運命の五王子編に深く関わっていたうえにキン肉マンとも戦った彼がなぜ蘇っていないのか?……という謎から妄想を膨らませて書いた短編です。
…………メインにしているのはオメガマンだけどもアニメ化記念に書いた短編です!
かつて全ての超人を排するべく神々により放たれた光、それから逃れることができる奇跡の大樹が生えていた星――地球。
そこに降り立ったジ・オメガマン・ディクシアを迎えたのは孤独であった。周囲に迎えや付き添いはいない。奴らにオメガの民であることを知られては困るからだ。
こっそりと行われたそれは遥か昔、先祖達がいた星への里帰り……という和やかなものではない。
先祖達は神であった存在とその弟子の超人達による虐殺から逃れるべく、地球から遠く離れたオメガ・ケンタウルス星団で過ごすようになった。追手は来ず、オメガの民達はその星で長い年月を平和に過ごして
安住の地となるはずの星は今、危機に瀕している。
大地が裂け、山は火を吹き、竜巻が吹き荒れ、星が滅びの時を迎えようとしているのだ。星という巨大な存在の前では超人の力は意味をなさなかった。努力では救えぬ命があった。
ああ、幼い頃――片割れである兄、ジ・オメガマン・アリステラがまだ95万パワーしか持っていなかった時――はそこまで荒れ果てていなかったように思う。思い出は美化されがちのため、本当にそうなのかは確かめようがないが。
残された時間は少ない。オメガの星の民を救うため、己が何をするべきかは既に決まっている。
マグネット・パワー。一人の始祖が使っていた未知の力を我らのものとする。その秘密を明かすためならば、怨敵の完璧超人どもの住処へスパイとして潜入するのは苦ではなかった。
「……こっちか」
強い力を感じる方へと迷いなく足を向ける。
完璧超人がどこにいるのか? その答えは超人の間で嘘か真か分からぬが広がっている噂話の中にある。辿り着いた者に力を与える神秘の場所が地球にある……それは嘘ではないが真実でもない。弱いものが力を与えてもらうのではなく、強いものが完璧超人となり高みを目指すための場所なのだ。
「この程度で振るい落としとは片腹痛いな」
弱者を寄せ付けないために作られた障害など、オメガの星で起きる異常気象と比べれば何の問題にもならない。ジ・オメガマン・ディクシアは荒れ狂う波と炎が踊る中を泳ぎ渡る。
超人の本能に引き寄せられるようにして導かれた島――
目立つのは頂点に作られた巨大な三体の超人像。そして長い年月の中崩れることなくそびえる古城。見た目は城ではあるが、ここに王はいない。いるのは永遠の鍛錬を重ねる完璧超人達。
……つまり、敵の根城だ。かの虐殺から逃げ延びたもの達の子孫だとバレるかはわからないが警戒していて損はない。門扉の取手を掴み、力を込めてゆっくりと開く。
「――っ」
光源の少ない暗い部屋の中央。一人の超人がリングの上に立っていた。
開門の音に反応してこちらを向いたことで長い白髪が揺れる。金属光沢のある暗い紫の体は一切の無駄なく鍛え上げられ、研鑽にどれほどの時間を捧げてきたのかをこちらに分からせてくる。
――"
先祖達の時代よりも前から生きていた、神話の中に出てくるような存在。だからといって敗北する未来を迎えてはならない。
目の前にあるのは乗り越えねばならない障害。倒さねばならぬ宿敵――!
数多の超人が殺されてきたことで部屋へ染みついた血の香り。その一つになるか否かはこの一撃にかかっている!
「ゴバ〜〜ッ」
先に動いたのはミラージュマン。互いに腕を組み合い、審判のロックアップの形となる。ネプチューンマンが得意としていた相手の力量を把握できる技だ。
特殊能力に由来するものでなければ必殺技の模倣は可能。故に、このロックアップでお互いの力を理解することができる。
超人強度は恐らく自分が上。……その差程度、きっとこの超人はものともしないだろう。
この状態を維持しては危険だ、とオメガマンは即座に判断しミラージュマンの腕を掴んでいた左手を内側へと潜り込ませ、後ろへ向けて投げた。
ミラージュマンは宙で身を翻しダメージは何も発生しなかったが、番人の攻撃を凌いだのは事実。
試験は合格となり、オメガマンは超人墓場内部へ案内された。
リングネームだが、本名と同じジ・オメガマンを名乗ることとした。
偽名の場合、慣れない名前で呼ばれた際にすぐ反応できず、そこに疑問を抱かれることを懸念してだ。
……
超人ハンターという実績を積み上げ、超人墓場で鍛錬を兼ねた試合をし、脱走を目論んだ者を倒してオメガハンドへコレクションすると同時に墓守鬼たちからの確かな信頼を手に入れ。
超人閻魔 ザ・マン直属の親衛隊、"
死んだはずの『完狩』ネプチューンマンの首を持ってこい、果たせば"
その体を満たすのは恐怖ではなく歓喜。
ついにこの手が届く距離まで近付ける時が来た。超人閻魔直属となれば、怨敵を狙うチャンスが生まれる。拒む理由などどこにもない。昂る感情のまま力のこもった承諾の返事をし、意気揚々と超人墓場の外へと出る。
誰の目にもつかぬ場所で書き上げるのは遠く離れた地で不安になっているだろう兄を慰めるために、どこか手紙のような書き方になっている報告書。望みにあと少しで手が届く希望が後押しとなり筆をより進ませる。
……それが、最後の便りになるとも知らずに。
新大王即位式の最中、邪悪の神により連れられた運命の王子達が現れたことで真の大王を決めるべくキン肉星王位継承サバイバル・マッチの開催が決定。
当然大王になるはずだったキン肉マンも出てくる……が、メンバーの集まりは悪い。
彼と特に強い関わりを持つロビンマスクとテリーマンは、共に新大王即位式の前に行われた階級昇進式にて役職を得てしまったためにキン肉マン個人へと肩入れすることができなくなった。このままではキン肉マンチームのみフルメンバーにならないまま参戦することになる。
宇宙超人タッグ・トーナメント決勝、あの場で真に完璧なものをマッスル・ブラザーズ……いや、ザ・マシンガンズの中に見たネプチューンマンはきっとキン肉マンを助けるために現れるだろう。そしてキン肉マンらは勝ち上がる。
その時にオメガマンがネプチューンマンの対戦相手となれる、最も力のあるチームに入るべく目をつけた相手こそ知性チーム。
今、オメガマンの前には知性チームに所属する四人の超人がいた。
大きな歪曲した牙と自在に動かせる長い鼻、氷雪の中より目覚めた巨躯の超人――マンモスマン。
透明かつ鋭利な体、太陽光を滅びの虹の輝きに変える超人――プリズマン。
西洋鎧と二対の腕、馬のような四つ脚の下半身を持つ超人――サタンクロス。
キン肉族の象徴であるマスクを被り、王位継承者の証であるKINマークを背負う超人――キン肉マンスーパー・フェニックス。
「知性の神に選ばれたキン肉マンスーパー・フェニックス様とお見受けする」
サバイバル・マッチは各チーム五人一組で行われる。……幸いにも知性チームは現在四人。空き枠が一つ残っていた。
「キョキョキョーッ! 未来の大王様にいきなり話しかけるとは随分とフケイな奴がやってきたもんだ」
「…………」
プリズマンは笑い、サタンクロスは謎の訪問者を見定め、マンモスマンはリーダーを庇うように立ち位置を変える。
「何者だ? 何のためにここまで来た」
「わたしは超人ハンター、完璧超人ジ・オメガマン。キン肉星王位継承サバイバル・マッチにて、知性チームの一員として参加させていただきたいのです」
完璧超人、と聞きスーパー・フェニックスは眉を動かす。これから始まろうとしているのは誰のものかわからない王座を力で奪い取るための権力闘争だ。俗世の行いに完璧超人が手を貸す理由が分からない。
嘘をついているようには見えないが狙いがわからない。売り込みに来たのだろうこの超人をどうするべきか悩むフェニックスの隣で、名前を聞きふと思い出したサタンクロスが呟く。
「オメガマン……だと?」
「サタンクロス、知っているのか!」
知性の神に誘われる前、宇宙各地の賞金がかかった試合に出ていたサタンクロスはその名前を知っていた。
「ああ。聞いたことがある……賞金さえ積めば如何なる犯罪超人もハントする凄腕の超人ハンターがいると。その超人の名前こそオメガマン」
「ハンターだぁ? するってぇとお前はフェニックス様へ向けられた暗殺者ってワケか!」
「おいプリズマン! オレまで巻き込むつもりか!?」
早合点したプリズマンは腕を交差させエネルギーを貯め始める。
その姿を見たマンモスマンがやけに焦り始めたのが気になるが、オメガマンとしてはここで争うつもりはない。両手を上げて戦闘の意思がないことを示す。
「安心しろ、今のわたしが狙う超人はお前達の中にはいない」
「ふむ、超人ハンターであり完璧超人、そして他のチームに狙いがある? ……なるほどな」
優れた頭脳により少ない言葉から正解を導き出したフェニックスは不敵に笑う。
「流石は知性の神に選ばれたお人だ。そうとも、わたしが狙うのはキン肉マンチームに参加するだろうネプチューンマン! 故に最も勝ち残る可能性のある知性チームに加わりたい。……なに、標的ではない相手に対して手を抜くほど愚かではない」
「――ふん、何を言おうが力が伴っていなければただの戯言よ〜っ!」
さも仲間入りが確定したかのように話している目の前の超人に対し、弾かれたようにマンモスマンが走り出す。
「パオオ〜ン!」
腕を広げて襲いかかるマンモスマンに対して、オメガマンは回避ではなく受け止めることを選んだ。二人の超人は前傾姿勢で手を組む形になり膠着、重量級同士のぶつかり合いで大地が揺れる。
……互いに力を緩めることはなく、押し合いは拮抗している。
「へっ、大口叩くだけはあるじゃねえか。7800万パワーの俺と互角にやり合えるなんてな」
「数字がそこまで大事か? ならば教えてやろう。わたしの超人強度は8600万だ」
まさか己を超えるものがいるとは、とマンモスマンは数字の大きさに虚を突かれたのか驚きの顔を見せ……そのすぐ後に面白いと笑う。
「それだけじゃねえ、人様より手数も多くてなーっ!」
マンモスマンは拮抗を自分から崩すために両手をグン、と自らに向けて引く。突然のことに対応できず、オメガマンはマンモスマンの方へと引き寄せられる。
「くらえ、ビッグ・タスクーッ!」
その隙を見逃すマンモスマンではない。掛け声と共に二本の白い牙が突然動き出し、オメガマン目掛け襲いかかる。
が――何かが受け止めた。
「何っ!」
マンモスマンはいまだ手を離していないため、オメガマンの腕は封じられている。
しかし――背中の巨大なオメガハンドは自由なまま!
しかも紫の巨大な手の先が超人の顔へと変化している!
「な、なんだ、こいつらは……」
それは悪魔超人アトランティスとスニゲーター。氷の中で眠っていたマンモスマンは知らない顔ぶれだが、どこか無念を感じるような顔つきをしているのはわかる。
「フォフォフォ……わたしは狩った超人達を亡霊として召喚できるのよ」
「悪趣味なやつだぜ」
ビッグ・タスクを元に戻し、噛みつこうとしていた亡霊から距離を取るように突き飛ばす。自身よりも数値上は力が強い上に背中の手が変形するとなれば何をしてくるか分からない。
「ならばお次はコイツで、」
マンモスマンの長い鼻が持ち上がり、オメガマンへと向けられる。先端がぎらりと刃物のような鋭さを持ち、真っ直ぐに突き刺さろうとしている。
対するオメガマンは周囲を見渡し、その目にこの状況を打開するための対象物を収めた。己の特殊能力を使い変身しようとしている。
お互いの能力が、再び交差する――!
「そこまでにしておけマンモスマン。折角のチームメイトを殺すつもりか!」
「っフェニックス様!?」
――その直前。間にキン肉マンスーパー・フェニックスが割って入ってきたことで互いに動きを止める。
「超人ハンター オメガマン。マンモスマンにも劣らぬその力、確かに見せてもらった」
オメガのための目標をまた一つ突破できたようだ。差し出された手を取る。
「ようこそ、我らが知性チームに」
今ここに、オメガマンは知性の神に選ばれたキン肉マンスーパー・フェニックス率いる知性チームの一員として参戦したのだった。
友情とやらを支えにどこまでも食らいついてくるキン肉マンとザ・サムライ……いや、ネプチューンマン。彼らとの試合が進む中、疑念がずっと心の中で渦巻いていた。
分からない。何故だ。力が全てではないのか?
オメガのため、人生を捧げこのトーナメントに臨んでいた。なのに、勝てない。あとすこしが押し込めない。……友情とは、オメガが受け継いできた歴史よりも強いものなのか。
自身のパワーは8600万、対するキン肉マンは95万。大きくかけ離れているにも関わらずクラッチから逃れられない。火事場のクソ力は封印されているはずなのに、どうして。
――天と地、二つを組み合わせたマッスル・スパーク。キン肉王家に伝わる3つの必殺技が完成した。
殺し合いではない、分かりあうための必殺技。怨みの歴史に生きてきたオメガには存在しない考えが込められている。……キン肉マンがそこまで気が付いているかは分からないが、ディクシアはこの一撃の中で慈悲を確かに受け取った。
死んではいない。ただ、この試合を続けることができないだけのダメージを受けた。
変身能力で一時的にプリンス・カメハメとなっていたからこそこの技の慈悲をより深く、嫌というほど分かってしまう。
マッスル・スパークとは人を殺さず、邪念のみを殺す技のひとつ。
……ああ、こんな技を使える相手に――自分は勝てない。
力が入らない。身動きが取れないが、なんとしても生きねばならない。
敗北した場合、完璧超人の死の掟に従わねばならなくなる。自害か逃走か、二つの選択肢。
自害など論外だ。かといって逃げればネプチューンマンと同じく自分が追われる立場となる。そうなってしまえばザ・マンのいる超人墓場には帰れなくなり、オメガの皆の悲願は果たせなくなってしまう。
超人墓場へ戻るにはフェニックスがキン肉マンを倒し勝利することに賭けるしかなくなった。
マッスル・スパークを受けたオメガマンはもう戦えないと判断されたのか大会委員会の手によってリングから下ろされたが、どうにかして勝たねばならないと再び這って戻った――そこは不幸にも、キン肉マンがフェニックスをキャプチュードで叩きつけようとしている真下に。
『あーーっと、大会委員会側がオメガマンの躯をかたづけるのを忘れたようであります!!』
無慈悲に流れるアナウンスは、彼が死体として扱われていると伝えてくる。
「さあっオメガマンの躯よ! このフェニックスがキャンバスに串刺しとなるのを阻止するのだーーっ!!」
落下してくるキン肉マンスーパー・フェニックスがオメガマンに向かい不死鳥乱心波を使った。
……命令に抗うことができない。自我を持ったまま都合のいい道具として使われていくのを自覚することしかできない。
マッスル・スパークへの対策を練るために技を受けた時のイメージとマスクを奪われ、更にはその後フェニックスが放ったフェイス・フラッシュにより各々の超人予言書のページに繋がれた糸が焼き切れていく。
天井に吊るされた松明の中に落ちたのは己のページだ。
……体が消滅していく。声を出すこともできない。
これが罪に対する罰なのだろうか。だとすれば、どうしたら許されたんだ。行き場の無い感情が彼の内に満ちる。
対の手を、片割れを思うように、右手と左手を祈るように繋げる。
許してほしい。どうか、どうか伝わってくれ、と最期の行動を。
彼の腕を掴んだ。握手ではなく、一方的に、縋るように。慈悲を希う。
キン肉マンは敵であるオメガマンの手を拒むことはなかった。
その姿に、オメガマンは新たなる救いの道を見た。
超人墓場にて多くの超人達が走る。知識のある者であれば、全員がキン肉星王位継承サバイバル・マッチに参戦し命を落とした者達だと気付くだろう。
その後ろから、終わりなき労働に連れ戻そうと金棒を手にした墓守鬼らが追いかけてくる。
「行かせるかーっ」
超人閻魔は勝手に死者が蘇生することを許さない。それは超人墓場の全員が知るルール。
墓守鬼は逃げる一団に紛れている完璧超人オメガマンを見て、捕まえる側に加勢してくれるものと思っている。油断している。
「フォガァ〜〜〜〜ッ!!」
だからこそ、オメガハンドを駆使して
超人墓場から抜け出ようとした超人どもを狩った男が、反旗を翻している。逃げる超人達は突然の出来事に戸惑うも、足を止めるわけにはいかないと走り去る。
「オメガマン、何故邪魔をする!?」
何か理由があるのか、と困惑を目に宿した鬼に問われる。
理由? 完璧超人という枠組みの中に入れられようと、彼の根本はオメガと共にある。
「貴様らに言う必要はないわーっ!」
完璧超人だった男が、下等超人に肩入れした。この騒ぎに加担したことでオメガマン・ディクシアが蘇れるチャンスは二度と来ないことが確定した。
だが不安はない。オメガマンは既に託し終わった。
『オメガマンの手袋が……まるでわたしに何かを託すように、わたしの両手を握った形で残っている……』
今はその真の意味がわからずとも、バトンは確かに繋がっている。いつかの未来、兄とその仲間達が地球に来た時に希望は花開くだろう。
次の世界を担うのは憎しみであってはならない。
――現世では空から花が降っている。神々からの祝福だ。
キン肉マンの顔から放たれた奇跡の光で超人達が蘇っていく。その中にオメガマン・ディクシアの姿は無い。
死した身ではあるが、祈る。
どうか祝福を。どうか幸福を。どうか希望を。
どうか片割れに、その手で抱えきれないほどの明るい未来を、と。