彼女はまたしても夢を見ていた。
アウラは見知らぬ土地で特に目的もなく歩いていた。だが彼女は重要な何かがあると考え歩みを進めた。
歩いているうちにアウラは赤い髪の老いた魔術師に出合った。彼は老練の魔法使いと言った出で立ちでかなりの実力があるように見える。彼はアウラを見つけると少し驚いた様子で
「誰じゃ、お主は?ふむ、間違った者の夢に現れてしまったようじゃ、すまぬな。お詫びと言ってはなんじゃが…」
そう言って彼はゆびをくるりと回した。
アウラは突然、月蝕の檻の魔法の知識を得た!
「は?なに…これ…ちょっと待ちなさい!」
「また間違った者の夢に現れてしまった…そろそろ歳かのぉ…」
そうつぶやいた魔術師の姿はだんだんとぼやけていき、かき消えてしまった。
――――――――――――――――
目覚めたアウラは先ほど見た夢と使えるようになった月蝕の檻という魔法について考察する。自身が使える魔法が増えているという感覚が確かにあった。妙な夢ではなく、本当に使えるらしい。
だが一つだけ全くわからないことがあった。
これがパーティ会場でアウラが教わらなかったティリスの魔法の法則、ストックである。
この法則について知らないアウラにとって、夢に現れた老魔術師によって習得したものだからこの魔法は特別なのだろう、という考えがあったのでこの世界の魔法はすべてこの仕様であるという事にはまだ気づいていない。
思わぬ形でこの世界の魔法を習得したアウラは、魔法の昨日の実験の続きと新しく習得した魔法の練習などを兼ねて近くのネフィアへと向かうべく準備を始めた。
「行くわよ」
現状一人だけの手駒である首無しがむくりと起き上がりアウラの後をついていった。
ティリスの冒険者が愛してやまない、ネフィア攻略の第一歩を踏み出した。
アウラが目を付けたのは自宅近くの塔型ネフィア。それなりの高さがあるようだが、地殻変動によってできる一般的なネフィア、すなわちランダムネフィアはとにかく階下に下りていく構造らしい。地表に伸びている塔は一体何なのだろうか。
内部へと侵入したアウラ。入り口にある階段を下ると、そこは小部屋になっていた。アウラがこの世界にやってきて最初に目覚めた部屋と構造が似ている。
部屋の中には
なお甲冑は人間の冒険者である可能性もあったが、兜からは人間やそれ以外の種族の頭部は見えなかった。横にいる首無しのような存在かもしれないが、敵対しているようなので戦うしかないだろう。となれば、早速習得した魔法の試運転だ。月蝕の檻はどうやら広範囲を攻撃する魔法らしい。
「《月蝕の檻》」
アウラは月蝕の檻の魔法を詠唱した。ボールはデスアーマーに命中し闇に飲み込んだ。
首無しは痛手を負った。
魔法はちゃんと発動し、目の前にいた存在は魔法によって作り出された闇の中に引きずりこまれて消えてしまった。だがペットの首無しにも効果はあったようで、致命傷とはいかないがそれなりのダメージを負ってしまったようだ。
首無しは首から上がないので悲鳴をあげなかったが、どこかアウラを責めるような立ち振る舞いをしている。腰に手を当て、上半身を少しアウラの方向へ向けて凄んでいるようだ。もし仮に首から上があれば嫌な顔をしていたことだろう。
不死の軍勢の一員となった者は必ず首を切り落とされる。それは抵抗の意志や思考能力を奪うためである。つまり現状の首無しも同じようにアウラの言いなりのはずなのだ。しかし、彼は個性を、意志を見せている。この世界におけるペットという法則に”服従させる魔法”も組み込まれてしまったということなのだろうか。
「前の世界ほど気楽に使えないのに、どうなってるのよ……でもこいつからは抵抗の意志は感じないわね」
今の首無しは命令には従順だし、今までは不死の軍勢のようなただの手駒だと思っていたが、この世界のペットという枠組みの中でアウラに従うとともに、本人の自由意思もしっかりと持っていたのだ。
「拾って」
試しに部屋に散らばる物品の回収を命じてみれば、普通に従ってバックパックにモノを詰めて戻ってきた。命令権が無くなったわけではなさそうだ。
つまりイルヴァにおける”服従させる魔法”は魔力量の劣る相手を支配して仲間にするという魔法となるのだろう。
大魔族アウラを象徴する”服従させる魔法”が世界の法則という大いなる力によって歪められてしまったことに彼女は怒りを覚えたが、怒りに任せて地団駄を踏んでも元の性能に戻るというわけではない。深呼吸をして気持ちを切り替えた。
その後気を取り直して探索を再開した。道中に落ちている金目の物や魔杖、魔導書は回収していく。魔導書には
道中では魔物に襲われたが、首無しの剣とアウラの魔法で排除して進む。
昨日浮かんだ疑問をもとに、一度空を飛ぶ巨大な目玉に”服従させる魔法”を使ってみれば、
「支配出来たわね…」
魔力的な繋がりから魔法が効いたことを確信するアウラ。それでもこの
その後アウラは
「フーーーー!」
通路の奥、特徴的な眼鏡をかけた男性がアウラたちを視認するや否や、全力疾走で向かってきたのだ。幸い相手の魔力量は少ない。武器も持っていないようなので簡単に勝てる相手だろう。首無しに対処を任せて探索に戻ろうとしたその時、
「フーーーーーーーー!!」
*チュドーン!*
彼は自爆した。
「…は?」
自爆の威力は大したことはなかった。しかし、叫びながら近づいてきたと思いきや、目の前で爆散したのだ。見た目は人間だったが魔物だったのかもしれない。
インパクトのある状況に唖然としたアウラは、背後から近づく別の存在には気付かなかった。
「ヒッヒッヒ…」
ゆらりとアウラの背後に現れたのは、白く塗られた奇妙なメイクの顔をした男。不気味に笑う彼はこのネフィアの主である、『魔人道化師』だ。
「ヒヒヒ!」
道化師は指から魔力で編み出した糸を使いアウラを拘束した。目の前で散っていった怪生物に気を取られ、まったく気づいていなかった。
「なっ、何よ!これ?!」
拘束されたことによって道化師の存在に気づいたアウラ。だがすでに遅かった。今のアウラは磔のような形で身動きが取れない。前に行かせていた首無しを戻す必要がある。魔法によって命令を出そうとしたところで奴は動いた。
『魔人道化師』アウラの動きを封じ、全力でくすぐった!
こちょこちょ、さわさわ。擬音にすればかわいらしいが、道化師はすさまじい速さで行っている。そして、見た目だけなら少女に見えるアウラを縛り上げ、くすぐる大柄な男性の姿ははっきり言って事案でしかなかった。
しかし相手は魔人道化師。名前の通り彼は魔人、つまり非人間である。そして、アウラも見た目を人間に寄せて進化した魔族である。非人間と非人間。つまりはセーフである。
「あはははは!…ちょ、やめなさ、ひゃあああああアアアア!!」
アウラは激しく身をよじったり、目と口を必死に閉じようとするが叶わず。冷や汗を流しながら笑っている。
魔族が人間に似せるように進化した弊害で人間と同じツボになってしまっているのか、相手の道化師がくすぐるプロなのだろうか。とにかくアウラは身動きが取れなかった。
「くうっ…んん! げほっ!げほっ!」
笑い続けた結果、呼吸が苦しくなってきた。このままでは再び死んでしまう。死にたくはない。絶対に元の世界に戻ってやると誓ったのにこんな理由で死ねない。
アウラの必死の願いが通じたのか、先行していた首無しが戻ってきた。
「ヒヒヒ…」
増援がやってきたのを察知した道化師は拘束を解除し、通路の奥へと後退した。
「げほっげほ…はっはー…遅いのよ、お前!さっさとあいつを殺しなさい!」
遅れてきた手駒にも腹が立つが、それ以上に大魔族に屈辱を与えた道化師が憎い。くすぐって窒息死させる作戦はあきらめたのか、道化師は懐から小さなカードを取り出した。
「ヒヒッ、ヒハハハ!」
道化師は大笑いしたかと思うとカードを投擲してきた。アウラの首に目掛けてだ。
アウラは呼吸を整えるさなか、咄嗟にカードをよけた。当たったらまずい攻撃だと確信したのだ。
ズドン、と背後からはカードが当たったとは思えない音を立てている。振り返ってみれば、カードが当たったと思われる場所には鋭い傷跡が残っていた。首に当たっていればちょん切れていたことは確実だろう。
慌てて首を確認するが、少しかすってしまったのか血が少し垂れている。
カードは魔道具なのか、すでに道化師の手に戻っており、そしてまた攻撃しようと狙いを定めていた。
主人のピンチにペットの首無しは投擲をキャンセルさせるか、狙いを自分にそらすべく道化師に突撃した。
「ヒッヒッヒッ…」
道化師はアウラを狙うのをやめて、首無しとの近接戦闘に切り替えた。無視できるレベルの敵だとは思わなかったようだ。剣で斬りかかる首無しに対し道化師は件のカードで剣を弾いている。
カードの強度が尋常じゃないことが分かり、当たっていた場合を想像し肝が冷えるが、目の前の攻撃をいなすことに集中して隙だらけの道化師に攻撃するチャンスだ。
死の恐怖を二回も味わわせてくれた道化師を確実に仕留めるためには、強力な攻撃が必要だ。練度が低い炎のいかずちを放つ魔法や月蝕の檻では不安が残る。”服従させる魔法”で支配することも考えたが、首切りを命じる前にカードを投擲される恐れや、この世界では支配しても自由意思がある都合上、攻撃魔法で倒す方が良いと考えたのだ。
殺すための魔法はもちろん以前の世界の魔法。腐敗の賢老クヴァールが編み出し、数多くの魔法使いと冒険者を葬り、人間側が解析し使いだすほどに完成されている魔法、「
「死になさい」
一般攻撃魔法の魔法陣を展開し、発射する。黒いレーザーは『魔人道化師』に命中し殺した。
「ヒヒヒ…」
事切れるその瞬間まで道化師は笑い続けていた。
倒した後、ネフィア全体に広がっていた重圧が消え去った。ネフィアの主を倒したことにより、アウラは冒険者として少し箔が付いた。つまり名声を得たのだ。
魔人道化師以外の脅威はなかったが、残りの敵を油断せず処理し物品回収を行った。
――――――――――――――――
「散々な目に遭ったけど…得る物はあったわね」
自宅まで戻ってきたアウラは、ネフィアで得た物を整理を始めた。もちろん荷物は全て首無しが持ってきている。
戦利品はかなり多かった。依頼ほどではないが金貨も得られた。魔杖は七つ、魔導書は五つなどに加え、原型を留めている一部の魔物の死体などだ。
杖、死体は祭壇が届いた際にイツパロトル神に捧げる品物として集めている。死体は腐った場合、捧げた場合の恩恵が少なくなるようなので、できるだけ早く祭壇が欲しい所である。
魔導書に関しては今はまだ触る気はない。だが、この世界の魔法が習得できるという魅力はある。魔力を吸い取られこともありとりあえず後回しである。
…一冊だけ禍々しいとは違う、異様な雰囲気を纏っている本があるのも魔導書に触ることをためらわせた。
そして最後の戦利品。それは、
「首を斬ることに特化した暗器…か」
魔人道化師が扱っていたカード、《★斬り札》である。どういう訳か投擲しても手元に戻ってくるこのカードは、相手の首を狩ることに適性を持つ投擲武器だ。
断頭台の異名に、自害を命じられた時にも首を自分で斬る羽目になったアウラは因縁を感じてならなかった。
《月蝕の檻》暗黒属性のボール魔法。これ以外にも毒や地獄などの本家Elonaにはない属性のボール、ボルト系魔法も存在する。
《ハードゲイ》自爆系モンスターの一体。黒髪サングラスに黒い服と黒ずくめの男。多分元ネタはレイザー〇モンHG。なぜ自爆するのかは元ネタの彼が一発屋だからという考察を見て悲しくなるモンスター。
《くすぐる》一見ネタのような技だが、相手のスタミナ減少、拘束、窒息付与と割と馬鹿にできない効果を持つ。やり続けると相手が発狂することがある。プレイヤーキャラも条件を満たせば習得可能。魔人道化師やハーピーの上位種など様々な敵が使用する
《★斬り札》固定AF。魔人道化師が所持。カード型の暗器だそうだ。首狩りと出血ダメージが発生する投擲武器。不確定名は殺人ジョーカー。
イルヴァにおけるフリーレン世界の魔法について:ストックなしで何度でも使用可能。Elona的に言えば魔法よりも技能に近い。因みに独自開発した炎のいかずちを放つ魔法はこちらの扱い。ストックなしで使えて開発しやすいならこっちしか使わないじゃん、となるが魔法狂いの変態には通常とは違う魔法だと普通に見破られるし、四次元ポケットなどの原理が不明のものは現状再現不能なので万能というわけではない。
アゼリューゼに関しては、支配対象が死亡(肉体が崩壊した)時にアウラが魂を手放すかどうかを選択する。手放すを選べばペット枠離脱で死亡、手放さないを選べば、再びアウラのペットとして這い上がる。