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追記
※評価コメントありがとうございます!ルーキーランキングもトップ10に入ることが出来光栄です。
短編ネタは結構持っているので、需要が有れば展開していきたいです。
読んでくれてありがとうございます!
3ご
「エッチ……エッチはいりませんか」
寒い寒い冬空の下。もう年も明ける聖夜の手前。そんな日に人々は沢山の電球を使い、賑やかで絢爛な演出を街中に施します。
ふわふわと風に舞う小さな冷気の結晶は照明に照らされると妖精に変わり、地面に積み重なった妖精達を丸めると大きな雪だるまに形を変え、そこにいる人々は寒さなど忘れ雪やこんこんと童歌に想いを馳せる。
そんな沢山の笑顔が行き交う道の真ん中、冷たい風に打たれ体を震えさせながら声を上げる少女が一人。
「あの……エッチは、エッチはいりませんか」
木織のカゴを片腕に通し、友達の真っ赤なフリル付きの布地をもう片方の手に握り、道ゆく人々に乞い目を配る。
返って来る視線はどれも怪訝な目ばかりで、一向に返事すら貰えないまま数時間が過ぎていました。少女は自分のやり方が悪いのだと、布地を二枚握りしめます。当然そんな事をしても効果は無いのですが、彼女は藁にもすがる思いでエッチを売らなければいけません。そうしないと凍えた深い夜を過ごす事になりますし、目的も達成出来ないのです。
「……お腹すいた」
大きな明かりが漏れている窓から、焼けた鶏肉の香りが漂います。それは彼女のきゅっと細まったお腹から音を鳴らせ、自分自身が弱音を吐く理由を得るのに十分な材料になりました。疲れたと言葉を漏らした直後、彼女は自分の不甲斐なさに落胆します。
「お嬢さん」
布地を握りしめて皺を作ってる最中、彼女に背後から声を掛ける人物が現れました。
立派なストライプ柄のスーツを着用し、顔は真四角に等しいまるでテレビのような形状。図太く、それでいて我が声はどこでも通るのが当たり前だと言わんばかりの拡声型の声。
びくりと肩を振るわせる彼女。
普段なら関わり合いを持たない人種。こんな人が自分になんの用事だろう? まさか手に持ってる布地が欲しいのだろうか。
まさか、そんな。湧き出る疑問符を表に出さない様、小さく、それでいて警戒の色を見せる返事を相手に返します。
「私に一つ、エッチを売ってはくれませんか?」
なんと、彼女に声を掛けた人物は、彼女のエッチを買おうとしているのです!
彼女はまさか買ってくれる人がいるなど思いもせず、言葉が処理出来ないのか硬直します。難しい問題に直面した時の反応の悪さは流石は補習授業部の筆頭とも言うべきでしょうか。スーツの人物は戸惑いを見せながらまずは彼女を我に返そうと一つ二つと声をかけ、片方の手で彼女の肩を掴もうとしますが。
「エッチなのはダメ!死刑!!」
彼女は拒否を示します。
まず片腕に通している木織の籠をしっかりと左手で持ち、次に膝を少しだけ曲げました。左足は前に出し右足は後ろ。可愛らしいおへそを正面から見て右斜め前に向け、相手との距離感を作ります。
自分の構えになんの疑問も浮かばないスーツ姿の人物。これはチャンスだと彼女は考えました。重心を少しだけ右足に乗せるとそこに生まれるのは加速装置。しかも、ただの加速装置ではありません。身体能力の高いキヴォトス人の加速装置です。
一気に右足を蹴り上げ、小刻みなステップを一歩作り出します。その反動を落とさないように今度は腰を時計回りに回転させ、左足を右足の右斜め前まで突き出しました。ともすれば腰の回転はさらに遠心力を増し、その力を利用し今度は右足を持ち上げました。
彼女は知っています。大ぶりになって軌道を読まれる愚かさを。
持ち上げた右足は下から掬い上げるようにスーツの人物の顔まで浮かせ、今度はそのタイミングで回っている腰の遠心力を最大限まで加速させると、足先の軌道は約45度曲がり、相手の顎先を打ち抜きます。
一瞬何が起こったのか理解できなかったのでしょう。彼女のエッチを買おうとしたスーツ姿の人物は、瞬く瞬間に膝を崩し、仰向けに大の字になって地面に倒れ込みました。
「エッチなのはダメ!ダメなんだから!!」
倒れて伸びているスーツの人物に向かい、体の側面から覆い被さるように体重を乗せながら倒れ込みます。
体重も軽い彼女です。ここでまた遠心力を利用した腰の回転を見せます。グッと腕を曲げ、倒れそうになる瞬間に腰を利用し体全体をフルスイングで回転させ、スーツの人物のみぞおちにとても威力の高い肘を突き刺しました。
「カフっ!」
まるでいきなり踏まれたビーチの浮き輪の様に、口から不条理を訴える咳が宙を舞います。普通なら何故ここまでされなければならないのかと疑問が浮かぶ筈ですが、一発目の蹴りが彼に脳震盪を起こし、まともに思考が出来ません。
これまた一般的なキヴォトス人であれば追撃はしないのですが、彼女は勘無しで加減が出来ず。
「ジャスティス・ブラック」
背中に背負っている銃火器は飾りではなく、彼女の戦力の一部。
さぁこれからだと弾を込めましたが、どこか遠くからヴァルキューレ警察だと、現場はどこでありますかという声が聞こえ始めました。こんな聖夜の前になんで事件を起こすんだ。署に連れ帰って徹底して取り調べしてやる。そう金髪のギザ歯は凄み、ずんずんと前進を続けます。
流石にヴァルキューレにお世話になる訳にはいかない彼女は。
「OK!」
そう言い残し、颯爽とその場から去るのでした。
ーー
ーー
裏路地に逃げ込む彼女。
滑りやすい道を走ったのか、彼女自身が想像している以上の白い吐息が空に溶けます。一体自分は何をしているのだろうと疑問を持ちますが、そう考えても問題は解決しません。
「エッチなのはダメなのに」
自己の主張に対して答えをくれる程、世の中は甘くはありません。
彼女は少し疲れたのか、ひんやりとした地面にぺたりと座り込みます。裏路地は人気も少なく、漂うのは隙間風のみ。上着だけの薄い布地を纏う彼女にとって、この環境は苦しくて辛いものでした。
身を温める物が必要だと感じた彼女は、手持ちの物を確認します。スナイパーライフルとライター、そして木織の籠に入った友人の下着。
「この中なら……!」
暖を取れる物は下着だけ。ですが、一枚一枚はとても薄く、体温を保温出来る程の厚みはありません。試しに両手いっぱいの下着を持ち懐に入れましたが、素材のせいか、思うような成果は得られませんでした。
そこで彼女は考えました。どうせ売れないのだから、一枚や二枚燃やしてしまっても構わないだろうと。
「──OK!」
早速近くに落ちてあった空き缶を拾い、中を無理やりくり抜きます。流石キヴォトス人です。とんでもないパワー。
くりぬいた穴の中に数枚の下着を入れ逆さまに持ち、下からライターで炙るとすぐさま着火。地面に置き、両手を添えます。ぼうぼうと灯りを放つ下着達との火の踊りに数秒目を奪われますが、彼女は自分がすべき事をすぐに思い出し、眉を下げるのでした。
ーー
ーー
彼女の脳内に描かれたのは、真冬の屋上でこっそり見たエッチな雑誌──ではなく、正義実現委員会での聖夜会議での出来事。
腕章を持たない一般委員達は、腕章持ちや長を与えられた人達をとても尊敬しています。それは彼女も変わりなく、彼女自身は副委員長を崇め祀り、いつかああなりたいと羨望の眼差しを向けています。
そんなだから、一般委員達は上の人間達を労おうと、勝手に聖夜会議というものを執り行っていました。簡単に説明すると、聖夜に皆でプレゼントを贈ろうという企画です。当然彼女も参加しますが、それが彼女にとっての試練の始まりでもありました。
彼女にとって副委員長は尊敬する偉大な人。当然プレゼントだって並の物を贈る訳には行きません。
率先して手を突き立て声を上げますが、一般委員達の反応はあまりはっきりとしないものでした。
「お金?」
勿論、プレゼントだってタダではありません。お店に行って買わなければならないのです。
彼女達はまだ学生。まとまったお金を持ち合わせている訳もなく、あるのは日々食べていく為の日銭のみ。
「じゃあ──私が稼いでくる!!」
憧れの先輩に喜んで貰う為、周りの意見を聞かずに勢い良く部屋から出る彼女。気持ちが先行したのは良いのですが、冷静に立ち止まって彼女は考えます。今までアルバイトさえした事がない彼女は、お金の稼ぎ方など知る由もありません。どうすればいいか考えた彼女は、頭の良い友人を訪ねる事にしました。
真っ先に向かったのは一つの教室。
扉を開けると、寒い寒い季節な筈なのに、何故かスクール水着を一張羅の様に堂々と着こなしている友達の姿がありました。ツッコミを入れたい所ですが、若干見慣れたという事と、それよりも優先したい話があったので特に気にも留めず会話を続けます。
「私に良い案があります」
流石は賢い友人です。数刻もせずに答えが返ってきました。
彼女は喜びます。これで憧れの先輩に素敵な物が贈れると。
友人は家で準備があるからと、後日家に訪ねる様にと彼女に言葉を残し、颯爽と上着一枚だけを羽織り教室を飛び出して行きました。スカートを履かなかったのはわざとなのでしょうか? 彼女は疑問を持ちましたが、大切な友人の趣味だと理解を示す為に喉の奥に気持ちを引っ込めます。
翌朝、早速友人の家にお邪魔した彼女ですが、そこにはとんでもない提案が待ち受けていたのでした。
「エッチなのは……!!」
言葉を言い切る前に、友人は彼女の声を自分の声で被せ静止させます。あなたの覚悟はそこまでなのですか。副委員長に対する気持ちはその程度なのですか。
普段なら絶対にそんな事を言わない友人ですが、瞳は黒く染まり、眉を下げ冷酷な顔で彼女の顔を覗きます。
彼女は小さな抗議を考えました。それならせめて一緒に手伝って欲しいと。ですが、それは無理な相談です。友人は先日スカートを履き忘れて下校したせいか、体が冷え、風邪をひいてしまったとのことでした。
友人はこんな面白そうなイベントに参加出来ないなんて悔しいと涙を浮かべましたが、彼女はそんな友人のおでこに新しい冷えたタオルを載せ数回頭を撫でた後、お礼だけ言い、木織の籠を持ち上げ外に走り出します。
言い出しっぺは自分です。しかも、商材は友人が取り揃えてくれています。
ここで逃げたらただの意気地なしです。覚悟を決めるしかないと、彼女は腹を括ります。
ーー
ーー
ぼうぼう火を灯していたパンツが黒色の炭に変わると、彼女は籠を持ち上げながら立ち上がります。もう時間もありません。早急にこのエッチな物をお金に変えないと、友人にも一般委員達にも申し訳が立たないからです。
何か良い案はないものかと、指先が思考の形を辿ろうと顎先に添えた瞬間、背後からどさりとした鈍い音が聞こえました。
何事かと後ろを振り向くと、そこには硬めのコートを纏ったある人の姿。
脇腹を摩りながら、片手には女性の下着を一枚握りしめる。彼女はまた断罪の対象が来たと銃器を構えようとしましたが、よく目を凝らして見るとその人物は以前お世話になった補習授業部の顧問でした。
「ここで何をしているの?」
彼女の言葉に顧問は返します。君こそ何をしているのと。
彼女はこれまでの経緯を話ました。すると、顧問はポケットから一枚の札を取り出し、彼女の掌に握り込ませると、籠の中から一枚の布地を取り出します。「聖職者としてあるまじき行為だね」と歯に噛んだ笑顔で布地をポケットに入れるその姿を見て、彼女の瞳は輝きを帯び始めました。
なんと、顧問はエッチを買ってくれたのです。
ですが、不思議でした。
既に顧問は片手に下着を持っています。どうしてもう一枚必要としたのでしょうか。彼女は質問を重ねました。
「何を、じゃない。誰の何を……なんだよ」
顧問は続けます。
今手に持っている下着は、あの黒帽子に白のロングコートを羽織っている人物から命からがら盗んできた物なのだそうです。普段の生活では意識もしない物ですが、顧問からするとそれはまさに財宝とも言える代物なのだと熱弁します。
海賊が探究心に煽られ危険を犯してまで冒険する様に、顧問自身も冒険をしたのです。
「君は理解してない。それ自体に価値は無いんだ。誰かの手に渡った時、真価を発揮する」
顧問のあまりにも真剣な瞳に若干の気持ち悪さを感じましたが、エッチを買ってくれた手前、口に出す事は出来ません。
が、この言葉に売る為のヒントがあるのではないかと、彼女は考えました。
「ふふ、まだ気付かないなんて君もまだまだ未熟──おっと、追っ手が来たみたいだ」
顧問の視線の方へと振り返ると、そこにはマスク越しでも分かる程赤面した細身の女性が一人。ヴァニヴァニヴァニヴァニ! とよく分からない言葉を発し、両手を大振りしながら鬼気迫る顔で走って来ていました。
あまりの剣幕振りに驚き尻餅を着かせる彼女。
どうするのかと顧問の方を振り返りますが、そこにはもう誰の姿もいませんでした。逃げ足早く、顧問は既に裏路地の奥へと走り去って行ったのです。
「Vanitas vanitatum et omnia vanitas 全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。だが──エッチなのはダメ、死刑だ!!!下着取られて虚しくしてたまるか!!!!」
ーー
ーー
裏路地から表に出る。
街灯も照り始め、本格的に街は賑やかになってきます。
道行く人々も様々なリボンが施された箱を持っていました。その中に誰かに喜んで欲しいという気持ちが詰め込まれていると思うと、素敵だなと、自分もあの人に喜んで貰いたいと強く願います。
とにかく売らねばと、笑顔の流れに釣られ人混みに入ろうとしたその時、二人の人物が彼女に声を掛けました。
一人はガスマスクを常備しているちょっと変わった女の子。
もう一人は狂った鳥のグッズを愛用しているへんてこりんな女の子です。
「奇遇だね、どうしたの?」と彼女は言葉を掛けます。すると、「君が心配で手伝いに来たんだよ」ガスマスクの子は答えました。きっと外で一人で寒い思いをしている。私達に出来ることはないかと思い駆けつけた。へんてこりんな女の子は言葉を続けます。
「売れているの?」
へんてこりんな女の子の言葉に、彼女は口を紡ぐ事しか出来ませんでした。
数時間経ってて売れたのは身内に一枚だけ。これでは到底プレゼントなんて買う事も出来ません。
「どうせ自分なんて」彼女の口から弱音が漏れ出てしまいました。
そんな彼女を見て二人は顔を見合わせます。
「私達と一緒に頑張ろう!」
「誰かの手に渡った時、真価を発揮する。私、そのやり方に心当たりがあるんだ」
二人は彼女を鼓舞します。
たまたま偶然が重なり出会った二人。あの教室での時間。
少し変わった日常を過ごしただけなのに、こうして困った時に助けてくれる友人を得れていたという事実を前にして、彼女はほろりと一雫の涙をこぼしました。
「ありがとう」
早速、ガスマスクの女の子は彼女の手を取り、別の地域へと移動します。
顧問が買ってくれたお金で道中別の材料を買いますが、彼女はガスマスクの女の子が何を考えているかさっぱり分かりませんでした。教えてくれと頼んでも、実際売れてからのお楽しみと、唇の前に指を一本添えルだけ。
着いた先は、闇の商人が蠢くこの地域のブラックマーケット。
ここだここだと意気揚々と闊歩するへんてこりんな女の子。慣れたその足取りは本当に一般の生徒なのかと疑問が浮かび上がります。
「この角にしよう」
壁面にパイプが並び、電版が備え付けられいている真下にへんてこりんな女の子はブルーシートを広げました。
そして段ボールを机代わりにし、早速作業をしようと促します。
なるほど、ここでまだ何をするか理解していないのは自分だけだと、彼女は頭を働かせました。
「見てて」
ガスマスクの女の子はいそいそとダンボールの前に座ると、まずスマホを取り出し、それを見ながらビニールにマジックペンを走らせます。そして何かを書き終わると今度は籠の中から一枚の布地を取り出し、ビニールの中に入れ封を閉じる。
「これで完成」
とても簡単な一連の行動。
彼女は尋ねます。これだけ良いのかと。
彼女のその言葉に、へんてこりんな女の子はくすりと笑みを零します。まだ理解していないのは自分だけだと、彼女は焦燥感に駆られました。
「見てて」
ガスマスクの女の子はスマホの画面と共に路地に出て通行人に声を掛けました。スマホの画面を見せて数回会話しただけなのに、なんと通行人はお客さんとなってブルーシートまで足を運ばせて来たのです。
どんな魔法を使ったのか気になった彼女ですが、まだ結果は見えていません。しばらく様子を眺めていると、お客さんはにこりと口角を上げ、懐からお財布を取りだしたのでした。
「おひとつ頂こうか。いやはや、凍えた体に効きますな」
「毎度あり。3千円ね」
なんと、一枚千円で売っていたその布地が、何かを書いたビニールに入れただけで金額が三倍にも膨れ上がり、剰え一瞬で売れたではありませんか。
彼女はその事実に驚愕を覚えました。
そして、気付いたのです。顧問が放っていた言葉の意味を。
──君は理解してない。それ自体に価値は無いんだ。誰かの手に渡った時、真価を発揮する。
誰かの手に渡る。
いや、それが事実じゃなくても良い。誰かの所有物であったという付加価値を付けさえすればいいんだ。そしてそれが出鱈目でも構わない。
彼女の脳内に最後のピースが当てはまりました。あの時の顧問の行動、財宝という言葉。ただの布が高価なお宝に成り変わったのだ。彼女は驚きを隠せませんでした。
そうと決まれば早速行動だと、彼女は奮起します。
押収品管理係の担当となっていた彼女にとって、生徒の名前を書き出すのに時間は掛かりませんでした。それに、スマホの中にその生徒の写真も入っているので、説明には困りません。彼女は知らずの内にとんでもない価値を抱えていた事に戸惑いと興奮を隠せないでいました。
準備が整ったのを見計ったタイミングで、へんてこりんな女の子が呼び込みを続けます。
あっという間に長蛇の列。割り込みで喧嘩する者もいれば、謎に紳士的な者。様々な人種が入り乱れる結果となりました。その光景に、彼女は思わず笑みを浮かべます。
「よかったね!」
ガスマスクの女の子とへんてこりんな女の子も同時に笑みを浮かべました。それはまるで青春の1ページの様で、列に並んでいるお客さんも思わずほっこりと心が温かくなります。
エッチなのはいけない事だけど、自分の覚悟と友達の信頼を裏切る訳にはいかない。託してくれた友人の顔を思い浮かべながら、貰った布地を全て捌き続けるのでした。
ーー
ーー
時間が経ち、街並みはさらに色とりどりのイルミネーションを放ち、心を浮足立たせます。その分は影はさらに深まりを覗かせ、夜の繁栄を彩る。
女の子同士なのに、互いの手を握りしめるその光景は花の園。先輩後輩の関係なのでしょうか。片方は黒髪で前髪の切りそろえられたどこでもいるような見た目でしたが、もう片方は交渉役として有名なあの先輩。見てはいけない関係を見てしまった彼女は頬を赤らめます。学校の関係をを超えたその先を垣間見んと首を長くしようとする彼女ですが、傍にいたガスマスクの友人に首根っこを掴まれ引きずられて行きました。
「目的を忘れちゃだめ」
「ぐぬぬぬ……リア充め」
先ほどエッチを全て売り切った彼女の懐には、何十万もの大金。
そうです。彼女の目的は憧れの先輩に喜んで貰うプレゼントを買う事でした。
彼女は二人にお礼を言い、早速近くの洋服屋さんへと歩き出します。二人は明後日また会おうと言葉を残し、二人で夜の街へと消えていったのでした。邪推な想像が浮かび上がりましたが、一緒に補修を受けた仲です。寝食を共にし、あの窮地を乗り越えた。関係が深まるのは自明の理だと彼女は納得します。
ーー
ーー
翌日、彼女は正義実現委員会の詰め所へと足を運びました。
その日のお昼、彼女達一般委員達は再び聖夜会を開こうと、招集をかけていました。今回は委員長も副委員長も同じく招集が掛かっており、毎度の事ながら照れると後頭部を掻きむしります。
「はいこれっ!」
「あら……これは」
体操着のジャージ。
ただのジャージではありません。胸部に強力なストレッチ素材を編み込んでおり、どれだけ胸が大きくとも収まりきらない事は無くなる逸品。彼女はもしかしたら副委員長は自分の服のサイズを知らないのだろうと以前から考えていました。
もちろん特注の特注品。学生に手が出せる物ではありません。
ですが、彼女はエッチを沢山売ったおかげで学生では決して持てない大金を手にしています。どうやって手に入れたのだと疑問に思う副委員長でしたが、彼女の赤切れた手を見て、きっととてつもない努力をしたのだろうと解釈しました。
「嬉しい……!」
副委員長にとって、これは願っても無いプレゼント。いや、どんなプレゼントでも嬉しいはずなのですが、彼女が自分に対してとてつもない苦労をしたのだという事実が副委員長の心を締め付けます。
「ありがとう」
副委員長の言葉は嬉しいはずなのに、彼女の心の中にはまだ満たされない思いが残っていました。
どうしてだろうと自問自答しても答えは出ません。
──君は理解してない。それ自体に価値は無いんだ。誰かの手に渡った時、真価を発揮する。
変態顧問の言葉が脳内を反復します。
彼女は確かにプレゼントを副委員長に渡し、目的を達成しました。それで今回のお話は終わりの筈なのに、心が満たされません。
「あ、そっか」
単純明快とはこのことだと彼女は理解し始めました。
答えは簡単でした。彼女が贈りたい人は、本当は副委員長だけではなかったのです。
辛く苦しく、それでいて楽しかった尊い思い出。協力してくれた新しい友達。
──全員に喜んで貰える贈り物がしたい。
プライドが高く、排他的で意地っ張りな自分。
そんな自分が、他人に感謝を贈りたいなんてと、顔を俯かせ口角を上げます。
「どうしたの?」
副委員長は彼女の反応が分からず、首を傾げます。
「用事が出来ました!!」
深々と頭を下げ、彼女は走り出します。
その様子に副委員長はどこか寂しさと同時に、慕ってくれている後輩の成長した姿を見て胸が高鳴ります。
今度個人的に彼女にお礼をしよう。どうすれば喜んでくれるかな。華やかな気持ちに酔いしれる副委員長の胸の中は。
──幸せな気持でいっぱいになりましたとさ。
おしまい
今連載している作品の後章で、仲間で映画館に遊びに行く場面を作成しているのですが、思ったより内容が長くなったので短編として出しました。