ごく一般的な家庭に生まれたモブは家族の死をきっかけに冒険者になる。
目指すものはなく、やりたいことは小さな事ばかり。
そんな少年が残り五十年の
両親が未だ存命である俺は不自由だった。
両親はきっと善人だ。少なくとも犯罪者ではない。
母はご近所付き合いもよくしているし、父は真面目に働いて一家の大黒柱を担ってくれている。
そんな中、息子である俺は金銭的に何不自由ない生活をさせてもらってきた。
一般的に言えば、中流階級のごく普通の平凡な平民の暮らしと言えよう。
だが、俺はそんな生活にどこか息苦しさを感じていた。
原因はわからない。
いつからそうだったのか、なんでそうなっているのか。
俺は何をそんなに煩わしく思っているのか。
わからない。
そんな折、両親と姉が死んだ。
ダンジョンの【スタンピード】が原因だった。
都市迷宮から溢れ出したモンスターの群れは人を建物を街を覆い尽くし、狩り尽くした。
俺が生きていたのは偶然。
母が、父が、姉が、俺をモンスターから庇ってくれたから。
犠牲になってくれたから、俺は生きている。
だけど、俺には解らなかった。
果たして俺に、そこまでして助ける価値はあったのだろうか?
俺よりも優秀な姉や、優しい母、大人である父が生き残るべきではなかったのか。
わからない。
……ワカラナイ。
俺は途方に暮れた。
これからどうしていいか分からなかったからだ。
どうやって明日を生きる?
どうやって日銭を稼ぐ。
どうやって生きて行くんだ。
将来は不透明で不鮮明で──とても輝いて見えた。
ああ、と俺は一つすとんと腑に落ちた。
やはり俺はろくでなしだった。
家族は選択を誤った。
俺は家族が死んで、ようやく生きることに希望を見出せたのだから。
◆◇◆
取り合えず冒険者になった。
家無し子としてはありきたりな日銭を稼ぐ手段だ。
小さい頃は冒険者に憧れていたが、多少なりとも知恵がついてくるとそれも消えていった。
なぜなら冒険者とはとかく危険な仕事だからだ。
剣を持ち、盾を携え、辺境や郊外に出るモンスターを狩る仕事。
俺のような中流階級上がりのボンボンが熟せる仕事ではない。
俺は死にたくなかった。
というより怪我をしたくなかった。
怪我をすることは治療費が掛かり勿体ないと思ったからだ。
そもそも痛いことは嫌だし、面倒くさいことは嫌いだ。
運動するのも、汗をかくのも、嫌だった。
なら将来は何になるつもりだったのか。
俺は漠然と、父の元で雇ってもらうことを考えていた。
父の後を継ぐのは優秀な姉に任せて、俺は適当に雇ってもらい、適当に渡された仕事を熟し、適当に酒でも飲んで暮らせればそれでよかった。
だが、そんなありきたりな未来予想は簡単に崩れ落ちた。
そうして新たに俺が描いた未来予想図。
それが冒険者だった。
今でも怪我をするのは嫌いだ。
痛いのも嫌だ。
……でも、死んでもいいとは思う。
だって、もうこの命は俺の、俺だけのものなのだから。
どう使おうと俺の勝手だろう。
それはとても、気分がよかった。
──続く──
◆◇◆