個性【不変】のヒーローアカデミア 作:アンデラ伝道したいマン
いつも通りのなんの変哲もない日常だった。
これからも、何も
仲の良い友人とおどけて、ふざけ合って、笑う。
そんな、そんな変哲のない今日は、黒板を引っ搔いたような甲高い悲鳴と、宙に所々ポツポツと水玉模様の紅色が飛び散り、変わらない日々が
変わらないで欲しいものが、目の前で変えられていく。
そんな感覚がした。
「な、なんだ!?」
高校に上がった直後に成長痛に苦しめられ、グーンと伸びた性分に合わないデカい図体の友人が怯えた声でしがみついてくる。
良質な筋肉は力を入れるまではやわらかい、というどこで使うのかわからない雑学が頭をよぎり、同性の中で頭一つ小さい私は、その図体だけデカい友人の腕の中にすっぽりと囲われてしまう。
「…おい、筋肉。身長差を考えろ。そこは首だ…馬鹿」
パンパン、と息ができない、とヒシとなんとしても離さないという構えの腕をたたき、緩めるように言葉をかける。
離され、楽になった肩首をひと回しし、ふぅと息を吐いて自分の気を揉みほぐす。
なんだ? いきなり女性、いや男性も混じった随分たくさんの声がしたけど……。
怯えてまだ自分の後ろに隠れようとする愛おしいアホと、それを見て何もせずにゲラゲラ笑うバカ共を無視して、人通りの多い交差点の方を見る。
いつもなら無尽蔵に人々が互いの間をすり抜けて、新体操顔負けの美しい大行進はなりを潜め、グチャグチャと何かを避けるように人の波がこちらに流れてくる。
「やっば……。おい! 笑ってんな下がるぞ!」
後ろを向いて友人たちに私は声を張り上げる。
今に思えば、声を張り上げたことか、はたまた油断しきって後ろを向いてしまったことか。
どちらが致命的かなぞわからぬが、ともあれ、致命的で――――致命傷であった。
ダンッ! といつもの友人とのお巫山戯のように、背後から突進された様な衝撃を感じる。
ダンッ! ダンッ! ダンダンダンッ! と複数回、肩、脇腹、脊柱、仙骨、肘の裏辺りにポコポコと肩たたきでもするような衝撃が何故かとても鈍く感じた。
……? いつも突進してる奴は目の前にいるじゃんか。誰がやったんだ?
次に感じたのは心地よい温かさだった。
人肌が密着してお互いの間に熱を持つようなそんな、温かさと何か肌の上をぬめる感覚がした。
「あッ! あ……あぁ゛!???」
なんだ……ビビりビビりだとは思っていたが何をそんな怯えてるんだ? な、にみてるんだ……?
不思議と白み、まだ寝る時間には早すぎるくらいにも関わらず瞼が落ちていくような、抗いがたい心地よい眠気が押し寄せる。
何とか、それを堪えて後ろを振り向く。
瞬間―――理解してしまった。
「あー。悪りぃ……期末の面倒みてやれないわ」
珍しく顔を歪める涙を貯める友人たちの顔が見える。
息をひとつ飲んだ後、ナニが起きたかようやく脳が理解を始めたようだった。
図体ばかりデカくなった友人は私にしがみつき離れない。
ゲラゲラと笑っていた友人達は聞いたこともないような喉から雄叫びを上げて私の、私の背後へと走って、誰かを突き飛ばした。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
「なに、なにやってんだよ! お前ぇ゛!!!!」
バカだなぁ。あぶ、ないだろ。たいかいも、ちかいのに、暴行できんしんなんて、わらえない……なぁ。
引っ付いてる友人にもたれ掛かるようにそのまま、前へと倒れていく。
幸いなことか、突き飛ばされることも投げ捨てられることもなく、再びその友人の腕の中に収まることになってしまった。
「なぁ……うそ、うそだろ? なぁ、てば……なんで寝そうなんだよ……おい。おいってば……め、めぇちゃんと開けてみろよ!」
聞きなれた声なのに、不思議と鼓膜がその音の波を引っ掛けるのが難しく、音が脳を滑っていき、何を言っているのか理解が出来ない。
「そうだ! なぁ、俺アンデラ見始めたんだぜ? いつもみたいにさ、言ってくれよ……なぁ……見たんだぜ……コミック、お前に借りたやつさ……」
「おい! 今救急車呼んだから!すぐ来るってよ! なぁ! 俺らもお前に読んで欲しい漫画沢山あるんだぜ!」
「そうだぜ……、なんでアンデラ知ってんのに、お前ヒロアカとか知らねぇんだよ……! ぜってー男キャラならバクゴーの事好きになんぜお前! なぁってば!」
あぁ……うん。あんでら、な。最後まで見たかったな……アイ、ドルへん……どーなんだろうな。
ボソボソと壊れてチューニングの合わないラジオの音を聞くように、いつもとは違ったガラガラの泣き声、鼻声の友人の声がだんだんと消えていく。
なにか、なにか彼らに。
なにか変わらないものを残したい。
変わらない大切なものを……。
そう思うと不思議とさっきまで水の中にいるみたいに酸素が吸えなかったのが嘘のように大きく息がすえた。
ひとつ。ふたつ。みっつ。大きな深呼吸をする。
よく見えなくても何となくわかる。
変わらない立ち位置。
私を真ん中に1番デカイのを後ろに、あと2人は私を挟むように。
ほんとうに意地の悪い、愛おしい友人たちだ。
バッ! と嘘みたいに軽く、簡単に上半身が起き上がる。
同時に身長に相まった友人たちに比べたら短い腕で、端から抱き寄せた。
下ろしたての冬服の雪みたいに光を反射する真っ白なワイシャツに無骨な紅色が着いてしまったが、どうか許して欲しい。
グッグッ、とこれまで生きてきた中でおそらく1番力を込めることが出来た。
「はぁ……ほんと、バカ共。まぁ、楽しかった。遅く来い土産話をアホほど抱えてな。あぁ……お前ら、が……かわらなくて、よか……た」
私が抱き寄せるよりも何倍も強い力でヒシッとまだ感じるか、まだ分かるか、といようにどんどん力は込められるのに、私が感じられる温もりは遠くなっていく。
すすり泣く声が聞こえなくなった。
まじかに見えるぐちゃぐちゃの泣き顔が遠くなり、見えなくなった。
抱きしめられる痛みも、焼けるほど熱かった肌の温かさも消えた。
鉄っぽい匂いが混ざってしまったが、嗅ぎなれたお日様と制汗剤の匂いが混ざったいつもの匂いもなくなった。
そして、プツ――――と。
余韻も奇跡もなにもなく、テレビのリモコンでイイ所だったアニメを打ち切るように私の人生は終わった。
願わくば……次なんてモノが在るのなら。
どうか、大切なモノを何一つ零さずに、護れる。なにも変わらない、大切を誰にも変えさせないそんな力が。
――――好きな漫画の彼女の様な決意が欲しい。