個性【不変】のヒーローアカデミア 作:アンデラ伝道したいマン
原作両者ともに完結しました。両先生方お疲れ様でした。そして、本当にありがとうございました。
さて、拙作に関しても貫徹できるよう努めますので、皆様もぜひ最期までお付き合い頂けたら、と思います。
追記)2025.2.8
ご指摘いただき、原作との相違がありましたので最後の方少し修正しました。指摘ありがとうございました。
挿絵追加しました。
国立雄英高等学校は西の士傑、東の雄英と言われるほど、ヒーロー育成の名門校だ。国民栄誉賞を打診されるもこれを固辞するナンバーワンヒーローのオールマイト、事件解決数史上最多、炎熱系ヒーローエンデヴァーなど数々の
その敷地は広大で、一部校内施設への移動の際にはバスを使う。私はあまり興味がなかったのでうろ覚えだが、なんでも広すぎるて迷子になるから専用の地図アプリがあるとか。
随分とハイテクである。
とまぁ……話半分に幼馴染の話を聞き流していたことを私は今になって少しばかり後悔していたのだ。
(いやね……。分かってたよ? だって、説明会で前のモニターに映し出されたスライドの中で会場はA~Gの七会場もあるんだもん。しかも模擬
バスに揺られて五分か十分ほど。動き出してすぐに鉄の壁で囲まれた場所が見えてきて、そこに向かうバスからもアレが演習場なのだろうと予想はついた。
もっとも、遠目からも理解できてしまうその大きさに思わず唖然としてしまった。
目的地に着くと、前の席から一人ひとり下車していく。
実際に目の前で見ると、思わず言葉を漏らしてしまう人も多いようで所々で同じような「デッケ……」だとか「うわ」とかそういった言葉が聞こえてきた。
私は第一陣のバスできたため、受験生が会場にそろうまで暫く時間があるようで、深呼吸をしながら周囲を見回したり、自分の装備を確認した。
落ち着いて状況把握に見てみると、思い思いの装備を身に付けている人はかなり多かった。それによくよく見ると、随分とちゃんとしたサポートアイテムや衣装、スーツ……いやヒーローコスチュームて言うんだっけ? そういうのを装備している人たちも多くいた。
(おぉ……あの人の服すっごいわね……。ありゃ? あっちの女の子は四つん這いなってるや。そういう個性なのかな? それと……なんだかあっちの男の子は凄い隈ね……寝不足かしら。緊張するもんね分かる)
一通り周囲を見渡して、落ち着きを取りも出した私は、まだバスが行ったり来たりしているのが見えて、自分の装備も確認しておくことにした。
とはいっても、私の装備はそこまで面白みのあるようなものではない。
服は〝個性〟を使えるように、上は少し丈の長いジャージで手の平に触れる、萌え袖位の丈。下はショートパンでと中にはジーナさんたちも履いていたが、トレンカというレギンスとかスパッツの一種を履いている。少し違うのは他のが足首程度までなのに対し、トレンカは土踏まずに引っ掛けて着用するのだ。これがもう私の〝個性〟、素足の状態の足の裏との接触とい制限との噛み合わせが抜群なのだ
とはいえ、靴も履いている。裸足で地面を走ったりするのは現実的じゃないからね。靴はサンダルで前の方は足の指が丸出しになっている。寒いからシレッと〝
そんで、アイテムに関しては正直あまり用意がない。『アンデッドアンラック』のジーナさんたちみたいに空気を射出して能力の補助になるようなものを、と思ったが残念ながら私はそういう機械いじりは得意じゃない。
苦肉の策として腰に付けた大きめなポーチには、スプレータイプで無臭の制汗剤を何缶か身に付けている。
〝個性〟となった私の【
という事で苦肉の策としてスプレー缶を持ってきた。制汗剤の粉が噴き出すコレは、空気を白い粉で視覚化すると同時に、噴出して前にいく流れを見ることができ、私が〝個性〟で空気を伸ばしたりするのがイメージしやすくなり、発動がしやすくなるのだ。
「よしッ」
バスの運行も終わり、そろそろ試験開始かな、と思いながら頬を両手で挟むように打ち付けて気合を入れる。
すると、同時に気の抜けた、けれどよく通るプロの声が耳に届く。
「ハイ、スタート」
ん……? と誰か、いやその場にいる全員が異口同音と漏らした。
一瞬頭が真っ白になったが、ふと、説明会の終わりにそっと勝己から告げられた言葉がよぎる。
「出せよ。テメェの全身全霊。ビビッてんな。テメェの没〝個性〟なんざ俺の敵じゃねぇんだよ」
思わず二ィと頬が吊り上がる。
(本当にもう……伝わりづらいし、ストイックなんだから)
真っ白になった頭が動き出し、身体の中で血がすごい速さで駆け巡っていくのを感じる。その熱をそのままダッと駆け出し、全身全霊で〝個性〟を使ってみることにした。開きかけの演習の扉が見えたが、そんなものはまどろっこしい。
駆け出した足でわざとサンダルを脱げるようにした。左足が後ろに行くと、そのままサンダルも飛んでいく。右足が地面に着くとそのまま体を縮こませて高く飛ぶように足に力を溜める。
そして、そのまま足元から
「いいね! 最高だ!」
伸びをするように空中で手足を広げて叫ぶ。高く高く、演習場の壁を越えて、太陽に近づくように跳ぶ。後ろで何やらアナウンスが続いていたが、今の私には届かなかった。
魅せつけてやろうあの捻くれた幼馴染に。私の〝個性〟は。ジーナ=チェンバーという強い女性は、私たちはそんな簡単に乗り越えられる壁ではないと。
―――§―――
(こうなったら躊躇も遠慮も無しだ! やってやらぁ! 私ならできらぁ! 見ててラックちん!)
高く跳んで、そのまま素足に接触している空気で足場を生成する。
ジーナさんたちはしっかりとした四角形の足場として生成することができていたが、今の私にはまだできない。ただ、足の形そのままで〝個性〟を付与することはできるため、足場と言うには心もとないし、誇張もはなばなしいが、ともかく足場と呼ばせてもらおう。
自分の身体能力の延長という特性から、発動するだけなら容易にできる。ただ、歩幅や速度に合わせてタイミングよく、足場を発生させることが至難の業なのだ。
機動力という面で私はそれなりに優れた身体能力と運動神経、その程度しかない。残念ながら〝個性〟溢れる超人社会では大したアドバンテージにならないのだ。そのため、ヒーローとなるのならこう言った三次元的な移動手段の確立は必須だった。
夏休みや今日に至るまで結局私は〝個性〟の発動訓練に関しては、検証と二つのことしか……いや、二つだけを重点的に特訓してきた。
一つは今もやっているみたいに足場の生成。空中戦、というよりも柔軟な機動力を確保するための特訓だ。
そしてもう一つが……。
「ハァ!!」
プシュッとスプレー缶を一押しする。缶の噴出口から一直線に〝不変〟にした空気が勢いよく伸びて、仮想
動かなくなったのを確認したらすぐさまに〝個性〟は解く。これは今滅茶苦茶に人生で初めて全身全霊、正真正銘、一球入魂で〝個性〟を全力で使っている私の消耗を少しでも抑えるためであり、そして他の受験生が怪我をしたり、ヒーロー活動の支障となったりといった
特訓したもう一つの要素というのが、この伸ばすという事だ。極論を言えば、これは〝不変〟の操作である。一番最初に演習場に跳び込んだのもこの、〝不変〟にした空気を操作して自分を押し飛ばすようにしたのだ。
結局の所、【
であれば、当然
発見次第、周囲に他の受験生がいないか確認しつつ、仮想
ズキズキと頭が痛み、脳が熱を持っているようで少し意識が朦朧とする。
(あ゛ぁッ! もうッ! これは想定外! 便利だけど、慣れなくて頭の処理が追い付いてないッ)
私の【
特訓の時には、空気を〝不変〟にしようとして、人がいることでの押し退けられた空気の形などで索敵や把握に使える、と予測を立てていた。
実際に今もこの試験で機械である仮想
(クソ……。〝個性〟を発動する度、いや空気を対象に発動しようとする度に一瞬だけど、たぶん今できる最大範囲すべての空気の形が頭に焼き付けられるッ……)
せき止められた水が一気に流れるとその水流は途轍もないものとなる。それと同じようなことが今のジーナの身体、その〝個性〟では起きていた。
ずっと封じ込めていた〝個性〟を全力で振るう。慣れないことで制御が甘くなっていることもあり、そのフィードバックがジーナを蝕んでいるのだ。
(ヤバいな……正直、今どれくらいの仮想
片手に持ったスプレー缶を振る。すでに最後の一本となっており、その一本も心もとない。だから、私はこれまでの戦法をキッパリと諦め、捨てることにした。
高い地形的有利な空中から目視で確認しつつ、〝個性〟のフィードバックから得た仮想
そして地面に着地し、立ち上がってすぐに制汗剤のスプレーを吹かせる。
上手く〝個性〟が発動できず、無意味にスプレーすることになっているが、もう使わないから問題はないだろう。そう思いながら、一本の棒状に空気を〝不変〟にする。
一瞬、また脳裏に周囲の情報が流れたが、深呼吸をしてなんとか整える。
「よし。行くぞ!」
簡易版〝
際限なく〝個性〟を使い、遠距離から空気を伸ばして戦っていたため体力の消耗はほぼないのが幸いした。あとは我武者羅に最後のコールがなるまで泥臭く駆け回るだけだ。
―――§―――
「おりゃあ!!」
地面に降りてから何とか五体ほど仮想
ただ、一歩足を踏み出すたび、一呼吸する度に頭がズキズキと痛み、変な脂汗が出てくるのを感じる。
息は上がっていないにも関わらず、下手な呼吸でもするように肩が妙に上下し、吐き出す息が熱い。
時折、何やら放送のようなものが聞こえるが、今の私の頭では何を言っているのか上手く理解できなかった。
(あと、どれくらいだ……)
思わず、段差か瓦礫にでも躓いてしまい、つんのめるとゴゴゴゴゴゴゴッという地響きと共に地揺れが起きた。
地震か、と声を漏らしそうになったが、すぐに答えが目の前で先ほどの地響きの何倍もの轟音を立てて、所狭しと暴れていた。
「ッ! お邪魔虫ッ」
一瞬何事かと思ったが、すぐさまに楽しげに話をしていたプレゼント・マイクの言葉、その答えを思い出した。
「キャー!」「いやいや無理だろ!」
「に、逃げろ!!」「いやっ崩れる!!」
余裕がなく、周囲の状況把握は散漫となっていたが随分と人が周りにいた。皆、残り少ない
「デカ過ぎでしょッ……!」
そういえば【
「いや、今は逃げて他の仮想
見える範囲では仮想
「は?」
ふと、自分の〝個性〟が示したモノが信じられず、勢いよく私は振り向くと、ボーっとする頭に妙にハッキリ「ケロッ」という女の子の声が聞こえてしまった。
(でも、試験だし……ッ)
身体が痛む。いつの間にか〝個性〟が解け、素足で駆け回っていたようで、ドクドクと温かいモノが足の裏にまとわりつく。理解した途端にその温かさは熱さと痛みとなって襲ってきた。
尻込みしてしまい、一歩足を引きずって後退してしまう。
漠然と一秒が何倍にも伸ばされ、世界がゆっくりと動いているように見える。そして、ふと頭の中に声が聞こえた気がした。
【良いの?】
(良いも何も……試験なんだから、本当に危ない時には止まる、ハズ……)
【そうかもね? でも、そうじゃないよ】
(じゃあ、なんだよ……何が問題なんだよ……)
【ふーん。そっか、あんな理不尽を許せちゃうんだ。すごいね】
(そ、れは……)
【ふふ。ごめんごめん。そうだよね、そう。変わらない日々が好きなんだもん。あなたは、そんな理不尽を許せないでしょ。うん! ソレでいいんだよ。そのために今――――】
瞬間、私は走り出す。
【――――
幼馴染二人に似ているだのと言っていたが、私も人の事をとやかく言えるようなものでなく、随分と影響されているな、と思わず笑いがこぼれてしまう。
「あ゛ぁッ!! もう足いたーい! しッんじらんない!」
「オイ! おまえ! 危ないぞ! ッ……と、とまれ!」
「ありがとう! でもゴメンね! 私、行かなくちゃ!」
「なッ!? 返事したのに…」
走る。でも、大きな体を持つあのお邪魔虫の一歩の方が速い。
走る。でも、足が痛くて、頭も回らなくて、どんどん私は遅くなる。
「それがどうしたッ!!」
走ることはやめ、振り返りすぐに〝個性〟を発動させた。
当然ほぼ暴走状態の〝個性〟は頭の中に周囲の情報を押し込んでくる。しかし皮肉な話だが疲労などによって〝個性〟の出力が下がったおかげでなんとか今の私が処理できる程度のフィードバックとなり、〝個性〟を使うことができた。
まずは、袖が長いジャージが手のひらに触れていることを確認する。そして着ているジャージに〝不変〟を付与し、そのまま手を前に突き出す。
(自分を始点にして伸ばしていくのじゃ、たぶん間に合わないッもっと容赦も躊躇も! 恐怖も吞みこむッ!)
一種のゾーンのような状態なのか、今の私じゃ上手くいかなかった手のひら、足の裏を始点としない〝不変〟の発動が今ならできる気がした。いや、できる。
思い出すのはバンカーッ! 自分の身体から少し離れた地面を凝視し、そしてそこから勢いよく杭が飛び出る姿を想起する。
途端、ゴッ!! という人体から出たとは思えない音を立てながら私は吹き飛んだ。
(いったぁい! もう本当に痛い! もうッ!! 我ながらすごいイイ一撃だった!! さすが!)
なんて事はない。当初から想定していた〝不変〟の使い方の一つである服に〝不変〟を付与して、そこに強い衝撃を与え吹き飛んで移動するという方法だ。
もっとも、いくら服が〝不変〟で最強の盾になっていても、伝わる衝撃は変わらない。ビリビリと体の奥が痺れるのを自画自賛することで誤魔化す。
ズシャ…と滑りながら、なんとか着地する。ほぼボロキレ状のトレンカだが、私の〝個性〟があれば防御性能は破格となる。もっとも守られているのは足の裏のごく一部だが。
動かなかった子を見ると、長い髪の毛が崩れた瓦礫に挟まってしまったのだろうと予測がついた。
息も整わないうちに私は腰に手を当て、ビシッとお邪魔虫を指さす。
「ッ! おうおう、このデカブツ! 辺り一面壊しやがって
「け、ケロッ!? あなた、危ないわ! 早く逃げて! 試験だから私は大丈夫よ!」
そう、これはあくまでも試験なのだ。現実ではなく、いうならゲームのイベントの一つとも言えるような所詮そんなものだ。
……だとしても怖いはずなのだ。恐ろしいはずなのだ。自身の身長を優に超える体躯。鋼でできた巨体が今にも自分を潰そう、と意思のようなものを感じさせつつ進み続けている。
「ははは……ごめんね? ボロボロで心配させちゃうよね。でもただあなたを助けたいだけじゃないの。私は……私はただああやって皆の日常を全部変えちゃうような理不尽が許せないんだ。……試験中なのに変なことを聞かせてごめんね?」
「ケロ……いいえ。とっても素敵なことだと思うわ」
「ありがとう! あなた優しいのね。じゃあ、待っててすぐにあんな図体だけのヤツなんかスクラップにするから」
ドシ、ドシと眼前の巨大ロボットはただ進み、手を振り回しているだけだ。
音を検知する機能や人工知能でも搭載しているのか、一直線に私たちの方へと直進している。ただ、進だけでもその図体、重量であれば人一人を殺すことなど造作もない。
象に踏みつぶされる蟻のように、あのロボットに認知されることもなく床の染みへと瞬く間に変わるだろう。
「それがッ。それがどうした!! 私はアンタみたいに意味もなく理不尽に変える奴が大ッ嫌い!!」
だから。
「だから! 私はお前を否定する!!」
―――ケロΘωΘ―――
試験の残り時間が三分を切ったころに、突然大きな地鳴りのような音が産声みたいに会場中で響いたわ。驚いて私は思わず止まっちゃったのだけど、そこですぐに目の前から土煙をたててアレが、プレゼント・マイク先生が説明会でお話ししてたお邪魔虫が出てきちゃったの。
何かのビルの下に格納されていたみたいで、出てくると同時に、そのビルの破片が私たちの方へと飛んできたの。私もちょっと周りのみんなと遅れちゃったけど、逃げようとしたわ。でも、その時に運悪く瓦礫が私の長い髪の毛を巻き込んで落ちてきちゃったの。
体に当たったら……て考えると思わず腰が抜けて座り込んじゃったのだけど、そのまま大きな仮想
私は女の子にしても、身長が低い方だったから、余計にあの
流石にハサミとか刃物は持ち合わせになかったから、無理かもって思いながらずっと髪をなんとか引っ張り出そうとしたわ。
何とか引っ張っている間に、何処からか「いたい、いたい!!」てまるで弟が開き直った時みたいなそんな声が遠くから聞こえたの。誰か怪我でもして逃げ遅れちゃったのかしら、て心配になったのだけど、なんだかその声が近づいて来てるような気もしたの。
それから少しもしないうちにズシャー!!! てコンクリートの凸凹な地面と何かが擦れて滑るような音が聞こえて、また驚いて怖いからあまり見ないようにしていた前の方に顔をあげたの。
そしたら、とってもきれいなピンクゴールドって言うのかしら。そんな綺麗な髪が腰位の高さまでに三つ編みで編まれてて、揺れていたの。とっても場違いで変な話なのだけど、光を反射する髪が本当に綺麗で、見ればどこかで靴を落としたのか、裸足で血も滲んで、顔色も悪い。ボロボロなそんな女の子がとっても頼もしく思えたの。
「ッ! おうおう、このデカブツ! 辺り一面壊しやがって
「け、ケロッ!? あなた、危ないわ! 早く逃げて! 試験だから私は大丈夫よ!」
やぱっり遠くで「痛い」って言っていたのはこの子だ、て思いながら、大人しそうな見た目とかさっき聞いた声とかとは違ったドスのきいた、ていうのかしら。そんな声で思わず面喰ってしまったわ。
でも、すぐにそんなボロボロで私と同じ受験生なのだから、無理しないで欲しいって思って声をかけたの。そしたら、とっても素敵なお話が聞けたの。
理不尽が許せない。理不尽に立ち向かう。言葉にするのはとっても簡単だわ。でも、彼女みたいに本当に動ける人はどれだけいるのかしら。
振り向いて、目を細めて笑うこの子は、動画でよく見るヒーローたちみたいに頼もしそうな表情じゃなくて、自信なさげにしてたけど、私にはとっても頼もしく見えたの。でも、それと同時にとっても怖くなったわ。きっといつでも彼女は駆け出しちゃうんだろう、て。いつの日にか、何も言わずにそれが当然みたいな顔していなくなってしまいそうでちょっぴり怖かったわ。
変わらない速度で進む団地くらいの高さがある仮想
そして、彼女は大きな声で叫んだわ。
「だから! 私はお前を否定する!!」
て。ちょっとびっくりちゃったわ。でも本当に、まるで本物のプロヒーローのキメ台詞みたいで、思わず安心とかいろいろ混ざって笑いが漏れちゃったのは内緒よ。
―――§―――
轟音を立てながらお邪魔虫がただ直進してくる。
もう一歩二歩というところで、今から逃げるのは間に合わないだろう。
破壊音がやけに脳で響き、生じた風は変に体に纏わりつき、髪がバサバサと靡いていた。
息を整える。――大丈夫。
目を開く。――もうすぐ。
〝個性〟を使う――一瞬、脳内で情報が駆け巡る。
脳と体が限界だと主張するのを無視して、舌を噛んで意識を保つ。0ポイント仮想
「あ゛あ゛ぁッ!!!!!」
地面に向けていた右手をクルリと回して、そのまま三日月を描くように振り上げる。
勢いよく振り上げた手によって生じた風、つまり空気の流れを〝個性〟発動段階による形状の把握と想像で補う。
「不変三日月!!!」
後は最高に格好のいい人の技名を少し借りる。元々は違う
キンッ――――――ズガガガッ!!!!!
鋭い黒板を引っ掻くような風切り音に一歩遅れて、凄まじい爆音と衝撃が巻き散らかされる。
生じた衝撃波が周囲を吹き飛ばす。思わず私は倒れてしまい、後ろで髪が挟まったままの女の子に支えてもらう形になってしまった。
二人で暫く風に飛ばされないように精一杯踏ん張り、風が落ち着いてからやっと目を開けられた。そして飛び込んだ景色に思わず、目を見開くことになる。
【
世界の理を司る正真正銘の
大切なモノを必死に抱えて護ってきたそんな強い人たちが繋いだ能力なんだ。
【否定】して見せるとも。
飛んでいった空気が〝個性〟を通じて私にも理解できた。
鋼鉄の体をまるで豆腐でも切るようにスラリと進んでいき、配線や様々な管、ポンプなどの機構を断ち、バチバチという機械が壊れるなんともそれらしい音が聞こえる。
分かり易く言えば、この理不尽な圧倒的脅威を両断したのだ。
「わーお」
「ケ、ケロ…ちょっとやり過ぎね。まるで真ん中だけ抉り取られたみたいになっているわ」
「あはは……。実は出力の調整が最大の課題なんだよね。入試、の相手がロボットで良かった…て今心底思ってるよ…」
何とも言えず、二人で話していると各所に設置されているマイクから『残り一分!!』という音声が聞こえてきた。
もう、私はヘトヘトで正直ここから動けるか、と聞かれるとうんともすんとも言えないが、何とか動こうという努力は最後まではやめたくない。
「あ、そうだ。ありがとうございます……。えっと、あー今、瓦礫壊しますね」
「ケロ? 私、
「え? あ、私はジーナ。ジーナ=チェンバーだよ。よろしくね。じゃあ、梅雨ちゃん今から瓦礫壊すね」
「いいのかしら? まだ一分はあるみたいだけど」
「いいよいいよ…。もう全身ボロボロだから……と、ありゃま上手く立ち上がれもしないや…参ったなこりゃあ。……あ、そうだ。ハイ梅雨ちゃん」
「あら? 何かしらこの白い棒? は」
「あーえっとねぇ簡単に言うと、私の〝個性〟で作ったものだよ。切れ味が良いから気を付けて。申し訳ないんだけど、自分で瓦礫切ってもらってもいいかな?」
「ケロケロッ。すごい〝個性〟ね。もちろんだわ。貸してもらうわね」
何とか、立ち上がり運よく、いや何故か持ってきてまだ維持していた簡易版〝
(うーん。格好付かないし、さっきの攻撃もコレ使った方がイメージしやすかったかなぁ?)
「おい!! 上! クソッ…ぉ、漢ォオ!!!!!!」
「え?」
「ケロ?」
いきなり、慌てた男子の声が私と梅雨ちゃんの耳に届き、その声が言うままに二人して上を向く。すると、私たちの眼前で停止した0ポイント
(ヤバッ!? このまま落ちるなら、梅雨ちゃんも巻き込まれる! クソッ〝個性〟! 〝不変〟なら!!)
梅雨ちゃんを抱き寄せて、片手を挙手するように上げる。そしていつも通りに〝個性〟を発動しようとした。しかしブツッと接触の悪いイヤフォンのように、嫌な音を立てて、思考が乱される。
「ぐァ? …やばごめん梅雨ちゃん……」
既に限界まで発動した〝個性〟はついに拒絶という形で応える。
私は即座に諦め、だんだんと維持が解け始めた〝
髪を伸ばし、綺麗に維持することはとても難しいと今世になって知り、ようやく髪は女の命という言葉の重みを少しばかり理解できるようになったが、どうか許してほしい。
「あ、……」
一縷の望みだった〝
最後に見えた景色は、何かが横切ったのと、聞こえたのは誰かが懸命に走る音。そして、鉄塊がひしゃげるような音だった。
―――§―――
「ウッ……な、に? 頭ガンガンする」
「おや? 起きたのかい? フゥー良かったよ」
「え? 誰? ていうか、ドコ…。私……」
「ハイハイ。落ち着きなね。あたしゃリカバリーガールだよ。ここは雄英高校の保健室さね。自分がなんで
「あ、えっと……。入試で、お邪魔虫の……。それ、で あ! 女の子! 一緒にいた確か蛙吹さんっていう女の子は無事ですか!? ツゥ……自分の声が響く…」
「うんうん。頭は打ってなかったみたいだし、それだけ動けるなら一安心だね」
目を覚ますと、知らない天井だった。
体の節々と特に頭がガンガンと痛むが動く事自体は問題がなさそうで、寝ていたベッドから体を起こす。
すると、その物音に気付いたようで、仕切られていたカーテンが開かれ、ナースと医者との半々のような衣装を身に付けた妙齢の女性が出てきた。
話をしているうちにどういう状況なのか把握することができ、思わず背丈の小さいリカバリーガールの肩をベッドの上から掴んでしまう。それに嫌な顔一つせず「ハリボーでも食べて落ち着きな」とリカバリーガールは渡してきた。
落ち着いて話を聞くと、どうやら梅雨ちゃんは目立った怪我無く帰ったようだ。目覚めるまで待とうとしていたが、私の目覚めが遅くて流石に帰るように促されて渋々と帰ったようだ。一応手紙とそこに連絡先が登録されているので、良かったら連絡してほしい、と言付けとともに、リカバリーガールがその手紙を渡してきた。
「にしても、あんた靴をどこにやったのさ」
「あ、あはは……」
「はぁ……。足の裏の怪我以外は目立った外傷はなかったよ。体力はあったみたいだからもう治療済みさね。その頭痛は特に怪我とか異常もなかったから、〝個性〟の反動だね。どうする? 動けそうかい?」
「はい、大丈夫です。わざわざすみません」
「いいんだよ。ただ無理はしちゃいけないよ。あぁ、そうだ。今日はもう特に仕事もないから、学校からでるまでは付き添うよ」
「え、それは……申し訳ないですよ」
「いいんだよ。さ、疲れただろう。早く家に帰ってゆっくり休みな。あ、そういえば靴は持っていているのかい?」
「あ、はい。〝個性〟の関係で裸足の方が都合がよかっただけなので…通学するのに中学校の制服と靴は履いてきてます」
「そうかいそうかい。じゃあ、着替えるまでこの靴、いや靴下もないし校内は温かいからサンダルにしておこうか。はいどうぞ」
「ありがとうございます」
そうして、リカバリーガールの付き添いというVIP対応で私は雄英高校を後にすることとなった。
「すみません。ありがとうございました」
「いいよ。気を付けて帰るんだよ」
「はい。さようならリカバリーガール」
「はい、さようなら」
大きな校門を潜り抜けて、駅の方へと歩いていこうと思い、スマートフォンを取り出す。私はもともと、そこまでヒーローに興味がなかったので、雄英高校の場所もいまいちで、帰り道も調べないと帰れない。
「えーと? よし、コッチね」
「オイ」
「え? ゲッ…なんでまだいるのよあんた」
「ハァッ!? テメェ頭でも打ったんか。もともとババアが今日は飯食いに来いつってただろうが。今の今まで何してたんだテメェ! 電話にも出ず、随分といいご身分だなぁ? テメェは知らねぇかも知んねぇがな、携帯電話っつうのは、携帯するからケータイてんだぞ。あ゛ぁ!?」
と、帰ろうとした折に、よく知るチンピラに絡まれてしまった。……と言っても今回はヒャクパー私が悪い。
「あ……そうじゃん!! ごめん勝己…その、意識失っちゃって、さっきまで保健室にいたんだよね…」
「チッ。んな事、テメェともう一人が歩きながら話してて聞こえとったわ」
「じゃあそんな大声で怒らなくたっていいでしょう!?」
「テメェが待たせとんだから、コレくらい言って何の文句があんだよ!!」
フーフー……と、お互いに言いたいことを言い合って、少し小さい黙り一時休戦とする。
「そんで? 何があったんだよ」
「……」
「チッ。……確かにテメェは俺には敵わない没〝個性〟だ。でも、怪我なんざするようなそんなヘボい〝個性〟じゃあねぇだろ」
「はぁ……勝己が言ったんでしょ」
「あ?」
「全力で来いって、あんたが言ったんでしょうが! お望み通り、全力で〝個性〟を使ってあげたわよ! その反動でぶっ倒れたの! ……これで満足?」
「……チッ。はよ帰んぞ。特別に今日は俺様の麻婆豆腐を食わせてやる」
「え…なに? いや、いらない。あんたの麻婆おかしいもん。どっかの変な神父みたいな事言うのやめな?」
まだ、寒い木枯らしの風が残る日。段々と日照時間は延びてきているとは言え、保健室で随分と私が休んでいたようで、日も傾き夕焼けの太陽がやけに近くにあるように見えた。
ふと、隣の幼馴染の顔を見ると、鼻先は少し冷たさで赤くなっており、耳元も少し色づいていた。しかし、どうにも冷たさ故の赤みとは違うような気がして、妙に気分が高揚している幼馴染に、もしや待たせすぎて風邪でもひかせてしまったのか、と申し訳なく思う。
そう言えば、あの時聞こえた声は何だったのか。自分の〝個性〟が尚更よく分からなくなる。それに、助けが入ったのは理解できるが、誰が助けてくれたのだろう。教員だったと思うが一言お礼くらいは伝えたいものだ。
梅雨ちゃんに聞けばわかるかな? と新しい友達もでき、試験では実力を遺憾無く、それこそいつも以上に発揮できた。帰れば、光己さんの手料理が待っている。
素敵な一日。何気ない一日。よくある一日。そんな普通が私は大好きだ。
少し足取りが早くなり、勝己の肩にわざとぶつかって早く帰ろうと示す。
面倒くさそうにコッチを見たが、その足取りは速くなっているから勝己もお腹が空いていたのだろう。
「光己さん何作ってるかな? 楽しみ〜」
「鉄は熱いうちに打て」結構好きな言葉です。
この場合、鉄は創作を。熱いは感想や評価による熱意を。そして打てとは文字通りキーボードを打つことをさします。
特に意味はありません。本当です←