「この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」   作:羽虫の唄

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頭の痛さもそうだけど吐き気もおんなじくらい鬱陶しい。

「…──、ぅ──…?」

 

 

 小さな声が発せられた。

 声の主、燃え盛る、火の様な赤い頭髪をした少年──焔藤(えんどう) ヤイトは、薄ぼんやりとした視界の中で、目を覚ます。

 

 瞬きを数度。身体を起こそうとして全身に走った鋭い痛みが引き金となることで、その意識は視界と共に鮮明となる。

 

 

「づっ、つつぅ……。…そうだ、俺はファイトに負けて…。こ、こは……病院…?」

 

 

 自分が寝かされていたベッドや、周囲を囲うカーテン。身に纏っていた患者衣から、ヤイトは、自身の居る場所がどこかしらの医療機関であることに気付いた。身体を襲う痛みに顰めっ面となりながら、彼はナースコールを探し出すと、それを押す。

 

 そう時間はかからなかった。

 ドタドタと遠くから、慌ただしい足音が幾つか。そうして派手な音と共に、ヤイトがいるであろう病室のドアが開け放たれ──

 

 

「──ヤ゛イ゛ド゛ぐ゛ゔ゛ン゛!!」

 

「えええっ、ヒカリ!? ちょっ、待てヒカリ! その勢いのまま飛びついて来るぎゃああああ!!?」

 

 

 仕切っていたカーテンが開きヤイトの視界に飛び込んで来たのは、ナースさんでもお医者さんでもなく、彼の幼馴染のヒカリ・L(ライトブリング)・カトリアーナであった。

 大粒の涙を流しながら、砲弾じみた勢いですっ飛んで来た金髪幼馴染に抱きつかれたことで、ヤイトの全身が激痛に支配される。

 

 

「うう゛、ううっ! 良かったでス。このままっ、このまマっ。ずっと目を覚さないんじゃないかっテ……!」

 

 

 涙混じりの少女の言葉に、ヤイトは己がどのくらい寝ていたのか、今はどういう状況なのか。色々と聞きたいことはあったが、一先ず。

 

 

「──ごめん。心配かけたな」

 

「うええぇぇえん……っ!」

 

 

 ぽんぽん、と。その頭を撫で、落ち着かせることに努めるヤイト。

 と、

 

 

「──おう! 起きたか、ヤイト!」

 

 

 力強い声が、病室内に響く。首ごと視界を動かしたヤイトが捉えたのは、丸刈り頭をしたスーツ姿の男性であった。

 

 

義正(ヨシマサ)さん!」

 

 

 おう、と。ナースコールによってやって来た、ナースや医師と共に病室へ入って来た男の名は、他守(たもり) ヨシマサ。その昔、とあることをきっかけに縁を持った、暴札団対策課に所属する刑事である。

 

 医師に異常が無いか諸々の検査を受け、問題無しと判断されてから──

 

 

「丸々7日だな」

 

「1週間もですか…」

 

 

 自分の丸刈り頭を撫でながら言うヨシマサに、ヤイトは包帯の巻かれた右腕へと視線を移した。

 八間札(やまふだ)町の隣、歩亜糸(ふあいと)市の病院に担ぎ込まれてから1週間もの間、ヤイトは意識がなかったらしい。ヒカリのあの反応にも、頷ける。

 

 

「ことの顛末なんだが──さて、と。どこから話したもんかね」

 

 

 腕を組み、唸るヨシマサ。

 そうして語られたのは、自分たちの町で、悪意を持った人々が集い、何某かの目的の為に暗躍していたこと。その謎の『組織』の構成員にヤイトたちは遭遇し、連れ去られた先である彼らの拠点──表向きは診療所として機能していた地下施設から救い出されたこと──。

 

 

「深夜に派手な爆発が起きてな。お前さん方が捕まってた、(くだん)の施設が()()()()()()を起こしたんだ。幸いにもお前さんら含め、『組織』の構成員に死者は無し。ちと、負傷者は居たがな」

 

 

 今回の騒動でその存在を知られることとなった『組織』であるが、何かの下部組織なのか、それとも大元なのか、その規模は不明。

 構成員は様々な悪事を働いていた様だが、実際に捕らえた構成員から情報を聞き出せても、あくまで報酬に目が眩んだ雇われや、洗脳によって操られていた者が多く、何を目的として行われていたのか詳細は不明。

 

 不明、不明、不明。

 唯一分かっていることは──暫時的かもしれないものの──『組織』はその機能を停止したと言うことだ。

 

 

「──あら、遅いお目覚めね?」

 

「──よっ! 起きたかよ、ヤイト!」

 

 

 ヨシマサから話を聞き終えたヤイトの元に現れたのは、彼の幼馴染である郡山(こおりやま) ヒトミと、空坂(くざか) ハバタの2人である。ヤイトと同じく病院衣を着た2人の怪我は酷く、ヒトミは腕、ハバタは足をそれぞれギプスで固めていた。

 それを見て、ヤイトは表情を苦渋で歪める。

 

 

「……ごめん、2人とも」

 

 

 あの時。『鎧の男』から身を挺して自分を逃した2人であるが、結局、ヤイトは何も出来なかった。助けを満足に呼ぶことも、あの場で逃げ出さずに、共に戦うことも──。

 

 不甲斐なさからヤイトは頭を下げ、謝罪の言葉を述べた──よりも早く。

 

 

「……言っておくけれど、ヤイト。謝るのは無しよ」

 

 

 そう言ったのは、ヒトミだ。ヒカリがベッドの近くに並べた椅子に、腰を下ろした彼女の言葉にヤイトが驚愕すると、それにハバタが続いた。

 

 

「そうだぜ、ヤイト。……お前が言いたいことは、なんとなく分かる。だけど、俺たちだって結局、あの『鎧』のヤローを食い止められなかったからなー」

 

 

 松葉杖を突いていたハバタは、少々危なっかしく椅子に座りながら言う。

 誰かが悪い訳じゃない、だから謝るな。……そう言われてしまっては、ヤイトも出かかっていた言葉を飲み込むしかなくなる。

 

 

「…──1番謝ンなくちゃいけねえのは、俺だよ。子供のお前らの危機に気付けず、危険な目に遭わせちまった。──すまなかった」

 

 

 沈黙に支配されそうになったヤイトたち。それを破ったのは、ヨシマサだ。

 大人として、警察として──そしてファイターとして。助けを必要としている他者を守れなかった者として、彼は4人に頭を下げる。

 

 

「…そだな。1番悪いのはヨシさんだな」

 

「おいこらハバタてめえ」

 

「ハバタの言うとおりね。元を糺せば悪いのは『組織』だけれど、警察が奴らを事前に把握出来ていれば、私たちがそれに巻き込まれることはなかったワケだし」

 

「ちょ、おい! そうなんだけど……そうなんだけどぉ!」

 

「…これハ、ヨシマサさんには誠意を見せてもらわないとイケマセン……。焼肉を所望しまス!」

 

「えぇー!? おいおい待ってくれ。育ち盛りの中学生とかどんだけ食うんだよ、今月厳しいんだから勘弁してくれ!」

 

 

 ハバタの呟きをヒトミが援護すれば、いつの間にやら泣き止んでいたヒカリも参戦したことで、ヨシマサは悲鳴を上げた。その様子を見て、ヤイトも自然と笑みを溢していた。

 

 笑う。

 笑い。

 笑って。

 

 

「…──ユーキは、どうしたんですか」

 

 

 言った。

 

 その一言に、病室は悲痛な静寂に包まれる。まるで、重く暗い、冷たい水底に沈んだかの様な空気だ。

 

 

「──俺たち警察が確保した『組織』の構成員は全部で124人。性別、年齢。多種多様な人物が居たが……その中に、中学生程度の年齢の男子は居なかった。…そして、現在も病村(やみむら) ユーキの所在は分かっていない」

 

「そう、ですか」

 

 

 ヨシマサの言葉に、ヤイトは短く呟く。

 分かっていた──分かっていた。ヨシマサが、ヒトミたちが。無理矢理にでも、明るく振る舞おうとしてくれていたのは。

 

 

「──病村 ユーキの行方は、俺たち警察も全力で探してる。…そう悲観すんな、何がなんでも、絶対に見つけ出してやっから」

 

 

 無責任な言葉──ではない。その瞳の奥に、炎の様な熱を宿しながら言うヨシマサに、しかしヤイトは俯くだけで何も返すことは出来なかった。

 その内、病室の入り口から部下と思しき青年に呼ばれたことでヨシマサが退室し、病室にはヤイトたち4人だけとなる。

 

 

「──ユーキはきっと、助けを求めていたんだ、ずっと。だけど、俺たちはそれに気付けなかった。……気付かないと、いけなかったのに」

 

 

 いつも一緒だった親友は、ある日を境に人が変わった様になってしまった。ファイトをすれば苦痛に満ちた表情を見せ、いつしかファイト自体を避ける様になってしまい…。

 その理由は分からなかった……いや、()()()()()()()()()()。今はそうでも、いつかはあの頃に戻れると。そう、愚か極まりない思考で居続けた結果、4人は1人の親友を失ってしまった。

 

 誰かが声をかけていれば。

 その心に巣食う闇に気付けていれば。

 きっと、ヤイトたちは今でも仲良し5人組でいられたはずだ。

 

 

「みんな──俺は、強くなってみせる」

 

 

 ヤイトは宣言する。

 強くなる、と。親友や、()()()()()()()。もう誰も失わない様に、誰もこの手から取りこぼさない様にする為に。

 

 

「ああ──。そうだな、強くなろう。…でもそれは、皆でだ!」

 

 

 ヤイトの言葉に、先ず初めに、ハバタが叫んだ。

 

 

「ええ、そうね。……今どこで何してるのかも分からない、あの子をこの場所に連れ戻せるくらいに、強く」

 

 

 ヒトミが次に言った。

 

 

「ハイ。そうしたラ。みんなでちゃんと話して、みんなで謝っテ──またみんなで、ファイトをしましょウ!」

 

 

 最後に、ヒカリが言えば。

 4人は自然と、突き出した自分たちの拳同士を打ち付ける。

 それはいつの日か誰かが始めた、共通の目的を持った時に行う、儀式の様な所作。胸にした決意を、全員で果たして見せると誓いを顕にする行為。

 

 

(──待ってろよ、ユーキ!!)

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 ──あれから1ヶ月が経過した。

 

 場所はカードショップ・トレディアン。来店を伝えるピロピロとした電子音に、店長のイソヤスはカウンター越しに、来店客の姿を認める。

 

 

「やあ、ヤイトくん! いらっしゃいませ」

 

「イソヤスさん! 怪我はもう大丈夫なんですか?」

 

 

 ヤイトに訊ねられたイソヤスは、快復したことを教える為に、カウンター越しに大きく腕を回してみせ──勢い良く、背後のカードケースが並べられた棚に強打した。

 

 

「ぐあァ…!?」

 

「な、なにしてんすか……」

 

 

 痛みに悶える成人男性に若干引きつつ、イソヤスが立ち直ったのを認めたヤイトは、改めた様子で言う。

 

 

「イソヤスさん。すみません、少しだけお時間を貰えないですか」

 

「…──ふむ。どうやら、買い物をしに来た、と言う訳ではなさそうですね。どうしましたか?」

 

 

 ヤイトが纏う雰囲気から何かを察したらしく、イソヤスは彼を連れ、奥のスタッフルームへと向かう。

 用意された椅子に座り、差し出されたお茶に礼を述べてから、ヤイトは話を始めた。

 

 

「──なるほど。強くなりたい、ですか」

 

「はい。今の俺は、弱いです。だから、イソヤスさんに師事を仰げたらと思いまして」

 

 

 ヤイトの申し出に、イソヤスは唸った。

 イソヤスは国際大会に出場経験のあるファイターである。しかし、出場経験こそあれど、その大会で優勝したかと言われるとそうではないし……。

 

 迷う。ヤイトにファイトを教えること自体は良いのだが、きっと、目前の少年は。あの日──『鎧の男』との遭遇をきっかけに、この様な申し出をしてきているはずだ。ならば、『鎧の男』に敗北してしまった自分は、適任では無いのでは……?

 そう、イソヤスが考えていた時である。

 

 

「──なンだ、ガキ。強くなりてェのか? クカカッ、だったら俺様が鍛えてやっても良いぞ」

 

 

 突然、ノックも無しにスタッフルームのドアを開けて現れたのは、ツンツンとした銀髪を持った青年である。爛々としたオレンジの瞳の青年に、イソヤスが慌てた様子で駆け寄った。

 

 

空戯十(アギト)くん!? どうしたんです、突然」

 

「よゥ、イソヤス。何、『バートラッシュ』ッつーカードショップを探してンだが、中々辿り着けなくてよォ。お前、場所知らねェか? このへンだと思うんだが……」

 

「ば、バートラッシュっ? 隣町どころか、隣県だけど……??」

 

「──ン……だと…?」

 

 

 方向音痴は相変わらずなんですねぇ、と。イソヤスが、彼の知り合いらしき青年と会話をしているその背後で、ヤイトは目を丸くしていた。

 

 

「──むっ、紫鮫(むらさめ) アギト…!? 世界チャンピオンが、なんでこんなところに…!?」

 

()、な。今は別の奴に譲ったよ、あンなつまんねー称号。──ンで? ガキ、強くなりたいってンなら…さっきも言ったが、俺様が鍛えてやらねーこともねェ。どうする?」

 

 

 ……それは別に、盗み聞きしていたヤイトの声音から、その覚悟が本物だと見抜いたからとか、そういう訳ではなく。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 紫鮫 アギトと呼ばれる青年の行動基準は、如何にそれが面白そうで、自分が楽しめそうかが全てとなっている。

 

 ──曰く、知る者は好む者に、好む者は楽しむ者に敵わない。

 ならば、世界で誰よりもファイトを楽しむこの青年が最強となったのは必然と言える。

 

 

「──元とは言え、王座に立ったことのある人にミステリオマキアを教えてもらえるなんて、願ってもない。よろしくお願いします!」

 

「良いねェ。ンじゃま、早速ファイトと行こうじゃねェか。イソヤス、ファイトスペース借りるぜェ」

 

 

 ──この日、ヤイトは師を得る。それも世界の頂点に立って魅せた、とびきりの師を。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──甘いっ! ()ァつ!!」

 

「どわぁっ!?」

 

 

 場所はとある道場。

 師範代と思われる、筋骨隆々で、龍を思わせる長い白髭を携えた老人に敗北したハバタが、衝撃で尻餅を()いた。

 

 

「甘い、甘い、甘い! デッキ構成、戦術、カードの取捨選択! その全てが甘い! ハバタよ。貴様、この程度の力量でこの儂に勝負を挑んだのか。片腹痛いわっ!!」

 

「……ちっ。うるせえ祖父(じじい)だ」

 

「口だけ威勢がよくとも、現に貴様は地に伏している。分かったのならさっさと立て。言ったはずじゃぞ、身内の情は捨てると。強くなると言う、貴様の覚悟が真に望む物であるならば、例え血反吐を吐いてでも儂を倒してみせんか!!」

 

「──言われなくても。こちとら本気なんだ、本気で強くなるって誓ったんだよ! その為には、何度だって挑んでやらぁ!」

 

「……その意気や良し。こぉい、ハバタ! 儂に勝った暁には、空坂流闘札術の全てを、貴様に伝えよう!!」

 

 

 その闘いは想像を絶する激しさだ。睡眠や食事などの時間を除けば、起きている間は全てをファイトに捧げるほどの、気の()れた稽古であった。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

『──あらあらぁ? 誰かと思えばヒトミじゃなぁい。随分と久しぶりねぇ』

 

 

 場所は不明。どこかの地下空洞。

 地面、壁、天井。その全てを美しい氷の結晶に覆われた、この世の物とは思えない絶景の──そして、認められた者以外はその絶対零度により、容易く魂を冷たい奈落に閉じ込められる、拒絶の領域。

 

 

『前回の挑戦は5年前だったかしらぁ? うふふ、懐かしいわねぇ。ほら、覚えてる? 貴方の叔父さんが()()()()()()()──』

 

「悪いけれど、無駄話をする為にやってきたんじゃないの」

 

 

 厚手の防寒具に身を包むヒトミは、氷結した洞窟の中央──巨大な逆氷柱の中で鎮座する、1枚のカードが発する言葉を、ばっさりと切り捨てた。

 クスクスと、笑い声が響く。

 

 

『ええそうねぇ。()()()を手中に収めることこそ、貴方たち郡山家の悲願。方法は、アタシにファイトで勝利すること──簡単よねぇ?』

 

 

 負ければ氷像になってもらうけれど、と付け足してから、カードは嗤う。

 

 

『早速始めましょうかぁ? …ああでも、他ならぬヒトミだし。どうかお願いですからーって、地面に額を擦り付けて言われちゃったら、もしかしたらファイトをやらなくても──』

 

「──それはこちらの台詞ね」

 

『……は?』

 

「いいこと、1度しか言わないわ。…私と貴方の仲なんだし、どうかお願いですからと懇願してくるのなら、もしかしたら私はファイトで貴方をギタギタにすることなくデッキに加えてあげるかもしれないわ」

 

『………クソガキが。今更泣いて謝ったとて、(わらわ)が許すことはないぞ』

 

「言葉遣いが崩れちゃってるわよ()()()()()()。早速始めようかしら? そして知りなさいな。私と貴方、どちらが立場が上なのかを。──アウェイク!」

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「はア〜…っ。──てヤッ! とおゥ!!」

 

『──あの、ヒカリ。少し宜しいですか?』

 

 

 背後から、自身の相棒(バディ)に名を呼ばれたヒカリは、作業を中断してそちらへと振り向いた。

 

「はイ! なんですカ?」

 

『ええと、あの。余計なお世話なのかもしれませんがその。ご友人の為、皆で強くなると誓ったあの日から1ヶ月近く経ちますよね?』

 

「そうですネ」

 

『………その間、ヒカリは殆どお菓子作りに専念しているのですが。あのう、カードファイトの腕を磨くだとかそう言ったことはしないのですか…???』

 

 

 ヒカリの目前にて、美しく透明な(ハネ)を有した女性の姿をした〝幻影(シャドウ)〟が疑問を投げかける。その周囲では、これまた透き通った翅を持った、小さな妖精の姿をしたユニットたちが飛び回っていた。

 

 

「──えト、言いたいことは分かっていまス。あの日、強くなると誓ったのは確かですシ、それは私も本気で思ってまス」

 

『でしたら──』

 

「──でモ。だからと言っテ。強さを得る為ニ、これまでの普通を捨てたリ、当たり前を変えたりしてしまうのハ。ちょっと違うと思ったんですヨ」

 

『………』

 

 

 ヒカリの言葉に、彼女のバディカードは口を噤む。

 

 

「ユーキくんがいつか帰って来たその時。私たちが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、きっと悲しんじゃいまス。……なのデ、私は得意なお菓子作りを頑張っているんデス! いつかユーキくんが戻ってきた時、喜んでもらえるようにっテ!」

 

 

 もちろん、ファイトもがんばりますヨ!

 そう言う少女に、ユニットたちは自然と笑顔となっていた。

 ああ、何を心配していたのだろうか。自分たちの(バディ)は、昔からこうじゃないか、と。

 

 

『──そうですね。でしたら、我々もお手伝いしましょうか』

 

「ぜひお願いしまス! いつか絶対完成させますヨ! 食べた瞬間、美味しすぎてほっぺたどころか下顎から延髄まで全部蕩け落ちてしまう究極のクッキーヲ……!」

 

『あの、それ硫酸とか王水混ざっていませんか???』

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 …──そこは薄暗い路地裏だった。

 ある場所を目指して進むのは、分厚すぎて、()()()()()()()と言った方が適切なんじゃないかと思う出立ちをした、1人の男である。兜に似た黒いヘルメットをした彼は、目的の場所に辿り着いたらしい。歩みを止める。

 

 

「──はぁ、全く。逃げ延びたのは君1人だけですか」

 

 

 暗闇の中でそう言うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。嘆かわしい、と。目前の『鎧の男』の前で、彼は自身の額に手を宛てがう。

 

 

「ええ、ええ。1からです。また始めなくてはなりません…が、ですが! ああ、ああ! 我々はただ負けたわけではなァい! 新たな可能性を得ました。あれを、ええあれを! 属性と他の属性を融合させる、あの力を我々が手にすることが出来れば、今度こそ世界は──」

 

 

 …──ぞふっ、と。

 そこで何か、音を聞いた。

 

 

「?」

 

 

 暗闇の中で静かに発せられたその音に、青年は首を傾げる。辺りを見渡し、何も見つけられず、視線を下へ落とし──

 

 

「あ?」

 

 

 そこで漸く、自分の胸元に、鋭い何かが突き立っていることに気が付いた。

 その体から力が抜ける。膝から順を追い、ゆっくりと地面に崩れていく。

 

 

「……貴様」

 

「ご苦労。アンタはもう用済みだ。……この『(チカラ)』は俺が貰っていく」

 

「貴様ァああああああああああああああッ!!!」

 

 

 青年からデッキを奪った『鎧の男』。

 その背後で、青年の体が、影に、闇に、飲まれていく。

 

 

『──汝、力を欲するか』

 

「ああ。力が欲しい。この世界に(あまね)く全てを滅ぼす力が」

 

『──良かろう、ならばくれてやる……!』

 

 

 闇は消えない。

 悪は滅びない。

 世界に危機が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 ──()()()、だ。

 

 その日は、満月が良く見える日であった。

 

 ガタガタ、と。

 ガタガタガタガタッ、と。

 

 家主を失ったとある家屋にて。遮光カーテンが締め切られ、暗闇と静寂に包まれたその一室が、突如として揺れ始める。

 地震?

 

 …いや違う、もっと別の何かの力が作用しているせいだ。

 

 揺れは時間が経つにつれ、激しさを増していく。そしてその揺れがピークに達した瞬間──

 

 

「『──どわーっ!?』」

 

 

 突如()()()()()()()()。かと思えば、そこから2つの影が飛び出して来た。1つは少年。もう1つは……竜の様な蛇の様な、よく分からない異形である。

 

 超常極まりない現象と共に、雪崩れ込む様にして出現した存在は、もみくちゃになりながら転がり続け、どしんと壁にぶつかることで漸く停止した。

 

 真っ先に体勢を立て直したのは少年である。

 

 

「! このカーテンの厚さ、この質素なデザイン、そしてこの遮光性………間違いない、僕の家だ。や、やった! 戻って来れたんだ!!」

 

『えっ、自分の家かどうか判断するのがカーテンなの……??』

 

 

 どっこいせ、と言いながら居住まいを正す異形──改め、黒淵邪神(こくえんじゃしん) ドルムハーオス。その相棒である少年は、歓喜から諸手と共に声を上げていた。

 

 彼の名前は病村 ユーキ。人知れず闇の『組織』のボスと戦い世界を救ったところ、その弾みと言うか余波と言うか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()世界の裏っ側のよく分からん場所にワープしてしまっていた、どこにでもいる普通の少年である。

 

 普通ってなんだよ。

 

 

「ううう、漸く日本に戻って来れた。持ってたスマホはワープした拍子に壊れちゃって使えなくなるし、皆のケータイ番号は全然覚えてないし、そもそもワープ先が科学が殆ど発展してなかった孤島の山奥だったし……!」

 

『いやはや。笑いあり、涙ありの激動の日々だったな、ユーキよ。()()と出会えていなければ、今頃どうなっていたことやら』

 

 

 と。ドルムが声を漏らした時であった。

 

 

『──うにゃあ!?』

 

「ぐえぇっ!?」

 

 

 どっしーん、と。音にするなら、そんな具合で。空間に空いていた『穴』の中から、小さな影が勢い良く飛び出し、ユーキへと襲いかかった。勢いに負け、少年は床に盛大に転がることとなる。

 

 今し方、少年へと襲いかかったもの。

 ──それは小さな少女である。小麦に焼けた肌、射干玉(ぬばたま)の髪、純金で出来た獣の耳の様な頭飾り、そして額に、()()()()()()3()()()を持った、異形の少女だ。

 床に倒れた少年の背に跨りながら、少女は笑う。

 

 

『──にゃっはっは。そうかそうか、ここがユーキが住まうニホンとやらか! 真っ暗で何も見えん、灯りを用意せい!』

 

「ごぶふぅ。…──えっ。ちょ、〝ナゴラ〟ぁ!? なんでナゴラがこっちに来て……急いで戻らないと!」

 

 

 自身にのしかかる人物の正体を知った少年は、何やら慌てた様子で起き上がり、そしてそれとほぼ同時。虚空に空いていた穴が、音を立てて消滅する。

 

 

「ああああっ?! わ、ワープゲート閉じちゃったよっ、どうしよう!?」

 

『案ずるなユーキ、向こうのことならば問題は無い。わしが居らずとも、あ奴らならば平気じゃろうて』

 

 

 ナゴラと呼ばれる少女。それは、少年とドルムがワープした先で出会ったとある存在だ。

 簡潔に言うと、とある場所で密かに()()()()()()()()()()()()それを巡ってすったもんだな展開があったりしなかったりした、ミステリオマキアのカードである。

 

 その名も──

 

 

「それに、このわしを誰じゃと思っておる? ──そう、我こそは〝魂喰冥神(こんじきめいしん) ナゴラバウワフ〟! わしの闇の力があれば、世界の裏側だろうとなんだろうと、問題ナシじゃーい!!」

 

 

 にゃーはっはっは! と軽快な笑い声が発せられる。

 彼女を巡る、出会いや諸々の具体的な話は──長くなる為、またの機会としよう。

 

 1つ言えることがあるとするならば、とある少年は帰還を果たしたということだ。

 新たな邪神を──勘違いの要因を付き従えて。

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書籍化決定!! 2月10日からTOブックスより発売です!▼神「こいつ、主人公キャラに転生させるとか嘘ついて、噛ませキャラに転生させたお(笑)」▼ 漫画、アニメ、ラノベ、ありとあらゆる物語に出てくる主人公キャラに憧れる男子高校生はトラックに引かれて死亡してしまう。そんな彼の前に神が現れ、ノベルゲーの世界に転生させると言うのだ。喜びに打ち震える主人公……だが、転…


総合評価:55927/評価:8.74/連載:75話/更新日時:2023年11月16日(木) 17:04 小説情報

賢者な英霊(仮)はとにかくヤりたい(真顔)(作者:おき太さんかわゆい)(原作:Fate/Grand Order)

「サーヴァント・アヴェンジャー。召喚に応じ参上した。我は世界への復讐者。捨てたくても捨てられなかった、憐れな独りの男だよ」▼これはカルデアにイレギュラーで召喚された英霊モドキのお話。


総合評価:8285/評価:7.57/連載:24話/更新日時:2018年06月12日(火) 19:45 小説情報


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