「トレーナーさん」
「はい」
海外遠征支援委員会の教室で、トレーナーは正座を強いられている。
彼に対するは、ソファに座り、いつもよりも少し……いやだいぶ険しい顔のドリームジャーニーがいる。
「これ、なんですか?」
ジャーニーは片手でとある紙媒体を掴む。声色は非常に穏やかであるが、彼女の周囲の空気が穏やかではない。
「旅行雑誌です」
「そうですね」
表紙に大きく雑誌名が書かれており、その周囲にはエアーズロックや、サンゴ礁の映えるグレートバリアリーフの写真などが所狭しとならんでいる。
「行き先はどちらで?」
「……オーストラリア」
表紙から自明である。
「なぜ、そこへ行こうと思われたのですか?」
「えっと……海外のウマ娘のレースを見ようかなって」
時期は夏休みに入ってすぐが彼の予定だった。そうすれば問題なく合宿にもすべて参加できるので、担当にバレることは無いだろうと、そうトレーナーは予想していたのだ。
「なるほど……私に一度でも相談は?」
「してません」
「ですよね、なぜかお聞きしても?」
「……後から言っても問題ないかなって」
なぜ詰められているのかはトレーナーは分かってはいないが、とりあえず反省する。
「そうですか、分かりました。トレーナーさんの考えは尊重します。……ですが」
ジャーニーはソファから立ち上がり、トレーナーの前にしゃがみ込む。
「担当に今まで黙っていたのは、少し違うとは思いませんか?」
「はい、反省しています」
ここまで真摯に謝罪の言葉を述べたのは、トレーナーがかつて彼の姉の冷蔵庫のプリンを勝手に食べた以来だった。
そういえばキレ方が姉と似ているな、とトレーナーは一瞬だけ別のことが頭をよぎった。
「では、ケジメをつけましょう」
ニコッと笑いながら言うジャーニー。目は笑っていない。
彼はオルフェーヴルがこっそり「姉上を絶対に怒らせてはいけない」みたいなことを言われたのが、なぜオルフェーヴルがそう言ってたのかはっきりと身にしみて理解した。
「そうですね……」
考え込むように腕を組みながら、トレーナーの周囲を歩き回る。2分ほどして、彼女から結論が出たようだった。
「なら私といきましょう、旅行」
「……え?」
「時期も、夏合宿の手前ですし、私もオーストラリアのレースには興味があります」
「いや……でもそれはさすがに」
トレーナーと担当ウマ娘が海外旅行なんて、バレたらたずなさんに首を飛ばされるぞ
「トレーナーさんは今、文句を言える立場でしたっけ?」
ニコッとしてトレーナーの顔をみる。
「はい、すいません」
すぐに引っ込むトレーナー。彼にプライドなどはなかった。
「よし、そうとなれば、すぐに計画を立てましょう。より良い旅にするには、計画と準備が大事ですから」
不意に、彼女のポケットから一枚の紙切れが落ちる。トレーナーは彼女が視線を外したときにこっそり取って開いてみる
【トレーナー 旅行にいかせる】
「しかし、楽しみです。トレーナーさんとの旅行」
「何が起こるのやら」
紙切れを見ていた背後から声が聞こえた。