個性【不変】のヒーローアカデミア   作:アンデラ伝道したいマン

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No.006 戦闘訓練

朧気に見える風景。

揺れる水面から見るようにぼやけていたそれは何時の頃の記憶だっただろう。

 

『大丈夫?』

 

小さい、それこそ幼稚園くらいで、まだ出久と勝己が一緒に遊んでいた頃の懐かしい思い出だ。

愛おしい日々であると同時に、これはそんな優しい日常が変わってしまった決定的な瞬間だった。

 

見開かれた勝己の赤い瞳。なんて事もないように勝己に手を伸ばして助けようとする出久。

近づこうとする二人の距離とは裏腹に二人の関係には目に見えない大きな溝、決定的な距離が産まれた。そんな瞬間だ。

 

特別だった勝己と平凡だった出久。そして、傍観者だった私。

 

あの時の君たちは何を感じ、何を思い、何を考えたのかな?

私は――――

 

 

 

 

……私は、緑谷出久(きみ)が恐ろしかったんだよ。

§


 

随分と懐かしい夢を見た最悪な目覚めを迎え、私はついに雄英高校での初日に臨もうとしていた。

本来、昨日は入学式やらガイダンスやらだけで終わり、今日からが本番だったのだ。ということで一先ず昨日のことは棚上げして、元気よく行こうと思う。

 

雄英高校ヒーロー科のカリキュラムは過酷だ。

いや、正しく言うならばヒーロー科のカリキュラムは国が定めているため、どこの学校においても困難を極めるものである。しかし、雄英高校は独自のカリキュラムなどが国内のヒーロー科のある高等学校では特に多く制定されている。つまりまぁ、輪をかけて悲惨なのだ。

 

午前は高等学校卒業のために必要な英語などの必修科目を行い、午後にはヒーローになるためのカリキュラムが組まれている。授業は7限目まであり、土曜日も学校だ。

 

また、忘れがちではあるが、雄英高校の偏差値は79である。つまり、そもそも午前の必修科目でも食らいつくことが困難な人には困難なのだ。

 

とは言え、さすが名門国立なだけあり教員の質も信じられないくらいに高い。

備考として、今日受けたプレゼント・マイク先生の授業の所見を述べるが、至って普通でツマラナイと感じる人もいるだろう。

しかし、声の〝個性〟などの理由からか大変聞き取りやすく、理解のしやすい話の構成で個人的には分かりやすい授業だった。

 

入試の時に聞いたDJじみた話し方はあまりしていなかったので、あれもキャラ作りの一種なのだろう。ヒーローという職はまことに過酷である。

 

 

「ケロッ……雄英高校の食堂のご飯って本当に美味しいのね」

「ね。メニューも多いし、量も多い。そして安いッ! すごいわね」

 

あれよあれよとお昼休みだ。

雄英高校には大食堂があり、かなりの安価でおいしい食事をとることができた。食事の量も申し分ないので、食べ盛りの男子も、ヒーロー科ゆえに労働が多くなる生徒たちも満足だろう。なにより美味しい。

 

昼食は朝から顔色が優れなかった私を気遣って梅雨ちゃんが声をかけてくれたので、その流れで一緒に取ることになった。

勝己は勝己で男子に囲まれてウザそうにしていて、出久はお茶子ちゃんと飯田くんと一緒に食べているのが見える。

 

(出久、またカツ丼食べてるよ……。本当に好きなのね。いやこの後の時間のゲン担ぎもあるのかな?)

 

昨日の一件から私は出久の顔を上手く見れていない。もっとも朝のみょうちきりんな夢のせいもでもあるが…。

ともあれ、私と同じなのか出久も気まずそうに私を避けており、一緒にいるお茶子ちゃんと飯田くんもそんな雰囲気を察してか今は静観しているようだった。

……申し訳ない。

§


 

腹ごしらえも終わり、ついに念願のヒーロー科の科目、ヒーロー基礎学の時間がやってきた。

この科目は、ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行っていくものだ。ちなみに単位数が一番多く、本当に様々な訓練を行っていくようだ。戦闘とか救助とかインタビューとか…文字通りありとあらゆる基礎を実技も含めた科目だ。

 

「わ〜た〜しがぁッ! 普通にドアから来た!!」

 

勢いよく開かれるドアにピョコと揺れる特徴的な二本の触角。それとあまり見かけなくなった服装を纏った生きた英雄――オールマイトが扉から入ってきた。

 

(あぁ……なんだっけ? しるばーエイジ? とかいう活動時期のオールマイトのスーツだっけ……? 見覚えはあるのよね出久に見せられた記憶と一緒に)

 

本当にあ(・)の(・)プロヒーロー、オールマイトが雄英高校の教員をやっているという事実だったり、今は着用していないヒーロースーツだったりとクラスメイト皆は興味津々で騒然としだす中、私は相変わらずヒーローへの関心は並以下で絶妙な疎外感をチクチクと感じた。

 

「早速だが、今日はコレ!!」

 

そう言いながら、オールマイトはババン、と「BATTLE(戦闘訓練)」と書かれたものを見せてくると、猛り立ったような声で何名かがオールマイトの言葉を反芻した。

 

そのままオールマイトは説明を続けて、ビシッ! と少し色の異なる壁を指差すと、その壁が音もなく動き出す。

 

「それに伴ってェ、こちら! 入学前に送ってもらった個性届と要望に添ってあつらえた、戦闘服(コスチューム)!」

 

一人ひとり名前を呼ばれながら、一つ一つ、頑丈そうなアタッシュケースに入ったコスチュームをオールマイトに手渡しされる。流石に戦闘服(コスチューム)なんて言われたら私だって興奮は隠せない。なにせ、(元)男子高校生だからね!

 

「着替えたら順次、グラウンドβ(ベータ)に集まるんだ!」

「「「はーーい!!!」」」

 

そうして、私たちは年相応な楽しげな声を上げて更衣室へと向かった。

§


 

転生して十数年、前世で男性だった時間と、今世で女性の身体として生きている時間は同じ位になった。いや、自我が産まれた時からあった分、今世のほうが長いくらいだ。

すっかりと変わってしまった自分の姿にも声にも慣れてきた。

 

可愛いものも格好いいものも好きなものは好きで、自分は自分のまま何も変わってないと確信できた。

 

それでも、やっぱりまだ慣れないこと、ギョッとする事はある。その一つがこれ……

 

「わわ! 響香ちゃん格好いい!」

「そお? 麗日…アンタはすごいね……」

「ヴッ……ちゃ、ちゃんとピチピチスーツはダメて書けば良かった…」

 

着替えだ……。

正直、裸体にも下着にも思うことは特にはない。ただ、どうしても男子だった、という記憶と意識が今の意識と混ざって、知りもしない男に見られるとか気持ち悪すぎるだろ…という自己矛盾だとか、うん。シンプルに気恥ずかしいのだ。

 

視線は下に、自分の素肌と無機質で使い古されてはいても、手入れが行き届いたロッカーにだけ視線を向けながら、着々と私は着替えを進めていく。

 

 

戦闘服(コスチューム)、というのは〝個性〟の使い勝手を向上させたり、シンプルに防刃、防火、防弾などなど文字通り戦闘する際の装備、というだけではないと思う。

 

戦闘服(コスチューム)は、そのヒーローとしての在り方そのものだと思う。不可思議な服もその見た目も全部一目見たら「もう大丈夫」そんなふうに思えるよな証明なんだと私は思う。

 

仕立てたてのノリが効いたブレザーの制服を丁寧にバンガーに掛け、私は戦闘服(コスチューム)のワイシャツのボタンを一つずつ付けていく。

〝個性〟と連動するように自分の体組織、私の場合は掌と足の裏の皮膚を培養して練り込んで作ってある。そんな黒のレギンスを履いて、赤色のチェック柄のスカートを上に履く。

気持ちを引き締めるようにキュッと赤色のネクタイを締めて、黒色のジャケットを羽織り、アルファベットのUに\(斜線)が入ったバッジを胸に掲げる。

最後にしゃがみ込めば、私の体全部が隠れてしまいそうな大きさのベレーを頭に乗せて、スルリと三つ編みを解く。

 

纏まった髪を解くのに首を振る。

鏡をみれば制服と大差ないつまらない服を着た私が映っていた。

人気商売でもあるヒーローとしては平々凡々な戦闘服(コスチューム)で、どんな〝個性〟をもっているのかも分からない。

それでも、これが私にとっての憧れ(ヒーロー)だった。何があっても「もう大丈夫」そんなふうに思える格好いい、可愛い最強の姿だ。

 

真似て、真似てニコリと笑う。

「さ、頑張ろっか」




遅くなりました…長くなりそうなので2つに分けます
次回、拗れた幼馴染をご期待ください()
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