────のち、彼と再会する。
姉妹校交流会 当日。
虎杖悠仁は箱の中にいた。
「はい、おっぱっぴー!!」
虎杖悠仁は京都校の面々へサプライズとしてウキウキしながら用意された箱から出た。
────五条へ知らせずに。
「「「「………。」」」」
彼はスベったのである。……それはつまり、空気は地獄ということで。
ポーズを決める虎杖に生きていることを知っていた伏黒たちは冷え切った目でこちらを見ており、京都校の生徒たちや教師は驚愕した目で虎杖のことを見つめている。
「宿儺の器!!」
その中で現れたのは、京都校の学長 楽巌寺嘉伸と東京校の学長 夜蛾正道。
特に驚いた瞳で見ているのは楽巌寺だった。上層部の一員である保守派の楽巌寺は、宿儺の器にあまりいい表情をしない。普通に登場していてもきっと同じ言葉を言っていただろう。
そんなことを思いながら、五条は楽巌寺の所へと歩き出す。
「久しぶりだな、楽巌寺学長。元気にしてたか?」
「…どういう事なのだ。五条悟よ」
京都校の学長である楽巌寺は死んだ筈の虎杖を見たあと、五条へ瞳を向ける。
その瞳は言わずもがな非難の視線だ。
「……。」
その視線を受けた五条はしかし、手をポッケに仕舞い生徒たちの様子を眺めている。
黙り込む楽巌寺に、五条はわかりやすく言葉にした。
「…もしかして、言葉しないと分からないのか?虎杖悠仁は生きていた、と。」
「虎杖悠仁は両面宿儺の受肉体なのだぞ?五条とて知っているだろう、あれはそういう次元ではないのだ。」
「楽巌寺学長。そもそもの前提、虎杖はそれ以前に子供ですよ。出来るだけ青春を謳歌させたいんです」
「器に青春などいらん。即刻排除すべきだろう」
そんな楽巌寺の考えを、五条は否定した。
「それは違う。」
「楽巌寺学長も知ってるだろう。青春を謳歌できないただの子供が、どうなるかということを」
楽巌寺は乱暴な時代の五条を知っている。だから、あの荒んでいた五条が丸くなったと聞いたとき、それはそれは驚いた記憶があるのだ。
「大人になればなるほど、楽しいことが減っていく。」
「だけど、この精一杯楽しんだ記憶があれば思い出を振り返れるかもしれない。それを元に、また頑張ろうと思えるかもしれない。」
「……そんな思い出を、僕は彼らに作ってほしい」
青空に、烏の声が響く。
「それだけの話です」
楽巌寺は、五条の言葉に問うた。
「それはただの私情ではないのか?」
楽巌寺の言葉に、五条は微笑む。
彼の笑みは少年のような笑みだった。
「ああ、そうだよ。これは僕の私情だ。ただこの一瞬だけを楽しんで欲しいって言うね」
そう言う彼の瞳は、慈愛に包まれていた。
* * * * *
一方その頃。
スベった虎杖に釘崎は足で入っていたケースを蹴っ飛ばし、そして次に頭を軽く引っ叩いた。
「テメェは本当になにをしてんだよ」
「いてっ!」
本気ではなくとも釘崎の叩く力が痛かった虎杖は、叩かれた場所を擦る。
「周りの反応見てみなさい、ほら。」
虎杖は周囲に視線を向けてみる。すると、東京校と京都校の生徒たちはほとんど露骨に視線をそらした。
東京校に至っては「こいつと一緒にしないでください」みたいな目で見ている者もいる。言わずもがな、伏黒である。
「ほぼほぼ冷めた目してるわよ。私も含めてね」
空気が氷点下まで下がり凍えそうな空気の中、虎杖は気まずそうに言う。
「もしかして俺……なんかやっちゃった?」
自分に向けて指を指した虎杖に楽巌寺との会話を切り上げた五条は、「なんかどころか超やってるぞ。」と虎杖の方へやってくる。
「言ったろ、怒られるだろうって。そうなるだろうなと思ったから事前に止めたんだ。」
「まぁ結局、僕の静止は意味なかったけどな」
五条の言葉に、虎杖は本気で申し訳なさそうな顔する。そして、
「ア~…その……すんませんでした…」
そう謝った。
その様子に、五条は口を開く。
「謝罪する力があんならさっさと東京校行って顔面パイ食らってこい。どうせやるって思ってた釘崎あたりが用意してるだろ。なぁ?」
五条が釘崎へ視線を向ける。
「ええ、事前に用意してたわよ。こんなことだろうと思ってね」
「えっ」
滝汗をかいている虎杖に妙に圧力のある力でニッコリと微笑んだのは五条。
「忘れたのか?次やったら顔面パイって、言ってたよな。なんならお前もやったら良いって言ってたよな。……忘れたとは、言わせねぇぞ?」
なぜなら、彼女のその手には、どこからか用意された大量のクリームがあったからだ。
「準備はいいですかー!?」
東京校の面々がその瞬間を捉えようとスマホを手に取る。
「いいぞー!!」
そして、その言葉聞いた五条は虎杖の顔面に大量のクリームを真正面にかけた。
「うぶぇ!!!!」
タイミングに合わせて、カシャッという音が聞こえる。伏黒はその様子に口元を緩ませ、釘崎は楽しそうにしていた。
こうして、クリームだらけの顔面写真が取られたのだった。
◇◆◇◆◇
時は過ぎ。
現在時刻、正午まであと一分。
東京校と京都校が各々スタート位置についているそんな時、交流会内のスピーカーから声がした。
「『開始時刻、一分前です。』」
それは、五条であった。
「『──ここで、京都校の庵歌姫先生から有難い言葉を頂きます。』」
「『どうぞ、歌姫さん』」
「『ある程度の怪我は仕方ないですが、仲間同士助け会いましょう。今回は合同の演習ですが、本来は呪霊や呪詛師を相手取ります。』」
歌姫の言葉に、野薔薇は口を挟む。
「仲間同士助け合う…?アンタらは虎杖を殺そうとしてるってのに?」
それを恵が咎めた。
「おい、釘崎。ちゃんと聞こえてるんだから口出すのはやめとけ」
虎杖や二年生はその様子をただ聴いている。
(釘崎、伏黒…あんがとな)
どうやら、虎杖は同期がいてよかったと思っているようだ。
「『性格や性根がどうであろうと、東京・京都共に競い合い、高め合うような呪術師でいてください。 …私からは以上です。五条さん、お返しします』」
「『歌姫先生、演説ありがとうございましたー。東京や京都関係なく、歌姫先生の言葉を胸に刻んでくださいね〜。』」
「『それでは。 ────姉妹校交流会、スタート!』」
パァン、という音が鳴った。
その音と同時に、東京校の生徒と京都校の生徒が動き出す。
東京・京都姉妹校交流会、スタートである。
▶▷▶▷▶
姉妹校交流会内、木が生い茂る森の中。
東京校1年の釘崎野薔薇は、密かに木の至るところに釘を打ち込みながら京都校3年の西宮桃と戦闘していた。
「てか、仲間同士助け合おうとかアンタらの教師が言ってたくせにアンタは虎杖は殺そうとするのね!!」
相対してから数分。彼女の言葉に、西宮は空の上から 当然 と言うような顔をしている。
「当たり前でしょ?それとこれとは話が別なの。」
「歌姫先生の言ってたように、仲間同士は確かに助け合う。だけど、宿儺を仲間って言うのは違うから」
「だから、ごめんだけど私は虎杖悠仁を仲間とすることはできない。東堂は何考えてるかわかんないけど、少なくとも
西宮の言葉に、野薔薇は声を荒げた。
「ハァ?! 虎杖だって仲間でしょ!!」
「でも、虎杖悠仁は宿儺でしょ?」
西宮から見た
どちらも正しいと思っているからこそ、彼女らは攻撃の手を止めないのだ。
「話し合いは、平行線ね…ッ!!」
ここで勝った方が正しい。
両者がそう思ったとき、野薔薇は呪力の籠もった釘を打つ。西宮はそんな野薔薇の攻撃を箒に跨りながらも避け続けた。
「本音を言えば、私だってこんなことしたくない。けど、私は…いや、私達はやらなくちゃならないの。彼を、殺さなくちゃいけないの」
彼女は野薔薇に向けて静かに言う。
この世界が女に厳しいこと、そして術式の有無だけで評価が変わり続けると言うこと。
だからこそ、生きるためには何かを飲み込まなきゃいけないときがあるということを。
「真依だってそう。ずっとずっと、完璧を求めてる。理不尽を耐えてきてる。だから、同じ女として…真依の辛さを、苦しさを、私は知ってるつもり。」
「だから、私が逃げ出すことはできないの!!!」
西宮が呪力を放った。
「そんなのクソ喰らえよ!!!」
それらを避けながら、彼女は言う。
「逃げたいなら逃げればいい、そんなことがどうしてわからないのよアンタはッ!」
「逃げられないのッッ!!!!私達は!!!ずっとずっと、逃げられないままここにいる!」
西宮の激情に突き動かされて彼女は藁人形を空中へ投げた。その瞬間周囲に呪力を感じ取った西宮は、周辺の木々を見る。
そこには、野薔薇の釘の呪力が籠もったものたちがそこらにあった。
(当たらない釘を飛ばし続けたのはこの為?!)
────そして。
それは、西宮の箒にも打たれていた。
(マズッ!)
焦る西宮を置いて、彼女は喋り始める。
「〝完璧〟も〝理不尽〟も、答える義務がどこにある!?」
「テメェの人生、仕事かよ!」
そうして、ただただ自分の信念を言葉にする。
男がどうとか女がどうとか知ったこっちゃないのだと。
私はオシャレをする私が好きなのだと。
強く在ろうとする私が大好きなのだと。
────だから、私は釘崎野薔薇なのだと。
「芻霊呪法 〈簪〉ッ!!」
仕掛けていた木と西宮の箒が落ちていく。
そして、野薔薇は言った。
「決着ね」
地上に落とされた西宮を、野薔薇は見下ろす。
詰みだと思うが、なにもできない。
しかし、そこでやってきたのは、
一つの
数十メートル先。
二人の間を木で狙いを定めていたのは、真依だった。
「…間に合ってよかった。油断しすぎなのよ、桃は」
ホッとした表情を浮かべるのも束の間、後ろから声が聞こえる。
「久しぶりだな、真依」
それは聴き慣れた姉の声だった。
しかし、彼女はそれを声に出さない。
落ちこぼれの彼女のことを、おいていった彼女のことを、真依は許していない。
「…真希」
「オネエチャンって呼べよ、真依」
刀と銃を持った二人が邂逅する。
こうして。
ここに、姉妹での対決が勃発しようとしていた。
それそれが作戦通りに動く。
伏黒が加茂へ行くのも、パンダがメカ丸と戦闘して足止めするのもまぁ、想定通りといってもいいだろう。
そんな中虎杖は、初対面でブラザーとか訳わからないことを言う東堂と話していた。
三輪はもう狗巻の呪言によって眠らされており、もう戦えなくなっているようだ。
そんな時、帳が降りる。
前に領域展開して逃げ去った特級呪霊と話しながら、東堂の言葉に耳を傾ける。
そして虎杖が〝黒閃〟を放つ時、声がかかった。
「虎杖くん!!やっと見つけたぁ!!!」
そこに現れたのは────
「順平!!!どうしてここに!」
それは、虎杖が呪詛師から保護した吉野順平だった。
〝黒閃〟の連撃。それが放たれた後、声が聞こえた虎杖は特級には目を離さず視線だけを向ける。
「一週間ぶり、虎杖くん。とりあえず今はそんな余裕ないでしょ?さっさと抑制しちゃおう」
吉野の言葉に、呪霊が動く。
〔抑制?〕
そうして、主に吉野へと伸びていく木の根たち。
〔私にそれができるとでも思っているのですか〕
しかし吉野は、それは全身がトゲトゲしているヒトデのようなもの────通称【
似ているが、【鬼揺】とは【澱月】とは少し違う。【澱月】は毒を人間の身体に取り込ませることができるが、【鬼揺】は木々の根の中に直接毒を注入させると言ったもので、謂わば毒で木々を腐らせることができるのだ。
そうして、その【鬼揺】で何本も折り重なっている木の根に毒を注入させて捌いていく。
「ぐぁああ!!」
【鬼揺】のそれは本人の所まで届く。
徐々に徐々に毒に侵されていく花御は、それに気が付いたのか吉野の所へ攻撃するのを止めて虎杖と東堂の攻撃へ一点集中をするようだ。
虎杖と東堂は吉野の様子をチラッと見て行かなくても大丈夫だと判断したのか、それらを避けながら呪霊に向けて拳を振るっているようだ。
呪霊に一度、拳が入る。
「東堂!もっとタイミングを合わせろ!!」
「ああ!!」
呪霊の体制が崩れたところで、今度はタイミングの鮮度と威力を上げようと二人がもう一度拳を振るおうとした瞬間。
二人の足場がなくなる。
七海は即座に吉野の高専服を持ち、受け身を取る。東堂と虎杖は、攻撃をされながらも避けているようだ。
そうして、二人は地面に落ちた。
「東堂!!」
「問題ない」
小枝にぶら下がった東堂は地面に着地する。
そして、タッタッタッとやってきた吉野は二人へ向けて言った。
「僕はこのまま遠距離で特級呪霊を見ていくよ。主な攻撃は任せた」
「応!」
立ち上がった二人は、やってきた呪霊を見据える。
「ここで、俺の術式を開示する」
「五条先生はッ、今ッ、どう!?」
呪霊の視界を惑わせながら質問した言葉は、吉野ではなく後ろで側に付いていた七海が答えた。
「知っているかと思いますが、あの人は今貼ってある帳を壊していますよ」
「…ナナミン!?なんでここに、」
虎杖は驚愕の眼差しを七海へ向ける。
今まで気配を感じ取れなかったのだ。ここまであったのは吉野だけ。それに、七海は一級術師と言うこともあって忙しいはずだ。だから、なぜここにいるのか疑問なのだろう。
その疑問に七海が答えた。
「気付いていなかったんですか?彼の付き添いですよ。」
「彼は虎杖くんとは違ってまだ数日しか経っていないんです、死なせる訳にはいかないでしょう」
「しかし、ここまで生徒たちの番だと見ていましたが…ここからは厳しくなりそうですので、私も加わります」
そう答え、呪霊の領域展開を妨害しようと七海が援護に加わろうとした時。
帳が、上がった。
お気に入りが増えていて嬉しくなりました。
沢山読んでくれている人がいてくださりとても嬉しいです、ありがとうございます(こなみ)
【
全身はトゲトゲしており、色は赤い。
オニヒトデというヒトデを元にしている。
実は全長2センチの幼体で、腕はまだ数本しかない。画像が気になる方は調べてみてください。かわいいです。
次回投稿日、3月22日(日)
次回、五条は を………?