そんなわけで、ちょっとテイストが違うかもしれませんが読んでいただけると幸いです。ただし、無理はしないように。
※基本的に別世界線です。そして他の小説とのつながりもありませんし、人選に他意はないです。
※また、本小説ははフィクションであり、「ブルーアーカイブ」の二次創作です。実在の人物・団体・事件との関係はありません。
※閲覧は自己責任でお願いします。
梅雨も明け、陽射しが肌を刺すようになったある昼下がり。万魔殿執務室の隅に置かれた無駄に豪華なソファに腰掛けながら、チアキはスマホの録音アプリを確認していた。
校内誌『週刊万魔殿』の夏の特集。それは生徒たちから集めた“怖い話”をまとめた読み物企画だった。定番だけど鉄板。真夏の暑さの中で読む怪談は、じんわりと背筋を冷やしてくれる。だからこそチアキは、集める話の“質”にはこだわりたかった。
「怖い話……みんな持ってるようで、案外持ってないんですねぇ……」
張り切って聞き込みを始めたものの、返ってくるのは定番の都市伝説や、ネットで見たような曖昧な噂話ばかり。どうにも『新鮮さ』と『リアリティ』が足りない。
週刊万魔殿に載せたところで「ああ、その話ね」となりそうな雰囲気が漂っている。わざわざ特集を組んだ割には、『インパクト』が足りないのだ。
「うーん……」
肩を落としながらチアキは廊下に出た。
いつもはうるさいぐらいに賑やかなゲヘナ学園も、夏休みということで静まり返っている。こうなるとまるで別世界のようにも思えてしまうものだ。
ふと、チアキの視界に人影が入り込んでくる。
「……ん、アカリさんですね」
ちらりと視線を上げた先の相手は、鰐渕アカリだった。ゲヘナ学園の生徒ならば、その名を知らない生徒は居ないとされる『有名人』。彼女が所属する美食研究会の名前は、ゲヘナを飛び出し、キヴォトス全土に轟いているのだ。
そんなアカリの顔を見た瞬間、チアキの脳裏にひらめくものがあった。
──美食研究会なら、何か知っているかもしれない。
あちこちを歩き回って、未知の食材を求め、知らない店に入り込む。そんな行動範囲の広さがあれば、一つや二つ、得体の知れない出来事に遭遇していても不思議じゃない。
「すみません!今ちょっとお時間ありますか!?」
チアキが声をかけると、アカリは意外そうに目を丸くしてから、にこりと笑った。
「チアキさん……?はい、大丈夫ですよ」
空き教室へ移動し、二人は向かい合って座る。チアキは、アカリに事情を説明しながら、録音の準備を整えていく。
「なるほど、夏だから怖い話を……ですか」
「そうそう!『怖い話』をこのゲヘナ学園の色んな生徒から集めて特集記事にしよう!って企画です!」
少しの沈黙のあと、アカリは飲みかけのアイスココアのカップをテーブルに置き、視線をゆっくりと遠くに投げる。
「うーん……そうですね。じゃあ――」
その声はどこか、いつもの明るさからほんの少しだけ、音の温度が下がっているような気がした。
「これは、イズミにダイエットをさせる目的でミレニアムのトレーニングセンターを訪れた時のことです」
そして、蝉の声が遠くに響くなか、アカリは静かに、ゆっくりと語り始めた。
==
「イズミさん、最近ふっくらしてきましたね」
「み゛」
ハルナがそれを口にした瞬間、時間そのものが止まってしまったかのように、イズミの動きが停止した。
「えいっ」
アカリは、動かないままのイズミのお腹をつまんでみる。もちもちしていて、まるでこないだ食べた大福のような弾力だった。
「ひゃん!」
停止していたイズミは、アカリにつままれたことで妙な叫び声を上げながら動き出す。
「もーっ!何するの!」
アカリの方に向き直ったその顔は真っ赤だった。ぷんぷんという擬音を付けるのが相応しい怒りは、まるで小動物のようで非常に可愛らしい。
「あらあら、いい感じにふっくらしてきましたね。そろそろ食べ頃でしょうか」
冗談混じりに笑いかけると、イズミの顔色が今度は真っ青に染まっていく。やはり、見ていて飽きない。
==
……とまぁ、そんな感じでイズミにはミレニアムでダイエットのために運動させることにしたんです。ミレニアムのトレーニングセンター、行ったことあります?すごいですよねぇ、あそこ。
ミレニアムの生徒なら自由に利用できますが、他校の生徒でも予約をすれば利用できるんですよ。そこで、私のお友達に頼んで予約することにしたんです。私たちが直接予約したら断られてしまったので。
ミレニアムの……そうですね、彼女を仮に『
シャーレの活動開始直後、よく任務で一緒になっていたので、そこから始まった関係なんですよ。
==
「……アカリさんは、一緒に体を動かさなくていいんですか?」
ミレニアムの1年生であるA美が、トレーニングセンターのロビーで一人動画撮影の準備をしているアカリに声をかけてきた。
「ええ。私にダイエットなどという行為は不要なので」
「それもそっか」
鰐渕アカリは、そういう存在である。A美もそれ以上何も言ってくることはなかった。
撮影の準備をしながらアカリは、ハルナたちの様子を確認する。
イズミは、ひぃひぃ言いながら走っているが、何だかんだ真面目にやっていた。ふっくらしてきたお腹に、イズミ自身も危機感を覚えているからだろう。
一方、ハルナは既に少々バテ気味だった。まぁ、美食研究会の中で一番体力がないのはハルナだ。給食部の激務で鍛え上げられた愛清フウカが本気を出せばフィジカルで上回られてしまうということに、いつになったら気が付くのだろうか。アカリとしてはもう少し体力があった方が面白いのだが、これはこれでいいものである。
「……もう少し早くても良いわね」
そんなハルナとは対照的に、ジュンコはランニングマシーンの速度を上げていた。逃げ足は速く、バイトで鍛えられて体力もある。アカリの次ぐらいにはダイエットと無縁な存在だ。
「撮影許可とか、色々とってきました」
「ありがとうございま~す☆」
そんなハルナたちを遠巻きに眺めていると、撮影等の諸々の許可をとりに行かせていたA美がアカリの元に戻ってきた。自分でとりに行っても良かったのだが、責任者としても顔見知りの生徒が頼んできた方が心象は良いだろうし、何よりアカリが行くと不必要な威圧感を与えてしまう恐れがある。
「ただし、一般の使用者の顔にはモザイクをかけるという条件付きですが」
「はーい」
「はい!ということで皆さんこんにちは~美食研究会のアカリでーす」
アカリは、カメラを自分に向け、いつものように挨拶をする。
ハルナの思い付きで最近始めた動画投稿活動だが、なんだかんだ続いているし、人気も出始めている。『最近話題の配信者ランキング』で名前を出されることが増えてきた。
応援コメントに『カップルチャンネル助かる』という声が少々見られるのが気になるところだが、数字が伸びてハルナが満足げにしているならそれでいいだろう。
「今日はミレニアムのトレーニングセンターにお邪魔してまーす」
カメラをぐるりと回転させ、体を動かしているハルナたちを画面に収める。
「ど、どうも……はぁ……きょ、本日は……イズミさんの……ダイエットを……」
「……とまぁ、こんな感じですね~みんな頑張ってまーす」
ハルナは息が切れてうまく喋れなさそうなので、場面を切り替える。このままハルナを映し続けるのも良いが、それはまた別の機会に撮ることにしよう。
ヘロヘロになっているイズミ、謎のトレーナーに励まされながら時速25㎞で走っているジュンコ。
「ダイエットしてるみなさんを見ているのも良いですが……このチャンネルの視聴者はダイエットなんて現実は見たくないでしょうし、別なところに行きましょうか」
美食研究会の動画を見ているのは、大体が「おいしいご飯」を求めているはずだ。そんな視聴者に、ダイエットなどという現実を突きつけてしまうのは良くない。
「はい!ということで今日は『ミレニアムで売られているプロテインバー、全種類食べ比べてみた!』という動画でーす」
A美が待っているロビーへ移動し、今回の企画の趣旨を説明する。
「ミレニアムということで、このチャンネルの準レギュラーになりかけてるA美さんも一緒でーす」
「こんにちはー、飛鳥馬トキでーす」
「内輪ネタはやめてください……あ、ここ編集点で」
「……すいません」
A美は、見ていて面白いのだが、どこか距離感というものをよく分かっていない節がある。そしてそこに付け込んで変なことを教えている輩が居るのはアカリもなんとなく分かっているが、正直どうでもいいことだった。
「ということで、今回の動画はここまで!皆さんもミレニアムに来た時は、プロテインバー全種類食べ比べてみてくださいね~」
「さようならー」
A美と共にカメラへ向かって手を振りながら、アカリは録画を停止した。後はこれを持ち帰って編集すれば、動画の完成である。いつもはジュンコに編集を任せているのだが、今日ぐらいは自分で編集してみても良いかもしれない。やったことはないが。
「……ちなみに、A美さんはこの後何か予定でも?」
「いえ、特には」
プロテインバーのゴミを片付けながら、アカリはA美に訊ねた。
「それなら良かった。実は私、
「私が……ですか」
「変な店とか不思議な店のこと、お好きでしょう?」
「…………」
A美は、若干不服そうな顔をしていた。
だが、本人はそう思っていなくてもA美の会話デッキには『オカルト好きの同棲相手』が入っており、その札を様子見感覚で切ってくることをアカリは知っている。その相手のことをひたすら話すだけでもデッキとして成立するというのに、そういうことに興味がないというのはあり得ない。
それに、今からアカリが調べようとしているのは『そういう店』の噂であり、万が一のことを考えると『そういうこと』に詳しい専門家を連れて行った方が安心できるのだ。
「行かないんですか?」
「……行きますけど」
もっとも、キヴォトス全土において上から数えた方が早いレベルの専門家であるA美としては『そういうこと』に気軽に首を突っ込んでほしくないから不服そうにしていたのだが、アカリは知る由も無い。A美には、アカリが調査しようとしている対象が飲食店である以上、ここで自分が断ったとしたら一人で行くだろうという確信があった。
そうなったとして、もしもアカリの身に何かあった場合、なんとなく嫌な気になってしまう。A美には、結局のところ『同行しない』という選択肢は残されていないのだ。
「それで、一体どこの店に行くんですか?」
「さぁ?」
「……えっ」
その『オカルト好きの同棲相手』に連絡を入れたのであろうA美は、アカリに今回の調査の目的を訊ねてきたが、アカリは、その店が『どこ』にあるのかを把握していなかった。そのことに、A美は呆れたような眼をしている。
「今私が把握しているのは『アクセス方法』と『どんな料理が出てくるのか』だけです」
「アクセス方法は分かるのに、どこにあるか分からないんですか」
「はい」
「つまりは『常識的な手段では入れない店』ということ……?」
「流石はA美さん、理解が早いですね」
「……どうも」
A美の言う通り、アカリが噂を耳にした店は『常識的な手段では入れない店』である。アカリがその店へのアクセス方法を知ったのも、偶然だった。
何とも不思議な店だろう。しかし、提供される料理を知ればA美も納得するに違いない。
「では、早速行きましょうか」
「無事に帰ってこれるんですよね?」
「帰ってこれなかったら、こうしてアクセス方法が出回っているはずもないでしょう?」
「……そうとも限らないと思いますが」
A美は若干苛立っているようにも思えた。
「ま、そのためにあなたを連れてきているんですから、もしもの時は、何とかしてくださいね?」
「…………言ってるのが部長だったら、素直に頷くんだけどなぁ」
「何か言いました?」
「……いや」
==
あ、その店へのアクセス方法は教えませんよ?興味本位で真似されたり、不特定多数に広められると困ってしまうでしょうし。私も困ります。
むむむ……気になりますが、それなら仕方ないですねぇ
==
「次は『一番最初に目に入った電柱を3回蹴る』ですね。……えい」
「……」
A美は、もう何も言わなくなっていた。
確かに、アクセス方法があまりにも馬鹿げているとはアカリ自身も思っている。だが、これは『確かな情報』なのだ。
「……あの」
「はい、なんでしょう」
「ハルナさんと一緒に来なくて良かったんですか?」
それは、愚問だ。聞くまでもない質問……いや
「そういえば、A美さんには今から行こうとしている店がどんな料理を出しているのか説明していませんでしたね。ああ、次は『空き缶を縦に潰してゴミ箱に入れる』です」
あらかじめ用意していた空き缶を潰し、A美にも空き缶を渡す。同じように縦に潰していた。
「行けば分かりますよ。私がハルナには内緒で行こうとしている理由が」
「……そうですか」
「それに、ハルナがその場に居ると少々困ってしまうので」
通りがかった公園のゴミ箱に、空き缶を捨てた。
「……私を生贄とかにするつもりじゃないですよね?」
「もし、そうだと言ったらどうします?」
「全力で抵抗します」
「おお怖い怖い」
実際のところ、総合的に観ればA美はアカリよりも強い。相手にしたくない度合いでいえば、風紀委員の銀髪ツインテール以上だった。故に、頼りになる。
まぁ、平和に済みそうな今回に関しては余計な心配だとは思うが、念には念を、というやつだ。
そんな軽口を交わしながら、アカリはA美と共に馬鹿げた入店方法を実践していく。
相変わらず、A美の会話デッキにおける尖兵は『オカルト好きの同棲相手』だった。
「……さて、これで最後ですね。『目を瞑ったままトイレに入り、扉を閉める』ですか」
アカリたちは、ミレニアムのトレーニングセンターからは遠く離れた公園の『公衆トイレ』の前に辿り着いていた。
「随分と行程が多かったけど、そのすべてが『偶然実行してしまう範囲の行動』だけ……もしかして、これが『確実な方法』なのは『入店してしまった人の行動』を丸ごと再現しているから?」
「そうでしょうね。検証も難しいでしょうし」
A美の考察は、きっと当たっているだろう。流石にやることが多すぎる。
「ゴリ押しだなぁ。それが一番確実なのはそうなんだけど」
「では、早速……」
「いや、私が先に行く」
トイレの個室のドアに手をかけようとしていたアカリを、A美が制止した。
「あら」
「……入ったら5秒おきにドアを3回ノックします。音が聞こえなくなって30秒以内に『私の知り合いっぽい人』から電話がかかってきたら素直に指示に従ってください。電話がかかってこなかったら……入ってきてください」
「心配性ですねぇ」
「こういうことは、心配性なぐらいが良いんです」
「はいはい」
アカリとしては、今回の店に危険がないことは知っているのだが、専門家の意見は聞いておいた方が良いだろう。何も言わずに見守っていると、A美は懐から赤い光を放つ機械を取り出し、携帯の録音アプリを起動してから個室へ入っていった。
「…………」
A美が入ってから、30秒が経過した。
未だにノックの音はしない。
「失礼しまーす」
アカリは、ドアを開ける。
そこにA美の姿はなかった。
「ふむ、噂は本当だったようで」
ということは、無事に入店できたのだろう。最初から分かっていたことではあるが。
「食事は肩の力を抜いて楽しめるぐらいがいいんですが……まぁ、職業病というやつでしょうね」
アカリは、目を瞑りながら個室内へ足を踏み入れ、扉を閉める。
「いらっしゃいませ」
聴こえてきたのは、確実にA美ではない声だった。
「……わーお」
アカリが目を開けると、そこは公園の公衆トイレの個室などではなく、おしゃれな洋風レストランだった。
深いワインレッドのカーテンと、木目の床に映える間接照明。ふわりと漂うハーブとバターの香りが、どこか異国の街角を思わせる。
アカリは、無意識のうちに制服を整えてしまっていた。強制されているわけではないのだが、そうさせてしまうほどの風格が、この店にはある。
「位置情報も取得できないし、部長お手製の特殊通信も使えない、か。電波が遮断されているというよりは、特殊な空間とみる方が自然……」
一方、A美は相変わらずであった。どこに隠し持っていたのか全く分からない機械で壁や床を調べ、窓の外を写真に収めながら何かをメモしている。
元々そういうことを気にしない気質の生徒ではあったが、今回に関しては、どちらかと言えば仕事熱心な真面目さが顔を出してしまっているというべきだろう。良くも悪くも、知りたくなったことを知ろうとしてしまう研究熱心なミレニアム生徒らしい。
まぁ、アカリも『好きになったものを隅々まで知り尽くしたくなる欲求』は理解している。そういう意味ではアカリはA美と同類なのだが……A美はそれを理解することはないだろう。
「A美さーん、そろそろ席に着きませんか~?私もうお腹ペコペコなんですけど~?」
「……そうですね。私も現時点で可能な記録等は終わりました」
アカリが声をかけるとA美は素直にアカリの隣に用意されていた席に座った。
そういう研究熱心さが『どこかの誰か』には好かれているのだろうが、ここはレストランである。マナーと礼節はわきまえなければならない。
「よろしいですか?」
シェフらしき人物が、アカリ達に声をかけてくる。『異空間』に位置する料理店なのだから内装や店員もそれ相応のものなのかともアカリは考えていたが、やはり『現実的な』ものばかりである。
「もちろん☆」
「それでは、料理をお持ちします。少々お待ちください」
「あ、えっと、注文……」
シェフはそのまま、アカリ達に注文を聞くことなく厨房があるのであろう場所へと消えてしまった。
「このお店では、提供する料理は店側で決めるそうですよ。……まぁ、ある意味では『私たち』が決めているとも言えますが」
「……そうですか」
注文を聞かれなかったことにA美は困惑しているようだったが、アカリの言葉に納得したのか、すぐに黙る。
「……あの」
「はい」
「この店が何なのか、そろそろ教えてもらってもいいですか」
A美は、アカリに質問した。流石に少々引っ張りすぎてしまっただろうか。そろそろ答え合わせにしよう。
「おそらく、あなたは『変な料理』が出てこないか心配しているのでしょうが、ここで提供されるのは『普通の人生を送っていればそのどこかで食べられるような料理』のはずですよ」
「……変な言い方ですね」
「まぁ、そろそろ引っ張りすぎて読者がイライラしてくるころだと思うのでもったいぶらずに言ってしまいますが、この店は『人生で最高の料理』を提供してくれる店です」
「人生で、最高の……ですか」
アカリがこの店の存在を知れたのは、『幸運だった』と言わざるを得ないだろう。
たまたまその店に辿り着けたのがアカリ達のリスナーで、情報提供先がアカリのSNSのDMだったのだ。
アカリも最初に知った時は、ただのつまらないガセネタだろうと思っていた。しかし、情報提供者がゲヘナの生徒だったので実際に話をする機会があったのだが、その際にあまりにも真に迫る様子で話すものだから、アカリは信じることにしたのだ。『飲食店のレビュー』の真偽を暴く能力は、今までの活動で鍛え上げられている。その上で美食家としての『嗅覚』がこれは『ガチ』だろうと訴えていたのだ。
「そんな料理を提供してくれるのなら、なおさら美食研究会で来ればよかったのでは?」
「それは違います」
A美の疑問ももっともだろう。もし仮に、彼女の情報提供先がアカリ以外のメンバーのDMだったら、一緒に行くことになっていただろう。
「ハルナは、こういった形で『最高の料理』と出会うのはあまり好まないでしょうし、それに……」
「それに?」
アカリは別にそれでも構わないのだが、ハルナはそういうやり方で最高の料理と出会うのは好まないだろう。ずっと一緒にいたアカリだから分かる。きっと、自分の足でその料理と出会うことを望んでいるに違いない。だから今日は、美食研究会ではなく、1人の美食家の鰐渕アカリとしてこの店に来たのだ。後でジュンコとかに知られれば怒られるかもしれないが、その時はその時だ。アクセス方法を教えてやればいい。
「……『最高の料理』を食べた私が理性を保っていられるか分かりませんし、きっと『恥ずかしい姿』を晒してしまうかもしれませんから」
「そうですか」
アカリは、自分がそんな料理を前にして理性を保っていられるとは思えなかった。もしも自分が昂りすぎてしまえば、ハルナは『ただでは済まない』かもしれない。それに、今のところ特に危険なことはなかったが、今回は所謂『オカルト』的な案件である。万が一のことを考えると、そういうことに強い『専門家』がそばに居てくれた方が安心して食事ができる。
だからこそ、アカリはもしもの時に『鰐渕アカリ』を抑え込めて、『オカルト』に対してそれなりに*1詳しいA美を同行者として選んだのだ。
そして、A美にも言えない事情が一つあるが、それは死ぬまで胃の中にしまっておくことになるはずだ。
10分ほどアカリがそわそわしながら待っていると、レストラン内においしそうな肉の香りが漂い始めた。
これはそろそろだろう。
「……どうぞ」
アカリの目の前に、巨大なハンバーグが運ばれてきた。おそらく重さにして5㎏ほど、大きさを身近なもので例えるならば、ゲヘナの一般的な通学用鞄だろうか。
「これは……!!」
アカリは、銀のフォークを無意識のうちに握りしめていた。
目の前に置かれた鉄板の上では、まだ生きているかのようにハンバーグがじゅうじゅうと鳴き続けている。油が跳ね、ソースがぐつぐつと泡立つ。熱気と香りが混じり合い、鼻腔をくすぐると同時に、胸の奥を直接掻きむしるような衝動が生まれていく。
──ああ、食べなければ。この肉を、今すぐに。
その衝動がほとんど暴力のようにアカリを支配している。気を抜けば自分の口からよだれが滝のように流れ出てしまいそうなぐらいに凄まじい。かろうじて本能を理性で抑え込めているが、これ以上抑え込める気がしない。
「……いただきます」
乱暴にかぶりつきたくなる衝動を必死に抑え込み、あくまで平静を装いながらアカリはその大きなハンバーグにナイフを入れる。刃先が表面を裂くと、中から肉汁がとろりと流れ出し、熱い湯気が立ち昇った。それを見た瞬間、アカリの口の端が自然に吊り上がってしまった。笑おうとしたわけではない。笑わずにはいられなかったのだ。
鼻腔を満たしている肉の香りが、細胞の1つ1つを震えさせ、呼応した細胞全てがこの肉を求めているかような感覚。今すぐにこの肉を自分の体に受け入れなければならないと、訴えているかのような本能の衝動。
アカリは肉をひと切れすくい上げ、唇に運んだ。舌に触れた瞬間、全身が小刻みに震える。歯を立てた時の弾力、肉がほどけるように崩れていく感触、その全てが彼女の神経を直接かき鳴らす。
──これだ。私はこれを食べるためにここまで来たんだ
「はぁ……」
短い吐息が漏れる。艶めかしいその声は、食事の最中に発するものではなかった。表情は恍惚なものとなり、頬は一気に赤く染まっていく。額にはうっすらと汗が滲み、背筋がぞわりと震え、胸の奥からこみ上げる熱を抑えることができない。
「こっ……このお肉は……一体何処から……」
こんなハンバーグは、食べたことがなかった。そのあまりの幸福感に、アカリはうまく言葉を発することができない。
「私はお客様の『人生で最高の料理』と
「ふ……ふふふふ……そうですか……!」
アカリは低く、しかし確信に満ちた声でそう呟いた。
幸福と狂気の境目でゆらめくような眼差し。そこには「おいしい」という単純な感想を超えた執念めいた執着、いくつもの『修羅場』を超えてきたA美ですら軽く恐怖してしまうような狂気が宿っていた。
自分の中で、肉と肉がひとつになり満たしていく。噛むたびに命がほどけて全身に流れ込んでくる。
アカリは小刻みに笑いながらも、同時に涙をこぼした。笑いながら泣く。その奇妙な光景はであるが、アカリの感動と悦びはこの肉を食べられたことに感動しているのではない。
この肉を食べることができる未来が確定したことに、この肉が『今まで』の人生の中で『最高の料理』であるということに、感動し、悦んでいるのだ。
今アカリの世界に存在しているのはハンバーグだけ。隣に居るはずのA美も、佇んでいるはずのシェフも、アカリにとってはもはや存在しないも同然。
目の前の肉片を、自分の内側に迎え入れることだけが、アカリにとって唯一の真実であり救済。
それは、もはや性行為と言っても過言ではない興奮だった。
「もっと……もっと……!」
ナイフとフォークは止まることを知らない。鉄板を叩く音、肉を裂く音、肉汁が滴る音。そのすべてが狂気のリズムとなって、アカリの心拍と溶け合っていく。ソースが唇に滲み、舌で舐め取るたびに背筋が反り返り、小さな嗚咽のような声が漏れた。
気を抜けば、『至って』しまう。
──ああ、お願いだから無くならないで。もっと私を楽しませてほしい。
アカリの願いも虚しく、皿の上のハンバーグはどんどん小さな肉片へと変わっていく。
しかし、それと比例してアカリの中が『幸福』で満たされていくのもまた事実であった。
「…………!!」
最後の欠片を飲み込んだ時、アカリは椅子に凭れ、陶然とした瞳を閉じる。
時間にすれば僅か十数分の出来事なのだが、まるで人生をもう一周してきたかのような充実感。皿の上にはもう、ハンバーグはひとかけらも残っていない。しかし、ハンバーグを食べたという『幸福』はまだ胃の中に残っている。
「──ごちそうさまでした」
アカリは、興奮が治まらないまま手を合わせ、ハンバーグに感謝と別れを告げた。
一方、A美は激しく味わうアカリとは対照的に、目の前の料理に疑問を感じながら静かに食べていた。
おいしいのに、おかしい。
人生で最高の料理と言われてどんなものが出てくるか楽しみにしていたのに、出てきたのはどこにでもありそうな『たらこパスタ』。それも『同居人』がいつも作っているようなもの。何なら、今日の夜にでも食卓に並んでいそうなメニューだ。
「……」
食べる。
やはり、いつも通りの味だ。夕食時に自分が同居人を手伝いながら作る料理を食べているような感覚になる。
「……ほんとにこれであってますか?」
「もちろん」
A美は不安になったので、シェフに訊ねてみたが、ニコニコしながら自信満々な答えを返されるだけ。
正直、納得がいかない。
「…………」
何か間違っているのではないかとアカリに聞こうにも、アカリはもはや受け答えができる状態ではない。
A美は、激しく味わい続けるアカリを見ながら、『この前マキに貸してもらったグルメ漫画のリアクション描写ってガチだったんだな』などと考えつつ、食事を終えた。
「それでは、お代を頂きます」
アカリが余韻に浸り終えた頃、シェフが伝票のようなものを手にテーブルへ戻ってきた。そろそろ、この店を出なければいけない時間だった。
「……えっと、電子決済かクレジットカードは対応してますか」
A美は、現金を持ち歩いていなかった。ミレニアムの生活ならば、電子マネーで事足りるからだ。不必要な現金を持ち歩くというのはリスクでしかない。
しかし、この店は明らかにミレニアムではないし、電子マネーに対応しているような店でもない。いや、対応していてくれた方が嬉しいのだが、ここで電子マネー対応ですと言われたら興ざめしてしまうだろう。
「いえいえ、頂くのは金銭の類ではありませんよ。そもそも、この店で提供する料理に金銭という尺度で価値を付けることはできません」
確かに、『最高の料理』というものは『値段』だけで測れるようなものではないし、その価値は『金銭』によるものではないはずだ。
「…………そうですか」
A美は、納得はしているが、逆に警戒を強めているようだった。おそらくA美のことだから、「対価はあなたの命です」と言われるとでも思っているのだろう。
しかし、アカリはそこも事前にチェックしていた。
「代金の代わりに、この店への『アクセス方法』を誰か1人に教えてあげてください」
「それでいいの?」
何も知らなかったA美は、驚いた様子で警戒を解いた。
「もちろん。私のポリシーは『体験の共有』です。誰かが人生で最もおいしいと感じる料理を味わう瞬間をこの目で見ること、それこそが私の生きがい。故に、お代も『体験の共有』となっています」
「料理人の鏡、ですね」
アカリの言葉に、シェフは頷いた。客を喜ばせることだけを考えて行動する。そこに利益などの事情は一切絡まず、ただただ自分の料理で客に喜んでほしいという想いだけがある。そのシェフの生きざまに、アカリは先ほどのハンバーグとはまた違った感動を覚えていた。
「ただし、『1人だけ』です。それ以上広めてはいけません」
だからこそ、ここへやってくる人は絞りたいのだろう。
もしこの店が多くの人々の間で噂されるようになってしまえば、純粋に食事を楽しみたい客だけではなく、邪な気持ちでこの店を訪れる者も多くなってしまうに違いない。シェフは、そんな理由で訪れる客を歓迎していないのだ。
「……えっと、私たちは思いっきり2人で入店してるけどそれはいいんですか?」
A美が訊ねる。確かに、教えていいのは1人だけだ。だというのに、こうして2人でやってきても歓迎されている。
「教えていいのは『1人まで』、入店していいのは『1団体まで』です」
「……その辺の融通は利くんだ」
「ええ。この店を訪れるお客様は限られていてほしい……しかし、それと同時に多くのお客様に『最高の料理』を味わってほしいのもまた事実」
その相反する理想を両立させた結果が、このシステムなのだというのだ。
==
あっ!だからアクセス方法は伏せてたんですね!
そういうことです。
――
アカリ達は、最高の料理店に別れを告げた。名残惜しいが、もうそろそろ帰らねばならない。
外へ出ると、空はすっかり暗くなっていた。こんな夜遅くに女子高校生が出歩くのは好ましくないが、それを気にするような2人ではない。最寄りの駅に向かって静かに歩き始めた。
「…………」
駅へ近づくにつれて仕事終わりのサラリーマンが増えてくる。皆一様に、疲れきった顔をしているが、それとは対照的にアカリは腹も心も満たされている。やはり、美味しい食事を思いっきり味わった後というのは気分が良い。アカリの機嫌はすこぶる良かった。
一方、A美は未だに自分に出された料理に納得がいっていないのか、はたまた『専門家』として何か思うところがあるのか、駅に辿り着くまでずっと何かを考えこんで黙っていた。
「では、ここまでですね」
アカリが帰る場所とA美が帰る場所は、方向が逆だ。2人は駅の入り口でお別れを言う。
「本日は私の『興味』に付き合ってもらって、本当にありがとうございました。それでは~☆」
「……アカリさんは」
アカリは、A美に別れの挨拶をしてから改札を抜けようとしたのだが、突然、A美が話しかけてきた。その目は真剣そのもので、まっすぐアカリを見据えている。
「なんでしょうか?」
立ち止まり、見つめ返した。
「アカリさんは、本当にあの店に行ってよかったんですか?」
「…………」
「……いや、私は別に美食家というわけでもないから、心境を理解しているとか、そういう感じではないけど……でも」
「ハルナは行かないと思うのに、どうして私があそこへ行ったのか、でしょうか?」
「まぁ……そういう感じです」
確かに、『ハルナを連れてこなかった理由』は話したが、『アカリがこの店を訪れた理由』は話していない。
「……確かめたかったから、ですよ」
「え?」
「果たして、『最高の料理』は美食家の鰐渕アカリとして味わうものなのか、それとも美食研究会の鰐渕アカリとして味わうものなのか、気になってしまって」
「…………」
A美は、黙ってアカリの話を聞いていた。
「A美さん」
アカリは、A美に向かって身を乗り出し、答える。
「人生で最高の料理として出されたものを、『2番目』にしてみるのもまた一興ですよ☆」
そう告げてから、アカリは改札を通り抜けた。
もうすぐホームに電車がやってくるはずだ。少し早歩きで進みながら、一瞬振り返ってみると、A美が小さく手を振っている姿が見えた。
「……A美さんが今日の料理に納得いかなかったのは、きっと『足りないもの』があったから、のはずですよ」
それが何なのかは、アカリにも分からない。
そして、『足りないもの』があったのは、アカリも同じである。
確かに『満たされた』が、本当に『最高の料理』であるならば、鰐渕アカリをもっと満たせるに違いない。鰐渕アカリの『欲』というのはただただ大量の『おいしい肉』を出されただけで満たされるようなものではない筈だ。
──やはり、『最高の料理』を食べる時は隣に『黒舘ハルナ』がいるのだろうか。
アカリは、今日以上に『満たされる』のであろう未来に思いを馳せながら、ゲヘナ方面へ向かう電車に乗り込んだ。
――
「──とまぁ、こんな感じでしょうか。『奇妙な話』ではありますが、『ホラー』かと聞かれれば、微妙かもしれませんけど」
話を終えたアカリは、アイスココアを飲み干した。
「いえいえ!ホラー雑誌じゃないのにガチガチのホラーを乗せたら苦情が来ちゃいますから、これぐらいがちょうどいいってものですよ!」
「ふふふ、そうでしたか」
お礼を伝えると、アカリは安心したように微笑む。
「それにしても、『人生で最高の料理』ですか……私だったら、何なんでしょう」
人生で最高の料理、やはりチアキも気になってしまった。自分がその店に行ったらどんな料理が出てくるのだろうか。
「それは、その時にならないと分からないかもしれませんし、もしかしたら既に食べているかもしれませんよ」
「まあ、それはそうですよね!」
それはその時のお楽しみだ。
その店に行けるかどうかなんて分からないが、もし食べた瞬間に『これは人生で最高だろう』と思える料理と出会う瞬間は、確実に訪れるだろう。
「ちなみに……アカリさんは、その料理を食べてどう思いましたか?やっぱり、その『5㎏のハンバーグ』が人生で最高の料理だ!ってなりました?」
5kgのハンバーグというのは、まさにアカリらしい料理である。今までで食べた最高の料理は?と質問した時にアカリからその答えが出れば、チアキは何の疑いもなく納得するだろう。俗に『解釈一致』と呼ばれているやつだ。
「確かに美味しかったですよ?でも、『人生で最高の料理』とは思えませんでしたねぇ」
「んん?じゃあそのレストランって詐欺じゃないですか?」
「それは違います」
アカリは、きっぱりと言い切った。
「あの店が提供するのは、人生で最高だと思える『料理』だけです。シチュエーションは、提供してくれません」
「なるほど……確かに、1人で食べる時と、お友達と一緒に食べる時では、同じ料理でもおいしさが全然違いますよね!」
「そういうこと。ハルナが追い求めているのはまさに『それ』なんです」
シチュエーションが伴ってこそ、人生でいちばんの料理となるのだろう。その感情は、チアキにも理解できる。確かに、先生と一緒にスイーツ店へ取材に行った時は、何かが違った。
「ちなみに、A美さんが食べた『ごくごく普通のスパゲッティ』ですが、その日の晩御飯だったらしいですよ」
「じゃあそのA美さんはその後一体何が……」
「特に何もなく、普段通りですよ」
「えっ?」
人生で最高の料理が、普段の料理とは、どういうことだろうか。チアキは首を傾げる。
「A美さんは……とある事情で『とある生徒』と同棲しているのですが、料理は本人の希望で同棲相手が作っていまして」
「ほうほう」
まだ生徒の身でありながら同棲しているというのは珍しい。話を聞きに行くチャンスがあるなら、聞きに行きたいものだ。
「どうやら、その日の夕飯に使う『パスタの材料』が消えていたとか」
「ふむ……」
「さて、チアキさんはどうして普段の料理が人生で最高なのだと考えますか?」
「うーん……」
チアキは、考える。
先程の話をベースに考えるなら、この店で提供される料理は、料理自体が人生の中で最も素晴らしいものというわけではなく、シチュエーションも込みで『最高の料理』として食べることになる料理を提供される場、ということである。
「……毎日が『最高』ってことですか?」
「ええ。おそらく、きっとそうです」
「なるほど……」
そういうこともあるのか、とチアキは素直に納得した。となれば、そのA美という生徒は日々の小さなしあわせを噛み締め、大切に過ごしているのだろう。会ったことも見たことも本当の名前も知らないので勝手な想像になってしまうが。
「『彼女が作ってくれる料理』がA美さんの人生で最も素晴らしい料理であり、彼女が作るすべてが最高であり、共に過ごすことのできる『日常そのもの』がA美さんの人生を常に満たし続けている、ということでしょう」
普段の料理だからこそ、人生で最高の料理になっているのかもしれない。そう思える相手が居るというのは、幸福なことだ。
「ラブラブなんですね~」
「それはもう相思相愛ですよ。……羨ましいぐらいに」
その生徒のことを記事にするのも面白そうだが、流石に内容がプライベートすぎる。ゲヘナならまだしも、他校の生徒でそういう記事を書くのはやめておいた方がいいに違いない。
【蛇足】
【大食い】ミレニアムのプロテインバー、全種類食べ比べてみた!【美食研究会】
8.2万回再生・5時間前
198件のコメント
@【公式】美食研究会 5時間前
今回撮影に協力していただいたミレニアムトレーニングセンターさんの公式HPはこちら!
https://www.XXXXXXXXXX……
@Makky_Magary 3時間前
近いところだから嬉しい!ここは行ったことないけど!
@Armor_Asumar 3時間前
まぁ、控えめに言っていつも通りAvant-gardeではありますが、ほぼ準レギュラーのエイミが出てきている神回なので、格上げして†GOD†まであります。
エイミ回恒例の収益剥奪が回避できるといいですね。運営見逃して♡
【和泉元名場面集】
2:32 ここで出た名前はきっと『超天才ナイスバディなおもしろ美少女スーパーメカニックのつよつよお姉さんメイド』なんだろうなぁ……そういうオーラを感じる名前です
8:35 迫真の和泉元ソロパート開始
続きを読む
@Amatok-esoto(編集済み) 4時間前
編集変わった?なんかいつもと効果音とかフォントがいろいろ違うけど
【追記】
今回はアカリ編集らしい 頑張ってください
@Chii-hee-chan 2時間前
ミレニアムのトレーニングセンターはいいところなので動画を見た人は機会があったら行ってみてほしい。私も今度は後輩を連れていく予定です。
週に一度は通うようにしているのですが、設備も整っていますし、スタッフの皆さんも親切で利用客のマナーも良いので快適です。プロテインバーには手を出したことがなかったので、次に行った時はこの動画を参考に選んでみようと思います。
@Hareeeeeeee 2時間前
期間限定で1週間しか販売されなかった幻の『妖怪MAX味』が動画に出てこなかったので、いつか紹介してほしい
@Love&Clear 5時間前
動画投稿ありがとうございます。美食研究会のおかげで夜も眠れません。
いつも通りとても面白い動画だったのですが、私はこのチャンネルをカップルチャンネルとして楽しませていただいているので、ハルナの出番が少なかったことが少々残念でした。動画を見る限り、ハルナがそのトレーニングを始めるのは時期早々かと思われます。なので、ハルナとアカリの2人で軽くジョギングしながらいろんなお店を探索してみるゆったりとした企画はいかがでしょう。爆破とか拉致とかもせず、ゲヘナから遠く離れた場所でのんびり美食巡りをしてみるのも楽しいと思います。ま…
続きを読む
@Chiaki_Pandemo 2秒前
面白かったです!今度私もミレニアムへ行ってみようと思っていたので、ダイエットほどほどに頑張ってきます!
ただ、動画途中のハルナさんがかなり体調悪そうでしたが、その後は大丈夫なのでしょうか?
「……ただいま」
和泉元エイミは、少し疲れた足取りで玄関をくぐった。
「お帰りなさい……あら、今日は随分と楽しかったみたいですね」
出迎えたのは、同居人にして特異現象捜査部の部長、明星ヒマリだった。
ミレニアムの生徒は大体が寮生活なのだが、色々と特殊な事情のヒマリは別荘から通っており、そこにエイミも住まわせてもらっている。特異現象捜査部という部活の都合上、夜間も一緒にいた方が合理的である上に、エイミはヒマリの日常生活のサポートも任されているのだ。故の同棲という選択肢である。
「あー……、うん。今日はトレーニングセンターでちょっと体動かすだけだと思ってたけど、そこでなんか美食研究会の撮影に巻き込まれちゃって」
本人としては少し疲れただけなのだが、ヒマリには楽しげに見えているらしい。
エイミはこの日、午前中にトレーニングセンターで軽く体を動かすだけの予定だったが、
「ふふふ、そうでしたか。では、その話はお夕飯を食べながら聞きましょうか」
「うん。分かった」
別にエイミとしては栄養ゼリーか何かで済ませてしまってもいいのだが、ヒマリがそれを許さず、ほぼ毎日手料理を振る舞っている。ミレニアムの優れたサポート機器により、ヒマリ1人でも安全に料理ができるのだが、エイミとしてはどうしても手伝わずにいられない。
その結果として、エイミにも毎日料理をする習慣が身についてしまっていた。
──どこかの
「……あら?」
「どうしたの、部長?」
シャワーを浴びて戻ったエイミがキッチンに入ると、ヒマリが冷蔵庫を覗き込んで首を傾げていた。
「晩御飯の材料にするつもりで昨日買っておいた『たらこ』がありませんが……もしかして、お昼ご飯とかで食べちゃいました?」
「いや、今日は
「うーん、買い忘れてしまったのでしょうか……」
そんなはずはない。
昨日エイミがヒマリ(となんか勝手についてきたトキ)が買い物をしている時、確かにヒマリが買い物かごの中にたらこを入れていた。エイミは、自身の携帯で電子レシートを確認するが、確実に購入されている。
しかし、冷蔵庫のどこを探しても、たらこは影も形も、心当たりもなかった。
「買い忘れ……ではないですよね」
「……うん、確かに入れてたはず」
二人の記憶には食い違いがなかった。結局「トキが勝手に食べたのだろう」ということになり、その晩の献立は『たらこスパゲッティ』から急遽『ナポリタン』へと変わった。
「──それで、美食研究会でしたっけ?」
「ああ、うん。私は終わったところで帰ろうかなと思ってたらアカリさんが話しかけてきて、『みんなが運動してる間に動画の撮影したいから協力してくれ』って頼まれちゃって」
「ほうほう」
「それでアカリさんが、売店で売ってるプロテインバーを全種類……」
ヒマリは、エイミの話を聞きながらナポリタンを食べた。
その表情はにこやかなものだが、エイミの話を楽しんでいるというよりは、楽しそうに話すエイミを見ているのが楽しいと言った様子である。
「それはそれは、良い一日になりましたね?」
「……うん」
エイミが今日体験したことを話し終える頃には、皿の上からナポリタンが姿を消していた。
「ああ、そうだ」
「なんですか?」
「アカリさんから聞いた話で……これを部長に見せようと思ってて」
エイミは、携帯を取り出し、アカリから聞いた話のメモをヒマリに見せた。
話を聞いた時は、まるでゲームの裏技みたいな手順でふざけた噂話かとも思ったが、普段の生活の中で『偶然実行してしまうことがあり得る手順』であり、もしかしたら本当かもしれないと、エイミの中で一抹の不安がよぎったのだ。
「……あら、『人生で最高の料理店』じゃないですか」
「有名なの?」
アカリは、『この手順を踏めば、最高の料理店に辿り着けるという噂』としか言っていなかったが、ヒマリは既にどういう店に辿り着けるのか把握しているようだ。
「私たち基準では有名ですが、世間一般ではマイナーな都市伝説ですね」
エイミたちは『そういうこと』の専門家である。そういう立場で見ればインターネットで大きく話題になることはないものの、どこかで語られているという噂話は、十分有名だった。
「そうなんだ。それで、アカリさんがこれを次の動画で取り扱っても良いか私に訊ねてきたの」
「……まぁ、おそらくガセだと思うので問題ないと思いますけどねぇ」
「試してみたの?」
ヒマリ曰く、どこぞのインターネット掲示板を源流とする噂話であり、かなり昔には何人かが検証していたが、いずれも失敗しているのだとか。
「私も検証してみようとは思ったことがありますが、この『電柱を
「……そっか。じゃあ、私がやってみる?」
「気にはなりますが、触らぬ神に祟りなしともいいますし、検証自体は先人のもので充分でしょう」
「それもそうだね」
「それに、私が最初に書き込んだ人に連絡をとって確認しましたが、どうやら『夢の中で変な女に教えられた手順を寝ぼけながら書き起こした』らしいです」
そこで本人を特定して連絡を取りに行けるのは流石明星ヒマリと褒めるべきなのだろうか。まぁ、褒めると調子に乗って話が脱線するのが目に見えているので、エイミは心の中で賞賛するだけに留める。
「本人もその通りに実行したらしいですが、上手くいかなかったようですし……ガセネタ、もしくは『手順を正しく記録できていない』のどちらかでしょうね」
「……確かに」
「ロマンがあって素敵なお話だとは思いますが……記録した本人でもダメなら誰がやってもダメでしょう」
話はそこで終わり、エイミは食べ終わった皿やフライパンを洗い始めた。
「……ちなみに、エイミはもしそのお店に行けたらどんな料理を出されると思いますか」
食器を洗っていると、横で皿を拭いていたヒマリがそんなことを訊ねてきた。
「えっと……うーん……」
聞かれたので考えてみたが、イマイチ想像がつかなかった。というか、今はさっき食べたパスタのことしか考えられない。
「逆に部長はどうなのさ」
エイミは何も思いつかなかったので、質問をし返して時間を稼ぐことにした。
「そうですねぇ……」
ヒマリは、その意図に気づいているのか気が付いていないのかはさておき、皿を拭く手を止めて考え始める。
「あ!もしかして冷蔵庫の中身はエイミが食べてしまったのでは!?」
少しの間考え込んでいたヒマリが発した言葉は、質問の答えになっていなかった。
何故、今更その問題に結論を出したのか。というか、それは絶対に違う。私は食べていない。
「……食べてないけど」
「そのお店は『空間を無視して材料を調達してくれる』らしいので、エイミの『人生で最高の料理』が今夜の晩御飯になる予定だった、『私が作るたらこパスタ』だったのかもしれませんよ……!?」
「うーん、確かに理屈は通って……いや、通ってない。そもそも私はその店に行ったことはないから。それに、もし仮に行ったとしても『部長が作るたらこパスタ』が出てくるはずが……」
それを言ったのが良くなかったのだろう。ヒマリは少々ムッとした表情になってしまった。
「では、エイミは──私の作る料理よりおいしいものを食べたことがあるんですか?」
挑むような視線。エイミは思わず言葉に詰まり、視線を逸らす。
「……すごい自信だね」
「ええ、自信くらいありますよ。だって、エイミは結局、毎晩ここに座って食べているじゃないですか」
確かに、その通りだった。
しかし、だからといって『ヒマリの手料理』が一番とは限らないだろう。エイミは、妙に得意げにしているヒマリの鼻を折ってやろうと、記憶を底からひっくり返して反例を探した。ヒマリの関わらない食事など数えきれないほどあるし、アカリにいくつか店を紹介して貰ったこともある。
「…………」
だが、『ヒマリの家庭料理』を超える料理を思いつくことはなかった。
もしかすると、よく考えれば思いつくのかもしれないが、考え込まないと出てこないような料理が、『人生で最高』であるはずがない。即ち、和泉元エイミはこの15年という人生の中で『ヒマリの家庭料理』を超えるような料理と出会っていないことになる。
「ふふふ……どうやら私の料理を超える料理は思いつかなかったようですねぇ……!!」
ヒマリは、これでもかというぐらい調子に乗っていた。
「分かった分かった、私の負け。今のところは部長の料理が一番だよ」
こうなってしまうと、いくら言い訳を並べたところで勝てるはずがなかった。そもそも、今の言葉は心の底から出た本心である。
「エイミ、大切なことを教えてあげましょう。こういうものというのは、なんだかんだお家で一緒に食べるご飯が一番おいしかったりするものですよ」
ヒマリは、エイミの敗北宣言を聞くと満足そうに笑う。その笑顔を、エイミは何故か直視することができない。皿を洗うことに集中して視線を逸らした。
「……そうなのかも」
「あら、今日は随分と素直なんですね?」
「今後一生部長の料理に振り回され続けるのかと思うと、ね」
「何ですか?人の料理をまるで呪いの装備みたいに」
「……そういうつもりじゃないんだけど」
呪い、か。エイミは心の中で復唱した。
仮にもし『ヒマリの手料理』が『人生で最高の料理』だった場合、今後一切『ヒマリの手料理』を超える料理と出会えないことになってしまう。それはある意味呪いなのかもしれない。
「もちろん分かっていますよ?それに、呪いというものは『愛』と表裏一体ですから」
勝ち誇っているからだろうか、ヒマリはいつも以上によく喋る。
「愛も呪いも、『誰かを縛り付けるもの』であることに変わりはありません」
「まぁ、確かにそうかもしれないけど」
「違いは『どう縛っているか』だけ。その違いが愛と呪いを分けるのです」
確かに、『一生忘れることのできない味』で縛られてしまったとしても、それは『呪い』ではなく『愛』によるものだ。
「……まぁでも、エイミのことを『真心こめた料理』で縛れるなら、それはそれでいいかもしれませんねぇ」
何なんだこの人は、自分に一生付きまとってくるつもりなのだろうか。エイミは内心でそう毒づいたものの、それが思ったより嫌でないことに気づいてしまい、これ以上考えることはなかった。
結局のところ、エイミにとってヒマリの料理が人生で最高の料理なのかどうかなど、はっきり言ってどうでもよい。ヒマリが傍にいて、手伝えるならそれで良かった。
願わくば、ヒマリからの『愛』が『呪い』に代わってしまわないことを祈るばかりである。
【蛇足②】
夏のホラーSPが掲載されている週刊万魔殿は、無事に発刊された。やはりと言うべきか、一番好評だったエピソードはアカリの『人生で最高の料理店』だった。
チアキは、そのお礼を言うためにアカリを探していたが、アカリよりも先に出会ったのは、黒舘ハルナであった。
取材に協力してくれたことへの感謝の言葉を述べつつ、アカリに渡してほしいと週刊万魔殿を手渡すと、ハルナは興味深そうにページをめくり、『納涼!夏のホラーSP!』を味わうように読み込んでいく。
「──アカリさんって、こういうお話を作るのがお上手だったんですね。私、知りませんでしたわ」
読み終えたハルナの口から出てきた感想は、意外なものだった。
「え、もしかしてあの話って『創作』だったんですか?」
あの話が創作だったということに、チアキも驚いてしまう。まるで体験してきたかのような『リアリティ』があったが故に、実際にアカリが体験してきたことだと思い込んでいたのだ。
「おそらくそうでしょう。その日、アカリさんはロビーでプロテインバーの食べ比べレビュー動画を『ずっと』撮影していたはずですし、お昼ごはんはエイ……あ、A美さんでしたね。彼女と一緒に撮影協力のお礼も兼ねて『ファミレス』へ行きましたから」
ハルナは、美食研究会が最近活動始めた動画投稿サイトの画面を見せてきた。そこには確かに、『【大食い】ミレニアムのプロテインバー、全種類食べ比べてみた!【美食研究会】』というタイトルの動画が投稿されている。サムネイルでアカリと一緒に映っているピンク髪の生徒が『A美さん』だろうか。
「そうでしたか……」
別に創作だからなんだという話ではあるが、それにしても意外だった。アカリたち美食研究会が食レポ上手なこと自体は周知の事実だが、創作怪談の様な才能があるとは思ってもいなかった。いや、というかあの状況からすると即興で考えたのかもしれない。
そう考えると、アカリがわざわざ一緒に居た生徒を仮名にしていたのも納得がいく。
「確か、エイ……いえ、A美さんはこういった怪談とかを聞くのが趣味でした筈なので、アカリさんも影響されたのかもしれませんね」
意外な才能だ。
こういうことがあるから取材はやめられない。次にまたこういう企画をやる機会があったらアカリに声をかけてみることにしよう。できれば、そのA美さんとやらにも。
「……ですが、私はこれを読んで一つ粗を見つけてしまいましたわ」
伝えたいことは伝え終わったし、ハルナからの感想も聞けたので、席を立とうとしたチアキだったが、再び座り直した。どうやら、ハルナは話の矛盾点に気がついてしまったらしい。
「粗、ですか?」
「とは言っても、些細なものですが」
チアキは、掲載するにあたって何度も読み直している。しかし、ハルナが言うような粗に気がついたことはない。
「まず、この料理店は『その客の人生において最高の料理を食べていると感じるタイミングから料理のみを調達する店』ということで間違いはないですね?」
「そうですね、大体その認識であってると思います」
「そして、その『材料』は『どこかから調達したもの』を使う、ということでよろしいでしょうか」
「まぁ、A美さんのお家の冷蔵庫からパスタの材料が消えていた……らしいですし、そうなりますね」
一応、そのあたりは補足情報として載せておいた。アカリからも許可は貰っている。A美からは貰っていないが、創作なら問題はないだろう。
「その料理が過去未来において
「えっ……?」
チアキは、思わず聞き返した。
「例えば、いくつもの奇跡が重なり、鶏が黄金の卵を産んだとしましょう。その現象は、過去と未来、その全てにおいて一度しか重なることのない奇跡の現象」
「そして、とある客はその卵で作った目玉焼きが人生における『最高の料理』だった。そうなれば、シェフはその『黄金の卵で作った目玉焼き』を提供するでしょう」
「……しかし、卵はその時点では存在していない」
「さて、この矛盾はどう解決するのでしょうか」
ハルナは、チアキに問いかける。
「そしたら『材料を用意できないから出せません』じゃないですか?」
それに対し、チアキは率直な意見を述べた。
材料が用意できないということは、料理を提供できないということ。当然の結末である。美食研究会に破壊される店の典型的なパターンだ。
「チアキさん、それは料理人を舐めすぎです」
思ったことを素直に述べただけだが、ハルナの語気は少々強くなった。
「人生で最高と思える料理を提供すると豪語した料理人が、材料が調達できないから諦める、というのはあり得ません」
「……なるほど」
これに関しては、ただただ自分の勉強不足だろうと、チアキは素直に反省した。やはり、専門家の言うことは説得力が違う。
「そもそも、通常では辿り着けない場所に店を構え、空間を無視して食材を取り寄せることが可能なシェフが『時間』などという概念に囚われるはずがないでしょう」
「それもそうですねぇ」
法則の外側にいる相手が、あり得ない手段を使って食材を調達したとしても何の違和感もない。
「とすれば、鶏が産んだ金の卵を『未来』から調達することになります」
「……?提供できたじゃないですか」
「そうなると、矛盾が発生してしまいますわ」
ハルナの言う『矛盾』とは、ここにあるらしい。
「シチュエーションも込みで『最高の料理』ということなので、その客は『自分が飼っていた鶏が金の卵を産んだという事実に感動しながら食べる目玉焼き』が最高だったということにしましょう」
「……あ!」
「チアキさんも分かったようですね。その金の卵はすでにシェフの手によって過去へ送られ、自分に食べられています」
「そうなったら、『人生で最高の料理』が食べられない!」
「そう、そこなんです」
それほどのプライドの料理人が料理を提供しないということはあり得ないが、ありとあらゆるものを無視して料理を提供すると、今度はその料理そのものが矛盾してしまう可能性が出てくる。
そうなれば、その客が『人生で最高の料理』を食べることがなくなり、その料理は『人生で最高の料理』で無くなってしまう。
しかし、そうなると今度は『提供した料理』が最高のものではということになり、矛盾してしまう。
うーむ、難しい。
設定を細部まで作り込まなければ、こうして矛盾を指摘されてしまうのだから、世の中の創作者と呼ばれる人々は凄い努力をしているに違いない。
「そもそも、全く同じに育つ木が存在しないように、食材も全く同じものが2つも産まれるとは思えません」
「うーん……」
チアキは悩んだ。確かに、ハルナの言うとおりである。
「真の意味でまったく同じ料理を2回食べるということは、あり得ないのです」
「ではでは!材料を並行世界から持ってきている、というのはどうでしょうか!」
ふと、チアキは思いついたことを口にした。これならば未来永劫続くであろう歴史の中で、たった一度しか出現しない食材であっても、提供が可能である上に、その後の人生において『最高の料理』となることが変わらない。
「……なるほど、確かにそれなら過去と未来において一度きりしか用意できない料理であっても、その店で食べることが可能になります。店自体が不思議な空間に位置しているそうなので、その解釈が一番しっくりくるかもしれませんね」
黒舘ハルナという生徒は、なんだかんだ経験豊富なので、それなりに色々な事柄への造詣が深い。それをチアキは改めて実感していた。
「……ただ、そうなるとこの店はとても悲しいことになってしまいます」
「えっ?」
「だって、もしそうならば最高の料理を『自分同士』で奪い合うことになってしまうでしょう?」
「あっ、そうか……」
先程の例え話で説明すると、並行世界の『自分同士』で金の卵を奪い合う醜い争いが起こってしまう。
「最高の料理を、よりによって自分同士で奪い合わなければならない……ああ、なんて悲しいことでしょうか」
「難しいですねぇ……色々と」
「……とは言っても、話自体の完成度も高く、ロマンもあって素敵なお話ですので、あまり気にする必要はないと思いますが」
「ですよね!」
これは野暮というやつだろう。
チアキは、別に怪奇現象の解明をしたくて記者をしているワケではないのだ。それに、こういう話は『分からないこと』が敢えて存在している方が面白いものである。
「……まぁ、それに並行世界に存在する数多の私が、全員同じ料理を最高だと思っているとは考えにくいですが」
それからしばらく、チアキはハルナと談笑してしまっていた。週間万魔殿の次のネタはまだ思いついていないし、色々と経験が豊富なハルナと話しているのは楽しいのだ。アカリたちが着いて行きたくなる気持ちも分かる。
もっとも、チアキにとっての『黒舘ハルナ』は『羽沼マコト』であり、それが揺らぐことはなかなかないのだが、今は関係ない。
「それにしても、ダイエット……私もした方が良いのかもしれませんねぇ、あはは……」
アカリの話は、イズミをダイエットに連れていくという導入だった。話を聞いている時は取材中である上に、『怖い話』とは全く関係ないので表に出さないようにしていたが、チアキにとっては正直耳の痛い話である。
少し前のこと、チアキは、スイーツ店の記事を書くために、全メニュー食べきろうと頑張ってしまったことがあった。アカリのように大食いではないチアキは、当然全メニューを食べ切れる筈もない。
だが、チアキは他のお客さんや先生の力も借りることで全メニュー分の取材をすることができたのだ。これはこれで良い話として終えることができたが、取材の代償としてあれからお腹周りが少々ぷにぷにしている。
アカリの話から引用するなら『そろそろ食べ頃』なのかもしれない。体重が増えてしまった、というのはある意味『怖い話』だろう。今回の特集とは趣旨が違うので載せていないが。
「そういうことでしたら、チアキさんもミレニアムのトレーニングセンターで体を動かしてみてはいかがでしょうか」
「確かに……!私の体験も絡めて特集記事を書いてみるのも良いかもしれませんね!」
ミレニアムとの交流記事、需要はあるだろう。先月のミレニアムEXPOも盛り上がっていたことだし、記事を書くタイミングとしてはちょうどいい。
「となると予約をして……もういっそのこと泊まり込みでダイエット兼取材旅行を……」
「ダイエット自体は一日で済むと思いますよ?」
チアキが頭の中で予定を仮組していると、ハルナが思考に割り込んできた。
「そうなんですか?」
チアキは不思議に思って訊ね返す。
ダイエットというものは数日間かけて行うものだと思っていたが、そうでもないのかもしれない。そのあたりも含めて取材するべきだろうか。
「──ええ!私はたった一日で
【終】