Blue Archive 〜藍の外典〜 作:roimi_mark2
身を慎しみ、目をさましていなさい。あなたがたの敵である悪魔が、ほえたけるししのように、食いつくすべきものを求めて歩き回っている。
ー ペテロの第一の手紙 5章 8節より ー
「………さて、諸君。よく集まってくれたな」
灯りの無い暗い部屋。その中央に設置されたテーブルの上で手を組み。その少女は鋭い視線を左右に送る。彼女の右隣には怪訝そうな表情の少女が、左には暗闇でも眩しい笑顔を放つ長髪の少女が居た。
そして手を組む彼女の背後には、これまた不敵な笑みを浮かべる天使の少女と、タブレットを抱えながら「あはは……」と苦笑いを浮かべる大人の女性が居る。
「……さて、それではこれより作戦を説明する」
「……ねぇ、何でお姉ちゃんが仕切ってるの?」
「いいじゃん!!こういうのは雰囲気が大事なんだよ!?」
厳かな空気を裂くミドリの指摘に、モモイが騒ぎたてて先程までの雰囲気が完全に壊れる。これにはセキも苦笑いを浮かべ、あえて消していた部屋の照明スイッチを押した。
照明が部屋を照らし、全体像が浮かび上がる。ここはいつものゲーム開発部の部室──ではなく、ヴェリタスの部室。そしてメンバーもまた、ゲーム開発部だけではなかった。
「まぁ雰囲気は大事だけど、多分今回は自然とそういう雰囲気になると思うよ」
「ヒビキの言う通りです!何せ今回は、セミナーとC&Cを敵に回しますからね!」
そう言うのはエンジニア部の
そしてその反対側には、ヴェリタスの優秀なハッカーたちが控えている。この場で唯一の3年生にして"音"の専門家、
なんの奇跡か偶然か、ミレニアムの秀才たちが一度に集結した。当然これは奇跡でもなんでもない。先生の……いや、ゲーム開発部の呼び掛けに応じ集まってきた
「それじゃ、まずは私から状況を説明するね!」
秀才たちの顔ぶれを見渡してから、モモイが今一度この会議を取り仕切る。その口から語られたのは、今回このメンバーが集められた理由だった。
「今私たちは廃部の危機にあるんだけど、それを回避するためのキーアイテム『G-Bible』を手に入れた。ただG-Bibleにはセキュリティがかかってて見れなかったから、それを解析してもらう為にヴェリタスに預けてたの」
先日の『廃墟』探索。『あなたはAL-1Sですか?』と尋ねてきた機械から渡されたキーアイテム。それを回収するためにモモイのセーブデータ
ただ想定外の事態が起きた。G-Bibleに強固なセキュリティプロテクトが施されていて、モモイたちには中を見ることができなかったのだ。なので電子と情報の専門家たるヴェリタスに預けていたのだが……。
「でも
モモイを引き継ぐ形で、マキがその先を説明する。話を聞くに、ヴェリタスにはプロテクトを除去した上でコピーする「Optimus Mirror System」────通称"鏡"というツールがあり、それがあればプロテクトを抜けるらしい。
「ただ今は
最後にコタマがそう締めると、部屋の空気が一気に張り詰める。ゲーム開発部も、ヴェリタスも、エンジニア部も。その表情は控えめに言って明るいものではない。
唯一の例外があるとすればセキとアイだ。ミレニアム出身ではない2人は、何故みんながそんな沈んだような表情を浮かべるのかがわからなかった。ただセキには、少しだけその理由に心当たりがあるらしい。
「ところで、その『C&C』って人たちはどんな人なの?」
セキは気づいていた。『C&C』という言葉が出る度に、みんなの表情が引き攣るのを。
そうぼんやりと考えている中、セキの疑問に答えるべく、コトリが胸を張って解説してくれた。
「説明しましょう!C&Cは表向きはメイド部とされていますが、その実態はミレニアム最強の
「つまり、その最強のリーダー率いる最強の集団と戦わなきゃいけないの?」
「はい!ゲーム風に言えば、理不尽な死にゲーに挑まされているような状況です!」
“ しかも
セキの一言で、アイも状況を理解した。確かに、それは表情も引き攣る。最強の武力集団が守る場所を、ほぼノーミスで突破しなくちゃけない。
なるほど、これは死にゲーじゃなくて無理ゲーだね。そう思っていたアイだったが、それに補足するようにヒビキが口を開く。
「実はちょっと違う。話に聞いたところによると、ネル先輩とアスナ先輩は今、任務でミレニアムを離れてるみたい。だから多分、"最強格"は出てこない」
「その場合想定される相手は、ブレインのアカネ先輩とスナイパーのカリンちゃんの2人。多分アカネ先輩は十八番の爆弾は使えないからサポートに回ると思う。だから脅威なのはカリンちゃんかなぁ」
ミレニアム最強の不在。最高戦力が出てこないのであれば僥倖だが、マキの反応を見るにC&Cはネル以外も厄介な人物が多いらしい。
「アカネはオールラウンダーで隙がない。カリンは1年生だけど、冷静沈着で必中必殺の凄腕スナイパー。どっちも崩し難い相手だね」
「それにアスナ先輩も。別任務で居ないって言うけど、先輩の行動は予測不能だし……。普通にひょっこり出てきてもおかしくないと思うな〜」
「カリンちゃんも抑えておきたいし……。それにアカネ先輩がサポートに回るとも限った話じゃないし……」
うんうんと頭を悩ませるミレニアム生たち。普段自分たちが頼りにしている分、敵に回した時に強固な壁となっている。
さて、これをどうやって突破するか……。皆が頭を抱える中、その答えを提示したのは、先程から神妙な面持ちをしていたセキだった
「……なら、カリンちゃんの方は私が対応してもいいかな?」
「ほんと!?もしかして!何か秘策があるの!?」
「ひえっ?いや!全然ないよ?ただスナイパーの相手は、昔っからやってきたからね。襲撃までに3日……いや、2日くらい時間を貰えれば、みんなには手出しさせないよ」
「おぉ……頼もしい!!さすがシャーレの騎士様!!」
頼りにされたのが嬉しかったのか、セキは自信満々に胸を張る。それは『廃墟』でも度々見せていた"シャーレの騎士様"らしいセキの姿だ。その背中の頼もしさを、ゲーム開発部はよく知っている。
それに心強い戦力が居れば、この作戦は円滑に進む。それは戦える人というのもそうだが、セキの持つあらゆる要素を使えば、敵の目を引きつける効果はかなり高まるだろう。
「それじゃ、大まかに作戦を説明するよ!」
懸念点もあらかた解消されたことで、会議はついに大詰めへと突入していく。
「まず第一段階!アリスにエンジニア部特製のこのハッキング装置を持たせて、そのままあえて捕まってもらう。これでセミナーやC&Cは少し油断してくれるんじゃないかな?」
「次に第二段階。アリスちゃんに持たせた端末を経由して、私とコタマ先輩がセミナーの基幹サーバーにアクセス。そのまま電力を全て落とす」
「それと並行してマキちゃんとコトリちゃんでアカネ先輩を陽動。エンジニア部の"仕込み"を使って、アカネ先輩を分断。その間に私とお姉ちゃんユズちゃんで、保管所の防衛を突破します」
「じゃあ私はカリンちゃんが動いたら、ソッコーで抑えに行くね。片付いた後はどっちかピンチな方を助けに行くよ!」
「そして第三段階!電力が落ちたら扉のロックが一時的に外れるはずだから、アリスは急いで脱出!そこから復旧までの間に急いで"鏡"を回収して逃げる!!まさに完璧〜!!」
いつの間にか戻ってきていた厳かな雰囲気の中、着々とセミナー襲撃計画が完成へと近づいていく。一応相手は学園のトップである生徒会組織と、最強の武闘派集団だと言うのに、この場にいる全員は特に臆した様子はない。
きっと、彼女たちはもう決めているのだ。もうこれしか方法が無いのだから。その先がきつい茨の道だろうと、仲間のために進み続けるのだと。
大好きな居場所を守るためなら、どんな無理難題だって怖くない。そんな気持ちが、彼女たちの中で満ちていた。
──────そして、迎えた襲撃当日。
今のところ、作戦は順調に進行していた。アリスが捕まり、マキとコトリが仕込んでいたエンジニア部製ドアロックを使ってアカネを分断。そしてアイが率いるゲーム開発部は、差押品保管所の目と鼻の先まで来ていた。
ただ、問題がなかった訳じゃない。ゲーム開発部の前には懸念していたC&Cのアスナが現れ、しかもセミナーからユウカがやってくる始末。さらに追い打ちをかけるように、遠距離から砲撃にも似た一撃が飛んできていた。
ズドォォォォン……。
夜も更けたミレニアムの空に、砲声のような重い音が響き渡る。その音はミレニアムタワーの最上階で待機していたセキの耳にも入った。
『“セキちゃん。出番だよ”』
砲声からしばらくして、耳元に装着したインカムからアイの声が聞こえてくる。その声を聞いたセキは立ち上がってから屋上の端まで歩き、眼下の夜景に視線を落とした。
「場所はもうわかってるんですか?」
『“うん。方位026、1番手前のビルの屋上”』
アイからの情報を元に、言われたあたりを見渡してみる。だがしかし夜なのも相まって、流石に人影の判別まではできない。
どうしようかと首を傾げるセキだったが、直後セキの耳に2度目の砲声が轟いた。それと同時に、セキの視界に小さな光が瞬く。それは間違いなく、例のスナイパーの
「……あ!見つけました!」
『 “ 見つけた!?ならお任せするね!!”』
「はい!任せてください!!」
そう言うと共に、セキはビルから飛び降りて空中へと身を投げ出す。
今の彼女は連邦生徒会の制服ではなく、ヘルメット団だった頃の姿をしていた。この姿になった理由は色々とあるが、何より1番の理由は、この方が昔を思い出すからだ。
「………飛葉ちゃん。元気にしてるかなぁ」
翼を広げて滑空に移行する最中、セキはある少女の名前を口にする。自分が最初に助けた人であり、自分の1番最初の弟子であり、これから戦う相手に重ねる人。その顔を思い浮かべていれば、あっという間に目的地へと到着した。
「っ!!誰だ!?」
着地と同時に、鋭い声が飛んでくる。そちらを見ると事前情報の通り、巨大なライフルを構えるメイド服の少女が居た。
(……おぉ。なんかオーラが全然違う。全く隙がないや)
場違いなメイド服を着ているのに、何故か佇まいは間違いなくエージェントのそれだ。かつての弟子以上……もしかしたら自分以上の相手を前に、セキは面白そうに笑みを浮かべる。
「すごいね。気づかれないように結構頑張ったのに」
「お前、何者だ……?ヘルメット団か?」
突然現れた闖入者に、メイド服の少女──角楯カリンは目を細める。作戦中のこのタイミングで、突然知らない奴が現れたのだ。警戒するのは当然のことだ。
セキの動きを絶えず警戒しつつ、手に染み込んだ動きでライフルをリロード。彼女が向き直った頃には、既に万全の状態が整っていた。
「そうだよ。私はただのヘルメット団。君を止めたらお金が貰えるって言われたからね」
対するセキもブラフを交えながら、太腿のホルスターに収まっている『
「……こちらコールサイン02。今から戦闘に入る」
「あっは!それじゃ、お片付けの時間だね!!」
互いに戦闘態勢に入る2人。その開始を告げるように、『ホークアイ』の砲声が夜空に轟いた。
ズドォォン!!
一瞬で頭へと狙いをつけたカリンのクイックショット。放たれた13.9mm弾は一瞬でセキの目と鼻の先まで迫ると、生々しい音と共にセキの身体を弾きとばした。
受身を取ることもできず、セキの身体が屋上の床へと叩きつけられる。対戦車ライフルの直撃だ。ヘルメットで受けたとしても、しばらく立ち上がれないはず。
そう考えていたカリンの前で、セキはゆっくりと体を起こした。
「……ダメだね。飛葉ちゃんの方が強いと思ってたのに。上には上がいるんだねぇ……」
「は?何で……」
何か訳の分からないこと言いながら、セキは小さくため息をつく。ありえない。対戦車ライフルの直撃だ。まるで何事もないみたいに起き上がれるわけがない。
しかも改めて彼女の様子を見ると、ヘルメットにも額にも、傷一つついてないようだった。外したかと焦るカリンだったが、直後、その考えが間違いだと気づいた。
「………………痛った。何これ。飛葉ちゃんのやつよりキツイじゃん」
そう言いながらセキは自分の左腕を見ている。その腕は中程から遠目に見てもわかるほど赤黒く変色していて、そこから先──手のひらや指にはあまり力が入ってないようだった。
(直撃はしてる。でもそれ以上にタフだ)
その様子を見て、カリンはようやく事を理解した。さっきのは被弾する直前、とっさに左腕で顔を庇ったのだ。驚異的な反射神経を目の当たりにして、カリンの額に冷や汗が伝う。
だが、これでカリンが有利になった。直撃したのならおそらく彼女の左腕は折れている。少なくとももう自由には使えないだろう。しかし片腕を喪ってなお、セキの闘志が燃え尽きていない。
「よっと……。それじゃ、続けよっか」
⟬──────────……⟭
「っ!!!」
体をはね起こしたセキのヘイローが、翠緑へと色を変えていく。周囲に唸るように唄う不思議な声が響くと同時に、カリンの背中をゾクリと怖気が駆け抜けた。
明確に、セキの纏う雰囲気が変わる。左腕を喪ってなお、彼女の瞳はカリンの視線を捉えて離さない。まるで獣のようなその視線に、カリンが身動ぎした次の瞬間だった。
タンッ!!
そんな軽い音を発して、セキは一瞬でカリンとの距離を詰めた。まるで対戦車ライフルの弾丸のように、彼女は一直線に向かってくる。
「なっ!?」
2人が衝突する2歩手前。カリンはとっさに『ホークアイ』の持ち方を変えると、そのまま横薙ぎに振り払う。銃撃ではなく銃本体での殴打を狙った一撃に対し、セキは急制動とバックステップで回避する。
その一撃をよほど嫌ったのか、セキは距離を取りつつ右腕のライフルを無造作に乱射する。大して狙いのついてない銃弾の雨。それが逆にカリンに的確な防御を許さない。
(すばしっこい……!このままじゃ狙いが……!!)
試しに狙いをつけて撃ってみるが、視線を読んだセキは逐次射撃位置を変えている。位置がバレているスナイパーほど、狩りやすい獲物は居ないだろう。四方八方から襲いかかる銃弾の雨に、カリンは静かに唇を噛む。
彼女の中に打開策がない訳でない。目の前の敵の意表をつけば、一撃で沈めれる自信がある。だが自分はミレニアムを守るC&Cの一員だ。これ以上、建物に被害を出す訳には──────。
「──ごめんユウカ」
もう、四の五の言ってる暇は無い。そう決めたカリンは、先程のようにセキに銃口を向ける。無論、それを見たセキは回避行動をとるが、カリンはその動きをしっかりと読み、彼女が着地するであろう足場に向けて引き金を引く。
ズドォォン!!
「おっと!!」
砲声と共に放たれた13.9mm弾が、セキの足元のコンクリートを穿つ。対戦車ライフルの直撃で、コンクリートの床が大きく抉られた。それによってセキは体勢を崩してしまい、一瞬ではあるが動きを止める。
一瞬、ほんのコンマ数何秒以下。それだけあれば、カリンには充分だ。崩落で砂埃が舞う中、カリンは人影に向けて狙いをつける。
⟬──────────!!⟭
その瞬間、再び不思議な唄が響き、カリンの頬を冷たい気配が撫でる。背中に感じる怖気が増していく中、カリンは億さず引き金を引いた。
「これで!!」
ズドォォン!!
『ホークアイ』の銃声が轟き、放たれた13.9mm弾が砂煙を貫く。その直後、煙の中から先程と
獲った。崩落がおさまりつつある中、カリンはそう確信する。既に左腕は使えない。その上でさっきの手応えなら、どこかしらに直撃しているはずだ。
……"どこかしら"。腕であれば両腕を奪った。胴体や脚なら機動力を奪った。頭ならヘルメットごと意識を。それら全部が敗北に繋がる致命傷。"どこかしら"に直撃した時点で、カリンの勝利は確定している。
確定している────はずなのに。
「……うそでしょ」
そう呟くカリンの目の前。さっきの射撃で穴が空きいた床の前で、彼女はまだ立っていた。
その頭上には山吹色のヘイローが煌めき、頭も、胴体も、脚も、腕も。直撃しているはずだったどこにも、新しい弾痕は見当たらない。
"何で?"。その疑問で頭が埋め尽くされるカリンの前で、セキは想定外とでも言うように驚いていた。
「建物壊して良かったの?まぁこの威力で壊すなってのが無理なのかもしれないけど」
そう言って彼女は自分の左腕を持ち上げる。さっきの狙撃で使い物にならなくなったはずの腕。それを見たカリンは、二度目の射撃を無傷で切り抜けたトリックを悟った。
セキの持ち上げた腕。その腕は中程からぶらりと垂れ下がっていた。見た目でもわかる通り、確実に骨が折れている。さっきまで芯の通っていたはずの腕が……だ。
「……まさか。壊したのか……左腕を!?」
……正気じゃない。口から出かけたその言葉を、カリンは咄嗟に飲み込んだ。つまりセキは、二度目の射撃で左腕を完全に捨てる判断を下したのだ。
既に機能不全に陥っていたとは言え、痛覚はあるはずだ。それをなんの躊躇もなく、悲鳴ひとつ漏らさず、ただ"使えるから"という理由で切り捨てる。その常軌を逸した行動にカリンは1歩後ずさる。
「じゃあもうちょっと壊すから、後で一緒に怒られようね」
そんなカリンの内心なんて露知らず。セキは再び距離を詰める。しかも今回は足場を崩されるのを警戒してか、空中を飛び回りながらライフルを乱射してきた。
「……っ!!まずッ!!」
再び襲いかかる銃弾の雨。それらの防御で手一杯になり、カリンの動きが止まる。それを見たセキは擲弾発射器に素早く榴弾を詰め、カリンの視線を切るように翼で被ってからぶっぱなした。
「ここ」
冷たいその一言と共に、カリンの足元へと榴弾が撃ち込まれる。突如現れた榴弾、しかも初めて見せる行動パターンだったのもあり、カリンは避けることもままならず爆炎に飲み込まれる。
ドゴォォォォォン!!!!
『ホークアイ』にも勝る轟音と共に、巨大な爆発が発生する。正規品のグレネードの中でも、飛び抜けた火力を誇る1級品。その一撃により、ビルの屋上は今度こそ崩落した。
「足場が──ムグッ!!?」
足場を奪われ、カリンの身体が宙に浮く。その隙を逃さぬよう、急接近してきたセキの手が、彼女の顔をしっかりと捉える。
身動きの取れない空中。崩落するフロア。落下する2人。この後に起きる事を、カリンは何となく察した。爆破のダメージはあまり無いとは言え、この高さから叩きつけられれば、おそらく意識は────
「やっ!!!」
気迫の籠った声と共に、セキはカリンを下層のフロアの床へと叩きつける。セキの剛腕によるパワーと、落下によるエネルギーの籠った一撃。そんなものを受けて、立っていられる者がどれだけいるだろうか。
「うっ…………あが………………」
衝撃と共に、カリンの意識が白く染まる。既に手の内に『ホークアイ』の感覚はなく、意識が白に蝕まれていく。頭を強打したせいだ。そんなことを考える余裕も、もう間もなく喪われるだろう。
瓦礫に横たわる彼女を見下ろすように、 セキがゆっくりと着地する。その背中からは月明かりが指していて、それが彼女の雰囲気を幻想的に演出している。
「ごめんね。ちょっとこれだけ借りるね?」
明滅していたヘイローが消えるのを確認してから、セキは断りだけ入れて彼女の対物ライフルを拝借する。いつもなら背中に背負っている『Unser Wille』の代わり。いざと言う時の突破用の火力を確保してから、セキはこの場を後にする。
ダメージは左腕が折れて使い物にならないのと、崩落の瓦礫で少し体を打たれたくらい。致命傷を避けるためとはいえ、少し無茶をした自覚はある。そう自省するセキの耳元から、ノイズ混じりの声が聞こえてきた。
『ごめん……!セキ……!そっち方は……!終わった……!?』
「お、ハレちゃん?こっちは今終わったとこだけど……」
『だったら……!先生と……!ゲーム開発部の……!援護を……!お願い……!』
ハレからの連絡に答えるセキだったが、言葉尻がどんどん怪訝なものに変わる。何故かハレの様子が変だ。喋る余裕もないのか、言葉の間が長い。それによく聞けば、インカムの向こう側から何かを叩く音が絶えず聞こえてくる。
"何かがあった"。そう察するには十分な状況だ。しかもその予想は当たっているようで、セキが状況を聞くよりも早く、ハレの方から説明がされる。
『第二段階の……!ハッキングが……!できないの……!それどころか……!逆にハッキングされてて……!!』
それを聞いた直後、セキは翼をはためかせてこの場を去った。
▽門守セキ
上には上が居ると知った。
なおこの後、もっとヤバいのに遭遇する。
▽角楯カリン
エージェントなので一応近接もイケる。
敗因は冷静さを欠いたことと、相手が悪かった。
▽ゲーム開発部
現在保管所に向けて進軍中。
アリスは予想外の敵と接敵したようだが……。
▽エンジニア部
現在コトリがマキと共にアカネと接敵中。
ウタハの姿が見えないようだが……。
▽ヴェリタス
現在マキがコトリと共にアカネと接敵中。
ハレがヒビキと共にアリスの援護に動いている。
あとがき
空よ、教えてくれ。
とっちらかった文章を綺麗にまとめる方法を。
あとついでに大決戦ゲブラの攻略法を……。
次回 第10話「想定外の戦力」
「嫌……!!何っ……これ!?怖い……!!」