個性【不変】のヒーローアカデミア 作:アンデラ伝道したいマン
雄英高等学校ヒーロー科、入試実技試験から一週間。
合否発表は一週間前後で郵送で届く、とのことだったので私も出さないように努めているけど、やっぱりソワソワしていると思う。
もっとも、私の幼馴染ほどではない。
というのも可愛らしいマリモの妖精である緑谷出久のお母さんである
「はぁ……マジかもう一週間経つのか……時間の流れが残酷過ぎる」
幼馴染ほどではないにしても、私もかなり気にはなってしまい、ここ一週間は食事もあまり喉を通らず、栄養食であるゼリーにお世話になることも多かった。
「やばい……想像したら憂鬱だ。うぅ……最後、梅雨ちゃんを助けたことは後悔なんて絶対にないけど、にしてもクサすぎるッ……。私はお前を否定するッ!(キリッ)じゃないんだよ!」
ベッドの上でジタバタ、ゴロゴロとのたうち回る。
超常が日常になった現代であっても、成長するほどに精神を啄む病、すなわち中二病という言葉は現役で使われている。とはいえ、超人社会となってからは、中二病なんてそんな言葉で片付けられないような問題、事件が多く起こっているが。
ともあれ、自身の言動や試験において「あの時あぁしたら、こうすれば」と無意味なタラレバを並べ、反省点は多かったが、同時に学びも多くある得難い機会だったと溜息がこぼれてしまう。
ぶつくさと自己嫌悪にまで到達した一人反省会の最中にピンポーンというインターフォンの音が聞こえてきた。夕食の時間を過ぎたころでこんな時間に誰だろうか、観覧版でも回ってきたのか、と足早にリビングへと向かい、インターフォンを確かめる。
すると、今にも顔の輪郭から目がはみ出そうな程に吊り上がったヤカラが行儀悪く、腰パンで両手をズボンに突っ込んで立っていた。
「……いません。留守です」
『ハァッ!? ざっけんな! このソバカス女が!』
「……はぁ。なんの用事? ちょっと私今、ナイーブなんですけど」
『はぁ? ナイーブだァ? ブフッー!。ホラ吹かすな、そんな
心底不思議そうなキョトンとか・わ・い・ら・し・い顔を晒しやがったこの幼馴染に思わずこめかみに青筋が走った気がした。
(いっぺん〝
埒が明かない、とあきらめてズンズンと床を踏み鳴らしながら玄関に向かい、扉をあけて勝己を招き入れる。
ラフな部屋着に少しの防寒具を身に付けた勝己は、徐に片方の手をポケットから出すと、見慣れない封筒を持っていた。よく見ると随分と古風な手紙のていをしており、雄英高校の校章で封蝋された郵便物のようだった。
「!?ッ え、届いたの?」
「あぁ。テメェん所にも来たんじゃねぇか」
そう聞き、慌てて私は玄関に置いてあるサンダルを履いて、家のポストへ向かう。
そういえば、朝見たきりでその後は確認していなかったなと思い出した。
色んな意味で震え、かじかんだ手でダイヤルキーを回してポストを開くと、ポツンと一つの郵便物が鎮座していた。
今さっき見た雄英高校の校章で封蝋された古風な手紙だった。
――§――
ジッとその郵便物と見つめ合っていると、ふと勝己にどつかれる。クイッと顎で指して、入れろと訴えているようだ。知らない仲でもないのだし、すでに玄関土間には入っているのだから上がれば良いものを、と思いつつ育ちと親の躾が行き届いた勝己は家主より先に、というのは憚られたのだろう。
「どうぞ」といつものようにリビングへと招く。
ドカッと勝己はいつも通りソファーに座りこんだので、少しばかりの罪悪感から暖かいものでも、と思いキッチンから飲み物を私は運んでくることにした。
それから私もいつも使っているソファにかけると、目の前机の上においてある手紙をただ凝視して固まってしまう。
「……」
「……」
「ダァッ!! いつまで見とんだ! サッサと開けろや!」
「うっさいわね! あんただって開けてないでしょ!」
しばしの無言の何とも言えない間があったが、勝己の方が先に限界を迎えて叫んだ。
といっても、本当にどれだけ緊張しようが、待とうが結果は既に決まっており不変なのだ。
「チッ」と安定の舌打ちを一つもらいながら勝己は先に封筒に手を付ける。使うかな、と思ってペーパーナイフも温かい飲み物と一緒にキッチンから持ってきたので、それを手に取ってサッと手紙を切り開いた。
すると、さかさまにして振ると、下に添えた手の平に何かが落ちてきた。
「あ? 録音、いや録画媒体か……」
手紙にしては妙な重さと、質感、そして冷たさを感じたはそういう事か、と私も一人納得しているうちに、勝己はその機械を机に置き、ボタンを押していた。
すると即座に起動音がなり、円形の投影機が上に向かって光りだし、空中にディスプレイのようなものが投影された。
プツッと白かった画面が変わると、目の前に現れたのは画風の違う男性だった。
「なッ!?」
「えッ……」
黄色い髪に、彫りの深いアメコミのような出で立ちをした筋骨隆々の男性。そう何を隠そうあのプロヒーローであるオールマイトが投影されたのだ。
『私が投影された! やぁ、爆豪少年! 久しいね。体調はどうかな? もっとも、あの試験でのタフネスを見る限りでは問題なさそうだけどね!』
と、オールマイトは一度言葉を切る。確かに勝己のタフネスはすごいが、見る限りというのはどういう事だろうか、と通知の続きを待っているとすぐにその答えが分かった。
『実は私がこの街を訪れていたのは他でもない。今年から雄英に勤めることになったからなんだ。さて本題に入ろう。筆記は問題なく解けているね。そして、実技において君が獲得したポイントはなんと77ポイントだ!
なんと、オールマイトが私たちの地元に訪れていたのは偶然じゃなかったとのことだ。確かに出久から押し付けられて頭に焼き付けられたあの
ともかく必然であっても、オールマイトがちょうど赴任したのは大変な幸運だったと改めて思う。
(え、ていうか勝己77ポイント??? まじか……それはオーマイグンスだわ……)
『しかし、ヒーローはただ
そう言われて勝己は少し息を詰まらせてから苦虫を嚙み潰したよう顔を歪めた。
(うん……。救助って言ったら真っ先に誰が出てくるか、てそりゃね……出久しかいないよね。いや、私としては出久が合格できる可能性が出てきて、まだ自分の結果も見てないのに少しホッとしたよ)
『とはいっても、力がなくては綺麗事も実践できない! 爆豪勝己!
まだオールマイトの話は続き、その言葉を聞くと私は一瞬言葉が出そうになったものの吞みこむ。そして当の本人を見れば、当然だとばかりに高慢ちきで「ハッ」と他人を鼻で笑ういつも通りの勝己がいた。
でも不思議と私には、小さな子供がレアカードを当てたような、そんな懐かしい、とても良い
(はぁ……昔は可愛いとこもあったのに……なんでこうなるかなぁ? 周りの大人も同級生も一緒になって持ち上げすぎだっての……。て、今は違うわ)
思わず遠い目で過去を懐かしんでしまったが、頭を振って今の勝己を見て、私は少し大袈裟な動作で言う。
「ッおめでとう勝己!!!」
「ハッ! 当然だわ! 俺が合格することなんざ分かりきってんだよジーナ! テメェこそ、人の事心配してる暇があんのかァ?」
……前言撤回。可愛いくない!! 人が言った言葉をわざわざ当て擦りみたいに言うなんて!!
「はぁ」とため息が漏れてしまうが、ジトッとした勝己の視線に促されて、私も一思いに通知表を開いた。
覗くと、勝己と同じく円盤型の録音媒体と、さっきは気付かなかったが、折られた紙も入っていた。とりあえず結果を、と思い私も入っていた機械を机に置く。
さっきと同じような起動音と共にプロジェクターが展開された。
『私が投影され「早送り、と」▶▶▶……しかも審査制でね! さぁ、改めて。ジーナ=チェンバー、
(あれェ…? 30ポイントくらいは撃破得点でも獲得したと思ってたんだけど…〝個性〟のキャパシティーが思ったより低い…いや私が使わな過ぎて〝個性〟に身体が追い付いてないのかな)
見ないようしていた自分の欠点を突きつけられてしまい、思わず押し黙ってしまった。ただ、合格したという事は喜ばしいことなのでなんとか声をひねり出す。
「……やった!! 合格だって、聞いた勝己! あぁ……でも次席かぁ……後1ポイントであんたに負けるのはなんか悔しいわね……」
「ハッたりめーだ! ……いや、違ぇテメェ早送りってなんだッ情緒どうなっとんだ!」
「え、いや前振りは同じだろうし……そこまで私はオールマイトに興味ないから……エンデヴァーだったらちゃんと聞いてたかもだけど……」
「はぁ……まァいいわ。おら行くぞ」
「はて、行くとは?」
「ババァがテメェ連れてこいつってんだよ! 祝いだとよ!」
「え! ホント?! やった! ほら、早く行くわよ!」
正直、こうやってお呼ばれするのは予想外だったが、光己さんが勝己にお祝いを用意していること自体は不思議に思わない。爆豪勝己が天才だと周囲は持ち上げて、その〝個性〟の強さから周囲が確信しようとも、その親である光己さんも勝さんも当然のように勝己を愛しているだけなのだから。
そんな家族団らんに私が混ざってもいいものかと思いつつも、早くに親を亡くし、祖母も亡くなってしまった家はひどく静かで、広く、とても冷たく感じていた。
何より、光己さんも勝さんもとても尊敬できる人だ。少し逡巡したが、即座に私の中の天秤は傾いたのだった。
そうやって立ち上がると同時に『ぴろん』と私のスマホから着信音が響く。
およ? と首を傾げながら見ると、二件の新着があり、一つは試験の時に仲良くなった蛙吹梅雨ちゃん。そして、もう一人がマリモの妖精こと緑谷出久だった。
ほいほい、とスマホを操作して、二人のメッセージを確認する。すると二人とも良い知らせだった。
「わ! 合格か!」
「あ?」
「あ……」
思わず口に出してしまい、勝己が訝し気に見ているのに気づいてから自分の失敗を悟った。
勝己は何かに気が付いたようにで、ものすごい剣幕をみせると、高速でズボンの尻ポケットに突っ込んでいたらしいスマホを取り出し、ズダダダダといった擬音でもつきそうな高速タイピングで誰かに連絡を取り始めた。
もっとも、基本常識的……一般的な良識を持って
(……普段はブロックして、用があるときだけ連絡する勝己も、わざわざ対応する出久もいじらしいよねぇ~)
え? いじらしくはない? いや、私も頭では理解しているのだ。ただ、そうとでも思っていないと私の精神的衛生上とても良くない……。というのも出久の連絡先をブロックや削除する度に私が送りつけていたので何とか根比べで私が勝ったという経緯がある。
なら私の連絡先を消せばいい? 当然の疑問だ。実際、勝己はそれをやっていた。しかし、私は光己さん、勝己の母親やなんなら父親の勝さんとも交友があるので、二人にせっつかれて私との縁が切りたくとも切れないような状況なのだ。……自分で改めて整理してみるとなんとも勝己に申し訳ない気がする。
「……あんのクソナードッ」
……やっぱ当然の報いかもしれない。
もしかしたらこの爆発さん太郎なら問題のダイブ発言をしていないかもしれない。
戯言です。