個性【不変】のヒーローアカデミア 作:アンデラ伝道したいマン
No.001 転生してから14年
「今から進路希望のプリントを配るが、皆!!!」
拝啓
そちらの季節は分かりませんが、こちらは陽気に満ちた実に眠気の誘われる春となりました。
もう会うことのできない懐かしい友人の皆様。
あの日、高校一年の冬。背後から突然めった刺しにされ
私は今生においても間もなく高校生となります。
今回は是非成人してお酒を嗜んでみたいものです。
遅く来い、など最期に言葉を遺しましたが、どうやら私は転生したようです。
しかも、完結まで読めなかった漫画、アンデッドアンラックの――ジーナおばさまとして、おそらくアンデラではない世界で生きております。
もちろん否定能力、いえ……今の生きている世界に習って言うなら〝個性〟もきちんと踏襲しました。
控えめにチートだと思います。
神様に会った記憶はありませんが、もしいわゆる神様転生、というものだったとしたら、恐らく私たちの世界の神は救いとかそういう善なるモノなのではなく、アンデラの
懐かしい、もはや記憶も忘れてきてしまった友人の皆様はお元気でしょうか。
とりあえず、私は無事に何とか今日も生きております。
詳しいことは省きますが、今は実家で一人暮らしをしています。大人が居なくて平気か、とご心配をかけるかもしれませんが、安心してください。
今の私には、赤ん坊の頃からの幼馴染が二人おり、その二人の母親がとても気にかけて下さって家族の様に思っている、というありがたいお言葉もいただいています。
今生も精いっぱい生きて、私も皆様に面白いお話をたくさん聞かせようと思います。
敬具
「だいたいヒーロー科志望だよねぇ」
追伸
この世界は人口の八割がなにか超常の力である〝個性〟を持っています。
その〝個性〟があまりに異なって社会に馴染めず、人に救われず……ついには暴れ、
そんな混乱の中、公的に〝個性〟の使用を認められ、
怪我や死など大変危険な仕事であるにも関わらず、子どものなりたい職業ランキング第1位です。
とても物騒な世界ですが、頑張って生きています。
春麗らかな穏やかな日常。
吹く風はまだ冬の匂いが混じっているが、差し込む日差しはすっかりと暖かくなった。
思わず船をこいでしまうようなつまらない朝礼の話を聞き流し、なんとか意識を保とうと私は何をとち狂ったか、脳内で心境を手紙にしたためていた。
もう今年度で15歳、すなわち中学3年生である私たちに担任の教員が進路の話、というこの時期の中学校であればどこでもしていそうな実に退屈で変わらない穏やかな時間を過ごしていた。
「「「「ハーーーイ!!」」」」
しかし、そんな静かな時間は続かず、元気な声にビクリと肩を揺らして、意識がはっきりする。
辺りが騒がしくなり、いろんな音がする。
いつも通り原則発動禁止の〝個性〟を使っただけ、そんな日常だ。
「せんせぇー、
実に傲慢無礼にガキ大将といった雰囲気しか感じない男はダン! と音を立てて組んだ足を机の上に乗せていた。
私は思わず変わらなすぎる彼、先ほど挙げた幼馴染の一人である
「そりゃねーだろカツキ!!!」
「モブがモブらしくうっせー!!!」
ガヤガヤと周囲から捲し立てられるが、特に険悪いや陰険な雰囲気にはならず正しく文句の言い合いができていて一安心はした。
性格や口調は終わっているが、この男、本当に人道に反することはしないし、むしろヒーローに憧れただあけあって、善良で少し擦れた所があるだけである――基本的には。
「あー確か爆豪は
それを聞き、さらに周囲がざわつきだす。
それもそのはずである。雄英高校とは、国立の高等学校であり、そのヒーロー科の今年度の偏差値は79で毎年の受験倍率は300倍とかいう大体受験者が約一万人でそのうち四十人しか合格できない狭き門である。
今、世に名をはせている一流のヒーローは皆雄英卒だなんていわれるほどで、俗に東の雄英高校、西の士傑高校などとも呼ばれたりもする。
「あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!!」
ついに机の上に立ち上がり大声でお気持ち表明をしている勝己に思わず冷めた目で見てしまう。
本人はとくに気にすることなく言葉を悪くするなら優越感に浸っているようだった。
「あ」と、教員が次の言葉を漏らすまでは。
「そういや
ピキッ――とあれほどまでに高笑いでもしだすのか、という風貌だった勝己の表情と声が止まり、かっぴらいた目のまま固まる。
クラス全体の雰囲気も似たようなもので、皆が一様に緑谷と教員に呼ばれた少年の方を向く。
(あぁ、嫌だなぁ本当に先生ノンデリ過ぎ。人の進路を漏らすとか、しかもよりにもよって
私は嫌だな、と一つ息を呑んでから身構える。
瞬間、張り詰めた空気はなくなり、直ぐにクラス中に馬鹿にして、見下すそんな嘲笑でクラスがいっぱいになる。
「「「ブブーーー!!!」」」
「はああ!? 緑谷あ!? ムリっしょw!」
「勉強
続けざまに馬鹿にする声は止まる事無く、教員が静止する声も聞こえてこない。
しかし、残念なことにクラスメイトのいう事にも一部納得できることがある。
そう。ヒーローは勉強
あくまでも、危険な現場での
だから、全人口の
「そっ…そんな規定もうないよ! 前例がないだけで……」
なんとか言い返そうと声を上げる出久だったが、周囲の嘲笑や無理だと押し付けるような誹謗は止まらず大きくなっていき、次第に出久の声がしぼんでいってしまった。
(ほんと、この話題もこの空気感も最悪だし、気持ちわるすぎ。)
思わず舌をだしてウゲっと苦虫でも嚙み潰したよう表情になってしまう。
我慢ならなくなり、一言言おうとしたが、その前に大きなボム!!! という爆発音でその空気や誹謗がもろとも吹き飛ばされる。
「こらデク!!!」
そう声を荒げながら、勝己は〝個性〟である爆破を出久の机に使い、その爆風で出久は椅子ごとひっくり返ってしまう。
「〝没個性〟どころか〝無個性〟のてめェがぁ、何で俺と同じ土俵に立てるんだァ!?」
爆豪勝己は基本的には粗雑な性格が先行して理解しにくいが、基本的には善人なのである。
彼の個性に似た爆弾のような危険な性格ではあるが、日常的に関わる分であれば、よほどの限り暴発しないマニュアルがある。
しかし、緑谷出久と関わる、コレに関してだけはもはや条件反射の様に暴発してしまうのだ。
(はぁ……これもいつも通り。確かに変わらない日常は好きだけど、どうせなら幼稚園とかみたいにあの二人も仲良く手でも繋いでる時から変わらないで欲しかったわ…。)
そう叶わぬ願いを心の中でポロと漏らしながら、どうして幼馴染同士でこんなに拗れるのか、なんとなく理由は知っているし、少しばかり同意もできてしまう私にはこの二人の関係はどうにもすることが出来ず、後始末をする係に落ちつくしかなかったのだ。
「やってみないとわかんないし…」
「なァにがやってみないとだ!!! 記念受験かァ゛!? てめェが何をやれるんだ!?」
ままならない現実に頭を痛め、手を当てて嘆いているうちに、いつの間にか出久は教室の後ろの壁側に追い詰められていた。
勝己の言葉に同調するように周囲からも嫌な視線やあざ笑う声が出久に集中する。
はぁ、と思わずまた一つため息がこぼれる。
運命の悪戯か、私の席もまた一番後ろで一人だけ列からはみ出しているのである。
つまりこの幼馴染の喧嘩は腕を枕に突っ伏して眠っている私の隣で起きているのだ。
教員にお前が止めろよ、と思いつつも覚悟を決めて私は声を発した。
「ちょっと? 人の心配する暇なんてあるの?
姿を借り受けた憧れの人の口調を真似て、私は絶大な自信があるように微笑む。
わざとらしく勝己の嫌がる出久からの呼び方にも寄せて、名前を呼ぶ。
すると、案の定というか、わざわざそんな呼び方でも反応する幼馴染の絆ともいうか、ともあれ即座にグルッ! と私の方を向いて勝己は眉が顔の輪郭を超えるほどに吊り上げ、吠えてくる。
「あ゛ァ゛? 何がいいてェんだジーナ」
「? 分からないの」
出久への関心を剥ぐように、わざと勝己をイラつかせる言い回しをしてクラス全体の関心を集める。
「私も受験するわよ? 雄英。もちろんヒーロー科」
「ッんな!!?」
プルプルと、怒りのあまりか震えてか、パチパチと昔からの癖である〝個性〟由来の火花が勝己の手の周りでチラつく。
何の反応も来ず、思わずクラス全体を見回すと、教員も含めてみな鳩が豆鉄砲を食ったような表情でポカンとしていた。
よくよく見ると、息を深く吸っており、「あ、うるさそう」と思った私は咄嗟に手で耳を塞ぐ。
「「「えぇ゛ーーーー?!」」」
「え、ジーナさんも雄英受けるの!?
「ちょ、ジーナ? 先生聞いてないぞ! なんだ今まで進路白紙だったろ!」
「そうだぜジーナ! 今までヒーローとか興味なさげだったろ! どうした!」
「は? ジーナも受けんの? ムリじゃん。記念であわよくばとか思ったけどムリじゃん」
よしよし、とまだプルプルしている勝己を無視して、当初の目的を達した私はちゃんと伝えようと、立って出久の方に歩いていき、手を差し伸べながら声をかける。
「そういう事だから、出久もがんばろ? 筆記は出久に分からないこと聞くから、実技は一緒に特訓とかしよ」
「うん! あ、ありがとうジーナちゃん」
ほんの少し目じりに涙を抱えた出久に変わらずに泣き虫だな、と場違いな感想を抱きながら、私は出久の椅子と机を戻すの手伝って、自分の席に戻る。
未だにワナワナパチパチとしている勝己の姿が妙に気になったが、思春期の捻くれ擦れ擦れの少年のお気持ちなど本人にも理解できるものではない、と思い諦めて席に座り直した。
―――§―――
「じ……。ジーナちゃ…。ジーナちゃん起きて!」
「んあ?」
いつの間にか、教員の話も終わり、始業式で午前中下校の今日、私を起こしてくれたのはマリモの妖精……まちがえた。幼馴染の出久だった。
「あちゃー寝落ちしちゃってたか。ありがとう出久、起こしてくれて。ごめん今日はスーパー寄るから先帰ってもいいよ。今日の、誰だったけ……し、森林武者? のヒーロー活動を朝通学するとき見たんでしょ?」
「シンリンカムイだよ……ジーナちゃん」
思わず間違えてしまったヒーロー名に超一流のヒーローオタクである幼馴染が少しムッとした表情で抗議と諦めの含んだ視線で見てくる。
「あはは…。ヒーロは君らが好きなオールマイトとか、あ、エンデヴァーは知ってたな」
「ジーナちゃんはいつも僕が色んなヒーローの話をしても興味なさそうだったのに、エンデヴァーだけはすっかり好きになって色々聞いてくるよね…自分じゃ調べないの? もうすっかりエンデヴァーのフォロワーじゃないか」
「ごめんごめん。だって、自分で調べるより出久に聞いた方が詳しく知れるんだもん」
雑談をしながら私は片づけを始める。とはいえ、始業式の今日は教科書もなく、進路指導のプリント一枚と、何枚かの学校だよりだけをファイルに入れ鞄にしまうだけだった。
片づけをしている間も出久はどこからか取り出した将来の為のヒーロー分析ノートを開いて私に見せてくる。
とてつもない精度で集められ情報が事細かにしかし、一見しただけで直観でどのような配列でどういう情報か理解できるように凄まじい技巧で整頓された情報媒体におののく。
この一冊の一ページでも読めば、たちまちその書いてあるヒーローに関しては有識者と言っても問題がないほどの知恵が脳裏に焼き付く。
(…
昔からある意味幼馴染同士どちらも細かいというかみみっちいという共通点が彼ら、出久と勝己にはあるのだが、本人たちは気づいていないらしい。
そうこうしているうちに、他のクラスメイトはそそくさと帰っており、教室には私と出久だけになった。
「はいはい。また今度読ませてね出久。今日はもうスーパー行ってピロシキ食べるんだから」
「あ、ごめん。スーパー行くんだったよね。……ねぇ、ジーナちゃん」
「どうしたの出久?」
「あ、朝いってくれ……言ったのは本当?」
「本当だよ。だって、勝己も、出久もヒーローになるんでしょ? 二人とも危なっかしいから、私にも二人の分背負わせてよ」
「ジーナちゃんの〝個性〟は本当にすごいから前で
「あはは、そのブツブツはちょっとだけ抑えられるようになるといいね、でもありがとう。うん……出久は昔から誰かが困ってたら自分のことなんて構わずに走り出しちゃうよね。ヒーローの本質は奉仕活動なんでしょ? 君たちの好きなオールマイト曰く。なら、君は誰よりもヒーローになれるよ」
そこまで言うと私は、鞄を背負って、教室の扉方へと歩いていく。
「あ、でーもちょっと筋トレはしな? 個性が攻撃系じゃなくても戦闘能力の高いヒーローもいるでしょ? 筋力だよ筋力。エンデヴァー……あ、いやオールマイトも筋骨隆々だったね。男子なんだから筋肉はつきやすいでしょ。えーと、あと10ヵ月かな? うん。入試までに変わるには十分だ!」
一度立ち止まって、振り返ってから出久のノートを指先でつつき、なんの為のノートだったけ? という表情で笑いかける。
情報もやるべきことも緑谷出久は持っている。
すべてそのノートにヒーローに成る為に、
「それじゃ、また明日ね出久」
出久の挨拶を聞くことなく、私はガラガラと横引の教室の扉を開けてスタスタと歩いていく。
頭の中で今日買うものを改めてリスト化しながら、既に大多数が下校して物静かな学校を歩いていく。
すると、前の方からガヤガヤとガラの悪そうな複数の男子の愉しそうな話声が聞こえてきた。
ウキウキした足取りがまた、鉛のように重くなってしまい案の定前をみると、腰パンの制服を着たもう一人の幼馴染である爆発頭とその取り巻きが歩いてきていた。
「はぁ、一日に何度アンタの顔芸を見ればいいわけ?」
「顔芸だぁ!? てめェが面ださなきゃ俺もんな面しねぇよこのソバカス女」
「はいはい。で? どうしたの、アンタに限って忘れ物を教室に取りに行くとかいうわけじゃないでしょ?」
みみっちぃんだから、という言葉を飲み込んで、にっこりと勝己に言うが、これまでの関係値ゆえかすぐにばれてしまい脳天にチョップをもらってしまった。
「いデ! ちょっと! 力加減考えなさいよ! 試験に向けてますますトレーニングつんでるんでしょ!?」
「うっせ、いつものバリアはどうしたバリアは」
「いちいち勝己に使ってたら、一日中個性解けないんですけど? だから使ってないわよ」
「そーかよ。じゃあなジーナ、ババァがうっせーからたまには相手してやれ」
「え? 光己さんが!? やった、また今度遊びに行くって伝えといて」
「おう」
え? 私と勝己の関係値が分からない? ただの幼馴染で友人ですが?
爆豪勝己という男はただプライドがエベレスト並みに高くて、そのプライドに相応しいほどに勝己は才能に満ち溢れ、そして努力を怠らない本物、というだけだ。
なんでもできちゃうから、同世代で対等の友達はいなくて、ガキ大将みたいになって、それを止める友達もいなかったというだけなのだ。
その点私は人生二週目だからね、高校くらいまでならなんとか前世の自分の頑張りでカバーできるのさ。
そんなこんなで事あるごとに勝己に突っかかってなんやかんやした結果、うーん。私たちの関係はライバルとかまぁ、そういう競い合う相手、みたいな風に思われているそうだ、光己さんいわく。
まぁ、勝己のお母さんの光己さんに私が構われてるからそこまで邪険にできない、ていうのもあるとは思う。
「で? 結局そっちの方に何しに行くの? 早く家に帰って筋トレでもしたら? 雄英受けるんでしょ」
「うっせー!!!」
そう言葉を吐き捨てて、足音を擬音でいうならドカドカという音が付きそうな柄の悪さを全面に出して勝己たちは歩いていく。
さっき出久のノートに施したオマジナイが気苦労で済めばいいと思いがなら、私は歩いていく勝己たちを見送った。
「まぁ……無理だよねぇ。はぁ……。分かるよ教室でしょどうせ。朝の時に私が言いたい事遮っちゃったからなぁ……あーめんどくさいよぉ男同士の因縁? もー、前世の私はどうやったっけ? はぁ、もういっそ健全に殴り合いとかして言いたい事言い合えばいいのに」
まさかこの時の冗談めいて言った嘆きが遠くない将来実現するとはその時の私は微塵も想像することはなかった。
―――§―――
本当は勝己の後をついて行きたかったが、出久と勝己の喧嘩は誰がどう介入しようと拗れるだけだ。
なので諦めて校門近くで出久を待つことにした。
暫くまっていると、案の定とても判別のしやすいBOOM! という爆発音が聞こえてくる。
それと同時に私の〝個性〟も少しばかり反応をした。
(…うーん小、てところ? 多分ノートは燃えカスにはならずに全体的にセピア加工みたいに煤けただけかな? 無駄に器用なことするよね…)
〝個性〟から伝わってくる微細な感覚で、ノートの被害を考えながら、そろそろ勝己の用事も終わって出久も出てくるかな、と予想を立てる。
この世界で私の持つ
アンデットアンラック、原作のジーナちゃんとジーナさんの能力使用時の感覚を私は知ることはできない。ただ、重いとか強い一撃とかに対してはキチンと重いとか大変とかそういうフィードバックはあるようだった。
この世界の〝個性〟という
正直個性が世界に発現した理由は現代でも分からないそうだ。
ともかく何が言いたいかというと、〝個性〟は魂とかそういう概念的なモノではなくて間違いなくその人の身体機能に由来するまぁ体の一部ということだ。
そのおかげか、私はある程度能力の状態を把握することができる。
例えば、今回の出久のノートで例えると能力を付与してる状態なら能力、自分の体の一部だからどこにあるのか、後はその能力の付与した形とかどんな攻撃を受けたのかとかを離れていてもなんとなく理解することができる。
「うーん。こっちの方だと思うんだけどなぁ……〝不変〟を付与したノート」
何故か教室からではなく、外から感じる自身の〝個性〟に概ね勝己が〝個性〟を使った後に乱雑に教室から投げ捨てでもしたのだろう、と予測を付けながら私は自分の感覚を頼りに歩みを進める。
普段は行かない校舎裏の方まで歩いていくと、何の為にあるのか分からない鯉のいるため池の前にモジャモジャの幼馴染が立ち尽くしているのが見えた。
「……じゃないよバカ…て、汚れてない?」
「うわぁ……そこに落ちちゃったの? 災難だったね出久」
「わッ!? ジーナちゃん? あれ、帰ったんじゃないの?」
「ん? あーいや、教室から出たときに勝己たちとすれ違ったから……」
「なるほど…。ありがと、えっとこれ、このノート、ジーナちゃんの〝個性〟だよね?」
「そだよ。って…またブツブツ始まってる……はぁ、意外と図太いよね」
落ち込んでいる、と思ったら〝個性〟とかヒーローのことになるとちゃっかり、ブツブツと分析をし始める幼馴染のオタク極まる芸術的な所業にすこし距離を置き、そういう所がナードって言われるんだよ、とも思いつつ肩をたたいて意識を戻す。
「ごめん……」
「いいよ。もう……出久もさあんなにやられてさ殴っても怒られないよ?? なんなら洋服とかに私が〝個性〟を付与してあげようか?」
シュッシュ! と少し空気の切るいい音のするパンチを繰り出しながらおどけてそう出久に私は言う。
しかし、自分の事を顧みないで人の事ばかりを助けようとするこのお人好しは首を縦に振ることはないだろう。
「あはは。いつも迷惑ばかりかけてごめんね、ジーナちゃん」
「もお! さっきから謝ってばっかじゃん。謝るよりありがとう、が欲しいっていっつも言ってるでしょ!」
「あ、ごめ……じゃなくて、いつもありがとう」
「うん! それでよろしい! あ、ごめんそろそろスーパー行かないと本当に売り切れちゃう。またね明日! 気を付けて帰るんだよ!」
―――§―――
「ふぅ……いつも思うけどそこらの
走ってなんとか特売に間に合いホクホクした気持ちでスーパーから出た私はふと空を見る。
「あり? お肉はいつもの商店街の方で買おうと思ったんだけど……えー? 火事でもあったのかな? つくづく世紀末じみてるねぇ」
クワバラクワバラ、と心の中で唱えながらも私の口はもうピロシキの口で、そして家の冷蔵庫にお肉はないのだ。
残念ながら何か事件が起きていると思われる方へ、商店街の方へと足を向けて歩いていく。
商店街へと近づくほどにBOOM‼ BOOM‼ と聞きなれてしまった音が聞こえてくる。
何か事件が起きて建物も壊れて、黒い煙や火の粉が遠い所からでも見えたのだからそんな音が聞こえるのは当然、と思いながらも思わず進む足は速くなって、次第に駆け足になっていた。
「はぁ…はぁ……まじか、やっぱ商店街じゃん」
息を整えながら、周りにいる野次馬の話を聞きながら、なんとか人の波をかき分けて前に、何が起きているのかを見ようと体を滑りこませて行く。
絶え間なく口をふさがれてもがくような声とボムボムという音が私の焦燥感を搔き立てる。
プハッ! と波を抜けて、一番前にたどり着くと、隣から押され、誰かが人混みの中から飛び出しいった。
「あぶ…」
押しのけられて転びそうになったので、思わず無理やり前に来た人を見ようとしたら、想像もしなかった人物が視界には映って私は固まってしまう。
「え、いず、いやかつき?」
ふと漏れた声はすぐに周りのヒーローたちの挙げる静止の怒声にかき消されてしまったが、まだ私は頭がはっきりしないでただその光景を立ち竦んで見てしまっていた。
「な、おい! まだ対応できる〝個性〟を持つ奴は来ねぇのか!?」
「クソッ! どうするんだあの子一人で走ってって」
(なッ!? 誰も助けに行かないのか? ヒーローだろ? なんだ、対応できる〝個性〟って……違うだろ!!)
買った物の入ったスーパーの袋が掌から滑り落ちた。
気づいたら、私も飛び出した出久のように現場に人が入らないよう前で腕を広げて立つヒーローたちの腕の下を潜り抜けて走りだしていた。
(て言っても! どうするのよ! 見た感じ流動性を持つ肉体の〝個性〟! あの流動体は操作してるだけなら私の―不変―で無力化できる。でも、多分あれは生物の肉体そのものが流動体になってる。今の私じゃ生物の変化は否定できない)
「君が、助けを求める顔をしてた」
泣きそうで、頼りなくて、でも困った人をほっとけない。そんな英雄の声を私は確かに聞いた。
その言葉に場違いながらも思わず口角が上がって微笑んでボソリ、と言葉が出てしまう。
「……いいね、最高だ。ふんッ!」
走った勢いのまま、私は、―
(さっき出久が投げていた鞄が顔、いや目か? ともかく全身流動体でなにも攻撃がきかないわけじゃない! 強い衝撃と顔の痛みで一瞬体を大きくのけぞる! ならココッ!)
ジーナの健脚から繰り出される助走をつけた蹴りはかなりの威力で、流動性の身体をもつ
その瞬間に身体をねじって勝己の顔周辺に手をもってきて〝個性〟を使用する。
アナコンダの様なしめ付け、というような手段をこの
そして、これはジーナの〝個性〟とは最高の相性だった。もちろんジーナにとって最高であり、
(だから、一度顔付近から
「よし!」
「あ゛?……じぃな」
「ジーナちゃん!?」
「なんだこりゃ! 顔に触れらんねぇぞ! クソ女お前かあ!! お前らもう少しなんだから邪魔すんなよ!」
ドサッとあまりきれいな着地はできず、出久を下敷きにする形で着地することになって私と出久は二人で道路に座り込んでしまう。
驚いた幼馴染の声と共に、
しかし、そのまま当然邪魔をした私達に目を付け、その身体を大きくしならせて鞭のような一撃を叩き込もうとする動作が見えた。
私は、下敷きにした出久の前に身体を少し乗り出して、両手を前にしてその攻撃を防ごうとするが、耳に残る何度も幼馴染に見せられた声が聞こえて来て思わず体が脱力してしまう。
そしてすぐ、視界に綺麗な黄色い髪と揺れる触覚、そして筋骨隆々とした逞しい肉体に、明らかに画風の違う勇ましくも優しい微笑みを携えてその英雄はやってきた。
「本当に情けない」
ドンッ! という大きな衝撃音を上げ、攻撃をその肉体だけで受け止めたそのヒーローの姿に思わず私も目が奪われる。
「…オールマイト」
ぽつりと零れるように出久が出した名前に現実感がないな、とその風景をついついぼー、と眺めてしまう。
不思議とさっきまでの焦燥感はもうなく、ただ漠然と
「君に諭しておいて己が実践しないなんて!」
声を張り上げて
そしてよろけて変な形で座りこんでしまった私たちの腕を
「プロはいつだって命懸け!!! ―DETROIT SMASH!!!!―」
そう大きな声で叫ぶと、捕まっていた勝己を引き出しながら右腕で一撃を打ち込む。
瞬間、とんでもない衝撃が生まれ左手で掴まれていた私たちの身体がその一撃の風圧だけで子どもの日の鯉のぼりみたいに浮いて揺れる。
その風圧だけで商店街の火事すらもまとめて吹き飛ばして、竜巻の様な暴風が生まれて周囲のヒーローが野次馬を囲って飛ばされないように守っていた。
「うっ……」
周囲はどうやらオールマイトの一撃で上昇気流が生まれて雨が降り始めたようで、生身の身体で天気すら変えてしまうそんな神話じみた一幕にものすごい盛り上がりを見せていた。
私はもはや反射的に自分のことだけはちゃっかり〝個性〟を使ったからなんともなかったが、すぐそばで直に風圧を浴びたり、あこがれの人に助けてもらったり、とか色々で幼馴染二人は意識を飛ばしているようだった。
ともあれ致命的な人的被害はなくこの事件は幕を閉じることになった。
飛び散ったベトベトもヒーローたちがちまちまと回収し、無事警察に引き渡されていた。
ただ、今回のことで出久はいろんなヒーローに怒られていたが、個人的には確かに危ないことをしたのだから大人とか憧れのヒーローに怒られて欲しい、と思う反面〝個性〟が効かないからってなにもしないで棒立ちしていたヒーロー達に思うことがない訳でもなく……。
つい、そうつい。
無事を確認してそのまま良かった! と抱き着いたまま、周囲では勝己を称賛する声を上げるヒーロー達の前で思わず声を上げてしまった。
「ちょっと! 何もしなかった癖に説教垂れないでくれる? 確かに〝個性〟の相性は悪いとは思うけど、大人でしょ? 勝己が抵抗して爆心地みたいになってて近づき難いのは分かるけど、ただの流動体な身体の個性だったわよ? 大人の大きな手で顔の辺りだけでも搔き続けて息できるようにできたんじゃないの?」
後先考えずについ激情に任せて思ったことを言ってしまうのは私の悪い癖だ。
思わず最悪な空気とテレビカメラの存在を思い出して何とか息を吸って取り繕う。
確かに私にとって勝己は幼馴染の友人だが、ヒーローという職業の人からしたら関係ないただの被害者、一般市民でしかない。ソレを命懸けで助ける理由なんてないのも当たり前だし、勝己を助けるためにヒーローも呑み込まれて死んだりしてしまったら本末転倒だ。
理屈は分かる。
「はぁ……でもごめんなさい。私達も大事な幼馴染だったので思わず走り出しちゃったんです。振り返るとすごく危ないことしたって分かります。心配をかけてごめんなさい」
ということで本音を交えつつ先に仰々しく90度に腰を曲げて謝罪をする。
「あ、あぁ……すまないこちらこそ。君達の幼馴染が助かってなによりだ。しかしいきなり飛び出してはいけないよ」
中学生女児が思いっきりヒーローを批判した状態で大切な幼馴染(男女)という付加価値に、しおらしい姿を見せれば雰囲気的に出久にかなりの大声で叱っていたヒーロー達もうやむやになるだろう。
「……はぁ早く帰ってピロシキ食べたい」
そう独りごちる私の言葉は幸い誰にも聞こえなかったみたいだった。
―――§―――
もろもろ終わって開放されたころにはすっかりと夕方で、クゥクゥとまだお昼を食べていないお腹を慣らしながら私は帰路についていた。
一日で情報も経験も多すぎて疲れたため、帰り道が同じ方向でも私は一人で帰っていた。
もう疲れたから今日は適当に何か口にいれてシャワーを軽く浴びたら寝てしまおう、そう心に誓って足取りを速くする。ちなみに後ろから聞こえてくるタッタッという走る音は気のせいです。
「おい」
幻聴です。
「おいジーナ!……はぁはぁ」
「……はぁ、何?」
諦めて後ろを振り向くと知り傷やらなんやらでボロボロかつ、どこからか走ってきたのか息の上がった勝己がいた。
「おれは、俺はデクにも! お前にも助けを求めてなんかねぇぞ! 助けられてもねぇ。……俺は一人でもやれたんだ!!」
「はぁ……」
「あ゛ぁ!? なんだ!」
思いがけない、というよりも逆にイメージ通り過ぎる内容で本当に頭痛が痛い、という状況に私は陥った。
どうにもならねぇ、とばかりに顔を空に向けて、手で頭を押さえる。
そして、そのままもう一度大きく深呼吸をしてから微笑んで勝己に手を伸ばす。
「そうだね。うん。でもなんでもいいんだよ。勝己が、無事なら……勝己の家で勝己がいて、光己さんが勝己にどなって、勝さんがオドオドして手のやり場に困ってる。そんないつも通りの日々が変わらないならなんでもよかったんだよ、私は」
「んなッ!」
こういった返しは想定していなかったようで、頬に触れ、そのまま固い髪質の頭をなでる手が即座に振り払われる事無くしばらく私は勝己の頭をゆっくりと髪を撫でつけるようにしながら睨めっこのような状態が続いた。
「クソが!」
そう一言大きな声を上げるとそのまま少し私の肩にわざとぶつかって勝己は家の方へと歩いて行く。
「タフネス……」
あんなことがあったのに元気の有り余っているような勝己に呆れを通りこしてもはや尊敬の念を抱いてしまった。
私も勝己の後を追うように帰り道を歩いていく。
「おい! 付いてくんじゃねぇよ! ソバカス女!!」
「アンタねぇ……付いてくんなも何も家近所なんだから同じ道になるに決まってるでしょ!!」
「ヂッ!!!」
「コラァー! もう、舌打ちしないの!」
こんな世界で、こんな人たちと一緒に私は今度こそ大切なモノ全部護れる力を持って生きている。
あぁ、そうだ。言い忘れてたけど――――これは、私が大切なモノを全部護って抱えながら、大切な人達が最高のヒーローになるまでの物語だ。