キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
そして一世代全体を同じ鋳型に流し込めるようにしなければならない。」
──ナポレオン一世、ルイ=マチュー・モレ伯爵への発言。フランソワ・メイユール『フランス教育史』第3巻──
勝利の為に用意するべきものを確保し、門主にお出で願ってそれを整えた。
あとは勝利の為の下ごしらえだ、ルミ会長にお願いして、商店主らをある程度もてなして会見の場を夕食に用意したが、声をかけた商店主らはだいたい35名くらい、一応全員来たが……。
戦意と言う奴にはやはり足りていない、
「勝つって言っても、なぁ」
「ワシらで出来るのか?」
「傭兵、とか連れてくるって……いうし……」
「わしらと同じくらいか、60人くらいなんだろう? 数で負けてると言うことは人数や火力でも勝てるんかの」
一応用意した連邦捜査部の制服を着替え、大外套は着てないが白地に青線が入り、袖章がついた制服は目を引いた。
商店主たちからすれば、目にした事のない制服ではあったが、キヴォトスにおいてこうしたデザインの制服を使用する組織はそう多くない。
連邦生徒会か、トリニティの茶会か、レッドウィンターの事務局親衛隊くらいと言える。
着用しているのが先生及び高級士官向けであるから、肩に金糸刺繍がされているので、より立ち位置のことは分かり易いものである。
因みにこの高級士官向けはある程度オーダーメイドである、連邦生徒会会長とかの高級役員や会長クラスは大半もオーダーメイドだ。
「誰だ」
「分からん、偉い人っぽいが」
「ワシらの通報を聞いてくれた、にしちゃ変じゃが」
「こっちの傭兵にしても変だけど」
「制服に金をかけれる辺り期待は出来るのかのお……?」
商店主らが此方を見る。
軽く咳払いし、ミヤコへ頷いて、扉を開けさせる。
「山海経は玄龍門の門主様、及び玄武商会の会長が入られます。ご起立願います」
ミナの言葉に一同はギョッとした。
当然だった、こうした地方も地方では、中央政府権威より地方政府の権威のが大きい。
コレで連邦生徒会がちゃんと中央集権ならともかく、キヴォトス全体を中央集権する力を有していない。
「ん、ご苦労。先生。頼む」
「御着席下さい」
ミナの言葉と、キサキの言葉に商店主らは互いに見合う。
先生、と言う単語に気付いたのは多くは無いが、皆無ではなかった。
「自分は連邦捜査部より、山海経の玄龍門及び玄武商会の要請に基づき、当地に於ける介入支援としてやって来ました」
連邦と言う単語を聞いて漸く商店主等は納得して、顔色が別の方向に変わった。
何故なら、自分たちの案件や事件の状況が「どうしてまた、こんなことに?」と言う当惑と言う顔をしていた。
「まず、ご理解いただきたいのは、この状況下を、この現場にいる人間のみで解決すると言うことです」
「連邦や、山海経の増援なりが来るわけではなく、ですか?」
怯えた様子の商店主が手を挙げて尋ねた。
「えぇ、本日我々がここにいるのは、全く別の事情でありますから。
従い、どう考えても我々の増援は明日までに間に合いませんな」
「えっ、じゃああんな人数をどうするんです?」
「決まっています。撃滅します。殲滅します」
はっきりとそう言うと、唸る様な商店主の声が幾つか聞こえた。
連邦捜査部というものについて詳しい理解は、言っては何だが組織の役割に比して昨日今日であるから広がってない。
SRTの認知度なんてコレ以下で名前すら覚えられていなかった辺り、認知度はマシということと、明るく受け止めるか。
だが商店主等の唸り声は不安もだが向こう見ずな好戦主義が嫌という事でもある、失うもののある大人の意見だ。
「まず第一に、敵に重火器及び装甲戦力や航空戦力は存在し得ません。
理由は本日突如として発起した作戦行動である事、雛鳥組に兵站組織や後方参謀などもおりません。
そうした突発的な軍事行動に耐えうるだけの柔軟性のある様な組織はあまり数は多くありませんが、そんな組織はそもそもアレ等の言う事を聞くと御思いですか?」
「金次第の傭兵じゃそこ等へん違う様な気がするが?」
「あ、良い質問ですね。この際です、他にもご質問ありますか?」
そう尋ねると、幾つか質問が上がった。
「順に答えましょう。
まず、傭兵がそうした行動に出るにあたってある程度の組織の実力が必要です。
そして、何よりもですがね、たいていそう言うPMSCとかは、ああ言う連中の端金ごときで動きませんよ?」
「は、端金?」
「はい。全く経済的軍事的政治的な意味のない、取るに足りない軍事行動に意味など存在しませんから」
ある程度質問に答えると、地図をアロナを使い食堂の壁に投影する。
各自食べながら見て構わないと言ったが、食べながら見ている人は少ない。
ココナ教官はしれっとお代わりしていた、案外豪胆の素養があるのか?
「はっきり言えば、連邦捜査部としては皆さんのご協力を要請いただきたいのです。
残念ながら山海経の増援なりが展開するには学外である事と、介入は自治権の侵害になり得ます。
ほぼ同じ理由で連邦捜査部から緊急展開をする根拠がありません、ですが此処に一つの、下賜された大権があります。
それは私がこの場の全員を徴集する権限であります」
いつの間にか志願と徴集をすり替えたが、気づいているのは……シュンとルミとキサキくらいか。
シュンとルミは「相変わらずだあ」と言う顔を、キサキは「志願と徴集をすり替えるのはよいんかの」と呆れている。
「では、作戦を説明いたします」
そう告げた時、商店主の顔つきは怯えというより、希望を感じ始めていた。
コレから来る事に対して準備をするにあたり、現地を先に確認しておく。
下拵えが肝心なのは料理と同じである、前にコレを言ったら「かやくご飯しかメニューにないじゃん」とルミ会長に拗ねた様に言われた。
ココナ教官が先んじてぐっすりしているのと、ミユとユウカとキサキは休ませておかせている、ルミ会長はホテルで明日食べれるようのお弁当を作り置きしているし、ミナは警護を兼ねて手伝い中だ。
その為、ミヤコとシュンが付き添いである。
「教育かあ……俺なあ、あんまり恩師って人に出会えてなかったからなあ」
「そうなのですか?」
シュンは本気で驚いた様な顔をして、此方を見た。
配線を確認するミヤコも、やや衝撃を受けた様な顔をして此方を見ている。
「俺の士官学校進学を拒否させようと手を回す奴はいたし、姿勢が悪いとど突く奴も居た、挙げ句牧師はクソだったし……良い教師も居たがな」
「どういう方でしたか?」
「滅茶苦茶インテリの数学教師、俺の進学に関して試験官でもあった、対向面接でもあったんだよ」*1
それを聞くと、シュン教官は納得した様な顔をし此方を見た。
「先生が生徒にちょっと甘い中で、時々、ココナに対して妙な配慮をしている様に見えたのはそれですか」
「正直なところ、ココナ教官並みに真っ当な奴が居たら俺は船乗りになるか地元の歴史家になってたかも知れねえ」
シュン教官の誇らしげな笑みがして、ニコニコとして言った。
「そうですねえ、私も、時々あの子が本当に精一杯頑張っている姿を見てると、とても誇らしく思います」
「だろうな、ココナも鼻が高いかもな」
「あら、そう思ってくれているなら、私としては本当に嬉しいですわ」
シュン教官が驚き半分、喜び半分で言った。
「ココナはアレで真面目にしっかり良くやっているよ、11の頃の俺何やってたかな……」
確か姿勢が悪いって言ってぶっ叩いて来た教官に銃を向けた頃だっけ……あー、違うな、ボケナスどもにスコップぶん回して本気で殺そうとした時だったか?
考えてみると大半クソみたいな記憶だ、手紙検閲で塗り潰されたし。
「そういう点では、あの子たちはただやりたいから、ということだけで行動しているのが分かったのは良かったと思います。
先生がご一番心配なされていたことはこれでしょう?」
「最悪を想定しろ、もっと悪い事が起きるから……が仕事でな。
そういう意味では俺の時代と大して変わりはせん、人は結局褒められたいっていう事と同じだな」
「褒められたい……ですか?」
シュン教官はきょとんとした様子で尋ねた。
「そうだ、人の本質だと俺は思う、手に何もないって実感した民衆は、失われるものなど無いと気付いた民衆は死を恐れないんだ。
言わば、褒められる状況と言うのは、状況を改善したから褒められるんだな、つまりアレだ。
軍記物で良くあるだろう? 逸った焦る新人、ああいうのだって結局褒められたいからなのさ」
シュン教官の顔はすぐに理解したのか、「あぁ!」と納得した。
「確かに、訓育に於いて重要なのは”出来て当然”ではなく、”出来て偉い”ですからね」
「そういう事だ、俺はこれを昔、優秀な部下に教えられたんだ。
いやぁ良い奴だったな……」
ドゼーの奴、飄々とした男の癖に人間の本質を言い当てていた、俺が言語化というより漠然としていた観念を纏めるとそれだったのだ。
産まれてこの方、親に褒められたことも無い様な連中が歩兵を多く占めていたあの時代、バイエルンなんかよりはずっと優秀ではあったが大陸軍やフランス軍は、あの欧州時代全部そうだが人の質が足りてなかった。
バイエルンなんかよりずっとマシと評したのは簡単だ、バイエルンは軍や兵を賎業扱いした、犯罪者やホームレスの収容所にしたのだ。
結果としてバイエルンはクソ雑魚と評していいものになり下がった、劣化しきった旧体制プロシアですら、イエナ・アウエルシュタット両会戦で脱出できた部隊は居るのだが、バイエルンは裏切って退路遮断したのに鎧袖一触に出来た。
「結局なぁ、仕事に誇りが持てないと誰もやる気なくなるんだよな」
「誇り、と言うのは先生としては、どう言う風に実感してますか?」
「やはり達成感だな、段階を踏んでふと振り返った時、偉く遠くまで来たなと思う時……そういう時かなぁ。
褒めるときと言えばアレだな、息子が面白い返しをしたから、この子が機転が利くから将来は社交界で人気になるって言ったよ」*2
「先生のお子さんですか……良い子でしょうねぇ」
「とんでもない、野原を走るし元気いっぱいだ、俺の身がもたんね」
笑ってそう言うと、シュン教官は納得したような顔をした。
時折、この先生から感じていたものがあった、自身と似たような、それでいて違う物。
それがはっきりわかった、父性である、正確に言えば、親、というものである。
「何時か見て見たいものですねぇ」
「3人居るからなぁ……」
「え?」
「聞かなかったことにしてくれ!」
つい口を滑らせてしまった、いかんいかん。
若干慌てた顔をする先生へ、シュン教官は楽し気に笑った。
「面白い休暇です、意外なものも観れました」
「揶揄うなよ……」
微笑んでそう言う先生は、困った顔をしていた。
迷子が出た時ように確保しておいたスキャンイーグルを打ち上げ、朝からアロナで警戒に入る。
打ち上げておいたスキャンイーグルは2機、予備機は1機が待機している。
朝食時の食堂だが、大半は緊張して食えないなどという様子ではなく、ちゃんと食べている。
ミユやミヤコは鶏肉を多めに入った食事を景気よく食べ、最後に卵をかけた飯を掻きこんで、あさり汁を飲み干していった。
「若いねぇ」
「肉体仕事だとこういうもんだよ?」
ルミ会長が景気よく食べる姿に感心顔で言った、山海経では客人に「もうお腹いっぱい」と言わせてこそ礼を尽くすという風習がある。
そういう点ではよく食べる子は単純に尽くし甲斐があるのだ。
「しかしいつも思いますが、みんなしてあんなに食べて良く動けますね」
ユウカがオレンジ百パーセントの飲み物を飲みながら言った。
ユウカの食事はサラダを中心として、パンに軽いスープを基調としたものである。
ミレニアム生徒としては真っ当な朝食のトップクラスだろう、これよりまともなのは多分朝から肉を食べるスミレ部長や、コンチネンタル風の朝食食ってるチヒロくらいじゃなかろうか。
リオからして「朝食? ペーストじゃ駄目なの?」する女だ、なんならヴェリタスどもの大半は食ってねぇ! ゲ開のバカみたいにリンゴ齧ってる方が健康的だ。
「まぁ本格的な会敵は10時辺りだろうからな、それまでに腹は落ち着くよ」
「理由を聞いても?」
朝風呂に入ってさっぱりした様子のココナとシュンが尋ねた。
二人のトレーにはコーンスープとパンと、フルーツにサラダとシンプルな洋式の朝食が並んでいる。
「簡単だ、ココナ、梅花園などにおける休日の子供の起きる速さは?」
「だいたい早いものですね、朝から遊んでますから」
「そ、反比例して年齢が進むと起きるのが遅くなる」
「……でも先生は早いのでは?」
「俺の心はいつも9歳児だよ」
呆れたココナが「私より幼いじゃないですか」と呟いて、パンにバターを塗った。
俺の朝食はベーコンとサラダにスープ……確か、味噌汁なる奴と、ミニクロワッサンだ。
「いつも思うが、よくそれで身体が動く」
「の、わらわも同感じゃ」
ミナとキサキが同じくやって来た。
キサキはシンプルな焼き魚を基調としたあっさりとした食事を、ミナはガッツリと肉を載せている、仕事の差と身体の差である。
「あんまり食いすぎると胃が受け付けんし太るからなぁ」*3
「仕事量考えると太るとも思えないが……」
「前職時代太ったよ? 忙しかったせいもあるだろうがな」
そう言うとミナは驚いた顔をしたが、すぐに納得にちかい顔になった。
ミナは「じゃあストレスか」と納得したのである、貴人に仕える人々特有の推察であった。
商店街の大きめの店に臨時で前方指揮所を開設した、徴発であるから、あとで借用分は払う。
商店主たちは緊張や不安を抱いてはいたが、ここ三時間の努力を思い出すと、確かに何かしているという実感も沸いていた。
作ったのは大したものではないが、自作したバリケードである、木を切って木版に加工して、組み合わせたものだ。
民兵は浮つかせるよりアレコレ仕事をさせるべきなのである、考える時間を与えてはいけない。
逆に言えば実戦をある程度経験したミヤコはと言うと、いつでも即応できるようにしながら休んでいる。
ミナはまた別だ、護衛であるから、片時も傍に居る。
「しかし地方部もまたゴツイもんがあるねぇ」
商店主らの銃火器を見て、思わず呟いた。
11年式軽機関銃はともかくとして、SKSやPPSH-43がちゃんと弾薬込みで商店街組合と言う事で備蓄されていた。
こうした短機関銃のたぐいがしっかりあるのは、紛争というものがそれなりに起こりうる地域だった名残であろう、その地域に軍事的価値があるかないかは実は時価である。
「錆び弾じゃないのがこんだけか、まぁ真っ当な戦になるだろう」
商店街の組合長は、弾薬箱を横目に言った。
些か、軽い物の見方であると言える、三時間も戦闘をすれば射耗し尽くすだろう。
基より長期戦なぞする気は無いが。
すると、先生の眼とミヤコがハッとしたように起き上がった。
バンっ! という迫撃砲特有のあの音が聞こえた。
「来るな」
風切り音がした直後、紛れもなく81㎜迫撃砲の弾着音が聞こえた。
ミユが『火点特定』と報せ、無線に「後方を厄せ」と指示した。
ハンドサインを見てミヤコは脱兎のごとく走っている、もっとも「打って出る」為に走っているのだが。
組合長へ「来ますよ、所定の通りに」と伝えると、慌てた様子の組合長も走り始めた。
雛鳥組の面々は、ただならない気配を感じていた。
街路のバリケード、静まった街、何かが変だ。
だが、子供とは恐れを知らない生き物である、無知ともいう。
そんな無思慮で放胆な行軍は、容易くキルゾーンへ誘因された。
「展張」
突如、商店街の両脇からボンっ! と勢いよく風船が膨らむ。
当然だが曖昧な交戦規定と曖昧な作戦構想による命令下の部隊は、容易く周囲へ射撃を始めてしまう。
その結果どうなるかというと、着色インクが川からポンプで混ぜ込まれて注入された水は、容易く周りへ飛び散るのである。
結果として余計な混乱が満ち溢れ、続いて冷凍保存用のドライアイスが一斉に解放される。
そこに、ある叫び声が響いた。
「毒ガスだ!」
無論、嘘である。
この声もこっそり隠れているミユの大声である。
ミユは叫べないのではなく自己を主張できないだけであるから、声を張り上げたりは出来る、特に、こうした事ならSRT時代に散々叫んだ。
一番気を付けたのは「
だが、混乱状況下では203㎜砲弾の直撃より効果がある。
後方の連中が逃亡を始めたのである。
「かかったぞ、やれ」
昨日のうちにミヤコとシュンで設置したクレイモア、そして風船が第二次攻撃を掛ける。
有線接続で起爆するクレイモア地雷の散弾と、新たな風船による着色剤トラップだ、後退は逃亡から壊乱となり潰走へ姿を変えた。
開幕からクレイモアは教官らに反対されたが、士気を折るトドメとしては許された。
「逆襲発起! 前へ!」
他者の隙と揚げ足取りに関しては政治家や官僚よりよほど悪辣なのが良い軍人であると確信する先生は、完璧なタイミングで逆襲を宣言した。
商店主らは新兵特有のおっかなびっくりが反転した速さで前進し、射撃を始めた。
短機関銃特有の高レートと、11年式やSKSの落ち着いた射撃が敵対勢力を壊滅へと追い込んでいる。
戦闘はものの五分もせず、前衛集団は壊滅した。
逆襲発起と突撃を受け止めれる組織力が無いからであった、銃剣突撃や白兵上等の相手に着剣して応援できる組織力がある勢力はそう多くない。
「あーあ、壊滅だよ」
「勝った勝った」と驚いている商店主らに「武器回収してくださいね」と告げた。
はっとした商店主らはそうだったと箱を載せたカートに、武器を捨てて潰走していった連中の武器を回収していく。
何人かスケ番らが気絶していたり、両手を上げていたので、ルミ会長に「すみません、氏名聞き取り頼みます」と告げた。
「はーい」
両脇に気絶したスケ番を抱えて、ルミ会長が投降したスケ番らを連れて歩いていく。
反抗や抵抗する様子はない、戦意が無いからだ。
「あんた達、い、いったいなにものなのよ!」
スイコとかいう園児が、ミナに武装解除されながら叫んだ。
ナゴミは過呼吸になっているしヨウコは慌てている。
「が、ガスっていったい」
「ガス? ああただのドライアイスのガスだ、空気がひんやりするけど喉が渇くぞ、お茶飲んで深呼吸しろ」
ヨウコが唖然とした様子で言った。
「嘘だったの?」
「今日の温度からしてこうした状況で使うならVXガスだな、あれは空中散布型のが良いと聞いた、暑い日に使うと数分で殺傷効果が消えるんだよ。
これがまた面白くてな、ガスマスクのフィルタ―が急速に消耗するからCBRN兵器対策しても大変なんだわ」
園児たちは恐怖した顔で言った、具体的にはそう言う奴と明朗に話せる大人は絶対に普通じゃない事くらいは理解できた。
何らかの状況の打開が必要、と考えたらしいスイコは必死になって言った。
「こ、後続部隊だって、あるんだから!」
「あぁ、知ってる。これだろ?」
タブレット端末には、上空飛行中のスキャンイーグルのカメラがリンクしてある。
「FOから重迫。信管着発、榴弾、6発。距離1200。撃て!」
無線で合図し、ユウカの計算通り測量された目標へ手製装甲列車の重迫撃砲が火を噴いた。
迫撃砲とはいえ120㎜弾だ、それが初弾から降ってくるのである。
弾の標定自体はちゃんとやりはした、だが各種要因……装薬に風の流れが相まって、3発ほどズレたが、残る3発はもろに隊伍を直撃した。
隊伍は瞬く間に、個人の群れに変貌する。
指揮統率を取れそうな冷静な奴はしっかりミユが撃ち抜いたから、当然である。
「指揮統制の限界点を超えて管理できない兵力を投入するからこうなる。
雑軍の当然の末路だよ」
最後の希望は喪われた。
「人というのはね、人としての行動をして人なんだよ! 自分本位で自分勝手なんて獣と同じなんだよ!」
ココナはハッキリとした意思の鋭い声で園児たちに言った。
先生にとっては些か驚愕ではあった、やはり育ちが良く芯の強い女なのだと認識した、間違いなくレティツァならば可愛がると確信した。
あの母親は、春原姉妹のような子を褒め倒すのは間違いなかっただろうほど、自他ともに厳しいルールを持っていたからだ、そうでなければ抵抗運動などやりはしない。
スタール夫人も間違いなく可愛がるだろう、あれは頭のいい女だが努力する年下には猶更甘い。
「梅花園でもお尻を叩いてでも止めてるんだから」
「貴女だって子供じゃない!」
「子供である前に、私は梅花園の教官で、訓育支援部の人間よ!」
思わずシュン教官へ「良くできた子だよ」と視線を送った。
これの10分の1でも倫理観をモモイどもへインストール出来ないだろうか、世は無常である、バニタス。
「良い? 若さは猶予でも無ければ免罪符でも無いんだよ。
それに、大人は分かってくれないっていうけど、その”歩み寄る事も近づく事もしない”で分かってもらおうと言う発想が、子供の言う事じゃ無かったら何だと言うの?
叱られている事が悪い事じゃなくて、叱られても止めない事が悪い事なんだよ」
理路整然とした正論であった。
俺の出る幕はないなと言う確信を持ちつつ、状況調査とミユやミヤコに壊乱した後続集団を回収して武装解除させるよう指令を出す。
そうすると、ヤケクソか分からないが、俺を人質に取ったつもりらしいスイコが叫んだ。
「止めとけ止めとけ、俺を人質にしても撃ちたがる奴らが居るんだから……」
「だ、だまって!」
「だいたい君らのそれ、安全距離で撃てんだろ。
ヨウコだったか、おまえのそれしか直射できんし、それも信管が作動せんよ」
「え?」
ヨウコが驚いた様子で言った。
「あれ、知らんのか、擲弾ってあれ擲弾銃から撃ち出された際に飛んでいきながら安全装置が外れんだよ。
だから危害距離に入るまで撃っても炸裂しないんだ、それにおまえのそれ……15㎜か20㎜か?
それだと40㎜の時みたいにバックショット詰めるわけにいかんしなぁ」
「ざ、雑魚大人が、ランチャーだってあるんですのよ」
ナゴミが過呼吸から漸く回復したらしく言った。
「あのなぁ、MANPADSはシーカーが常時開いてるわけじゃないんだ。
お前のそれ確かレッドウィンター製だな、シーカー展開持続は5分以内じゃなかったか?」
「え」
「知らんのか? シーカー展開時間は過ぎると閉じるしかないし、バッテリー交換しないといけねぇんだ、俺のところにスティンガー構えてる奴がいるんだけど」*4
ナゴミは慌てた様子でバッテリーを確認し始め、ヨウコは慌てて弾倉を確認している。
それと同時に、コートの下から拳銃を出して叫んだ。
「プレイボール!」
撃ち出された拳銃は、スイコのベルトに吊るしてあった白煙弾に点火される。
シューと音を立てながら真っ白な煙が展開され、園児たちが走り回り叫びまわる。
「ぎゃー!」
「わはは! 白煙って撃って点火すんだな!」
「なんなのこの大人ー!」
「そらお前今の俺は心が9歳児だぞ!」
「ねーもうわけわかんない!」
呆れたシュン教官が、ベルトを撃ち抜いて白煙弾を落とした。
その後、説教を兼ねてシュン教官が園児の尻を叩いて回っていた。
派手に着色剤ぶちかましたので、懲罰兼ねて園児たちに清掃を手伝わせた。
現状、ここに連邦捜査部や山海経は居ない事になっているから、梅花園が表に立ってケリをつけた事になる。
ともかく、我々は任務を達成した、確かにそう言える。
問題は、そうした事ではなかった。
花火を見ながら河原で肉を焼いた事でも無かったし、ご褒美兼ねてココナと川釣りした事でも無かった、帰ってからである。
「あっちゃあ……」
ルミ会長は顔を覆い、キサキは「駄目っぽいの」と呟いた。
フラフラになったカナエが「やったんです、せいいっぱい」と言い、サキはモエと共にジープを走らせて「先生か!? いまちょっと手が離せないから後だ! 目を放したら梅花園の園児たちが脱走した!」と走り去っていった。
通りじゃ玄武商会と玄龍門が
「なんか争ってるねー」
「紛争と重力はよく似てるんだよ、そっと押せば歯止めが利かなくて真っ逆さま。
第三者が座りしまま貪るんだよ、マスコミと企業と言う名前の第三者が」
「あーなにいってるかわかんねーよ」
「めっちゃばにたす」
梅花園の園児共が取り敢えず居るから、ココナとシュンに「まずあいつらから連れ帰らんとな」と告げた。
ユウカに「お前が園児の中間、ココナは先頭でシュンは最後衛で落伍が出ない様に見張ってくれ」と告げた、ああ畜生、子供が素晴らしいものであることは否定しないが、目を離すとコレだものな。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。