおっさんと目が合った。
気まずそうに目を逸らし、こちらをチラチラ伺うおっさんに、ムクムクと入道雲のように怒りがこみ上げ、義憤と正義感と少しの罪悪感と共に、おそらくは元凶であろう雷様コスプレイヤー中年に怒鳴り込みに行くことを決心した。太宰に因んで曰く、私文大学二年の好青年は激怒した。といったところだ。
さて、行くにも帰るにも交通手段というものが必要であり、どうしたものかと頭を悩ませること数分。しかしながら隠れた頭脳明晰である私は、その手段を見逃さなかった。なんと猫の額のようなベランダには、七色の虹が垂れ下がるように引っかかっており、それをバンバンと叩くとしゃっきりとした梯子のようになったため、それを天に掛け、えっちらおっちらと登ることにした。
さて、地獄に垂れ下がる蜘蛛の糸を登るカンダタはこんな気分だったのか、と思い始めたころ、ようやく天蓋にたどり着いた私は、一気にそのおっさんに詰め寄る。あろうことか、灰色の目が多い生物(俗に言うリトルグリーン)と囲碁をやっていた雷様は、慌てふためきこちらを見た。
「やい、天の神様や!! ここの管轄はどうなっている!!」
「おお、そうかそうか……落としものを届けに参ったか」
明らかに取りなしの動きを見せる中年太りのパンチパーマに私の義憤は有頂天。怒髪、天を突かんばかりに雷様へとにじり寄った。
「一体全体、この国宝級のニキビなしの10代最後の柔肌にこんなものを取り付けたのか!!」
「あー、すまん、それはここの地区の空のメンテナンススイッチでな……押すと空が取れる仕組みになっているのだ」
「そんなもの、どうして私の額につけたのか! おかげで下界は酷い有様だぞ。おっさんは雲の鬘をかぶり、いわし雲が大群を成してアスファルトを泳いでいるのだ!!」
「それは……その……」
「なんだ、おのこならはっきりと申し開きをしろ!!」
「お主のコレクションが素晴らしいものであるが故に、思わず抜け出して読みふけってしまっていた」
「……それはそれは」
思わず鼻白んでしまったが、それは仕方のないことである。何故なら今まで同志というものに巡り合ったことは無く、まさかこの天の果てで遭遇することになるとは、天の神ですら思わなんであろうことである。
「ワシの担当地区では一番の蔵書でな。時折、非番に降りては未成熟な女体に思索を巡らせていた」
「なるほど……それは、そうか、仕方が、ないとも言い難い……いや、しかし……」
「そして、交代の時間が近づき慌てて戻る際に、貴殿の額にボタンを置き忘れたというわけだ」
誠に申し訳ない、とでかい頭を下げる雷様コスプレイヤーに、私もただ、頭を悩ませるばかり。
当然下界の掃除はするし、記憶の辻褄も始末書も書くと少し落胆しながらも彼は語る。
「しかし、それでは、私はどうなるのだ。これでは気が収まらず、かえってむしゃくしゃするばかりだ」
「……そうか、ではこうしよう。ワシの蔵から一つ、コレクションをやろう。何十年と保管した㊙のものだぞ、もうなかなかに手は入らないお宝じゃ」
「……良いだろう。それで決まりだ」
雷様のいう、㊙に心をそそられた私は快諾をし、薄い小包を受け取った。
スキップをしながら色彩豊かな虹の梯子を駆け下り、さて自室で御開帳。
「……なるほど、こう来たか」
確かに彼のコレクションであり、㊙のものであろう。そして、手に入らないのも間違いは無い。
それは古く、江戸時代での発禁本である、幼子の春画であった。
「だが……私にはっ……無用の長物っ!!!」
そうして咽び泣き、血涙を流し切り、ひとしきり泣いた。
まさに今回の件は青天の霹靂、このことであろう。
ちなみにその後、ブッ〇オフに売りに出した。二束三文で売れたのであった。