個性【不変】のヒーローアカデミア 作:アンデラ伝道したいマン
分かりづらかったので一部消去しました。流れは同じです。
温かな光の中、そよぐ春風が冷たい冬の残り香を運ぶ四月。
パリッとまだノリの効いたブレザーの袖に腕を通し、スカートを履いて一度はたき、仏壇の前に膝を折る。
「……挨拶は毎日してるけど、こうやって朝とかに話するのは何かあった時だけだったけど、ここ最近はなんだか話も毎日してる気がするよ…」
アハハ……。と渇いた笑いがつい漏れてしまう。
そこからまた暫く手を合わせてから私は徐に立ち上がり、ブレザーの裾を持って両手を大の字のように広げて見せ、クルッと一回転してみる。
死んでしまったらどうなるのか、死者の世界があるのか。おかしな話ではあるが一度死んでしまった私にも分からない。ただの自己満足かもしれないが、両親と祖母によく見えるようにと制服を広げて見せる。
「さて……。早めだけど行くね」
新学期や仕事始めなど、そういった憂鬱な日は交通機関の乱れが生じやすい。〝個性〟溢れる世界だからこそ、そういったままならない気持ちを消化しきれずにちょっと漏れ出てしまうことが多いのだろう。夏休みなどのハメを外せる時期も危ういから早めの行動が必須だ。
……我ながらこの超常が日常となった世界に適応してきたと思う。
「行ってきます!」
――――§――――
予想通りに電車は遅れた。
街ではそこらかしこで新学期、新年度の始まりを祝うようにドンチャン騒ぎだ。誠に遺憾なことに日常である。
「ハッ…ハッ……。もう! せっかく早めに出たのにギリギリなんて事ある?! 今日に限って皆はっちゃけ過ぎでしょ」
進学して初日にして私、ジーナ=チェンバーは爆走していた。
記憶に新しい入試の時に初めてくぐった大きな門に、広い道を残念なことに感慨なく全力疾走している。
新学期ゆえに教員も忙しいのか、定番な廊下を走らない、という注意が聞こえてこないのはありがたい。
不幸中の幸いか、クラス分けは事前に告示されており、デマの類だと思っていた関係者が使える地図アプリも事実であり、事前にダウンロードして確認することができていたため、〝個性〟に合わせたバリアフリーの行き届いたこの広い校内でも迷わず進むことができていた。
「ふぅ……遅刻せずに済みそう。…あり?」
1ーAと書かれていたクラスの表札を見つけて、少し歩みを緩めると、前の方の扉で見慣れた緑の髪を少年が立ち尽くし、女子…え???? 出久が私以外の女の子と話してるッ!? お祝いしなきゃ! い、引子さん!……と違う。
見れば、出久と女子生徒、さらにはクラスの中からも声が聞こえており、何やら話し込んでいる様子だった。
しかし、そんな微笑ましい新学期最初の光景を傍目に、私の視線はその奥から近づいてくる黄色い芋虫? いや、寝袋?? に驚いていた。
寝袋から目を離し、見なかった事にして私は後ろの扉から入出する。
ガラッと少し大きな音を立てて開いた扉に、一瞬視線が集まるが、すぐに前の扉から入ってきた色々とインパクトがあって印象深い無精ひげを伸ばし、草臥れた様相の低い声の男性の方へと皆の意識は移った。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
と、草臥れた様相の男性は言った。すると、クラス一同困惑したようで困惑した声があがり、騒然としだす。
しかし、その男……担任の相澤先生はそこで止まらず、ゴソゴソとさっきまで自身が埋まっていた寝袋の中を探ると、雄英高校指定のジャージを引っ張り出してこう言った。
「早速だが、
―――§―――
ただならぬ雰囲気に駆け足気味に私たちは着替えを終え、全員でグラウンドに立ち並び、声を揃えて再び困惑していた。
「「「「〝個性〟把握テスト?」」」」
入学式やガイダンスはどうした、と困惑する女子の声が聞こえてくるが、無理もない。
実際に合否通達の後に来た書類の中には今後の予定として入学式やガイダンスの実施案内なども入っていたからだ。
もとい、本来であれば今日がその日である。なお、〝個性〟把握テストなどという言葉は一文字もなかったことを追記しておこう。
なんだか、雲行きが怪しくなって来たなと思いながらも相澤先生の話に耳を傾け続けると、ヒーローになるためにはそんな行事にかまけている時間はないのだという。
そういえば、シレッと後ろから入ったときも友達ごっこをしたいなら……というような何とも高校生、進学初日に学校の先生から出るとは思わないような鋭い言葉が飛んでいたな、と思い出す。
「雄英は自由な校風が売り文句。そして、それは先生側もまた然り」
自由な校風なのは確かに魅力的だ。それに時間が足りないという事も理解できる。
しかし、行事にもまともに参加できないとは……もしや高校と題目を掲げているが、強制労働施設の一種ではないだろうか……。
丁度相澤先生も言っているが、〝個性〟黎明期と呼ばれる時代から進んでもまだまだ〝個性〟という超常が現実になったことの弊害は多くありそうだ、なんて余計なことを考えてしまう。
しかしそれと同時に、自分の軽い考えにも嫌気がさしてしまった。
(……そっか。そうだよね。ここは国内、ううん。国外でもトップクラスの高校なのと同時にヒーローの育成機関なんだ……)
思わず場違いなのではないか、と思っていると、話が進んでいて勝己が相澤先生に呼ばれていた。
どうやら実技トップだったからか、この〝個性〟ありの体力テスト、いや〝個性〟把握テストか。そのデモンストレーションに使われるようだ。
「円から出なきゃ何してもいい。はいよ思いっきりな」
と相澤先生は勝己にボールを渡しながら言葉をかけた。後ろの方にいたが、ヒョコッと体を曲げ、人の間を縫うように勝己の方を伺うと、思案顔で腕の筋肉を伸ばし、ほぐしているのが見えた。
「んじゃまぁ…」
勝己は手を回すようにほどいて、体の後ろに持っていくと一瞬、ピタリと微動だにしない片足立ちになる。そのまますぐに腰を捻るように足を前に持っていく綺麗な投球フォームを見せた。
どの動作も一直線に張った糸のようで確かな体幹と筋力があることが見て取れる。そして、
「死ねぇッ!!!」!」
(((死ね?)))
(うわ……上手い。何あれ…普通に爆風で飛ばしただけじゃないよね? パチパチて指先が投げる直前にも光ってたし、もしかして回転を付けるのにも〝
という何ともヒーローらしくない掛け声とともに、大きな爆発が起き、まるで大砲で飛ばされた様にソフトボールは回転を持ちながら遠くに飛んで行った。
周りの何人かがオウム返しのように勝己の言った言葉を思わず口にしていたが、私は慣れたもので、コレがないと学校生活じゃない気すらしてくる。余談だが、同じ区分として出久のヒーロー関係のブツブツ高速詠唱も挙げられる。
勝己に吹き飛ばされたソフトボールはすぐに豆粒大にまでなってしまい、遠く高く飛んでいったことがよく分かった。
「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
勝己の投げたボールが地面に着くのを確認すると、相澤先生は見ていた生徒達全員に向けてスマートフォンを向けてきた。見れば「705.2m」と先ほどの勝己の結果と思われるもの表示されていた。
〝個性〟なしでの中学三年生の頃の記録が「67メートル」と元々男子の中でもトップだった結果から更に輪をかけた
それを見たクラスメイトの興奮はひとしおのようで歓声と勝己に対する称賛に加えて「面白そう」といった声もちらほら混ざって聞こえて来る。
一転、私と言えば確かに勝己の結果は凄いし、〝個性〟を使ってもよいという本来の自分を出せるというのも喜ばしいことなのだろうが、なんともこの教員を見た時から感じる癖というか、滲み出る本気に一筋縄ではいかないのでは? と戦々恐々としていた。
「面白そう、か……。ヒーローになるため3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
チリチリと何とも言えない危機感を煽られる。しかし、それと同時に変な納得感を感じた。……そうだ、この学校がそんな簡単な訳が無い、と。
「よしっ。8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「「「「「「「はあ!??」」」」」」
困惑する声を無視して、相澤先生は悪人顔で伸びっぱなしの髪を掻き上げながら入学式での祝辞の代わりとでも言うように、それはもう高らかに――――
「生徒の如何は
と、言い切った。
そして、こう続ける。
「自然災害、大事故。そして身勝手な
クイッと指を曲げて煽るように、そして何よりも楽し気に慈しみさえも感じる表情で相澤先生は続ける。
ただ、その楽し気の表情も期待する眼差しも、何処となく入試説明会でのプレゼント・マイク先生と重なって見えて、私の頬は思わず引き攣っていく。
「全力で乗り越えてこい」
『それでは皆。良い受難を』
脳裏で説明会でのプレゼント・マイク先生の言葉がチラつき、思わずあの試験を思い出し震えてしまう。
しかし、その震えや引き攣りは恐怖ではない。しいて言うなら武者震いだろうか。
周りの生徒も同じようで一瞬、呆気ない声は漏れてしまったものの、その後はどことなく皆せわしない雰囲気だったが、悪いものではない。気合を入れ直す、やってやるぞ! と、そういったものだった。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
―――§―――
第1種目は50メートル走だ。どうやら名前順に振られた出席番号順でやるとのことで、順番になると相澤先生がそれぞれの名前を呼んでいた。
私の番はまだ回ってこないので、先にやっているクラスメイトの〝個性〟の使い方を見ながら、自分の〝
(わ。梅雨ちゃん速いな…やっぱ蛙のバネの力って凄いんだね……。私の中学での体力テストの結果どんくらいだっけ……確か6秒切るくらいだったよね? いやそれでも女子にしては、というか持ってる前の常識的には滅茶苦茶に速いんだけど……)
と、残念ながら上手く参考になる方法は見つからず、強いて言うなら芦戸という女の子と青山という男の子がお腹からピカピカとビームを放出する方法だった。
(青山くんのは入試の時にやったんだよねぇ……。あの時はいっぱいいっぱいで今同じことをやれって言われても〝
「次。瀬呂、チェンバー」
あれもこれも、と考えているうちに順番が来てしまったので相澤先生から名前が呼ばれた。
ペアになったのはスラッとした身長の男の子で、何処となく優男というかセンス良さげなのが感じ取れる。
「お、俺等か。よろしくな。えーと、チェンバーさん?」
「うん。よろしくね瀬呂くん」
靴や靴下を脱ぎながらレーンに着くと、ギョッとした顔で瀬呂くんや他のクラスメイトにも見られたが無視してそのまま用意されていたクラウチングブロックを使って体勢を取る。……何やらウッヒョ〜という声が聞こえたが妖精さんかな…。紫の妖精さんだよね。
しばらくすれば「測るぞ」と言う相澤先生の掛け声の後、続けて計測をしていた機械から機械らしい独特なイントネーションの音声が流れる。
「
推進力は欲しかったから、クラウチングブロックに足を乗せている時には〝不変〟を使わずに、踏み出した瞬間に片足ずつ付与する。
(つま先の方には付与しないで、ローラースケートを蹴る感覚でッ…⁈)
踏み出した瞬間に思ったよりも滑ってしまい、後ろに仰け反りそうになるのを堪えて前に倒れるよに、進め進めと足を前に出す。
「ピピッ4
初めての使い方にしては随分と上手くいったな、と自画自賛してみるが、不格好な使い方に原理も不明とくれば危なっかしくて過信は出来ないな、と思わず肩を落としてしまう。
となれば…現状はもう一つの方法に頼るしかないのだろう。
「おぉ…速ぇなんだなチェンバーさん」
「あはは…ありがとう瀬呂くん。もう一回できるから早く行こ。相澤先生が目でハヨ、て伝えてるよ」
「えっ! ホントだ」
「あ、次はちょっと乱暴な感じで煩かったりするかもだけど気にしないでね」
なんだそりゃ? と笑ってくれたのでヨシッ。ともあれ、実際に入試とおんなじ感じでやると真横で女の子がかっ飛ぶからビックリすると思うので忠告はした。偉い。
同じように機械の音声が聞こえる。
今度は逆向きに立っているため、またギョッとクラスメイトの顔が見えてしまった。梅雨ちゃんだけは何か心当たりがあるように少し楽しげな優しい笑みを浮かべていた。
入学初日の個性把握テストでクラスメイトに引かれてしまうのは悲しいのでありがたい。……入学初日の個性把握テストってなんだよ。
「ドンッ」
「あぁッ!!」
号令が聞こえた瞬間に自分を打ち飛ばすように〝個性〟を発動させる。イマイチ感覚が掴めずに〝個性〟から伝わってくる形状はグニョグニョとしてしまったがなんとか自分に打ち付けられた。
瞬間ゴッという鉄筋でもぶつかり合ったような音が響いて、真っ当に走っている瀬呂くんの隣を私は吹っ飛んで行った。
「グぇッ……」
しかし、ゴールの白線の少し前で落下してしまった。はじめの方にやった青山くんの二の舞になってしまったのだ。
なんとも言えない気持ちで口をキュッとばってんにしながら、立ち上がりそそくさと走る。
「ピピッ3
今のところクラス2位の速度でゴールしたにもかかわらず浮かない顔を浮かべてしまう。具体的に言えば少し砂っぽく、額はジワリと血が滲んでいるなんとも情けな…いや、やりきった凛々しい顔だ。名誉の負傷である。
恥ずかしくなんてない!!
―――§―――
正直その後の種目は、あまり面白みも意外性も発揮することがなく〝個性〟を活かし切れなかったように思う。
第2種目の握力では、自分で握らずに〝不変〟を付与した空気で挟む形で握力計を押し潰すように測定した。
結果は「400kg」ちょっとだったが、木材を容易にへし折っていたジーナさんの【
ちなみに、握力の結果は3位だった。1位の女の子は何やら作る感じの〝個性〟らしく、万力を創造していた。2位は複腕を持つ男の子だったため実質、肉体的な能力として一番真っ当に挑戦したのは彼だけだった。
次の種目は立ち幅跳びだ。
これはどうなのか、と申し訳ない気持ちになりつつ「何をしてもいい」という相澤先生の言葉を信じて、空気を〝不変〟にすることで、足場にした。もはや跳んでいないが、相澤先生の方を伺ってみると問題なさそうに頷いて「どんくらい持つ」と聞かれたくらいだ。
正直、これも入試の時には結構簡単にやってのけたが、今になって落ち着いて考えるとよく原理が分からない。ただ、そうやって一度変に意識すると硬かった足場も少し柔らかくなったので、切り替えてただ足場を作ることにだけ集中した。
一応、持続的に前に進むだけなら一時間は持つと思う、と答えれば「降りて来い」と言われスマホを見せられると、
「すっげぇ! 無限が出たぞ!」
「空中を移動できるのはズリィよ!」
クラスは大変盛り上がった。
第4種目は、反復横跳びだ。
もう一回〝不変〟の靴でも履いて滑りやすくしようかと思ったが、盛大に転びそうになったので諦めて普通に〝個性〟を使わずに行った。
結果は76回で、中学校の記録と比べると僅かだが増えていた。悲しいことに身長はあまり変わっていないので、ヒーロー科を目指すにあたって行っていたトレーニングの結果だろう。
こうやって目に見える成果として実感できるのはなんだかんだやりきった感覚がして嬉しいものだ。
そして、第5種目めは勝己がデモンストレーションを行ったボール投げだったが、立ち幅跳びで私が記録したみたいな∞を出した女の子がいて「また無限が出たぞ!」と驚きの声が上がっていた。
私はもう、本当に面白みもなく〝不変〟に包んで、ボールを伸ばしていく。これまた投げていないが、体力ではなく〝個性〟の把握のためだからいいのだろう……。しばらくボールの飛距離(?)を伸ばしていると、また同じく相澤先生から「どれくらい持つ」という質問があったのでよいのだろう。
単純にゆっくりとでも伸ばしていくだけで良いならこれも一時間は伸びていくだろうと思い答えれば、結果は∞になった。
そうやって同じく無限女子ということで話しかけてくれた朝、出久と話していた女の子、名前を麗日お茶子ちゃんと言うらしい。
お茶子と名前で呼んでほしいとのことだったので、私もジーナと呼んでほしいと伝え、暫く他の皆がソフトボール投げをしているのを一緒に話しながら見ていた。
順調に進んで、勝己ももう一回やらせてもらってついに出久の番になった。
(……ッここまで、出久は目立った結果を何も出してない……最下位除籍、ていうなら……。入試の結果も撃破得点は0で、救助得点だけって言ってたからこんな〝個性〟把握だなんて……)
勝己の方を見れば、すまし顔で「当然だろ」と言いたげに、そして冷たい視線を出久に送っていた。
思わず、手を握って、息を吞んみ、緊張してしまう。すると、隣にいたお茶子ちゃんは「大丈夫?」と声をかけながらキョトンと不思議そうな顔で私を見ていた。
「大丈夫。その……今からやる子、幼馴染なんだ…」
「何? 話に割って入ってしまい済まない。しかしそうか。顔色が少し悪いように見えたのはそういう事か。確かに緑谷君はこのままだとマズイな」
「あ? たりめぇだァ。無〝個性〟の雑魚だぞ!」
「な!? 無〝個性〟?? ……彼が入試時に何を成したのか知らんのか?」
「そうだよ! だって入試の時凄かったもん!」
そうやってお茶子ちゃんと話していると、一つ男子の声が間を割ってきた。
どうやら、入試説明会の時に見た生真面目な人、飯田くんが私の顔色に気付いて心配していたそうだ。
そうやって入試の話をするあたり、彼もそしてお茶子ちゃんも出久の救助得点と何か関わったり、見たりしたのだろうか? と二人を見るが、ブンブンと片手を振りながらどこか自信ありげなお茶子ちゃんの言動に思わず首を傾げ、勝己と顔を見合わせてしまった。
私たちが話している間も無情にも時間は進み、出久は1球目を投げていた。もっともその結果は当然のように「46メートル」と運動のできる男子程度の平凡な結果だった。
その結果を見てから出久と相澤先生は何か話し込んでいる。
しばらく飯田くんが言うように指導でもされたのか、少ししてから二球目を出久に渡して相澤先生は下がった。
なんとも言えない気持ちで祈るように両手を握っていると、ふと別の男の子、青山くんが私とお茶子ちゃんに声をかてきた。
「彼が心配?」
「ん?」
「え……」
「僕はね……≪全然≫」
上手く返す声ことができなかったが、青山くんは妙に確信めいた声色をしていた。もっとも隣から聞こえてくる「あァ? 除籍通告の間違いだろ」なんて不謹慎な幼馴染その2よりかは遥かに良いものではある。
しかし、現実は変わらない。誰よりもヒーローに憧れ、誰かを助けることが宿命みたいな少年でも、それをするための力は与えられていないのだ。
ゆっくりと出久がブツブツ何かを言っているが見える。そしてついに、振りかぶる動作がゆっくりと見え、私は見たくなくて、思わず目を閉じてしまう。
ドクドクと早鐘を打つように鼓動する自分の心臓の音を聞いていると耳に出久の声が、体に風が叩きつけられる。
つい半年もしないくらい前にも似たようなことがあったな、と思い返しながら唖然として目を開いてしまった。
「スマッシュ!!!!」
目に飛び込んだそれは、ありえない光景だった。
なんと形容したらいいのかわからないそんな奇妙な光景だ。頭の中では常識が文字になり必死に目の前の出来事を吞みこもうとしている。
〝個性〟は基本的に4歳ごろまでに発現するのだ。発現する〝個性〟は主に両親から引き継ぎ、強化されたものか、両親の〝個性〟を複合的にしたものだ。
吹き荒れる突風に髪が揺れ、視界に映り込む。
瞳は今、生じた風で乾燥するが、この光景をその出来事を見逃さないように閉じられず、ただなすがままに立ち尽くしてしまった。
「あ…うそ。こせい?」
クラスメイトから超パワーのような〝個性〟でソフトボールを投げ飛ばした出久に歓声の声が上がる中、私からこぼれたのは何とも頼りない小さな声だった。
「ジーナッ!!!」
瞬間、怒号のような声を上げ、勝己は私の顔を「知ってたんか!?」というような感じで睨みつけてくる。もっとも、すぐに検討違いだと気づいたようでワナワナと掌を動かすいつもの癖を出し、出久の方へと何かを言いながら走り寄った。
しかし、私にとっては何とも現実味のない光景で上手く頭が働いていない。
そのまま、なぁなぁとこの〝個性〟把握テストを進めて、いつの間にか結果発表も終わってしまっていた。
「ジーナちゃん大丈夫?」
「あ…そのジーナちゃん……」
トントンとお茶子ちゃんに肩を叩かれ、やっと深呼吸ができたようにハッとする。
「ソフトボール投げが終わってからずっとボーとしとったけど平気? ジーナちゃんも保健室行く?」
掛けられた声に釣られて見上げれば、心配そうにするお茶子ちゃんと、なんとも言えない表情で怪我した指先を支えながら私の顔を伺うようにする出久が見えた。
「あ…え、と。ううん。大丈夫、ありがとう。ただ初日でこんな事があるなんて思わなくて…気疲れしちゃっただけだから早く帰って休むよ」
「いきなり除籍、て驚かん方が無理だもんね!」と納得したようなお茶子ちゃんと、何かを言いたげに見てくる出久。
今は出久の顔をまともに見れる気がしなくて、お茶子ちゃんの話に同意して「また」と話を切り上げて、私は早歩きでその場を離れた。
――――どうして、神様は出久に〝個性〟を今になって
だって、自分の身を顧みない出久に身体を壊すほどの力を与えるなんて……そんな事をしたら、出久は自分の全部を差し出してでも誰かを助けてしまうじゃないか。
読み返したり、見返すとお茶子ちゃんは初めからちゃんと自分の意見を臆すことなく言える強い人でした。
次回――(ジーナからみた)緑谷出久の話(戦闘訓練)。
【以下読み飛ばし推薦】
ジーナの個性把握テストの結果
()内は中学での〝個性〟なしでの結果
第1種目 50メートル走「3秒93」(5秒89)
第2種目 握力 「400Kg」(45kg)
第3種目 立ち幅跳び 「∞cm」(256cm)
第4種目 反復横跳び 「76回」(72回)
第5種目 ソフトボール投げ「∞m」(49m)
第6種目 上体起こし 「35回」(30回)
第7種目 長座体前屈 「78cm」(76cm)
第8種目 持久走 「2分49秒」(3分18秒)
余談
〝個性〟という超常の発現に伴い、異形型などの〝個性〟によって体力テストの結果は右肩上がりなのだと思います。また、ソレだけじゃなくて何処かのお医者さんみたいですが、個性特異点ではありませんが、人間という生命体、種の肉体強度(身体能力)が全体的に向上しておりいわば進化してるのでは、と思ってます。
ジーナちゃんのこの結果は私達にとってみれば世界記録に匹敵する超人的な身体能力ですが、ヒロアカ世界ではあくまでもとても優れている身体能力程度、の認識です。
また、アニメ等によってみたジーナさんの戦闘シーンから速度や持久力、柔軟性は高そうだと思いソレをもとにヒロアカ世界規格に合わせてみました。