スマホゲーム「アスタータタリクス」におけるディナタンルート。その中でも本編中一切が語られなかった謎の期間、妖精の森編。そこでは一体何があったんだということで考察と妄想をもとに執筆しました。

ディナタンルートに脳を焼かれた投稿者の戯言に付き合っていただけると幸いです。

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第1話

 ノワールとディナタンは学園に戻るため森を歩き続けた。だが、どれだけ歩いても一向に森から抜け出せる様子はなかった。

 

「ディナタン、父さんと戦った後からずっと元気がないままだ。本当にどうしたんだ」

 

「……ううん、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ」

 

 ディナタンはあの時知った事実を未だ受け止めきれずにいた。継承者とのGSによる末路はディナタンからすれば到底受け入れられるものではなかったからだ。しかし、今更それを覆せる方法はない。ノワールを慕い、一緒に歩み続けたいという願いが叶えられない。ディナタンの心は暗い影で覆われていた。

 

「そうか、それならどこか休めるところを探さないとな。雨風がしのげるような場所があればいいんだけど」

 

 ノワールはディナタンの身を案じるようにそう言った。

 

「兄さん、ありがとう」

 

 

******

 

 

 二人はそれからも歩き続ける。しかし、休めるようなところは見当たらない。結局二人は少し開けたところを見つけ、そこで休むことにした。

 

「やっぱり、ディナタンの歌はいいな」

 

「……ふふ、ありがとう兄さん。二人きりの時間なんて随分久しぶりな気がするね」

 

「いつも誰かが一緒にいたからな」

 

「ねぇ、兄さんは早くこの森から出たい? 二人きりだとつまらないでしょ」

 

「……そうだな、早くみんなのところに帰りたい」

 

「うん。そうだよね。そう思うのが普通だよ。でも……本当はね、このままでもいいかなってちょっと思う。誰もいないこの森で、ずっと兄さんと二人で」

 

 ディナタンの様子が変わっていることに流石のノワールも気が付く。

 

「ディナタン……?」

 

「ずっと昔、こんなことをしていた記憶がある気がする」

 

「……俺達にはどこかで勝手に失われた記憶があるのかもしれない」

 

 ブルーノとの戦いでノワールも何かを感じ取っていたのだろう。ノワールから自然とそう言葉が出てきていた。

 

「でも、記憶は少しだけ残って、それは私たちを守ってくれているのかも」

 

「……そうかもしれないな。大切に遺された武器みたいに」

 

「……」

 

「ディナタン?」

 

「私ね、兄さんと兄妹じゃなかったらって考えたことがあるの。兄さんはない?」

 

「考えたこともなかったな」

 

「そっか……。そうだよね……。私は、私はね……」

 

 喉元まで出かかっていた言葉をディナタンは強引に飲み込む。

 

「うん、なんでもない」

 

「どうしたんだよ、ディナタン。なんだか変だぞ」

 

「なんでもないよ。私、兄さんと兄妹でよかった。兄さんの武器になれて、よかった」

 

「ディナタン――……」

 

「あーあ、なんだか少し眠くなってきちゃった。兄さんも一緒に寝ようよ。子守歌、歌ってあげるから」

 

 ずっと歩き続けたからかディナタンはそう言う。ノワールも疲れていたからか地面に体を横たえた。

 

「おやすみなさい、兄さん」

 

 それからしばらく経った折だった。ノワールの頭はぼんやりとしている。眠っているのか、起きているのか分からない。

 

「ねぇ、声が聞こえない?」

 

「声だって? どこから?」

 

「あっちの方……ほら」

 

「……歌?」

 

 どこかからか歌声が聞こえてくる。

 

「そう、歌が聞こえる……」

 

 ディナタンがこの森に来て聞いた歌声。それはノワールにも真実を見せる。

 

「……そんなこと信じられない」

 

「兄さんも、見たんでしょう、それを。だとしたら、私――。ねぇ、兄さん、私、私ね……。兄さんが好き」

 

 虚ろな意識の中でノワールはディナタンの想いを聞いた。

 

 

******

 

 

 

「おはよう兄さん」

 

「おはようディナタン。俺、そんなに長く眠ってたのか?」

 

「一時間くらいじゃない? 私も一緒に寝てたから」

 

「そうか。疲れは取れたか?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。兄さんは?」

 

「俺もだいぶ楽になった。とりあえずは森を探索しようか。何か見つかるかもしれない」

 

 そうして二人は再び歩き出した。

 

 しばらく時間が経ったころだった。

 

「ねぇ兄さん。あれ、あそこに何かあるよ」

 

 そういってディナタンは指をさす。その先には家屋らしきものが遠くに映っている。

 

「小屋? 誰か住んでいるのか?」

 

「どうする? 行ってみる?」

 

「あぁ、誰かいるなら何か話が聞けるかもしれない」

 

 そうして二人は吸い込まれるように小屋へと向かっていった。

 

 小屋というには少し大きい。小さな家族が暮らすには十分な大きさだ。ログレスの家屋とは違った少し古い建築。今誰かが住んでいる様子はないが、誰かが生活していたことは十分窺えた。

 

「誰もいなさそうだね。中に入って確認してみる?」

 

「そうだな。もし住んでいる人がいれば話をしたいし。ずっと外にいるわけにもいかないからな」

 

「じゃあここはお邪魔しちゃおう」

 

 ノワールは念のため武器を構え扉を開けた。すると溜まっていた埃が宙に舞いカビ臭さが外に広がる。

 

「誰か住んでる……感じじゃないね。ずっと使われてないのかな」

 

「埃が床に溜まってるし手入れも全然されてない。でも念のため武器は持っておくんだ」

 

「分かった、兄さん」

 

 二人はそうして家の中へと足を踏み入れた。

 

 扉を開けて目についたのはキッチンだった。食事机と二つの椅子が置かれている。ノワールはそれを横目にキッチンの近くにあった窓を開けた。森の日差しが部屋の中に差し込むと同時に風が通り抜けていく。

 

「井戸がある。今でも使えるかな」

 

「飲み水が確保できるならしばらくは大丈夫そうだね」

 

「何も問題がないならここを拠点にしたいな。流石に野宿はしたくないし」

 

 キッチンの隣の部屋へと足を運んだ時だった。扉に印字がしてあった。

 

『ディナタンの部屋』

 

「えっ、私の名前?」

 

「同じ名前の人が住んでいたのか。とりあえず中に入ってみよう」

 

 ノワールはそう言って扉を開けた。部屋の中には乳母車とベビーベッドが置かれている。

 

「……っ!」

 

「ディナタン、どうしたんだ。中に入らないのか」

 

 その時ディナタンは認めざるを得なかった。この森に入って聞こえてきた歌から知らされた内容が真実であることを。妖精と人間のハーフとしてここで生まれ育ったその一端を。

 

「あ、いや、その、そうじゃなくて……。なんでもないよ」

 

 ノワールは怪訝な表情を浮かべた。ディナタンの様子は気になるがとりあえず部屋の中に入る。

 

「子供部屋だったんだな。よく見るとおもちゃも置いてある。ん? これは、日記か?」

 

 ノワールはベビーベッドの中に厚みのある本が置いてあるのを見つける。中を適当に開いて確認するとやはり日記のようだ。

 

「成長記録を取っていたんだな。なんか小さいころのディナタンを思い出すよ。もうずいぶん昔のことだけど」

 

「……この日記って母親が書いたのかな。名前とか残ってる?」

 

「うーん、詳しく読んでみないと分からないかもな。ディナタンはこの日記に興味があるのか?」

 

「自分と同じ名前だからちょっと気になっちゃって」

 

「そうだよな。じゃあ後で一緒に読んでみよう。何か手掛かりがつかめるかもしれない」

 

 しばらく探索を続けたが目ぼしいものは特になかった。二人はキッチンにある食事机の周りを軽く掃除し、見つけた日記を読んでみることにした。

 

 

 

******

 

 

 

『ユーサーが森から出て行ってしばらく経った頃に、身籠っていたことが分かった。愛する彼との子。でも、それがどんなことを意味するかは……。私はこの子の成長を見届けられる立場にない。でもせめて、この子が私の手を離れても幸せに暮らしていけるよう心から願っている』

 

『ディナタンをブルーノに託すことを決めた。愛する我が子と離れ離れになるのは心苦しい。でもそれでディナタンが幸せになるのなら、私の決心は揺らがない』

 

『ブルーノに継承者のことを話してきた。おそらくは彼の息子がその責を負うのだろう。ノワール。彼が誰を選択するかで未来が変わる。もし彼がディナタンを選ぶようなことがあれば……』

 

『継承者の劒となったものはバルバロイをこの地に封じ込める封となる役目を持つ。次の時代へつなぐ千年もの間一人で過ごすことになる。あの祭壇に祀られた剣のように。失わずに済む方法があれば良かったのだけれど、今の時代では成す術がない』

 

『ブリテンに住まう妖精は私を含めて3人しかいなくなってしまった。でもモルガンはもう……。継承者を生み出すために一人、サラスの門を開くために一人、もう妖精が犠牲になることは許されない」

 

『妖精の血を継ぐ者がいればサラスの門は開く。聖域化後の妖精の血脈はディナタンに託されることになるだろう。その時はディナタンが心から愛する男性と結ばれ子を成す。その晴れ姿を見たかったけれど、私は継承者のためにこの命を捧げる。ディナタンが幸せになってくれればそれだけで良い』

 

『ディナタンが選ばれた場合、そのまま聖域化まで進むとの妖精がいなくなってしまう。これでは後の世代にバルバロイが現れた時打つ手がない。こんなことしたくないけれど、その時はディナタンに子供を産んでもらわなければならない。時間の流れが違うこの森で、やるしかない』

 

『もしディナタンがそれを拒めば……。せめてそうならないようブルーノにも伝えなければ』

 

『明日、ディナタンをブルーノに預ける。そして妖精の森からも離れる。ペレス王の元に身を寄せるが少しの間しかいられないだろう。今日限りでディナタンの顔を見れなくなるのは辛い。でも、これが今の私にできる最大限。せめてディナタンに幸せあれ』

 

 日記はここで途切れていた。

 

 ノワールとディナタンは読み終えてなお言葉が出せなかった。その日記には継承者とその劒、その顛末について事細かに記されていたからだ。

 

 ノワールが探し求めていた本当がそこにはあった。しかし、その本当とは目を逸らしたくなる非情なものだった。

 

「す、凄いことが書いてあったな……。にわかには信じられないというか」

 

 ノワールはそうディナタンに話しかけるが、ディナタンの表情は暗い。

 

「……ねぇ兄さん。私、この内容が嘘だって思えない。だって、兄さんもあの歌を聞いたんでしょ?」

 

「あの歌?」

 

「そう、歌。この森に入って聞こえてきたあの歌。兄さんも覚えてるでしょ?」

 

 ノワールの記憶にわずかに残る歌の記憶。妖精の森がノワールに伝えた真実の一端。ノワールが信じることを拒み、記憶の片隅に追いやっていたそれが掘り返される。

 

「……あぁ、わずかに覚えてる。でも、それをするってことはディナタン、お前が世界のための犠牲になるってことに……」

 

「そう、みたいだね。でも、GSを成し遂げた者の最後の末路は聖遺物化でしょ。それを分かったうえで私は兄さんの劒になることを選んだんだよ」

 

「でも、俺は、俺はディナタンを……失いたくない」

 

「だから、ね、兄さん。お願いがあるの」

 

 ディナタンの表情が意を決したように変わる。

 

「お願い?」

 

「私がこの森に入って言った『兄さんと兄妹じゃなかったらって考えたことがあるの』って言葉、覚えてる?」

 

「あぁ、覚えてる」

 

「あの言葉にはね、実は続きがあるの」

 

「続き?」

 

「そう。続き。……私ね、兄さんともし兄妹じゃなかったら……兄さんの恋人になりたかった」

 

「……ディナ、タン?」

 

「叶わない夢だと思ってた、許されない恋だと思ってた。でも、本当の兄妹じゃなかったって分かったのなら、聖遺物化で兄さんと離れ離れになる前に……」

 

 ディナタンはそう言うと隣に座っているノワールの手を取りこう告げた。

 

「兄さんと結ばれて幸せな時間を一緒に過ごしたい」

 

 ノワールの脳裏に先ほどの日記の内容がよぎった。

 

『継承者の劒となったものはバルバロイをこの地に封じ込める封となる役目を持つ。次の時代へつなぐ千年もの間一人で過ごすことになる。あの祭壇に祀られた剣のように。失わずに済む方法があれば良かったのだけれど、今の時代では成す術がない』

 

『妖精の血を継ぐ者がいればサラスの門は開く。聖域化後の妖精の血脈はディナタンに託されることになるだろう。その時はディナタンが心から愛する男性と結ばれ子を成す。その晴れ姿を見たかったけれど、私は継承者のためにこの命を捧げる。ディナタンが幸せになってくれればそれだけで良い』

 

『ディナタンが選ばれた場合、そのまま聖域化まで進むとの妖精がいなくなってしまう。これでは後の世代にバルバロイが現れた時打つ手がない。こんなことしたくないけれど、その時はディナタンに子供を産んでもらわなければならない。時間の流れが違うこの森で、やるしかない』

 

『もしディナタンがそれを拒めば……。せめてそうならないようブルーノにも伝えなければ』

 

 世界のため、継承者の使命のため、そしてディナタンのため。全てを叶えるにはディナタンの想いを受け止める。それ以外ないのだ。

 

 ノワールにも迷いはあった。だが、覚悟は決まった。

 

「……ディナタン」

 

 ノワールはディナタンに近づきゆっくりと抱きしめた。目を瞑って返事を待っていたディナタンは突然のことに一瞬驚くも、その意味を知り顔をほころばせ胸に顔をうずめる。

 

「ディナタンの気持ちに気付けなくてすまなかった。さっき休んでいた時にあんなことを聞いたのはそういう意味だったんだな」

 

「うん。いきなり兄さんと二人っきりになったから。つい探りを入れちゃった」

 

 ディナタンは小さく笑いながらそう言った。

 

「でも、こ、恋人は俺も初めてのことだから、どうしたら良いか分からないけど、その、よ、よろしく?」

 

 大胆なことをしてきた割にいつも通りなノワールを見てディナタンは小さく笑う。

 

「ふふっ、よろしくってやっぱりそこは兄さんなんだね。でも……嬉しい。ずっとこんな風になれたらいいなって思ってたから」

 

「いつから俺のことを?」

 

「分からない。でも、実らない恋だから余計強く意識しちゃって。兄さんと一緒に傭兵になったのだってそう。ずっと兄さんの隣に居たかったから」

 

 ディナタンの想いの大きさを知れば知るほど、ノワールに愛おしさが芽生える。ディナタンを抱く力が少しずつ強くなっていくと同時に、その吐息が確実にノワールの耳を打つ。くらくらしそうな感覚になりながら、ノワールは話を続ける。

 

「そうか。そんなに大切な相手が俺のそばにいたんだな。GS相手になったのもすごく納得だ」

 

「だってGSしたならずっと兄さんの隣に居られるんでしょ? それなら私は兄さんの劒になったって後悔しない。聖域化の影響で兄さんと一緒に居られる時間が短いのはもう飲み込んだ。なら、せめて兄さんと濃密な時間を過ごしたい」

 

 飲み込んだというがディナタンの声は震えていた。だが、ノワールに見せた気丈さはしっかりと伝わっていた。

 

「俺、誓うよ。ディナタンが笑って最期を迎えられるくらい思い出を作るって」

 

 ノワールの腕に抱かれながらディナタンは小さくうなずいた。

 

「うん。いっぱい思い出作ろう、兄さん!」


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